IPEの果樹園2017

今週のReview

1/9-14

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オバマ外交の最後 ・・・プラザ合意Uはない ・・・中国の成長・内政・外交 ・・・歴史と世界経済 ・・・政治参加より自殺 ・・・政治家たちへの問い ・・・トランプのビジネス介入 ・・・デジタル世界に住む ・・・国境警備と老人介護

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


● オバマ外交の最後

FP DECEMBER 29, 2016

Syria Will Stain Obama’s Legacy Forever

BY DAVID GREENBERG

今、オバマの任期が終わりつつあるとき、シリアで効果的な停戦が始まった。その交渉にワシントンは参加していない。シリア内戦は、人道的な危機であったし、多くの重要な影響を及ぼしたが、オバマのアメリカはシリアをどう扱ったか、あるいは、扱わなかったか、歴史家たちが評価するだろう。その評価は、世界におけるアメリカの影響力について厳しいものになる。

何年も、オバマは、シリアがアメリカにとって重要な戦略的意味を持たない、と主張してきた。しかし、その判断は、数十年の地政学的な戦略思考を拒むだけでなく、重大なリスクについての賭けでもある。もしオバマが間違っていたら、それは重大な意味を持つ。

1に、もしロシアがアメリカを、この地域の圧倒的な大国という地位から追い出せば、アメリカはエネルギーへのアクセスにも、テロ対策にも、影響を受けるだろう。イスラエルの生存や、トルコ、イラン、サウジアラビアとの関係にも影響がある。

2に、オバマのシリア政策はヨーロッパの移民危機をもたらす要因になった。ヨーロッパは何十年も、中東やアフリカからのイスラム教徒の移民を同化するのに苦しんでいたが、新しいシリア難民の波はこれまでにない規模に達した。トルコ、ハンガリーから、ドイツ、フランスまで、混乱に陥った。文化的な緊張が高まり、右派のナショナリスト政党が大陸全体で勢いを増し、イギリスではEU離脱の投票につながった。ドナルド・トランプはメキシコからの移民に対する反感を煽り、世界中でポピュリストの潮流が生まれたのも、少なくとも一部は、シリア内戦から始まったのだ。

3に、オバマ政権はイスラム国の台頭に効果的な対策を取らなかった。

4に、イスラム国の封じ込めに失敗したことが、アメリカにシリア戦略の転換を強いた。アサド政権への批判よりも、イスラム過激派を軍事的に制圧するために協力するため、アサドを容認したのだ。

最後に、2012年、オバマはアサドが化学兵器を使用すれば軍事的に制裁すると明言した。しかし、議会での反対が予想されると、その方針を翻し、ロシアによる化学兵器の廃棄処分という案に頼ったのだ。ダマスカスに近い町で市民に対してサリンを詰めたロケットを使用したアサドは、戦争犯罪人として処罰されなかった。

オバマの言葉は「信用」を失ったのだ。だからプーチンはオバマを試した。2014年、クリミアを非合法に併合した。東欧やウクライナ南部では、今も不穏な情勢を生み出している。プーチンは、民主党のメールをハッキングするように指示し、アメリカ大統領選挙にも介入した。

ジェノサイドや大規模な殺戮を放置しても、アメリカ大統領の歴史的評価には関係なかった。しかし、ホロコーストを知りながら何もしなかったことは、世界最強の国として、その責任を問われた。その後のアメリカは、外国においても人道的犯罪に注意するようになった。そのピークは1990年代であったが、イラク戦争後、軍事的な介入は抑えられた。

オバマが痛感したことだが、大統領は戦争の結果によって評価される。何よりも、オバマの第1の目標は、アメリカが新しい戦争に関わらないことであった。そして、さまざまな和解を提唱した。共和党の州と民主党の州との和解、白人と黒人との和解、アラブ世界に向けて橋を架けるように願った。しかし、共和党は議会を支配して敵対したし、オバマが戦争しないことを外国の敵は好機として利用した。

