IPEの果樹園2017

今週のReview

1/16-21

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ドイツの報道とポピュリズム ・・・情報革命のマイナス面 ・・・ポピュリストを理解する ・・・アメリカの地理と外交 ・・・トランプの偽政策 ・・・プーチンの外国政治介入 ・・・日本のTPP推進 ・・・トランプ外交の危うさ ・・・キンドルバーガーの罠

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


   ドイツの報道とポピュリズム

FP JANUARY 4, 2017

Blitzkrieg: Breitbart Invades Germany!

BY SUMI SOMASKANDA

10月、19歳のドイツ人大学生が、南部の都市フライブルグで強姦され、殺された。彼女の死体は近くの川に捨てられていた。ひと月足らず後に、警察は17歳のアフガニスタン難民を逮捕した。彼は有罪判決を受けた犯罪者であるとわかった。2013年、ギリシャで殺人未遂の罪で10年の刑を受け、わずか2年で釈放されていた。その後、ドイツに難民を装って入っていた。」

これは重大な犯罪のニュースか? それは誰に尋ねるかによるだろう。ドイツの夜の主要ニュースはどれも取り上げなかった。全国ニュースでは地方の殺人を取り上げない、とTagesschauの編集者はいう。全国紙のDie Zeitも、誰が犯人かはっきりするまで取り上げなかった。

しかし、この対応は怒りを含んだ関心を呼んだ。指導的な政治家も、そのような姿勢が極右の影響を広めることに利用される、と批判した。ドイツの既存メディアは、これまでも移民危機に関する報道の取り上げ方を批判されてきた。ドイツのメディアに中東の報道を提供し、政治雑誌Internationale Politikの編集責任者でもあるSylke Tempelは言う。「人々は、われわれが何か隠しているのではないか、と考えることをジャーナリストたちは知っている。」 「これにどう対処すればよいのか? 非常に難しい問題だ。」

アメリカの右翼メディアBreitbartがドイツとフランスへの進出を計画している、と公表した。ドイツのメディアやメルケル政権が、彼らの進出に良い条件である、と判断したようだ。反イスラムのPEGIDAがメンバーを増やしたし、右翼のポピュリスト政党AfDも支持を拡大し、地方選挙で当選者を出している。Breitbartのドイツ進出計画をAfDは歓迎した。

ドイツのニュース・メディアは、多様な意見、バランス、中立的な報道に関して、戦後体制に深く根差している。報道の仕方には戦後の政治主流派を前提し、強いナショナリズムを避け、穏便な合意形成を重視している。ドイツには、プライヴァシーを保護し、ヘイト・スピーチを禁止する法律がある。報道内容をチェックする多くの監視機関がある。

しかし、AfDは、ドイツ人がこうしたメディアの在り方に不満を高めている、と考えるのだ。


   情報革命のマイナス面

Project Syndicate JAN 6, 2017

Free Speech and Fake News

PETER SINGER

アメリカ大統領選挙のおよそ1週間前に、ある人物がTwitterに、ヒラリー・クリントンはペドフィリア(小児性愛)の仲間の中心人物だ、と書き込んだ。その噂はソーシャル・メディアで広がり、右派のトーク・ショーでホスト役のAlex Jonesが、繰り返し、クリントンは児童虐待をしたとか、彼女の選挙運動責任者であったJohn Podestaが悪魔の儀式に参加していたとか、話した。YouTubeの投稿ビデオで、Jonesは「ヒラリー・クリントンが殺害し、切り刻んで、レイプした、すべての子供たち」に言及した。そのビデオは選挙の4日前に投稿され、40万回以上も視聴された。

Podestaは、しばしば、ワシントンDCComet Ping Pongというピザ・レストランからメールを出した。クリントンのメール疑惑からの連想で、ペドフィリアの集まりについて、ピザ・レストランが疑われ、ハッシュタグ#pizzagateが使用された。この疑惑は、ある種のメッセージを自動的に広めるプログラムを使用し、あたかも多くの人がこの問題を真剣に懸念しているような印象を与えた。

