(前半から続く)
l トランプの経済戦争
FP DECEMBER 14, 2016
Is Trump Starting Something With
China He Can’t Finish?
BY
JOHN HUDSON
トランプの側近が貿易戦争を唱えても,素人のやることだ,と笑っていたが,中国政府はもはや笑わない.台湾の蔡英文総統から祝賀の電話を受けたことを公表し,アメリカが「1つの中国」政策に従う理由はない,と述べたからだ.アメリカが中国と,貿易を含む他の問題で取引することが先だ,と.
中国の軍事力を恐れて,アメリカとの安全保障に頼ってきたアジア諸国は,次第に,トランプが中国との交渉に自分たちを利用する,と心配するだろう.
NYT DEC. 15, 2016
Taiwan Is Both Exhilarated and
Unnerved by Trump’s China Remarks
By
JAVIER C. HERNÁNDEZ and AMY QIN
YaleGlobal, 15 December 2016
Taiwan: More Than a Trump Card for
US Dealing With Beijing
Wenran
Jiang
The Guardian, Friday 16 December
2016
The Guardian view on Taiwan: Trump
should handle with care
Editorial
FT December 19, 2016
Donald Trump’s collision course with
China
Edward
Luce
それを理解しないまま,アメリカの有権者たちは新しい冷戦への道を選択したのかもしれない.しかもアメリカは,最初の冷戦の時代に比べて,それほど強くなくなっている.
1972年,リチャード・ニクソンと毛沢東の間でデタントを選択したのは,中国とソ連との関係に生じた亀裂を固定するためであり,モスクワのグローバルな影響力を損なうためであった.トランプは,その逆のことを計画している.ロシアに接近することで,中国の影響力を削ぐ.
トランプの中国に対する強硬姿勢は,プーチンのロシアに対する親しみと符合する.ヨーロッパで非リベラルな民主主義を支援し,ヒラリー・クリントンの敗退を助けた国と,トランプが取引することの利益はよくわからない.ニクソンは国内法を犯したが,地政学のチェス盤を動かす地政学に関しては熱心に学んだ.しかし,トランプは知識のギャップを気にしない.CIAの報告を聞かず,外交顧問には反中国と親ロシアの人物を指名した.
トランプの中国外交ギャンブルは何をもたらすのか? トランプは,製造業の雇用をアメリカに戻し,海外に移転するのを止めたいと考えている.中国から譲歩を得ること,例えば,1980年代後半に日本が輸出自主規制をしたような譲歩を,彼はアメリカ国民に語りたいのだ.
「1つの中国」政策は,トランプがそれを取引するための脅しである.しかし,彼がその脅しを強行すれば,逆効果が生じる.中国はアメリカの投資家をさらに苦しめるだろう.投資家たちはすでに,利潤が失われ,知的所有権を無視する中国に不満を強めている.過去のように中国たたきを抑えるより,トランプの強硬姿勢を支持するだろう.
中国はトランプ政権を試しつつある.トランプの安全保障顧問が考えるのとは逆に,イスラム過激派のテロと戦う上で,本来,中国はアメリカの同盟に参加する国だ.中国の攻撃的な姿勢と軍事衝突の危険は,台湾,南シナ海,東シナ海で高まっている.しかし,中国の軍事力は過去に比べて大幅に増強された.
トランプの直感はこの危機においても正しいのか? それは誰にもわからない.
FP DECEMBER 19, 2016
Beijing Is Ready To Go Eyeball to
Eyeball With Trump
BY
BILL HAYTON
FP DECEMBER 20, 2016
Trump Should Read India’s Playbook
for Taunting China
BY
JEFF M. SMITH
l 外国為替市場
FT December 15, 2016
Forex trading ain’t what it used to
be
Alexandra
Scaggs
l ブラジル
Bloomberg DEC 15, 2016
Brazil's Economy Is in a Race
Between Reform and Justice
Mac
Margolis
l トランプと温暖化
NYT DEC. 15, 2016
Donald Trump Should Know: This Is
What Climate Change Costs Us
By
MICHAEL GREENSTONE and CASS R. SUNSTEIN
Project Syndicate DEC 21, 2016
Sustainability in the Trump Era
BO
LIDEGAARD
NYT DEC. 21, 2016
To Slow Global Warming, We Need
Nuclear Power
By
LAMAR ALEXANDER and SHELDON WHITEHOUSEDEC. 21, 2016
l シェリングの核戦争
FT December 17, 2016
Thomas Schelling, economist,
1921-2016
Tim
Harford
l 脱税の社会環境
VOX 17 December 2016
Tax evasion and the social
environment
Jörg
Paetzold, Hannes Winner
脱税は,その利用が波及する.それは環境によって強く左右される.
