IPEの果樹園2017
今週のReview
1/9-14
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オバマ外交の最後 ・・・トランプの始まり ・・・開発の考え方を見直す ・・・プラザ合意Ⅱはない ・・・中国の成長・内政・外交 ・・・グローバリゼーション以前 ・・・歴史と世界経済 ・・・政治参加より自殺 ・・・政治家たちへの問い ・・・トランプのビジネス介入 ・・・デジタル世界に住む ・・・国境警備と老人介護
[長いReview]
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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times,
The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate,
SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)
[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
● オバマ外交の最後
FP DECEMBER 29, 2016
Syria Will Stain Obama’s Legacy
Forever
BY
DAVID GREENBERG
オバマの任期はもうすぐ終わるが、支持率48%は過去5人の大統領たちより低い。彼の支持者は哀愁を感じている。ブッシュを最悪の大統領に決めるのは早計かもしれないように、オバマをいつでも最高の大統領だったと評価するのは間違いだ。
特に、反政府派のアレッポが陥落した今となっては。
オバマの遺産を考えるときに、いつも、シリアの恐るべき殺戮と破壊が問われるだろう。40万人が死に、市街地が破壊され、サリンや塩素が毒ガスとして、樽爆弾も使用された。わかっていない殺戮も多いだろう。将来の世代は、大量殺戮を知りながら、アメリカ大統領が受け入れ、無能であったことを、どのように判断するだろうか?
おそらくオバマは、将来世代が忘れると期待している。わずかな例外を除けば、伝記作者や教科書は、多くの大統領の失敗を記載していない。George W. BushはDarfurの虐殺を無視し,
Bill ClintonはRwandaで迷い, George H.W. BushはBosniaのエスニッククレンジングについて, Jimmy CarterはCambodiaの大虐殺について,
Gerald Fordは East Timorについて,
Richard Nixonは Bangladesh.について、何もしなかった。
今、オバマの任期が終わりつつあるとき、シリアで効果的な停戦が始まった。その交渉にワシントンは参加していない。シリア内戦は、人道的な危機であったし、多くの重要な影響を及ぼしたが、オバマのアメリカはシリアをどう扱ったか、あるいは、扱わなかったか、歴史家たちが評価するだろう。その評価は、世界におけるアメリカの影響力について厳しいものになる。
何年も、オバマは、シリアがアメリカにとって重要な戦略的意味を持たない、と主張してきた。しかし、その判断は、数十年の地政学的な戦略思考を拒むだけでなく、重大なリスクについての賭けでもある。もしオバマが間違っていたら、それは重大な意味を持つ。
第1に、もしロシアがアメリカを、この地域の圧倒的な大国という地位から追い出せば、アメリカはエネルギーへのアクセスにも、テロ対策にも、影響を受けるだろう。イスラエルの生存や、トルコ、イラン、サウジアラビアとの関係にも影響がある。
第2に、オバマのシリア政策はヨーロッパの移民危機をもたらす要因になった。ヨーロッパは何十年も、中東やアフリカからのイスラム教徒の移民を同化するのに苦しんでいたが、新しいシリア難民の波はこれまでにない規模に達した。トルコ、ハンガリーから、ドイツ、フランスまで、混乱に陥った。文化的な緊張が高まり、右派のナショナリスト政党が大陸全体で勢いを増し、イギリスではEU離脱の投票につながった。ドナルド・トランプはメキシコからの移民に対する反感を煽り、世界中でポピュリストの潮流が生まれたのも、少なくとも一部は、シリア内戦から始まったのだ。
第3に、オバマ政権はイスラム国の台頭に効果的な対策を取らなかった。
第4に、イスラム国の封じ込めに失敗したことが、アメリカにシリア戦略の転換を強いた。アサド政権への批判よりも、イスラム過激派を軍事的に制圧するために協力するため、アサドを容認したのだ。
