IPEの果樹園2016

今週のReview

12/12-17

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トランプの株高 ・・・トランプ政権の生成 ・・・マリー・アントワネットの瞬間 ・・・モディの通貨改革 ・・・愚者はその指を見る ・・・トランプの成長モデル ・・・中国の債務ブーム ・・・日本をめぐる重要な論争 ・・・通商条約の時代は終わった ・・・台湾問題は火を噴くか?

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  トランプの株高

Project Syndicate NOV 28, 2016

Sustaining the Trump Rally

MOHAMED A. EL-ERIAN

ドナルド・トランプのアメリカ大統領選挙における勝利は世界中を驚かせた.しかし,彼の勝利が期待を裏切る結果で終わったということではない.多くの専門家たちの予想に反して,その後,株価は上昇を続けている.3つの主要な指数が記録的な高さに及び,ドル高も生じた.

選挙前,ほとんどのアナリストたちは,トランプが勝利すれば,大幅な株の売却と低リスクの政府債券に資金逃避が起きるだろう,と予想していた.実際,投票結果が明らかになるにつれて,それは起きた.フロリダの劇的な勝利に始まり,トランプの優位は確実になって行った.ダウジョーンズ指数は800ポイント下落し,S&P500は(値幅制限の)下限に達した.さらに,ドルが下落し始めた.質への逃避で,アメリカ財務省証券の利回りが急落した.

しかし,市場の悲観は長く続かなかった.次期大統領としての受諾演説直後から,それは東部標準時刻の午前3時頃であったが,株価上昇が始まった.それ以降,世界中でリスク資産の価格が上昇している.アメリカに資本が流入し,ドルの価値は13年ぶりの水準まで上昇した.投資家たちは政治債券による安全確保を捨て去り,QEの終わりを恐れたときよりも利回りを急騰させた.

この逆転のもっともありそうな説明としては,トランプが選挙後の焦点を成長の促進に向けたことだ.規制緩和,法人税改革,インフラ投資,など.そして選挙戦で問題となった発言には触れなかった.中国やメキシコへの懲罰的な高関税,NAFTA2国間FTATPPへの反対.連銀への攻撃も繰り返さなかった.政敵であったクリントン夫妻への訴追を取りやめ,激しい攻撃対象としてきたオバマ大統領も評価する,というように言動を変えた.共和党との対立も和解に向けて動いた.

もちろん,より速い,包括的な成長が実現するには,そして高揚した市場が安定するには,より多くのことが求められる.優れたチームを指名することだ.そして,非伝統的な金融緩和に過度に依存する経済を立て直すトランプの計画を策定する.必要な政策の多くは,オバマ政権下でも準備されてきたが,共和党が多数を占める議会の反対で実現できなかった.インフラ投資や税制改革,雇用創出について,こうした政策を利用できるだろう.

しかし,アメリカは真空の中に存在するのではない.外からの挑戦にも対抗し,圧倒するか,少なくとも,封じ込めねばならない.ヨーロッパが不安定化するリスクはあるが,アメリカ議会はより包括的な経済政策に転換するだろう.短期の金融エンジニアリングではなく,成長を高めるために工場や設備,人に投資する.経済的な不満からトランプに投票した人々が消滅し,株価の上昇が現実に高成長となって利益をもたらせば,市場の期待は現実となる.


l  トランプ政権の生成

NYT NOV. 26, 2016

Trump, and Great Business Ideas for America

By ROBERT J. SHILLER

生涯にわたりビジネスの経験を持つ人物が大統領になる。ドナルド・トランプの政権は一種の実験とみられるだろう。ビジネスの技量や視点が国家を統治するのに重要な資産になるか。

ハーヴァードのRakesh Khuranaは、著書 “Searching for a Corporate Savior: The Irrational Quest for Charismatic C.E.O.s” (Princeton, 2002)において、アメリカ企業が外部からCEOを指名し、高額の報酬を支払い、改革を委ねるケースを調べている。彼らはその約束を実現するために大きな賭けに出る傾向があり、トランプ政権も同じようなアウトサイダーの特徴を示している。


l  マリー・アントワネットの瞬間

FT November 27, 2016

The liberal elite’s Marie Antoinette moment

Wolfgang Münchau

革命は支配エリートの挑発によって生じた。フランス革命の引き金は、マリー・アントワネットが「(パンがなければ)ケーキを食べたらよい」と言った瞬間だろう。そのような発言の証拠はないが、ブルボン王朝は民衆とかい離したエスタブリシュメントの典型であった。