政府が検証できないような,税率の差が強い非連続性を示す税制は,間違ったデザインである.第三者の機関が報告するシステムでも有効な解決策にはならない.納税者の社会環境に強く影響される.脱税の少ない集団と,脱税の多い集団とは,その環境(例えば明確な検証)によって仲間に波及する.
l ホームレスと老人
NYT DEC. 17, 2016
The Tent Cities of San Francisco
By
DANIEL DUANE
サンフランシスコはリベラリズムの首都であるはずだ.しかし,市民たちは主張する.ホームレスのテントは撤去せよ.一時的なシェルターを用意せよ,しかし,われわれの財布から費用は取るな.
The Guardian, Tuesday 20 December
2016
Loneliness is a hazard of old age. A
phone call can mean a lot
Michele
Hanson
多くの老人が孤独に苦しんでいる.クリスマスでさえ.眠り,目覚め,食事をして,何でも一人でしかしないというのは,ほかに比べるものがないほど惨めなことである.
The Guardian, Tuesday 20 December
2016
Britain’s shame: the people who are
homeless, even though they’re in work
Aditya
Chakrabortty
新し経済活力を政府は自慢し,メディアは黙殺するが,最低賃金でゼロ時間契約の下に働く多くの人々が,労働しても住む家を持てない.慈善団体Shelterの計算では,現在,ロンドンに17万人のホームレスが存在する.
l ベーシック・インカム
NYT DEC. 17, 2016
Free Cash in Finland.
Must Be Jobless.
By
PETER S. GOODMAN
フィンランドはもうすぐ,2000人の失業者に対して現金を支給する.ユニバーサル・ベーシック・インカムだ.
Nokiaが倒産に瀕した後,レイオフされたエンジニアたちは職が見つからない.彼らは失業手当や他の給付を失いたくないために,なかなか起業に応じない.フィンランド政府はこの計算を変えたいと考えている.彼らにユニバーサル・ベーシック・インカムを支給するのだ.
より多くの人が職を求め,起業するか? 働くことをやめて,ウォッカを飲むだけか? 失業者の制度に縛られず,教育を受け,新しいキャリアを築くのか?
FT December 18, 2016
Britain needs to have a serious
conversation about the NHS
Ian
Birrell
l Brexitの脱線
FT December 18, 2016
How David Cameron lost his battle
for Britain
George
Parker
FT December 19, 2016
The chaotic route to train-crash
Brexit
Gideon
Rachman
ソフトでもハードでもないBrexitがある,ほとんど議論されていないが,「脱線型のBrexit」である.合意は成立せず,イギリスは単にEUからはじき出される.
Project Syndicate DEC 20, 2016
Theresa May’s Brexit Problem
JACEK
ROSTOWSKI
Project Syndicate DEC 22, 2016
Investing in a Closed-Border World
CHRISTOPHER
SMART
l 香港
NYT DEC. 18, 2016
Hong Kong’s Leader, Loyal to a Fault
By
YI-ZHENG LIAN
l トルコの外交
NYT DEC. 18, 2016
Turkey and Iran’s Dangerous
Collision Course
By
ALI VAEZ
The Guardian, Monday 19 December
2016
Putin and Trump could be on the same
side in this troubling new world order
Matthew
d'Ancona
l 労働組合
The Guardian, Monday 19 December
2016
The Guardian view on trade unions: needed
as much as ever
Editorial
l リベラルな民主主義の防御
FT December 19, 2016
Liberalism can survive but it has to
renew its social traditions
Nick
Pearce
FT December 21, 2016
Democrats, demagogues and despots
Martin
Wolf
2016年の政治的激動である、UKのBrexitとアメリカのトランプ選出は、民主主義の勝利なのか、それとも民主主義への脅威なのか?
