IPEの果樹園2017
今週のReview
1/30-2/4
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オバマは行動する ・・・大統領就任式 ・・・メイのBrexit ・・・中国とグローバリゼーション ・・・トランプ vs メディア ・・・世界秩序の転換 ・・・ロシアとの関係修復
[長いReview]
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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
● オバマは行動する
NYT JAN. 19, 2017
Obama Shouldn’t Go Quietly
By
ROBERT DALLEK
金曜日に執務に就いたトランプ大統領は、前任者の仕事を破り捨てるアジェンダを実行した。オバマが出した行政命令を取り消し、イランとの核合意を破棄し、オバマケアの廃止を支持し、気候変動に関する国際的枠組みから離脱する、といったことだ。
もしトランプがオバマを沈黙していると思ったのであれば、ウッドロー・ウィルソンがワシントンに住み続けて以来、最初のワシントンにとどまる大統領であるが、その最後の記者会見での発言に驚いたことだろう。新大統領の数々の問題に関しては、「私が発言する方がよいだろう」と述べたのだ。
任期が終わった元大統領たちは、趣味や慈善活動にかかわるだけで、後継者が思い通りにすることを許す、と思われている。しかし、常にそうではない。
オバマは紳士的な態度を貫き、彼の業績に対するトランプの行き過ぎた非難にもかかわらず、ホワイトハウスに入ることを歓迎し、選挙後の大統領にふさわしくない行動に対しても沈黙を守った。しかし、トランプが前任者の業績に対する黙認の伝統を破り、そのすべてを破り捨てるつもりなら、オバマは政治的に闘うことを避けられないし、避けるべきではない。
● 大統領就任式
The Guardian, Friday 20 January 2017
Divisive, ungracious, unrepentant:
this was Trump unbound
Jonathan
Freedland
トランプが変心することを願った人々は失望しただろう。就任式でも、トランプは何も変わらなかった。共和党大会のときと同じように、そのメッセージは怒りに満ち、前任者の業績を否定して、アメリカを荒涼としたディストピアで描いた。ギャング、麻薬、犯罪、退廃。
歴史上の最悪の時代を恐れず、これからはアメリカ最優先でいく、という。1930年代のネイティビズム運動が掲げたスローガンだ。それはアメリカとナチスとの戦争を回避するためであった。
世界が彼の演説を聴いているときに、トランプは新しい保護主義の時代を宣言した。NATOに言及することはなく、あらゆる国際協力を無視した。新しいダーウィン主義の時代を国際関係に拓くものだ。すべての国が自国優先である、という。モスクワや北京はそれに異論を持たない。しかし、ルールに基づく国際システムというアメリカの主張を長年信じてきた小国にとって、それは衝撃である。
トランプはいつもそうであったように、ルールブックなど破り捨てた。伝統を無視して、選挙戦に敗北したヒラリー・クリントンに和解の合図を送ることはなく、彼に投票しなかった有権者たちに手を差し伸べることもなかった。
自分の支持者たちに向けて、特に赤さび地帯の労働者たちに向けて、トランプは経済ナショナリズムを強調した。彼らにとってこの演説は、トランプが多くの、不可能な約束を実行するつもりだ、と信じる理由となった。
トランプに反対する者にとって、これは予想通り「抵抗」の始まりとなった。彼らが見たのは、単に愛することのできない政府ではなく、専制君主であった。デモ隊の掲げるプラカードには、まさに、「ファシスト」とあった。
