IPEの果樹園2016

今週のReview

12/19-24

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Brexitの交渉 ・・・グローバリゼーションの政治経済学 ・・・タックスヘイブン ・・・移民・難民のガバナンス ・・・プーチンの外交 ・・・オバマの外交 ・・・トランプの新国際秩序 ・・・億万長者+将軍+イデオローグたち ・・・ポピュリズムの地政学 ・・・インドの通貨改革 ・・・米中貿易紛争 ・・・人民元の下落局面 ・・・AIと洗車

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  Brexitの交渉

VOX 06 December 2016

If you really want to go – Germany and Brexit

Beatrice Weder di Mauro

611日、ドイツの主要ニュース誌Der Spiegelは、表紙にユニオン・ジャックを掲げて、“Bitte geht nicht – warum wir die Britten brauchen”“Please don’t go – why Germany needs the British”)と書いた。まるでイギリス人へのラブレターだ。

The Financial Timesの反応はもっと否定的であった。The Timesは、「ドイツのEUがイギリスを脅かす」と書いた。

こうしたジャーナリズムの反応は、ドイツ人とイギリスとの親しい関係、イギリスのEU離脱に関する感情を表す。多くのドイツ人は、他のヨーロッパ諸国に比べて、UKに親しみを感じている。さらに、彼らはUKが重要な経済パートナーであるだけでなく、やりにくい政治的パートナーであり、特別な扱いを求めてきたことを意識している。イギリスは、共通の利益だけでなく、イギリス自身の利益のために、EUに留まるべきだ、と彼らは考えていた。

Brexitは、ドイツの政策担当者たちを2つの考え方に分けた。1つは、大連立政権のパートナーであるSPDの、Sigmar Gabriel副首相を含むグループで、「これはEUの新しい出発に向けたチャンスである」という意見だ。人々の関心により近いEUを形成するためにドイツが積極的に改革を指導し、統合の深化を目指す。そのためにもEU諸国のBrexit交渉を長引かせることなく、他の諸国に政治的な離脱を促すことがないよう、UKに特別な合意を認めない。

2のグループは、メルケル首相を含む、冷静に見守り、早急な結論に飛びつかない、という意見だ。UKに時間を与え、新しい政府の確立と離脱のアプローチを決めるように促す。Brexitの教訓とは、さらなる統合化が拒まれたことであり、今は統合を進める時期ではない。むしろ、連鎖的な離脱が起きることを懸念している。イギリスがEU市場にとどまりたいなら、労働者の自由移動や、EU財政への負担、単一市場に関する将来の規制を受け入れる必要がある。ドイツ政府は、イギリスが50条による離脱手続きを正式に始めるまで、事前の交渉をしない。

イギリス首相は、2つの点を明確にした。すなわち、手続き開始の日を決め、移民流入に対する管理は譲れない、というものだ。この姿勢は、EU諸国、そしてドイツに2つの問題を提起する。1.イギリスの移民問題は特別か? 2.イギリスとの交渉で何か譲歩するべきか?

最初の問題に対する答えは、No、である。イギリスのEU移民はドイツと似ている。そして、ベルギーやスイスの方が異なっている。また、ドイツは、労働者の移動の自由をユーロ圏の不均衡を調整するメカニズムとして欠かせない、と考えている。統合化の移行に際して、一定の譲歩を認めたが、今やEUの労働市場はアメリカよりも、金融危機後の調整コスト吸収に重要な役割を果たしている。これを制限することは、ユーロ圏にとって好ましくない。

共通通貨圏の議論を超えて、労働者の移動を制限することは、加盟諸国の間に2流の市民を作るだろう。そのことが政治的な離脱を刺激することになる。Brexitの後、すでに各国のナショナリスティックな政党が特別な条件の要求を強めている。

ドイツは、短期的なコストとベネフィットを考慮して、洗練された国益に従い、また、長期的にも、ユーロ圏やEUの存続がドイツの繁栄にとって欠かせないことを理解して、イギリスに対する特別な条件は認めない。

FT December 8, 2016

Greater clarity from May will smooth Brexit path

The Guardian, Thursday 8 December 2016

Britain is heading for the hardest of hard Brexits, but Theresa May can limit the damage

