IPEの果樹園2017

今週のReview

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フェイク・ニュースの時代 ・・・グローバリゼーションと政治 ・・・危機と政治経済学 ・・・ロシアによる情報操作・政治介入 ・・・リアリストの守るリベラルな社会 ・・・不平等と資本主義の関係 ・・・ソ連崩壊からiPhoneまで ・・・トランプ大統領 ・・・所得の移転・補償 ・・・ティートマイヤーの訃報 ・・・支配か,協力か

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


● フェイク・ニュースの時代

The Guardian, Friday 23 December 2016

The Guardian view on Donald Trump: years of living dangerously

Editorial

ドナルド・トランプの当選は、2016年の他の何よりも、世界に衝撃を与えた。トランプの閣僚指名は、低税率、小さな政府を好む者や、気候変動を否定する石油ビジネスマン、長い軍歴を示す者、といった白人男性が圧倒的である。

トランプほど、アメリカを憎しみの国にした候補者はかつていなかった。トランプほど、激しい敵意と抗議活動、そして何より、アメリカ人に道を見失わせた大統領当選者はいなかった。

2017年と今後の最大の問題は、トランプの個性、判断、行動パターンが、アメリカとその統治形態にどのような衝撃を与え、変形するのか、ということだ。世界で最も重要な民主主義国がトランプを、すなわち権威主義的なデマゴーグを選んだことは、根本的な疑問を生じる。アメリカは機能していないのか、その歴史的な規範は失われ、1つの破たん国家になったのか?

もちろん、そうではない。しかし、1930年代との共鳴は真剣に考えるべきだ。トランプは、自国が破壊され、腐敗し、暴力が蔓延していると批判した。彼がこの3つの問題の答えである、と。アメリカは明らかに機能していない。それが不安を高めた。その不安定化に乗じてトランプが登場したのだ。彼は普通の候補ではなかったし、選挙は普通の選挙ではなかった。トランプは普通の大統領にならない。アメリカはもう1つのアメリカになるだろう。

ピッツバーグで、トランプは歓声を上げる群衆に向けて話した。「われわれはこの偉大なペンシルバニアで勝利する。そしてホワイトハウスを取り戻すだろう。・・・われわれが勝利すれば、かつてのように、鉄鋼業はペンシルバニアに帰ってくる。われわれが鉄鋼労働者や鉱山労働者たちに仕事を取り戻す。それは我々だ。」

この話は真実ではない。トランプはわずかの差でペンシルバニアの勝利を得た。しかし、280万人以上も多い人々がクリントン夫人を支持した。トランプに投票したのは裕福な人々で、貧困層ではなかった。しかし、ペンシルバニアのような下線区でトランプに勝利をもたらしたのは白人のブルーカラー労働者たちであった。

とはいえ、彼らはトランプの約束を信じてはいない。双方に戦術的な理解があった。すなわち、トランプは嘘をついた。有権者はそれを知っていた。彼らがトランプに投票したのは、彼がシステムを破壊するからだ。しかし彼らは、同時に、システムがその無謀な選択の最悪の効果から自分たちを守ってくれる、と信じたのだ。その意味で、トランプ支持はBrexitと似ている。

有権者がトランプを信じなかったとしても、彼らはこの予測できない、今までにない危険な大統領を生んだ。トランプは最終的に失敗するだろう。なぜなら彼を11月に勝利させた人々は、彼に満足できないからだ。

トランプ大統領の2017年は、アメリカと世界にとって恐怖の未来となる。

FT December 23, 2016

What to do when the ‘truth’ is found to be lies

Timothy Garton Ash

ゲッベルスやスターリンに言及しなくとも、全体主義の嘘についてソルジェニーツィンやジョージ・オーウェルが解剖した。

新しい危険とは、「真実後」の時代と言うより、「事実後」の時代が来たことだ。事実に依拠しない主張が民主主義を脅かす。感覚が事実を圧倒する。たとえオバマが出生証明書を公表しても、トランプは「多くの人がそれを疑わしいと思う」と主張して、攻撃をやめなかった。真実ではなく、真実らしさが重要な時代になった。