民主主義は苦情に応えねばならない。まさに平和的にそれができることこそが民主主義の強さである。しかし、デマゴーグはその苦情を利用して民主主義を脅かす。西側の民主主義も無関係ではない。
UKでもUSでも、政治エリートに対する不安と怒りが支配的になった。両国は、最も重要で、安定した、長期の民主主義国家である。社会的な没落と文化の変容に対する不安、移民の増大と無関心なエリートへの怒り。それらはナショナリズムや排外主義になった。
そのような原始的な感情は、抑え込むことが難しく、民主主義にとっては壊滅的である。民主主義とは、根本において、内戦の文明的な形態である。民主主義に関する理解と制度によって封じ込められた権力闘争だ。
理解すべきことは、勝者がすべてを得ることはない、ということだ。反対することは合法であり、意見は自由に表明でき、権力は制限される。市民という価値が民主主義の最高の資産である。それゆえ、不正選挙や反対派の弾圧、嫌がらせで、一時的な権力を永久化することは許されない。「人民」の名をかたることは間違いであり、市民だけが存在し、彼らは選択を変える。どのように彼らの意見を集約したとしても、必ず欠陥はある。究極において、民主主義もしくは民主的な共和制とは、異なる意見の共存、異なる文化でさえ合理的な形で調和できる道を提供するものだ。
ゲームのルールを決めるうえで、制度が重要である。しかし、制度は失敗することがある。アメリカの選挙制度は、二重に失敗した。トランプの当選は、有権者の投票数を反映せず、候補者の資格も満たさない。ハミルトンAlexander Hamiltonは、外国勢力の影響が及ぶのを防ぎ、十分な資格を持つ候補者が残ることを望んだ。しかし、ロシアはハッキングしたし、トランプの経験、判断、人物は顕著に劣っている。他の制度、特に、議会と最高裁が、その役割を果たすべきだ。
デマゴーグは民主主義のアキレス腱だ。強烈な情熱と野心を持った人物は、民主主義を専制体制に変える危険がある。デマゴーグは、右派でも左派でも、エリートに対して庶民を代表すると自己宣伝するが、価値のないアウトサイダーだ。追従者にとってはカリスマ的指導者であり、自分たちの先進性を、しばしば明白な嘘で内部に信じさせる。自分たちが体現する人民の意思に反する敵であると称して、確立された行動規則や制度を威嚇する。トランプは、ほとんど教科書的なデマゴーグである。
デマゴーグによる選挙運動は、当然、専制体制、すなわち、多数による独裁になる。多数とは独裁者の仮面である。Benito Mussolini やAdolf
Hitlerがそうだった。最近でも、ヴェネズエラのHugo Chávez、ハンガリーのViktor
Orban、 ロシアのVladimir Putinがその例である。
20世紀の民主主義を代表するアメリカも、この道をたどるのか? その答えは、Yesである。民主主義を支える中心的な制度は、それ自身を守らない。民主主義が体現する価値を理解し、それを愛する人々が守るのだ。トランプに権力を与えた不安と怒りに、政治は応えねばならない。しかし、それは服従することではないし、共和制を破壊する口実にしてもならない。
破滅的な戦争を始めて、右派のデマゴーグたちが世界で最も影響力のある民主主義的価値の倉庫を占拠した。
FT December 22, 2016
Big Ben’s timely reminder Britain’s
political system needs repair
Martin
Wolf
l トランプの経済政策
Project Syndicate DEC 19, 2016
Bad News for America’s Workers
JOSEPH
E. STIGLITZ
Project Syndicate DEC 19, 2016
The International Barriers to
Trump’s Economic Plan
MOHAMED
A. EL-ERIAN
Project Syndicate DEC 19, 2016
Trump’s Global Strength
ANDREW
SHENG and XIAO GENG
FT December 20, 2016
Donald Trump’s childcare plans are a
step in the right direction
Anne-Marie
Slaughter
l ロシア大使暗殺
FP DECEMBER 19, 2016
Five Things to Worry About After the
Assassination of Russia’s Ambassador to Turkey
BY
ROBBIE GRAMER, EMILY TAMKIN
ロシアの駐トルコ大使Turkey Andrey Karlovを殺害した男は,「アレッポの報いを受けろ!」と叫んだ,そのように伝えられている.