Charles Grant

テレサ・メイ首相は、ハードなBrexitの中でも最もハードなコースへ進んでいる。ヨーロッパの官僚たちは、今や、そう確信した。しかも彼らは、もしイギリスが50条に従う離脱過程に入れば、その立場は非常に弱いものだ、と考えている。合意がないままでは、WTOルールだけに頼る、という「断崖コース」を進むしかないからだ。それはEU諸国も望まないが、イギリスの被る損害ははるかに大きい。

イギリスの条件を改善するために、メイにできることは何か? もしメイが労働者の自由移動とEU裁判所を拒むなら、最善の道はEUとのFTAだ。財とサービスの取引に関して関税をゼロにする。

しかし、合意にはEU諸国の好意的な姿勢、政治的支持が必要である。このことをイギリスの閣僚たちはよくわかっていない。今なお、Boris Johnsonのように、離脱キャンペーンで広めた反EUの発言を繰り返している。高等法院の50条に関する判決を示した後、イギリスのメディアが攻撃するのを、政府が反論しない姿勢もEU諸国の疑いを招いている。

メイ首相は、EUとの共通政策や目標を強く支持する演説をするべきだ。イギリスの外交、防衛、テロ対策、治安活動に関して、EUはその力を利用できる。EUと境界を守る海に、イギリスも監視艇を派遣することができる。

さらに首相は、高いレベルの経済統合に向けて、イギリスは移行期の条件を合意することに強い関与を示すことだ。イギリスのビジネスと金融において、強く要望されている。その間のEUに対する条件を維持するのは、首相にとって政治的に困難な問題だ。しかし、単一市場に残る根拠は非常に強い。また、たとえ移民を制限するとしても、EU市民の流入に対する制限を、EU外からの流入と区別することは重要だ。

もし最も強硬なハードBrexitを支持するという悲観論が、イギリスに強い不況をもたらすのが早ければ、早期に政治的な妥協が成立する見込みもあるだろう。

FT December 9, 2016

After the referendum, the people, not parliament, are sovereign

Vernon Bogdanor

VOX 10 December 2016

The Belgian government's Brexit negotiating strategy

Paul De Grauwe

ベルギー政府はUKとの交渉でどのような戦略を取るべきか?

ベルギーはEUとの強い統合を維持することがその国益である。UK政府は、ノルウェー型のモデルで単一市場アクセスを守るか、あるいは、単独でEUと、そしてその他に50か国とも、WTOのルールに依拠して交渉すること、を選択しなければならない。

イギリスは、移民規制を行うことを優先し、ノルウェー型は拒むだろう。しかし、単一市場はEUの共通のルールに従うことを前提している。その結果、イギリスとベルギーとの交渉は厳しく限定される。イギリスはEUと交渉するしかない。「特別な取引」によって、イギリス政府は単一市場と移民規制とを可能にすることを望んでいる。

ベルギー政府は、イギリスとの「特別な取引」をしてはいけない。1974年にUKEUに参加したとき、それはEUが強くなりすぎないようにするためだった。UKの政治エリートたちは、内側から、そうすることが最善と考えた。EUを離脱するのも同じだ。UKはこれを、「特別な取引」によって進めようとする。しかし、それはEUを弱めるだけで、ベルギーの長期的な利益にならない。

しかし、残念だが、長期的な視点が政策を決めることはない。ベルギーでも、短期的な視点が支配するだろう。重商主義的な考えは非常に強力だ。ベルギーとUKとの貿易収支は不均衡だ。ベルギーからのUK向け輸出は310億ユーロであり、輸出相手国として第4位だ。輸入は150億ユーロしかなく、貿易黒字がある。ベルギーの輸出産業は政府にUKとの「取引」をするよう強い圧力をかける。さらに、UK向け輸出の80%はフランダース地方から行われている。フレミッシュの政治家たちはUKとの取引を求め、フランス語圏の政治家たちは、フランス政府と同じ、強硬な姿勢を好むだろう。どちらが勝つかはわからない。ベルギー政治は、言語圏と、左右の対立という、2重の亀裂によって、多くの予想外な混乱を生じている。

ベルギーは、EUで起きることの縮図である。EUには、さまざまな求心力と遠心力が働く。政策担当者たちが長期的利益を重視する保証はないのだ。

FT December 12, 2016

Theresa May’s weak spot is her paranoia around colleagues

Iain Martin

FT December 14, 2016

Which is the best Brexit option: soft, hard or cliff edge?

