IPEの果樹園2017
今週のReview
1/23-28
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メイのハードBrexit宣言 ・・・イギリス労働党 ・・・オバマの時代 ・・・移民・難民と経済 ・・・トランプへの政権移行 ・・・ベーシック・インカム ・・・経済学の危機 ・・・北朝鮮とのエスカレーション ・・・パワー・シフトとダヴォス ・・・権力によるメディア攻撃 ・・・医療保険制度と市場 ・・・南シナ海 ・・・トランプ時代の経済 ・・・中国のグローバル戦略 ・・・トランプの大統領就任 ・・・最富裕層と35億人 ・・・トランプとグローバリゼーション ・・・トランプ外交の不安
[長いReview]
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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times,
The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate,
SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)
[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
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メイのハードBrexit宣言
SPIEGEL ONLINE 01/10/2017
Brexit Confusion
A Riddle Wrapped in a Mystery Inside
an Enigma
By
Christoph Scheuermann
FT January 12, 2017
Business should assume a hard Brexit
Martin
Wolf
FT January 16, 2017
The political gulf over Brexit is
growing at an alarming rate
Sebastian
Payne
昨年の保守党大会で,メイは語った.Brexitとは移民の管理である.ヨーロッパ司法裁判所はこれを認めない.それゆえ,イギリスは単一市場からも離脱する.
首相の支持率はこの半年間高かった.そこには,移民管理と単一市場の維持とを両立させる可能性についての幻想があったからだ.しかし,メイの進路はますます「ハードBrexit」に向かっている.EUは,イギリスの離脱が他の加盟国に影響することを恐れるからだ.
首相周辺には簡明な計算が働いている.もし中道右派が移民政策の改革に失敗し,移民が減らなければ,右派強硬派が勝利する.メイは内相として,長年,移民管理を願っていた.
問題は離脱のスピードである.保守党は強気だ.メイも,チャーチルのように語った.「イギリス国民は負けない.たとえどれほど傷ついても.われわれは経済モデルを改革し,競争力を高めて,復活するだろう.」 こうした発言は,ヨーロッパにとって,悪質な脅迫である.
FT January 16, 2017
Ireland: Brexit vote forces Dublin
to seek new EU friends
Vincent
Boland
The Guardian, Monday 16 January 2017
Theresa May’s Brexit focus should be
on the least harmful way of leaving
Peter
Mandelson
メイは残留派であった.だれも彼女をBrexitの国民投票結果に関して責めはしない.しかし,今,彼女がやろうとしていることについては責任がある.EU市場を失えば,われわれは貧しくなる.
メイは新しい貿易協定を結ぶと主張する.関税を撤廃し,相互の規制や基準を,サービス分野も含めて認め合う.投資保護協定も.しかし,すべては交渉にかかっている.
私はかつてそのような交渉に関わっていた.いわゆる自由貿易協定とは,自由ではないし,すべての貿易をカバーしないし,細部の合意は非常に困難だ.野心的な取り組みが,双方の重要産業を保護するために多年を要し,失望に終わる.
トランプ次期大統領は,イギリスとの自由貿易協定に好意的である,という.しかし,EUを離れて,アメリカが求める条件を拒む力はイギリスにない.英米間で異なる規制を撤廃する余地はあるが,それはイギリスがアメリカの規制に従うことであって,その逆はない.今,EUは許していないが,アメリカでは標準的な技術になっているホルモン投与された牛肉,その他の農産物も,イギリスに入ってくる.そして,アメリカの規制に従うほど,ヨーロッパ市場で不利になる.
イギリスに残された道は1つしかない.ノルウェーがEUを拒否したときのように,EEAに入ることだ.ヨーロッパの単一市場の中と同じ,関税の無い,規制に関する特権が残される.Brexit強硬派は,国民投票によって単一市場の離脱も決めた,と主張する.しかし,それは間違いだ.国民は,離脱派のキャンペーンで,EUを離脱しても単一市場の貿易上の有利さは失われない,という主張を信じたのだ.それは,EEAによってのみ達成できる.
ヨーロッパ司法裁判所の決定を受け入れる,という意味になるが,それはイギリスとEUとの労働力移動に関してだけである.この原則の適用や実施には各国の違いを許す余地がある.またEU自身が,この問題で改革を進める強い声に対応しつつある.
メイは,EUとのアレンジを改革することを交渉の目標にするべきだ.イギリス内の労働市場規制に関する改革と合わせて,ヨーロッパとの自由貿易と,労働力移動や雇用のルールに関するより大きな権限を求めるのだ.