今のところ両国は、関係を悪化させることを狙った行動だ、と述べている。アメリカ国務省も、両国への支援を準備している、と言う。しかし、アンカラとモスクワが過去1年に示した緊張関係、何世紀にもわたる歴史的な対立、シリア内戦の虐殺に及んだ外交政策の衝突を想えば、エスカレーションに向かういくつかの潜在的シナリオを心に留めておくべきだ。
●ロシアのハッカーによるトルコ襲撃。ロシアは他国にサイバー攻撃で混乱を起こす傾向がある。エルドアンの関係する人間の秘密を暴くかもしれない。
●ロシアとトルコの壊れやすい関係が解体し、トルコに新たな経済圧力が生じるかもしれない。2015年11月に、トルコがロシア戦闘機を撃墜したとき起きたことだ。ロシアによる輸入禁止の結果、トルコの輸出が大きく減少し、パイプライン計画も停止された。
●両国の民主派弾圧が強化される。
●アレッポにおける停戦が崩壊するかもしれない。そして他の地域で戦闘が始まる。すでにトルコ国境に近い地域で、イスラク国の掃討作戦を行っているトルコ軍とロシア軍の行動が接近している。
●ロシアが、トルコにとって致命的なクルド人カードを使うかもしれない。トルコはNATOの正式メンバーであるから、ロシアがトルコを直接に攻撃することはないだろう。Karlovは第1次世界大戦につながったオーストリア皇太子Franz Ferdinandではない。しかし、ロシアと関係の深い、クルド人過激派のテロ攻撃を支援することもできる。
The Guardian, Tuesday 20 December
2016
Turkey and Russia have united over
the Karlov killing. But deep tensions remain
Andrew
Finkel
Bloomberg DEC 20, 2016
Why the Russian Ambassador Became a
Target
Leonid
Bershidsky
大使というのは、地政学的な緊張において暗殺されるものだ。かつて、アメリカのリビア介入に報いを受けるぞと脅したロシアのテレビと同じことを、今回のロシア大使暗殺について、ウクライナ外務大臣がTwitterに書いた。
ロシアは、もしかすると、自分たちが西側の介入に苦しめられた中東世界で、それを対峙する役割を果たせると思ったかもしれない。しかし、中東の人々から見れば、同じ外部からの介入だ。トルコとロシアが戦争を始めるのではなく、並んで大使の葬儀に献花した理由は、シリアでの殺りくにおけるイスラム過激派への闘いで皆が同じ側に立つからだろう。
NYT DEC. 20, 2016
Russia, Turkey and an Assassination
By
THE EDITORIAL BOARDDEC. 20, 2016
l トランプ政権
Bloomberg DEC 19, 2016
Why Trump Appointees Will Be
Effective, for Better or Worse
Tyler
Cowen
Bloomberg DEC 19, 2016
The Trump World Order
Editorial
Board
l ドイツの秩序とポピュリズム
NYT DEC. 20, 2016
Berlin Market Attack Mars Square
Where Three Eras Coexist
By
MICHAEL KIMMELMAN
FP DECEMBER 20, 2016
Berlin’s Zero Hour Is Also Angela
Merkel’s
BY
PAUL HOCKENOS
Bloomberg DEC 20, 2016
Berlin and Merkel Will Survive This
Attack, Too
Leonid
Bershidsky
The Guardian, Wednesday 21 December
2016
Amid the bloody carnage, Angela
Merkel is a beacon of sanity
Anne
Perkins
The Guardian, Wednesday 21 December
2016
For Europe’s sake, Angela Merkel
must hold the centre ground
Timothy
Garton Ash
イギリスやアメリカのように、フランスやオランダにも広がり、ドイツでもポピュリズムが勝利してメルケルを倒すのか? ドイツにおけるテロは、その代価を求めている。
ドイツには、他国以上に、厳しい、言論の過激化を警戒する精緻な対策がある。移民の統合化にも、かつては優れたと言えなかったが、今は力を入れている。キリスト教民主同盟と、グリーン、自由民主党の、ブラック=グリーン=レッド(国旗から連想して「ジャマイカ」)が、ヨーロッパの地理的、経済的、政治的、社会的な中心をなす。メルケルはその中枢だ。
FT December 21, 2016
