IPEの果樹園2017

今週のReview

2/13-18

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トランプ大統領の始動 ・・・アメリカと移民制限 ・・・トランプの通貨戦争 ・・・Brexitのコスト ・・・直接テクノクラシー国家 ・・・植民地化と経済発展 ・・・独裁者トランプを排除する ・・・米中貿易戦争 ・・・バノン大統領顧問 ・・・トランプの通商政策 ・・・強化されたリベラリズム ・・・ル・ペンvsマクロン ・・・日本のポピュリズム不在

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


● トランプ大統領の始動

NYT FEB. 2, 2017

What’s Wrong With Michael Flynn’s Bluster on Iran? Plenty

By PHILIP GORDON

大統領の国家安全保障担当補佐官フリンMichael T. Flynnは,イランの弾道ミサイル実験に対して処罰すると言うが,それはやめた方がよい.オバマがシリアに警告したことを守れなかったように,アメリカはイランを処罰する効果的な選択肢を持たない.

トランプは選挙戦でオバマ外交の失敗を批判したが,それは間違いだ.オバマは核合意を維持しながら,できる限りの方法でイランを封じ込めてきた.また,トランプ政権が制裁を主張しても,他の諸国は賛同しないだろう.その結果,アメリカによる単独制裁の効果は失われる.最も重要なことは,イランが報復することだ.たとえば,単純に,アメリカが安定化しようとしているイエメンの反政府勢力が強化されれば,フリンの戦略は失敗する.

イランの挑発に何もしないわけではない.明確で,信頼できる,民間の警告.湾岸諸国やイスラエルとの協力.イランにとって外交的・金融的なコストになる行動を組織する.諜報と軍事的な優位を維持する.

NYT FEB. 3, 2017

Is Trump’s Foreign Policy Inept, or Radical? It’s Both

By JONATHAN STEVENSON

FP FEBRUARY 3, 2017

Trump Has Already Blown It

BY STEPHEN M. WALT

支持者たちはトランプの最初の行動を見て、大いに喜んだだろう。イスラム教徒の入国禁止は、自分たちの警察官が町にやってきた、ということを意味した。他方、批判派はトランプを正しい道に戻す必要を感じたはずだ。法律家、メディア、学者、企業の指導者、外国政府、元政府職員、共和党員の多くも、そう主張する。

トランプの外交を賛美する支持者たちは、失望するだろう。わずか2週間で、トランプはアメリカ外交のより堅固な地位を築く機会を失い、数か月前には考えられなかったような形で、内外の反対派を強め、団結させたからだ。

トランプが当選したとき、アメリカ外交にプラスの転換をもたらす最高のチャンスがあった。彼の当選は確かに過半数の支持を得られなかったが、世論調査が示すように、アメリカ国民の多くが軍事介入を減らすこと、同盟諸国のフリーライドを減らすことを求めており、経済の仕組みが製造業よりも金融ビジネスに有利になっていると疑っている。

特に、トランプは、「国家再建」や軍事介入に反対し、ますます拡大するドローン攻撃やテロリストを標的にした殺人について抑制することができただろう。アフガニスタンの米軍を減らし、慎重に離脱することもできるだろう。ロシアとの関係改善にもメリットがある。ヨーロッパやアジアの同盟諸国は自国の防衛をもっと負担するべきだろう。TPPを介して中国との交渉力を高めるべきだったが、破棄してしまった。中東においてはオフショア・バランシングがふさわしい。ブッシュ政権の唱えた中東地域の「体制転換」など目指すべきではない。イスラエルとパレスチナの和平に関しても、無駄な努力を払わず、彼らが自分で決めて、その結果を引き受けさせることだ。

トランプにはできるはずだ。それは現在のグローバルな秩序が持つ優れた面を維持し、しかもアメリカに有利になる。

しかし、トランプはこうしたことを何もしなかった。逆に、中国との対立を刺激して、アジアにおけるアメリカの地位を損なった。オーストラリア首相との辛辣な電話会談はひどい内容だった。オーストラリアは、朝鮮でも、ヴェトナムでも、イラクでも、アフガニスタンでも、アメリカとともに戦った国である。