最後に、2012年、オバマはアサドが化学兵器を使用すれば軍事的に制裁すると明言した。しかし、議会での反対が予想されると、その方針を翻し、ロシアによる化学兵器の廃棄処分という案に頼ったのだ。ダマスカスに近い町で市民に対してサリンを詰めたロケットを使用したアサドは、戦争犯罪人として処罰されなかった。
オバマの言葉は「信用」を失ったのだ。だからプーチンはオバマを試した。2014年、クリミアを非合法に併合した。東欧やウクライナ南部では、今も不穏な情勢を生み出している。プーチンは、民主党のメールをハッキングするように指示し、アメリカ大統領選挙にも介入した。
ジェノサイドや大規模な殺戮を放置しても、アメリカ大統領の歴史的評価には関係なかった。しかし、ホロコーストを知りながら何もしなかったことは、世界最強の国として、その責任を問われた。その後のアメリカは、外国においても人道的犯罪に注意するようになった。そのピークは1990年代であったが、イラク戦争後、軍事的な介入は抑えられた。
ヨーロッパの共産主義化に対して介入したトルーマンと民主党は、中国で毛沢東と共産党の勝利を観たアメリカ人から「中国を失った」と責められた。それはベトナム戦争や、東南アジアにおける軍事介入に影響しただろう。カーターがソ連のアフガニスタン侵攻やイラン大使館占拠事件を防げなかったことは、レーガンに敗北したことと関係ある。大統領らは、当然、いつも紛争や戦争を防止することなどできないのであるが、それにどのように対処したかで、また、それによってアメリカは強くなったか、世界は平和になったかで、指導力が問われるのだ。
オバマが痛感したことだが、大統領は戦争の結果によって評価される。何よりも、オバマの第1の目標は、アメリカが新しい戦争に関わらないことであった。そして、さまざまな和解を提唱した。共和党の州と民主党の州との和解、白人と黒人との和解、アラブ世界に向けて橋を架けるように願った。しかし、共和党は議会を支配して敵対したし、オバマが戦争しないことを外国の敵は好機として利用した。
ブッシュは好戦的な外交により、オバマは過度に対立を避けることにより、アメリカの影響力を失い、地位を低下させて、その究極の目的である、安定した、平和な世界実現するパワーも損なった。
NYT JAN. 1, 2017
The Afghan War and the Evolution of
Obama
By
MARK LANDLER
2015年の春から夏にかけて、オバマ大統領の顧問たちはむつかしい問題を抱えていた。オバマが、任期中にアメリカの最後の兵士まで帰還させる、という長期の目標を実現し、しかもアフガニスタンを安定化するには、どうすればよいか?
8月の初めに招集した国家安全保障会議NSCにおいて、オバマは参加者を見渡して、新しい現実を示した。「この部屋の熱病は克服された。われわれはもはや、国家再建に従事していない。」
その意味は、シチュエーションルームにいる誰も、14年間の戦争、莫大な戦費、2000名以上の犠牲者を出した後、アメリカがアフガニスタンを自衛できる民主主義の国にすることは考えない、ということだ。
同時に、オバマは付け加えた。「対テロ作戦は現実である。」 アフガニスタンの展望が暗い中で、アメリカが立ち去り、この国を再び過激派の巣窟にすることはできなかった。数週間後、オバマは撤退を中止し、アメリカは多数の兵士をアフガニスタンに永久に残す、と発表した。
これはバラク・オバマの重大な転換点であった。ジョージ・W・ブッシュが、イラクは「悪い戦争」だが、アフガニスタンは「良い戦争」だ、と呼んだ。それに対して2008年、オバマは反戦の大統領候補として約束したことを、破ったのだ。アフガニスタンでは勝利できる、とオバマは楽観し、永続する戦争の司令官となった。
他のいかなる紛争よりも、アフガニスタンの戦争が、戦争、平和、軍事力の行使に関する基本問題に関して、オバマの考えを形成した。ドローンに頼り、軍事介入の限界をさらに確信し、将軍たちと対立し、信頼できない外国の指導者たちを軽蔑するようになった。それはアメリカ兵を外国の戦場に送ることに対する疑念を強め、イラク、シリア、リビア、その他の戦場で、軍事力行使の拡大を嫌うようになった。
それはまた、彼自身の希望を打ち砕いた。
「これらの社会が安定し、より安全な環境で、人々がより良い暮らしを営めるように助けるとき、われわれはそれが、長期に及ぶ、非常に困難な過程になることを、理解しておかねばならない。」 オバマはインタビューでそう語った。
NYT JAN. 2, 2017
Marshall Plans, Not Martial Plans
By
CHRIS MURPHY
シリア政府によるアレッポにおける虐殺と、それを支援したロシア、イランは見るに堪えないが、他方で、シリアの人々を救出できなかったアメリカの姿勢も理解できない。