Alexander Stubb

FT December 15, 2016

How Brexit may not mean Brexit

Philip Stephens

VOX 15 December 2016

Preparing for Brentry – after Brexit: A view from Sweden

Fredrik Andersson, Lars Jonung


l  グローバリゼーションの政治経済学

FP DECEMBER 6, 2016

It’s the Globalization, Stupid

BY ROBERTO STEFAN FOA

グローバリゼーションが進んでも、ナショナリズムは衰えず、むしろ強まっている。生活スタイルや価値観の多様化や寛容さは増したが、移民や難民に対する寛容さは失われた。国際機関に対する信頼も低下している。

歴史の答えは失望するものだ。第1次世界大戦の前まで、新しいリベラルな秩序が築かれたと人々は信じていた。イギリス、フランス、ハプスブルクの3帝国が支えていた。しかし、この世界は戦争の勃発と大不況によって完全な混乱に陥った。

国民国家を解体することとはまったく逆に、1989年以降、エリートの始動するグローバルな統合は、同様に、超国家機関の正当性を破壊し、ナショナルな民主主義をアイデンティティ、安全保障、忠誠心の源泉とした。今や伝統的国民国家の擁護者たちが権力を得て、グローバル・ガバナンスの行方を支配する。

FT December 12, 2016

How should we compensate the losers from globalisation?

Gavyn Davies

2016年に政治的な「ポピュリズム」が登場したことは、マクロ経済学者に対して、特に、グローバリゼーションと技術革新についての彼らの姿勢を反省させることになった。これらの政策課題について、特に前者について、何が適当な政策なのか、その判断が劇的に変化した。

経済学者たちの合意はまだ形成されていないが、政治の変化は急速で、彼らの手にあまり、破滅的な結果を生んでいる。

ごく最近まで、経済学者たちは自由貿易を支持し、発展した経済でも、新興の経済でも、生産性の上昇と全般的な厚生の改善をもたらす、と確信していた。貿易や資本移動の障壁があれば、それがどこであれ、できるだけ迅速に取り除くべきだ、と主張した。発展した経済で自由貿易の敗者がいるとしても、それは少なく、一時的なものであり、受益者の方が多く、永続するはずだった。

2016年の政治的激動がその姿勢を見直すことになった。ただし、「ポピュリズム」には様々な方向性があり、テレサ・メイとドナルド・トランプとは同じカテゴリーに入らない。

1つのテーマは、インターナショナリズムやグローバリゼーションの崩壊に対して、経済ナショナリズムが復活したことである。「エリート」はグローバリゼーションの受益者とみなされ、「専門家」の助言が拒否された、

経済学者たちは、以前考えたよりも、敗者が多く、しかも、長期的に続く問題であり、政治的な攻勢を強めていることを知った。敗者が勝者によって補償される場合だけ、グローバリゼーションの利益は支持され、拡大できる、という新しいコンセンサスが現れた。

しかし、実際にどうすれば補償できるのか、その複雑さは非常に大きい。ラスト・ベルト(製造業を失った衰退地域)は支援するべきだが、どうやって支援するのか、政治的、経済的なコンセンサスがない。

グローバリゼーションの主要な勝者は、新興経済の未熟練労働者であり、発展した諸国・経済圏の所得分配で上位に位置する人々だ。直接的な解決策は、グローバルに、あるいは、国内で、この分配の変化を逆転させることだ。トランプ次期大統領が唱えた、メキシコや中国からの輸入に対する保護主義は、これを意味する。

しかし、アメリカのすべての輸入を規制すれば、消費者は物価の上昇に苦しみ、重要な投入を書いて国内生産が妨げられ、また、生産性上昇の危機を激しくする。この政策はまた、世界的な基準から見て低賃金の、新興市場における労働者たちから所得を奪う。

発展した諸国・経済圏の内部で、受益者から敗者に所得再分配すればどうか? このアプローチは公平さの観点から支持されるだろう。自由貿易の「拾いもの」として所得や富を得たものから再分配することだから。

しかし、一般に再分配政策には難しい問題がある。グローバリゼーションによる損失と、他の理由による損失とを区別できるか? リスクを取って事業を拡大する経済的な誘因を損なわないか? セーフティー・ネットとして、補償はすでに課税と給付に組み込まれている。なぜ新しい補償を大規模に行うのか? 不況や消費パターンの変化など、他の経済ショックによる補償と何が違うのか?

