IPEの果樹園2016

今週のReview

11/28-12/3

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トランプ政権の人選 ・・・インドの通貨改革 ・・・トランプ外交への憤慨と恐慌 ・・・新しい労働組合 ・・・台風の目 ・・・中国とグローバルな秩序 ・・・トランプの経済政策 ・・・イギリスの予算編成方針 ・・・Brexit後の政府

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  トランプ政権の人選

NYT NOV. 15, 2016

Why Rudy Giuliani Shouldn’t Be Secretary of State

By THE EDITORIAL BOARD

アメリカ次期大統領トランプが国務長官に、元ニューヨーク市長のジュリアーニRudy Giulianiを指名するのは、間違いだ。

優れた国務長官は、歴史と地政学に精通し、巧妙は交渉術と、アメリカの能力、ワシントンのパワーの原則と限界に関する明瞭な感覚を持たなければならない。ジュリアーニの国際経験は講演やコンサルタントに限られ、外交分野の経験がなく、判断の誤りを犯している。

NYT NOV. 16, 2016

Can Trumpism Survive a Trump Administration?

Ross Douthat

Bloomberg NOV 16, 2016

The Conflicts in Ivanka’s ‘60 Minutes’ Look

Timothy L. O'Brien

NYT NOV. 17, 2016

Donald Trump’s Tangled Web

By THE EDITORIAL BOARD

ドナルド・トランプは選挙期間中に所得税の申告書を公表しなかった。今や、彼のホテル、ゴルフ場、その他のビジネスが織りなす網の目も、ホワイトハウスに持ち込もうとしている。もし彼が以前の大統領たちと同様に、国民の信頼を維持するために良識ある手続きを踏まなければ、アメリカ国民は大統領が国益に従うのか、自分の家族に利益を得るためか、わからなくなる。

近年、大統領たちは、利益相反の問題を避けるために、その保有する株式、債券、不動産を、独立した管理者による信託にした。トランプは、その成人した子供たちを介して500以上の会社の資産を保有している。彼の私的な利益と公共の利益は、解きほぐせないほどもつれてしまうだろう。

たとえば、トランプが中東、インド、トルコ、旧ソ連圏に投資していることと、アメリカ外交とは衝突するのではないか? 経済制裁やアメリカとの投資、援助に関する外交問題で、彼は自分の利益に反する場合、どうするのか? 家族の資産を守るのか、アメリカの国益を優先するのか?

トランプは国内の法律や規制に関しても多くの利益相反に直面することになる。全国労働関係委員会が彼のホテルやゴルフ場の労働者から出された不満を調査するかもしれない。司法省が彼のビジネスに、例えば、著しい人種差別的な扱いがあった、と捜査するかもしれない。

トランプが大統領として、ビジネスのもつれた関係をクリアにするには、その保有する資産を売るか、独立したプロの資産管理者に委ねることである。

NYT NOV. 17, 2016

A Trumpian Silver Lining

Gail Collins

NYT NOV. 18, 2016

The Man Who Would Not be President

Roger Cohen

Bloomberg NOV 18, 2016

Consider This: Trump Might Be a Good President

Clive Crook

NYT NOV. 18, 2016

Michael Flynn: An Alarming Pick for National Security Adviser

By THE EDITORIAL BOARD

選挙期間中でもっとも異常な光景は、フリンMichael Flynn元中将が共和党大会で演説したときであった。アメリカの衰退を嘆き、民主党候補のヒラリー・クリントンをこき下ろした後、フリンは群衆の叫ぶ「彼女を投獄しろ」という声に、にんまりと笑顔で、「そのとおり、彼女を投獄しよう」と応じたのだ。

アフガニスタンとイラクで軍の諜報機関にいた人物が、その熱狂と過ちゆえに解任されたにもかかわらず、トランプの国家安全保障顧問に指名されるのは、グロテスクである。部下によって指摘されるまで真実を認めず、2014年にオバマ政権で解任されたが、その後、オバマを非難する話を繰り返して広めた。

アメリカをより安全にする、というトランプの約束は、むしろ逆になるだろう。

FT November 19, 2016

Jared Kushner, favoured son-in-law of Donald Trump

Gary Silverman

NYT NOV. 19, 2016

Donald Trump’s Art of the New Deal?