最初の教訓とは、短期的な行動が事態を悪化させたことだ。紛争は長期化し、人的な犠牲を増やした。内戦は、3つの方法で終結する。一方が他方を粉砕するか、双方が長期に戦うことで消耗するか、外から大国が介入して双方に和平を強制するか。
われわれはシリア政府軍が、ロシアとイランに支援されて、アレッポに侵攻し、第1のシナリオを実現するのを観た。われわれの失敗は、シリア内戦の持続期間、アサドが権力を維持できる期間を見誤ったことだ。その一方で、バランスを維持する十分な支援を出さなかった。
アメリカにはアサドを追放する準備がなかった。それは、オバマがアサドの化学兵器使用に対して空爆することに、議会の共和党員も民主党員も強く反対したことで明らかだった。議会指導者たちは、アサドに対して戦争を始めることに反対だった。私は、アメリカが戦争に加われば、シリアは泥沼になると確信していた。それはアレッポで観たものをはるかに超える破壊と犠牲をもたらしただろう。
それに代わって、アメリカは内戦を長期化する政策を進めた。われわれはシリア国内にも大規模に空爆したが、それはイスラム国を狙ったもので、シリア政府軍の支配地域には攻撃しなかった。われわれは反政府軍に武器を送ったが、それが敵に渡ることを恐れて、十分に強力な武器を送らなかった。彼らは戦闘を続けるだけで、勝利する、もしくは、アサドが交渉のテーブルに就くことは強制できなかった。
イラクを経験した後でも、アメリカの外交と軍事の専門家たちは、軍事介入が政治的安定性をもたらす、という考えに固執していた。それは妄想である。
邪悪な行為を目にして自制するのはむつかしい。しかし、傲慢であることはさらに悪い。アメリカはシリア内戦でどちらの側にも立つべきではなかった。もし最初から自制していたら、犠牲者はもっと少なかっただろう。
真に重要な問題は、社会が内戦を始める前に止めることである。現在の中東で、安定性の小島となっているヨルダンとレバノンを考えてみよう。アメリカが支援を増やすことで、両国がシリアのような内戦に陥ることを防げるだろう。70年前、第2次世界大戦後の荒廃に直面して、アメリカは経済再建のために支出することの価値を理解していた。1949年、アメリカはGDPの3%を援助に使った。現在、それは0.2%に過ぎず、93%も削減された。
リスクのある国や地域にマーシャル・プランを実施しても、世界平和を保証することはできない。ローマ帝国が崩壊してから、ヨーロッパが平和的に共存するまで、1500年もかかった。中東は、オスマン帝国が崩壊して、まだ100年しか経っていない。新しい秩序への道を見出していないのだ。
自制は直観に反し、残酷だと感じる。しかし、他の道は一層の残酷なコストをもたらす。最も人道的で、効果的な政策とは、崩壊を防ぐために、先に支出することだ。
FP JANUARY 3, 2017
Donald Trump: Making the World Safe
for Dictators
BY
JAMES TRAUB
1917年4月2日、ウッドロー・ウィルソンは議会でドイツに対する宣戦布告を演説する中で、歴史的に有名な言葉を述べた。「世界は民主主義にとって安全でなければならない。」 チャーチルとF.D.ルーズベルトは大西洋憲章に “the right of all peoples to choose the form of government under
which they will live.” と書いた。
それ以来、すべてのアメリカ大統領は、アメリカお安全保障が、外国における民主主義と個人の権利の拡大に依存する、と主張してきた。
しかし、ジャーナリストや批評家、政敵を攻撃する醜悪な姿勢が示したように、明らかに、次期大統領は民主主義の価値を軽蔑している。海外については、民主主義的な権利を無視する姿勢がさらに露骨である。ロシアのプーチン、トルコのエルドアン、エジプトのシシを、一貫して称賛した。
ジョージ・W・ブッシュのネオコンも、オバマの長機的な制度構築も、ともにトランプのような取引としての外交政策と異なるものだった。民主主義と世界秩序の関係を認めただけでなく、大統領たちは、アメリカの指導的な役割を受け入れていたのだ。
トランプが民主主義に対して示す敵意は、もはや偽善は要らない、ということだ。
オバマは中東の同盟国である専制支配者に注意を与え、深刻な事態も招いたが、他方で、シリア内戦の犠牲を抑える努力はせず、反政府勢力に不十分な支援しかしなかった。トランプは説教などしない。イスラム過激派の掃討では、公然と、アサドと協力するかもしれない。トランプは、ロシアを含む東欧の、非リベラルな諸国とも快適に過ごすだろう。