反対運動の先頭には、報道機関がいる。クリントンを排除した今、トランプはメディアを標的にしている。メディアの存在自体が彼を憤慨させるのだ。上下両院を共和党が支配し、最高裁判所の判事を指名できる。権力の機関でトランプに支配できないのは、メディアだけである。
それゆえメディアの責任は重大だ。相互に競争するより、団結して戦わねばならない。その意味で、記者会見でトランプが無視したCNNからのフェイク・ニュースに関する質問に、トランプが答えるよう、メディアが支持したことは重要だ。
トランプの言動を抑えるのは、その人物への攻撃ではなく、さまざまな問題に焦点を絞ることだ。裸の王様であるトランプを笑うことだ。ティーパーティーがオバマを苦しめたことから学んで、トランプに対する反対運動が組織されるべきだ。
Bloomberg JAN 20, 2017
Trump's Contempt Could Lead to
Better Government
Leonid
Bershidsky
ドナルド・トランプの任期は、政府の多くのポストを空席のままスタートした。それは破滅につながるのか、あるいは、新しい時代の始まりなのか。
Jonathan
Bernsteinによれば、上院が承認する必要のある690のポストのうち28しか候補者が示されていない。140万人の連邦政府職員がアメリカの福利厚生を支えていると信じるなら、これは恐ろしいことだろう。官僚たちはそのように主張するが、トランプやその少数の指名された閣僚たちはその警告を無視するべきだ。
2004年、ソビエト崩壊後のグルジアで、伝説的な改革を実行したKakha Bendukidzeは、トランプのようにビジネスマンであったが、自国を改造することに関心を持った。改革は、グルジアの膨張し、腐敗した官僚制度から始めた。ロシアではリバタリアンとして13%のフラット・タックスを導入して成功したが、グルジアの官僚制度をほとんど理解できなかった。そこでそれらを廃止することにした。Bendukidzeの改革で、初年度に職員の35%がレイオフされた。規制や課税も単純化し、21の税金を7つに減らした。
経済は改革に反応し、現実とは思えないような成長を示した。成長率は2004年に5.6%、2005年に9.6%、2006年には9.4%に達した。
もちろん、グルジアの人口は450万人で、アメリカの小さな州の大きさしかない。しかし、パキスタンは巨大な、混乱した国だ。アメリカの人口の60%にほぼ等しい。2010年、憲法改正で権限を地方政府に移譲した。教育、医療、社会福祉、環境、労働など、2年で17の連邦省庁が廃止された。地方政府は、必要な職員を採用するよう求められた。改革は決して円滑に進まなかったが、経済は成長し始めた。
アメリカのような豊かな国で、中央官庁の改革、特に削減は、貧困国よりも難しい。官僚たちは非常に有能で、自分たちの不可欠な役割を説得できる。ただし、経済危機に直面した場合、豊かな国でも緊縮策を採用することがある。イギリスの公務員は2009年秋に644万人でピークに達し、その後、100万人を削減した。
アメリカにも官僚を削減する多くの余地がある。政府職員の一部は民間企業が受け入れるだろう。トランプ自身は気づいていないが、ずっと少ない政府職員で高い水準の行政を実現する指導者になれる。
Project Syndicate JAN 25, 2017
National Debt and Global Order
HAROLD
JAMES
トランプの就任演説ではこれまでにない言葉が繰り返された.Bleed, carnage, depletion
and disrepair. Ripped, rusted and stolen. Tombstones, trapped and windswept.
Urban, sad and Islamic. 黙示録的な終末映画の台本を大声で読み上げているように感じた.
トランプは,「愛国心に尽くせば,偏見が入る余地はない」と述べた.しかし,逆である.愛国心は偏見を神聖化する.アメリカ建国の父たちは愛国心に燃えていたが,その多くは奴隷の所有者であった.