現代のリベラルな民主主義を支配するグローバルなエリートたちも、まったく同様の行動パターンを示す。

カナダとの自由貿易協定やTTIPに対する反対運動は、1980年代の中距離核ミサイル配備に対する反対と同じくらい、人々の間に広まっている。だれもマクロ経済学の権威に挑戦しない。イタリアの政治家たちは永遠に権力の奪い合いを続けている。

EU官僚の仕事は、各国の法律になるよう、政治的に巧妙な条約を作り上げる天才的手法を見出すことだ。Ms Le Pen, Mr Grillo and Geert Wilders of the far-right Dutch Freedom partyが権力を握るほど勢力を増しても、エスタブリシュメントはこのやり方を変えない。

The Guardian, Monday 5 December 2016

The Soviet Union collapsed overnight. Don’t assume western democracy will last for ever

Paul Mason

私が最後にロシアにいたときから25年が経った。エリツィンの経済改革の初期において、ロシアの左派を復活させようと試みたが叶わなかった。人生の半分を経て、私は再びここにいる。資本主義を、何かもっと良いものに替えようと願う人々がいっぱいいる部屋で講演するために。突然、私たちは共通したあることに気付く。かつては永久に続くと思われたシステムが、崩壊しつつあるのだ。

2011年に、プーチンが選挙を奪ってから、それに続く多くの抵抗運動が弾圧され、若者たちは怒りに満ちた沈黙へと退却した。それはロシアの知識人にとって新しいことではない。学生の抵抗運動を指導したレーニンは、1887年に逮捕されてから、30年間を地下活動や亡命先で過ごした。その後、ボルシェビキは次の70年間を自由な言論や政治的反対派の弾圧に費やしたが、今や、ロシアの資本主義的オリガークたちがその弾圧を全力で引き継いでいる。

ロシアの芸術家、哲学者、ジャーナリストたちは、今も改革を信じているのはなぜか? 要するに彼らは、かつて永遠だと見えたものが、道徳的、物理的に崩壊するのを目撃したからだ。それはソビエト連邦だった。

ゴルバチョフが進めたペレストロイカの時期に、多くの人々は突然に「意識が破断する」のを感じた。崩壊は近い、と悟ったのだ。それでもその瞬間が来るまで、人々はソビエトのシステムが永久であるかのように振る舞い、語り、そう考えた。その野蛮さに呆れながら、それでも彼らは国家が要請するパレードや集会に参加し、指示に従った。

201611月にトランプが勝利してから、西側における同様の崩壊が起きる、と信じることも可能になった。それはグローバリゼーションとリベラルな価値観だ。

われわれは30年間、永久に続くと主張する経済システムの下で暮らした。グローバリゼーションは止めることができない自然な過程であった。自由市場経済学はまさに自然法則である、と。しかしグローバリゼーションを受け入れ、それが利益をもたらすと考えた国で、多くの有権者が反対したとき、突然、このシステムが終わる、という可能性を考えるに至った。そして、もしあなたがリベラルな、人道的民主主義派なら、破たんした経済システムの最終形が寡頭制のナショナリズムなのだ、という可能性を知って驚愕する。

プーチンは、外交的な孤立という犠牲を払って、国内の反対派を弾圧し、成長と秩序、国家威信を回復した。今や、世界中に小プーチンがあふれている。


l  モディの通貨改革

FP NOVEMBER 28, 2016

Modi Plunders India’s Cash. Indians Cheer.