グローバリゼーションの敗者が特別な地域に集中している、と言う場合、それは地域的な所得移転を意味する。アメリカの両岸地域からラスト・ベルトへ、UKのロンドンからヨークシャー北部へ。こうした考え方は過去に試みられたが成功しなかった。ベルリンの壁崩壊後に、東ドイツに対して大規模に行われた移転もそうだ。

政策介入を諦めるわけではないが、その難しさと、むなしい期待を高めすぎる危険を知るべきだ。前進はある。IMFの主任エコノミストMaurice Obstfeldは、失業者の再訓練、地域的なインフラ整備、など、政策リストを示した。(retraining, education, infrastructure, health investment, better housing, lower barriers to entry for new businesses, partial wage insurance for displaced workers, the earned income tax credit, and international co-ordination against tax avoidance

オバマ型のリベラル派が、「セーフティー・ネット」より、新雇用に向けた「トランポリン」政策を唱えたことがそうであった。他方、アメリカの共和党やイギリスの保守党はまったく違う政策を目指した。リベラルな経済政策は、たとえIMFが好ましいと思っても、権力を握る政治家たちに選ばれない。

政治は急激に変化しており、経済学はそれに追いつく必要がある。


l  アフリカ

FT December 7, 2016

Africa’s democratic dreams flourish

David Pilling


l  タックスヘイブン

FT December 7, 2016

Noose tightens on tax havens in global crackdown

Vanessa Houlder

人々は税金を嫌う。しかし、富裕層だけが課税を免れる、タックスヘイブンを抑える国際的なルールが求められている。世界は透明性を高めるだろう。しかし、資産を移転することも容易になる。

次第に富裕層は、その国に住んで納税するか、あるいは、移住するか、という選択を強いられるだろう。


l  移民・難民のガバナンス

Project Syndicate DEC 7, 2016

The Future of Migration Governance

MD. SHAHIDUL HAQUE

財、資本、人が、かつてないほど移動性を増している。しかし国際社会は、財や資本に比べて、人の移動に関する統治を進んで実現してこなかった。

国家主権を否定することなく、帰還を前提に難民はグローバルな連帯を求める原理が示された。しかし、移民に関しては、一時的な、事後的な扱いが、一方的に、あるいは2国間合意で行われてきた。それは発展した経済の特別な需要を満たすためだった。

しかし、移民は単なる商品ではなく、人としての権利や複雑な事情、動機を持っている。グローバリゼーションが与える不均等な機械の中で、職を得ようとしているのであり、あるいは、内戦や自然災害から逃れてくる。

移民の統治を欠けば、地政学的な安定性を損ない、国境管理の負担を増し、カオスを拡大する。世界は、新しい、包括的な、人の移動に関するグローバル・ガバナンスを必要としている。

そのために新しいグローバル・コンパクトを確立するべきだ。移民を秩序ある形で促進する。移民・難民の権利を保護し、エスニックや宗教による差別をなくす。必要な緊急支援を提供する。移民の積極的な経済的効果を強めるために、受入国と送り出し国の双方が協力する。労働市場に統合することで、財政的、人的なコストを減らす。

それは2015年の気候変動に関するパリ協定に似たものになるだろう。ある分野で約束し、他国を縛ることなく、具体的な行動と定期的な報告を約束し、そのことを加盟諸国は他国と共有する。

Project Syndicate DEC 8, 2016

A New Deal for Refugees

SAADIA MADSBJERG

現在、世界には2130万人の難民がいる。彼らの多くは、過密状態の、安全性や基本的な物資を欠く、避難キャンプで暮らしている。彼らを難民として受け入れる国が現れるのを待っている。

難民の資格は、短期的に、彼らの人権を守るが、長期的な生活の再建を可能にするものではない。難民の特別な法的地位だけでなく、その経済的な地位を認めるシステムが必要だ。

世界銀行は、国際開発や貧困の解消を助けて資金供給してきた。世界の緊急な必要性に応じて、迅速かつ効果的に資金供給する、最善のプラットフォームである。すでに今回の難民危機においても関係諸国に協力している。世界銀行のCFFConcessional Financing Facility)が、ヨルダンとレバノン政府に30-40億ドルの低コスト融資を行う。両国は、人口の10%と25%のシリア難民を受け入れている。

