IPEの果樹園2016

今週のReview

12/26-31

*****************************

悲観と楽観 ・・・トランプ・ブーム ・・・トランプ政権の閣僚たち ・・・孫正義 ・・・シリア内戦の転換点 ・・・安倍・プーチンの温泉会談 ・・・不確実性の時代 ・・・トランプの経済戦争 ・・・脱税の社会環境 ・・・ホームレスと老人 ・・・ベーシック・インカム ・・・リベラルな民主主義の防御 ・・・ロシア大使暗殺 ・・・ドイツの秩序とポピュリズム ・・・廃貨の意味 ・・・ソ連崩壊の意味 ・・・ロボットと人間の補完的社会

 [長いReview]

******************************

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  悲観と楽観

FP DECEMBER 12, 2016

The Case for Optimism

BY DAVID ROTHKOPF

歴史的に観て、われわれは楽観論を支持することができる。Thomas Friedmanが新著Thank You for Being Late: An Optimist’s Guide to Thriving in the Age of Accelerationsで示したことは、現実を理解すれば、恐怖は消える、ということだ。しかし、中東の30年間を取材した人物が楽観論を支持するには、もっと歴史的な変化を知る必要があった。

世界はかつてなく平和で、人々は長生きし、多くの富を享受している。技術革新を悲観するべきではない。事態を改善する人々の能力は高まっている。

FP DECEMBER 12, 2016

The Only Way Forward

BY ANNE-MARIE SLAUGHTER

今年は多くの面で大国の政治が注目された。ロシアが地球規模で復活し、サウジアラビアとイランとの闘争が中東を支配した。中国は再び中華思想を強め、東アジア、東南アジアで自分たちの主張に従うよう求めた。北朝鮮は核兵器の強化に励んだ。イギリスまでEUを拒んで、Britanniaの主権という保守の夢を膨らませた。さまざまな取引と同盟の変化に満ちた世界で、パックス・アメリカーナは衰弱し、トランプが大統領選挙で勝利したことで、アメリカ外交は明らかにリアリストの方向に進む。

世界には2100万人の難民、4100万人の国内避難民がいる。戦争、飢餓、独裁政治によって住む場所を失った人々だ。50万ものシリア人が目の前で殺されている。良心のある世界が人々の苦しみに驚くことは、もはやなくなった。毒ガス、樽爆弾、計画的で組織的なレイプ、ジェノサイドの拡大。

それでも今年はヒューマニズムの年である、と言えるだろうか?

数字がそれを示している。世界には195の国がある。国際法によって定義された国家とは、人口、領土、政府を持つ政治体であり、他国との関係を結びことができる。人類は世界的な規模で自分たちを組織する良い方法を持たない。EUは地域的な試みだが、アイデンティティ危機に苦しんでいる。国家が将来も重要であり続けるだろう。

ノーベル平和賞が示すように、個人が重要な活動によって世界を変えた。しかし現在では、普通の人々、決して著名ではなく、ノーベル賞をもらわない人々が、かつてないパワーを得ている。携帯の情報端末を20億人が持っているから、企業や社会運動を起こし、芸術を楽しみ、難民を誘導し、同じ考えの人を集めることができる。個人が夢を実現する能力は、人類史上で最も高まっている。

社会企業家や社会的影響に投資する行為Social entrepreneurship and social-impact investingは、個人がグローバルな問題の解決に関わる、オープンな、新しい展望を示している。政府がその財源を気にして、グローバルな問題に取り組む上での制約になっているが、社会企業家のプールは個々人のエネルギーや革新を集める上で無制限である。New York TimesのコラムニストNicholas Kristofはそれを“DIY foreign aid”と呼んだ。

政府もこうした増大する個々人の能力を考慮に入れるようになったし、それは次第に外交の本質や実践を変化させてきた。国家間のチェスゲームであった外交が、ウェブによってさまざまな参加者を増やすことができる。企業、市民団体、大学、財団、市長、知事、など、誰もがグローバルなネットワークに参加し、気候変動、テロ、伝染病、人権蹂躙、などの問題に対処する。