ブッシュは好戦的な外交により、オバマは過度に対立を避けることにより、アメリカの影響力を失い、地位を低下させて、その究極の目的である、安定した、平和な世界実現するパワーも損なった。

NYT JAN. 2, 2017

Marshall Plans, Not Martial Plans

By CHRIS MURPHY

シリア政府によるアレッポにおける虐殺と、それを支援したロシア、イランは見るに堪えないが、他方で、シリアの人々を救出できなかったアメリカの姿勢も理解できない。

最初の教訓とは、短期的な行動が事態を悪化させたことだ。紛争は長期化し、人的な犠牲を増やした。内戦は、3つの方法で終結する。一方が他方を粉砕するか、双方が長期に戦うことで消耗するか、外から大国が介入して双方に和平を強制するか。

われわれはシリア政府軍が、ロシアとイランに支援されて、アレッポに侵攻し、第1のシナリオを実現するのを観た。われわれの失敗は、シリア内戦の持続期間、アサドが権力を維持できる期間を見誤ったことだ。その一方で、バランスを維持する十分な支援を出さなかった。

アメリカにはアサドを追放する準備がなかった。それは、オバマがアサドの化学兵器使用に対して空爆することに、議会の共和党員も民主党員も強く反対したことで明らかだった。議会指導者たちは、アサドに対して戦争を始めることに反対だった。私は、アメリカが戦争に加われば、シリアは泥沼になると確信していた。それはアレッポで観たものをはるかに超える破壊と犠牲をもたらしただろう。

それに代わって、アメリカは内戦を長期化する政策を進めた。われわれはシリア国内にも大規模に空爆したが、それはイスラム国を狙ったもので、シリア政府軍の支配地域には攻撃しなかった。われわれは反政府軍に武器を送ったが、それが敵に渡ることを恐れて、十分に強力な武器を送らなかった。彼らは戦闘を続けるだけで、勝利する、もしくは、アサドが交渉のテーブルに就くことは強制できなかった。

イラクを経験した後でも、アメリカの外交と軍事の専門家たちは、軍事介入が政治的安定性をもたらす、という考えに固執していた。それは妄想である。

邪悪な行為を目にして自制するのはむつかしい。しかし、傲慢であることはさらに悪い。アメリカはシリア内戦でどちらの側にも立つべきではなかった。もし最初から自制していたら、犠牲者はもっと少なかっただろう。

真に重要な問題は、社会が内戦を始める前に止めることである。現在の中東で、安定性の小島となっているヨルダンとレバノンを考えてみよう。アメリカが支援を増やすことで、両国がシリアのような内戦に陥ることを防げるだろう。70年前、第2次世界大戦後の荒廃に直面して、アメリカは経済再建のために支出することの価値を理解していた。1949年、アメリカはGDP3%を援助に使った。現在、それは0.2%に過ぎず、93%も削減された。

リスクのある国や地域にマーシャル・プランを実施しても、世界平和を保証することはできない。ローマ帝国が崩壊してから、ヨーロッパが平和的に共存するまで、1500年もかかった。中東は、オスマン帝国が崩壊して、まだ100年しか経っていない。新しい秩序への道を見出していないのだ。

自制は直観に反し、残酷だと感じる。しかし、他の道は一層の残酷なコストをもたらす。最も人道的で、効果的な政策とは、崩壊を防ぐために、先に支出することだ。

Bloomberg JAN 5, 2017

More Nukes? Bad Idea

Faye Flam

銃と同じように、核兵器についてもアメリカ人の意見が分かれる。一方は、「より多く持つのが望ましい」という考え方だ。悪者が武器を持つのを止めるためには、良い者が多くの武器を持つ。他方、武器が少ない方が安全だ、と考える者もいる。それは、衝突の危険があるだけでなく、核兵器を多く持つほど、アクシデントの危険が増えるからだ。