ところが首相の解釈は違う。国民投票は、移民だけが問題であったし、移民を減らすためなら、貿易圏を失って貧しくなってもよい、というのだ。しかし、国民の半分近くは離脱に反対投票したことを忘れている。もしメイがイギリスの統一を願うなら、「この国はわずかの差で離脱を選んだが、議会はそれを達成するために、最も痛みの少ない方法を見出すべきだ」と主張するべきだろう。
ところが首相は、官僚たちからの助言を無視し、EUを税金や貿易戦争で脅迫し、離脱が招く結果に懸念を示す産業界の指導者たちを黙らせる。異なる意見を持つ者を異端とみなすのだ。
FT January 18, 2017
Theresa May’s bold vision of Britain
after Brexit
FT January 18, 2017
Theresa May’s speech means the
Brexit phony war may be ending
David
Allen Green
これは重要な演説だ。そして、ひどい演説だ。議会は最終案について投票できない。UKは単一市場から離脱する。
UKは独自に関税を定め、EUやその他の世界と貿易する。しかし、「私はヨーロッパと関税なしの貿易を求める。そして、できる限り摩擦のない貿易を求める。」
「関税同盟は、われわれが他の諸国と独自に包括的な通商協定を結ぶことを妨げている。しかし、私はEUとの関税同盟を求める。」
それはできるのか? すべてはEUとの交渉次第である。企業にとっては、関税同盟から出ること、そして関税がかかることは明確になった。しかし、関税の取り決めは確実ではない。
首相は、“Brexit means Brexit”.と言わなかった。もはや偽装された貿易戦争は終わったのだ。
The Guardian, Wednesday 18 January
2017
This is Brexit poker - and Theresa
May was right to up the stakes
Simon
Jenkins
これはポーカーだ。強気を示して、有利な妥協点を探す。ブラッセルでは、まだ、誰もUKが本気で離脱するとは信じていない。だからメイは、テーブルの上にリボルバーを置いて、ハードBrexitを示したのだ。
ポーカーでは、脅しもリアリズムだ。交渉によって、ハードからソフトに移る。すでに車輪は回転し始めている。
The Guardian, Wednesday 18 January
2017
PMQs shows it’s Jeremy Corbyn, not
Theresa May, who has no Brexit plan
Martin
Kettle
SPIEGEL ONLINE 01/18/2017
Theresa May's Brexit Plan
I Want, I Want, I Want
A
Commentary by Christoph Scheuermann
イギリス首相は現実を見ていない。演説で彼女は、Brexit後のイギリスについて、形容詞の山を築いた。すなわち, the United Kingdom will be "stronger, fairer, more united and
more outward-looking." It will be a "secure, prosperous,
tolerant" country, a "great, global trading nation" that is a
good friend and ally.
しかし、交渉がうまく行くとは思っていない。もしEUが懲罰的な条件を示すなら、その損害はすべての国に及ぶだろう、と。メイの演説は多くの要求のカタログと、それに加えて脅しの文句である。あまりにも多くのセンテンスが、 “I want” で始まる。
FT January 19, 2017
Theresa May converts Remainers into
reluctant Brexiters
Sebastian
Payne
Project Syndicate JAN 19, 2017
Brexit Into Trumpland
PHILIPPE
LEGRAIN
メイは、離脱派の要求を、イギリス全体の利益よりも優先する、ということを明らかにした。
EU加盟国が移民を規制することはできない。そのためEUを離脱する以上、単一市場からも離脱しかない。経済的には、二重に損する取引だ。関税のかからない自由な取引を失い、勤勉に働き、税金を支払う、EU市民を失う。イギリスの金融機関は、EU市場で自由に取引できる「パスポート」も失うだろう。
この点で、メイは不正直だ。あたかも新しい関税同盟を結ぶようなことを言う。
メイにはハードBrexitを実行する権限がない。国民投票はそれを与えていない。メイは交渉について議会の発言を認めない。しかし、それを最終的に拒むのは議会だ。
トランプのアメリカと取引できるとは思わない。中国やドイツと同じように、イギリスもアメリカに対して輸出超過である。トランプのそのような「不公正な」アメリカの赤字を消すつもりだ。
FT January 20, 2017
Is Theresa May’s Brexit Plan B an
elaborate bluff?