● 資本主義の転換
Project Syndicate JAN 25, 2017
Four Certainties About Populist
Economics
MICHAEL
SPENCE
経済グローバリゼーションが成功するときは、各国の成長パターンも合理的に成功するものになっている。第2次世界大戦後の30年間がそうだった。多くの国で高い成長率が実現し、その利益は諸国の中でも広く分配された。発展途上諸国が台頭してグローバルな不平等も縮小した。
1970年代以降もグローバリゼーションが続いたが、成長のパターンは変化した。系座グローバリゼーションには労働賃金の裁定が働き、デジタル技術の破壊的影響が加わった。先進経済の中産階級、製造業の雇用が失われ、中位の所得は伸びなくなった。GDPの成長は続いても、職場と所得の分極化が進んだ。この傾向は1980年代、90年代にも持続し、2000年以後、加速した。不平等が急速に拡大し、グローバリゼーションの基礎が失われたのだ。
諸国の間で対応はさまざまだった。不平等を減らす政策を採った国もある。税制、社会保障、教育システム、さまざまな社会的保護、効果的な職業訓練による再分配である。文化的な規範、労働者の制度化された交渉力、労使間の信頼関係、個人や企業の富が政治に及ぼす影響、などが再分配政策と関係している。
そのような不平等への緩和策が弱い国、すなわち、英米では、所得や資産、機会における分裂が極度に厳しくなった。再分配政策や交渉力にかかわる制度がなく、人々の怒りが高まった。こうした包括的な成長を欠いた経済も、遅れて転換した。その転換点は政治的なものであり、しばしば劇的な変化を意味した。発展した民主主義の国を除けば、それはしばしば暴力や市民の抵抗につながる。民主主義の国では、Brexitやトランプのように、選挙や国民投票に示される。有権者が欠陥のあるシステムを拒否するのは健全な反応だ。
アメリカの新しい成長パターンは多くの特徴を示している。国際機関や国際協調より、2国間や保護主義。移民政策の転換。公共投資、財政刺激策への転換。規制、税制の変化。教育、職業訓練、医療保険など、供給側の政策重視。
FT January 26, 2017
Powerful forces will lead to a
strong dollar under Trump
Barry
Eichengreen
ドルに関しては、トランプ自身が最大の敵である。ドル高は輸出を難しくし、製造業の雇用を奪う。しかし、彼の政策がドル高を促しているのだ。
第1に、アメリカが財政的な拡大と金融引き締めを行う、という予想だ。減税し、インフラや軍備に投資をすれば、アメリカの財に対する需要が増える、完全雇用に近い状態でそうなれば、他の需要な外国の供給に向かう必要がある。それを促す市場メカニズムはドル高だ。
また、インフレ期待が高まれば、連銀の金利引き上げは早くなる。高金利は外国から資本を招き寄せ、ドル高がさらに進む。財政政策は経常収支の赤字を強め、金融政策は資本収支の資本流入を強める。この組み合わせは、レーガンとベイカーが学んだように、耐え難いドル高をもたらすだろう。
第2に、相手先による法人税を導入する。法人税は、財がどこで消費されたかによって賦課され、どこで生産されたかによるのではない。輸入財には課税されるが、輸出した企業は法人税を下げる。それは輸入財を高価にするから、国内で生産された財に多く支出するだろう。しかし、完全雇用に近い状態であるから、支出が再び海外に向かうような調整が働く。すなわち、一層のドル高だ。
第3に、メキシコや中国からの輸入材に高い関税率で邪魔をすることだ。国内の供給に支出を向けるが、同様に、ドル高をもたらす。インフレを抑えるためにも、ドル高だ。
トランプはどうするだろうか? 通貨価値を操作している国を処罰する。ドルに対して減価するような国は追加の関税を課して輸入を阻止する。しかし、それは一層のドル高になる。保護主義的なサイクルが無限に続く。
あるいは、トランプは財務省にドル売りを指示する。それはインフレを加速するだろう。アメリカ連銀は、中央銀行の独立性として、それを抑える権限を行使する。エコノミストたちが言う「不胎化介入」である。外国為替市場への介入と、金融政策の効果が打ち消し合って、為替レートには持続的な効果がない。トランプは連銀に憤慨するだろう。
ドル高に対する合理的な藩王とは、それをもたらしている政策をやめることだ。完全雇用状態では不要な減税を行わず、相手先による法人税減税もやめる。なにより破壊的な関税引き上げは放棄する。
● メイのBrexit
Project Syndicate JAN 26, 2017
Theresa May’s Triple Bet
DOMINIQUE
MOISI
