IPEの果樹園2016

今週のReview

11/28-12/3

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トランプ政権の人選 ・・・インドの通貨改革 ・・・トランプ外交への憤慨と恐慌 ・・・新しい労働組合 ・・・台風の目 ・・・中国とグローバルな秩序 ・・・イギリスの予算編成方針

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  トランプ政権の人選

NYT NOV. 17, 2016

Donald Trump’s Tangled Web

By THE EDITORIAL BOARD

ドナルド・トランプは選挙期間中に所得税の申告書を公表しなかった。今や、彼のホテル、ゴルフ場、その他のビジネスが織りなす網の目も、ホワイトハウスに持ち込もうとしている。もし彼が以前の大統領たちと同様に、国民の信頼を維持するために良識ある手続きを踏まなければ、アメリカ国民は大統領が国益に従うのか、自分の家族に利益を得るためか、わからなくなる。

近年、大統領たちは、利益相反の問題を避けるために、その保有する株式、債券、不動産を、独立した管理者による信託にした。トランプは、その成人した子供たちを介して500以上の会社の資産を保有している。彼の私的な利益と公共の利益は、解きほぐせないほどもつれてしまうだろう。

NYT NOV. 18, 2016

Michael Flynn: An Alarming Pick for National Security Adviser

By THE EDITORIAL BOARD

選挙期間中でもっとも異常な光景は、フリンMichael Flynn元中将が共和党大会で演説したときであった。アメリカの衰退を嘆き、民主党候補のヒラリー・クリントンをこき下ろした後、フリンは群衆の叫ぶ「彼女を投獄しろ」という声に、にんまりと笑顔で、「そのとおり、彼女を投獄しよう」と応じたのだ。

アフガニスタンとイラクで軍の諜報機関にいた人物が、その熱狂と過ちゆえに解任されたにもかかわらず、トランプの国家安全保障顧問に指名されるのは、グロテスクである。部下によって指摘されるまで真実を認めず、2014年にオバマ政権で解任されたが、その後、オバマを非難する話を繰り返して広めた。

アメリカをより安全にする、というトランプの約束は、むしろ逆になるだろう。

FP NOVEMBER 23, 2016

10 Ways to Tell if Your President Is a Dictator

BY STEPHEN M. WALT

ドナルド・トランプの外交政策を心配する理由は十分にある。アメリカの国際的な地位を低下させ、しかも、従来の外交専門家たちに振り回される。非現実的な目標を無様に追求する。

しかし、あなたがアメリカに住む者なら、トランプがアメリカの立憲的秩序にもたらす脅威を大いに心配するべきだ。彼のビジネス経歴が示す悪意ある態度、選挙戦を通じて示した既存のルールや規範に対する軽蔑、そして、選挙制度や政治システムに対して繰り返し操作されていると非難し、敗北しても結果を受け入れない、と言いながら、自分が勝利すれば、選挙で何を言っても、何をしても、「自分が勝った」というだけで、その手段を正当化する。

トランプ陣営に集まる人々は、リベラルなエリート、有色人種たち、移民の同盟によってアメリカが占領され、外国勢力の影響にも毒されている、と考える。彼らは人口的な優位を失い続ける勢力であり、どのような手段を使っても権力を保持し続けようとしている。

ウラジミール・プーチンのような強権的指導者を賛美し、白人至上主義のステーブ・バノンを顧問にするなど、民主主義を破壊する最悪のレシピである。私が心配するのは、勝利に固執し、侮辱されることを恐れるトランプの性格が、その支持率を低下させ、債券市場が動揺するとき、また、その約束を実行できないときに、どのような反応を示すのか、である。正常な大統領がするように、トランプは自分の政策を修正できるのか、あるいは、一層の強硬策を唱え、自分は安全な地位を求めるのか?