George
Parker, Jonathan Ford and Alex Barker
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トルコ
FT January 11, 2017
Turkey’s self-inflicted crisis of
confidence
FP JANUARY 11, 2017
Putin and Erdogan’s Marriage of
Convenience
BY
HENRI J. BARKEY
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イギリス労働党
NYT JAN. 11, 2017
Old Labour, New Labour, No Labour
By
MATTHEW J. GOODWIN
イギリス労働党は、1990年代に中道左派が指導権を握り、2010年までイギリス政治を支配した。しかし、116年の歴史を持つ、世界で最も古い社会民主主義の政党が、溶解しつつある。
クリスマス前の調査で、政党支持率は1918年以来の最低水準、24%に低下した。最近の議会補欠選挙では、わずか5%である。スコットランドでは、労働党の支持層を、左のスコティッシュ・ナショナリストと、右の保守党が奪い合っている。
労働党の党首となった左派の指導者コービンJeremy Corbynを非難する声がある。彼の支持者は、中産階級、大学卒業、イングランド南東部の党員を大量に入れて、党首選に勝利した。彼らは「ミドル・イングランド」の産業集中地帯における労働者支持層が失われても気にしない。
しかし、危機は個人の問題ではなく、社会民主主義の内部にある。すでに30年以上も前に、政治学者Adam Przeworskiは、増大する中産階級と、減少する労働者階級との間で、社会民主主義の深刻なジレンマを指摘していた。労働者に固執すれば選挙で敗北し、興隆する中産階級にアピールすれば労働者の支持を失う。多くの政党は後者を選択し、労働者の忠誠心は次第に失われた。
さらに、有権者たちは移民やエスニックの変化に強く刺激されている。アイデンティティや価値観の分断が強まる中で、政治に無関心であった白人層が、マーガレット・サッチャー以来、投票するようになった。Brexitでも、労働党議員の選挙区で70%の人々が離脱を支持した。
かつて労働党を支持した選挙区で、労働者たちが社会民主主義を支持しなくなったのは、ポピュリストに比べて、保護主義や社会的保守主義の姿勢が中途半端であるからだ。彼らは経済的な不利益、アイデンティティ、価値観、生活スタイルについての脅威を強く感じていた。左派の知的な権威が失われ、破たんしたことがわかる。
主要な政策論争で、保守党に代わる野党は存在しない。労働党ではなくなった。対応策はまだ見いだせない。デンマークでは、社会民主党が移民を制限したが、極右の増大は止まらない。フランスでは、社会党が原則に忠実であるが、大統領選挙で候補を立てられず、ナショナル・フロントの優勢を翻せないだろう。
FT January 13, 2017
Are you a Lonely Liberal? The gangs
of the new politics
Sebastian
Payne
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オバマの時代
The Guardian, Wednesday 11 January
2017
Europe loved Obama. Trump’s excesses
remind us precisely why
Anne
Perkins
NYT JAN. 11, 2017
Ode to Obama
Charles
M. Blow
トランプが来るからこそ、オバマが去ることを惜しむ。オバマは完ぺきではなかったが、誰でもそうである。あなたも、私も、他の大統領も。しかしオバマは良い人間で、良い大統領であった。
オバマはまれに見る雄弁家であった。われわれが大統領に望むものを、彼はホワイトハウスにもたらした。人種のような難しい問題も取り上げ、注意深く考察し、多くの国民が敬意を払われ、政治に自分たちの気持ちを代表されている、と感じた。
NYT JAN. 12, 2017
Obama Hoped to Transform the World.
It Transformed Him.