選挙後になっても、NYTやワシントン・ポストがこれを否定しても、噂は広がっている。ピザ・レストランComet Ping Pongは嫌がらせや脅迫を受け続けた。マネージャーは警察に訴えたが、こうした噂も憲法によって守られている言論の自由だ、と言われた。

フェイク・ニュース、すなわち、「能動的に間違った情報を広めること」が、まじめなニュース・サイトのまとめた情報として流され、民主的制度の脅威になっている。イスラエルの国防大臣がパキスタンを核攻撃すると脅した、というフェイク・レポートもあった。

「沈黙を強いるのではなく、一層の言論をもとめる」ことが虚偽をあばく、という理由は、特に選挙において、ナイーブに思える。言論の自由を守る憲法の解釈を変える必要があるかもしれない。Jonesがクリントンについて言ったことは、もちろん、名誉棄損である。しかし、裁判には時間と金がかかる。通常、何年も。民事訴訟で名誉棄損を訴えるのは、事実上、一部の資産家に限られる。刑事名誉棄損に関する従来の慎重な適用は適当でなくなった。

インターネット時代の刑事名誉棄損に関して、考え方が変わるだろう。

NYT JAN. 7, 2017

How to Destroy the Business Model of Breitbart and Fake News

By PAGAN KENNEDY

11月後半のある日、地球・環境科学の教授Nathan PhillipsBreitbart Newsを観た。彼はそのサイトについて、「計画出産は女性の魅力を失わせ、狂わせる」といった、憎しみに満ちた見出しがある、と聞いたからだ。こうしたサイトに広告を載せて資金を与える会社があるのだろうか、と驚いた。しかし、大学が広告を出していることに衝撃を受けた。その大学の中に、彼自身が学位を得たDuke University’s Nicholas School of the Environmentもあった。

環境科学を教える大学が、気候変動を否定するサイトで広告したいだろうか? Phillipsは、大学の事務室がどのようなサイトに彼らの広告が出ているかをしらないので、その「性差別的、人種差別的な」サイトにDuke大学が協力している、とTweetした。環境学科との混乱したやり取りの末に、その広告はBreitbart Newsから消された。

新しい消費者運動の動きが広がっている。それはオンライン広告のルールを書き換えるものだ。この1か月半で、何千もの活動家が「ヘイト・ニュース」の会社を始めた。虚偽、白人至上主義、イスラム教徒や、ゲイ、女性、アフリカ系アメリカ人、などへの攻撃を促す内容、こうした有毒な混合物だ。11月半ば、Twitterのグループ、Sleeping Giantsが新しい運動のハブになった。Breitbartに広告を出している企業や団体に、その取り下げを求めている。また、シリコンバレーのハイテク企業や多様性を支持する億万長者たちが、Breitbartなどのサイトを支援している。彼らにも連絡を取って、広告を取り下げるように求めた。

広告はしばしば自動的に掲載されている。それでも企業は、ネオナチやハッカーの利益になるような行為をやめるべきだ。ハードコアのポルノビデオと朝食の広告を並べたいのか? 小さなコストで大きな聴衆を得られる、というのが広告の原則だが、彼らはそれを訂正するべきだ。オンライン広告の世界にも透明性が求められる。フェイク・ニュースやヘイト・スピーチの「企業家たち」は政治の在り方を変えてしまう。

新しい現実とは、こうした抗議活動がホワイトハウスの主要人物を憤慨させ、攻撃されることだ。トランプ次期大統領は、すでに、Breitbartの元編集者を上級顧問としてホワイトハウスに雇っている。トランプが企業に与えるダメージは、Lockheed MartinへのTwitterによる攻撃で、その株価が急落したことに示されている。

Project Syndicate JAN 12, 2017

The Emergence of a Post-Fact World

Francis Fukuyama

1990年代、インターネットとWWWが登場した。2000sの初め、ソーシャル・メディアが発達した。情報は解放され、カラー革命が世界各地で起きた。情報を抑圧することは不可能になった。

その積極的な側面とともに、暗黒面も現れた。旧体制の権力者は、インターネットを管理し、多数の検閲者を配置し、ハッカー軍団を形成した。自動配信プログラムによってソーシャル・メディアには誤情報があふれた。2016年、それらは目に見える形で、内外の政治を変えた。

