IPEの果樹園2016
今週のReview
12/12-17
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トランプの株高 ・・・トランプ政権の生成 ・・・マリー・アントワネットの瞬間 ・・・歴史のページを閉じる ・・・モディの通貨改革 ・・・愚者はその指を見る ・・・トランプの成長モデル ・・・ロシア経済は持続可能か? ・・・中国の債務ブーム ・・・日本をめぐる重要な論争 ・・・トランプとユーロ圏 ・・・レンツィの敗北と辞任 ・・・通商条約の時代は終わった ・・・台湾問題は火を噴くか?
[長いReview]
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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times,
The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate,
SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)
[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
l トランプの株高
FT November 26, 2016
US markets: Donald Trump’s bull run
John
Authers, Nicole Bullock and Robin Wigglesworth
Project Syndicate NOV 28, 2016
Will Trump’s Plan Really Boost US
Demand?
MARTIN
FELDSTEIN
Project Syndicate NOV 28, 2016
Sustaining the Trump Rally
MOHAMED
A. EL-ERIAN
ドナルド・トランプのアメリカ大統領選挙における勝利は世界中を驚かせた.しかし,彼の勝利が期待を裏切る結果で終わったということではない.多くの専門家たちの予想に反して,その後,株価は上昇を続けている.3つの主要な指数が記録的な高さに及び,ドル高も生じた.
選挙前,ほとんどのアナリストたちは,トランプが勝利すれば,大幅な株の売却と低リスクの政府債券に資金逃避が起きるだろう,と予想していた.実際,投票結果が明らかになるにつれて,それは起きた.フロリダの劇的な勝利に始まり,トランプの優位は確実になって行った.ダウジョーンズ指数は800ポイント下落し,S&P500は(値幅制限の)下限に達した.さらに,ドルが下落し始めた.質への逃避で,アメリカ財務省証券の利回りが急落した.
しかし,市場の悲観は長く続かなかった.次期大統領としての受諾演説直後から,それは東部標準時刻の午前3時頃であったが,株価上昇が始まった.それ以降,世界中でリスク資産の価格が上昇している.アメリカに資本が流入し,ドルの価値は13年ぶりの水準まで上昇した.投資家たちは政治債券による安全確保を捨て去り,QEの終わりを恐れたときよりも利回りを急騰させた.
この逆転のもっともありそうな説明としては,トランプが選挙後の焦点を成長の促進に向けたことだ.規制緩和,法人税改革,インフラ投資,など.そして選挙戦で問題となった発言には触れなかった.中国やメキシコへの懲罰的な高関税,NAFTA,2国間FTA,TPPへの反対.連銀への攻撃も繰り返さなかった.政敵であったクリントン夫妻への訴追を取りやめ,激しい攻撃対象としてきたオバマ大統領も評価する,というように言動を変えた.共和党との対立も和解に向けて動いた.
もちろん,より速い,包括的な成長が実現するには,そして高揚した市場が安定するには,より多くのことが求められる.優れたチームを指名することだ.そして,非伝統的な金融緩和に過度に依存する経済を立て直すトランプの計画を策定する.必要な政策の多くは,オバマ政権下でも準備されてきたが,共和党が多数を占める議会の反対で実現できなかった.インフラ投資や税制改革,雇用創出について,こうした政策を利用できるだろう.
しかし,アメリカは真空の中に存在するのではない.外からの挑戦にも対抗し,圧倒するか,少なくとも,封じ込めねばならない.ヨーロッパが不安定化するリスクはあるが,アメリカ議会はより包括的な経済政策に転換するだろう.短期の金融エンジニアリングではなく,成長を高めるために工場や設備,人に投資する.経済的な不満からトランプに投票した人々が消滅し,株価の上昇が現実に高成長となって利益をもたらせば,市場の期待は現実となる.
Project Syndicate NOV 29, 2016
Is Our Economic Future Behind Us?