政治ニュースにおいて、事実を検証することはすでに行われている。インターネットがもたらした、迅速かつ効果的に反対論が現れる時代を有効なものにするため、インターネット・リテラシーをすべての学校で教えるべきだ。大学は、厳密な証拠に基づく分析をカリキュラムに広く取り入れる必要がある。

ビジネスとしてのニュース・メディアがフェイク・ニュースに駆逐されるときには、慈善団体が支援して、独立の調査報道やジャーナリズムを守るべきだ。

ハイテク企業は、プーチンのように混乱を煽るフェイク・ニュースの流布や、虚偽のオンライン広告で利益を上げる行為を追跡し、排除しなければならない。Google, Facebook and Twitterでは、多数の人々がニュースを求めて検索している。こうした「プライヴェート・スーパーパワー」が果たす公共的責任を重視しなければならない。それは単に、グローバルな公共圏を築くための礎石を提供する、というのではない。「あなたの友人が好むか」という基準を示すことは、フェイク・ニュースを駆逐するのに役立たない。

中立的な仲介者、という立場は維持できない。フェイク・ニュースの報告を受けること、検証団体の合意があれば、危険を示す旗・目印を付けることができる。しかし、Facebookがそのデータベースを公表しないなら、われわれは彼らの検索エンジンが正しく機能しているかどうか、チェックできない。すべての権力が精査されるように、Facebookの持つパワーも精査されるべきだ。

しかし、Facebookを「真実を決める機関」にしてはいけない。虚偽を排除するための不可欠なパートナーである。

公平で、オープンな社会を築くために、われわれは格闘している。


● グローバリゼーションと政治

FT December 22, 2016

My Christmas tree lights and the success of globalisation

John Gapper

ロンドンの自宅に、先週、鮮やかなモミの木を運び込んだ。クリスマスを祝って、私たちはその下でプレゼントを交換する。

当たり前だと思うかもしれないが、クリスマス・ツリーやその飾りは、着実な技術革新と、世界規模での企業間競争が実現したことの典型である。温かい、白色のLEDライトが、かつての白熱電球に代わった。しかも、それは安全で、非常に安い。

われわれはそれらをAmazonのサイトで購入した。価格とカスタマーの星の数で決めた。それはロンドンの小さな会社、Ansioが販売していた。Ansioはフィンランド語で、“merit” or “worth”の意味だが、感じが良くて、Aで始まるから。しかも、まだ使われてなかったから設立者たちが選んだ。

Ansioの設立は2014年で、インド生まれの3人の移民企業家が始めた。彼らは電子的な飾りから、照明、特に装飾的なLEDを扱った。パートナーが広東の商品展示会を観て回り、生産者を探した。それは広州で年2回開催される最大の展示会だ。

彼らはNingbo寧波の生産者を選び、訪問して製品の質をチェックした。そこには多くのLED生産者が集まっており、日本や韓国の生産者と激しい価格引き下げ競争をしていた。

クリスマス・ツリーのライトは、寧波から地球を半周して届き、イギリスの税関を通過して、倉庫からはAmazonが配達した。Amazonのカスタマー・サービスと配達のバック・オフィスの仕事は、遠く離れたインドの労働者がインターネットを通じて行った。小さな企業でも、こうしてグローバル・サプライ・チェーンを利用している。

ライトの話では、グローバリゼーションが半分で、残りの半分は技術革新だ。アメリカがクリスマス・ツリーをろうそくで飾ったのは、ドイツの伝統に従っていたからだ。1882年、エジソン電燈会社が1882年に電燈をツリーに灯した。1903年、その会社はGEとして、24の電燈を12ドルで売っていた。

1962年に、GEの科学者がLEDを発明したが、初期のLEDは赤色で、時計や計算機に使用された。証明としてオフィスや部屋に使われたのは、10年前であるが、それはPhilipsなどの企業が青色のLEDを作って、白色の電燈にしたからだ。

技術が急速に改善され、より明るく、より安価になった。それとともに「規模の経済」が働き、中国はLED生産に進出し、世界の生産能力を飛躍させた。だからこそ、われわれはこれほど安く買える。1903年に、GEからクリスマス・ツリーの電燈を300個買えば、現在の物価で、3870ドルもかかるだろう。