ロシアでは、プーチンが一連の選挙に勝利し、高い支持率を得ているが、それはもっぱら、彼が敵対する者を排除し、脅迫し、無意味なものにしたからだ。同時に、ロシア国民にはクレムリンに好意的なプロパガンダを与え続けた。トルコでもエルドアンが同じことをしてきたが、地方の保守主義を利用し、報道機関を弾圧し、機会あるごとに反対派や批判する者を逮捕し、脅迫し、強制し、滅亡させた。

アメリカが同じようになる、と主張しているのではない。しかし、他国で起きたように、200年以上もアメリカの民主主義を護ってきた立憲的秩序も、トランプ大統領の犠牲になる、と考える十分な理由がある、ということだ。良いニュースは、アメリカが民主主義の崩壊を繰り返した歴史はないし、貧困でもなく、政治制度は成立してから長期の経験を得た。深刻な経済危機の渦中にもない。しかし悪いニュースは、アメリカは大統領制であるから、議会制に比べて権威主義的な支配に向かう傾向があり、1人の高位の人物に権威が集まっている。


l  インドの通貨改革

FT November 18, 2016

India: Narendra Modi’s bonfire of the rupees

Amy Kazmin

今年の初めから商店は20万ルピー以上の現金で支払いを受けた場合、税務署に報告することが義務付けられた。ある貴金属店は、新ルールの施行前に金庫の売り上げが増えたが、その後は60%も減った、と言う。

人々は多額の現金で買い物した場合、税務署に、その現金はどこから出たのか、と尋ねられる。これはモディ首相の強力な「ブラック・マネー」追放キャンペーンである。それは非合法な活動で得た資金、あるいは、合法的に得たものでも税務署に申告していない資金を意味する。先週、政府はこのキャンペーンを進めるために、500ルピー紙幣と1000ルピー紙幣を禁止した。

その破棄される紙幣は、2200億ドルに相当し、インドで流通する紙幣額の86%、これがもはや法定貨幣ではなくなる。年末までに銀行へ預金するか、少額の新しい紙幣に交換しなければならない。25万ルピー以上の預金には税務署が警戒している。

秘密裏に進行した紙幣の廃棄・交代計画は、先例がないほどの経済実験であり、政治的ギャンブルだ。Kenneth Rogoffのようなエコノミストは、先進経済において犯罪に利用される高額紙幣を廃棄する漸進策を主張していた。実際、ECB500ユーロ紙幣を徐々に廃止しつつある。

しかし、今回のような大規模で、一夜にして、紙幣を廃棄・交代する試みは、第2次世界大戦後のドイツや、旧ソ連のような、国家や経済の危機において、あるいは、ハイパーインフレーションを終わらせるために行われただけである。「これほどのショック療法を採用した国はない」と、JPMorganのアナリストJahangir Azizは言う。

インド上院議員Swapan Dasguptaは、ビジネスや富裕層に汚職と脱税が蔓延したインド社会を根本的に改造する試みだ、と言う。それはモディの支持者である商人層からの反発を買うリスクもある。「世界経済で重要な国であろうとすれば、この国を変えるためにラディカルな手段も必要だ、という思想が動機になっている」。

インドのGDPに対する税負担率は16.6%であり、政府は他国に比べて5.4%も低い、と考えている。所得税を納めているのは所得を得ている者のわずか5.5%である。モディは、この現金枯渇状態が多くのビジネスを銀行預金やデジタル・マネーに転換させ、彼らの所得を監視できる、と考えている。

インド人が現金取引に頼るのは、1970年代、インディラ・ガンジーの社会主義的な時代にさかのぼる。所得税率は98%にも達し、政府がビジネス全体を管理しようとした。所得税はその後、急速に下げられたが、不動産取引には高い課税が続き、取引の際に双方が評価額を過小にする動機を持っている。それは役人への賄賂になり、非合法な資産になった。

エコノミストたちは、短期的に、このマイナスの影響を重視している。ドイチェバンクによれば、消費財の販売額は、急速に伸びてきたが、30%も減少した州がある。小都市の耐久消費財は完全に停止した。料金や納税に現金を利用するトラックは高速道路で渋滞している。不動産価格も激しく動揺し、下落するだろう。春の住宅購入は安くなる。

どのくらいマイナスになるかは、政府が新紙幣を供給できる速さ、ロジスティクスにかかっている。また長期的には、さまざまな困難はあるが、エコノミストの多く、そして庶民も、モディのショック療法による利益が生まれると信じている。銀行の預金の水準が高まり、低金利で融資が増えるだろう。伝統的ビジネスは資金や税金に新しい姿勢を求められる。それは政府の財政状態を改善する。

