IPEの果樹園2017

今週のReview

2/27-3/4

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国際機関と世界秩序 ・・・移民政策の転換 ・・・北朝鮮危機 ・・・EUとグローバリゼーション ・・・トランプとプーチン ・・・ロボット税 ・・・トランプの経済政策 ・・・中国共産党の経済運営 ・・・トランプ・ドクトリン ・・・中東和平の破壊 ・・・ロシアの戦争

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


● 国際機関と世界秩序

NYT FEB. 17, 2017

Sharing the NATO Burden

By THE EDITORIAL BOARD

FT February 20, 2017

As big powers focus on home, they need IMF and UN more than ever

Ian Bremmer

世界の指導力に見られる危機はますます深まっている。グローバルな秩序を形成し、維持するアメリカの積極的な役割は、何にもわたって低下してきた。それはヒラリー・クリントンが大統領になっても継続しただろう。しかし、ドナルド・トランプはそれを加速した。

ヨーロッパは自分たちの問題を数え上げるばかりで、中国も、まだ、急激な経済変化の時期にあり、国内の政治的支配力を維持することに関心が向いている。アメリカ、ヨーロッパ、中国の間で価値観や利害が分散していることは、協力して行動する能力や意志を制限するだろう。

唯一の超大国も含めて、主要諸国が自国の利益を最優先する世界では、国連やIMFのような、多国間の制度が以前にもまして重要になる。諸国の政策担当者たちは、自分で対処したくないような非常事態が頻発する世界を生きるために、こうした国際機関の能力にもっと投資しなければならない。

確かに多くの限界があり、公平な批判も受けているが、国際機関の仕事は非常に重要だ。WHOや世界銀行を含む、国連の諸機関は、伝染病Ebola, malaria, the Zika virus and HIVと闘い、多数の子供たちに食料や医療、教育のサービスを届けている。貧しい諸国が融資を得て、道路や橋、港、学校、病院を建設している。それらは、予測できない、暴力的な世界において、不可欠のサービスであり、世界経済全体に貢献している。

IMF1つの重大な問題を解決するために設立された。すなわち、金融危機の防止と拡大阻止である。それは世界経済や第3国を損なうからだ。IMFは、一時的に国際収支で問題が生じた国に融資し、その国を助ける。その代わりに、その国は、長期の経済パフォーマンスを改善するであろう改革を含むIMF融資プログラムに合意する。こうすることで、その国は世界経済に参加でき、貢献することを許される。それゆえ金融危機と闘い、経済を安定化する責任は、1国やいくつかの諸国にではなく、国際機関の加盟諸国に分担されるのだ。

しかしIMFは、マクロ経済政策に関する論争にもかかわっている。融資する改革の研究と分析を行い、所得分配の不平等化、緊縮策の効果、などを重視した。女性の役割、テロと金融、マネー・ロンダリングなどの問題も扱っている。その考察は、しばしば政治的な論争になるが、豊かな国にも発展途上諸国にも重要である。世界経済や個々人の役に立つ。他の誰がこのような仕事を引き受けるのか?

国際機関は転換点にある。新興諸国がその内部で十分な発言力を得ていない、と不満を強めている。彼らは改革を要求している。しかし、同時に、そのような改革は組織の決定にかかわる価値観が分散し、コンセンサスを弱めるだろう。このトレード・オフには容易な答えがない。それでも、協調行動が決定的な時期に、国際機関が協力のための最も重要なフォーラムであるのは間違いない。

トランプ大統領が国際機関を狭い目的に利用することは、アメリカが支配する、外交の道具であるという、国際機関に対する多くの批判を証明することになる。彼の行動は、国際機関の正当性を大幅に損なうだろう。

Bloomberg FEB 21, 2017

Tragedy of the Public Good: Why the U.S. Shouldn't Quit NATO

Megan McArdle

マティスJames Mattis国防長官がNATOの同盟諸国に、彼らが負担しないなら、アメリカはこの地域への関与を「弱める」と述べた。5か国しか目標に達していない。しかも、その防衛費は、大幅削減した諸国の分を補うには大きく足りない。それでも彼らは、アメリカの提供する安全保障を享受している。

ただ乗りの諸国は、アメリカに代金を支払うどころか、お礼も言わない。それどころか、彼らはアメリカの膨大な軍事予算を非難するのだ。

マティスの発言はその通りだと思う。しかし、逆に、アメリカしか安全保障を提供できないのは、イラク侵攻のような、愚行にもつながる。もちろん、アメリカほどの軍事的優位があれば、もっとひどいことをする大国を想像することも可能だ。ここはユートピアではない。