クリスマスを祝う照明は喩えである。イギリスのインド系企業が、アメリカのインターネット販売を通じて、中国製のLEDをフィンランドの企業名で売っている。グローバリゼーションや技術革新は、今年、非常に不人気になった。それは開発の進んだ諸国で職を奪い、コミュニティーを破壊すると非難された。しかし、物質的な豊かさも実現した。

多くのモノが容易に、安く、しかも、かつてより改善された形で購入できる。われわれはそれを許すことで、進歩し続ける。

メリー・クリスマス。


● 危機と政治経済学

Project Syndicate DEC 23, 2016

The Crisis of Market Fundamentalism

ANATOLE KALETSKY

経済危機の後には、数年遅れて、政治危機が生じる。2008年の金融危機が、政治制度への信頼性を砕き、改革の動きを呼ぶのだ。

漸進的な改革派は、移民、貿易、所得分配に関する不満に応えようとしたが、システム全体に挑戦する過激な政治的主張に敗北するだろう。

経済競争は国民所得を増やすが、それを社会的に受け入れ可能な仕方で分配するとは限らない。そのためには、少なくとも2つの視点から、政治的な介入が必要だ。第1に、マクロ経済管理で需要の増大を維持し、それが技術革新やグローバリゼーションによる供給の増大に見合うようにすることだ。第2に、社会的結果や経済構造に及ぼす政府介入の意味を理解する知的革命だ。

市場原理主義は根本的に矛盾している。自由貿易、技術進歩、その他の経済効率性を高める力は、社会的に有益であると言うが、それは誰も不利益を被らないと考えるからだ。このパレート最適性は、自由化政策の利益を、勝者から敗者に再分配することが前提されている。市場原理主義は、むしろこれに反対する。

彼らによれば、税金、社会福祉、その他の政府介入は誘因を歪め、競争を損ない、社会全体の経済成長を損なう。今年の政治混乱の後、社会的利益と個人の損失との重大な対立がもはや無視できなくなっている。それはサッチャーやレーガンがタブーとしたことだが、貿易、競争、技術進歩が次の資本主義の局面をもたらすには、必要とされている。

Project Syndicate DEC 23, 2016

Economists versus the Economy

ROBERT SKIDELSKY

正直になろう。今、世界経済に起きていることは誰にもわからない。回復に向かうのか、「長期の停滞」に落ち込むのか? グローバリゼーションは来るのか、去るのか?

政策担当者たちは何をしたらよいのかわからない。彼らはいつものレバーや、普通は使わないレバーも押すが、何も起きない。量的緩和でインフレは起きず、財政引き締めで投資家の自信も回復しなかった。

マクロ政策が効かないのであれば、「構造改革」しかない。しかし、それが何を意味するのか、何の合意もない。威信を失った指導者たちは有権者の不満を刺激する。経済は彼らによって管理されるはずであるのに、政治への要求は厳しくなる。

2008年までは、専門家たちが事態をコントロールできると思っていた。しかし、住宅バブルは起きていたが、それを軽視した。「なぜ嵐が来るのを見逃したのか」とエリザベス女王はエコノミストたちに問いかけた。「聡明な人々は集団的な想像力に欠陥があった」と彼らは説明した。

それに賛成しないエコノミストたちは、経済学の教育に欠陥がある、と考えた。ほとんどの経済学部の学生は、心理学、哲学、歴史、政治学を学ぶよう求められない。彼らは、非現実的な仮定をともなう、わずかな経済モデルを学び、数式を解いて能力を試される。全体像をとらえる精神的な道具は決して得られない。


● ロシアによる情報操作・政治介入

FP DECEMBER 23, 2016

The Kremlin’s Economic Grip on Europe

BY MARTIN VLADIMIROV, RUSLAN STEFANOV

ロシアは東中欧の諸国において、非リベラルな政党を支援している。さらに、多くの賄賂を贈って、政治家や企業を腐敗させている。そもそもこの地域の経済は、ロシアの石油・天然ガスに依存している。それはモスクワの主要な経済的チャンネルだ。また、エネルギー部門は政治との関係が深い。また、金融危機以降も、ロシアの影響力は金融、メディア、情報、輸送、建設、不動産で拡大した。ロシア企業はスポーツや文化にも投資している。政府が制裁を受けているので、こうした民間投資が重要だ。