Oxfordの教授で活動家でもあるThomas Haleは、昨年12月のパリ協定が交渉の変化を示した、と説明する。国際協定が、法的強制力のある機関から、「触媒的、潤滑油的」なモデルへ、パラダイム・チェンジしたのだ。多くのアクターがスケジュールに従って増大する約束を守るように支援する。

「ノン・パーティー・ステークホルダー」が招かれたが、彼らはNGOsのロビイストだけではない。99以上の国家から集まる7000の都市、88か国から集まる約5000の企業も含まれた。地雷禁止の国際条約を実現した交渉もそうだ。オバマ大統領が開催した国連難民総会サミットもそうだった。行動を呼びかける民間部門のCEOsが集まった。

プロの外交官は、人道的な関心を棄てるように求められる。無辜の人々が死んでも、都市ががれきとなっても、歴史的な遺産が破壊されても、彼らは嘆かず、あるいは、少なくともそれを表に出さない。マキャベリなら、自国の民の利益にならないとしたら、グローバルなモラルを避けるべきだ、と言うだろう。ジョージ・ケナンが述べたように、「法律・道徳の重視」は、問題を解決するより、一層の流血をもたらした。すべての行動には結果がともない、その多くが意図しないものである。

しかし、組織の細分化が進み、小集団が現れれば、紛争は良くも悪くも政府の手に負えなくなる。政府が言っても戦闘集団は戦いをやめない。アメリカのケリー国務長官と、ロシアのラブロフ外相とは、シリア停戦に合意した。しかし、両国政府は、そして他のいかなる政府も、戦場の兵士たちを統治できなかったのだ。

人々に起きることが重要である。子供を拷問された者、両親を殺され、兄弟を殺された者、居住地区を粉砕された者は、そのことを決して忘れない。冷戦後に、どれほど多くの「凍結された紛争」が爆発したことか。報復は延期されることはあるが、終わることはない。不正義が究極的に、少なくとも、ある種の正義の手段で報いを受けない限り。

人道主義だけでは十分ではない。暴力と追放の災いは、人から人へ、家族から家族へ、国から国へ、疫病のように広がる。多くの国の多くの虐殺には、その報いがなされないままだ。しかし、他の政府がジェノサイド、人道に反する犯罪、エスニック・クレンジング、そして、組織的な、深刻な戦争犯罪に関与するのを止めるため、政府は行動しなければならない。それは、自己利益としてヒューマニズムを受け入れる、ということだ。予防することが望ましい。

歴史家Yuval Noah Harariによれば、およそ7万年前に、ホモサピエンスは「認識革命」を経験した。「架空の言葉」を駆使して、実在しないもの、例えば、愛、芸術、法、を想像することができるようになった。そして、それらに命を与えたのだ。

デジタル化され、自動化され、データで設定される未来では、人道的な価値が祝福され、推進されるだろう。すべての生命に対する敬意を高めることこそが、唯一、前進をもたらす。


l  トランプ・ブーム

FT December 12, 2016

The dangers of Donald Trump’s coming boom

Edward Luce

予想では、ドナルド・トランプは敗北するだろうし、もし勝てば市場は崩壊するはずだった。その全く逆のことが起きたのだ。投資家たちは、彼が約束した良いことばかりを期待し、悪いことは何も起きないと思っている。

グローバルな貿易戦争、大規模な移民追放、ではなく、大幅減税、規制緩和、財政刺激策だ。118日以来、すべての指標が上昇した。世界市場はトランプ・ブームを期待している。その意味では、トランプはすでにロナルド・レーガンの相続人である。

しかし、「トランプ相場」の逆転の種はすでにまかれている。最大の脅威はアメリカ連銀だ。すでにトランプが勝利する前から、Janet Yellen議長は2019年までに3度か4度の利上げを行う見込みを語っていた。それは財政の引き締めが続くことを予想していたから、トランプの勝利がその予想を変えた。巨額の刺激策と、すでに5%を切った失業率で、アメリカ経済のインフレ傾向は強まるだろう。Yellenは金利引き上げを加速するしかない。