トランプは、世界中に貿易戦争を促し、世界経済を損なうだろう。イスラム国と戦う計画も示していない。イスラム教徒への入国制限は、ますますイラクとの協力関係を難しくした。他方で、フリンやバノンはコストの高い「文明の衝突」を助長している。

Bloomberg FEB 3, 2017

Watch Libya for the First Sign of Trump-Putin Collaboration

Leonid Bershidsky

NYT FEB. 4, 2017

Mr. Trump’s Random Insult Diplomacy

By THE EDITORIAL BOARD

NYT FEB. 6, 2017

Isolating China Doesn’t Work

By JOHN POMFRET

FP FEBRUARY 6, 2017

Backing Into World War III

BY ROBERT KAGAN

歴史の見直しを求めるrevisionist2つの大国、ロシアと中国が、その野心と活動を強めている。1945年以来の国際システムで支配的な地位を示す民主主義世界の、特にアメリカの、その地位を維持する自信、能力、意志が衰弱している。

われわれは既存秩序が崩壊し、世界が野蛮なアナーキーに落ち込む瞬間に近づきつつある。過去2世紀に3度、それは起きた。人命と資産が失われ、自由も、希望も失った、そのコストは甚大であった。

アメリカ人は国際秩序の基本的な安定性を前提してしまう傾向がある。しかし歴史が示すように、世界秩序は崩壊する。しかも、予想外に、迅速、かつ、暴力的に。18世紀後半のヨーロッパは啓蒙主義の頂点にあったが、その後、ナポレオン戦争の混乱へと落ち込んだ。20世紀の最初の10年は、世界の賢者たちが、コミュニケーションと輸送の技術革命が経済と人々を編み合わせることで、大国間の紛争を終わらせると予測した。しかし4年後に、史上最も破壊的な戦争が起きた。戦後、1920年代は平穏であったが、1930年代の危機に続いて、再び世界戦争が起きた。

われわれが古典的なシナリオのどこに位置しているかを正確に知ることはできない。世界危機の3年、あるいは、15年前かもしれない。その間のどこかにあるのは間違いない。

トランプ政権がこの過程におよぼす影響はまだわからない。ロシアの姿勢を受け入れることは。一層の強硬な要求をプーチンから受けるだろう。中国に対する強硬姿勢は、中国がアメリカ新政権の軍事的決意を試すことにつながる。

中国とロシアは古典的なリビジョニスト大国である。両国がこれほど外部の脅威を受けないことは歴史的にまれであるが、彼らは現在のパワー・バランスに満足していない。両国はそれぞれの地域で、かつて享受した覇権的な支配を回復しようとする。アメリカが指導した戦後のグローバルな秩序における、彼らが不公平とみなす、パワー、影響力、名誉の分配を変えることを求める。専制国家として、国際システムに民主的な大国が支配的であること、また民主主義が国境に近づくことに、両国は脅威を感じる。アメリカは彼らの野心を邪魔しており、アメリカが指導する国際システムを弱めるよう模索する。

ロシアと中国にとって、その主要な障害物は国際秩序のパワーと団結そのものであった。アメリカが指導する政治・軍事同盟は、特に、ヨーロッパと東アジアという重要な地域で、冷戦以降も、ロシアと中国に慎重な行動を強いてきた。

アメリカの優位が明確な時期は、ロシアと中国もこの開放型国際システムに参加し、経済的な利益を享受していた。システムが機能する限り、彼らはシステムに挑戦し、あるいは転覆するより、その中でプレイした。しかし、システムの政治的・戦略的な性格は、彼らにとって有害であった。ソ連崩壊後の20年間、民主的政府が拡大し、活発化したことは、北京やモスクワの支配者にとって持続する脅威であった。特に、国境に向けてリベラルな民主主義が前進することは、彼らの生存を脅かした。メッテルニヒの時代以来、専制支配体制は常に、リベラリズムの波及を恐れた。国境を接して民主主義体制が存在すること、彼らが管理できないグローバルな情報の流れ、自由市場型の資本主義と政治的自由との危険な結びつき、こうしたことすべてを彼らは抑圧体制への脅威とみなした。