BY JAMES CRABTREE

モディNarendra Modi首相は、厳格で、不屈のイメージを広めてきた。しかし、そんなイメージに対しても、この30年間で最も劇的な、混乱する政治的変革を選択したことは強い緊張を生むものだ。

「私は反対する勢力があることを知っている。」と、彼は激しい情念に震える声で演説した。2つの高額紙幣を一気に廃止し、インドの現金によって動く神経済に対するショック療法を採用した、と。「彼らは私を生かさないだろう。彼らは私を滅ぼす。」そして陰鬱に付け加えた。「なぜなら70年間の略奪が動かせないからだ。」

500ルピー紙幣と1000ルピー紙幣とを廃止することは、その価値は約7ドル、15ドルだが、流通している紙幣の総額の90%にも達する取引が止まって、インド経済がカオスに落ち込む。この2週間、新聞の第1面には、銀行を取り巻く長蛇の列の写真が載った。貧富にかかわらず、彼らは高額紙幣を持ってきて銀行に預金する。それはすでに800億ドルに達したが、総額ははるかに多くなるだろう。

野党、国民会議派の、シンManmohan Singh元首相は混乱を批判し、「途方もない経済管理の失敗」であり、「庶民からの合法化された泥棒」である、と述べた。

しかし、真に注目されるのは、混乱にもかかわらず、モディの通貨改革が強く支持されていることだ。インド人は黙って耐えるような国民ではない。これよりもっと些細な政治変化にも街頭デモで抗議した。モディは自分の直感を信じたのだ。大胆な行動は、たとえ痛みを伴う改革でも、支持されるだろう、と。インド人の怒りは不正な蓄財に向かっている。国民にとって悪者は、わいろを要求する警官であり、不可解な蓄財に成功している政治家であり、現金で住宅を半額に値切る不動産開発業者である。

しかし、この「衝撃と恐怖」作戦が、現金に依存するインド経済を改革する効果は、ほとんど期待できない。エコノミストの多くは、犯罪者たちが資産を不動産に替えて保有し、あるいは、外国に預金している、と言う。合法的な商売や零細商店こそ、モディの強い支持者であるが、現金を保有しているのだ。

ハーヴァード大学のサマーズLarry Summersは、世界でもまれに見る徹底的な通貨改革であるが、その苦痛にもかかわらず、成果はほとんどないだろう、と言う。「汚職は続くだろう。わずかに形を変えるだけだ。」

モディは政治的な計算をしたはずだ。野党を苦しめるためだ、という陰謀論がある。また確かに、構造改革で成長をもたらす方針だけでなく、モディは選挙で汚職追放を約束した。その公約の多くについて明確な政策を実現できたわけではない。昨年、ニューデリーで反汚職の政党に選挙でBJPが敗北したことの方が、モディを驚かせたかもしれない。大胆な行動が彼の政権の神髄であるから、汚職追放の通貨改革は完ぺきな決断だった。

この点で、モディの行動は、北京のライバル、習近平が中国で進める汚職追放キャンペーンに対応するものだ。今後、銀行の行列が減り、ATMが機能する時期により、その成功と失敗は決まるだろう。


l  愚者はその指を見る

Project Syndicate NOV 28, 2016

Missing the Economic Big Picture

J. BRADFORD DELONG

中国のことわざが教えるように、「賢者が月を指さすと、愚者はその指を見る。」

WTOの元事務総長Pascal Lamyは、「市場資本主義が月であり、グローバリゼーションはその指である。」と述べた。

生産性の上昇率が低下していることが問題だ。しかし、革新的な技術がもう起きないとは言えないし、富をもたらすのは技術だけではない。また、経済システムがもたらす富の多くは共有されることなく、上位20%の富裕層が多くを得ている。

市場資本主義が多くの人の生活水準を高めることはむつかしい。自由貿易協定やグローバリゼーションを標的にすることは、市場資本主義の管理をめぐる基本問題に応えることから目をそらすだけだ。


l  トランプの成長モデル

Project Syndicate NOV 29, 2016

Donald Trump and the New Economic Order

MICHAEL SPENCE

2次世界大戦以後,経済の優先順位は比較的明瞭だった.最優先事項は,開放的,革新的,ダイナミックな,市場によって導かれる世界経済を構築することであった.その中で,すべての国が繁栄し,成長できる.その次に,かなり優先度が低かったかもしれないが,活気のある,持続可能な,包括的成長の国民的パターンを生み出すことであった.