より公平な分担で、多極化した世界を想像するとしたら、それは第1次世界大戦に少し似ている、と歴史家は言うだろう。しかし、その結果は、毒ガスや、都市を消滅させるほどの爆弾であった。

残念ながら、軍事費は、エコノミストたちが言う「公共財」の原初的な例である。すべての者が利益を得るが、誰も排除できない。公衆衛生を考えればよい。HIVを地球上から撲滅する公衆衛生に投資することは、世界にとって非常に有益である。しかし、誰がそれに支払うのか? その投資から回収できる利益は何もない。

公衆衛生、防衛、犯罪対策、これらは公共財の古典的なケースである。しかし、合理的に考えるなら、利益だけ受けて、その費用は他人に支払わせるのが正しい戦略だ。あなたがフリーライドできる間は。すべての者が最適な戦略を採用するなら、その結果は誰も利益を得られないことになる。ここに政府が介入し、公共財を供給して、すべての者に支払わせる。

アメリカには連邦政府がある。しかし、NATOには問題が解決できない。その負担を引き上げる5か国を観れば、2国(米英)は厳密な自己利益による合理化の範囲を超えている。他の3国(ギリシャ、ポーランド、エストニア)は、NATO非加盟国と国境を接しており、彼らの軍事力を超える衝突が起きることを心配している。ポーランドやエストニアがロシアの侵攻を退けることは全く望めない。

軍事力の整備には時間がかかる。アメリカだけが十分な投資をしてきた。なぜならアメリカは世界に公共財を提供すると決意したからだ。もしアメリカが孤立主義になれば、各国は軍事役割を引き受けるだろう。しかし、それが間に合うには長期間を要する。

国際機関が介入するだろうが、彼らは支払いを強制できない。領土的な国家だけが課税できる。アメリカがNATO加盟諸国の負担を求めて脅すとき、彼らだけでなく、自分の利益も損なう。

Project Syndicate FEB 22, 2017

The WTO Reborn?

ARVIND SUBRAMANIAN

これからWTOが再び重視される理由が3つある.1.他の貿易協定が衰退すること.TTPTTIPも進展しない.2.有権者が統合の深化を支持しない.NAFTAEUも,さまざまな規制を共有したが,有権者の反発を招いた.イギリスのようにEUを離脱すれば,WTOが重視される.3.トランプ政権が保護主義を強めている.アメリカとの紛争が増えれば,WTOによる処理メカニズムが活用されるだろう.

私はかつて本で,新興諸国が登場する上で多角的な国際機関が重要になる,と書いた.それは旧大国の衰退についても言えることだ.国際機関があれば,バランスが変化する過程で,紛争を抑制できる.

WTOの復活は,自動的に起きるのではない.中規模諸国が積極的に支持することで実現する.すなわち,Australia, Brazil, India, Indonesia, Mexico, New Zealand, South Africa, the United Kingdom, and possibly China and Japanである.これらの諸国は(中国を例外として)市場規模が大きくない.集団的にのみ,開放市場を守ることができる.

世界は,ハイパー・グローバリゼーションから,多角的な国際主義に移行する.


● 移民政策の転換

NYT FEB. 17, 2017

Can E.U. Shift Migrant Crisis to the Source? In Libya, the Odds Are Long

By GAIA PIANIGIANI and DECLAN WALSH

FT February 20, 2017

Hardliner’s resurgence stirs up Australia’s immigration debate

Jamie Smyth

NYT FEB. 21, 2017

President Trump Wants a Wall? Mexico Is It

Eduardo Porter

Bloomberg FEB 21, 2017

The Myth of the U.S. Immigration Crisis

Noah Smith

FT February 23, 2017

The European migrants that Britain depends on

Bloomberg FEB 23, 2017

Why the Dutch Turned Against Immigrants

Leonid Bershidsky

アムステルダムの東の端、IJburgに引っ越したXandra Lammersはブログを始めた。IJburgは、湖の中に築かれた、埋立地と水上にある興味深い土地だった。しかし、ブログは興味から挫折感に変わっていく。イスラム教徒の移民たちと暮らすことへの不満である。