ますます強力になったが、中国は慎重に行動した。アメリカの世界的な優位と、その同盟関係や共通の戦略的利益により結びついた地域の諸国家を考慮したからだ。ロシアは、アメリカとNATO同盟に直面した。たとえ中国が台湾海峡や南シナ海・東シナ海で初期の勝利を得ても、世界で最も裕福で技術的にも進んだ諸国の結合された工業生産力と戦うには、まだ時間が必要だった。人口が減少し、石油・天然ガスに依存する、より経済力のないロシアが対抗するのは、さらに厳しい。

リビジョニストの2大国にとって最善の選択は、常に、アメリカと同盟諸国とを分離し、あるいは、アメリカの関与を疑うように仕向けることで、アメリカの支持する世界秩序を弱体化することだった。資本主義と民主主義に内在する欠陥により、こうした関与の危機は起きた。1930年代、経済危機とナショナリズムが高まり、資本主義や民主主義より、ファシズムや共産主義の方がよいのではないか、という疑念が生じた。リベラリズムの信用危機と戦略的秩序の崩壊が同時に起きることは偶然ではない。当時、イギリスとフランスが秩序の維持や回復に対する意思も能力も失ったとき、外部のパワーとしてアメリカがその役割を引き受けるかどうか、それが問題であった。

アメリカの意思に関する疑問は、トランプの選挙以前、そしてオバマ以前から存在した。

FP FEBRUARY 6, 2017

Give Trump’s National Security Team Some Time. They’re Just Getting Started.

BY KORI SCHAKE

FP FEBRUARY 7, 2017

The Strategic Suicide of Aligning With Russia in Syria

BY HAL BRANDS, COLIN KAHL

FT February 9, 2017

Donald Trump’s foreign policy spins on an axis of upheaval

Demetri Sevastopulo

FT February 9, 2017

Peace and prosperity: it is worth saving the liberal order

Philip Stephens

FP FEBRUARY 9, 2017

Does Trump Want a 19th-Century World Order?

BY ROBERT A. MANNING, JAMES PRZYSTUP

FP FEBRUARY 9, 2017

If Trump Wants Safe Zones in Syria, There Have to Be Boots on the Ground

BY FRED HOF


● アメリカと移民制限

FT February 3, 2017

America’s immigrant dream collides with nativist nightmares

Simon Schama

「お前はここにいてほしくない。」「帰れ!」

これは入国禁止の大統領令で拒まれたイラン人のPhD保有者の姿ではないし、追放されたイラク人の祖母の話でもない。スポーツと宣伝の祭典、スパーボールの日曜日にわれわれがビールのコマーシャルで目にしたものだ。1億人を超えるアメリカ人視聴者に向けて、無数のバドワイザーを飲む人々の投票姿勢には関係なく、1850年代にセントルイスに来たバドワイザーの創立者Adolphus Buschに関する、移民物語の叙事詩が1分間放映されたのだ。

移入民に関する論争は、根本的で、分断する性格を帯び、常にアメリカがパーソナリティーの分裂を苦しむものである。

アメリカの歴史において反移民の排外主義が道徳的な悪臭を放つことは初めてではない。新しいのは、それがホワイトハウスにまで入ったことだ。共和党であれ、民主党であれ、大統領の規範として、このような主張を受け入れたことはなかった。

世界は和解できない2つの集団に分裂しつつある。一方は、自分たちと同じような外見、祈り、言葉を示すものとだけ暮らしたい人々。他方は、近隣のエスニック的に混在する居住区を多くの者によってシェアする、数百万人規模の都市に住む人々。

NYT FEB. 3, 2017

A Return to National Greatness

David Brooks

FP FEBRUARY 3, 2017

Refugees Are a Great Investment

BY PHILIPPE LEGRAIN

NYT FEB. 4, 2017

Who Are We?