トランプは前者らしい。科学者たちは後者である。それには直観以上の理由がある。第2次世界大戦で日本に使用された核兵器に比べて、その後の核の破壊力は大幅に強化された。通常の兵器と異なり、核兵器は環境に長期の影響を及ぼす。「スーパーファイアー」は諸都市を焼き、大量のススを大気圏に噴き上げる。それは10年にもわたり、太陽を遮るだろう。自国も含めて、地球上に死をもたらすことなく、核攻撃できる国はない。

ロシアとアメリカは、ともに7000発の核兵器を持ち、そのうち2000発を配備している。「だれかが格兵器を発射し、他国が何もしないとしても、環境破壊を介して攻撃した最初の国の誰もが死ぬだろう。それは自爆攻撃だ。」 Alan Robockは「核の冬」を解明した最初の学者たちの1人だ。

広島、長崎の核攻撃は、核の冬を生じる規模ではなかった。1つのトライデント潜水艦発射型核兵器は、広島の1000倍の影響をもたらす。ロシアがそれに応じることで、2800倍の広島をもたらす。最近の推定によれば、インドとパキスタンの、より小規模な核戦争でも、地球規模で破滅的な冷却化が起きるだろう。

偶発的な核戦争を恐れる理由もある。1979年、アメリカ中西部で、ソ連の大規模な核攻撃が始まったという語情報が流れた。1983、年ソ連では、アメリカの核ミサイルが5基、アメリカに向かってくる、という人工衛星の誤信号が届いた。1995年、ノルウェーの島で行われた科学実験の影響で、ロシアの早期警戒システムが誤作動した。それでもなお、多くの核兵器が発射サイロに準備されている。

アメリカのトランプ大統領は、人工衛星がロシアの核ミサイル発射を警告してから、約30分で、大規模な報復を決断しなければならない。アメリカのような早期系火器衛星システムのないロシアでは、もっと少ない時間しかない。アメリカが核兵器の「近代化」に1兆ドルを支出する計画は、他国の不安にする。

むしろアメリカは、間違った警報を出さないような早期警戒システムを支援し、ロシアの防衛力を改善する方が、世界を平和にするだろう。そのような協力は、アメリカが先制の第1撃を行う意志がないことを示すことになる。


● プラザ合意Uはない

Project Syndicate DEC 30, 2016

Will Dollar Strength Trigger Intervention in 2017?

CARMEN REINHART

政府は通貨価値の急落を防ぐために外国為替市場に介入する。また、通貨価値が高くなりすぎて、競争力を失うことを恐れて介入する。

ドルの通貨価値が増大している。それは金融政策がヨーロッパや日本に比べて引き締めに転じたからだ。また、予想外のトランプ当選も影響した。しかしドル高は、製造業の雇用を取り戻す、というトランプの約束に反する。

金融市場はそれを理解して反転するのか。そうでなければ、政府は介入するだろうか。アメリカは1985年にプラザ合意でドルの価値を下げることに主要諸国と合意した。

しかし、今はその条件が全く異なる。当時、日本は6%の成長をしていた。今は円高を恐れている。GDP250%という国債を管理するためにも、日銀はインフレ率を高めたい。また、大幅な経常収支黒字を持つドイツは、ドル安に協力する立場だ。しかし、今ではユーロがあるために、協調の声はない。ECBはユーロを守るために、周辺部の回復を必要とし、ユーロ高を好まない。

たとえトランプが為替介入を決めても、単独で行うしかないだろう。


● 中国の成長・内政・外交

Project Syndicate DEC 30, 2016

A Socialist Market Economy With Chinese Contradictions

ADAIR TURNER

中国の7年に及ぶ信用ブームは、債務/GDPの比率を150%から250%に高めたが、2016年に終わった、という意見がある。今後、銀行破たんが起きるのか、習近平の政治力が強まったことから、構造改革が進むのか、意見は分かれる。しかし、成長の大幅な減速は避けられず、デフレ圧力が増すだろう、と。