NYT DEC. 26, 2016

Putin Sees a Happy New Year

By MICHAEL KHODARKOVSKY

プーチンのやったことは新しいことではない。ロシアは昔からそうだった。『シオンの賢者の議定書』は、ロシア皇帝の秘密警察が作った悪名高い偽書で、1903年にロシア語で発行された。世界を征服するユダヤ人の計画を描いたものだと称して、いたるところで反ユダヤ人差別のバイブルとなり、ナチスが広く利用した。

現在、ロシアはアメリカ大統領選挙に介入し、イタリアの国民投票でレンツィに関するフェイク・ニュースを流し、スウェーデンのNATO加盟に関する論争にも介入した。東欧でも多くの国でサイバー攻撃や選挙妨害を行っている。9月に選挙を控えたドイツでは、サイバー攻撃とフェイク・ニュースに直面している。

ロシアのサイバー活動は、外国政府を混乱させ、不安定化し、究極的にはロシアの目的に対して軟弱な政府にすることを目指している。それは民主的な社会やその価値に対する攻撃だ。それは軍事侵攻によって新しい政府を樹立することに等しい。

クレムリンの主要なプロパガンダ専門家であるDmitri Kiselevは、ロシアテレビのインタビューにシニカルな形で答えた。「現在では、1人の敵の兵士を殺害するのに、第2次世界大戦や第1次世界大戦、中世の戦争に比べて、はるかに金がかかる。」「もし彼を説得できれば、殺す必要はないのだ。」

われわれはモスクワが次の1世紀の方向を決めるのを許してはならない。西側の民主主義諸国を、腐敗した専制的社会に向けてパレードすることを指揮するものだ。


● リアリストの守るリベラルな社会

FP DECEMBER 23, 2016

The World Can Have Peace and Prosperity, If It Wants

BY STEPHEN M. WALT

海外における平和や善意の見通しは失われていく。内外の政治が暴力と紛争に落ち込むのを避けるには、何が間違っていたのか真剣に反省し、現在のアプローチを再考するべきだ。

私は、国際平和がアメリカの国益だ、という論説を1年前に書いた。しかし、大統領候補たちは誰もそれを主要なテーマにしなかった。それどころか、1人の候補はさまざまな異常な発言、好戦的な態度を繰り返し、最後には、この男が勝利した。

アメリカだけでなく、EUも緩やかな解体に向かっているように見える。シリアは壊滅された土地となり、Afghanistan, Yemen, Somalia, Iraq, South Sudan, and Libyaは、なお暴力に沈んで、その終わりが見えない。アジアの政治情勢もパワー・シフトが始まり、アメリカ次期大統領は「1つの中国」政策を見直し、TPPを破棄すると述べて、中国を挑発しながら管理し、アジアにおけるアメリカの地位を下げるつもりのようだ。

国家主権に対するウェストファリア型アプローチの優れた点は、明快な境界線を引き、違反行為を即座に指摘できることだ。この特徴によって、戦争を不可能にすることはできないが、攻撃を明白にして、国家が知らない罠を踏んで偶発的な戦争に陥りにくくした。国家主権の規範は失われ、他国への介入手段がより多く、しかも高度になるにつれて、国家は、他国が国内の政治に介入することを恐れる理由が増え、相互に危険を高め合い、報復を繰り返すようになる。ハッカー、サイバー兵器、ドローン、その他の軍事兵器が広まる世界では、特に指導者がリスクを無視している場合、誤算や、不慮のエスカレートを起きやすい。

アメリカ国内の平和に向けた展望も悪化している。Steven Levitsky and Daniel Ziblattが、今週、NYTで論じたように、安定した民主主義には、機能する経済、信頼できる選挙、洗練された憲法があるだけでなく、フェアプレイと自制心というインフォーマルな規範が必要である。彼らはこれを「ソフトなガードレール」と呼んだ。規範が有効であるのは、政治的なライヴァルも、同じ政治コミュニティに属しており、一時的な政治的優位を権力保持のために、そして、権力を固定化するために利用するべきではない、という信念を共有しているからだ。

しかし、今ではこうした規範が確実に崩壊しつつある。その結果は、むき出しの、何のルールもない、禁止する行為などない権力争いである。アメリカの立憲的秩序や国内的な安定性も当然のこととみなせなくなっている。

1990年代の初めには、こうした事態は全く予想されてなかった。多くの専門家が、共産主義の敗北により、アメリカとその他の世界は長期の平和と繁栄の時代に入る、と予想した。民主主義と自由市場が広まり、グローバリゼーションは普遍的な繁栄をもたらすものだった。この楽観のどこが間違っていたのか?