アメリカが、過去において果たした、民主主義的で、リベラルな諸原則を推進する役割を拒むなら、他の国がそれを指導することはないだろう。トランプが約束する、アメリカを再び偉大な国にする、という約束は、悲劇的な冗談でしかない。
FP JANUARY 4, 2017
Barack Obama’s Shaky Legacy on Human
Rights
BY
KENNETH ROTH
Bloomberg JAN 5, 2017
More Nukes? Bad Idea
Faye
Flam
銃と同じように、核兵器についてもアメリカ人の意見が分かれる。一方は、「より多く持つのが望ましい」という考え方だ。悪者が武器を持つのを止めるためには、良い者が多くの武器を持つ。他方、武器が少ない方が安全だ、と考える者もいる。それは、衝突の危険があるだけでなく、核兵器を多く持つほど、アクシデントの危険が増えるからだ。
トランプは前者らしい。科学者たちは後者である。それには直観以上の理由がある。第2次世界大戦で日本に使用された核兵器に比べて、その後の核の破壊力は大幅に強化された。通常の兵器と異なり、核兵器は環境に長期の影響を及ぼす。「スーパーファイアー」は諸都市を焼き、大量のススを大気圏に噴き上げる。それは10年にもわたり、太陽を遮るだろう。自国も含めて、地球上に死をもたらすことなく、核攻撃できる国はない。
ロシアとアメリカは、ともに7000発の核兵器を持ち、そのうち2000発を配備している。「だれかが格兵器を発射し、他国が何もしないとしても、環境破壊を介して攻撃した最初の国の誰もが死ぬだろう。それは自爆攻撃だ。」 Alan Robockは「核の冬」を解明した最初の学者たちの1人だ。
広島、長崎の核攻撃は、核の冬を生じる規模ではなかった。1つのトライデント潜水艦発射型核兵器は、広島の1000倍の影響をもたらす。ロシアがそれに応じることで、2800倍の広島をもたらす。最近の推定によれば、インドとパキスタンの、より小規模な核戦争でも、地球規模で破滅的な冷却化が起きるだろう。
偶発的な核戦争を恐れる理由もある。1979年、アメリカ中西部で、ソ連の大規模な核攻撃が始まったという語情報が流れた。1983、年ソ連では、アメリカの核ミサイルが5基、アメリカに向かってくる、という人工衛星の誤信号が届いた。1995年、ノルウェーの島で行われた科学実験の影響で、ロシアの早期警戒システムが誤作動した。それでもなお、多くの核兵器が発射サイロに準備されている。
アメリカのトランプ大統領は、人工衛星がロシアの核ミサイル発射を警告してから、約30分で、大規模な報復を決断しなければならない。アメリカのような早期系火器衛星システムのないロシアでは、もっと少ない時間しかない。アメリカが核兵器の「近代化」に1兆ドルを支出する計画は、他国の不安にする。
むしろアメリカは、間違った警報を出さないような早期警戒システムを支援し、ロシアの防衛力を改善する方が、世界を平和にするだろう。そのような協力は、アメリカが先制の第1撃を行う意志がないことを示すことになる。
● トランプの始まり
The Guardian, Friday 30 December
2016
The right is emboldened, yes. But
it’s not in the ascendancy
Gary
Younge
われわれは1つの慰めを見出す。
右派は勇ましいが上昇できない。センターが崩壊してしまい、リベラルは後退している。
Brexitでイギリスが得たはずの優位は、すでに実際の交渉における劣った地位で損なわれ、必要な物も、望んだ物も得られず、約束は果たされない。トランプの「エスタブリシュメントに対する革命」とは、指名される閣僚に億万長者の企業幹部が並ぶような、レッセフェーレでアメリカ第1を実現するものであり、経済を粉砕するだろう。
大きな雲が、低く、広がっている。展望は暗い。しかし、人々はより良い世界の提案を求めている。まだそれはない。
FT DECEMBER 30, 2016
Nine events that will shape the
world in 2017
Daniel
Dombey in London
トランプ大統領の就任式、イスラム国の掃討、フランス大統領選挙、イラン大統領選挙、アメリカの金利引き上げ、など。
NYT DEC. 31, 2016
Try a New Year’s Revolution
Jennifer
Weiner
Bloomberg JAN 1, 2017
My 2017 Prediction? Nothing Will
Change.