しかし、その反対のことが起きた。中央・地方の政府は借り入れを増やし、銀行と「影の銀行」の融資が急速に伸びてきた。中国人民銀行PBOCは、政府支出を融資するのと同じように、国有銀行への融資を増やしている。PBOCSheng Songchengは、「社会主義的市場経済のマクロ経済管理は西側経済より優れている」と書いた。中国政府が金融・財政政策に持つ実質的な支配力は、最適な組み合わせを追求できる、と。

Shang Fulin, Chair of the China Banking Regulatory Commission (CBRC)は注意した。「銀行の会長やCEOは、第1に共産党員であり、党書記である。銀行の会長であるのは副次的だ。」 信用による成長は債務の持続可能性によって制約されない。

ある意味では、ほとんどの債務が国家のシステム内で保有されている。政府は単に、不良債権を償却し、銀行の資本を補充すればよい。それは中央銀行が融資しても、紙幣を印刷してもよい。銀行が永久に貸し替え続けることも可能だ。

それは確かに投資の一部を浪費させるだろう。しかし、GDP44%を投資する中国経済で、その4分の1が無駄になっても、11%である。GDP33%を投資して急速な成長を実現できる。優れた都市インフラの整備や、上昇する実質賃金に応じた民間企業の機械化が進んでいる。

しかし、国民の貯蓄が海外に流出すれば、この成長は持続可能ではなくなる。たとえ3兆ドルの外貨準備があっても、30兆ドルの国内金融資産と比べてみれば、それでは不十分だ。年に5万ドルを合法的に持ち出せるが、1%の成人がそうするだけで、5000億ドルの資本流出になる。資本規制を強化するか、人民元の減価を許すしかないが、それはトランプの保護主義を刺激する。中国国内でも、人民元が安くなる前に購入するという動機から、インフレを加速する。たとえハイブリッド型の市場経済でも、開放型の市場とは両立できない。

矛盾の源泉は、国有企業や地方政府にハードな予算制約がないことだ。その改革には政治的限界がある。大量失業も、権力の分散も、指導者たちは望まない。しかし、改革が遅れるほど債務は膨張し、円滑な移行はむつかしくなる。

FT January 4, 2017

The political price of Xi Jinping’s anti-corruption campaign

Jamil Anderlini

5年目に入る習近平の指導体制の下で、中国はますます抑圧的な、権威主義的な国になった。

それまでは、共産党幹部と西側との対話においては、民主的な中国へ向けて漸進的、平和的に移行する、というのが究極の目標であった。しかし、習近平がすべてを変えた。リベラルな民主主義を否定し、西側の政治思想を拒んだ。その代わりに、偉大な復活、を掲げて、中国皇帝がすべてを支配する時代への復古を求めている。

汚職追放キャンペーン、党の規律強化、といった習の示す重要課題は、大衆的な支持を得ているが、共産党や人民解放軍の官僚たちにそれほど支持されていない。しかし、彼らが権威主義体制の最も重要な構成員であることは間違いない。

キャンペーンは、下級の官僚たちが違法に得る利益を減らす、という表面的な成果を上げている。しかしこれは、市民への監視強化、自由な言論の抑圧を庶民に受け入れやすくするため、クリーンなガバナンスを約束したものだ。実際には、企業から官僚への賄賂が、直接、外国の銀行口座に振り込め、という形で増えている、という。

中国で汚職を根絶することが難しいのは、ある意味で、その社会システムに原因がある。公的な給与や便益はわずかなものであり、それに比べて、国家の代表者が操作する経済全般へのパワーは莫大だ。反汚職の機関も、この汚職の誘因を強めているシステムの一部でしかない。

さらに、歴史的、文化的な要因もある。

数千年の王朝興亡サイクルを通じて、帝国に及ぼす中央からの管理はしばしば弱まった。皇帝の官僚とその軍団は、地方にまで命令を守らせ、法を維持するはずだった。しかし、彼らはしばしば法や税制を曲げ、私腹を肥やす、略奪的国家のシンボルになった。また帝国が、何度も、外国による侵略を受け、征服された。漢民族の社会は中央権力に従わず、部族単位で集まって、独自に組織された。