今,その優先順位の逆転が始まっている.没落する中産階級を元気づけ,停滞した所得上昇を一気に加速し,若者の失業を減らすために,協力で包括的な,各国の成長を実現することが優先されつつあるのだ.財,資本,技術,人々(グローバル・エコノミーの4つの基本的フロー)を相互に利益のある枠組みで管理するというのは,国民国家の成長を促すか,少なくとも妨げないときだけ,ふさわしいものである.

Brexitも,EU諸国も,アメリカ大統領選挙も,その問題を示した.高度開発諸国の有権者たちが市場によって推進される旧世界経済制度に不満を持っているのは理由のあることだ.その秩序においては,選挙で決まった政府や政策担当者の制御できないような,各国経済を決定する力が働くことを許した.旧秩序のエリートたちは,その利益を享受するだけで,この秩序がもたらした分配や雇用に関する問題を無視した.ただ,確かに,旧秩序が彼らの能力を奪っていた.

2次世界大戦後,冷戦の圧力もあって,アメリカは西側の復興や発展途上諸国の成長機会を提供する旧秩序の構築を支援した.およそ30年間は,各国にとっても,世界にとっても,グローバルな成長パターンの分配上の結果はおおむねプラスであった.戦後秩序は包括的であった.

しかし,国家間の不平等は減ったが,国内の不平等が増大した.優先順位の逆転は避けられず,重大な結果をもたらして,それが起きたのだ.

まず,アメリカはグローバルな公共財の供給に占める不当に大きな負担をますます引き受けなくなるだろう.他の国々が最終的にはそれを引き受けるとしても,いつまで続くかわからない移行期があり,安定性が損なわれる.たとえば,NATOの仕組みは再交渉される.

マルチラテラリズムも衰退する.それは長期的に,各国が所得や資産に比例した貢献を前提しつつも,非対称的な負担によって実現したものだ.2国間や地域内の,貿易・投資協定が増えている.トランプがTPPを放棄し,アジアにおける独自の機会を中国に与えるだろう.「一帯一路」戦略やAIIBを通じて,すでに中国のアジアにおける影響力は拡大している.他方,そのような力のない発展途上諸国は,2国間交渉に苦しむだろう.また,技術をめぐる大国の規制は強まる.安全保障や雇用問題があるからだ.

国益の重視は,コストとリスクをもたらすが,同時に,重要な利益も実現する.各国内の支持を失い,政治的,社会的な結束を損なうような,グローバルな経済秩序は不安定である.人々のアイデンティティが,今もそうであるように,国民国家の市民として理解されている限り,国家を優先するアプローチが最も効果的である.


l  中国の債務ブーム

FT December 2, 2016

China’s liquidity flood stirs memories of the Mongols and Mao

James Kynge

13世紀の旅行者、マルコ・ポーロは、中国人が金ではなく、神で貨幣を作っていることに驚いた。しかし、その後、中国人はその発明にどれほど苦しんだか、彼は知らなかった。

増大する債務を印刷機によって解決しようとする支配者が現れた。激しいインフレの猛威によって、王朝が次々と崩壊した。モンゴル人も、毛沢東の共産党も、通貨価値の破壊によって壊滅した国家において権力を握ったのだ。

今回、中国の問題はインフレーションではない。少なくとも、まだ。北京は、経済活動を刺激し、債務の負担を融資するために、史上最大の国内流動性を創り出した。その危険とは、もし人民元が国内でその価値を失い、あるいは、中国から流出するなら、未払い債務の波が危機へと落ち込むことだ。

中国の流動性供給は驚異的な規模だ。それはユーロ圏と日本を合わせたよりも大きく、ほとんどアメリカとユーロ圏との合計に匹敵する。アメリカやヨーロッパ、日本の量的緩和が議論になるけれど、中国はそれらを超えている。重要な点は、中国の債務が増大するのに合わせて、その支払いに必要な貨幣を供給していることだ。Jonathan Andersonはこれを「債務によるバブル」と呼ぶ。