「以前は労働党に投票した」と、Lammersは言う。しかし、「それが政治的に正しいと思ったが、今では違う。」 彼女は、反移民、反イスラムを唱えるGeert Wildersウィルダースの政党PVVを強く支持している。彼女は、ナショナリストの作家Joost Niemoellerの新著"Angry"にも登場する。ウィルダースの選挙戦を支えたthe Angry憤慨する者たちは本当に存在し、アメリカでトランプに投票した人々と同じく、社会の分断した現実に根差している。そこでは社会的、文化的な統合化が重大な障害に直面している。

通訳者の事務所を運営していた彼女は、アムステルダムの激しい地価高騰で、都市中心部を追い出された。彼女が夫とIJburgの住宅を買ったとき、不動産業者は、近隣地区が「社会実験」をしているとは言わなかった、と。市当局は、中産階級の住宅保有者や社会住宅の経営者に革新的な都市計画を促していた。最初、そこは村に住むような、よく似た社会背景を持つ人々で、すぐに互いを知るようになった。しかし、その後、移民たちが引っ越してきた。彼らの安価な住宅が破壊され、郊外から移ってきたのだ。

「われわれは、ガーデンやエレベーターを共有する必要がある。」 そして嫌なことが起き始めた。自動車に傷がつけられ、エレベーターにおしっこをする、といったことだ。「私の通りには、イスラム過激派のモスクがある。」 移民の隣人たちは彼女のブログを知って、モロッコの若者たちから彼女は通りで罵声を浴びた、という。アムステルダム市役所によれば、IJburgは若者の犯罪率が高い地区の1つである。

アムステルダムの中産階級はもはや都市中心部に住まない。ジェントリフィケーション(再開発による高級化)と旅行者の流入が増えたためだ。また、比較的安価な居住区には、トルコ、モロッコ、スリナム、オランダ領アンティル諸島からの移民家族が移ってきた。「街の雰囲気は変わった。もはや人々はこの地区に愛着を感じない。」

ウィルダースは同じような社会変化を経験して、反移民の政治家になった。1980年代、90年代に、彼はユトレヒトの近隣地区Kanaleneilandに住んだが、そこは完全に白人だけの住民から、国際的な地区になり、その後、イスラム教徒が支配的になった。イスラエルの極右を長く称賛していた彼は、こうした変化をイスラム教徒のせいにした。彼や支持者たちにとって、モスクは「憎悪の宮殿」、北アフリカ出身の泥棒は「テロリスト」である。

ウィルダースの支持者たちは、町がイスラム教徒に占拠されている、と言うが、彼らはそう感じていない。30年前にトルコから移住してきたMuratは、1980年以来、アムステルダムの東に灌漑してできたAlmere市に住むが、そこは多くのエスニックが暮らし、住民の約30%は移民である。ウィルダースのPVVが市議会の最大政党になっている。「もし自分が書いたら、いやな思いをしたことは分厚い本になるだろう。法を犯してないのに、髪の毛が黒いだけで、何度も通りで止められ、自動車から引き出された。」 「貯蓄ができたらトルコに帰りたいが、職場でも差別されて低賃金であるから、貯まる見込みはない。」

さらに、第3の観方もある。「左派のエリートたち」である。ウィルダースは強く非難するが、その支持者にも共通の基礎を求めている。イスラム教徒のことは、「要するに隣人だ」と答える。その世界観も事実に依拠したものだ。オランダは安全な国家なのだ。アメリカに比べてレイプは3分の1、殺人は5分の1である。ヨーロッパの水準で観ても安全である。

問題は、これら3つの観方が、一定の正当性をともない、混じり合っていることだ。オランダの歴史は支柱化された社会a pillared societyを創ってきた。カソリックとプロテスタントが一緒になった国で、現実には、互いに干渉せずに生きてきた。「無気力としてのリベラリズム」である。この伝統の上に、第2次世界大戦後の再建に、移民労働者も入ってきた。彼らは仕事が終われば帰国するはずだった。しかし、もちろんそうはならず、統合化もされなかった。

「オランダは分断された社会だ。」と、ウィルダースは言う。教会も、学校も、パブも、分断されている。互いが出会うのはサッカーチームだけだ。異なる新聞を読み、異なるテレビ番組を観る。ウィルダースの支持者たちは、移民たちが受け入れ社会の文化に適応するように求める。それは、オランダの場合、ゲイの結婚、堕胎、安楽死、を受け入れることだ。移民たちは何も言わないが、街角のパブを閉めて、ハラルの肉屋が開く。左派は、異なる教会を受け入れているように、もっと異文化に寛容になるよう求める。