Ross Douthat

SPIEGEL ONLINE 02/06/2017

'America First'

Trump and Bannon Pursue a Vision of Autocracy

By SPIEGEL Staff

NYT FEB. 7, 2017

How to Make America Greater: More Immigration

Eduardo Porter

The Guardian, Wednesday 8 February 2017

Trump fears terrorists, but more Americans are shot dead by toddlers

Gary Younge

NYT FEB. 9, 2017

Integration Works. Can It Survive the Trump Era?

Thomas B. Edsall


● トランプの通貨戦争

FT February 3, 2017

US currency warriors take aim at the wrong target

Alan Beattie

15年も戦闘が繰り返し続いた後、さまざまな勢力が停戦を宣言して、壊れやすい和平が成立した戦場を想像してほしい。戦闘員たちは敵意を刺激しないように強く望んでいる。実際、主要な勢力の中の1つは、いかなる好戦的な姿勢も再現しないように多大のコストを支払っている。そんなとき、降って湧いたように、新しい、戦ったことのない将軍に率いられた1つの軍隊が、戦闘地区に展開し、多方面に向けて宣戦布告を行った。

これは、通貨戦争の現在を描くものだ。国際経済外交の主要な戦場である。今秋、トランプ政権は、中国、日本、ドイツを、為替レートの敵対的な操作を行う国として名指しした。

それは、まったく愚かな主張ではないが、それに近い。これら3国のいずれも、競争的な通貨の切り下げを行ってはいない。日本は2011年に通貨介入を行ってから、介入していない。中国も2012年から変動幅を拡大し、今は資本流出による人民元の下落を抑えるために介入している。ドイツに関しては、その競争上の優位が問題になる。しかし、それを指摘するのはユーロを共有しているユーロ圏の諸国であり、アメリカではない。金融政策を行うのがECBであり、たとえその政策にドイツが反対しているときでも、独立性を犯したことはない。

トランプとナヴァロは自分たちを通貨戦争の兵士だと妄想しているようだ。しかし、現実には、無意味な過去の情報に基づき、戦闘を叫ぶ頭の錯乱した戦争中毒でしかない。そこに戦う敵などいないのだ。


● Brexitのコスト

FT February 3, 2017

Brexit Britain must go on the offensive to prosper

Augustus Fukushima

Brexit後のイギリスが繁栄するためには、イギリスが競争的で、才能ある人や投資を外国から惹きつける国でなければならない。そのためには3つの条件が求められる。

1.予算を黒字にする。シンガポールとギリシャの違いはそれだ。経済的にも、政治的にも、独立を維持するために必要である。歳出を大幅に占める国民医療制度は、より保険型のシステムに移行する。そして、もっと高等教育や職業訓練に支出する。

2.政府が攻撃的に投資する。輸送、教育、製造業など、基軸産業には過少投資が続いている。イングランド南部に産業が集中しているのは輸送システムが欠けているからだ。鉄道企業を集中し、21世紀の高速鉄道に政府は投資するべきだ。また新生企業や競争力ある企業を外国投資家から守るべきだ。強い製造業と対外黒字を持つドイツや日本が買収している。イギリスも対外赤字の脆弱さを解消せよ。金融ビジネスや観光だけに依存して引けない。

3.移民に対して開放的であり続ける。医療、技術、金融における熟練労働者、農業や建設における未熟練労働者として、外国人は欠かせない。イギリスが競争的であるためには、能力主義が重要だ。信条や国籍とは関係なく、最良の人材を雇用するべきだ。外国人居住者を敵視するような病的な政治情勢を変えるべきだ。

資源の乏しい国にとって、変化に先んずることが重要だ。

FT February 7, 2017

Five Brexit challenges as Britain leaps into the unknown

Martin Wolf

Project Syndicate FEB 7, 2017

Brexit in a Brave New World

DANIEL GROS

経済理論は,貿易障壁が双方の利益を損なう,と教える.しかし,また,2国間では大国の方が,小国より失うことが少ない,と予測する.