For Merkel and for Germany,
compassion has a price
Nikolaus
Blome
FT December 21, 2016
The Berlin attack calls for strength
and calm
FP DECEMBER 21, 2016
The West Should Hope That Merkel
Loses
BY
MATTHIAS MATTHIJS
ドイツの民主主義、リベラルな秩序を守るために、メルケルは退場するべきだ。メルケルはユーロ圏を指導したが、その結果は失敗であった。キリスト教民主同盟を排除した、レッド=レッド=グリーン同盟(社会民主同盟、左派、グリーン)が政権を取るべきだ。
第1に、ユーロ危機、第2に、ロシアとウクライナの危機、第3に、100万人が流入した難民危機、第4に、ハンガリー、ポーランドの中欧における非リベラル体制の登場。
メルケルが退場することで、その間違いをただすことができるだろう。
Bloomberg DEC 22, 2016
Berlin Attack Exposes Europe's
Deportation Problem
Leonid
Bershidsky
FT December 23, 2016
The method in Angela Merkel’s
measured response to terror
Daniela
Schwarzer
フランスと違ってドイツでは、歴史的な事情により、戒厳令や秘密警察、大規模な軍隊の展開は国民に支持されない。難民対策が中心である。
l 廃貨の意味
NYT DEC. 20, 2016
Venezuela’s Currency Madness
By
THE EDITORIAL BOARD
NYT DEC. 20, 2016
Modi’s Money in Small-Town India
By
HANSDA SOWVENDRA SHEKHAR
Project Syndicate DEC 22, 2016
Demonetization on Five Continents
JEFFREY
FRANKEL
貨幣の「廃貨」がいくつかの国で起きている。通貨改革としての廃貨は、流通している貨幣の廃止と、新しい貨幣への交換を意味する。
第1に、ヴェネズエラで起きているように、ハイパーインフレーションに向かう廃貨がある。21世紀には珍しくなったが、ジンバブエに続いて、2つ目のケースになりそうだ。ハイパーインフレーションは、ラテンアメリカや旧ソ連邦の諸国で観られた、政府の支出が税収や借り入れによって満たせないために、民間の富を奪うケースで起きる。財政赤字を抑制しなければ、ハイパーインフレーションは避けられない。
第2に、もっと技術的な理由で、政府は廃貨を実行する。偽札の排除、共通通貨の採用、国民的な英雄への称賛、など。その場合は、長い時間をかけて、場合によっては永久に、旧貨幣の新貨幣への交換を行い、混乱を避ける。
第3に、インドの首相Narendra Modiが行った、一気に高額貨幣を廃貨したケースである。高額紙幣は、犯罪や脱税、収賄に利用されている。モディは、不正な蓄財の排除も目的とした。しかし、そのやり方には多くの欠陥があったため、庶民の性格に著しい混乱をもたらし、経済活動を抑制した。
たとえ非常に緩やかなやり方でも、廃貨には大きな決断力が必要だ。もし推測されているような、対立政党の貨幣改革論を封じるために行われたのであれば、モディの廃貨はあまりにも政治的に大胆であったと言える。
Project Syndicate DEC 22, 2016
The Destructive Power of Inflation
MARTIN
FELDSTEIN
アルゼンチンで、先週、私は高インフレが持つ破壊力を実感した。アルゼンチンの年インフレ率は約20%であるが、昨年は推定40%であった。中央銀行はこのままディスインフレ過程を続け、3年で5%まで下げたいと考えている。
アルゼンチンのインフレは、1975-1990年に平均で300%もあった。物価は数か月で倍増した。1989年、インフレが爆発的に加速し、1000%を超えたが、その後、抑制された。
実際、インフレは消滅したのだ。1990年代半ば、アルゼンチン・ペソはUSドルに固定され、2つの通貨が日々の取引でも、ブエノスアイレスで等しく交換されていた。
しかし、ペソの固定制が崩壊した後、ドル建の契約がペソ建に、市場の交換レートではなく、転換するよう強制された。それがインフレを上昇させた。2003年までに年40%に達し、その後の数年は、10%に低下した。しかし、キルチネル夫妻Néstor Kirchner、Cristina
Fernández de Kirchnerの大統領時代に、再び25%まで高まった。2016年には40%に戻ったのだ。