By
ADAM SHATZ
オバマは、大統領に就任したとき、アメリカ国内でも海外でも、人々の希望を高めた。彼は希望に豊かな精神を満たした。アメリカは他の国々と協力して、彼が言う「相互依存した」世界が直面する課題、すなわち、テロや貧困から、金融危機、地球温暖化まで、解決に向けて取り組むはずだった。
彼の演説は、国家の指導者というより、詩人のものであった。アメリカの衰退を痛感し、軍事力の制約について率直に語った。それはある意味で、ポスト冷戦の最初の大統領、ジョージ・W・ブッシュの無制限なパワーがオバマに与えた遺産であった。ブッシュが創り出した中東の新しい現実に、オバマは落ち込んだ。オバマが反対したイラク戦争、勝てる見込みのないアフガニスタン。しかし、ブッシュ以上に熱烈なテロリスト・ハンターとして、再選キャンペーンの目玉にしたのはビン・ラディン殺害であった。彼は世界を変えなかった。戦場となった世界の混沌が彼を変えたのだ。
8年前、オバマは理想の、多文化的な未来を告げる者だった。カイロ大学では、過去の過ちと歴史の新しいページを約束して、イスラム世界との和解を求めた。「真のパワーとは」、とオバマはインタビューで答えた。「暴力に訴えることなく望むものが手に入る、ということだ。」
オバマはイランとの核合意を支持し、気候変動に関する国際条約やキューバとの和解を促した。それらは数少ない成功であった。しかし歴史は、オバマが望む相互依存した世界のコスモポリタンな姿に向かうより、逆に、ますます部族主義の混沌に向かった。
その傾向はどこよりも中東に強く現れた。イラク侵攻前には、スンニ派とシーア派とが、権威主義的国家と地域のバランス・オブ・パワーに従い、共存していた。しかし、ブッシュがこのバランスを破壊した。イラクをサダム・フセインの支配から解放した後、宗派間の内戦状態に、イランとサウジアラビアとの闘いが加わった。
「アラブの春」はこのすさんだ傾向に希望をもたらした。オバマはその成功に賭けた。旧同盟国であるサウジアラビアやイスラエルよりも、エジプトやチュニジアの民主化運動を支持したのだ。それはアメリカのイメージを変え、イスラム世界の孤立を終わらせるチャンスに見えた。しかし、各地の革命の後に現れたのは、部族的な思考の独裁者、軍人たちであった。彼らは西側ではなく、湾岸諸国やイラン、トルコに支援を求めた。
オバマは中東の権力政治に適応するだけでなく、サウジアラビア、イスラエル、エジプトなど、諸国の人権問題にも沈黙するしかなかった。
オバマは2009年にトルコ議会で演説し、アメリカとイスラムコミュニティとの関係に言及し、イスラム世界が過激派との対抗だけで尽きるわけではない、と語った。しかし、その後の展開は、拷問や地上部隊に代わって、特殊部隊やドローン攻撃による、さらに抑制を失った、広大な地域に展開する戦争だった。オバマは、ハーヴァードで教えた多国間の法治主義など破棄したのだ。
それは容赦ないリアリズムだった。シリア内戦の非介入がそうだ。オバマはシリア内戦がイラクのような宗派争いだと考えた。彼の冷徹な結論は、イスラム国はアメリカにとっての脅威であり、軍事的に対抗するべきだが、アサド政権はそうではない、というものだ。アサド政権に対する軍事介入は、この政権の維持をコアの利害とみなすロシアとの衝突になる。
アメリカ軍をシリアに派遣しない、という目標は一貫していたが、アレッポの陥落には苦しんだ。アメリカにとって正しいことをする、という原則により、オバマはシリア政策を決定した。確かにアメリカ兵の命は救われた。しかし、非介入がもたらした真空を、プーチンやエルドアンのような独裁的権力者は喜んで埋めた。オバマがシリアに関して定義したアメリカの利益は狭く、相互依存したグローバル社会や、21世紀の道義的責務、という彼の言葉に反するものだった。
確かに、シリアをだれが支配するかはアメリカにとって重要ではなかったが、その黙示録的な分裂を許すことは別問題だ。オバマの慎重さがモスクワの好戦的な関与を強め、内戦は長引いた。危機が近隣諸国に拡大し、ヨーロッパへの難民と極右の政治集団にも影響を及ぼした。アメリカでは部族主義的な綱引きの末に、ドナルド・トランプが当選した。プーチン、エルドアン、イスラエルのネタニヤフを称賛し、モッブを好み、リベラルなエリートを軽蔑して陰謀論を振り回す男だ。
最高の善なる意図、最高の言葉を尽くしたが、オバマは新しい、危険な、怒りに満ちた世界を生み出すのを助けた。そして彼の開明的な世界市民主義は、ますます時代錯誤の夢になった。
NYT JAN. 12, 2017
A Darker Theme in Obama’s Farewell:
Automation Can Divide Us
Claire
Cain Miller
オバマの離別演説は暗いテーマを取り上げた。それは、技術変化の結果として仕事を失う人々を助ける闘い、である。
「次の経済崩壊は海外から来るのではない。」「それは、良好な、中産階級の職場を、時代から抹消する、絶え間ない自動化によってもたらされるだろう。」
ドナルド・トランプは貿易を責め、オフショア生産や移民を責める。しかし、それらが経済的なストレスを強めるとしても、それは真の犯人を取り逃がすことになる、とオバマは語る。トランプの名は出さずに。
Project Syndicate JAN 13, 2017