JOEL
MOKYR
NYT DEC. 3, 2016
A Great Deal for the Many
Ross
Douthat
NYT DEC. 5, 2016
The Central Banks Alone Can’t Save
Us
By
MOHAMED A. EL-ERIAN
2017年、金融不安が悪化し、経済的、政治的な倦怠感が深まるのを阻むには何が必要か? すでに長期化した、バラバラの不十分な成長が、中央銀行の金融政策に過度に依存している。それは欧米における財政政策に対する否定的な認識があるからだ。
財政政策がマヒしているために、法人税、インフラ、労働訓練など、成長を高める構造改革も進まない。それは特に若者の失業に悪影響を与えている。
中央銀行が目標を達成できないことには理由がある。彼らの政策手段で供給に影響するには限界がある。例えば、インフラの不足、税制の不統一、過度の規制などを変えることはできない。経済の現状において、需要に影響するだけで成長を起動することはむつかしい。しかし、柔軟に政策を行使できる唯一の制度的主体である以上、個の不完全さを承知の上で、彼らは単独に禁輸緩和を続けるしかない。
こうした、不安定なファンダメンタルズと平静な市場という直観に反する状態が、いつまで続くのか、確かなことは言えない。政治家たちが経済的ガバナンスにおける責任を再認識すれば、2017年は包括的な成長政策に向けて転換する年になるだろう。
成長志向の構造改革(税制改革を含む)、大幅な財政刺激策(特に、インフラ建設)、過剰債務者への免除(例えばギリシャ、そして、アメリカの学生ローン)、国境を超える政策協力(グローバルな水準で、またユーロ圏で)、包括的な政策対応が求められる。
しかし、政治家たちが有権者を裏切り続ければ、低成長は不況に変わり、人工的な金融的安定性は解決不能の不安定性に向かう。人々の不満が政治を混乱の極みに投げ込むだろう。
中央銀行家たちは、もはやボールを打てないほど肘の痛みを抱えたテニス・プレーヤーだ。
Project Syndicate DEC 7, 2016
The Trump Boom?
KENNETH
ROGOFF
共和党の次期大統領が本格的な成長を実現することはありそうだ。それは不可能だ、と思うなら、トランプの主張を確かめてみよ。
すでにアメリカ経済は3%で成長している。トランプはビジネスに有利な環境を強く求めており、規制緩和、大規模の財政刺激策、減税、債務と高いインフレがもたらされるだろう。それまで低金利を利用した財政刺激策を主張してきたエコノミストたちが、トランプの失敗を党派的な理由で予言するのは愚劣である。クルーグマンがそうである。
l トランプ政権の生成
NYT NOV. 26, 2016
The Pretend Populism of Donald Trump
Frank
Bruni
NYT NOV. 26, 2016
What Unions Got Wrong About Trump
By
STEVEN GREENHOUSE
NYT NOV. 26, 2016
Trump, and Great Business Ideas for
America
By
ROBERT J. SHILLER
生涯にわたりビジネスの経験を持つ人物が大統領になる。ドナルド・トランプの政権は一種の実験とみられるだろう。ビジネスの技量や視点が国家を統治するのに重要な資産になるか。
ハーヴァードのRakesh Khuranaは、著書
“Searching for a Corporate Savior: The Irrational Quest for Charismatic
C.E.O.s” (Princeton, 2002)において、アメリカ企業が外部からCEOを指名し、高額の報酬を支払い、改革を委ねるケースを調べている。彼らはその約束を実現するために大きな賭けに出る傾向があり、トランプ政権も同じようなアウトサイダーの特徴を示している。
FT November 28, 2016
Politics is the best check on a CEO
president
FP NOVEMBER 28, 2016
The Importance of Working in the
Trump Administration
BY
ROSA BROOKS
The Guardian, Wednesday 30 November
2016
Frightened by Donald Trump? You
don’t know the half of it
George
Monbiot
FT November 30
Advice for a presidential move to
the White House
Donald
Gips
FT December 1, 2016
Dealmaker Trump will feel at home
with Eastern Europe
Tom
de Waal
FT December 1, 2016
Truman to Trump: a centenarian’s
tale
Simon
Kuper
NYT DEC. 2, 2016
What the Alt-Right Really Means
By
CHRISTOPHER CALDWELL
FP DECEMBER 2, 2016
If All You Have Is a Mattis,
Everything Looks Like a Nail
BY
GORDON ADAMS
FP DECEMBER 2, 2016
Don’t Freak Out About Trump’s
Cabinet Full of Generals
BY
ROSA BROOKS
FT December 3, 2016
Swamp or no swamp, Goldman swims on
ホワイトハウスで働く多くの者が、ゴールドマンサックスのために働いたことがある。
Henry
Fowler, Robert Rubin, and Hank Paulson, former US Treasury secretaries. Mark
Carney, governor of the Bank of England. Mario Draghi, European Central Bank
president. Malcolm Turnbull, prime minister of Australia. Bill Dudley,
president of the New York Federal Reserve bank. Romano Prodi, former Italian
prime minister. Josh Bolten, former White House chief of staff. Robert
Zoellick, former president of the World Bank.