インフレ率が高い経済では、人々は長期の契約や投資を行わない。融資も、保険も、債券市場も、成立しなくなる。エコノミストは、インデクセーションによって契約は可能だ、と考える。しかし、それは間違いだ。だれにも正しいインフレ率が計算できないのだ。政府の統計発表も、担当者が解雇されて、人為的な数字を示すようになった。
政府がアルゼンチン・ペソをドルに交換することを許してから、人々は金融資産を国外に移した。アルゼンチンの投資された資産は、アルゼンチンよりアメリカに多くある、と聞いたことがある。こうした資本の流出、国内投資の不足は、アルゼンチンの生産性や成長を損なった。
現在のMacri政権は、インフレ抑制策を続けるが、それは短期的に政治コストを生じる。需要を抑制し、実質GDPを減少させるからだ。インフレ抑制の利益は国民に見えない。
l IMF専務理事の決定
Bloomberg DEC 20, 2016
A Chance to Fix the Way the IMF
Picks Its Leader
Mohamed
A. El-Erian
l ソ連崩壊の意味
FP DECEMBER 21, 2016
Could Mikhail Gorbachev Have Saved
the Soviet Union?
BY
CHRIS MILLER
FP DECEMBER 21, 2016
The End of the End of the Cold War
BY
JULIA IOFFE
NYT DEC. 22, 2016
Since the Fall of the Soviet Union
FP DECEMBER 22, 2016
The Soviet Union Is Gone, But It’s
Still Collapsing
BY
FP CONTRIBUTORS
1991年12月、ソ連は15か国に変わった。ソ連崩壊の意味は、まだ十分に理解されていない。
l ロボットと人間の補完的社会
FT December 23, 2016
How robots are making humans
indispensable
Gillian
Tett
ロボットが人間の仕事を奪ってしまう。この点で、エコノミストたちは合意している。ある研究によれば、アメリカ製造業が2000年から2010年までに失った雇用は560万人であった。その9割は、貿易ではなく、機械化によるものだ。McKinseyの推定では、機会かはサービス産業にも広がり、人間の職場の45%が失われる。その賃金総額は年間2兆ドル、数百万人の雇用に及ぶ。
しかし、人類学者たちは「参加観察」によって、異なる結論を示している。急速に成長する、巨大で複雑な情報システムを利用する企業は、データの管理や評価に、ロボットではなく人間を、常に、より多く必要としている。それは機械と人間との新しい補完関係を創り出す、と。このことは、トランプ次期大統領にとっても重要だ。アメリカ第1で旧製造業を復活させることは間違った産業政策に向かうだろう。むしろ、労働者たちをこの新しい世界に導くべきだ。
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The Economist December 10th 2016
America’s new business model
American’s corporatism: Chairman president
Politics in New Zealand: Lost Key
Popular discontent: In China, too
Education: Must try harder
Alt-right media: Looking on the Breitbart side
The American economy: Full speed a-Fed
The euro zone: General anaesthetic
Free exchange: You had to be there
(コメント) トランプ大統領が企業に対して圧力をかけ、投資や雇用に介入するのは、アメリカの典型的な伝統にしたがうものである、という記事です。面白いけれど、どうかな? と不満でした。
公式には、中国政府は英米の民主主義が混乱し、エリートたちが批判されているのを喜び、自分たちのシステムを自慢します。しかし、グローバリゼーションの顕著な受益者であることが明白な中国でも、英米の反エリート、反グローバリゼーションと同じような、不満を高める人々がいます。習近平は、その弱点を心配しています。
教育の国際比較、オルト・ライト、アメリカとユーロ圏の金融政策をめぐる将来の不透明さは、何か共通した呪文のように響いてきます。
何より、ニュージーランドの成功と、EUが市場だけでなく政治の統合にまで踏み出したことと貿易・地域統合理論の関係が、トランプ以上に、重要な問題です。
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IPEの想像力 12/26/16
2016年と言えば、何が重要であったのか?