電話のアクセサリーを小店で売るMahesh Rewariaは、売り上げが60%も落ち込み、まだ回復していない。しかし、彼はモディを支持している。「この政策を懸念するのは脱税し、政府から盗んでいる者だけだ。私も含めて。」「私はいつも公平に納税したいと思っていた。しかし、他の人々がこれほど腐敗しているのに、私だけが納税する気になれなかった。」

もっとも結婚式の多い時期になぜ始めたか、と言われる。しかし、モディはウッタルプラデーシュ州の重要な選挙を意識したのであろう。2019年にモディが再選されるには、与党BJPがこの州の支配を握らなければならない。彼の政策は、強力な、決断力のある指導者、というイメージを強めた。典型的に、漸進策を用いてきたインドを変える、大胆な政策を採用する用意がある、と。さらに、この政策は彼の政治的競争相手の選挙運動資金を枯渇させるだろう。

しかし、政治的ギャンブルが逆転するリスクもある。多くの地方生活者は、苦労して貯蓄した資金を、自宅に、高額紙幣で保蔵している。彼らは今や遠く離れた銀行に預金しなければならない。さもないと、貯蓄が価値のない紙切れになってしまう。


l  トランプ外交への憤慨と恐慌

FP NOVEMBER 17, 2016

Enough Hysterics. Donald Trump’s Foreign Policy Isn’t Reckless or Radical.

BY EDWARD LUTTWAK

トランプ次期大統領の新しい外交政策に関する憤慨や恐慌は収まるだろう。

日本の安倍首相と会談することは、「正常化」の始まりである。トランプは、日本が中国封じ込めの防衛負担をもっと増やすように求めてきた。しかし、あからさまな要求はしないだろう。トランプは、日本の努力を歓迎するだろう。安倍は防衛力を強化し、日米同盟のために多くのことをするつもりだ。2人の指導者は容易に理解できる。

中国の膨張主義に対して、トランプの他の政策は有効だ。アフガニスタンとイラクから離脱し、ロシアのプーチン大統領とウクライナで和解するなら、アメリカの軍事的資源を中国封じ込めに利用できる。中国がフィリピン、日本、ベトナムから島々を奪うつもりなら、アメリカはより明確に軍事的な対抗策を採るだろう。オバマと外交顧問たちは、中国をまるでどこかの小さな国のように扱い、説得して姿勢を変えるように求めたが、それは間違いだった。トランプはそのような幻想を持っていない。太平洋司令官がシーレーンを開放する作戦を止める気はない。

もしトランプのロシア外交が成功すれば、NATOの同盟諸国に軍を増派する必要は減少する。トランプは、何度もヨーロッパ諸国、特に豊かな諸国に負担の公平さ、防衛費増額を要求した。そのような試みは、ヨーロッパが独自の防衛軍を創設するのを刺激する、という反対の声もあるが、それは防衛費増額に等しいだろう。むしろ結果は、ヨーロッパ諸国がGDP2%を拠出する、と合意する形になる。

トランプがヨーロッパのEU懐疑論者を刺激している、と言われる。今や、多くのヨーロッパ市民がそうであるように、彼もEUを失敗した実験だと考えている。その官僚制とユーロ体制とは経済成長を破壊している。たとえトランプが何も言わなくても、権威主義体制や人種差別に反対する中、自由と官僚支配との間で、各国はバランスを変えていただろう。

トランプがサウジアラビアとの関係をさらに悪化させる、という多くの予想は間違っている。オバマ政権はイランとの核合意を求めるばかりで、イランからの攻撃に常にさらされているイスラエルやサウジアラビアの懸念を無視した。トランプは「イスラム過激派」を敵対するイデオロギーと呼ぶが、主権国家間の関係を否定していない。オバマが拒否権を行使した、アメリカ市民がサウジアラビアを訴える法案に反対しないだろう。他方、イランとの合意を強く非難し、合意のいかなるい範囲も躊躇なく制裁するだろう。革命防衛隊が挑発すれば、その小さな船舶をいくつか撃破し、サウジアラビアとの関係は再び強固になる。

最も警戒されているのは、トランプの通商政策だ。確かにトランプはTPPを認めないだろう。しかし、それ以上の裏切りは犯さないだろう。WTONAFTAも維持する。アメリカの鉄鋼産業を守るために中国の鉄鋼製品をダンピング提訴するだろう。もちろん、中国もダンピングで訴えればよい。そんなものはないだろうが。アメリカの工場が外国に移転されるのを防ぐような、外国の低い法人税率を相殺する財政補助を行うだろう。