トランプが財務長官の指名したSteven Mnuchinもそうだ。
FT December 3, 2016
Steven Mnuchin, a hardball banker
set for the Treasury
Ben
McLannahan
FP DECEMBER 3, 2016
All the President’s Generals
BY
KORI SCHAKE
l マリー・アントワネットの瞬間
FT November 27, 2016
The liberal elite’s Marie Antoinette
moment
Wolfgang
Münchau
革命は支配エリートの挑発によって生じた。フランス革命の引き金は、マリー・アントワネットが「(パンがなければ)ケーキを食べたらよい」と言った瞬間だろう。そのような発言の証拠はないが、ブルボン王朝は民衆とかい離したエスタブリシュメントの典型であった。
現代のリベラルな民主主義を支配するグローバルなエリートたちも、まったく同様の行動パターンを示す。
カナダとの自由貿易協定やTTIPに対する反対運動は、1980年代の中距離核ミサイル配備に対する反対と同じくらい、人々の間に広まっている。だれもマクロ経済学の権威に挑戦しない。イタリアの政治家たちは永遠に権力の奪い合いを続けている。
EU官僚の仕事は、各国の法律になるよう、政治的に巧妙な条約を作り上げる天才的手法を見出すことだ。Ms Le Pen, Mr Grillo and Geert
Wilders of the far-right Dutch Freedom partyが権力を握るほど勢力を増しても、エスタブリシュメントはこのやり方を変えない。
Project Syndicate NOV 28, 2016
The Last Stand Against Populism
DOMINIQUE
MOISI
FT December 1, 2016
The populist right sweeps aside the
left
Philip
Stephens
The Guardian, Monday 5 December 2016
The Soviet Union collapsed
overnight. Don’t assume western democracy will last for ever
Paul
Mason
私が最後にロシアにいたときから25年が経った。エリツィンの経済改革の初期において、ロシアの左派を復活させようと試みたが叶わなかった。人生の半分を経て、私は再びここにいる。資本主義を、何かもっと良いものに替えようと願う人々がいっぱいいる部屋で講演するために。突然、私たちは共通したあることに気付く。かつては永久に続くと思われたシステムが、崩壊しつつあるのだ。
2011年に、プーチンが選挙を奪ってから、それに続く多くの抵抗運動が弾圧され、若者たちは怒りに満ちた沈黙へと退却した。それはロシアの知識人にとって新しいことではない。学生の抵抗運動を指導したレーニンは、1887年に逮捕されてから、30年間を地下活動や亡命先で過ごした。その後、ボルシェビキは次の70年間を自由な言論や政治的反対派の弾圧に費やしたが、今や、ロシアの資本主義的オリガークたちがその弾圧を全力で引き継いでいる。
ロシアの芸術家、哲学者、ジャーナリストたちは、今も改革を信じているのはなぜか? 要するに彼らは、かつて永遠だと見えたものが、道徳的、物理的に崩壊するのを目撃したからだ。それはソビエト連邦だった。
ゴルバチョフが進めたペレストロイカの時期に、多くの人々は突然に「意識が破断する」のを感じた。崩壊は近い、と悟ったのだ。それでもその瞬間が来るまで、人々はソビエトのシステムが永久であるかのように振る舞い、語り、そう考えた。その野蛮さに呆れながら、それでも彼らは国家が要請するパレードや集会に参加し、指示に従った。
2016年11月にトランプが勝利してから、西側における同様の崩壊が起きる、と信じることも可能になった。それはグローバリゼーションとリベラルな価値観だ。
われわれは30年間、永久に続くと主張する経済システムの下で暮らした。グローバリゼーションは止めることができない自然な過程であった。自由市場経済学はまさに自然法則である、と。しかしグローバリゼーションを受け入れ、それが利益をもたらすと考えた国で、多くの有権者が反対したとき、突然、このシステムが終わる、という可能性を考えるに至った。そして、もしあなたがリベラルな、人道的民主主義派なら、破たんした経済システムの最終形が寡頭制のナショナリズムなのだ、という可能性を知って驚愕する。