By SAM TANENHAUS

NYT NOV. 23, 2016

At Lunch, Donald Trump Gives Critics Hope

Thomas L. Friedman

FP NOVEMBER 23, 2016

10 Ways to Tell if Your President Is a Dictator

BY STEPHEN M. WALT

ドナルド・トランプの外交政策を心配する理由は十分にある。アメリカの国際的な地位を低下させ、しかも、従来の外交専門家たちに振り回される。非現実的な目標を無様に追求する。

しかし、あなたがアメリカに住む者なら、トランプがアメリカの立憲的秩序にもたらす脅威を大いに心配するべきだ。彼のビジネス経歴が示す悪意ある態度、選挙戦を通じて示した既存のルールや規範に対する軽蔑、そして、選挙制度や政治システムに対して繰り返し操作されていると非難し、敗北しても結果を受け入れない、と言いながら、自分が勝利すれば、選挙で何を言っても、何をしても、「自分が勝った」というだけで、その手段を正当化する。

トランプ陣営に集まる人々は、リベラルなエリート、有色人種たち、移民の同盟によってアメリカが占領され、外国勢力の影響にも毒されている、と考える。彼らは人口的な優位を失い続ける勢力であり、どのような手段を使っても権力を保持し続けようとしている。

ウラジミール・プーチンのような強権的指導者を賛美し、白人至上主義のステーブ・バノンを顧問にするなど、民主主義を破壊する最悪のレシピである。私が心配するのは、勝利に固執し、侮辱されることを恐れるトランプの性格が、その支持率を低下させ、債券市場が動揺するとき、また、その約束を実行できないときに、どのような反応を示すのか、である。正常な大統領がするように、トランプは自分の政策を修正できるのか、あるいは、一層の強硬策を唱え、自分は安全な地位を求めるのか?

ロシアでは、プーチンが一連の選挙に勝利し、高い支持率を得ているが、それはもっぱら、彼が敵対する者を排除し、脅迫し、無意味なものにしたからだ。同時に、ロシア国民にはクレムリンに好意的なプロパガンダを与え続けた。トルコでもエルドアンが同じことをしてきたが、地方の保守主義を利用し、報道機関を弾圧し、機会あるごとに反対派や批判する者を逮捕し、脅迫し、強制し、滅亡させた。

アメリカが同じようになる、と主張しているのではない。しかし、他国で起きたように、200年以上もアメリカの民主主義を護ってきた立憲的秩序も、トランプ大統領の犠牲になる、と考える十分な理由がある、ということだ。良いニュースは、アメリカが民主主義の崩壊を繰り返した歴史はないし、貧困でもなく、政治制度は成立してから長期の経験を得た。深刻な経済危機の渦中にもない。しかし悪いニュースは、アメリカは大統領制であるから、議会制に比べて権威主義的な支配に向かう傾向があり、1人の高位の人物に権威が集まっている。

アメリカの民主主義が危機に陥る兆候を見分けるために、10のポイントを示す。

1.メディアへの組織的な介入。ジョージ・オーウェルが『1984年』であれほど強調したように、専制体制は情報を支配して生きる。

2.公式のトランプ寄りメディアを創設する。Breitbart, Fox News, そして自分のTwitterを結びつける。

3.市民サービス、軍、国家警備隊、治安機関が政治的に操作される。ラムズフェルド国防長官は、イラク侵攻でもっと多くの兵士が必要だろうと議会の委員会で証言したEric Shinsekiを解任した。その後、ラムズフェルドの破滅的な戦略に誰も反対しなくなった。

4.政府の諜報機関を反対勢力の弾圧に利用する。ニクソンはベトナム戦争に反対する組織にCIAを浸透させた。

5.国家権力を使って、政府を支持する企業と反対する企業に優劣をつける。

6.最高裁判所を操作する。

7.一方の側だけに法律を強制する。トランプに敵対するものだけを罰するなら、法の支配は失われる。自警団やヘイト・スピーチを公平に取り締まることができるか?