これはレーガン政権の誕生期に似ている。当時は、誰もアメリカが平和共存を否定するとは考えなかった。しかし、レーガンはそれを否定し、デタントを拒んだ。その結果は核戦争ではなく、ソ連の終焉であった。今、終焉するのは諸外国で行われたアメリカの介入政策だ。

FT November 20, 2016

A return to normalcy for unselfish America

Robert Kagan

トランプの通商、外交に関する心配は、すべてグローバルな秩序に関するアメリカの責任、という問題に結びつく。彼は明らかに、そのような負担を引き受ける気はない。アメリカ第1、というのは、70年に及ぶアメリカの世界秩序が終わることを意味する。

これはアメリカが伝説の「孤立主義」に回帰するわけではないし、1930年代に向かうことでもない。アメリカの利益を非常に狭く限定した、アメリカ優先の姿勢、世界においても国益の観について行動する、普通の国になる、という意味だ。

極度に批判的なヨーロッパ諸国は、自分たちも同じ唯我論であるにもかかわらず、アメリカが世界秩序を守るために無私の行動を取ることを当然とみなしている。アメリカは戦後も70年にわたって、アメリカの防衛とは直接に関係ないヨーロッパやアジアに軍隊を駐留してきた。1945年には世界GDPの半分を占めたから、開放型の経済秩序を築くことはアメリカの利益であり、他国の繁栄や競争も許容できた。独裁者を倒した後に民主主義が広まることも、その国がより独立性を強めても気にしなかった。

アメリカがこうした開明的な国益を認めたのは、ソ連との冷戦があったからだ。リベラルな世界秩序を守ることをアメリカの国益と考えた。しかし、それは永久に続くものではない。1920年と同じように、トランプを選らんだアメリカ人たちは正常への回帰a return to normalcyを望んだのだ。トランプがアメリカの脅威と認めるのはイスラム過激派のテロだけである。外交政策は、対テロ戦略を中心に、アメリカの利益を判断する。イスラム主義者と闘う意志があるかどうか。ロシアも、エジプトも、シリアも、イスラエルも、この戦いのパートナーである。その関係は、内外の批判に反して、彼らの影響圏や支配として報奨される。

アメリカが海外で基地を維持する必要はない。過去70年間、世界秩序を守るために同盟国や諸原理を防衛したことは、アメリカの選択した戦争であった。限定したアメリカの国益ではない。ドローンによる攻撃や特殊部隊を派遣しても、軍事介入はしない。

国益による外交は、1920年代、30年代の基本であった。アメリカの学者や、特に国民は、アメリカが他国の紛争処理の仕事を引き受けてきた、と不満を感じている。しかし、かつて20年間、その役割を避けた末に、世界秩序は崩壊して、アメリカはそれが彼らの問題ではなく、アメリカの国益であると認めた。

再び認めることになるだろう。問題は、そのダメージがどれほどか、ということだ。過去と違って、回復するには遅すぎるかもしれない。


l  新しい労働組合

FT November 16, 2016

Unions can help heal fractured societies

Michael Skapinker

Brexitとトランプが示したような、われわれの深く分裂した社会を、どのように修復するべきか? というパネル・ディスカッションがあった。2人のパネラーStephen Kinnock and Helena Morrisseyは、労働党員でEU加盟支持派と、シティの経験豊富な資金運用担当者で、EU離脱派である。

驚いたことに、2人とも労働組合が重要な役割を果たす、と考えていた。

1970年代や80年代初めの労使紛争を記憶している者は誰も、労働組合が分断社会の治癒者になる、などと思わないだろう。アメリカでもイギリスでも、組合はメンバーの長期的な利益を守れない、と人々は見ている。かつて高い組織率を示した地域で、労働者たちはBrexitとトランプを支持する投票をした。

組合は賃金や年金を獲得したが、それにはコストがともなった。企業は他の投資先を探したのだ。そして製造業は海外に移転され、職場は失われたままだ。

2人のパネラーが組合を支持したのは、人々が帰属する集団を必要としているからだ。最も圧力にさらされた、職場や給与を失う危険のある人々は、上司のほかに頼れる者を求めている。しかし、組織率の低下は破滅的な状態だ。ますます企業の幹部は高給を得ているが、組合には何もできない。その不満はBrexitとトランプに向かった。