主要な情報操作を行ったのはロシアだった。アメリカの選挙は嘘で充満し、ドナルド・トランプはかつてないほど偽情報や情報操作を多用した。オバマ大統領の出生を疑う“birtherism”を蔓延させた。

大統領選挙では、トランプは事実と異なることを主張し続けた。間違いであることが明白であっても彼は主張し、さらに悪いことに、共和党支持者たちは彼の嘘を罰しなかった。

正しい情報を示して対抗することは、残念ながら、偽情報をまき散らす人物や自動配信プログラムが支配するソーシャル・メディアにおいては無効である。良い情報が悪い情報を駆逐するとは言えない。

トランプの世界では、すべてが政治的なものだ。正しい情報を提供する公平な機関は存在しない。トランプは選挙期間中に、連銀議長を非難し、FBIの判断を拒み、腐敗していると攻撃した。諜報機関の、ロシアによるハッキングを示す調査結果も認めなかった。

こうした状態を続ければ、民主主義の諸機関が機能しなくなるだろう。実際、選挙資金の制限は無視され、議会は機能しなくなっていた。アメリカの選挙は、操作されている、政治的な偏りを組み込んでいる、あからさまな買収である、と攻撃されるようになった。すべての機関が信頼を失えば、全般的な信頼の死に至る。党派的な政治抗争が生活のすべてを蹂躙するだろう。


   ポピュリストを理解する

Project Syndicate JAN 12, 2017

Trump Before Trump

BARRY EICHENGREEN

ドナルド・トランプを理解するには、イギリスのイノック・パウエルEnoch Powellと比較することが最も参考になるだろう。パウエルは、1960年代後半から1970年代初めにかけて、熱烈なネイティビズム演説を行ったイギリスの政治家である。

トランプとパウエルとでは、異なった出身や経歴が見られる。しかし、1968年の悪名高い「血の河」“Rivers of Blood”演説によって、パウエルは雄弁家としての才能を駆使し、主流派の政治とは決別した。そして移民や、1968年の人種関係法を非難した。トランプの標的であるメキシコ系移民に当たるのは、パウエルにとってのインド系、パキスタン系移民であった。

しかし、トランプと異なり、パウエルの権力獲得は失敗に終わった。

1に、パウエルの世論に訴える力は制限されていた。演説や少数のタブロイド紙に頼る活動は、主流のメディアから無視された。テレビ・ラジオ放送は圧倒的にBBCが支配しており、Twitterも、Fox News or Breitbartもなかった。

2に、パオエルはイギリスの議会制度を尊重した。彼自身がその中で育てられた。

3に、当時のイギリス有権者が政治に抱く不満は、今のアメリカよりも限定的であった。

最後に、イギリスの政治システムが、パウエルのような一匹狼の活動を制限した。アメリカの大統領制は、それを効果的に抑制できなかった。


   アメリカの地理と外交

NYT JAN. 6, 2017

Why Trump Can’t Disengage America From the World

By ROBERT D. KAPLAN

ドナルド・トランプは世界からアメリカを切り離すと脅している。そのような立場はアメリカの歴史を大きく逸脱するものではないか? 我々が論争で忘れている重要な要素がある。それは、アメリカ自身の地理である。

アメリカの物理的な位置とトポグラフィーは、われわれの外交政策の精神を提供する。だれでも知っているように、アメリカは北米大陸の温帯にある。かつてイギリスの地理学者Halford J. Mackinderは北米を、アフロ・ユーラシアの「世界島」から離れた、最も重要な「衛星」と呼んだ。アメリカは単に、物理的に旧世界の脅威や複雑さから切り離されていただけではない。アメリカは、世界の他の地域のすべてを合わせたよりも多くの、航行可能な河川流域を支配していた。この河川流域は、人口が非常に分散しており、大平原やロッキー山脈のように痩せた土壌であった。河川システムはアメリカの肥沃な土地にも広がっていたから、それらを豊富な鉱物資源がある中西部と結び付け、19世紀における人口の中枢間で財の移動を可能にした。この河川システムはミシシッピー河に流れ込み、メキシコ湾とカリブ海域に至った。こうして農場と、人口稠密地帯の都市とを結びつけ、グローバルなコミュニケーションの海路にもつながった。