中国の崩壊は、その通貨供給が債務の支払いに混乱を生じるとき、あるいは、中国の企業や市民がその資金を海外に移し、金や株式、不動産に投資するときに起きるだろう。Andersonは、政府が金融機関に債務の上限を課すとき、中国の信用ブームが終わる、と言う。また、資本流出は、バブルが破裂するのを抑えている流動性を枯渇させる。

北京はこうした懸念から海外投資を規制した。たとえ1兆ドルの資本流出が生じても、それに応じた十分な通貨を供給する能力が中国にはあるかもしれない。しかし、そのような行動は政策当局の求めるバランスがナイフの刃を渡るように危ないという事実を示すだろう。銀行の融資規模は、平均で、わずか8年間に4倍にも膨張している。

宋朝の時代、Ye Shiは、資産に裏付けられない「空虚な貨幣」を発行することはインフレをもたらし、庶民の所得を奪う、と警告した。皇帝はその忠告を聞かず、経済混乱と弱体化が進み、モンゴルに征服された。

FT December 6, 2016

Cracking China’s debt conundrum

Yukon Huang

中国の債務膨張が、「影の銀行」を再生し、「リーマンの瞬間」を引き起こす、と考えるのは間違いだ。

金融崩壊の予測は、現れては消えることの繰り返しだった。債務の多くは国有銀行から国有企業に対して行われた融資である。中国政府の財政状態が健全である限り、個々のデフォルトや取り付けは金融システムの混乱に結び付かない。また、中国の土地価格の上昇が特殊な役割を担っている。

土地の私有化と売買は10年前から始まったが、その影響は信用膨張によって大都市圏の地価を5倍に上昇させた。しかし、これはエコノミストがしばしばプラスの意味で言及する「金融深化」を含むものだ。社会主義システムでは隠されていた土地に依拠する資産が市場価値を探っているのだ。その意味で、債務問題は誇張されている。これが金融危機につながるかどうかは、資産価値の持続可能性によって決まる。

それは家計と企業の2つの視点から判断される。家計にとって、所得の増大とそれに伴う貯蓄の増加は不安定化のリスクを抑える。しかし、国有企業にとって、その利潤率が民間企業より手化しており、この現象は2008年以降、政府の刺激策によって生じた。政府は積極的に過剰生産力を処理し、不良な企業を整理し始めている。そして銀行の資本を強化し、職を失う労働者が他の地方に移動するよう支援している。

こうして債務問題は、政府による国有企業の縮小、経済再編問題なのである。


l  日本をめぐる重要な論争

Bloomberg DEC 6, 2016

China Should Heed Pearl Harbor's Lessons

Kuni Miyake

真珠湾の記念日を、多くの日本人は後悔と反省をもって迎え、当時の日本政府の傲慢と誤算に驚愕する。今月、日本の安倍首相は真珠湾を訪問し、戦没者を慰霊する。

当時の大日本帝国と現在の中国とは多くの点で異なっているのだが、それでもなお、私は2つを比較せざるを得ない。アジアの新興国であり、愛国心、外国勢力への疑念、西側へのコンプレックスを持っていた。軍隊は政府によって完全に統制されず、国際世論に反して支配を拡大し、アメリカが防衛する重要な海域を犯した。

日本は間違った選択を行った。中国人には、まだ、その経験から学ぶ時間がある。

FP DECEMBER 7, 2016

Putin and Abe Are Hoping to Forge Closer Russia-Japan Ties

BY EMILY TAMKIN

台頭する中国とその攻撃的な姿勢に、ロシアと日本は共通の地政学的な関心を持っている。アジアにおける軍事的均衡を維持するには、日本がロシアとの関係を強化するだけでなく、ロシアも中国への資源輸出と人口減少による従属的地位を避けるために、対抗する市場としての日本を必要とする。

しかし、ロシアが第2次世界大戦以降、実効支配している島を返還することを強く嫌っているのは確かだ。ロシア政府は極東開発の基金8800億ドルへの協力や、日本の銀行に国営ガスプロム社に8億ユーロの巨額融資を求めている。

アメリカの外交官は、経済制裁と関係断絶を迫るヨーロッパとロシアの関係だけでは、解決できない多くの問題をロシアと共有している。安倍のアプローチが、アジアにおけるアメリカとロシアの協力関係に道を開くかもしれない。