組合が影響力を取り戻すには、新しい技術に応じた労働者の要求を組織することだ。鉄鋼労働者がストライキしたような時代に復帰することはないが、分裂した社会における不利な立場の人々、弱者を守る、社会的な媒介になれるだろう。


l  台風の目

NYT NOV. 20, 2016

Dancing in a Hurricane

Thomas L. Friedman

イギリスがEUを離脱したことに続いて、アメリカ大統領選挙ではドナルド・トランプが勝利した。単独でも重大な政治的事件が続いて起きた2016年は、歴史的な転換点として、将来も研究されるだろう。

大きな政治的事件には、大きな原因があるはずだ。この3年間、世界の地下で進む下水工事や電線工事のことを、私は本に書こうとしてきた。それは1つの問いから始まる。2007年に、何が起きたのか?

2007年、最初のiPhoneを、Steve Jobs Appleが販売した。スマートフォン革命が、地球規模のインターネットで結びついたコンピューターを、誰でも掌に載せることができるものにした。2006年後半にFacebook2006年に設立されたTwitter2007年に始まった。「クラウド」が本当に始まったのは2007年だった。

2007年に、Kindlee-book革命を起こし、GoogleAndroidを導入した。2007年、IBMWatsonを開始した。世界最初の認識コンピューターが今では癌の診断を行える。ヒトゲノムの連鎖を解明する費用も急激に低下した。

2007年に、太陽電池パネルの生産コストが急落し始めた。Airbnbchange.orgが始まり、今や世界最大の開放型ソースのソフトウェア・シェアリング図書館、GitHubができた。Intelは非シリコン素材を入れたマイクロチップでムーアの法則の持続期間を延長した。2006年に、インターネットの利用者が10億人を超えた。

2007年は、歴史上、最大の技術波及が起きた時点の1つとみなされるだろう。なぜわれわれは見過ごしたのか?

技術が飛躍的に進む一方で、「社会的技術」の多くは凍結したまま、遅れた。すなわち、技術変化の加速を最大限に活用し、あるいは、最悪の影響を緩和するために必要なルール、規制、制度、その他の社会諸手段である。最善の状況でも、社会的技術が物理的技術に並んで進むことは困難であるが、2008年の世界金融危機は大不況と政治的な行き詰まりを生じた。2つの技術のギャップは亀裂を広げ、多くの人々がその中へ転落した。

2007年に起きたことは、連結と情報交換を非常に早く、安価に、遍在化して、個人や小集団のパワー、機械のパワー、そして、アイデアのパワーを強めた。

次期大統領のトランプが望めば、ニューヨークのペントハウスからTwittwrで、1500万人に直接メッセージを発することができる。同じことをシリアの田舎から、イスラム国家もできるのだ。機械は単にチェスで人間に勝つだけでなく、真に創造的な、人間にしかできないと思われた作業、設計やデザイン、ニュース記事を書き、作詩や作曲もできる。

アイデアは地球規模でデジタルにソーシャル・ネットワークを流動し、かつてないほど遠くまで、早く広がる。その結果、新しいアイデアは突如、長く保持されてきた旧いアイデアを倒し、溶解したのだ。ゲイの結婚や性転換のように。

もし3万フィート上空から世界を見下ろせば、技術、グローバリゼーション、そして、母なる自然(温暖化、種の絶滅、人口爆発)が、同時に変化を加速していることがわかるだろう。それぞれの変化が相互に強め合っている。

私は最近、西アフリカからの経済的気候的な難民に会った。彼らはヨーロッパのロックコンサートで得られる援助など求めていない。携帯電話で観たヨーロッパに来たいのだ。WhatsAppを使って膨大な非合法移民のネットワークが組織される。

西側の人々が不安を感じるのは当然だ。世界と結びつく2つのアンカー、コミュニティと職場が不安定化していると感じるからだ。野菜を買いに行けば、知らない言葉で人々が話している。頭を布で覆い隠している。男子トイレに行けば、異なるジェンダーに見える者が隣にいる。職場に行けば、ロボットが隣であなたの仕事を学んでいる。私はこの多様性を祝福するが、多くの者にとっては適応する力を超えている。