関税の場合,大国の需要は減少する.それは大国の輸入する財の価格を下げるだろう.小国の経済には,そのような影響を与えることができない.さらに,非関税障壁では,大国の優位が顕著である.規制や基準が貿易する諸国間で異なると,ほとんどのケースで,小国は単に大国のルールを受け入れることになる.

Brexit支持派は,イギリスの純輸入が大きいことで,EUとの交渉は優位を示せる,と考えた.しかし,重要なのは相対的な市場規模であって,フローの貿易量ではない.しかも,合意できないと,不均衡は拡大し,イギリスをさらに苦しめる.

EUとの交渉は始まりにすぎず,イギリスはほかにも大国と交渉しなければならない.すなわち,アメリカと中国だ.トランプはイギリスを優先すると言っているから,問題ないのだろうか? トランプは「アメリカ・ファースト」とも主張している.イギリスの市場を開放し,アメリカの規制や基準を受け入れることを求めるだろう.

メイはそれを知っている.だからトランプのイスラム圏7か国からの入国禁止に対して,沈黙を守ったのだ.十分に市場規模と交渉力を持つEUの加盟諸国は,アメリカに厳しいコメントをしている.

Brexit支持者はこうした事態を予想していなかった.EUの市場から離脱しても,WTOのような,ルールに依拠した多国間の枠組みがある,と考えていた.トランプが貿易のルールを破壊すればするほど,小国の交渉は難しくなる.

多角的な開放型貿易システムの破壊は,すべての国を傷つけるが,その程度は同じではない.

NYT FEB. 7, 2017

The Queen for a Free Trade Deal

Roger Cohen

FT February 9, 2017

New Zealand shows British farmers how to embrace Brexit

Lockwood Smith

The Guardian, Thursday 9 February 2017

Why Brexit, in the Trump era, is a threat to Britain’s national security

Joseph O'Neill

FT February 10, 2017

Jeremy Corbyn should use his Labour leadership — or leave it


● ヨーロッパによる覇権

FT February 3, 2017

It’s Europe’s turn to fill the global power vacuum

Alexander Stubb


● ロシアの改革

SPIEGEL ONLINE 02/03/2017

St. Petersburg

Russia's City of Rebels

By Christian Neef in St. Petersburg

Project Syndicate FEB 7, 2017

Russia’s Bad Equilibrium

ANDERS ÅSLUND


● 直接テクノクラシー国家

Project Syndicate FEB 3, 2017

Recovering the Promise of Technocracy

PARAG KHANNA

悲観論が広まっている.ドナルド・トランプの当選,イギリスのEU離脱を求める国民投票から1年たって,2017年はさらに多くの勝利をポピュリストたちにもたらすだろう.第1次世界大戦を勃発させたナショナリズムと保護主義の歩みをそこに観るのは容易である.

しかし,それは間違いだ.ポピュリストの成功は,政治指導者たちが有権者の経済的不満を理解しなかったことの兆候でしかない.無能な指導者たちが堕落させた民主主義に固執することなく,われわれは人々の不満に応えることができる優れた政府を定義しなければならない.私はそれを,直接テクノクラシー(技術官僚制)a direct technocracyと考える.

直接テクノクラシーとは,説明責任を果たす専門家たちの委員会が,定期的な世論調査(公共的な諮問・公聴会など)に基づき,意思決定するシステムだ.それは,直接民主主義の美徳と,能力主義的な技術官僚制のメリットとを,合わせ待つ.すなわち,データを使って,長期的,功利的な意志決定を行う.要するに,直接テクノクラシーとは良いアイデアと効率的な実行との結合だ.