Satyajit
Das
The Guardian, Monday 2 January 2017
The Guardian view on the Arab
spring: it could happen again
Editorial
FT January 2, 2017
An optimist’s view of 2017
Nick
Butler
FT January 4, 2017
Brighter sides of an eventful year,
from Beirut to Bogotá
Roula
Khalaf
FP JANUARY 5, 2017
10 Conflicts to Watch in 2017
BY
JEAN-MARIE GUÉHENNO
FT January 6, 2017
Donald Trump unleashes business’s
animal spirits
Gillian
Tett
トランプ政権の閣僚は、政治経験よりもビジネス経験が豊富である。ビジネスで成功した者は楽天的だ。彼らの政権は投資家のアニマルスピリッツを刺激する。
● 開発の考え方を見直す
Project Syndicate DEC 30, 2016
A New Year’s Development Resolution
KAUSHIK
BASU, FRANCOIS BOURGUIGNON and JUSTIN YIFU LIN
Brexitやトランプを選んだ人々は、所得が増えないこと、失業の増大、不安定について、グローバリゼーションを責めた。発展途上諸国の市民も、長い間、同じような不満を持っていた。いわゆるワシントン・コンセンサスとは、自由化、民営化、インフレ抑制にだけ注意したマクロ政策、である。こうした伝統的な経済知識は見直すべき時が来たのか?
スウェーデン国際開発協力期間は、13人のエコノミストを招いて、この問題を検討するように求めた。そこには4人の世界銀行主任エコノミストが含まれる。
その結論によれば、開発経済学の考えのいくつかが現在の問題を生み出すことにつながった。特に、均衡予算とインフレ抑制だけに注意することは、自動的に、持続可能な、包括的な成長をもたらさない。そこで、開発政策が守るべき、新しい8つの原則を示す。
1.GDP成長は目的ではなく、手段である。人間の生活を改善する多様な取り組みのために成長が必要だ。雇用、持続的な消費、住宅、医療、教育、安全。
2.経済政策は積極的に成長を包括的なモデルに向けるべきだ。過度の不平等な分配は、社会的緊張、政治の混乱、暴力的衝突によって、経済パフォーマンスを悪化させる。
3.持続可能な環境は選択肢ではなく、国内でも、世界レベルでも、不可避の条件だ。気候変動は健康、住環境、生息域を脅かす。
4.市場、国家、コミュニティのバランスが必要だ。市場は基本的に社会制度であるから、資源の効率的な配分にも規制が必要だ。非市場のアクター、市民社会の諸制度が欠かせない。
5.マクロ経済的な安定性には弾力的な政策が求められる。伝統的に、均衡予算が絶対視されていた。より正しくは、財政や対外収支の均衡とは中期目標である。好況期に、財政赤字やインフレを抑えることが重要だ。
6.技術変化が不平等を強めることに注意するべきだ。機械化で、企業は賃金に支出しなくなり、株主の利益に分配されている。労働と資本との分配問題が、あたかも発展途上諸国の労働との対立であるかのように議論されている。必要なことは、人的資本を高める、再分配する、労働者の交渉力を高める政策だ。
7.社会規範、価値観、心の持ち方は、経済パフォーマンスに影響する。
8.国際社会も重要な役割を果たす。最近の例では、先進諸国の金融政策で、新興経済に資本流入し、流出した。また、移民規制、通商政策、タックスヘイブン規制も。
これらが世界の必要とする開発への新しいアプローチである。
Bloomberg JAN 3, 2017
Nigeria Could Teach the West a Few
Things
Tyler
Cowen
NYT JAN. 4, 2017
Mexicans Are the Nafta Winners? It’s
News to Them
By
AZAM AHMED and ELISABETH MALKIN
● プラザ合意Ⅱはない
Project Syndicate DEC 30, 2016
Will Dollar Strength Trigger
Intervention in 2017?