ゼロ下限金利の「新常態」時代は終わり、中央銀行と投資家のアニマル・スピリッツが闘う旧時代がやってきた。

そこには2つの不安がある。第1に、連銀とトランプとが衝突するだろう。パーティーの最中にパンチ・ボウルを下げられて怒らない大統領はいない。Yellenの任期は2018年初めまで、残り1年しかない。トランプは選挙中に、Yellenを解雇すると約束していた。大統領にそんな権限はないが、空席の2人の連銀理事を指名することによりYellenを抑え込むことはできる。共和党は、権力を持たない時期には財政緊縮を要求するが、権力を得たときは逆に刺激策を認める。

2の不安は、ドル高が進むことだ。財政赤字増大と高金利は、必然的に、ドル高をもたらす。輸入品が安く、輸出品は高くなるから、アメリカの貿易赤字は増えるだろう。昨年、4000億ドル近い赤字を出している中国に対する赤字も増える。経常収支の赤字が増えるのもレーガン主義の特徴だった。しかし、トランプはそれを減らすと公約した。グローバリズムを逆転し、製造業を呼び戻すことはトランプの選挙運動で最重要な部分であった。

市場は、トランプの世界貿易に対する脅威を無視し、短期的にはレーガン風の景気拡大を期待している。重要な経済閣僚に投資銀行家を指名する「ゴールドマンサックス政権」であることに、ウォール街は安心した。しかし、事態が悪化すれば、その様相は一変するだろう。

貿易赤字の増大とともに、連銀の独立性を犯し、中国をスケープゴートにして、移民を追放し、メキシコに高関税で脅すだろう。市場は、自分たちが最初に感じていた、トランプの恐怖を思い出すはずだ。


l  シリア内戦の転換点

YaleGlobal, 13 December 2016

Fall of Eastern Aleppo Marks Turning Point for Syrian Civil War

Dilip Hiro

ロシアの軍事的支援によって、シリアのアサド政権は、2012年以来、反政府派が支配していたアレッポ東部を、事実上、すべて取り戻した。

内戦はいつも野蛮であるが、シリア内戦はその犠牲、難民、インフラ破壊のおびただしさの点で特に野蛮である。人口2200万人のシリアで40万人が殺害され、610万人が国内避難民となった。ほかに480万人が近隣諸国やさらに遠くの難民となっている。最初の4年間の経済損失は2060億ドルで、5人の内4人が貧困線以下である。数え切れないほど多くの空爆が、意図的か偶然か、民間人に対するものだった。

内戦は、それがどうして始まったかに関係なく、国内の戦闘集団の支援者として外国を呼び込む。外部勢力が十分な利益を認めている限り、内戦は続く。彼らが、その代理戦争で勝利できないと結論するか、人や物資に投資し続ける価値はないと考えたとき、戦争は終わる。それは1975-1990年のレバノン内戦で起きたことだ。

地域のバランス・オブ・パワーは変化した。サウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタール、バーレーン、トルコの政府幹部がロシアのプーチン大統領と会談した。ついに、エルドアンがサンクト・ペテルブルクを訪問してプーチンとの親密な関係を主張し、アサドの政権離脱要求をやめた。ロシア軍による空爆が決定的な影響を及ぼし、イラク軍とヒズボラが支援する政府軍がアレッポ東部を奪還し、内戦は正式にアサドの勝利で終結するだろう。

イラン・シリア・ロシアが枢軸となって、アメリカと湾岸産油諸国による、数十年に及ぶ覇権を倒す位置に就いたのだ。


l  安倍・プーチンの温泉会談

Project Syndicate DEC 13, 2016

Japanese Foreign Policy in the Trump Era

BILL EMMOTT

日本の首相、安倍晋三は12月を和解の月にするつもりだ。第2次世界大戦で日本が戦った2国の指導者と会談する。アメリカとロシアだ。

しかし、実際には、これは日本にとっても、東アジアの近隣諸国にとっても、好ましくない、潜在的には不安定化をもたらす時期なのだ。

真珠湾で日米の指導者が握手するのは、昨年5月にオバマが広島の原爆ドームに来たことへの返礼である。相互に許し合うことは、双方が共有する価値の強調だ。

しかし、このジェスチャーが、安倍がプーチンとの、故郷である山口における会談のわずか10日後に行われることは、和解とは違うものを意味するだろう。ロシアは日本と和平条約を結んでいない数少ない国である。それはソ連が当時の日本領土であった島々を占領したからだ。