FP DECEMBER 7, 2016

What to Expect From Japanese PM’s Visit to Pearl Harbor

BY EMILY TAMKIN

75年前、日本の真珠湾攻撃がアメリカの参戦を決定づけた。およそ4000人が第2次世界大戦記念館を訪問するが、その最も重要な人物が遅れて参加する。「この訪問は、犠牲者を慰霊するためである。戦争の惨禍を繰り返してはならない。」と安倍晋三首相は述べた。

指導者たちは今も、現代のアジアを形成した戦争の亡霊と格闘し続けている。5月、オバマ大統領は広島を訪問した。ホワイトハウスの報道官は、「以前の敵国が最も緊密な同盟国となり、共通の利害で結びつき、価値を共有する」と述べた。

安倍は戦争中の日本の行為に対して謝罪しない方針を示し、中国や韓国との対立を過熱させた。従軍委慰安婦問題、靖国神社参拝で、謝罪しないが、安倍は韓国と中国に配慮した。政府は戦争放棄の姿勢を憲法の再解釈によって改変し、海外での軍事行動を認める法案を通過させた。11月には、南スーダンへの自衛隊派遣も決めた。

ドナルド・トランプは、日本やアジアへの防衛負担をやめると脅している。安倍の真珠湾訪問は、過去の終焉より、未来の再確認を求めるものだ。


l  通商条約の時代は終わった

Project Syndicate DEC 8, 2016

Don’t Cry Over Dead Trade Agreements

DANI RODRIK

2次世界大戦の終結から70年間は、通商条約の時代であった。それらは2つの多角的な協定に集約された。GATTWTOだ。

しかし、2016年のポピュリストの反乱は、こうした協定を終わらせ、ドナルド・トランプ大統領がTTPTTIPとを放棄するだろう。われわれはそのことを嘆くべきではない。

通商条約は何のためにあるのか? 自由貿易の実現、というより広く、さまざまな政策分野に及んでいる。健康や安全性に関する規制、特許や著作権、資本取引の規制、投資家の権利保護。それらが本当に自由貿易と関係あるのか、明らかではない。

貿易を支持するのは、国内の利益が生じるからだ。それゆえわれわれは、自分たちの利益を増やすために貿易障壁を取り除く。他国を助けるためではない。自由貿易に、何も世界市民主義は必要ないのだ。国内で発生する勝者と敗者に対して、すべての集団が貿易の利益を享受できるようにすることだ。

小国にとってはそれで話は終わる。通商条約も必要ない。しかし、大国の場合、交易条件に影響を与える。彼らの輸出や輸入が世界価格に影響するのだ。例えば、アメリカが鉄鋼に輸入関税を課せば、中国の生産者は価格を下げるだろう。あるいは、航空機の輸出税を課せば、外国の購入者は高い価格を支払う。通商条約は、このような近隣窮乏化政策を禁止し、すべての者の利益になる。なぜなら、もし禁止しなければ、集団的に厚生が悪化するからだ。

ただし、現実の通商助役にこの説明が適用できるかは、明らかでない。アメリカが鉄鋼に輸入関税を課すのは世界価格を下げるためではない。また、航空機の輸出には、むしろ補助金を与えている。アメリカの通商条約は、むしろ産業の特殊利益を追求するものであり、鉄鋼も航空機も、業界の利益を実現するための強力なロビー集団をワシントンに置いている。

さらに、ロビー活動は国際的に共謀して通商条約を支配する。異なる国の業界団体間で共通利益が、グローバルなレント・シーキング活動を条約に実現するのである。WTOは輸出補助金を禁止するが、その経済的な合理性はない。また、アンチ・ダンピングを許すのは明らかに保護主義だ。新しい通商協定は、「知的所有権」、資本移動、投資保護に関するルールを含み、それらは金融機関や多国籍企業の利益を、各国の正当な政策を犠牲にして、守るものだ。その結果、発展途上諸国は技術を取得するのが難しくなり、浮動的な資本移動を管理できなくなり、経済を多様化する産業政策を阻まれる。

各国の通商政策がロビー活動や特殊利益団体によって形成されるのは、自分たちを貧しくする政策beggar-thyself policiesだ。それは近隣窮乏化の効果も持つかもしれないが、その動機ではない。国内権力の非対称性、政治の失敗を正すべきであり、国際通商条約がその解決策にはならない。

通商条約の破たんを嘆くことはない。われわれは自国経済を正しく管理すればよいのであって、通商条約はその付録である。


l  台湾問題は火を噴くか?