メイ首相は、明確に離脱を目指す、と宣言した。首相官邸で働いた専門家は、投票では残留を支持していたが、これを歓迎した。現在のイギリスは、「手負いのライオン」である、と。
第1に、ヨーロッパの統合モデルは危機にあり、その修復はむつかしい。離脱はイギリス的なリアリズムである。イギリスとEUとの間には常に齟齬があった。イギリスにとって統合とは経済だけである。ユーロスターがロンドンと大陸の諸都市を結んでも、EU単一市場がイギリス人をヨーロッパ人にすることはなかった。
第2に、EUを離脱する方が、27か国で複雑なアレンジを模索するより単純だ。その目的は、イギリス保守党の統一を維持し、権力を保持し続けることである。
第3に、大英帝国は、脅威と感じる外的な圧力に対して寛大ではありえない。メイの演説はチャーチルを彷彿とさせる。イギリス国民は、ヨーロッパに代わる道がある、と確信した。
これは率直な意見であり、離脱とは帝国への懐古である。経済問題よりも主権が優先される。イギリスはもちろん民主主義国だが、プーチンがロシア国民に述べた言葉は、彼女の演説に似ていなくもない。「人はパンのみで生きるのではない。主権を回復し、国家の栄光を取り戻すことは、経済的なリスクに値する。」
第2次世界大戦後、チャーチルはヨーロッパ人に統合を勧めたが、もしイギリスが大西洋同盟とヨーロッパとの選択を問われたら、イギリスは常にアメリカを選ぶだろう、と答えた。当時は、アメリカが西側の同盟を指導し、中国は内戦状態であった。
もはやそうではない。中国はアメリカと対抗しつつあり、イギリスは孤立して、アメリカの保障は確かなものではない。イギリスが「栄光ある孤立」のカードを切るには都合の悪い情勢だ。メイは3つの賭けをした。UKについて、USについて、そして、世界情勢について。
ヨーロッパに代わって、諸国民の連携や国際機関が頼りになるし、トランプも最終的には合理的な政治指導者になる。グローバリゼーションは社会的な悪影響によって阻止される。
Brexitとトランプの後、地政学的な西側の維持にとって独仏の連携が重要になった。ドイツとフランスの選挙が、そのバランスを握る。
● 中国とグローバリゼーション
China Daily 2017-01-20
Make world great, with global
governance
By
Hans Boller-Wu
世界はかつてない不確実な状態にある。アメリカ政府は過去との分断を宣言したし、ヨーロッパは分裂状態が悪化し、戦略的な信頼を欠いている。
必要なことは、無政府的なグローバリゼーションをグローバルな新しい協力体制の下に置くことだ。古代中国の共存に関する思想は、世界の分断を克服する道を示している。それは、習近平主席の言う「人類の共有する未来のコミュニティ」である。
そのためには既存の国際協力機関を改革するべきだ。IMFがSDRに人民元を加えたのは、この方向に沿った改革だ。保護主義や孤立主義はそれを妨げる。一層の成長と繁栄をもたらす互恵的な自由貿易と投資のネットワークが確立されるべきだ。
国連はthe UN 2030 Agenda for Sustainable
Developmentでアジア太平洋における自由貿易を計画している。国民通貨に代えてグローバルな準備通貨を導入する改革案もある。元世界銀行のチーフ・エコノミストであるJustin Yifu Lin(a
professor at the National School of Development at Peking University)は、p-goldと呼ぶ世界準備通貨で、国民通貨による国際金融制度の問題を解決するよう求めている。
最も野心的な、期待できる計画は「一帯一路」である。21世紀のシルクロードは、2013年に習近平主席によって提唱され、人類史上かつてない包括的な努力である。戦後のヨーロッパ再建を進めたマーシャル・プランとの違いは、「一帯一路」が包括的で、すべての国に参加を呼び掛けていることだ。それは中央アジアやアフリカなど、遠隔の、無視された地域にも成長と繁栄をもたらす。
Project Syndicate JAN 23, 2017
China’s Debt-Trap Diplomacy
BRAHMA
CHELLANEY
中国の指導部が真に優れた視点を持つとしたら、それは地政学的な戦略を進めるうえで経済的手段を利用することだろう。1兆ドルの「一帯一路」計画は、戦略的に重要な位置にある発展途上諸国へのインフラ整備を支援し、しばしば巨額の融資を政府に与えるものだ。結果的に、こうした諸国は債務の罠に陥り、中国からの影響に脆弱になっていく。
融資がすべて悪いわけではない。しかし、中国が融資するプロジェクトは、もっぱら中国が自然資源を得るため、中国製品を輸出するために役立つ。また多くの建設事業では、中国が労働者を輸出することで、現地の雇用も生み出さない。