ロイターの挙げた項目と読者投票の結果では、トランプとBrexitです。
1.米大統領選で共和党のトランプ氏が当選
2.英国民投票でEU離脱派が勝利
他の事件は、まったく無関係に思えます。
3.オバマ米大統領が被爆地・広島を訪問 ・・・4.天皇陛下が退位をにじませるお気持ちを表明 ・・・5.日銀がマイナス金利政策を発表 ・・・6.南シナ海領有権問題に司法判断、中国は拒否 ・・・7.東京都知事選で小池百合子氏が当選 ・・・8.相模原の障害者施設で45人死傷 ・・・9.「ポケモンGO」が世界中で社会現象に ・・・10.D・ボウイやプリンスなど相次ぐ有名人の死
リオデジャネイロのオリンピックや、テニス、ゴルフ、ラグビーなど、スポーツに注目が集まり、ジカ熱や自然災害、凶悪事件から、スターやセレブの訃報とスキャンダルへとニュースは旋回し、振幅を広げました。
Brexit、トランプだけでなく、人の命や権利の在り方が、社会関係や制度を築く上で非常に軽く扱われているように感じました。それが当然だ、と思うほど、情報やネットワークの作用は人々の理解を超えており、それに対する暴発や狂気だけが特別な意味を持つと私たちは信じ始めたのではないか。その結果、異様な風景が積み重なっていきます。
19.北朝鮮が5度目の核実験、過去最大規模か
20.ドゥテルテ大統領の暴言で米比首脳会談中止
北朝鮮やフィリピンで、国民を惨殺することも躊躇しない指導者が権力を維持できるのはなぜか? リベラルな政治的価値や民主主義体制の優位を信じることは、もはやできないのか? アレッポ空爆、南沙諸島の軍事化、コロンビア和平合意の否決、イスラム国などによるテロ事件多発などが、私には印象的でした。
包括的かつ視覚によって記憶が刺激される点で、私は「時事通信フォト」が気に入りました。
台湾総統選挙で蔡英文が当選したとき、神様は希望を使い果たしたのかもしれません。日本国内では、小池ユリ子の都知事当選と築地市場移転問題、ピコ太郎が関心を集めました。
****
その数ページを電車の中で読みながら、私は久しぶりに腹の底から笑いをこらえるのに苦労しました。司馬遼太郎の『街道を行く』を読んでいたときです。
動物好きの女中さんや、編集部の人たちと一緒に、丹波篠山の宿で司馬遼太郎は雑談していました。
女中さんが語った、猪は麦畑を荒らして実った麦の穂を上手に食べる、という観察談から、他の人が猪の走る姿を観たことがある、と思い出します。その様子は実に「悲愴」であった、と。冬枯れの山を、猪が一頭、地ひびきをたてるような勢いで走っていた、と。
すると、突然、連想は猫の話に向かいます。
「私は猫が涙をながして泣いているのを見たことがあります」
飼い猫のしつけに厳しい、その編集者の母親は、他家でしつけのなっていない「放縦」な猫を観て、神経がくたくたになって帰宅したそうです。
「そこへゆくと、ほんまに、お前はおとなしゅうて、ええ子やな」
そう猫を振り返って、ほめてやったとき、猫が「無言」で泣き出したというのです。「大きな目にみるみる涙があふれて、そのしたたってゆく涙がひげを濡らした」。
動物好きの女中さんは猫に感動したようですが、しかし猫よりも、亀岡の山を走っていた猪の方がもっと可哀そうやな、というのです。司馬もそれに同意し、「猫はなんといっても食物を人からもらって暮らすのだが、猪の境涯ともなればそうはいかないのである。」と司馬は書いています。
****
Financial TimesのReviewビデオは、海兵隊がメキシコの麻薬王を逮捕した映像で始まります。
イランが、IAEAの検証によって核合意に至り、アメリカは制裁解除に合意します。台湾で大きな地震があり、倒壊したビルの違法工事が疑われました。北朝鮮はミサイル発射によって衛星を軌道に乗せることに成功し、アメリカ本土を直接に格攻撃する能力を得つつあることに衝撃が広がります。オバマ大統領はキューバを訪問し、爆弾テロでベルギーの空港が破壊され、多くの死傷者を出し、パナマ文書が公開され、タックスヘイブンによる著名人の脱税が注目されました。