8.選挙や政治のシステムを、まさしく操作する。トランプと共和党に有利な選挙区へ変更する。

9.恐怖心を煽る。人々が指導者の保護に頼るように仕向ける古典的な戦術だ。ブッシュ=チェイニーも、911を利用して愛国者法を承認させた。

10.敵対する者を悪魔とみなす。

SPIEGEL ONLINE 11/24/2016

The Fascism Test

How Much Mussolini Is There in Donald Trump?

By Dirk Kurbjuweit

ドナルド・トランプはファシストか? もしトランプが本当にファシストであれば、アメリカの民主主義の指導者たちは自由を守るために政府に反抗するだろう。西側の他の諸政府も、民主主義や人権を支持しており、たとえそれが内戦に向かうとしても、彼らを支援するしかないだろう。

Washington Postの保守派のコラムニストRobert Kagan wroteは、トランプが大統領になればアメリカにファシズムが登場する、と5月に書いた。SPIEGEL ONLINEのコラムニストJakob Augstein は「トランプはファシストだ」と書き、Stanford University Fred Turner, コミュニケーションの専門家は、ドイツの週刊誌Die Zeitに、最近、トランプを現代のファシストと見なした。New Yorkerの編集長David Remnick も投票の翌日、これは明らかにファシストが始めたことだ、と書いた。

1990年代半ばに、ロシアでファシズムが起こるという不安が高まったとき、イタリアのUmberto Eco はファシズムの原型 "Ur-Fascism"を特徴づけた。1.カルトの伝統。2.モダニズムや資本主義を拒む。理性の時代やフランス革命を拒む。3.知性への反発。4.反対派をすべて「裏切り」とみなす閉鎖的世界観。5.差異への恐怖を強化した同意の強制。6.個人的、社会的な不満の高まり。7.ナショナリズム。8.敵の富や力の誇張。9.生命を闘争とみなす、永久戦争論。10.「大衆エリート」論。11.死の渇望。12Sexへの転化。13.議会を否定し、自ら「人民の声」を体現する。14.新しい話法の開発。

Project Syndicate NOV 24, 2016

America’s Berlusconi

BILL EMMOTT

トランプとベルルスコーニはよく似ている。ともにビジネスマンで、不動産取引から最初の財を成し、政治の世界に入ったが、アウトサイダーである。法廷闘争を繰り返し、利益相反を意に介さない。

ベルルスコーニは選挙に勝てない、と専門家たちは見なしたが、それは間違いだった。その教訓としては、1.ジャーナリストやインテリは公開討論で彼に勝てない。2.選挙戦のスタイルを継続し、自ら国民と直接に対話するだろう。3.巨万の富と権力を得ても、自分を犠牲者として共感を得る。4.泥仕合によって敵を滅ぼす。5.忠誠心を高く評価する。6.強権的指導者への賛美は本気である。個人的な関係で取引する。

ベルルスコーニは政治計画を持たなかったが、トランプにはある。


l  インドの通貨改革

Bloomberg NOV 15, 2016

India's Great Rupee Fail

Mihir Sharma

FT November 18, 2016

India: Narendra Modi’s bonfire of the rupees

Amy Kazmin

今年の初めから商店は20万ルピー以上の現金で支払いを受けた場合、税務署に報告することが義務付けられた。ある貴金属店は、新ルールの施行前に金庫の売り上げが増えたが、その後は60%も減った、と言う。

人々は多額の現金で買い物した場合、税務署に、その現金はどこから出たのか、と尋ねられる。これはモディ首相の強力な「ブラック・マネー」追放キャンペーンである。それは非合法な活動で得た資金、あるいは、合法的に得たものでも税務署に申告していない資金を意味する。先週、政府はこのキャンペーンを進めるために、500ルピー紙幣と1000ルピー紙幣を禁止した。

その破棄される紙幣は、2200億ドルに相当し、インドで流通する紙幣額の86%、これがもはや法定貨幣ではなくなる。年末までに銀行へ預金するか、少額の新しい紙幣に交換しなければならない。25万ルピー以上の預金には税務署が警戒している。