アメリカは旧世界から一度も切り離されたことはなかった。「アメリカにとっての地中海」であるカリブ海を支配したことで、アメリカは西半球を支配する。それはモンロー宣言からパナマ運河建設によって完成した。西半球を支配することで、アメリカは他の半球における勢力均衡を決定する地位を得たのだ。アメリカはいかなる国も、あるいは、諸国家の同盟も、旧政界を支配することは許さない、というのが2度の世界大戦と冷戦の意味であった。


   トランプの偽政策

NYT JAN. 6, 2017

The Age of Fake Policy

Paul Krugman

木曜日、大まかな推定で、75000人のアメリカ人がレイオフもしくは解雇された。労働者たちのいくらかは新しい良い仕事を得るだろうが、多くは少ない稼ぎになり、何か月も、何年も、仕事がない者もいるだろう。

もしこれがあなたに破滅的なことに聞こえて、何という破壊が起きたのか、と尋ねるなら、その答えは、いや違う、だ。木曜日は労働市場の普通の1日であったことを仮定したものだ。

アメリカ経済とは、要するに、14500万人を雇用する巨大な経済である。しかもそれは変化し続けており、産業や企業が興亡を繰り返す。常に、敗者もいれば、勝者もいる。平均的な1カ月に、150万人の「非自発的な」離職者があり、労働日ごとに75000人、という推定になる。

こんなことを言うのは、真の経済政策と偽の経済政策とを区別するためである。後者は、最近、ニュースで多くの注目を集めている。

真の経済政策とは、巨大かつ豊かなアメリカ経済において、十分に大きな資金を動かし、広範な経済の領域に影響する政策だ。もしthe Affordable Care Actを廃止するなら、それは中・低所得の家庭に対する数千億ドルの補助金を奪い、およそ3000万人を医療保険から排除することになるから、まさにこの定義に当てはまる。

逆に、偽の経済政策としては、トランプがCarrierの工場移転に介入したことだ。800人の雇用を救った、という報道もあれば、会社は機械化するだけだろう、という報道もある。つまり、トランプがしたことは宣伝でしかなく、大したことではない。偽の政策だ、という意味だ。GMやフォードの意思決定に対する攻撃もそうだ。

個々のケースに介入しても、それは19兆ドルの経済活動にとって重要なインパクトにならないのだ。

それにもかかわらずニュースになるのは、それが偽のポピュリズムに対応するからだ。トランプは白人労働者から多くの支持を得た。彼らはトランプを味方だと思っている。しかし、トランプの本当の政策は、貿易戦争を煽ることを除けば、従来からの共和党の政策である。億万長者たちへの大幅減税、そして、トランプの支持者の多くに影響する、公共支出の野蛮な削減である。

だからトランプは、あちこちで、わずかな雇用を守るために介入するのだ。実質的に、アメリカ経済を変えるものではなく、彼の宣伝戦略として。少なくとも、しばらくは。

また、企業の側にも新政権に接近する動機がある。

ニュース・メディアの自己満足が主流派のニュースにも表れている。トランプが雇用を救った、と繰り返し伝えることは、このような主張が本質的にフェイクであると注意しないなら、ジャーナリズムの裏切りである。

偽の政策に関する見出しが並ぶことで、真の政策は締め出される。

Project Syndicate JAN 10, 2017

Trump’s Defective Industrial Policy

DANI RODRIK

ドナルド・トランプ次期大統領の間違った産業政策はすでに全面展開している。

誘惑と脅迫とを組み合わせて、トランプは企業の移転を思いとどまらせ、アメリカ人の雇用を1000人も守った、という。工場を海岸移転する企業は、その製品輸入に大幅に高い関税を支払わせる、と警告した。フォード、GM、ボーイング、ロッキード&マーチンにも、関税や政治契約を利用して脅迫する。

トランプのこうした政策スタイルは、以前の大統領たちと非常に異なっている。それは高度に彼個人に負う、気まぐれなやり方だ。脅しと嫌がらせを用いる。成果を自慢し、誇張して、現実に成功であるかのように嘘を述べる。それは公共の見世物であり、Twitter上の演技である。それは民主主義の規範を深く蝕む。