CARMEN
REINHART
政府は通貨価値の急落を防ぐために外国為替市場に介入する。また、通貨価値が高くなりすぎて、競争力を失うことを恐れて介入する。
ドルの通貨価値が増大している。それは金融政策がヨーロッパや日本に比べて引き締めに転じたからだ。また、予想外のトランプ当選も影響した。しかしドル高は、製造業の雇用を取り戻す、というトランプの約束に反する。
金融市場はそれを理解して反転するのか。そうでなければ、政府は介入するだろうか。アメリカは1985年にプラザ合意でドルの価値を下げることに主要諸国と合意した。
しかし、今はその条件が全く異なる。当時、日本は6%の成長をしていた。今は円高を恐れている。GDPの250%という国債を管理するためにも、日銀はインフレ率を高めたい。また、大幅な経常収支黒字を持つドイツは、ドル安に協力する立場だ。しかし、今ではユーロがあるために、協調の声はない。ECBはユーロを守るために、周辺部の回復を必要とし、ユーロ高を好まない。
たとえトランプが為替介入を決めても、単独で行うしかないだろう。
Project Syndicate JAN 3, 2017
Trump’s Tax Plan and the Dollar
EMMANUEL
FARHI, GITA GOPINATH and OLEG ITSKHOKI
● 中国の成長・内政・外交
Project Syndicate DEC 30, 2016
A Socialist Market Economy With
Chinese Contradictions
ADAIR
TURNER
中国の7年に及ぶ信用ブームは、債務/GDPの比率を150%から250%に高めたが、2016年に終わった、という意見がある。今後、銀行破たんが起きるのか、習近平の政治力が強まったことから、構造改革が進むのか、意見は分かれる。しかし、成長の大幅な減速は避けられず、デフレ圧力が増すだろう、と。
しかし、その反対のことが起きた。中央・地方の政府は借り入れを増やし、銀行と「影の銀行」の融資が急速に伸びてきた。中国人民銀行PBOCは、政府支出を融資するのと同じように、国有銀行への融資を増やしている。PBOCのSheng Songchengは、「社会主義的市場経済のマクロ経済管理は西側経済より優れている」と書いた。中国政府が金融・財政政策に持つ実質的な支配力は、最適な組み合わせを追求できる、と。
Shang
Fulin, Chair of the China Banking Regulatory Commission (CBRC)は注意した。「銀行の会長やCEOは、第1に共産党員であり、党書記である。銀行の会長であるのは副次的だ。」 信用による成長は債務の持続可能性によって制約されない。
ある意味では、ほとんどの債務が国家のシステム内で保有されている。政府は単に、不良債権を償却し、銀行の資本を補充すればよい。それは中央銀行が融資しても、紙幣を印刷してもよい。銀行が永久に貸し替え続けることも可能だ。
それは確かに投資の一部を浪費させるだろう。しかし、GDPの44%を投資する中国経済で、その4分の1が無駄になっても、11%である。GDPの33%を投資して急速な成長を実現できる。優れた都市インフラの整備や、上昇する実質賃金に応じた民間企業の機械化が進んでいる。
しかし、国民の貯蓄が海外に流出すれば、この成長は持続可能ではなくなる。たとえ3兆ドルの外貨準備があっても、30兆ドルの国内金融資産と比べてみれば、それでは不十分だ。年に5万ドルを合法的に持ち出せるが、1%の成人がそうするだけで、5000億ドルの資本流出になる。資本規制を強化するか、人民元の減価を許すしかないが、それはトランプの保護主義を刺激する。中国国内でも、人民元が安くなる前に購入するという動機から、インフレを加速する。たとえハイブリッド型の市場経済でも、開放型の市場とは両立できない。
矛盾の源泉は、国有企業や地方政府にハードな予算制約がないことだ。その改革には政治的限界がある。大量失業も、権力の分散も、指導者たちは望まない。しかし、改革が遅れるほど債務は膨張し、円滑な移行はむつかしくなる。
Project Syndicate JAN 3, 2017
A Bull Named Trump in a Shop Called China
YASHENG
HUANG
FT January 4, 2017