このころから2016年は加速し、危険な蛇行を始めました。
ヨーロッパ大陸を多くの難民がシリアなどから移動し、さまざまな軋轢と衝突の後、トルコとの合意で抑えることになります。パリで、労働法の改正に反対するデモ隊と警察が衝突します。オバマ大統領は広島を訪問し、被爆者の慰霊碑に献花しました。フロリダのゲイが集まるナイトクラブを男が軍事用ライフルで襲撃し、50人を殺害します。イギリスは国民投票によってEU離脱を選択し、キャメロン首相は辞任します。イスラム国からの戦闘員による自爆テロなどで、トルコの空港において40人が殺害されました。
フィリピンで大統領になったドゥテルテは、麻薬密売人や常習者を根絶すると宣言し、実際に法によらない殺害を奨励します。チルコット委員会はイラク戦争の開始に関して、元首相のトニー・ブレアを強く非難しました。アメリカにおける警察官の黒人に対する射殺事件が、全土に激しい抗議を引き起こします。ダラスでは報復として、5人の警察官が殺害されました。南仏ニースではチュニジア生まれの男がトラックによるテロ攻撃で84人を殺害し、トルコの軍事クーデタはエルドアンを支持する群衆によって阻止され、シリア内戦が激化して犠牲者と難民をさらに増やしました。
オリンピックと並行して、ブラジルのルセフ大統領に対する弾劾が成立します。コロンビアのサントス大統領と反政府ゲリラFARC指導部との原則合意は、その後の国民投票で否決されます。ニューヨークで爆弾テロが起き、サウジアラビアによるイエメンのフーシ派に対する空爆は続き、ハリケーンが配置を襲い、タイのプミポン国王が亡くなりました。
FBIのコニー長官が、大統領選挙の11日前に、ヒラリー・クリントンのメール疑惑を再燃させました。フランス政府は、イギリスへの入国を望む難民たちが集まったカレーの占拠地「ジャングル」を強制撤去します。共和党大統領候補ドナルド・トランプが当選し、敗北を認めたヒラリー・クリントンは莫大な選挙資金を費やした。韓国のパククネ大統領はスキャンダルによって弾劾を受け、辞任に追い込まれます。キューバのフィデル・カストロが死去し、イタリアのレンツィ首相が政治改革に失敗して辞任しました。
アサド大統領の政府軍が、ロシアの空爆による強い支援を受けて反政府勢力の支配するアレッポに迫り、多数の市民が避難しました。ベルリン、クリスマス・マーケットにトラックが突入し、12人を殺害します。
ビデオはここで終わります。世界各地の治安関係者は、年初のテロ攻撃を阻止するため、不眠不休の警戒態勢を続けているでしょう。
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早朝、子供たちを連れて、父の墓を掃除しました。雑草を引き、墓石や墓碑を水で洗いました。最後に花を入れ、全体に水を流して、線香を立てます。
それぞれに、父が亡くなってから自分たちがしたことを、黙って報告しました。お経は、知らないから、なしです。快晴で、冷たい、静かな朝でした。
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オバマ政権は、ロシアのサイバー攻撃に対する制裁を発動しました。緩やかな傾斜を描いて、市民生活から戦場への道はつながっている、と思います。
嘘の時代。フェイク・ニュース。
人類が獲得した「社会的認識を実現する能力」、IPEの想像力は、プラスだけでなくマイナスの次元でも爆発的に拡張することを知った年でした。
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