中国人の家族や部族に対する忠誠心は、常に、国家に対する忠誠心よりも強かった。この文化的姿勢を変えるには、独立した強力な機関を築く長期の取り組みが必要だ。習近平の汚職撲滅と市民社会弾圧は、共産党体制の寿命を延ばすだけであって、長期的な安定性や繁栄をもたらさない。

その行き過ぎは官僚層の反感を強め、習が抑えようとした、市民の不満を招くだろう。


   歴史と世界経済

FT January 4, 2017

The risks that threaten global growth

Martin Wolf

世界経済のフロンティア、特にアメリカにおける技術革新と、遅れた経済によるキャッチアップが、グローバルな経済の成長を支持する。キャッチアップは続くが、技術革新のスピードは減速するかもしれない。

戦争、インフレ、金融危機のような、ショックを避けること。ユーロ圏の解体や中国経済の混乱がないか。さまざまな地政学的危機の発生。

FT January 5, 2017

Martin Wolf: The long and painful journey to world disorder

Martin Wolf

人類は歴史から教訓を学ぶことができるのか? 1914年から1945年までに経験した、激しいナショナリズムと外国人排斥の時代に戻るのか? 1980年代に、進歩、調和、民主主義を信じた、市場開放とソ連崩壊によって始まる新しい世界、という希望は灰燼と化した。

現代のグローバルな経済的、政治的なシステムは、20世紀前半の惨禍に対する反応から生じた。その時代はまた、19世紀のかつてない、高度に不均等な経済進歩がもたらした。工業化、ボルシェビキ革命、大恐慌、1930年代のヒトラーと日本の軍国主義。

グローバリゼーションの逆転と紛争の時代が続くのか? あるいは、西側ではない諸大国が、特に中国とインドが、グローバルな協力的秩序を維持する上で重要な役割を果たすようになるのか? それが問題である。


   政治参加より自殺

FT January 1, 2017

How Japan resists the populist tide

John Plender

なぜ日本だけ政治エリートに対する反発は示されないのか? 20年間も低迷し、世界の平均を大幅に超えた自殺率であるのに、ポピュリズムは広がらない。

日本は1990年代後半からデフレが続き、生産性上昇率も低い。Richard Koo によれば、1990年代の悪名高いバブルで国民が失った富は、1990年から2015年までに株式と不動産だけで、1500兆円と推定される。それはアメリカが1930年代の不況で失った富の、GDP比で観て3倍である。

トランプやグリッロはいない。ナショナリストの極右政治家で、南京大虐殺は中国のでっち上げだと主張する石原慎太郎はいたが、有権者に支持されなかった。

日本の例外性は、その社会の階層性、同調性、包括性に求められるだろう。合意を重視する姿は2011年の震災と津波で示された。不平等は拡大したが、英米に比べれば低く、犯罪率も驚くほど低い。人口が減少しても移民を受け入れない。

日本はまた、グローバリゼーションの勝者である。貿易黒字を維持しているし、経済が失われた10年に苦しんだ、というのは間違いだ。それは人口が減少したからであり、1人当たりの成長率ではアメリカよりも良い。失業率はピークでも5.5%、今はわずか3%である。

しかし、日本の状態はバラ色ではなく不均等だ。企業に比べて家計は苦しみ、狂気のような国債の累積が将来世代にはある。大都市の高齢者は安定した、年功賃金を享受したし、今も職を維持しているが、若者たちは低賃金のパートタイム労働者だ。