エコノミストは、政府とビジネスが適当な距離を取るように求める。公職にある者は民間企業と自分とを区別しなければならない。少なくとも、汚職や差別的な優遇を疑われないように。

しかし、ビジネスと政府との相互作用は、多くのアメリカ企業の成功にとって重要であった。Michael Lind, Stephen Cohen, and Brad DeLongの政策分析は、連邦政府が提供した投資、インフラ、金融、その他の民間企業支援を挙げて、アメリカがハミルトン的な伝統の相続者であることを再認識させた。

アメリカの重要な技術革新には、しばしば政府の援助が貢献した。株式公開する前のApple and Intel、電気自動車のTesla、太陽電池のSolyndraなど。そして、2011年のSolyndra倒産の例が示すように、政府が行う多くの支援ケースは失敗した。最終的に、全体としてのポートフォリオが社会的なリターンをもたらしたか、を問うべきだ。

「開発国家」としてのアメリカを分析したFred Block and Matthew Kellerによれば、市場原理主義者のイデオロギーとは異なり、「公的資金を受けた研究所の分散型ネットワーク」と公的融資プログラムの「寄せ鍋」が、民間企業とともに作用し、製品の市場開拓を助けた。バイオテクノロジー、グリーンテクノロジー、ナノテク、など、革新を実現した協力型ネットワークには連邦・地方政府の支援が重要であった。

こうした産業政策は、もちろん、東アジア諸国の政策の特徴であった。中国が世界の工場へと転換した輸出志向型モデルの成功は、政府による支援と指導なしに考えられない。中国がグローバリゼーションの受益者であると主張する者が、アメリカ政府も中国をまねて産業政策を行うことに警戒感を示すことは皮肉である。

中国と違い、アメリカは民主主義を支持する。民主的な国の産業政策は、透明性、説明責任、制度構築を必要とする。政府と民間企業との関係は、慎重に調整されなければならない。たとえば、自動車産業で多くの雇用が失われるとき、政府はどのように支援するべきか? 技術と市場に関して政府は重要な情報を得なければならない。また、親しい企業のポケットに公的資金を突っ込むことはできない。

トランプ式の産業政策は、この点で間違っている。一方で、彼が指名した経済閣僚たちは、ウォール街と大企業の幹部である。他方で、彼の政策決定Tweetは制度的な対話に関心がない。このような産業政策は、クローニズムと嫌がらせの間をふらふらするだけだ。中には利益をもたらすケースもあるだろうが、アメリカ労働者や経済全般を助けることはない。


   プーチンの外国政治介入

Bloomberg JAN 6, 2017

To Deal With Putin, First Know His Goals

Leonid Bershidsky

ウクライナ介入、シリア介入、アメリカ大統領選挙介入、ヨーロッパのポピュリスト運動支援。なぜプーチンはこうしたことをするのか?

プーチンとその側近たちは、自分たちが戦争ではなくゲームの主役であると考えている。その勝利は経済的なものだ。ロシアの資産価値を高め、グローバルな経済ルールを書き換える。プーチンは何度も、リスボンからウラジオストクまでの貿易圏に言及した。ドイツでは、AfDの指導者、プーチン支持者のFrauke Petryが、アメリカ、ロシア、EUを含む緊密な経済統合を主張した。

ウクライナ危機が始まったのは、ロシアが隣国ウクライナをポスト・ソビエト型自由貿易圏に引き込むためだった。中東では、トルコやアメリカの同盟諸国に、ロシア製の武器を売り込んでいる。ロシアは核兵器を大量に保有している。アメリカやNATOにも、ロシアと戦争を起こす気はない。イラン型の核管理協定を結ぶことも考えられない。

プーチンに中途半端な封じ込め策は通用しなかった。ロシアとの戦争を始める覚悟が要る。そうでなければ、説得し、宥和するしかない。西側はそれを拒むが、現在の政策はプーチンの権力基盤を強化し、西側に友好的なロシア内の廃政府勢力を苦しめている。

プーチンの戦略目標を達成することは、矛盾した形で、現在のロシアの脅威を解消することにつながるだろう。

FP JANUARY 10, 2017

Stealing Elections Is All in the Game

BY STEPHEN M. WALT

優れた歴史家Marc Trachtenbergは,ロシアによるアメリカの大統領選挙に対する介入を激しく非難する主張は,ナイーブであり,明らかにダブル・スタンダードの証拠がある,と述べた.