このシステムは単なる仮説ではない.高度に民主的なスイスも,超官僚制支配のシンガポールも,ともにそのシステムの原理を実行している.両国はその成果を誇りとする.良好な健康状態,豊かな富,汚職の少なさ,高雇用,国防,市民サービス,技術革新に向けた莫大な政府投資.政府は市民の必要や選好に効果的に反応し,国際的な経験を国内政策に生かし,長期計画のためのデータや異なるシナリオを利用する.

トランプに向かったアメリカ人は間違っている.彼らは,ガバナンスをめぐる政治と,政策を生み出す民主主義と,結果に至るプロセスとを,混同しているのだ.「人民の意志」はその欲望を示すだけで,何度やっても政府は結果をもたらさない.良い政府とはインプットとアウトプットの両方である.政府の正当性を高めるのは,それを決めるプロセスと,市民が求めるモノを提供することである.すなわち,優れたインフラ,きれいな水と空気,ビジネスに好ましい条件,良い学校,快適な住宅,表現の自由,豊富な雇用機会.それらは世界中の市民たちが要求している.

アメリカ人は,また,能力主義meritocracyや官僚支配technocracyを「エリートによる支配」とみなす.特に,リベラルなエリートたちだ.しかし,テクノクラシーはリベラル思想ではない.

リベラルな知識人はバラク・オバマの政府で重要なポストを占めたが,彼らは真に専門的なテクノクラートではなかった.そう言えるのは,ウォール・ストリートを救済し,メイン・ストリートのためにも同様に強固で,伝統を破る政策を採用した,バーナンキ連銀議長とガイトナー財務長官であろう.スウェーデンと韓国のように,対照的な政治であるが,テクノクラートは所得の20%を財政的に再分配して,インフレを抑え,人々の経済参加を可能にしている.スイスもシンガポールも,決してリベラルな政府ではないが,同様の手段で賃金と補助金を決めている.真のテクノクラシーとは,政府の機能を維持するものだ.彼らはデータを使って,厚生の最適化を図る.

アメリカの問題とは,テクノクラシーが多すぎることではなく,少なすぎることだ.能力主義の仮面をかぶっただけの政治ではなく,功利主義的なガバナンスを必要としている.解決策は,国民を分断し,事実を無視するポピュリズムではない.アメリカで2000年に入ってから労働者に対する再訓練プログラムを導入してきたのも,ヨーロッパで一層の統合とユーロ圏の債務免除を推進しているのも,労働者の生活を長期的に改善し,ヨーロッパの競争力と世界における影響力を高めることを願うテクノクラートたちだ.

ますます複雑になる世界では,能力主義と功利主義に基づくテクノクラシーが優れた成果をもたらす.


● 植民地化と経済発展

VOX 03 February 2017

The European origins of economic development

William Easterly, Ross Levine

ヨーロッパに植民地されてから、諸国は経済発展の多様な経路をたどった。ほとんど経済発展せず、今も11人当たりGDPで見て2ドル以下の国がある。たとえば、the Congo, Guinea-Bissau, Malawi, and Tanzaniaである。他方、11人当たりGDPが約140ドル、世界で最も裕福な国もある。Australia, Canada, and the USがそうだ。

植民地における人口に占めるヨーロッパ人の比率がいくつかのメカニズムで経済成長率を決めた、ということを強調する研究が多くある。国際市場で豊かな利潤をもたらす自然資源があっても、その土地、気候、病気などが大規模なヨーロッパ人の入植に適していない場合、少数の入植者が権威主義的な政治制度で資源を採取した。こうした「資源採取植民地」では、ヨーロッパ人の創った諸制度がその後の長期的発展を妨げた。他方、ヨーロッパ人が大規模に入植し、小規模農家に適した環境では、「入植者コロニー」が形成され、経済発展を促す政治制度を持ち込んだ。