まず、アメリカの主要政党でリベラルな国際主義の支持者が、間違いを含んだ国際平和論を信奉したことだ。経済的相互依存は、諸国を団結させ、紛争を不合理で不可能なものにするはずだったが、相互依存は暴力的な衝突に対する信頼できる障壁ではなかった。グローバリゼーションは約束した成果をもたらさず、まったく遠くの土地で起きた経済変化、特に金融パニックに対する各国の脆弱性を高めた。2008年のウォール街崩壊で、エリートたちの知恵が疑われ、知らないことを恥じないポピュリズムに2016年は侵略された。

次に、アメリカの指導者たちは、民主主義が広まれば平和になる、と信じていた。新しい民主主義国にはアメリカが安全保障を与えた。しかし、この理想主義的な考えはリアリストの基本原理を無視したものだ。NATO拡大はロシアとの親しい関係を悪化させ、グルジアやウクライナなどで、ロシアの反撃にあった。他方、中東における民主主義の拡大は、地域全体で既存の政治制度を破壊し、統治不能な一帯からアルカイダやイスラム国家などが現れた。

3に、多くの学者や評論家はアメリカのパワーが圧倒的であるから、今後、長期的に紛争を抑え込むことができる、と考えた。しかし、アメリカ政府はどこでも、新しい政治秩序を押し付けることに失敗した。他の諸国が能力を高めると、アメリカの世界全体に及ぶ治安維持能力は低下した。

ワシントンの外交における最優先事項は、平和の維持ではなかった。逆に、民主党員も共和党員も、無法国家の撲滅、民主主義の普及、軍縮と兵器の流出、アメリカ指導の国際機関に参加するため他国が国内政治改革を進めること、に関心があった。この理想主義的な超党派が信奉するリベラル・ヘゲモニーこそ、オバマがムバラク大統領の追放を支持し、シリアのアサド大統領に「辞任せよ」と求めた理由である。

私はリベラルの理想を誰よりも好ましいと思うが、それはアメリカ外交の基礎にできないし、安定した平和の処方箋にもならない。


● 不平等と資本主義の関係

NYT DEC. 23, 2016

Growth, Not Forced Equality, Saves the Poor

By DEIRDRE N. McCLOSKEY

不平等に対する怒りがアメリカ大統領選挙を支配した.しかし,論争は盛んだが,明晰さは乏しい.

貧困の撲滅は明らかに良いことだ.幸い,それは世界的規模ですでに起きている.世界銀行によれば,歴史上かつてないほど,最も貧しい人々がまともな暮らしをするのに必要なものを利用しやすくなっている.上海が悲惨な場所であったのはそれほど以前のことではないが,今や,アメリカの最もモダンな場所のように見える.しかも,もっと良い道路と橋がある.インドの実質所得は10年で2倍になった.サブサハラ・アフリカでも成長が始まった.豊かな諸国の貧困層も,1970年より暮らしは改善し,食糧,医療,エアコンのようなアメニティーを得ている.

イギリスの偉大な小説家Anthony Trollopeは,1867年の小説“Phineas Finn”で書いた.男女同権を説くヒロインに,ラディカルで,もっと長い展望を持った友人が,No, と応える.平等とは醜い世界であり,恐れるべきだ,と.むしろ,自分より生活水準の低い人々を助けるべきだ.

貧しい人々が,住む場所,食べるもの,読書と投票の機会,そして,警察や裁判所で公平に扱われることは倫理的に重要だ.ハーヴァードの著名な哲学者John Rawlsは,差異の原則,と呼んだ.裕福な企業家が最も貧しい人の生活を改善するなら,企業家の所得が増えることは正当である,と.

貧困は決して良いことではない.しかし,経済的な差異も含めて,差異はしばしば良いことだ.ニューヨークと,カリフォルニアと,上海の人々は財を交換する.政治が貿易を邪魔するのはばかげている.