プーチンは、外交的な孤立という犠牲を払って、国内の反対派を弾圧し、成長と秩序、国家威信を回復した。今や、世界中に小プーチンがあふれている。
Project Syndicate DEC 5, 2016
Goodbye to the West
JOSCHKA
FISCHER
Project Syndicate DEC 5, 2016
The Win-Win Fantasy of Liberal
Democracy
KEMAL
DERVIŞ
NYT DEC. 5, 2016
The Rage of 2016
Roger
Cohen
FT December 6, 2016
Echoes of Galileo in the populist retreat
from reason
Anjana
Ahuja
Bloomberg DEC 6, 2016
Elites Must Either Engage Populists
or Lose to Them
Leonid
Bershidsky
ポピュリストを排除することはできない。彼らの成功の源泉を観るべきだ。それは所得分配の不平等だけではない。エリートたちが閉鎖的なつながりで地位を独占していること、アウトサイダーへの侮蔑を共有していることだ。彼らに対してポピュリストたちが示すのは、国民国家と国民のアイデンティティなのだ。
ポピュリストは消滅しない。その支持者を取り戻すことだ。
The Guardian, Thursday 8 December
2016
Time to think the unthinkable about
President Le Pen
Timothy
Garton Ash
かつてフランスの専門家たちと議論したとき、Marine Le Penが大統領となってEU離脱を決めることは、半ば、ジョークであった。しかし、今、その可能性はあると思う。
中道右派の候補François Fillonが、決選投票で勝利するとは限らない。Fillonは、保守派と自由市場を組み合わせる、フランスの政治的伝統ではまれな政治家だ。右派の支持も、左派の支持も、必ず投票に結び付くとは限らない。
沈滞した雰囲気の背後にあるのは、昨年の成長率が1%にも満たず、若者の失業率が25%に近いこと、政治家階級がことあるごとに示す、疎遠な、自分たちだけのために、腐敗した関係、この血まみれのシステム全部を叩き壊したいという情念の拡大である。Fillonは古典的なパリのエリートではないが、明らかにエスタブリシュメントに属する。
ル・ペンは強力な候補であり、的確に攻撃するだろう。
l 歴史のページを閉じる
FT November 27, 2016
Goodbye to Barack Obama’s world
Edward
Luce
歴史のページがめくられた、と思うときがある。後世の人々は、2008年にバラク・オバマが当選した選挙を、9・11以後のアメリカの怒りからの離脱と見るだろう。オバマはイスラム世界とのオープンな対話を呼びかけた。ドナルド・トランプとそのチームは、イスラムとの戦争を宣言した。トランプ政権が正確に何をするかはわからないが、われわれにわかっていることがある。オバマの遺産は排除されるだろう。トランプのペンがすべてを消し去る。
FP DECEMBER 4, 2016
President Trump and the Art of the
‘Ultimate’ Israel-Palestine Peace Deal
BY
ELLIOTT ABRAMS, URI SADOT
FT December 8, 2016
Iran nuclear deal offers best chance
for peace
イランとの核合意を破棄する、もしくは、制裁を強化して離反するように挑発することは、アメリカだけが合意を放棄することになり、軍備削減の最良の機会を逃すものである。
l モディの通貨改革
NYT NOV. 27, 2016
In India, Black Money Makes for Bad
Policy
By
KAUSHIK BASUNOV. 27, 2016
FP NOVEMBER 28, 2016
Modi Plunders India’s Cash. Indians
Cheer.