私が好きなBrandi Carlileの歌“The Eye”のように、「あなたは台風の中でもダンスできる。もしあなたが台風の目に立つことができたら。」

技術、グローバリゼーション、母なる自然の変化が加速する世界は、あなたがその中で踊る台風である。トランプやBrexit推進派が、変化の嵐に対する壁を築く、と約束したが、それは間違っている。私の考えでは、台風の目を見つけることだ。

もし台風の目がわかれば、加速する変化にも柔軟に対応できる、それからエネルギーを引き出せる、健全なコミュニティを建設できるだろう。その中で市民たちは、ダイナミックな安定性の拠点を得られるのだ。

Project Syndicate NOV 24, 2016

Containing the Populist Contagion

HAROLD JAMES

ポピュリズムの政治運動が、あたかも金融危機のように、「感染」のダイナミズムを生じている。ある場所で起きた金融危機が、直接には金融的リンクのない他の場所にもショックを生じる。同様の金融危機を恐れる市場参加者たちが、その基本的なダイナミズムだ。

イギリスのEU離脱、アメリカのトランプ当選が、オランダ、フランス、イタリアでも、ポピュリストの運動を刺激する。20世紀の戦間期に、レーニンがソビエト型の共産主義を国際運動として提唱したとき、イタリアのムッソリーニも、それに対抗してファシズムを国際的に提唱した。ムッソリーニの黒シャツ部隊に応じた、さまざまな色のシャツの部隊が、ヨーロッパ、アジア、ラテンアメリカ諸国に現れた。彼らはリベラリズムに対抗して、権威主義を称揚した。

ナショナリストでもあったヒトラーとムッソリーニがリベラルな秩序に対抗して、誰が最も真正のファシストか、と競争したように、現代のポピュリストたちの主張も既存のグローバル・ガバナンスや民主主義に対抗する。その際限ない主張は、貿易を止め、移民を止め、資本移動を止めて、ゼロサム・ゲームのリスクを冒すものだ。

こうした国際的感染を止めるには、金融危機の場合、2つの方法がある。国際的金融パッケージと、国内金融改革だ。多くの問題は1国で解決できない。ところがポピュリストたちは国際的な関与を拒む。政治的ポピュリズムの感染は、それ自体、破壊的な性格のものである。深刻な不確実さのせいで、経済成長を窒息させる。その結果は、政治的な内紛の激化である。

Brexit後のイギリス政府がそうだ。予想されたような経済定破滅は、直後に起きなかった。しかし、残された不確実さは深刻で、イギリス経済への異なるモデルは示されていない。議会も、メイ政権も、紛糾し続けるだろう。Brexitは、決して、ヨーロッパの他国が見習う魅力的なモデルにはならないのだ。次期大統領トランプの政権も同じである。

ただし、アメリカはグローバルな避難所としての特別な地位を持っている。不確実さが高まれば、アメリカに資本が流入し、ドルを強くして、あたかもトランプが勝利したように見える。アメリカのポピュリズムは、少なくとも当面、勝利を続けるだろう。日本の安倍首相のように、これに便乗する外国の指導者が即座に現れる。

アメリカのような大国は、予測不可能な事態へのコストを他国に、特に新興諸国に負わせる。しかし、UKのように、小国はより迅速にコストを強いられ、しかも、大国のポピュリスト政策にも脆弱になる。その結果、彼らはポピュリスト的な感染から自己防衛するために、地域ブロックを創って逃げ込むかもしれない。中国や、再編されたEUがそれを試みる。最悪の場合、地域的な反感が強められ、1930年代を再現する。

最善の場合、地域統合はグローバルな改革を進めるために必要な舞台となる。それによってポピュリズムの罠から抜け出すのだ。


l  中国とグローバルな秩序

FT November 22, 2016

Donald Trump faces the reality of world trade

Martin Wolf

トランプ大統領になってアメリカがグローバリゼーションを拒否すれば、中国がそれを救うのか?