その島々は、漁業以外、特に経済的価値もないが、日本人にとって感情的な意義が大きい。またロシアにとって、いかなる領土の譲歩も好まないし、戦略的に重要である。最近、4つの島の2つにミサイルを配備した。

両国が親交を深めるのは、その背後に中国への警戒感がある。ロシアは、欧米との制裁で天然ガスの市場を奪われる代わりに、中国との大型契約を結んだ。中国との軍事演習も行っている。しかし長期的に、ロシアは強力な南の隣国に依存していると見えるのを望まない。日本は、東シナ海を中国が支配するのを恐れているし、ロシアのアジアにおける友人であることを大いに歓迎する。

ドナルド・トランプが当選したことで、ヒラリー・クリントンなら考えられなかった機会が安倍首相に開かれた。安倍は外国の首脳として、真っ先にトランプに会いに行った。他方で、トランプがTPPを破棄することを明言したために、安倍はルールに依拠したアジア貿易に関して中国の役割を軽快し、またトランプが日本や韓国に防衛費の分担を増すよう要請したことを心配しているだろう。アメリカが「1つの中国」政策の支持を変えるかもしれない発表は、地域の緊張を高めるものだ。

これは政治的な危険を意味すると同時に、安倍の念願である憲法改正のチャンスでもある。尖閣諸島の防衛に軍備を強化し、憲法9条の改正に向けた高いハードルを越えねばならない。

核攻撃を受けた国として、平和主義の否定には強い抵抗がある。オバマとの握手と演説は、安倍が戦争の危険を深く考える姿勢を示すことで、そのハードルを下げる意味もある。


l  不確実性の時代

Project Syndicate DEC 14, 2016

The Age of Hyper-Uncertainty

BARRY EICHENGREEN

2017年は、ガルブレイスJohn Kenneth Galbraithが『不確実性の時代』The Age of Uncertaintyを出版してから40年目である。われわれがどれほど不確実であるか、考えるのによい時期だ。

1977年は、OPECによる第1次石油ショックが起きた後、世界は次のショックを心配していた(実際、それが起きた)。アメリカは低成長とインフレ、すなわち、スタグフレーションに苦しみ、政策やそのモデルが機能しないという新しい問題に直面した。ブレトンウッズの国際通貨制度は崩壊し、国際貿易や世界経済の成長についての不安が広がった。

20世紀の第3四半期、安定性と予測可能性をともなう黄金時代は終わり、大きな不確実性の時代が始まるように思えたのだ。

しかし、2017年から見れば、それはむしろうらやましい時代であった。1977年にはドナルド・トランプ大統領はいなかった。カーターJimmy Carterは歴史上の優れた大統領ではなかったかもしれないが、グローバルなシステムを危機にさらすような脅しは示さなかった。NATOWTOなど、アメリカの国際的責務に反することはなかった。

もしガルブレイスが2017年に同じ本を書くとしたら、1970年代を「確実性の時代」と呼ぶだろう。


l  トランプの経済戦争

FT December 19, 2016

Donald Trump’s collision course with China

Edward Luce

それを理解しないまま,アメリカの有権者たちは新しい冷戦への道を選択したのかもしれない.しかもアメリカは,最初の冷戦の時代に比べて,それほど強くなくなっている.

1972年,リチャード・ニクソンと毛沢東の間でデタントを選択したのは,中国とソ連との関係に生じた亀裂を固定するためであり,モスクワのグローバルな影響力を損なうためであった.トランプは,その逆のことを計画している.ロシアに接近することで,中国の影響力を削ぐ.