彼は,アメリカ人がこうした介入に満足すべきだとか,無関心であることを求めているのではない.むしろ,われわれは驚くべきではないし,ロシアが新たに敵意を示したと考えるべきでもない,という.こうした介入は,そもそもアメリカが確立したものである.外国の政治を操作することは,長期にわたって,アメリカが得意とする手法であったのだ.


   日本のTPP推進

FP JANUARY 6, 2017

Abe Wants to Be the Last Free Trade Samurai

BY WILLIAM SPOSATO

日本の国会はやっとTPPを承認したが,トランプ次期大統領はこれを破棄すると約束している.アメリカ抜きでは,TPPは無意味である,と安倍首相も認めている.

しかし,トランプのもたらすカオスを,安倍は機会とみる.アメリカが抜けた穴を日本が埋めて,アジアの貿易を促し,緊密な経済統合を推進することが日本の首相に求められるからだ.しかし,日本は自由貿易の推進役として不適当な国内産業の保護と規制を残している.

TPP商人は,自民党の伝統的な「外圧」戦略である.他方,アジア地域の貿易に関しては,中国が独自の考えを示している.中国はTPPを信じていない.むしろRCEPを推進している.中国が動かなければ,他のアジア諸国も参加しないだろう.

尖閣諸島や南シナ海の領海に関して,日本と中国は合意できるのか? それはトランプ次期大統領にかかっている.AppleiPhone30を超える諸国から約200の企業が部品を供給していることが示すように,貿易は2国間の不均衡だけを意味しない.

「もし米中間で経済戦争が起きるとすれば,それは米中貿易戦争ではない.アメリカと東アジアのすべての国との貿易戦争である.日本も含めて,この地域のすべての諸国が,中国経済と緊密に統合されている.」とコロンビア大学のカーティスGerald Curtis教授は語った.


   トランプ外交の危うさ

NYT JAN. 10, 2017

Bannon Versus Trump

David Brooks

この先の数年間、明らかに、アメリカの外交政策は、共和党の常連と、エスノ・ナショナリズムを掲げるポピュリスト、そして、ドナルド・トランプの関心が循環する中で放出される永久の混沌、によって形成されるだろう。

共和党の外交専門家たちは第2次世界大戦後の秩序に基づく大戦略を立てた。アメリカが指導する同盟、規範、組織で、各国の民主主義体制を結びつけ、平和を維持したのだ。彼らはこの秩序を維持し、拡大することを追求し、プーチンを、それに牙をむくオオカミとみなしている。

トランプがホワイトハウスに入れたエスノ・ナショナリズムを信奉するポピュリストたちは、こうした秩序を信用しない。2014年のヴァチカン会議でSteve Bannonが行った演説に、それはよく示されている。

・・・人間的な資本主義が野蛮な資本主義にとって代わられ、それが金融危機をもたらした。国民的な民主主義がクローニー資本主義、すなわち、グローバル・エリートによるネットワークに代わった。伝統的な美徳が、堕胎やゲイの結婚に代わった。主権を持った国民国家が、EUのような、不幸な多角的組織に代わった。

退廃し、衰弱した西側は、自信に満ちた、信念に基づくイスラム教的ファシズムに対して脆弱である。それこそ、われわれの時代の全地球的な脅威である。・・・

このような見方において、プーチンは貴重な同盟者である。彼自身が、多人種、多言語のグローバルな秩序を、強固な国民諸国家に置き換えようとしているからだ。

プーチンのイデオロギー担当者Alexander DuginBannonとを比較するのは面白い。それは20世紀の、2つの異なるマルクス主義を読むようなものだ。一方は、アメリカのキリスト教。他方は、ロシア正教だ。両方とも、世界史の壮大な理論を持ち、諸文明の終末論的な衝突を確信し、経済、道徳、政治の分析を結合している。両方とも、自分たちが国際ポピュリスト運動の緩やかな連携の一部である、という自覚を持っている。それはフランスの国民戦線、イギリスの独立党、などを含む。DuginBannonも、相手の重要さを認めている。