Looking Back on Barack
JEFFREY
FRANKEL
2009年1月20日に就任したオバマ大統領の8年間を評価するには、その最初の条件を知る必要がある。アメリカ経済は急激に悪化していた。金融市場はショック状態で、GDPが縮小し、雇用は毎月約80万人減少し、急落していた。間違った意図と間違ったやり方で、2つの戦争が続いていた。
オバマが直面した条件は、どの大統領よりも厳しかった。フランクリン・D・ルーズベルトは大恐慌に、エイブラハム・リンカーンは南北戦争に苦しんだ。しかし、しかし、オバマのように、経済危機と国家安全保障の危機という2つの危機に直面した大統領はいない。
オバマは財政刺激策を実施し、金融システムと自動車産業を救済した。連銀が攻撃的で革新的な金融緩和を行うことを補完し、それを強化した。共和党員はほぼ全員が刺激策に反対し、救済策を批判して、オバマは国有化するか、倒産させるか、選択すべきだと主張した。
政府が十分な財源を得られず、刺激策は弱められた。2008年の最終四半期には国内生産が年率で8.2%も減少したが、その後、刺激策が実施されて、生産と雇用の減少は急速に減速した。景気の底は2009年の6月だった。
雇用の増大は持続し、オバマが政権にある間、記録的水準にまで達した。1500万人もの雇用が増え、第2期で失業率は半減し、5%以下になった。賃金は上昇し、最底辺の所得集団でも、利益を得た。回復が遅く、長い時間を要したのは確かだが、それは共和党員たちが反対したからだ。彼らは共和党の大統領が誕生するまで、財政刺激策を拒み続けた。
金融規制や国民医療保険制度は、オバマの主要な成果である。どちらの改革も、多くの人が思う以上に、優れた成果であった。金融危機の発生は抑えられ、2000万人以上のアメリカ人が医療保険を得た。
トランプはこうした成果を否定し、TPPも、イランとの核合意も破棄する、と約束した。しかし、それに代わる提案はどこにもなく、名前だけ変えて、小さな変更することになるのだろう。
大統領の成果をアメリカ国民は最終的に認める。しかし、残念なことだが、長い時間がかかる。
NYT JAN. 14, 2017
Eight Was Enough
Peter
Wehner
NYT JAN. 14, 2017
How Black America Saw Obama
Michael
Eric Dyson
NYT JAN. 14, 2017
Eric Cantor: What the Obama
Presidency Looked
By
ERIC CANTOR
FT January 16, 2017
Barack Obama’s legacy is one of
integrity in word and deed
Jacob
Weisberg
The Guardian, Monday 16 January 2017
How Barack Obama paved the way for
Donald Trump
Gary
Younge
トランプが登場したのは、オバマが期待を裏切ったからだ。金融危機に対して、オバマは銀行の資産を守り、人々の住宅が差し押さえられるのを読めなかった。ガイトナー財務長官は、オバマを支持して大統領に希望を託した人々の住宅ではなく、銀行家や金融関係者たちの高所得とボーナスを守った。
Bloomberg JAN 17, 2017
Five Economic Lessons From Obama's
Presidency
Mohamed
A. El-Erian
オバマの成果は素晴らしいが、より包括的な成長、企業家精神の促進、賃金上昇、金融の安定化、国際政策協調の点で、もっと成果を上げることができたと思う。
そのためには、政府が5つの教訓を学ぶべきだった。すなわち、アメリカ経済は景気循環だけではなく、構造転換に苦しんだ。そのため、中期の見通しが必要だった。ところが、持続不可能な金融緩和策に過度に頼り続けた。効果的なグローバル政策協調に失敗した。旧来の闘いではなく、もっとグローバルな現実を変えるべきだった。
FP JANUARY 18, 2017
Barack Obama Was a Foreign-Policy
Failure
BY
STEPHEN M. WALT
オバマ政権は内外の政策に関して成果を上げた。オバマの送別演説が示した威厳、ユーモア、優雅さ、知性、寛容さ、アメリカ的価値と伝統の尊重は、まったく異なるトランプの就任演説と対比することで明らかだ。
しかし、オバマの時代は悲劇的側面をも同時に示した。アメリカが世界で果たす役割を変更するチャンスはあったし、オバマ自身がそれを何度も望んでいたようであるだけに、そうできなかったのは悲劇であった。特に、2008-2009年は、アメリカがその破たんしたリベラル・ヘゲモニー戦略を破棄する理想的な瞬間であった。しかし、外交における失敗は続き、ドナルド・トランプがホワイトハウスに入るのを助ける結果になった。
第1に、オバマはアフガニスタンでの戦争を続けるよう説得された。それは的外れの「増派」であり、失敗に終わった。アフガニスタンにアメリカの利害はほとんどなく、勝つ見込みのない戦争であった。増派には目的がなく、戦場への関与を長引かせ、他の重要政策から関心を奪った。