トランプの中国に対する強硬姿勢は,プーチンのロシアに対する親しみと符合する.ヨーロッパで非リベラルな民主主義を支援し,ヒラリー・クリントンの敗退を助けた国と,トランプが取引することの利益はよくわからない.ニクソンは国内法を犯したが,地政学のチェス盤を動かす地政学に関しては熱心に学んだ.しかし,トランプは知識のギャップを気にしない.CIAの報告を聞かず,外交顧問には反中国と親ロシアの人物を指名した.

トランプの中国外交ギャンブルは何をもたらすのか? トランプは,製造業の雇用をアメリカに戻し,海外に移転するのを止めたいと考えている.中国から譲歩を得ること,例えば,1980年代後半に日本が輸出自主規制をしたような譲歩を,彼はアメリカ国民に語りたいのだ.

1つの中国」政策は,トランプがそれを取引するための脅しである.しかし,彼がその脅しを強行すれば,逆効果が生じる.中国はアメリカの投資家をさらに苦しめるだろう.投資家たちはすでに,利潤が失われ,知的所有権を無視する中国に不満を強めている.過去のように中国たたきを抑えるより,トランプの強硬姿勢を支持するだろう.

中国はトランプ政権を試しつつある.トランプの安全保障顧問が考えるのとは逆に,イスラム過激派のテロと戦う上で,本来,中国はアメリカの同盟に参加する国だ.中国の攻撃的な姿勢と軍事衝突の危険は,台湾,南シナ海,東シナ海で高まっている.しかし,中国の軍事力は過去に比べて大幅に増強された.

トランプの直感はこの危機においても正しいのか? それは誰にもわからない.


l  脱税の社会環境

VOX 17 December 2016

Tax evasion and the social environment

Jörg Paetzold, Hannes Winner

脱税は,その利用が波及する.それは環境によって強く左右される.

政府が検証できないような,税率の差が強い非連続性を示す税制は,間違ったデザインである.第三者の機関が報告するシステムでも有効な解決策にはならない.納税者の社会環境に強く影響される.脱税の少ない集団と,脱税の多い集団とは,その環境(例えば明確な検証)によって仲間に波及する.


l  ベーシック・インカム

NYT DEC. 17, 2016

Free Cash in Finland.

Must Be Jobless.

By PETER S. GOODMAN

フィンランドはもうすぐ,2000人の失業者に対して現金を支給する.ユニバーサル・ベーシック・インカムだ.

Nokiaが倒産に瀕した後,レイオフされたエンジニアたちは職が見つからない.彼らは失業手当や他の給付を失いたくないために,なかなか起業に応じない.フィンランド政府はこの計算を変えたいと考えている.彼らにユニバーサル・ベーシック・インカムを支給するのだ.

より多くの人が職を求め,起業するか? 働くことをやめて,ウォッカを飲むだけか? 失業者の制度に縛られず,教育を受け,新しいキャリアを築くのか?


l  リベラルな民主主義の防御

FT December 21, 2016

Democrats, demagogues and despots

Martin Wolf

2016年の政治的激動である、UKBrexitとアメリカのトランプ選出は、民主主義の勝利なのか、それとも民主主義への脅威なのか?

民主主義は苦情に応えねばならない。まさに平和的にそれができることこそが民主主義の強さである。しかし、デマゴーグはその苦情を利用して民主主義を脅かす。西側の民主主義も無関係ではない。

UKでもUSでも、政治エリートに対する不安と怒りが支配的になった。両国は、最も重要で、安定した、長期の民主主義国家である。社会的な没落と文化の変容に対する不安、移民の増大と無関心なエリートへの怒り。それらはナショナリズムや排外主義になった。

そのような原始的な感情は、抑え込むことが難しく、民主主義にとっては壊滅的である。民主主義とは、根本において、内戦の文明的な形態である。民主主義に関する理解と制度によって封じ込められた権力闘争だ。