「われわれ、ユダヤ=キリスト教の西側世界は、(プーチンが語る)伝統主義者でなければならない。」とBannonは言う。「特に、ナショナリズムの前提を支持する、という意味で。」

先週、アメリカ情報部がロシアのハッキングを報告したことで、John McCain Lindsey Grahamのような共和党の外交分野の常連たちは、エスノ・ナショナリズムのポピュリストたちと衝突した。トランプは明らかに後者に属しており、Fox Newsと驚くほど多くの共和党議員がトランプに流れた。

もしトランプがプーチンほどの実力者であるなら、アメリカの大戦略は根本的に転換し、戦後のグローバルなコンセンサスを破棄して、地球規模で生まれつつあるさまざまな右派ポピュリスト運動と同盟するだろう。しかし、トランプはプーチンではない。プーチンのような規律、計算、経験、知識がない。Bannon, Michael Flynnたちは、トランプを革命的な大統領にしようとするだろうが、彼は外交エスタブリシュメントを率いる指導者になれない。注意を欠いた、予測できない、その瞬間の自分の地位以外は何に対しても基本的に無関心な指導者である。

ホワイトハウス内の摩擦は続き、権力の著しい混乱が爆発する。無数の驚くべきtweetがまき散らされるが、根本的な戦略の転換は起こらない。恐るべき政策も、優れた政策も生み出さない。

より重大な闘いは、共和党そのものがエスノ・ポピュリストの政党に転換するかどうか、である。ポピュリストたちは優位にある。彼らのイデオロギーには力があり、グローバリゼーションは弛緩している。その精神は衰弱し、われわれの経済的・文化的諸問題に答える力がない。


   キンドルバーガーの罠

Project Syndicate JAN 9, 2017

The Kindleberger Trap

JOSEPH S. NYE

中国の習近平主席は,古代ギリシャの歴史家から由来する「ツキディデスの罠」を用いて,アメリカに警告した.それは,既存の大国(アメリカ)が新興の大国(中国)を極端に恐れることから,破滅的な戦争が起きる,というものだ.しかし,トランプはもう1つの罠にも注意するべきだ.それは,中国が強すぎることではなく,弱すぎることから生じる,「キンドルバーガーの罠」である.

キンドルバーガーCharles Kindlebergerは,マーシャル・プランの知的な設計者であり,その後,MITで教えた.そして,1930年代が深刻な不況となった原因について,アメリカがイギリスに代わって最大のグローバル・パワーになったとき,グローバルな公共財の供給をイギリスに代わって行わなかったからだ,と論じた.グローバルなシステムの崩壊は,不況,ジェノサイド,世界戦争になった.今,中国のパワーは増大しているが,グローバルな公共財の供給を助ける意志はあるのか?

ただし,ツキディデスの罠は歴史解釈について間違っている.イギリスはドイツの台頭を恐れて第1次世界大戦を起こしたのではない.むしろドイツが,ロシアの台頭を恐れていた.オーストリア・ハンガリー帝国の弱体化とスラブ民族主義の台頭があったのだ.また,古代ローマについても,アテネは急速に台頭しておらず,むしろスパルタと均衡状態にあった.

戦争は,非人格的な諸力によって起きるのではなく,困難な時代の間違った判断によって起きる.

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The Economist December 24th 2016

Barack Obama: The agony of hope

Cambridge economist: Exams and expectations

Charlemagne: A warning from the past

Poor-world migration: The beautiful south

Free exchange: A cooler head

(コメント) (クリスマス特集号の後半です.)

アメリカを中東における戦争状態から離脱させ,金融危機後の経済回復に人種間の和解や低所得層への社会保障システムを提供しようとした大統領が,その成果を全く評価されないことについて,私には不満があります.そして,その理由が,国内政治における議会との対立,外交における失敗である,というのはその通りでしょう.