BY
JAMES CRABTREE
モディNarendra Modi首相は、厳格で、不屈のイメージを広めてきた。しかし、そんなイメージに対しても、この30年間で最も劇的な、混乱する政治的変革を選択したことは強い緊張を生むものだ。
「私は反対する勢力があることを知っている。」と、彼は激しい情念に震える声で演説した。2つの高額紙幣を一気に廃止し、インドの現金によって動く神経済に対するショック療法を採用した、と。「彼らは私を生かさないだろう。彼らは私を滅ぼす。」そして陰鬱に付け加えた。「なぜなら70年間の略奪が動かせないからだ。」
500ルピー紙幣と1000ルピー紙幣とを廃止することは、その価値は約7ドル、15ドルだが、流通している紙幣の総額の90%にも達する取引が止まって、インド経済がカオスに落ち込む。この2週間、新聞の第1面には、銀行を取り巻く長蛇の列の写真が載った。貧富にかかわらず、彼らは高額紙幣を持ってきて銀行に預金する。それはすでに800億ドルに達したが、総額ははるかに多くなるだろう。
野党、国民会議派の、シンManmohan Singh元首相は混乱を批判し、「途方もない経済管理の失敗」であり、「庶民からの合法化された泥棒」である、と述べた。
しかし、真に注目されるのは、混乱にもかかわらず、モディの通貨改革が強く支持されていることだ。インド人は黙って耐えるような国民ではない。これよりもっと些細な政治変化にも街頭デモで抗議した。モディは自分の直感を信じたのだ。大胆な行動は、たとえ痛みを伴う改革でも、支持されるだろう、と。インド人の怒りは不正な蓄財に向かっている。国民にとって悪者は、わいろを要求する警官であり、不可解な蓄財に成功している政治家であり、現金で住宅を半額に値切る不動産開発業者である。
しかし、この「衝撃と恐怖」作戦が、現金に依存するインド経済を改革する効果は、ほとんど期待できない。エコノミストの多くは、犯罪者たちが資産を不動産に替えて保有し、あるいは、外国に預金している、と言う。合法的な商売や零細商店こそ、モディの強い支持者であるが、現金を保有しているのだ。
ハーヴァード大学のサマーズLarry Summersは、世界でもまれに見る徹底的な通貨改革であるが、その苦痛にもかかわらず、成果はほとんどないだろう、と言う。「汚職は続くだろう。わずかに形を変えるだけだ。」
モディは政治的な計算をしたはずだ。野党を苦しめるためだ、という陰謀論がある。また確かに、構造改革で成長をもたらす方針だけでなく、モディは選挙で汚職追放を約束した。その公約の多くについて明確な政策を実現できたわけではない。昨年、ニューデリーで反汚職の政党に選挙でBJPが敗北したことの方が、モディを驚かせたかもしれない。大胆な行動が彼の政権の神髄であるから、汚職追放の通貨改革は完ぺきな決断だった。
この点で、モディの行動は、北京のライバル、習近平が中国で進める汚職追放キャンペーンに対応するものだ。今後、銀行の行列が減り、ATMが機能する時期により、その成功と失敗は決まるだろう。
Bloomberg NOV 29, 2016
Modi's Revolutionary Dreams
Pankaj
Mishra
2014年にモディが勝利したとき、彼はロナルド・レーガンやマーガレット・サッチャーのように、規制緩和と民営化の革命的な計画によって民度経済を近代化すると期待された。しかし、彼が今採用した革命は、西側の外で、多くの国が前世紀に採用したものだ。
インドをカオスに陥らせた後、モディは日本を訪問した。そして、2011年の地震と津波から立ち直るため、日本人が団結して、国家利益を強く意識したことをインド人も学ぶべきだと考えた。
FT December 5, 2016
Counting the cost of India’s cash
shortage
Amy
Kazmin
Project Syndicate DEC 6, 2016
India’s Demonetization Disaster
SHASHI
THAROOR
l 愚者はその指を見る
Project Syndicate NOV 28, 2016
Trump, the Dragon, and the Minotaur
YANIS
VAROUFAKIS
Project Syndicate NOV 28, 2016
Missing the Economic Big Picture
J.