スリランカの国際空港Mattala Rajapaksa International
AirportやパキスタンのHambantota’s Magampura Mahinda Rajapaksa Portのように、すでに大幅な未利用率で赤字を出しているケースがある。ある意味では、こうしたプロジェクトの失敗は中国にとって都合がよいだろう。中国が南シナ海で領土要求をするとき、ASEANの統一を破壊できる。
FT January 25, 2017
Donald Trump and Xi Jinping’s battle
over globalisation
Martin
Wolf
世界経済フォーラムで、中国の習近平主席がグローバリゼーションを支持する講演を行い、ドナルド・トランプの大統領就任式では、アメリカ大統領としては予想外の貿易に関する警告を行った。その対照は驚愕すべきものだった。
習近平は、「経済的グローバリゼーションを世界の諸問題に関して責めるのは現実と矛盾している」と述べた。「グローバリゼーションはグローバルな成長を加速し、財と資本の移動、科学、技術、文明の進歩、人々の交流を容易にした。」 それは2000年にクリントン大統領が世界経済フォーラムで述べたこととそっくりだ。
他方、トランプ大統領はこの考えを拒否する。「われわれは国境によって、われわれの製品を作り、われわれの企業や職場を盗む、外国がもたらす被害を防がねばならない。」 さらに、「われわれは2つの単純なルールに従う。アメリカの製品を買え。アメリカの労働者を雇え。」
トランプ政権の通商担当者たちPeter Navarro and Wilbur Rossは、「いかなる条約も、アメリカ経済の成長率を高め、貿易赤字を減らし、製造業を強化する者でなければならない」という考えを「トランプ・ドクトリン」と呼んだ。しかし、世界最強の市場であり、世界準備通貨を発行する国の政策担当者たちが、これほど原始的な重商主義を採用するとは、全く考えられないことである。
トランプの側近たちが信じていることは、まったくの虚妄である。彼らは関税によって輸出が増えると考える。しかし、貿易収支(そして経常収支)を決めるのは所得(生産)と支出との差である。保護は、ある産業を犠牲にして他の産業を支援するだけだ。トランプの場合、経済的に死滅する産業を復活させるために保護を行う。確かに、保護がアメリカ経済の魅力を失わせるから外国投資家の投資意欲を損ない、対外赤字を減らすだろう。しかし、それは正気の戦略ではない。
もう1つの間違いは、2国間合意のメリットについてだ。2国間合意は世界市場を分裂させてしまう。2国間合意で競争条件が不安定化するなら、企業は長期的な取り組みが難しくなる。アメリカ大統領は、事実上、望むことを何でもする権限を持っている。しかし、過去の合意を作り変えるなら、アメリカは信頼されないし、その犠牲となる国は、特に中国は、それに報復する。推定では、中国とメキシコはアメリカの貿易の4分の1を占めている。完全な貿易戦争になれば、480万人の雇用に深刻な影響が及ぶ。
さらに、地政学的な意味も重大だ。メキシコを叩いて改革を進める政権を脅かし、中国との数儒年間続いた関係を悪化させる。TPPの破棄ではアジアの同盟諸国を失い、WTOルールを無視して世界経済の安定性を損なう。
「アメリカ・ファースト」の主張は、あたかも経済戦争の宣告である。しかし、そんな勝手なことは信じられないし、単なる「悪辣な国家」であるという自己認識である。覇権国が攻撃するシステムは、崩壊するか、新しい覇権国が現れる。習の中国は、まだアメリカに代わる役割を果たせない。トランプが支持しないシステムは崩壊に向かい、アメリカを含む、誰の利益にもならない。
● トランプ vs メディア
FT January 23, 2017
Truth, lies and the Trump
administration
Gideon
Rachman
ドナルド・トランプの就任式に関する群衆の規模に関して、ホワイトハウスのフェイクュースを報告しながら、BBCの記者は笑っていた。彼は泣くべきだった。われわれが目撃しているのは、アメリカ政府に対する信用が崩壊していく現場である。
このあからさまな嘘の演出は、アメリカ民主主義にとって悲劇である。それはまた世界、そしてアメリカの同盟諸国にとって、恐るべきことだ。「真っ赤な嘘」を常習的に利用するトランプ政権が世界の安全保障に対する非常に危険な意味を知るからだ。
「ホワイトハウスの報道官が、われわれにもはっきり嘘であることが分かるようなことを述べるなら、彼が北朝鮮、ロシア、イラン、ISとの戦争に関して言うことを信頼できるか?」 ITNのワシントン特派員は述べた。
アメリカが国際紛争に関わるとき、国連で同盟諸国の支持を求めるだろう。しかし、トランプ政権に対して、誰が支持を与えるだろうか?