しかし、このアプローチには問題がある。すでに教育、治安、インフラなど、国内経済に財源不足問題を抱える国が、さらに債務を増やすことは好ましくない。国民は、難民受け入れを財政的な負担、資源の浪費と感じるだろう。こうした感情を避けるには、債務ではなく援助が望ましい。しかも、政府に対してではなく、直接、難民の教育、インフラ、医療、就労を支援することに援助するのだ。

明らかに、長期的な解決策が欠かせない。難民の多くが土地を離れ、その子供や孫が避難キャンプの中で育っている。世界銀行のIDAInternational Development Association)は、貧しい国家に対してだけでなく、国家を持たない難民に対して、平等、経済成長、就労、よりよい生活環境を支援している。

その際、決定的な問題は、誰が難民支援の責任を負うのか、である。資金援助する相手は誰なのか? 劇的な改革ではなく、世界銀行が、最も効果的な政府、民間、NGOsのネットワークを、資金の受入れ先として承認することだろう。こうしたネットワークには革新的な新興企業も参加している。たとえば、BanQuは、ブロックチェーンを使った「経済ID認証プラットフォーム」を導入し、世界中の難民2130万人に重要情報(技能訓練、教育、雇用、金融取引)の入ったIDカードを発行できる。

新しいシステムによって、難民たちが繁栄する本当の機会を創り出せる。

FT December 10, 2016

Integration of UK immigrants is a two-way process

Kate Maltby


l  プーチンの外交

FP DECEMBER 8, 2016

Russian Military Draws Lessons From Ukraine and Syria Ops

BY PAUL MCLEARY

ロシア軍の装備は改善されたし、シリア介入は、地域のシリア軍やイラン兵士との協力関係を管理する能力を高めた。シリア内戦は、軍備近代化の成果を試す演習場であり、武器を販売する展示場にもなった。

The Guardian, Friday 9 December 2016

Person of the year shouldn’t be Donald Trump – it’s clearly Vladimir Putin

Jonathan Freedland


l  オバマの外交

FP DECEMBER 8, 2016

Don’t Knock Offshore Balancing Until You’ve Tried It

BY STEPHEN M. WALT

Peter Feaverの最近の論説は、オバマ外交が2012年以降、「オフショア・バランシング」に決定的にシフトした、と述べた。彼はこの概念を理解していないようだ。何であれ、軍事介入を抑えることがオフショア・バランシングなのではない。

オフショア・バランシングは、リアリストの大戦略であるが、その核心は、戦略的に重要な各地域に対する関心を示すものだ。オフショア・バランシングによれば、アメリカは西半球で地域的な覇権を確立しており(すなわち、現在、「地域的覇権国家」である)、この地位がアメリカの安全保障を最大限に実現する。アメリカはまた、他の大国が、ヨーロッパ、アジア、石油豊富な湾岸地域で覇権を確立しないように注意した。これらの地域な重要な工業力や戦略的資源を大量に保持しているからだ。

もしこの3地域で、潜在的な覇権国がいない、もしくは登場しそうになければ、アメリカはそこに軍事力を置かず、地域の大国間で勢力均衡を維持することに委ねる。もし潜在的な覇権国が現れ、地域の諸大国がこれを阻止できなければ、そのときアメリカは介入して、覇権を抑える均衡を回復するために必要なことをする。オフショア・バランシングは明らかに孤立主義ではないが、アメリカの海外における軍事介入は3地域の勢力均衡を維持するものであり、脅威の規模や切迫性によって調整される。

多くの点で、オバマの中東政策はオフショア・バランシングではなかった。


l  トランプの新国際秩序

NYT DEC. 9, 2016

The World Fears Trump’s America. That’s a Good Thing.