BRADFORD DELONG
中国のことわざが教えるように、「賢者が月を指さすと、愚者はその指を見る。」
WTOの元事務総長Pascal
Lamyは、「市場資本主義が月であり、グローバリゼーションはその指である。」と述べた。
生産性の上昇率が低下していることが問題だ。しかし、革新的な技術がもう起きないとは言えないし、富をもたらすのは技術だけではない。また、経済システムがもたらす富の多くは共有されることなく、上位20%の富裕層が多くを得ている。
市場資本主義が多くの人の生活水準を高めることはむつかしい。自由貿易協定やグローバリゼーションを標的にすることは、市場資本主義の管理をめぐる基本問題に応えることから目をそらすだけだ。
VOX 30 November 2016
Defending globalisation: Isolation
would cost us dearly
Klaus
Desmet, Dávid Krisztián Nagy, Esteban Rossi-Hansberg
FT December 4, 2016
Trump’s tax plans favour the rich
and will hamper economic growth
Lawrence
Summers
トランプの指名したSteven Mnuchin財務長官が行う減税政策は、1986年のレーガン減税と全く異なる。1%の富裕層がさらに豊かになり、連邦政府の債務を増やし、税制は複雑化して、経済成長を促すこともない。
NYT DEC. 5, 2016
It’s Time for a Reset
By
LAWRENCE H. SUMMERS
l 韓国
FT November 28, 2016
The president, the shaman and the
scandal engulfing South Korea
Bryan
Harris
FP
NOVEMBER 30, 2016
On North Korea, Obama Sings His
Nuclear Swan Song
BY
ROBBIE GRAMER, DAN DE LUCE
Bloomberg NOV 30, 2016
Fighting for the Soul of Seoul
Michael
Schuman
FP DECEMBER 1, 2016
The Myth of Chaebol Exceptionalism
BY
FRANK AHRENS
l トランプの成長モデル
Project Syndicate NOV 28, 2016
Ten Consequences of Trump
ANATOLE
KALETSKY
トランプの下でアメリカ経済は、オバマの平均成長率2.2%を超えるだろう。
プラスの予想が5つ。1.財政赤字の増大。高い成長率とインフレ率。2.税制改革。債務依存の増大。税の免除や抜け穴は亡くならない。3.規制緩和。4.地政学的な安定。5.アメリカ国民自身が民主主義の欠陥を認め、改革する。
トランプは、オバマのようなリベラルな国際介入主義を採らない。取引型の権力政治を優先して、ロシアや中国との関係を安定化するだろう。ウクライナとシリアについてロシアの自由な支配を認め、中欧とバルチック諸国のアメリカ側の支配と交換する。アジアにおける中国の支配が強まることを容認して、アメリカが安全保障条約を結ぶ日本、台湾、その他の諸国との戦争を回避する。中東は地政学的な不安定化の渦中にあり続けるが、ここでもトランプは各地の強権支配者と(人権を無視して)取引する。
マイナスの予想が5つ。1.1930年代以来、初めて、貿易をゼロサムとみなすアメリカ大統領だ。そのグローバルな指導力は、自由貿易、グローバリゼーション、開放型市場、から離れる。グローバルな経済管理体制における、1980年代以来、最大の体制転換が及ぼす影響は誰にも予測できない。新興経済や多国籍企業に悪影響が及ぶ。
2.ほとんど完全雇用のアメリカ経済で、大幅減税と公共投資の増額を行う。インフレ加速と高金利が予測される。保護主義や移民労働者の排除を行えば、それらは劇的なものになる。金融市場の安定性を破壊するだろう。
3.高い成長率と長期にわたる高金利は、異常なドル高を生じる。4.ドル不足と保護主義が発展途上諸国を苦しめる。5.ヨーロッパのポピュリズムに「感染」が広まる。新しいユーロ危機やEU解体のリスクが高まる。
Project Syndicate NOV 29, 2016
Donald Trump and the New Economic
Order
MICHAEL
SPENCE
第2次世界大戦以後,経済の優先順位は比較的明瞭だった.最優先事項は,開放的,革新的,ダイナミックな,市場によって導かれる世界経済を構築することであった.その中で,すべての国が繁栄し,成長できる.その次に,かなり優先度が低かったかもしれないが,活気のある,持続可能な,包括的成長の国民的パターンを生み出すことであった.
今,その優先順位の逆転が始まっている.没落する中産階級を元気づけ,停滞した所得上昇を一気に加速し,若者の失業を減らすために,協力で包括的な,各国の成長を実現することが優先されつつあるのだ.財,資本,技術,人々(グローバル・エコノミーの4つの基本的フロー)を相互に利益のある枠組みで管理するというのは,国民国家の成長を促すか,少なくとも妨げないときだけ,ふさわしいものである.
Brexitも,EU諸国も,アメリカ大統領選挙も,その問題を示した.高度開発諸国の有権者たちが市場によって推進される旧世界経済制度に不満を持っているのは理由のあることだ.その秩序においては,選挙で決まった政府や政策担当者の制御できないような,各国経済を決定する力が働くことを許した.旧秩序のエリートたちは,その利益を享受するだけで,この秩序がもたらした分配や雇用に関する問題を無視した.ただ,確かに,旧秩序が彼らの能力を奪っていた.
第2次世界大戦後,冷戦の圧力もあって,アメリカは西側の復興や発展途上諸国の成長機会を提供する旧秩序の構築を支援した.およそ30年間は,各国にとっても,世界にとっても,グローバルな成長パターンの分配上の結果はおおむねプラスであった.戦後秩序は包括的であった.