見えないところで怒りがたまっているかもしれない。若者は老人ほど投票に行かず、彼らの怒りは政治に届かない。むしろ、高い失業率に示される。


   政治家たちへの問い

Project Syndicate JAN 4, 2017

Lessons from the Populist Revolt

Michael Sandel

2016年の激動は、政治エリートたちが人々の本当の苦悩を理解せず、解決できなかったことから生じている。Brexitやトランプを支持した人を,単に偏屈や人種差別主義と非難する政治は間違っている。

進歩的な諸政党は、4つの主要問題に答えるべきだ。

1.所得の不平等。通常,より大きな機会の平等が答えとして示される.すなわち,再訓練,高等教育,差別の撤廃.しかし,多くの者にとって,こうした約束には意味がない.社会的な成功を理想としてきたアメリカでも,貧しい両親に生まれた子供は成人しても貧しい.最下位5分の1の階層で生まれた子どもの43%が同じ階層にとどまり,トップの5分の1に入るのはわずか4%である.

進歩的な人々は,ますます離れる社会的な階段を人々が登ると励ますより,直接,富と権力の不平等を是正するべきだ.

2.能力主義の傲慢。公平な能力主義,社会的な地位は努力と才能を示すものだ,という主張を容赦なく求めることは,人々が成功や失敗を解釈する上で,道徳的な腐食をもたらす.能力主義のシステムでは,勝者が自分の成果を道徳的に優れている結果と考え,敗者を見下すようになる.敗者はシステムが操作されたと考え,また彼らが失敗に責任を問われるシステムに失望する.

オバマやクリントンは機会を強調し,トランプは勝者と敗者を語った.アメリカ政治の最も深い亀裂は,高等教育を受けた者と受けていない者との間にある.

3.労働の尊厳。技術変化やアウトソーシングにより職が失われることは,社会が労働者の役割に十分な敬意を払っていないという意味である.経済分析の焦点は,モノづくりではなく,カネの管理にシフトした.ファンド・マネージャーやウォール街のバンカーが法外な収入を得て,伝統的な意味の仕事にはもろい,不確かな敬意しか示されない.

ロボットやAIが現在の職の多くを時代遅れにしてしまい,ベーシック・インカムを与えることが提案される.それは歓迎するべきか,それとも抵抗するべきか? 仕事の意味や良い生活におけるその位置づけを,政党は問われるだろう.

4.愛国心と国民的コミュニティ.自由貿易と移民はポピュリストが最も取り上げる怒りの対象である.それは経済問題として長期的に対処すべきことだが,同時に,人々が国家に寄せる情念と関係している.安価な商品や安価な労働を国家が優先するのは,自分たちの職場を裏切る行為ではないか.その感情は醜い形で表現される.リベラル派は彼らを非難するのではなく,仲間である市民を,国家の連帯感を,どのように維持するのか?

これら4つの不満に応える中で,われわれの時代の政治が形成される.


   トランプのビジネス介入

FT January 5, 2017

The protectionist trade fallacies of America First

トランプの怒りを恐れて、フォード社は16億ドルのメキシコにおける新工場建設をキャンセルし、ミシガン州の工場を拡大すると発表した。

たとえトランプがこうした介入を続けても、アメリカの雇用を増やすことはないだろう。実業界の指導者は政治的な介入を懸念し、効率的な国際的サプライ・チェーンは混乱し、アメリカの伝統的な貿易相手国にも保護主義やポピュリズムを生み出すだろう。

アメリカ・ファースト政策は、すべての国にゼロサム的な重商主義思考を広める。 


   デジタル世界に住む

Project Syndicate JAN 2, 2017

Charting Our AI Future

LUCIANO FLORIDI

ガリレオは自然を数学で書かれた本とみなし、物理学で解読できると考えた。われわれの世界は数字(01)で書かれており、コンピューター科学で読まねばならない。

この世界では、多くの職務を人間よりコンピューターの方がうまくやる。魚が水の中に住むように、デジタルな情報空間はわれわれの自然の性質になじまない。われわれ、アナログの有機体は、新しい住環境に適応するのであり、アナログとデジタルの要素が混じったものが含まれる。