真実を求める最大の闘いは、アメリカ国民が担う。報道機関は厳格で、勇敢でなければならないし、真実が重要である司法システムの独立性こそ、ホワイトハウスからの最大の試練を受ける。
NYT JAN. 23, 2017
Why BuzzFeed News Published the
Dossier
By
BEN SMITH
BuzzFeed
Newsが、ドナルド・トランプ大統領とロシアとの結びつきを推測した、35ページの検証されていない書類を公表してから、私はジャーナリストたちからの非難を受け、また読者たちから感謝もされた。
この文書は、諜報機関や政治家、報道機関の間に広く知られていた。それは権力の最高レベルで問題となったのだ。しかし、国民の多くはそれを知ることがなかった。
その中身を、オバマ大統領もトランプ氏も伝えられていた、とCNNが紹介し、トランプ氏の個人的、金融関係の情報を含む、と要約した。新しい政権は、CNNとBuzzFeed Newsを「フェイク・ニュース」と呼んだ。その言葉は、今や党派的な意味を持ち、彼らが嫌うニュースを報道することへの攻撃として使われている。
しかし、この文書は実在している。政府高官たち、議会関係者、諜報機関の間で読まれ、そのトップにも影響を与えたものだ。透明性に関する合理的な論争を、メディアの市民戦争のようにしてしまうのは間違いだ。
報道機関はこの現実を認めねばならない。われわれの視聴者は、複雑な、汚染された情報環境に住んでいる。われわれの役割は、彼らの航海を助けることだ。われわれの作業を示し、信頼を得ることが重要だ。なぜなら、ホワイトハウスの報道官が土曜日にやったように、かつて頼りになった政府の情報源が「オルタナティブ・ファクト」を撒き散らすのだから。
このカオスから逃げ出したいという本能がある。メディアの伝統により、誇張された、ときには虚偽のバランスを示し、神のように権威ある声を示すべきだ、と思うのかもしれない。そのような退却は危険である。正直であることの核心的な価値、視聴者への敬意に根差す新しいルールを発展させる必要がある。検証できない情報も、透明なやり方で視聴者に提供し、われわれがこれを信頼するか、信頼しない理由を示すべきだ。
この役割を否定することは、2017年のジャーナリズムを誤らせる。
● 世界秩序の転換
Project Syndicate JAN 24, 2017
World Order 2.0
RICHARD
N. HAASS
ヨーロッパで30年戦争が終わった1648年に、主権という概念で国際秩序が形成された。国境の内側で独立の存在が許され、自律性を持つことを認める秩序であり、国境が暴力的に侵されると、不安定性と紛争が生じた。
グローバル化した世界では、国境は常に浸食され、主権に依拠するシステム、すなわち世界秩序1.0では不十分になっている。旅行者、テロリスト、難民から、e-mail、病気、ドル、温室効果ガスまで、国境は失われている。システムとして機能するには、世界秩序2.0に更新する必要がある。
この新しい国際秩序は、国家の合意された基礎から始めて、規範と枠組みを拡大することになる。グローバル化した世界において、国家には主権だけでなく、守るべき義務がある。すなわち、テロを支援してはならない。大量破壊兵器を拡散してはならない。重要な技術や資源・素材へのアクセスを阻んではならない。
また、欠かせない要素として、気候変動に関する協力がある。すべての国が温暖化の破壊的な影響に直面する。2015年のパリ合意を推進しなければならない。サイバースペースの利用について、その悪用を抑える国際的枠組みが必要だ。こうした義務を無視する国は、制裁や報復に直面する。グローバルな医療・衛生問題にも協力するべきだ。
難民に関しては、第1に、その紛争地域を安定化することが重要だ。人道的な介入も求められる。政治に関する不一致や財政負担を考えれば、そのための協力には限界がある。しかし、難民を救済するために基金を増やし、人道的な扱いを求め、再定住地への移住を公平に分担する原則が支持されるだろう。