ウィルダースが政権を執ることはないだろう。しかし、「われわれの変化は神秘的なものだ」と彼は言う。「われわれは60年代にリベラルになった。安楽死を受け入れた。だれにもそれがなぜ起きたかはわからない。同じように、イスラムが深刻な問題だ、と思うかもしれない。」

振り子はすでに動きつつある。

Bloomberg FEB 24, 2017

Trump's Playbook Backfires in the Netherlands

Leonid Bershidsky


● 北朝鮮危機

NYT FEBRUARY 17, 2017

How the Nuclear Threat From North Korea Has Grown

By Rick Gladstone and Rogene Jacquette

NYT FEB. 20, 2017

North Korea, the Ultimate Challenge for a Dealmaker

By THE EDITORIAL BOARD

Bloomberg FEB 21, 2017

North Korea Offers an Opportunity for China and the U.S.

Junheng Li

北朝鮮が核弾頭を搭載した大陸間弾道弾を開発しつつある。それは韓国や日本、そしてアメリカや、中国にとっても、政治的、経済的に、深刻な破壊をもたらしうる。

中国は、鄧小平型の市場改革を求めてきた。そのために、金正男はマカオで家族と暮らしたのだ。他方、中国は、南北朝鮮が韓国の支配下に統一し、米軍が中国国境に迫ることを嫌っている。

ここに希望がある。北朝鮮が核攻撃能力を高めるほど、そして経済改革の可能性を期待できないほど、中国とアメリカの戦略的な利益は一致するのだ。実際、最近のミサイル発射実験の後、中国は北朝鮮からの石炭輸入を禁止した。

確かに、米中間で対立する問題は多い。南シナ海、貿易・通貨、双方における直接投資、など。しかし、北朝鮮は生存に関わる脅威である。米中と、その地域における同盟諸国とは、脅威を取り除くために、取引することが可能である。

そして、北朝鮮についての米中の共同戦略が合意できれば、他の諸問題でも交渉が容易になる。

北朝鮮の悪いニュースは、むしろ良いニュースになるかもしれない。

NYT FEB. 24, 2017

North Korea’s Palace Intrigue

By JEAN H. LEE

NYT FEB. 24, 2017

China and North Korea Reveal Sudden, and Deep, Cracks in Their Friendship

By JANE PERLEZ


● EUとグローバリゼーション

Project Syndicate FEB 18, 2017

The European Union First

JAVIER SOLANA

NYT FEB. 20, 2017

How Donald Trump Might Save the E.U.

Ivan Krastev

Project Syndicate FEB 21, 2017

Europe’s Critical Elections

GUY VERHOFSTADT

FP FEBRUARY 21, 2017

Trump Leaves Europe with Three Bad Options

BY KORI SCHAKE

トランプ大統領の暴言を、その閣僚が否定する。そんなことばかりだ。

同盟諸国は、この政権とどのように付き合えばよいのか? 大統領の不安定な言動によって生じた騒ぎを鎮めるため、いちいち閣僚を呼んで修正する必要がある。アメリカとの取引コストは非常に高まるだろう。

FP FEBRUARY 21, 2017

Europe Needs a Hearts and Minds Campaign for Russia

BY SAMUEL A. GREENE

VOX 22 February 2017

European integration and populism: Addressing Dahrendorf's quandary

Marco Buti, Karl Pichelmann

EUは、グローバリゼーションの破壊的な効果から市民を守る制度ではなく、むしろグローバリゼーションの推進機関とみなされて攻撃されている。

各国はグローバリゼーションに参加することで経済成長や機会を得ようとしている。しかし、グローバリゼーションの過程で生じる分配の不平等を緩和する政策を、各国政府はますます失いつつある。ポピュリストたちはEUを非難して、国家の自立や国民の文化を守る、主権を取り戻せ、と主張する。かつてダーレンドルフRalf Dahrendorfが警告した問題、グローバリゼーションと社会的結束、政治的自由、これらが対立することが深刻な政治問題になっている。

金融危機とその後の混乱は、潜在的にあった人々の不満を爆発させ、民主的な制度への信頼を破壊した。ポピュリストたちは「エリート」が不当に利益を手に入れ、社会への負担を無視している、と批判する。この意味で、EUの政策は市場に偏っている、社会的な諸劇を軽視し国家や地方、住民にとっての結束、連帯感、自律性を破壊している、と言われた。