新しい職は生まれるし、社会の分断化を抑えるために、規制や法律、新しい税も必要だろう。しかし、「すばらしい新世界」や「ターミネーター」が来る、という警鐘は間違いだ。

Project Syndicate JAN 3, 2017

Rethinking Labor Mobility

HAROLD JAMES

グローバリゼーションや技術変化によって仕事を失う人々に,条件も付けず,ベーシック・インカムを給付することが主張されている.それは悲惨な結果につながる戦略である.無意味な活動や,何もしないことに支払いを受ける人々は,社会から一層,切り離され,孤立してしまう.それを取り入れた地域では条件が改善せず,不満が高まるだろう.

人々が経済に創造的に,意味ある形で参加するような,機会を下がるべきである.急速な技術・グローバル化の時代から「敗者」に何が起きたか,研究するべきだ.

18世紀後半から19世紀の産業革命の時代に,特に繊維産業で熟練労働者たちが大規模に職を失った.彼らに対して政府が補償したのではなく,彼らが大西洋を越えて移民した.そこで新しい仕事を得て,繁栄することもあったのだ.

しかし1世紀ほどして,大規模な移民は終わった.多くの国は移民流入を禁止した.ヨーロッパの農民たちは,世界中で拡大する食糧生産により,仕事を失った.彼らは過激な政治集団を形成し,ますます戦闘的になるナショナリズムや,経済.社会的なユートピアを混ぜ合わせた主張に向かった.こうしたグローバリゼーションへの反対運動が,第2次世界大戦で頂点に達したが,国際秩序を破壊した.

2次世界大戦後,工業諸国の政治家たちは新しい方法で農民たちの困窮を回避した.農業に補助金を与え,国際競争から保護したのだ.この政策が成功したのは,農産物が無駄なものでなかったことと,農民は都市の新しい職業に向けて移動したからだ.それは製造業やサービスの高賃金職であった.

現代のグローバリゼーションはこうした分野の職場を脅かしている.だれも望まない,時代遅れの職を保護することは無駄である.若者には都市部のダイナミックな職場があるかもしれないが,より大きな適応力と弾力性を求められる.

最も重要な移動性は,物理的な意味ではなく,社会的,心理的な意味での移動だ.残念だが,アメリカや多くの工業諸国では,元気のない,硬直した教育システムがそれに対応していない.


   国境警備と老人介護

FT January 3, 2017

A public-private partnership will solve Europe’s migrant crisis

Erik Prince

リビアの国境警備体制を、より広範な再生プログラムとともに、展開する。

YaleGlobal, 3 January 2017

Modern Servitude: Romanian Badante Care for Elders in Italy

Raluca Besliu

ルーマニアの貧しい女性たちが,イタリアの増大する老人たちに介護サービスを提供している.それは,厳しい条件の契約労働だ.彼女たちはイタリア語も話せない.

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The Economist December 24th 2016

The year of living dangerously

Internet security: Breaching-point

The Chinese economy: Smooth sailing, until it’s not

The state of states: Our country of the year

Brentry: Domesday economics

Banyan: The politics of taking offence

Disney’s Utopia on the I-4: Yesterdayland

(コメント) インターネットでも犯罪行為やフェイクニュースを明確な基準で取り締まる必要があります.中国経済が安定しているように見えるのはいつまでか? ディズニーが築いたユートピア都市と産業技術社会の理想を,アメリカ人は今も楽しみます.

2016年の優秀国家賞を受賞したのは,困難な状況から成長したエストニア,アイスランド,困難を克服しようとしている中国と台湾,リベラルな社会と開放経済を支持するカナダ,を抑えて,内戦終結に合意したコロンビアです.他方,理想的な政治の革新を遂げたはずのインドネシアにおける,アイデンティティ政治の過激化を操る軍や警察の政治介入は大きな不安です.

最も面白かったのは,イギリスのノルマン・コンクエストです.アラブの春やBrexitに,グローバリゼーションと技術革新の論争が重なるほどの,過激な歴史を紹介しています.