希望に始まった大統領が苦悩に押しつぶされる過程を見て,弱さと失政を非難する者に対して,アメリカ国民は反論するより,沈黙することを選んだのです.プーチンであれ,トランプであれ.ティー・パーティーであれ,イスラム国家であれ.

移民の多くは裕福な国に入れず,むしろ貧しい隣国で働いている,ということ,トマス・シェリングの訃報をめぐって,興味深い記事を読みました.

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IPEの想像力 1/16/2017

特集号の記事で,ケンブリッジの経済学について読みました.エコノミストとは何か? それに応じて,経済学とは何か? その答えも変わりました.

良いエコノミストの条件として,1924年にJ.M.ケインズは述べました.「エコノミストは,数学者で,歴史家で,政治家で,哲学者でなければならない.」

ケンブリッジ大学はイギリス帝国から秀才を集めて,経済学のフロンティアを開拓した.当時の試験問題は,学生たちが経済原理と時事問題とを組み合わせて考えることを求めた.例えば,1927年の試験問題は,財政の支出先,金の将来,株主の権利と義務,民主主義に代わるもの,などについて,3時間でエッセーを書かせた.統計学の試験はあったが,他の科目で数式はほとんど現れなかった.

現在のケンブリッジの学生は,新聞を読まなくても1年の期末試験に答えられる.2015年の,最終学年で受ける5ページのマクロ経済学期末試験は,ユーロ圏の性格が政府債務危機に影響しているか,というような政策の難問について尋ねた.複雑で,高度な数式モデルを理解している必要があった.特殊な領域の技術的な政策用具を学び,数学は必要だが,歴史を学ぶ時間はなくなった.

学生たちのテキストは,マーシャルの『経済学原理』から,ケインズの『貨幣,利子,雇用の一般理論』に変わり,その後,経済学のコンセンサスを築く役割は,アメリカ,マサチューセッツのケンブリッジに移った.

しかし,政治を分離した,限定的な政策科学,というコンセンサスが動揺する今,ハジュン・チャンのように,ケンブリッジの研究者たちは,経済学を政治の中に再統合し始めています.

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他の記事では,ノーマン・コンクェストが扱われました.「今から950年前のノーマン・コンクェストは,イギリスがかつて経験した最も激しい政治変化であった.それはまた,非常に暴力的な事件でもあった.」

それは恐るべき流血の惨事であったが,同時に,多くの進歩をもたらした,と記事は主張します.イギリスの経済は大きく変革されて,諸制度,貿易パターン,投資が改善された,と.イギリス経済とノルマンディーのヨーロッパ経済とは統合され,長期の経済ブームを実現したのです.1人当たり所得が増大し,南北格差を含めて,ノーマン・コンクェストが現在のイングランドを作った,と考えます.

征服王ギヨーム,のちのウィリアム国王は,ノルマン地方からチャネル海峡を渡って上陸し,亡くなった国王の義弟を殺害して王位に就いたのです.4000人を超えるイングランドの地主が追放され,その土地はフランスから来た貴族に与えられました.ウィリアムが命じて作らせた「ドームズデイ・ブック」は,イングランドの土地と資産を(鋤1本まで)詳しく記載された台帳で,支配の基礎になりました.

記事は,イギリスがグローバリゼーションを拒むことの愚かさと,その時代から続く南北格差がBrexitに与えた影響を指摘しています.

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近頃,京都も,奈良も,猛烈に寒い.・・・そんな風に思いながら,深い積雪に沈む北国の街並みを映像で観ると,そこに暮らすことの大変さが迫ります.それでも,マイナス10度,マイナス20度の凍土に,多くの都市があり,文明が築かれてきました.

冬が終わるまでに,多くの難民が命をなくすと言います.トランプ大統領の就任式が,シリア難民やアメリカ国内の貧しい移民たちに希望を与えることはないでしょう.世界の人口や富の分布を厳密に調べ,その利用に関して征服王たちが新しい言葉でルールを定めるとき,この猛烈な寒さで命を落とす者が十分に考慮されるのか,暗黒の時代にも,新しい思想や運動は世界のどこかで生まれているかもしれないな.・・・

雪の残る京都を走りながら,私はそう想いました.

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