経済的な平等が実際に目標にできるとしたら,それは小さな社会,家族がピザを分け合うような場合だけだ.大きな社会で,正当な,十分に配慮したやり方ではできない.特化の進んだ,ダイナミックな経済には合わない.もしやるとしたら,暴力的な方法になる.

だれの富を削るのか? どのくらい削るのか? 無私の人々が作る政府はどのように再分配するかを知っている,と信頼することは,ナイーブである.事実はそうではない.脳外科医とタクシー運転手が同じ報酬なら,脳外科医は足りなくなる.人々に職を与えるすべての中央計画は,平等も実現するだろうが,それは暴力的で,魔術でしかなかった.スターリンのロシアや毛沢東の中国が試みたが,おびただしい暴力を用いた.

国家が暴力的にビル・ゲイツから富を奪い,ホームレスに再分配することはできる.われわれはセーフティネットを整備して,暴力を抑えるべきだ.また,富裕層から貧困層への再分配で実現できる平等は少ない.上位20%の所得すべてを下位80%に与えても,その生活は25%改善されるだけだ.もし繰り返し行うなら,富裕層はアイルランドやケイマン諸島に移住するだろう.

貧困の問題を解決するのは,よりよいものを手に入れるために交換することから生じる成長である.韓国の経済成長は最貧層の実質所得を1953年の30倍に増大させた.環境の制約に配慮し,豊かなエンジニアが増えるような,成長を高めることだ.炭素の固定化技術や,新しいエネルギーを見つけた者が報酬を得る.それはすべての者を豊かにする.

マルクスとエンゲルスをまねれば,「すべての労働者は団結せよ.経済停滞の他に失うものは何もない.リベラルな社会で,交換による生活改善を求めるのだ.」

それを資本主義という.

NYT DEC. 29, 2016

Help for Australia’s Coal Workers

By MEGAN McGRATH

インドのコングロマリットAdaniが所有する30マイルに及ぶ巨大な炭鉱の開発がクイーンズランドに許可された.オーストラリアの遠隔地における炭鉱開発を担うのは,”fifo” と呼ばれる一時雇用契約の労働者たちである.彼らは鉱山で,食事,シャワー,ベッドを提供され,航空券を得て,自宅と繰り返し往復する労働者だった.彼らの多くは高い賃金に魅力を感じて集まった,教育をあまり受けていない,若い労働者たちだ.

かつて2003-2015年のブームでは,Adanififo労働者を利用して,12時間の交代制,週7日間で3週間まで働き,それから帰宅して1週間休む,というサイクルを求めた.労働者たちは近隣の町からも離れ,レジャーもなく,家族から切り離されてロボットのように働いた.多くの者が共有ベッドで眠った.その結果,彼らの間に高い頻度で鬱状態や不安が強まった.


● ソ連崩壊からiPhoneまで

Project Syndicate DEC 26, 2016

A Growth Agenda for China

MICHAEL SPENCE and QIAN WAN

中国が成長を持続するために決定的な要因がいくつかある。

トランプ大統領の下で、アメリカとの関係がどうなるか。ヨーロッパの政治不安がどうなるか。アジア諸国が中国との貿易・投資協定を結べるか。資本流出の増大やトランプのもたらすドル高に応じて、人民元の為替レートがどうなるか。

しかし、それ以上に中国内部の要因が重要だ。実体経済の減速、民間部門の弱さ、過剰生産力、過度のレバレッジ、住宅価格の高騰、などから、金融部門が問題を抱えている。中国の銀行業はいまだに国有企業 (SOEs) と地方政府系金融機関 (LGFVs)によって融資を拡大している。SOEsは影の銀行によっても借り入れを増やしている。

これは経済全体の成長を損なうものであり、中央政府はSOEs改革を推進している。しかし、銀行は民間部門のリスクを恐れて融資を好まず、地方政府は失業増大と社会不安を恐れている。SOEsはさまざまな優遇政策、補助金、免税、融資を得られる。