異なるエスニック、文化、宗教を持つ移民が増えることで、「ネイティブ・アイデンティティ」に関する不安が高まっている。それは容易にポピュリストに利用される。ポピュリストたちは政策の違いを議論しない。それは民主主義において非常に重要なポイントであるが、彼らが主張するのはむしろ、「エスタブリシュメント」に反対し、彼らだけが「本物の民衆」の声を代表する、ということだ。「われわれ」、正直な(この国に生まれた)普通の人々が、腐敗した「エリート」に対比される。こうしたアイデンティティによる政治は、バウマンZygmunt Baumanが「流動化」と呼んだ現代社会において、社会の構成物を脅かすさまざまな危険に置き去りにされた人々に対して、強いアピールになる。

EUはありふれた「パンチ・バッグ」になった。EUは、反対意見を生かして、統合に向けた影響力を強めようとしている、しかし、EUは両方から攻撃されるのだ。一方は、純粋に経済的な視点で、他方は、文化的な「ネイティブ・アイデンティティ」の視点で。EUによる再分配は十分に行えず、むしろグローバリゼーションを推進した、不平等拡大の犯人にされてしまう。同様に、多様な社会の対立緩和を透明な意思決定で行うことは、実際にはむつかしい。金融危機でも、難民危機でも、躊躇と不完全さに満ちた対応策について激しい論争が続く。

EUが正当性を得るには、自由化と格差の増大に、容易な答えがない。開放型の市場がもたらす利益を、民主的な社会の包摂力、社会的保護や公平さと結びつけることだろう。EU統合の現状は、その調整をますます難しくしている。政治的安定性と社会統合のために、EUが重視する点を指摘する。

1EUの社会的価値を高める共通の公共財を提供することに集中する。

2.グローバリゼーションに対するEU社会モデルの中心的な価値を明確にする。

3.正統的な再分配政策をEU政策として強化し、設計する。

4EU予算の補完性原則を、新しい諸要求に応じて調整する。

5EU意思決定の透明性と民主的な説明責任を確立する。

FT February 23, 2017

Marine Le Pen has a better chance in France than you think

Sudhir Hazareesingh

FP FEBRUARY 23, 2017

It’s Time for Europe’s Militaries to Grow Up

BY STEPHEN M. WALT

ヨーロッパ諸国の多くがGDP2%の防衛費を予算化しないとき,アメリカがGDP3.5%mo防衛費に支出することは間違っている.ヨーロッパに覇権国が現れる可能性はない.それゆえ,アメリカは撤退しても,それによってヨーロッパの安全保障は悪化しないだろう.

ユーロ危機も,ポピュリストの台頭も,アメリカの軍事的な関与が解決できる問題ではない.ヨーロッパ諸国を説得できない時は,アメリカが積極的に撤退して,ヨーロッパに委ねればよい.ヨーロッパ諸国の指導者たちは,自ら解決する方法を学ぶ時期である.


● トランプとプーチン

NYT FEB. 18, 2017

Our Putin

By SUSAN B. GLASSER

2001618日、私はウラジミール・プーチン大統領のアメリカ・ニュース・メディアとの最初の会見に出席した。われわれはクレムリン図書館の巨大な円卓に座っていた。何時間とも感じるほど待ってから、プーチンは午後8時を少し過ぎて現れた。そして深夜まで質問を受けた。

私の番が来て、チェチェン南部の分離主義者との野蛮な戦争について私は質問した。彼の長い答えは、その後の年月において衝撃的な内容となった。それは、メディアを攻撃し、反イスラム感情を示し、ロシアの他の地域を安全に保つためにチェチェンを攻撃している、というものだった。夜も遅くなるにつれて、彼はアメリカに世界の真の脅威、イスラム・テロリストに対するアメリカ・ロシアの共同作戦を提案し、また、これまでの数十年に起きた経済破壊を逆転する愛国的な計画を主張した。

よく知っている話ではないか? プーチンの2001年にさかのぼるスローガンは、ロシアを再び偉大にする、であった。

さまざまな陰謀論や心理分析が議論された。しかし、就任式から、われわれは多くの事実を観てきた。大統領となったトランプの主張や行動は、プーチンが権力を確立する数年間と、見過ごせない多くの類似を示している。外国特派員として過ごした数年間、そして私はそれ以前の4人の大統領の政権とワシントンでジャーナリストとして取材したが、両社の類似性は決して看過できない、と言いたい。

メディア攻撃、憤慨した声明。司法であれ、企業であれ、自分に従わない権力を攻撃。パニックを呼ぶような警告。この国は安全ではない。われわれはイスラム過激派と戦争しなければならない。彼らはわれわれの生活に脅威となっている。これらはプーチンが書記の権力確立に使った方法であった。