中国はアメリカの代わりになれない。確かに習近平主席は、貿易と投資の開放性をうたう、中国が指導する新しい「素晴らしい世界秩序」を約束した。TPPが消滅しても、加盟するはずであった12か国のうち7か国がRCEPに参加し、ラテンアメリカ諸国にも「一帯一路」への参加を呼び掛けている。

しかし、安全保障はもちろん、国際的な役割でも中国が引き受けるのはむつかしい。

世界GDPを観て、中国のシェアが2000年の4%から2015年には15%に上昇した。日本を含むアジアでは31%である。アメリカとEUを合わせても、世界GDP47%しかない。世界輸入額に占める中国のシェアは12%でしかない。アジアは36%だ。アメリカとEUは、EU域内貿易を除いて、なお世界輸入額の31%を占める。

さらに、この数値は世界貿易に占める西側の重要性を過小に表している。第1に、世界の最終需要の多くは西側から生じている。市場価格で、中国の消費額は、アメリカとEU3分の1である。第2に、より重要なことは、現代の貿易を推進する知識の多くは、高所得経済の企業から生じている。中国企業はノウハウの提供において比較にならない。

著書The Great Convergenceにおいて, Richard Baldwinは、貿易が常に距離によって妨げられた、と述べている。すなわち、輸送、情報伝達、対面契約のコストである。19世紀後半の最初のグローバリゼーションは輸送コストの大幅な減少によって起きた。これにより、工業製品と一次産品や農産物が、主にアメリカとオーストラリアから、グローバルな取引されるようになった。

しかし、その時代には、まだ製造業の過程を分割することはできなかった。工業製品で競争するには、その国はすべての必要な技術を習得しなければならなかった。その結果、製造業は、規模の経済や実地訓練の条件を満たせる、高所得経済に集中していた。

さらに、こうした諸国のある程度の熟練を持つ労働者たちは、かつてない所得と政治的影響力のせいで、こうした利益の多くを共有した。それが可能であったのも、こうした諸国で知識が発展し、彼らがそれにアクセスできたからだ。

4半世紀ほど前まで、この領域を犯すためには自国が競争的な工業化を達成するしかなかった。それは非常に困難であった。しかし、グローバリゼーションの第2期には、コミュニケーションのコストが急激に低下し、製造過程が分割されるようになった。部品の生産や組み立て作業が世界的な規模で分散し、情報を持った製造業者やバイヤーの管理下に入った。Baldwinが言うように、サウスカロライナの労働者は、1970年代のように、メキシコの労働者、資本、技術と競争したのではなく、アメリカ企業のノウハウとメキシコの賃金という、ほとんど勝負にならない相手と競争することになった。

各国の資本主義はグローバル化した。サービス分野のいくつかもそうだ。ほとんどの発展途上国はこの機会を活かせなかったが、中国は成功した。

こうした新しいダイナミズムは世界貿易に保護主義をもたらし、トランプが権力を握った。ノウハウを持つ高所得経済の企業から、誰が利益を得るのか、政治闘争になる。トランプはアメリカ企業よりもアメリカの労働者に利益を与えるのか? それは見せかけだけか? TPPを拒否し、NAFTAも作り変え、中国の高関税を課すのか? 中国が世界貿易を組織する機会を得るのか? それはアメリカ企業が不利になるのか、それとも、アメリカ企業が活動を他国に移すのか?

それはわからない。世界貿易のダイナミズムを維持するのは、中国だけでできないし、アジアにもできない。


l  イギリスの予算編成方針

FT November 21, 2016

The new role for business in a fairer Britain

Theresa May

資本主義システム、自由市場、自由貿易を私は信頼する。しかし、同時に、それは適応しなければならない。

政府は新しい産業戦略を示すつもりだ。この国を革新のための拠点とし、長期投資にもふさわしい制度を築きたい。しかし、一握りの企業やエリートが機会を独占するなら、小規模の企業、ビジネスマンはシステムの公平さを疑うだろう。社会契約は破たんする。

より強く、より公平なイギリスを創るために、われわれに機会を与えてほしい。

The Guardian, Thursday 24 November 2016

Sooner or later, May and Hammond will have to put Britain before Brexit

Polly Toynbee

自動車を買ったら、販売員が、そんなことはない、と言ったはずのことがすべて起きるのを知ったら、あなたは彼が謝って当然と思うだろうが、政府はそう思わないらしい。Philip Hammond蔵相の秋の予算編成方針には、Brexitがもたらすインフレ、債務の増大、生活水準の低下、が示されている。政府債務は50年ぶりの高い水準になる。

しかも、これは最もソフトなBrexitを前提したものだ。ハードなBrexitがもたらす不確実さは全く予想を超えている。

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The Economist November 12th 2016