FT December 6, 2016

Trump’s dangerous provocation over Taiwan

新大統領の選出から受諾演説までは比較的静かであった。ドナルド・トランプは伝統に従って行動した。就任後にもつながる、アメリカの戦略を変えるような転換は示さなかった。

しかし、台湾問題は違う。蔡英文から当選を祝う電話があったことを公表し、トランプは40年間の慣例を無視した。公平さの点では、彼が正しい。この自治的な、民主的統治をおこなう島に対して、アメリカの矛盾した姿勢を正すものだ。

しかし、ふさわしい考慮を経ずに問題を起こすことは、長期にわたって、不要な好戦的感情に火をつけ、トランプが中国との関係を平和的に見直すことを困難にするだろう。

アメリカと台湾の関係は、1979年にジミー・カーター政権が決めて以来、建設的な偽善constructive hypocrisyと称されているものだ。アメリカは台湾の民主主義を支援し、これを強力な隣国から守るために武器を売却する。他方で、アメリカは「1つの中国」という姿勢を維持し、台湾独立を認めない。

これによって紛争を招くことは防いできたが、次第に、習近平政権の外交姿勢は攻撃的になっている。特に、南シナ海では中国の攻勢が強まり、オバマ政権は中国による人工島の建設や軍事化、領空や領海への制限に対抗できなかった。

トランプが電話会談したニュースに対する北京の当初の反応は、アメリカの政権移行期を注意して監視するだけだった。しかし、もっと対立した、報復を行うこともありうる。台湾問題に限らず、東アジアにおけるアメリカ外交の弱点を突くだろう。台湾から電話があった、とトランプは言うが、この電話会談は明らかに彼のスタッフによって計画されたものだ。

中国がこの地域に勢力を拡大する中で、アメリカの台湾外交が慎重なあいまいさを維持できるか、問い直すのは正しい。しかし、挑発的な電話会談と次期大統領によるトウィッターというのは、余りにずさんなやり方だ。

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The Economist November 26th 2016

The burning question

Italy’s constitutional reforms: A regretful No

Reflating the economy: King of debt

Brazil’s prosperous south: Not the country you know

The Baltic states and Donald Trump: Edgy allies

Charlemagne: Running scared

Financial regulation (1) On fire

(コメント) トランプがパリ協定を離脱しても,中国やインドは大気汚染に関する国内の関心が高まっているし,カリフォルニアのように排出量規制を強化する動きはなくならない.エネルギーの脱炭素化は,今後も,緩やかに続くだろう.

トランプの減税とインフラ投資が経済を膨張させることが投資家に歓迎されているとしても,すでに好景気のアメリカにとって好ましいわけではなく,中産階級労働者の所得を改善する見込みも少ない.株高の背景には,オバマ政権が導入した厳しい金融規制が「規制緩和」される,という期待がありそうだ.

ブラジルの南部3州が優れている理由に,ダグラス・ノースを思い出し,バルチック諸国がロシアの脅威とトランプの打算に翻弄される事情,また,EU諸国がポピュリストの攻勢に耐えられず,後退と弁解を繰り返す事情に,やはりノースを想います.

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IPEの想像力 12/12/16

ゼミで,ハンチントン『文明の衝突』を紹介してもらいました.彼らがWikipediaから持ってきた地図には,なぜか8つではなく,9つの分類があって,どうしてか? と問いました.その絵には仏教圏が多い,と分かりました.そういえば,インドも中国も,日本も仏教圏ではない.

また,アフリカには国家と異なる分割で文明圏が分けられていることも指摘されました.これはなぜか? サハラ砂漠が終わるのではないか? 遊牧民がイスラム教を広めた限界は,国境線と違っている,という話になりました.