Cities offer a glimpse of China’s
economic future
Gabriel
Wildau, Yuan Yang and Tom Mitchell
FT January 4, 2017
The political price of Xi Jinping’s
anti-corruption campaign
Jamil
Anderlini
5年目に入る習近平の指導体制の下で、中国はますます抑圧的な、権威主義的な国になった。
それまでは、共産党幹部と西側との対話においては、民主的な中国へ向けて漸進的、平和的に移行する、というのが究極の目標であった。しかし、習近平がすべてを変えた。リベラルな民主主義を否定し、西側の政治思想を拒んだ。その代わりに、偉大な復活、を掲げて、中国皇帝がすべてを支配する時代への復古を求めている。
汚職追放キャンペーン、党の規律強化、といった習の示す重要課題は、大衆的な支持を得ているが、共産党や人民解放軍の官僚たちにそれほど支持されていない。しかし、彼らが権威主義体制の最も重要な構成員であることは間違いない。
キャンペーンは、下級の官僚たちが違法に得る利益を減らす、という表面的な成果を上げている。しかしこれは、市民への監視強化、自由な言論の抑圧を庶民に受け入れやすくするため、クリーンなガバナンスを約束したものだ。実際には、企業から官僚への賄賂が、直接、外国の銀行口座に振り込め、という形で増えている、という。
中国で汚職を根絶することが難しいのは、ある意味で、その社会システムに原因がある。公的な給与や便益はわずかなものであり、それに比べて、国家の代表者が操作する経済全般へのパワーは莫大だ。反汚職の機関も、この汚職の誘因を強めているシステムの一部でしかない。
さらに、歴史的、文化的な要因もある。
数千年の王朝興亡サイクルを通じて、帝国に及ぼす中央からの管理はしばしば弱まった。皇帝の官僚とその軍団は、地方にまで命令を守らせ、法を維持するはずだった。しかし、彼らはしばしば法や税制を曲げ、私腹を肥やす、略奪的国家のシンボルになった。また帝国が、何度も、外国による侵略を受け、征服された。漢民族の社会は中央権力に従わず、部族単位で集まって、独自に組織された。
中国人の家族や部族に対する忠誠心は、常に、国家に対する忠誠心よりも強かった。この文化的姿勢を変えるには、独立した強力な機関を築く長期の取り組みが必要だ。習近平の汚職撲滅と市民社会弾圧は、共産党体制の寿命を延ばすだけであって、長期的な安定性や繁栄をもたらさない。
その行き過ぎは官僚層の反感を強め、習が抑えようとした、市民の不満を招くだろう。
FP JANUARY 4, 2017
All Aboard China’s ‘New Silk Road’
Express
BY
ROBBIE GRAMER
中国東部からロンドンまで、7500マイルを16日間でつなぐ「新シルクロード」として、the Yiwu-London lineが最初の列車を走らせる。
それは中国の過剰生産力、特に鉄鋼やセメントの過剰供給に対して市場を拡大するだけでなく、地政学的な意味も大きい。その投資額は、すでに2500億ドルを用意しているが、総額で4兆ドルに達するだろう。
トランプ次期大統領が中国との貿易不均衡を問題にし、貿易摩擦が激化すると予想される。ヨーロッパ市場の拡大はその重要な非常脱出口にもなる。Brexit後のイギリスは、ますます中国との関係を重視している。沿線の諸国にとっても、中国外交に対する関心は非常に強い。
FP JANUARY 5, 2017
A Mass Gathering Organized on
Chinese Social Media? No Problem, Says Government
BY
JUNE SHIH
FT January 6, 2017
Beijing’s dangerous mix of trade and
security
韓国政府がミサイル迎撃システムをアメリカ軍から提供されることについて、中国は拒むように求めている。中国政府はこの問題を解決するため、韓国企業の中国における活動に介入することで韓国政府に強制するつもりだ。
政府が自国の防衛能力に関する懸念を持つことは正しいが、それを通商関係に持ち込み、短期的な脅迫を行うことは外国企業を不安にし、中国自身の利益にならない。むしろ東アジア地域における安全保障で指導的な役割を果たすべきだ。
(後半へ続く)