しかし,国家間の不平等は減ったが,国内の不平等が増大した.優先順位の逆転は避けられず,重大な結果をもたらして,それが起きたのだ.
まず,アメリカはグローバルな公共財の供給に占める不当に大きな負担をますます引き受けなくなるだろう.他の国々が最終的にはそれを引き受けるとしても,いつまで続くかわからない移行期があり,安定性が損なわれる.たとえば,NATOの仕組みは再交渉される.
マルチラテラリズムも衰退する.それは長期的に,各国が所得や資産に比例した貢献を前提しつつも,非対称的な負担によって実現したものだ.2国間や地域内の,貿易・投資協定が増えている.トランプがTPPを放棄し,アジアにおける独自の機会を中国に与えるだろう.「一帯一路」戦略やAIIBを通じて,すでに中国のアジアにおける影響力は拡大している.他方,そのような力のない発展途上諸国は,2国間交渉に苦しむだろう.また,技術をめぐる大国の規制は強まる.安全保障や雇用問題があるからだ.
国益の重視は,コストとリスクをもたらすが,同時に,重要な利益も実現する.各国内の支持を失い,政治的,社会的な結束を損なうような,グローバルな経済秩序は不安定である.人々のアイデンティティが,今もそうであるように,国民国家の市民として理解されている限り,国家を優先するアプローチが最も効果的である.
l ロシア経済は持続可能か?
Project Syndicate NOV 28, 2016
How Russia Stays Afloat
ANDERS
ÅSLUND
ロシア経済の長期的な持続可能性をどう見るかは難しい問題だ。クローニズムが蔓延しており、石油収入に大きく依存しており、原油価格の下落に苦しむだろう。しかし、ソビエト体制がわれわれに教えることは、持続可能でないシステムでも多年にわたって生き延びる、ということだ。
私は1983年にモスクワにいたが、当時のソ連も、原油価格の下落、イデオロギーの混迷、重要産業の国有、権威主義的支配に苦しんでいた。しかし、今が当時のソ連と違うのは、マクロ経済管理による安定性の確保に成功していることだ。ロシアがアメリカ経済と競争することはできないが、特に、プーチンは外貨準備の増大を重視している。中央銀行によるルーブルの変動レートへの転換が大幅な減価と経常黒字をもたらした。
それにもかかわらず、マイナスの指標は多い。投資、GDP、生活水準と可処分所得がすべて減少している。西側の市民には耐えられない事態だが、ロシア人は1999年から2008年の間に実質所得が倍増した。街頭デモで抗議するほどの不満には至らない。
ただし、成長を権力の正統性の根拠にしてきたプーチンは、それに代わって、勝利できる小さな戦争を必要とするようになった、という1904年の帝国大臣Vyacheslav
von Plehveの助言に従っているようだ。グルジアとの戦争、クリミアの分割、そしてシリアに介入した。
東ウクライナへの介入は、外交的な失敗であり、勝利することもできない。西側の制裁はロシアのGDPに影響する。同時に、ロシア国内でもプーチンの権力を脅かす勢力はある。特に軍隊だ。今、ドナルド・トランプが勝利したことでワシントンには権力の真空が続いている。プーチンが国内の権力基盤を強化するこの機会を利用しないはずはない。
l 中国の債務ブーム
NYT NOV. 28, 2016
Stuck at the Bottom in China
By
LIJIA ZHANG
NYT NOV. 29, 2016
China Tightens Controls on Overseas
Use of Its Currency
By
KEITH BRADSHER
FP NOVEMBER 29, 2016
The Anti-Mainland Bigotry of Hong
Kong’s Democracy Movement
BY
TAISU ZHANG
FT November 30, 2016
Beijing acts to plug leaky capital
controls
Bloomberg NOV 30, 2016
Why Are China's Fish Disappearing?