オバマはまた、ブッシュ政権からの「テロとの戦い」を引き継ぎ、世界中でドローンや特殊部隊を使った。効果がなく、違法でもある拷問は禁じたが、諜報機関を罰することはなく、彼らの専横は放置されたままであった。他方で、そうしたやり方に警鐘を発した者には訴追による脅迫を強めた。
第2に、オバマは「アラブの春」を読み間違え、対応に失敗した。オバマと彼のチームは、これを、草の根のリベラル民主主義を求める、広範な運動であると考え、即座に歓迎した。他方で、暴力的な過激派が破たん国家の真空状態を利用して拡大する危険を過小評価し、シリアやエジプトで権威主義的体制が生き残る力も十分に理解できなかった。こうした無理解により、リビアで破滅的な軍事介入を行い、イエメンでは外交が機能せず、シリアで時期尚早の「アサドは辞任せよ」という要求になった。私はオバマがシリアに深入りしなかったことを支持するが、その混乱した対処を決して成功とみなすことはできない。
第3に、イスラエルとパレスチナ和平に関して、オバマとケリー国務長官は、親イスラエルの助言者に頼り、2国家案を公式に支持し続けた。しかし、それは彼らが、イスラエルのネタニヤフ首相や他の関係者たちを正しく理解できなかったことを意味する。ネタニヤフは、アメリカからの安全保障や経済支援を確保するだけで、約束を守る気などなかった。オバマがこの寄生的な属国の放縦さに対する強い姿勢を示さないなら、中東和平は前進せず、時間とエネルギーの浪費でしかなかった。
第4に、ロシア外交もお粗末であった。初期にロシアと和解を求めたことは正しかったが、東欧やロシアにおける民主化支援をプーチンがどう見ているかは重視しなかった。ウクライナ危機に先立つ数か月も眠ったような対応に終始し、プーチンのクリミア併合を許した。大国が周辺における事態に神経を尖らせるのは当然であり、ロシアの反撃はある程度予想されたことだった。プーチンはウクライナやグルジアがNATOに加盟するのを許す気はなく、阻止する力もあった。そして、実行したのだ。
第5に、アメリカがアジアに重心を移す「リバランス」は正しかった。しかし、明確な優先順位を示さず、その急速な地位の低下がリバランスを困難にした。アジアにおける国際関係をマネージするのは非常に複雑で、挑戦的な、時間のかかる過程であり、アメリカが戦略的にそれほど重要でない地域で起きる事件に絶え間なく振り回されるなら、アジアの同盟諸国をマネージし、中国に対抗することは不可能だろう。中国の始めるAIIBに参加せず、同盟国にも圧力を加えたのは失敗だった。それに反して、イスラエルやイギリスでさえAIIBに参加した。
アメリカが世界のすべての地域で安全保障と秩序を維持する時代は終わった。アメリカの指導者は、どの地域が最も重要であり、他の地域はその地域の諸国に委ねることを明確に示すべきだ。オバマはその選択をしなかった。
オバマ外交が失敗した理由は、第1に、既存の安全保障専門家たちが引き継ぐリベラル・ヘゲモニー論、アメリカは世界にとって「不可欠の大国だ」、という主張に取り込まれたことだ。ルールに依拠した世界、自由市場、民主主義、人権のための十字軍を掲げてしまった。戦略的な優先順位を持たないまま、限られた資源で、ますます多くの目標を支持した。
第2に、オバマは反対者が彼と同じような説得できる、理性、冷静さ、無私の人間ではない、ということを軽視した。オバマが政治に対する姿勢は、異なる意見であっても人々が集まり、議論して、情報を共有し、徐々に相互の理解を深めることで、双方の満足する、公共の利益を実現できる、というものだ。司法雑誌を編集し、コミュニティー・オーガナイザーになるとき、その考え方で成功できた。しかし、現在のような深く分断された政治環境で、大統領を務めるにはふさわしくない。
ネタニヤフ、プーチン、議会の共和党指導者たちやティーパーティーを、オバマは理解できなかった。オバマは知的で、規律正しい、雄弁、正直な、愛国的、世界で称賛される大統領であった。もし彼が、もっと平静な時代に、もっと指導理念に従う野党と対決したなら、もっと大きな成果を残せたかもしれない。
外交政策は、オバマが最も成果を残せない分野となった。
The Guardian, Thursday 19 January
2017
The Guardian view on Obama’s legacy:
yes he did make a difference
Editorial
NYT JAN. 19, 2017
John Kerry: What We Got Right
By
JOHN KERRY
FP JANUARY 19, 2017
Obama’s Good Intentions in the
Middle East Meant Nothing
BY
SHADI HAMID
FP JANUARY 19, 2017
Ash Carter Won’t Leave Asia Quietly
BY
RICHARD MCGREGOR
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移民・難民と経済
VOX 12 January 2017
Immigration and economic prosperity
Florence
Jaumotte, Ksenia Koloskova, Sweta C. Saxena