貿易で国家がなすべきこと、禁じられていることは、WTOが紛争処理メカニズムを提供する。しかし、政府補助金や通貨市場への介入に関しては合意が難しい。何が国家に求められる義務なのか、生来の協定と紛争処理メカニズムに向けた交渉が求められる。
その前進は、各国が自発的に従うことであり、上から強制するものではない。実際、主権国家が従う義務を定義することはむつかしく、それを強制することはできない。この問題は、アメリカにトランプ大統領が登場したことでさらに解決困難になっている。
しかし、世界秩序2.0は野心的ではあるが、リアリズムに従う変化である。単なる理想主義ではない。
Project Syndicate JAN 24, 2017
How America’s Asian Allies Can
Survive Trump
ANNE-MARIE
SLAUGHTER and MIRA RAPP-HOOPER
ドナルド・トランプ大統領がどのようにアジアの同盟諸国に対して安全保障を維持するつもりなのか、不安がある。1972年、ニクソンとキッシンジャーが中国との外交関係を回復して以来、アメリカが続けてきた外交姿勢を転換するつもりであることも不安を高めている。
2国間の同盟は大国による小国の支配を最大化する。他方、多国間制度はパワーと影響力をより均等に分配する。アメリカはアジアで、ハブ・アンド・ポークの中心となり、協力と資源の蓄積に成功してきた。トランプは多国間の合意を嫌う。
そうであれば、アジアの同盟諸国は自分たちの手で多国間の地域安全保障を整備することであろう。第1に、南シナ海の領土問題で中国が攻撃的な主張をする場合、これに協力して対抗することだ。すでに、日本、韓国、オーストラリアは2国間で東南アジア諸国への支援を行っている。
さらにアジアの安全保障においてネットワークを緊密化することは、トランプ政権が行動する際の透明性を求め、不安定化を抑える力を強める。北朝鮮や中国に対して、アメリカの姿勢がアジア諸国にとって非常に危険である場合、その方針を転換するように説得できるだろう。
「アジアにおける安全保障ネットワークの原則」というアイデアは、オバマ政権が推進したものだが、トランプ政権が継承するとは思えない。しかし、アメリカに頼らず、アジア諸国が実現するべきだ。
● ロシアとの関係修復
Project Syndicate JAN 24, 2017
Another Reset with Russia?
ROBERT
SKIDELSKY
西側の住民,そして私のようなロシア系の子孫も,プーチンのロシアを好ましいとは思えない.NGOsを弾圧し,人権を無視し,政治的な反対派を暗殺し,謀略にはめ,投獄した.
しかし,ロシアで反リベラルの,権威主義体制が成立したことは,西側の対応にも責任がある.西側,特にアメリカは,冷戦を終結させたソ連の解体を利用し,NATOを拡大した.それはロシア人に深い屈辱を与えた.ロシアのNATO加盟は拒否され,ウクライナをNATOに加盟させると告げたことも,ロシアに打撃となった.西側はルールに基づく世界を主張するが,NATO軍がブルガリアを空爆するとき,何も説明しなかった.
ウクライナの大統領が立場を変え,EUとの合意を結ぶと告げたことは,2014年の民主化運動が西側の陰謀であった,というモスクワの疑いを強めた.それにもかかわらず,ロシアのクリミア併合やウクライナ介入に対して,西側は一斉に反発した.
権力政治からみても,モスクワのウクライナ介入は失敗であった.それはウクライナを決定的に西側に追いやり,西側から一致した経済制裁を受けたからだ.しかし,西側はむしろ,ロシアの帝国かではなく,その弱さを恐れるべきだった.モスクワは資源に依存したまま,「石油の呪い」から抜け出せなかった.
その意味で,トランプがモスクワとの和解を唱えることは正しい選択だ.少なくとも3つの点で成功する条件はある.1.プーチン外交は機会主義的だが,同時に慎重だ.2.ロシアの唱える「多極化した世界」は,中国の台頭によって変化する国際関係に,一定の役割を果たす.3.プーチンの「リアリズム」は,シリアの化学兵器処理でも,アサドを支援した和平の実現でも,西側の「政治的解決」より優れている.
双方の価値観は対立し続けるとしても,外交関係を改善することは正しい.