では,文明圏が国境線と異なるのはなぜか? ニューギニアも真っ二つに分かれています.なるほど,これは植民地の分割だから.住民たちにあった同質さや文明の境界線と関係なく,ヨーロッパの外交官たちは,遠くで,定規を使って,線を引いたのだ,と思いました.

文明と,宗教と,これらは同じものなのか? 違うのか? あるいは,民族や国民国家はどうか? それらはすべて同じであり,文明圏を分けるときに,宗教や民族がその説明に使われる.宗教が信仰の問題であれば,民族・エスニシティは身体や慣習の問題であるから.

彼らの議論は,おそらくそういった想念とともに,世界の輪郭を生じたり,消したりしているようでした.ハンチントンなら,これを見て喜んだのではないでしょうか?

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西太平洋、東アジアの地政学的な転換が加速しています。アメリカの関与が平和と繁栄の最も重要な条件であった時代が終わり,中国,ロシア,日本,インド,オーストラリア,などの間で,さまざまな新しい関係が生じつつあります.

安倍首相は,突如,真珠湾を訪問しました.オバマ大統領が広島を訪問したように,日本の首相も,毎年,真珠湾を訪問するべきでしょう.そして,なぜ真珠湾だけなのか? と問われたら,来年は韓国の光復節や,中国の南京事件記念式典にも出席し,日本の政治指導者として,日本とアジアが歴史的な教訓を提示し,和解を唱える重要な機会にすることでしょう.

安倍・プーチン会談は,アメリカがロシアとの関係修復を図り,国際政治に変化をもたらす余地を与えるかもしれません.

しかし,私の頭に浮かんだ最初の理由は,プーチンと西側との対立がある中で,日本はそれを利用して利益を得ようとしている,という批判をかわすことでした.EU諸国は,大きな不利益を生じても,ロシアに対する経済制裁を続けています.それに反して,日本はアジアでロシアと取引し,領土を得る代わりに経済交流を深め,多くの投資や融資を与えるのか? 彼らが日本に不信や不快の念を抱くのは当然です.

トランプ・蔡英文電話会談も,米中関係の深刻な悪化につながる恐れのある転換です.台湾は,優れた企業が中国本土に吸収されてしまい,他方で,独立の情念も抑えられず,アメリカからの武器購入で中国との軍事バランスを保っています.この関係がいつまで続けられるのか,軍事衝突の危険が高まる前に,米中は対話を始めなければなりません.

香港の「12制度」も,中台間の「1つの中国」も,政治・外交的な虚構によって均衡を維持するメカニズムでした.

韓国の朴クネ大統領が辞任する過程で,その政治的混乱が深まり、北朝鮮は韓国大統領府を襲撃する演習を誇示しました。ニュース映像に現れた金正恩の体形と笑う顔は,このような政治宣伝を常習化する外交に示された権力の性格と同様,何か,重大な限界を超えてしまったように見えました.

北朝鮮をめぐる6か国協議では、これらすべての国が参加しています。朝鮮半島では,米中の直接的な軍事衝突と内戦状態が凍結されたままです.核戦争まで進むのを一時停止した世界が,イランやバルチック諸国と並んで,朝鮮半島でも解凍され始めるかもしれません.

朝鮮半島の分断状態も,「北方領土」も,いつか均衡を動かす時が来るのです.

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ノートを取ってほしい,と私は最後に求めました.こう考えてはどうか.

ハンチントンは,文明圏の境界線で起きる戦争が,たとえ小さくても,長期化し,連鎖的に波及する,解決困難なものとなることを指摘した.それによって,これまで国際秩序を独占してきた西側のキリスト教文明圏が,アジアの経済的な台頭や,イスラム圏の宗教的復活を深刻な脅威と認め,次の秩序を唱えるより,むしろ退避することを主張する余地を創り出した.

日本の周辺海域とアジアが、かつてのバルカン半島のような紛争地帯に変わるとしたら、平和と繁栄は失われます。政治家たちに旧敵国や戦争の犠牲者に向けて語る勇気がないなら,ジャーナリストが語るべきです.国際秩序の溶解が進むとき,その向こうに何があるのか,各地を訪ねて,問い直してほしいです.

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