Adam
Minter
中国における淡水魚の供給ルートは全く監視されていない。その養殖池の所有者が法に違反するような状態が放置され、あるいは、地域政府の汚職を招いている。その解決には、土地改革を行い、土地の売買や貸借を自由化して、所有を明確にするとともに、十分な投資を行い、管理を集中することだ。
FT December 2, 2016
China’s liquidity flood stirs
memories of the Mongols and Mao
James
Kynge
13世紀の旅行者、マルコ・ポーロは、中国人が金ではなく、神で貨幣を作っていることに驚いた。しかし、その後、中国人はその発明にどれほど苦しんだか、彼は知らなかった。
増大する債務を印刷機によって解決しようとする支配者が現れた。激しいインフレの猛威によって、王朝が次々と崩壊した。モンゴル人も、毛沢東の共産党も、通貨価値の破壊によって壊滅した国家において権力を握ったのだ。
今回、中国の問題はインフレーションではない。少なくとも、まだ。北京は、経済活動を刺激し、債務の負担を融資するために、史上最大の国内流動性を創り出した。その危険とは、もし人民元が国内でその価値を失い、あるいは、中国から流出するなら、未払い債務の波が危機へと落ち込むことだ。
中国の流動性供給は驚異的な規模だ。それはユーロ圏と日本を合わせたよりも大きく、ほとんどアメリカとユーロ圏との合計に匹敵する。アメリカやヨーロッパ、日本の量的緩和が議論になるけれど、中国はそれらを超えている。重要な点は、中国の債務が増大するのに合わせて、その支払いに必要な貨幣を供給していることだ。Jonathan Andersonはこれを「債務によるバブル」と呼ぶ。
中国の崩壊は、その通貨供給が債務の支払いに混乱を生じるとき、あるいは、中国の企業や市民がその資金を海外に移し、金や株式、不動産に投資するときに起きるだろう。Andersonは、政府が金融機関に債務の上限を課すとき、中国の信用ブームが終わる、と言う。また、資本流出は、バブルが破裂するのを抑えている流動性を枯渇させる。
北京はこうした懸念から海外投資を規制した。たとえ1兆ドルの資本流出が生じても、それに応じた十分な通貨を供給する能力が中国にはあるかもしれない。しかし、そのような行動は政策当局の求めるバランスがナイフの刃を渡るように危ないという事実を示すだろう。銀行の融資規模は、平均で、わずか8年間に4倍にも膨張している。
宋朝の時代、Ye Shiは、資産に裏付けられない「空虚な貨幣」を発行することはインフレをもたらし、庶民の所得を奪う、と警告した。皇帝はその忠告を聞かず、経済混乱と弱体化が進み、モンゴルに征服された。
Project Syndicate DEC 5, 2016
China’s Civilizational Diplomacy
ZAYNAB
EL BERNOUSSI
Bloomberg DEC 5, 2016
Why China Can't Stop Capital
Outflows
Christopher
Balding
FT December 6, 2016
Cracking China’s debt conundrum
Yukon
Huang
中国の債務膨張が、「影の銀行」を再生し、「リーマンの瞬間」を引き起こす、と考えるのは間違いだ。
金融崩壊の予測は、現れては消えることの繰り返しだった。債務の多くは国有銀行から国有企業に対して行われた融資である。中国政府の財政状態が健全である限り、個々のデフォルトや取り付けは金融システムの混乱に結び付かない。また、中国の土地価格の上昇が特殊な役割を担っている。
土地の私有化と売買は10年前から始まったが、その影響は信用膨張によって大都市圏の地価を5倍に上昇させた。しかし、これはエコノミストがしばしばプラスの意味で言及する「金融深化」を含むものだ。社会主義システムでは隠されていた土地に依拠する資産が市場価値を探っているのだ。その意味で、債務問題は誇張されている。これが金融危機につながるかどうかは、資産価値の持続可能性によって決まる。
それは家計と企業の2つの視点から判断される。家計にとって、所得の増大とそれに伴う貯蓄の増加は不安定化のリスクを抑える。しかし、国有企業にとって、その利潤率が民間企業より手化しており、この現象は2008年以降、政府の刺激策によって生じた。政府は積極的に過剰生産力を処理し、不良な企業を整理し始めている。そして銀行の資本を強化し、職を失う労働者が他の地方に移動するよう支援している。
こうして債務問題は、政府による国有企業の縮小、経済再編問題なのである。
Project Syndicate DEC 7, 2016
Hong Kong’s Independence Trap
CHRIS
PATTEN
FT December 8, 2016
Xi Jinping, Davos and the world in
2017
Philip
Stephens
Bloomberg NOV 28, 2016
Debating What's Wrong With
Macroeconomics
Mark
Buchanan & Noah Smith
(後半に続く)