理解すべきことは、勝者がすべてを得ることはない、ということだ。反対することは合法であり、意見は自由に表明でき、権力は制限される。市民という価値が民主主義の最高の資産である。それゆえ、不正選挙や反対派の弾圧、嫌がらせで、一時的な権力を永久化することは許されない。「人民」の名をかたることは間違いであり、市民だけが存在し、彼らは選択を変える。どのように彼らの意見を集約したとしても、必ず欠陥はある。究極において、民主主義もしくは民主的な共和制とは、異なる意見の共存、異なる文化でさえ合理的な形で調和できる道を提供するものだ。

ゲームのルールを決めるうえで、制度が重要である。しかし、制度は失敗することがある。アメリカの選挙制度は、二重に失敗した。トランプの当選は、有権者の投票数を反映せず、候補者の資格も満たさない。ハミルトンAlexander Hamiltonは、外国勢力の影響が及ぶのを防ぎ、十分な資格を持つ候補者が残ることを望んだ。しかし、ロシアはハッキングしたし、トランプの経験、判断、人物は顕著に劣っている。他の制度、特に、議会と最高裁が、その役割を果たすべきだ。

デマゴーグは民主主義のアキレス腱だ。強烈な情熱と野心を持った人物は、民主主義を専制体制に変える危険がある。デマゴーグは、右派でも左派でも、エリートに対して庶民を代表すると自己宣伝するが、価値のないアウトサイダーだ。追従者にとってはカリスマ的指導者であり、自分たちの先進性を、しばしば明白な嘘で内部に信じさせる。自分たちが体現する人民の意思に反する敵であると称して、確立された行動規則や制度を威嚇する。トランプは、ほとんど教科書的なデマゴーグである。

デマゴーグによる選挙運動は、当然、専制体制、すなわち、多数による独裁になる。多数とは独裁者の仮面である。Benito Mussolini Adolf Hitlerがそうだった。最近でも、ヴェネズエラのHugo Chávez、ハンガリーのViktor Orban ロシアのVladimir Putinがその例である。

20世紀の民主主義を代表するアメリカも、この道をたどるのか? その答えは、Yesである。民主主義を支える中心的な制度は、それ自身を守らない。民主主義が体現する価値を理解し、それを愛する人々が守るのだ。トランプに権力を与えた不安と怒りに、政治は応えねばならない。しかし、それは服従することではないし、共和制を破壊する口実にしてもならない。

破滅的な戦争を始めて、右派のデマゴーグたちが世界で最も影響力のある民主主義的価値の倉庫を占拠した。


l  廃貨の意味

Project Syndicate DEC 22, 2016

Demonetization on Five Continents

JEFFREY FRANKEL

貨幣の「廃貨」がいくつかの国で起きている。通貨改革としての廃貨は、流通している貨幣の廃止と、新しい貨幣への交換を意味する。

1に、ヴェネズエラで起きているように、ハイパーインフレーションに向かう廃貨がある。21世紀には珍しくなったが、ジンバブエに続いて、2つ目のケースになりそうだ。ハイパーインフレーションは、ラテンアメリカや旧ソ連邦の諸国で観られた、政府の支出が税収や借り入れによって満たせないために、民間の富を奪うケースで起きる。財政赤字を抑制しなければ、ハイパーインフレーションは避けられない。

2に、もっと技術的な理由で、政府は廃貨を実行する。偽札の排除、共通通貨の採用、国民的な英雄への称賛、など。その場合は、長い時間をかけて、場合によっては永久に、旧貨幣の新貨幣への交換を行い、混乱を避ける。

3に、インドの首相Narendra Modiが行った、一気に高額貨幣を廃貨したケースである。高額紙幣は、犯罪や脱税、収賄に利用されている。モディは、不正な蓄財の排除も目的とした。しかし、そのやり方には多くの欠陥があったため、庶民の性格に著しい混乱をもたらし、経済活動を抑制した。

たとえ非常に緩やかなやり方でも、廃貨には大きな決断力が必要だ。もし推測されているような、対立政党の貨幣改革論を封じるために行われたのであれば、モディの廃貨はあまりにも政治的に大胆であったと言える。