The Trump era

America and the world: The piecemaker

Negotiating Brexit: The way forward

Hong Kong: China’s Tibet

Japanese politics: Abe ascendant

The world economy: Our election, your problem

Money in India: Taking notes

(コメント) トランプ大統領のもたらす衝撃の深さを,まだ誰も測りかねています.ベルリンの壁が崩壊して始まった政治経済革命は,アラブの春ではなく,ポピュリズムの蔓延で終わるのか.Brexitをめぐる交渉と議会の復権に,違う答えを求めます.そして長寿を誇る安倍政権も,やはり1つのBrexitなのだ,と感じます.

香港も,アメリカも,インドも.複雑で,広範な経済過程を介して富を築く社会である限り,法律だけでなく,共感と規範を形成する政治能力が厳しく問われます.

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IPEの想像力 10/28/16

Reviewでは紹介した3つの論説が,グローバリゼーションの政治経済空間について,読者の観念を刺激するでしょう.

トム・フリードマンのグローバリゼーションに対する信念は,このハリケーンに遭っても,なおそこからエネルギーを得る人々の能力を称え,その可能性を高めるコミュニティの建設に関心を向けます.グローバリゼーションが,IT技術の革新,自然の人為による変異とともに,不可逆的な変化をもたらして,全地球をカオスの渦に溶解する,というのは,フリードマンが抱く強固なイメージです.

金融危機の「感染」とポピュリズムの「感染」を対比したハロルド・ジェイムズの論説は,トランプ・ショックで金融市場が混乱すると,アメリカのドルは強くなる,と指摘します.そして,小国の通貨はその価値が急落するリスクを高めます.貿易でも,安全保障でも,既存の秩序を揺さぶって,自国にとってより有利な取引を求める大国間ゲームでは,小国が大国の周りに身を寄せるしかないのです.こうした地域統合は,単なる1930年代の通貨ブロックや影響圏の再生であり,戦争に向かうものなのか,あるいは,グローバリゼーションに見合う政治改革の新しい受け皿となるのか,その答えはあらかじめ決まっていない,と考えます.

マーチン・ウルフはアメリカの抜けたTPPや世界貿易に関して,中国がアメリカに代わって新しい秩序を築けるか? という問いに,それはできない,と答えています.なぜなら最終消費者は,今も,西側の富裕な企業・諸国に依拠しているからです.しかしウルフは,その「進歩と富裕の政治的独占」がすでに第2のグローバリゼーションで破壊されてしまった,とも考えます.

もし世界貿易が前進を止めるなら,トランプの保護主義やポピュリズムは「感染爆発」に向かうかもしれない,と私は懸念するわけです.

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人々の思考を前向きに,長期的な繁栄を共有する姿勢に導くものは何か,と私は考えます.葉室麟の『風渡る』を読み始めました.小説ですが,黒田官兵衛がキリスト教に入信するあたりまで読み,信仰の及ぼすグローバルな影響に感嘆します.

人間には,家族や肉親のことを想い,子どものことを想い,父や母のことを想う心があります.それは宗教のかたちをとり,特定の帰属集団や誓約に及び,あるいは,制度や国家がそこに棲みつくことで,グローバリゼーションの時代にも生き続けます.

トランプが何をするとしても,この先,世界の秩序は動揺し,各地の強権体制と内戦状態がモザイク状に点滅し続けるでしょう.むしろ中東の準軍事組織が大国の介入と支援を受けながら戦争状態を続け,ホッブズ的な秩序の基準を世界に示すことで,難民たちが,そして平和の条件を模索する人々が対話を始めるのではないか,と思います.

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グローバリゼーションとポピュリズムの陥穽に落ち込まないために,人の持つ畏怖や畏敬の念,敬虔な心を充足する新しい習慣,振る舞い,また,技術や社会制度の変化から特別な利益を集中的に得る者を牽制するメカニズムが必要だろう,と思いました.

ハリケーンが過ぎた後には,篤い公共心とベーシックな所得のランクを数段階だけ認める人々が生き残り,富裕さの多くは社会にプールされるでしょう.すべての市民が各地の都市に居住しており,農耕や兵役は交代で務め,公共心を高めて助け合うのです.

技術革新も,自然の変異も,狂気に駆られて加速することはありません.

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