SOEsへの偏りをなくすことが、高い成長のために必要だ。

NYT DEC. 29, 2016

How China Built ‘iPhone

By DAVID BARBOZA

中国の中央に位置するZhengzhou鄭州にあるFoxconnのプラントは、世界最大のiPhone工場だ。世界のiPhoneの約半数を生産するFoxconnを誘致するために、鄭州市の地方政府は多くの優遇措置を施した。

●生産複合施設の建設費用6億ドルを一部負担し、融資した。

●労働者の住宅建設10億ドルを支出した。

●電力コストを5%値下げした。

●発電所や24キロに及ぶパイプラインなど、インフラを整備した。

●法人税と付加価値税を5年間免除した。次の5年間は半減する。

25000万ドルの譲許的融資を市政府が与える。

●労働者の雇用、訓練、新採用のための補助金を負担する。

●社会保険その他の支払いを年間1億ドルに抑える。

●輸出を伸ばせばボーナスを支払う。

●輸送コストに補助金を与える。


● トランプ大統領

Project Syndicate DEC 27, 2016

The Age of Incompetence

J. BRADFORD DELONG

共和党のアメリカ大統領は,ジョージ・HW・ブッシュその多くが無能だった.ニクソンは知識があったけれど,その人物が好ましいものではなかった.レーガンの無知をサッチャーは辛らつに語ったが,彼は役柄を心得ていた.ハリウッドでも,ホワイトハウスでも,与えられたセリフを覚え,作品が最後にどうなるかは任せたのだ.ジョージ・W・ブッシュはレーガンであるように期待されたが,自分で考えようとして,副大統領や国防長官の仲間となり,大失策を犯した.

トランプはどうか? 政治を何も知らず,自分は有能だと自慢し,ボスになる.

Project Syndicate DEC 28, 2016

The American Public Against Trump

ALAN S. BLINDER

アメリカ人は,その民主主義が成功モデルではなく,失敗する例を示した.投票数も,投票時のトランプの評価も,その当選を支持していない.

主要な問題で,トランプの主張や指名する閣僚たちはアメリカの世論と対立している.温暖化防止は重要だし,アメリカ人は富裕層や大企業への増税を望んでいるのだ.唯一,グローバリゼーションに関して,トランプは世論の多数に属するが,その保護主義はアメリカと世界を不幸にする.

なぜトランプは当選したのか? クリントンや多くの者が,ロシアのサイバー攻撃と,FBIのコニー長官を非難する.


● 支配か,協力か

Project Syndicate DEC 29, 2016

Learning to Love a Multipolar World

JEFFREY D. SACHS

アメリカがグローバルな協力を推進するか,あるいは,鬱屈した野心から生じた軍事拡大主義に向かうか.その選択がアメリカと世界の将来を決める.

世界人口の4%しか占めず,世界生産に占める割合も下がり続ける中で,アメリカは新しい軍備拡大競争や保護主義的貿易政策でグローバルな支配という幻想にしがみつく.そうすることが世界は,アメリカの傲慢さと軍事的脅威に対抗する同盟に向かう.アメリカは,古典的な「帝国の過剰拡大」に陥り,遅かれ早かれ破産する.

正気であれば,情熱的に,開放的に,グローバルな協力を推進し,21世紀の科学技術を活用して,貧困,病気,環境の脅威を取り除くべきだ.多極世界は,安定した,繁栄する,安全なものになる可能性がある.多くの地域大国が登場することは,アメリカに対する脅威ではなく,新しい繁栄の時代に向けた機会であり,建設的な解決の道があるはずだ.

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The Economist December 17th 2016

China’s digital dictatorship

China’s social-credit system: Creating a digital totalitarian state

War in Syria: The fall of Aleppo

Taiwanese politics: From riches to rags

Pax Trumpiana: Allies and interests

The Asian Development Bank: The incumbent

Venezuala’s monetary madness: Cash and grab

Free exchange: Rage against the dying of the light

(コメント) 中国のインターネット管理は予想に反して成功し,デジタル全体主義社会に至るかもしれない,と記事は懸念します.民主主義社会ではそうではない,という仮説に,トランプとバノンは試されます.他方,国際秩序ではパックス・アメリカーナからパックス・トランピアーナに変わるのか? その時代を予想します.

どちらの動きもまだ始まったばかりです.アジア開発銀行を改革し,内外の通貨制度を改革し,地域的な不平等を解消する動きもあるはずです.