Project Syndicate DEC 22, 2016

The Destructive Power of Inflation

MARTIN FELDSTEIN

アルゼンチンで、先週、私は高インフレが持つ破壊力を実感した。アルゼンチンの年インフレ率は約20%であるが、昨年は推定40%であった。中央銀行はこのままディスインフレ過程を続け、3年で5%まで下げたいと考えている。

アルゼンチンのインフレは、1975-1990年に平均で300%もあった。物価は数か月で倍増した。1989年、インフレが爆発的に加速し、1000%を超えたが、その後、抑制された。

実際、インフレは消滅したのだ。1990年代半ば、アルゼンチン・ペソはUSドルに固定され、2つの通貨が日々の取引でも、ブエノスアイレスで等しく交換されていた。

しかし、ペソの固定制が崩壊した後、ドル建の契約がペソ建に、市場の交換レートではなく、転換するよう強制された。それがインフレを上昇させた。2003年までに年40%に達し、その後の数年は、10%に低下した。しかし、キルチネル夫妻Néstor KirchnerCristina Fernández de Kirchnerの大統領時代に、再び25%まで高まった。2016年には40%に戻ったのだ。

インフレ率が高い経済では、人々は長期の契約や投資を行わない。融資も、保険も、債券市場も、成立しなくなる。エコノミストは、インデクセーションによって契約は可能だ、と考える。しかし、それは間違いだ。だれにも正しいインフレ率が計算できないのだ。政府の統計発表も、担当者が解雇されて、人為的な数字を示すようになった。

政府がアルゼンチン・ペソをドルに交換することを許してから、人々は金融資産を国外に移した。アルゼンチンの投資された資産は、アルゼンチンよりアメリカに多くある、と聞いたことがある。こうした資本の流出、国内投資の不足は、アルゼンチンの生産性や成長を損なった。

現在のMacri政権は、インフレ抑制策を続けるが、それは短期的に政治コストを生じる。需要を抑制し、実質GDPを減少させるからだ。インフレ抑制の利益は国民に見えない。


l  ロボットと人間の補完的社会

FT December 23, 2016

How robots are making humans indispensable

Gillian Tett

ロボットが人間の仕事を奪ってしまう。この点で、エコノミストたちは合意している。ある研究によれば、アメリカ製造業が2000年から2010年までに失った雇用は560万人であった。その9割は、貿易ではなく、機械化によるものだ。McKinseyの推定では、機会かはサービス産業にも広がり、人間の職場の45%が失われる。その賃金総額は年間2兆ドル、数百万人の雇用に及ぶ。

しかし、人類学者たちは「参加観察」によって、異なる結論を示している。急速に成長する、巨大で複雑な情報システムを利用する企業は、データの管理や評価に、ロボットではなく人間を、常に、より多く必要としている。それは機械と人間との新しい補完関係を創り出す、と。このことは、トランプ次期大統領にとっても重要だ。アメリカ第1で旧製造業を復活させることは間違った産業政策に向かうだろう。むしろ、労働者たちをこの新しい世界に導くべきだ。

********************************

The Economist December 10th 2016

America’s new business model

American’s corporatism: Chairman president

Politics in New Zealand: Lost Key

Popular discontent: In China, too

Education: Must try harder

Alt-right media: Looking on the Breitbart side

The American economy: Full speed a-Fed

The euro zone: General anaesthetic

Free exchange: You had to be there

(コメント) トランプ大統領が企業に対して圧力をかけ、投資や雇用に介入するのは、アメリカの典型的な伝統にしたがうものである、という記事です。面白いけれど、どうかな? と不満でした。

公式には、中国政府は英米の民主主義が混乱し、エリートたちが批判されているのを喜び、自分たちのシステムを自慢します。しかし、グローバリゼーションの顕著な受益者であることが明白な中国でも、英米の反エリート、反グローバリゼーションと同じような、不満を高める人々がいます。習近平は、その弱点を心配しています。

教育の国際比較、オルト・ライト、アメリカとユーロ圏の金融政策をめぐる将来の不透明さは、何か共通した呪文のように響いてきます。

何より、ニュージーランドの成功と、EUが市場だけでなく政治の統合にまで踏み出したことと貿易・地域統合理論の関係が、トランプ以上に、重要な問題です。

******************************

IPEの想像力 12/26/16

2016年と言えば、何が重要であったのか?