証拠があるにもかかわらず、2000年に入ってもクレムリン・ウォッチャーたちは、プーチンが独裁的な権力者になるとは思っていなかった。当時は、ソ連崩壊後の混乱を過ごして、ようやく安定に向かうと思う人が多かったからだ。強硬派の、元KGBスパイが強権的な国家を復活させるということはあったが、西側のスタイルによる改革派であろうという者もいた。

今、思い出せば、プーチンの声明こそが、その後の行動をすべて示していたのだ。クレムリンの権威を確立すること、それが目標であった。この点こそ、トランプがプーチンを称賛する理由でもある。

多くのロシア人は、まだ、自国がもっと西側諸国に似てくると期待し、西側に訪問することも禁止されるような事態を考えていなかった。

17年経ってロシアの民主主義が存在するか、という問題は考えなかった。アメリカはどうか?

FT February 20, 2017

Donald Trump and the siege of Washington

Edward Luce

FT February 20, 2017

The authoritarian wave reaches the west

Gideon Rachman

ベルリンの壁が崩壊した後、民主化の波が広がった。西欧やアメリカの民主主義の伝統的拠点から、ポーランド、南アフリカ、インドネシア、多様な国に民主主義が広がった。

今、その過程が逆転しているように見える。ロシア、タイ、南アフリカのような、未成熟な民主主義国家から次第に欧米にも及ぶ権威主義体制への支持の広がりを、Mr Foa and Mr Mounkは分析した。

1990年代の経済的崩壊と無法状態とが、プーチンの専制支配体制を復活させる条件であった。プーチンは、ソフトな権威主義体制とナショナリズム、ポピュリズム、汚職、メディアの破壊、オリガークとの同盟を組み合わせた政治基盤を編み出した。トランプに対する最も重要な警告を発していたのは、ロシアの反体制派、Garry Kasparov and Masha Gessenであった。

アメリカにとっては、どのような意味があるのか? 民主主義を目標ではなく、他の目的のための手段と見なすこと、それが重要でなった。雇用、治安、経済の改善を実現できないとき、有権者たちは民主主義を支持しなくなった。政治的自由それ自体の価値を重視する声はあるが、多数ではない。

NYT FEB. 21, 2017

The Russification of America

Roger Cohen

FT February 22, 2017

Trump, Tillerson and the resource curse

David Pilling

Project Syndicate FEB 22, 2017

Populism Versus the Media

CHRIS PATTEN

NYT FEB. 22, 2017

Meet the 5 Trump Administrations

Thomas L. Friedman

FP FEBRUARY 22, 2017

The Shallow State

BY DAVID ROTHKOP

FT February 23, 2017

What George Orwell would have made of Donald Trump

Philip Stephens

NYT FEB. 23, 2017

John Lennon vs. Steve Bannon: A Battle for the Western Soul

Jochen Bittner

FP FEBRUARY 23, 2017

Donald Trump Is Much More Resilient Than He Looks

BY JAN-WERNER MUELLER

FP FEBRUARY 24, 2017

The Deep State Comes to America

BY STEVEN A. COOK

エジプトやトルコ,ロシアでは,国家を乗っ取る陰謀は本当であろう.アメリカでも,空想ではなくなる.トランプの批判者たちは,トランプ政権のメディア批判や閣僚人事,そして,民主主義とその諸制度への攻撃姿勢に,ディープ国家への兆候を見ている.


● 安全保障

The Guardian, Sunday 19 February 2017

Munich conference: three dangerous superpowers – and we’re stuck in the middle

Simon Tisdall

FT February 22, 2017

The parallel worlds of a twin-track US foreign policy

Roula Khalaf


● 資本主義

FT February 20, 2017

New capitalism nurtures people, not products

Anne-Marie Slaughter

AIの倫理的な基準を探すことより、根本的な資本主義の変化に注目することだ。産業資本主義の時代は終わり、新しい資本主義が議論されている。

John Mackey“conscious capitalism”を唱え、悔悟や信頼を含む文化を育てる。Arun SundararajanCrowd-based capitalismを唱え、21世紀の群衆を取り込む。Klaus Schwabは資本主義の終焉と、‘talentism’への代替を唱える。それは、care capitalismや、初期・幼児教育による才能への影響も考えることになるだろう。


● 中央銀行

FT February 20, 2017

Central bank independence is losing its lustre

Wolfgang Münchau


(後半へ続く)