Project Syndicate JAN 16, 2017
Lessons from Germany for Integrating
Refugees
NORBERT
WINKELJOHANN
近年、国際移民は大幅に増大している。2000年から2015年にかけて、41%増大し、2億4400万人に達した。人道的な破滅を避け、社会的な統合を図るために、諸国が準備しなければならない。ドイツは2015年に110万人の移民・難民を受け入れたが、その圧力を吸収することに成功した。移民の過程に関わるすべての国が、必要な物を提供し、統合化を支援することで、移民は労働市場に参加し、受入国の経済にとっても有益な貢献を行える。
NYT JAN. 18, 2017
Speaking Truth to Trump on
Immigration
Nicholas
Kristof
SPIEGEL ONLINE 01/19/2017
Domestic Refugees in Ukraine
Waiting Out the War
By Yuliana Romanyshyn and Anastasia Vlasova
(Fotos)
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トランプへの政権移行
The Guardian, Thursday 12 January
2017
Trump revealed his presidential
dream to me in 1988. Now the nightmare begins
Polly
Toynbee
貧しい者には何を求めるのか? もっと欲することだ。十分に望めば、それは手に入る。もし得られないとしたら、欲が足りないと知れ。これこそがトランプ主義である。
1988年にインタビューして私は記事を書いた。「トランプがホワイトハウスに入ることがあるだろうか? もちろん、ありえない。アメリカ政治を知っている者ならだれでもそう答える。しかし、トランプは、しばしば、なしえないことをなした。ホワイトハウスが老いた映画スターを入れたのだから、カジノ経営者を入れるかもしれない。」
ひどい冗談であったが、本当に起きた。
Project Syndicate JAN 12, 2017
Trump’s Crazed Transition
ELIZABETH
DREW
FP JANUARY 12, 2017
We Are on the Verge of Darkness
BY
KENNETH ROTH
ポピュリストが世界的規模で勢力を拡大していることは、人権に対する脅威である。人権とは、政府から人々を守るためにある。しかし、ポピュリストたちは「人民の声」を自認する。彼らは権利を、多数者の意思を実現することへの障害とみなす。自分たちの意思を実現する政府にとって人権など不要である、という危険な、間違った信念を広めている。
急速な技術進歩に取り残されたと感じる人々、グローバル経済における不平等の拡大、テロの恐怖、エスニック、信仰、人種において多様化する社会、政府やエリートは単収の関心を無視している、という感覚が広まっている。
彼らは、難民、移民コミュニティ、マイノリティをスケープゴートにする。真実はどこでも犠牲になる。ネイティビズム(自国民優先)、ゼノフォービア(排外主義)、レイシズム(人種差別)、イスラモフォービア(イスラム教徒攻撃)、女性差別、が増大する。非寛容の声が高まるなら、世界は暗黒の時代に向かうだろう。
われわれの名において他者の権利を破壊するデマゴーグたちを過小評価してはならない。明日は我々の権利を犠牲にして、彼らの真の最優先課題である、権力の掌握に向かうだろう。
タガの外れた多数派独裁だ。政府の権力を抑制するチェック・アンド・バランスを攻撃する。トルコ、エジプト、中国の権力者を見ればよい。
オバマ、メルケル、トルドー、少数の例外を除いて、ほとんどの政治指導者たちはポピュリストに沈黙してきた。ポピュリズムを敗退させる究極の責任は大衆にある。真実に依拠し、権利を尊重した民主主義、公的な政治を取り戻すよう、私たちは要求しなければならない。
SPIEGEL ONLINE 01/18/2017
Mr. Me
No One Loves the 45th President Like
Donald Trump
By
Markus Feldenkirchen, Thomas Hüetlin, Nils Minkmar and Gordon Repinski
FP JANUARY 18, 2017
We Are the Last Defense Against
Trump
BY
DARON ACEMOGLU
Bloomberg JAN 18, 2017
The Empty Trump Administration
Jonathan
Bernstein
FT January 19, 2017
The world awaits America’s new
social contract
Anne-Marie
Slaughter