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The Economist January 14th 2017
Lifelong learning
Trump and Mexico: Handling a bully
Proliferating parties: Splitters
Manufacturing: They don’t make ‘em like that any more
Lexington: How to use superpower
Political fragmentation: Going to bits
Advanced manufacturing: The new manufacturing footprint
Free exchanger: Get off of my cloud
(コメント) 製造業の変化について,興味深い考察が示されています.かつて製造業と言われた部門は,今ではさまざまな姿に分かれ,さまざまな姿で一部が外国に移転され,新しい職業が重要になっています.もし組み立てラインを製造業と思い,その復活を願うなら,全くナンセンスな主張になります.
政治も政党も分解し続け,権力者が世界をどのように扱うべきか,オバマからトランプへの交代が深刻な影響を及ぼします.
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IPEの想像力 1/30/2017
トランプ大統領の政治支配は,通貨危機のロジックを応用したものではないか,と思いました.私は,通貨危機を説明する3つの議論として,マクロ経済の不均衡,ポピュリズム型の国内政治,金融市場における資本の短期移動,を挙げます.
第1に,内外のマクロ経済的な不均衡が特別な制度や期待によって維持されているとき,何かのきっかけで,通貨危機が起きます.トランプ氏が大統領候補に残り,選挙に勝利した背景には,2008年の世界金融危機と,その際の大銀行に対する政治的救済がありました.
さらに,グローバリゼーションの下で,制度や産業構造の転換は容易に進まず,デフレを回避するために異常な金融緩和を続けて,結果的に資産保有者の所得をさらに増大させたのです.この不平等を,政治は許しませんでした.かつてモイゼス・ナイムが指摘した「権力の新しい調理法」が,こうした裕福な諸国にも広まったのです.
https://www1.doshisha.ac.jp/~yonozuka/Review2009/081009review.htm
トランプ氏は,経済法則も,金融政策も,外交の基本も,全く気にすることなく,恫喝し,過去の合意を破棄して,個々の取引に有利な条件を求めます.事実や真実にも関心はなく,虚言は好ましい結果を出すための現実的な手段にすぎません.
なぜ誰でもわかるような嘘をつくのか? なぜ世界政治にふさわしくない終末論やハンチントン風の「文明の衝突」を唱えるのか? 支持者の忠誠心を試している? 権力層内部の暗闘が続いている? むしろ,トランプ=バノンの狙いが,「新しい戦争状態」を導くことで彼らの権力を強化することにある,という疑念が生じます.もしそうであれば,アメリカがシリア内戦やアフリカの破たん国家のような状態になるシナリオが,「自己実現的」であることに戦慄を覚えます.
第2に,ポピュリズム型の指導者が,選挙制度や有権者を支配する政治文化によって,経済危機を権力獲得の機会にする場合も,次の通貨危機を準備します.なぜなら,債務危機と高インフレを抑えるための厳しいデフレ策,通貨価値の安定から,次の局面では,逃避していた資本が還流し,成長による財政の健全化が進み,積極的な財政刺激策で次の選挙に向かうからです.インフレが加速し,対外赤字や財政赤字が増大しても,債務を増発して過熱状態を政治的に維持します.
アメリカ政府が,グローバルな金融市場を利用する,最も深刻なポピュリズム型の通貨危機を準備しているのかもしれません.ブームと金融破たんの循環こそ,ラテンアメリカでポピュリストたちが好む「民主主義」の政治環境でした.
第3に,金融市場が豊富な短期資金の投資先を求めて,得体のしれない新技術や確認されてもいない資源,あるいは,新興諸国の経済ブームに向かうとき,何かのきっかけでバブルは破裂し,資本流出を生じます.今のトランプ・ブームがそうです.金融緩和は終わり,引き締めを急ぐべきか,政府の政策を見極めるべきか,連銀は迷っているはずです.
メキシコや中国と,そして,北朝鮮とも,トランプ政権は危険な言動を示し始めています.もしこうした異常さが,国際秩序を解体することで,最強国に最も有利な取引をもたらすという目的に合致しているのであれば,それにともなう多数の痛み,犠牲者,グローバルな危機は「アメリカ・ファースト」の予定された副産物です.
世界の多くの国で起きたように,トランプも暗殺や謀略を駆使して,チェック・アンド・バランスを解体し,国内権力基盤を強化します.
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