By MARK MOYAR

FT December 12, 2016

Donald Trump faces five fateful foreign policy choices

Gideon Rachman

トランプのトウィッターや閣僚の指名に不信感や警告を観るより、真の国際秩序に関する転換は就任後に行う5つの選択にある。

1.トランプは、ロシアとの関係改善を望む。クリミア併合後に行われた経済制裁から離脱するだろう。また、シリアでもアサド政権の排除を求めなくなる、とロシアは期待している。

2.トランプは、プーチンを称賛し、メルケルを侮辱した。彼女の難民政策を「正気ではない」と述べた。独仏の政府は、プーチンとトランプがヨーロッパの極右政党やポピュリズムを支援することを恐れている。トランプは、NATOを「時代遅れ」と述べた。

3.トランプは、イランとの核合意を非難している。イランに対する反感を示す閣僚を指名しており、イランとの戦争を招くかもしれない。

4.トランプは、中東政策、テロ対策について、イランだけでなく、シリアからイラク、アフガニスタンまで、一連の戦場に直面する。

5.トランプは、最も重要な中国との関係について、保護関税、台湾政策、南シナ海で、深刻な対立を避けられない。

トランプの外交政策は、戦略思想の転換と言うより、むしろ無秩序な直観であるように思う。

Project Syndicate DEC 12, 2016

Trump’s Choice on Climate Change

STEPHEN CHENEY

FT December 14, 2016

With Trump, the US foreign policy framework is at risk

Robert Zoellick

次期大統領ドナルド・トランプは,彼の安全保障チームを選んだ.どのようなコースを示すのか?  Henry Kissingerは,最近のインタビューで,アメリカの外交政策がバラバラの課題に応えた結果であり,全体のデザインがなかった,と述べた.トランプは交渉を得意とし,ケース・バイ・ケースの外交を好むのかもしれない.

しかし第2次世界大戦後,アメリカは当時の枠組みを築き,その中で問題を解決してきた.その枠組みが崩壊の危機にある.中東の諸国家は解体し,ヨーロッパ統合化の計画は,イギリスの離脱,東欧のポピュリズム,ユーロ圏が動揺する中,オランダやイタリアでさえ信頼しなくなっている.ロシアはこの機会を利用して,軍事介入からサイバー攻撃や情報操作まで駆使し,パワーの増大を図ってきた.

アジアの戦略的問題は,中国が地域の支配を求めるのか,それとも,現在の秩序に中国のパワーと利益を反映するような適応を求めるのか,ということだ.Kissingerは,中国は貢納システムを好むだろう,と考えている.習近平主席は,トランプがTPPを破棄することで生じた真空を,直ちにAPECサミットで埋める動きを示した.

世界はアメリカが発する警鐘に注目している.間もなく,トランプとそのチームは,すべての大統領がそうであったように,もろもろの危機によって試されるだろう.その対応は,アメリカの利益と指導力の戦略的な枠組みを反映する必要がある.

1に,アメリカは大陸規模の安全保障を必要とする.フランクリン・D・ルーズベルトの「善隣外交」以来,80年間,アメリカはカナダとメキシコを加えた北米に, グローバル・パワーの強固な基地を築こうとした.

2に,アメリカは大西洋と太平洋を越えて,大陸規模の強固で,生命力のある,信頼できる同盟を必要とする.NATOと,進展しつつある太平洋の同盟ネットワークがそれだ.また,イスラエルや湾岸諸国,インドともパートナーシップを築いた.

3に,アメリカは国益とグローバルな成長を前進させる,国際経済関係の近代化を必要とする.貿易,資本移動,投資,為替レート,デジタル・エコノミー,知的所有権についてルールを求めて,アメリカ民間企業のダイナミズムが世界経済システムを形成することを可能にする.

4に,ラテンアメリカ諸国とともに,西半球の新しい秩序を助け,第5に,軍事力と技術に十分な投資を行い,最後に,アメリカ例外主義の歴史を確認する.民間部門の活躍に門を開き,自由と人権のために発言し,自由世界の指導者であった.

権力には目的がなければならない.トランプはまだ世界観を示していない,とKissingerは言う.今が,それを示すときだ.

NYT DEC. 16, 2016

Pax Americana Is Over

Roger Cohen

トランプの閣僚指名を観れば、アメリカ人は漫画の登場人物が紹介されていると思うしかないだろう。トランプは、アメリカが過去70年間築いてきたルールに依拠した世界秩序に関心がない、ということははっきりした。彼の外交政策とは、取引である。アメリカが儲ける。そうでなければ、やめてしまえ。人権、自由、民主主義、そんなものは知らない。世界的な規模で、中国のように行動する。

パックス・アメリカーナは終わった。


後半に続く)