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IPEの想像力 1/2/2017

紅白歌合戦の前に、テレビで「初音ミク マジカルミライ2016」のコンサートを観ました。歌詞とメロディーを入力すれば,歌を歌いだす,というロボットやAIの原型です.舞台に上がったミクの映像にペンライトを振って参加者が共鳴する姿は印象的です.ミクは彼らの協働作品です.

初音ミクとドナルド・トランプがネット上でぶつかったら、どちらが勝つのか? そんな疑問を持ちました。攻撃的な極右のセリフと声で,大衆に向けた煽動演説を繰り返す政治家のボーカロイドが現れるのは簡単です.

紅白では,香西かおり、椎名林檎、2人の歌が続きました。それはともに恋愛歌ですが、歌詞や演出は全く異なる世界でした。集団で舞台に上がって,歌や踊りを披露するさまざまなアイドル・グループがいる半面,フォークソング,民謡,演歌もあります.

少子化を心配する一方で、インターネット恋愛に夢中でミックミクにされる若者たちや、深夜まで浴びるほど酒を飲まされる営業回り,上司のセクハラ,パワハラに苦しむ若い社員たち、長時間労働とAIやロボットたちとの競争激化に従うしかない,と諦める人々がいます.自分の町で死にたい,と自宅を提供して,ホーム・ホスピスに改造するする人もいます.

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職人たちが作る物にこだわる姿は,私たちの「郷愁」だけでなく新しい「共感」を呼びます.

「和風総本家 日本の職人」は,櫛・クシの職人,鋏・ハサミの職人を紹介していました.着物を着る人が少なくなり,プラスチックの櫛や100円ショップの鋏でも十分だ,と思うようになりました.多くの寿司職人が回転ずし屋によって廃業したと思います.

日本の伝統工芸は,外国人観光客や外国の職人が彼らの製品を手にしたからです.職人とその工芸品を愛用する人との感動は,互いの姿を映像として結びつけたことで生まれます。彼らの技量を称賛し,感謝する人が,フランスやイタリアにいました.

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インドの企業Adaniがオーストラリアの炭鉱を開発するとき,そこで働くのは“fifo” (fly-in, fly-out jobs) と呼ばれる一時雇用の労働者たちであり,彼らは飛行機で遠隔地に通勤するという話に驚きました.

中国の鄭州に世界最大のiPhone生産拠点があり,この工業団地を動かすのはAppleから生産を請負った台湾企業Foxconnと地方政府の支援である,という話にも驚きました.

ロシアの国際的な情報戦争や外国の選挙に対する介入が真実であるとすれば(真実だと思います),安倍首相がプーチンとの友情を確信することの恐ろしさを痛感します.

他方,米中関係の新しい展開において,台湾や南シナ海,東シナ海,沖縄も,ゲームのカードになることを恐れます.

欧米における監視カメラの大量設置やテロ対策としての諜報活動,GoogleFacebook情報収集・分析技術と,中国の目指す共産主義的な(共産党が支配する)「調和のある社会」を実現するために社会管理を個人レベルにまで広げる試みには,共通した懸念があります.

現代のウェストファリア体制を担うには,すべての大国が核兵器や戦闘機,ドローン,空母だけでなく,the Great Firewall(好ましくないサイトへのアクセスを遮断する), the Golden Shield(ネットを利用して個人の思想や行動を監視する), the Great Cannon(敵対的なサイトや人工衛星を破壊する)を持たねばなりません.

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2017年の最初のエッセーを書くために,バノンを検索して,ウォール・ストリート・ジャーナルの社説「スティーブ・バノン氏とは何者か? 「レーニン主義者」を自称するトランプ次期政権の主席戦略官」を読みました.

ロボットやAIと共存する時代が来るまでは,人だけでなく,多くの組織や社会集団,制度や国家も,生死を賭けた革新に取り組みます.その動きが「怒り」や「憎悪」を刺激することで加速できる,とは思いませんが,多くのバノンが出番を待っているのでしょう.

しかし,彼らを止めるため,初音ミクが立候補するでしょう.彼女の歌う政治や社会,国際関係の未来が,若者たちの改革に向かう共感を支えます.

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