VOX 06 February 2017

Double diversification

Thorvaldur Gylfason, Per Wijkman


● 独裁者トランプを排除する

NYT FEB. 3, 2017

A Tyrant’s Ghost Guides Trump

Timothy Egan

SPIEGEL ONLINE 02/05/2017

Trump as Nero

Europe Must Defend Itself Against A Dangerous President

A DER SPIEGEL Editorial By Klaus Brinkbäumer

ドイツは指導的な役割を自覚している。ユーロ圏に緊縮策を実施したショイブレ財務相も、移民政策を実施したメルケル首相も、ヨーロッパ諸国の反対する形で、協力を得られないまま指導力を発揮して苦労した。それゆえ、今やドイツに指導力が求められることは皮肉である。「パックス・アメリカーナ」と呼ばれる旧世界秩序からアメリカが離脱するとき、多くのギャップを埋めるのはドイツでなければならない。同時に、ドイツはトランプ大統領に反対する同盟を築かねばならない。それはドイツが指導しなければ形成されず、絶対に必要なものだから。

アメリカの大統領は、病的な嘘つきであり、上からの政権転覆を試みており、非リベラルの民主主義か、もっと悪いものを目指し、バランス・オブ・パワーを破壊したがっている。彼は自分と意見を異にする司法長官代理を解任し、「裏切り者」と非難した。その言葉は、ローマを破壊した皇帝ネロと同じである。暴君の発想だ。

FT February 6, 2017

Donald Trump, the bully in America’s pulpit

Edward Luce

警告は受けたはずだ。トランプは、イスラム教徒にビザを禁止し、通商における「アメリカ・ファースト」を掲げ、最高裁に保守派を指名すると約束していた。彼がしたことだ。「ISISを放逐」し、メキシコとの国境に壁を築く。もうすぐするだろう。大幅減税と規制緩和もそうだ。わかっていたはずだ。

しかし、トランプはわからない。トランプが今後4年間大統領であるから、それに備えて、彼のマニュアルを知るべきだ。その鍵は、彼の経営思想だ。

ルールその1.トランプは間違いを認めない。謝罪などしない。ちょっとした失敗が公式の政策に変わる。

ルールその2.批判する者にはその代償を支払わせる。トランプは、攻撃されたら10倍の仕返しをする。先週、司法長官代理Sally Yatesを解任した。彼のスポークスマンは、意見の異なる外交官は辞めるように求めた。外国の指導者も、大企業の経営者も、トランプの嫌がらせを避けられない。ボーイング社の重役Dennis Muilenburgが自由貿易を支持したところ、わずか20分もたたずに、トランプはエア・フォース・ワンの建造をキャンセルする、と脅した。

ルールその3.ブランドの価値を高めるためなら何でもする。事実を曲げ、異なる事実を広める。就任演説が始まれば、雨は止んだと主張した。天気予報官はそう考えない。オバマの就任演説に集まった群衆と比較する写真を、彼が好まないので、Tweetさせないように求めた。戦争の最初の犠牲者は真実だ、という。情報戦争の時代には、真実こそ最も重要な標的である。

トランプはプロパガンダの主要源泉になるだろう。ヒラリー・クリントンはトランプよりおよそ300万票も多く獲得した。トランプは、300万から500万票が偽装された投票だった、と主張し続けている。

最後のルール。自尊心こそすべてに勝る。法の支配は絶えず疑われるだろう。

アメリカを害したい者は、指1本動かすこともない。トランプは彼らのためになる。ナポレオンが言ったように、「敵が失策を犯しているときには、邪魔をするな。」

Project Syndicate FEB 6, 2017

Trump’s Chaos Theory of Government

JACEK ROSTOWSKI

SPIEGEL ONLINE 02/07/2017

Trump's America

Democracy at the Tipping Point

A Commentary by Klaus Brinkbäumer

NYT FEB. 7, 2017

Labor Leaders’ Cheap Deal With Trump

By NAOMI KLEIN

FP FEBRUARY 7, 2017

Beware Trump’s Kitchen Cabinet

BY DOV ZAKHEIM

FT February 10, 2017

Corporate benefits of a Trump tweet

Gillian Tett


(後半へ続く)