ロイターの挙げた項目と読者投票の結果では、トランプとBrexitです。

1.米大統領選で共和党のトランプ氏が当選

2.英国民投票でEU離脱派が勝利

他の事件は、まったく無関係に思えます。

Brexit、トランプだけでなく、人の命や権利の在り方が、社会関係や制度を築く上で非常に軽く扱われているように感じました。それが当然だ、と思うほど、情報やネットワークの作用は人々の理解を超えており、それに対する暴発や狂気だけが特別な意味を持つと私たちは信じ始めたのではないか。その結果、異様な風景が積み重なっていきます。

北朝鮮やフィリピンで、国民を惨殺することも躊躇しない指導者が権力を維持できるのはなぜか? リベラルな政治的価値や民主主義体制の優位を信じることは、もはやできないのか? アレッポ空爆、南沙諸島の軍事化、コロンビア和平合意の否決、イスラム国などによるテロ事件多発などが、私には印象的でした。

包括的かつ視覚によって記憶が刺激される点で、私は「時事通信フォト」が気に入りました。

台湾総統選挙で蔡英文が当選したとき、神様は希望を使い果たしたのかもしれません。日本国内では、小池ユリ子の都知事当選と築地市場移転問題、ピコ太郎が関心を集めました。

****

その数ページを電車の中で読みながら、私は久しぶりに腹の底から笑いをこらえるのに苦労しました。司馬遼太郎の『街道を行く』を読んでいたときです。

動物好きの女中さんや、編集部の人たちと一緒に、丹波篠山の宿で司馬遼太郎は雑談していました。

女中さんが語った、猪は麦畑を荒らして実った麦の穂を上手に食べる、という観察談から、他の人が猪の走る姿を観たことがある、と思い出します。その様子は実に「悲愴」であった、と。冬枯れの山を、猪が一頭、地ひびきをたてるような勢いで走っていた、と。

すると、突然、連想は猫の話に向かいます。

「私は猫が涙をながして泣いているのを見たことがあります」

飼い猫のしつけに厳しい、その編集者の母親は、他家でしつけのなっていない「放縦」な猫を観て、神経がくたくたになって帰宅したそうです。

「そこへゆくと、ほんまに、お前はおとなしゅうて、ええ子やな」

そう猫を振り返って、ほめてやったとき、猫が「無言」で泣き出したというのです。「大きな目にみるみる涙があふれて、そのしたたってゆく涙がひげを濡らした」。

動物好きの女中さんは猫に感動したようですが、しかし猫よりも、亀岡の山を走っていた猪の方がもっと可哀そうやな、というのです。司馬もそれに同意し、「猫はなんといっても食物を人からもらって暮らすのだが、猪の境涯ともなればそうはいかないのである。」と司馬は書いています。

****

Financial TimesReviewビデオは、海兵隊がメキシコの麻薬王を逮捕した映像で始まります。

アサド大統領の政府軍が、ロシアの空爆による強い支援を受けて反政府勢力の支配するアレッポに迫り、多数の市民が避難しました。ベルリン、クリスマス・マーケットにトラックが突入し、12人を殺害します。

****

早朝、子供たちを連れて、父の墓を掃除しました。雑草を引き、墓石や墓碑を水で洗いました。最後に花を入れ、全体に水を流して、線香を立てます。

それぞれに、父が亡くなってから自分たちがしたことを、黙って報告しました。お経は、知らないから、なしです。快晴で、冷たい、静かな朝でした。

****

オバマ政権は、ロシアのサイバー攻撃に対する制裁を発動しました。緩やかな傾斜を描いて、市民生活から戦場への道はつながっている、と思います。

嘘の時代。フェイク・ニュース。

人類が獲得した「社会的認識を実現する能力」、IPEの想像力は、プラスだけでなくマイナスの次元でも爆発的に拡張することを知った年でした。

******************************