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IPEの想像力 1/9/2017

NHKドキュメンタリーで、一本のペンで描く、池田学の絵を観ました。細い線だけで描く、超細密技法です。彼はアメリカの美術館に招かれ、その地下で3年かけて壁画を制作します。

1枚の巨大な壁画ですが、何かもっと語り掛けてくる、静かな、しかし、饒舌な、想像力を刺激する仕掛けが、いっぱい詰まったジャングルジムを登るような感覚です。

絵本か、漫画を観るような物語性

謎解きや発見、解釈を求める寓話性

絵を観て想うのは、日本の漫画文化やアニメの開示したダイナミックな世界でした。もちろん世界中に、さまざまな壁画や宗教画があり、独自の風刺漫画もあるのでしょう。

宮崎駿 ・・・バベルの塔 ・・・SF小説

これは空想であり、誰かを非難したり、何かを攻撃したり、現実を嘆くわけではありません。その意味では、宿命論、文明観、終末思想、復活神話、宗教画のようなものだと思います。

ユートピアとディストピア ・・・都市国家 ・・・旅 ・・・遠隔地商人 ・・・巡礼 ・・・布教

しかし、明らかにその空想はリアルな世界から集まった刺激により得られたものです。画家のイメージが凝集し、創り出した、空間的な広がりと集積が、大きな塊、流れとなって、観る側のイメージを圧倒し、目の前の景観を一新します。

地震や津波、天災の破壊力 ・・・殺戮、戦災ではなく ・・・原発事故、自然破壊を問うわけでもない ・・・再生を願う ・・・死と誕生のサイクル

バラバラであった私たちの経験と感性が、大きなものの中に吸い込まれ、埋め戻されるように、1枚の絵を眺めてしまうでしょう。

寄せ集め ・・・自然 ・・・生物 ・・・社会インフラ ・・・祭典 ・・・祈り

「観る」とは絵の中にその時代、その社会を反映し、「描く」とは画家が生きる社会的な行為なのだ、とその「絵」の成り立ちを説明します。

集団的な悲しみや喜び

生命の連鎖

苦悩はある

希望もある

傷つく者や亡くなる者はあっても、殺戮や憎悪は表現されないようです。文明の虚構、醜悪さ、非人間的な、作為的・詐欺的な側面が、画家の主要なイメージに入り込むことがなかったのは、リアルではないとしても、観る側にとって幸いです。イメージは画家と家族の善良な人柄に育つのでしょう。

同じ町に住む少年が、何度も彼のスタジオを訪れ、感謝の手紙を渡してくれます。

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大学ラグビーの決勝戦、「帝京大 対 東海大」は歴史的な熱戦でした。これほどの激戦を観たことはない、と思ったほど。

あまりの力闘に、観ている側の体が次第に硬直し、息を止める瞬間が続きました。

鍛え上げた体と体で激しくぶつかり合う、ラグビーに注ぐ情熱がすばらしい。

ほとんど反則のない試合に、真剣勝負の鮮烈な闘志が輝きます。レフェリーの判断、試合を止めて再開するときの明確な説明、選手たちへの指示とキャプテンへの注意が、この試合の興奮を維持しました。それに従い、集中力を持続して全力を出し尽くした、選手たちの紳士的態度も立派です。

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にっぽん紀行「Tokyo Okubo オオクボ・ドリーム」で、インドから来たユーソクさんは言います。「将来の不安はあるけれど、働けることは幸せだ。」

駅のアナウンスは24か国語、住民の3割は外国人。家族を残してきたインド人の男性。娘の学費を稼ぐためアルバイトを掛け持ちする父親。仕事をなくして部屋を出た中国人の若者は、仏像が置いてある民家の1階で写経します。

日本が、だれにとっても夢を実現できる土地になってほしい、と少しでも多くの人が願うように。それが、私の今年の抱負です。

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