アメリカ経済が復活した瞬間に、トランプ大統領が就任した。しかし、アメリカ社会の分断化は深刻である。同様に深刻な危機に直面したフランクリン・D・ルーズベルト大統領は、1932年、独立宣言を「偉大な社会契約」とみなして国民に姿勢を示した。変化する示談の要請に合わせて、国民の権利は書き直されるべきだ、ということである。
同様に、共和党の下院議長であるポール・ライアンもアメリカ国家の在り方について姿勢を示している。ルーズベルトとライアンとの違いは示唆的だ。ルーズベルトは、アレキサンダー・ハミルトンの国家像を継承していた。ライアンの描く「よりシンプルで、スモールで、スマートな」政府とは大きく異なる。ライアンは「社会的給付」を、怠惰な、甘やかされた市民を作る、と反対する。他方、トランプがホワイトハウスに入れたバノン主席戦略家は、戦略的保護主義やインフラ投資を支持する。
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ベーシック・インカム
The Guardian, Thursday 12 January
2017
Universal basic income is becoming
an urgent necessity
Guy
Standing
20世紀の所得分配システムは、回復できないほどに破壊されてしまった。グローバリゼーション、技術変化、フレキシブルな労働市場が、実質賃金を上げないまま、ますます多くの所得を不労所得層に与えている。すなわち、金融的、物理的、知的財産の所有者たちである。プレカリアート(非正規労働者)の所得は減少し、さらに変動しやすくなっている。慢性的な不確実さは、最低賃金の引き上げ、減税、資産チェック、職場環境改善によっても解決できない。要するに、ベーシック・インカムは政治的に避けられない要求なのだ。
世界中で関心が高まり、さまざまな実験的プランが実行され始めた。それは完全なベーシック・インカムではないが、いくつかの利点が示されている。1.医療や学校に関する福祉の改善。2.社会の公平さの改善。3.経済的なプラス効果がある。生産性や成長を高め、不平等を減らす。自営業の労働者が増える。
FT January 13, 2017
To build a shared society, focus on
technical skills education
Miranda
Green
The Guardian, Sunday 15 January 2017
A pay cap is not only unworkable, it
also detracts from the goal of a fairer society
Will
Hutton
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経済学の危機
FT January 12, 2017
Andy Haldane is wrong: there is no
crisis in economics
David
Miles
Project Syndicate JAN 13, 2017
Economic Crises and the Crisis of
Economics
PAOLA
SUBACCHI
経済学の危機とは何か? 経済学は2008年の金融危機を予測できず、さらに悪いことに、その条件をもたらした政策や思想を助長した。経済学はBrexitの経済的破局を警告し、その予測が間違っていたことで信用が失墜した。
経済学は物理学ではなく、社会科学の一部であるから、過去のパターンを将来に当てはめることには限界がある。エコノミストはもっと多くのことなり知識を必要とし、異なる意見を持つ人々の声を聴かねばならない。
Project Syndicate JAN 19, 2017
From Economic Analysis to Inclusive
Growth
KEMAL DERVIŞ and KARIM FODA
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国連と平和
SPIEGEL ONLINE 01/12/2017
War and Peace
Disunity and Impotence at the United
Nations
By
SPIEGEL Staff
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北朝鮮とのエスカレーション
NYT JAN. 12, 2017
The U.S. Must Talk to North Korea
By
SIEGFRIED S. HECKER
核の時計は進み続けている。6週間か7週間ごとに、北朝鮮は新しい核兵器を1つ生産している。この危険な状態を回避するには、
トランプ大統領が北朝鮮に特使を派遣するべきだ。それは北朝鮮指導部に関する情報を増やし、正しい戦略を立てることにつながる。
FP JANUARY 19, 2017
Donald Trump Is Already Tweeting Us
Into War with North Korea
BY
JEFFREY LEWIS
Bloomberg JAN 19, 2017
In Nuclear Poker, Don't Bet on Trump
James
McManus
トランプは核戦争のポーカーに勝てない。
(後半へ続く)