秘密裏に進行した紙幣の廃棄・交代計画は、先例がないほどの経済実験であり、政治的ギャンブルだ。Kenneth Rogoffのようなエコノミストは、先進経済において犯罪に利用される高額紙幣を廃棄する漸進策を主張していた。実際、ECB500ユーロ紙幣を徐々に廃止しつつある。

しかし、今回のような大規模で、一夜にして、紙幣を廃棄・交代する試みは、第2次世界大戦後のドイツや、旧ソ連のような、国家や経済の危機において、あるいは、ハイパーインフレーションを終わらせるために行われただけである。「これほどのショック療法を採用した国はない」と、JPMorganのアナリストJahangir Azizは言う。

インド上院議員Swapan Dasguptaは、ビジネスや富裕層に汚職と脱税が蔓延したインド社会を根本的に改造する試みだ、と言う。それはモディの支持者である商人層からの反発を買うリスクもある。「世界経済で重要な国であろうとすれば、この国を変えるためにラディカルな手段も必要だ、という思想が動機になっている」。

インドのGDPに対する税負担率は16.6%であり、政府は他国に比べて5.4%も低い、と考えている。所得税を納めているのは所得を得ている者のわずか5.5%である。モディは、この現金枯渇状態が多くのビジネスを銀行預金やデジタル・マネーに転換させ、彼らの所得を監視できる、と考えている。

インド人が現金取引に頼るのは、1970年代、インディラ・ガンジーの社会主義的な時代にさかのぼる。所得税率は98%にも達し、政府がビジネス全体を管理しようとした。所得税はその後、急速に下げられたが、不動産取引には高い課税が続き、取引の際に双方が評価額を過小にする動機を持っている。それは役人への賄賂になり、非合法な資産になった。

最近までインド準備銀行の総裁であったRaghuram Rajanは、ブラック・マネーの追放に貨幣の廃棄が効果的とは考えない。ほとんどの非合法な資産は、現金袋ではなく、不動産と金Goldで保有されている。より小さな保有に分かれるだけで、ブラック・マネーはなくならないだろう、と。

誰がモディにこの政策を薦めたのか。ヨガの尊師かもしれないが、Anil Bokilと言われる。右派に影響力を持つ非営利団体の創設者である。50ルピーより多額の紙幣を廃止し、所得税も廃止する、といったインド経済の根本的再編を唱えてきた。

エコノミストたちは、短期的に、このマイナスの影響を重視している。ドイチェバンクによれば、消費財の販売額は、急速に伸びてきたが、30%も減少した州がある。小都市の耐久消費財は完全に停止した。料金や納税に現金を利用するトラックは高速道路で渋滞している。不動産価格も激しく動揺し、下落するだろう。春の住宅購入は安くなる。

どのくらいマイナスになるかは、政府が新紙幣を供給できる速さ、ロジスティクスにかかっている。また長期的には、さまざまな困難はあるが、エコノミストの多く、そして庶民も、モディのショック療法による利益が生まれると信じている。銀行の預金の水準が高まり、低金利で融資が増えるだろう。伝統的ビジネスは資金や税金に新しい姿勢を求められる。それは政府の財政状態を改善する。

電話のアクセサリーを小店で売るMahesh Rewariaは、売り上げが60%も落ち込み、まだ回復していない。しかし、彼はモディを支持している。「この政策を懸念するのは脱税し、政府から盗んでいる者だけだ。私も含めて。」「私はいつも公平に納税したいと思っていた。しかし、他の人々がこれほど腐敗しているのに、私だけが納税する気になれなかった。」

もっとも結婚式の多い時期になぜ始めたか、と言われる。しかし、モディはウッタルプラデーシュ州の重要な選挙を意識したのであろう。2019年にモディが再選されるには、与党BJPがこの州の支配を握らなければならない。彼の政策は、強力な、決断力のある指導者、というイメージを強めた。典型的に、漸進策を用いてきたインドを変える、大胆な政策を採用する用意がある、と。さらに、この政策は彼の政治的競争相手の選挙運動資金を枯渇させるだろう。

しかし、政治的ギャンブルが逆転するリスクもある。多くの地方生活者は、苦労して貯蓄した資金を、自宅に、高額紙幣で保蔵している。彼らは今や遠く離れた銀行に預金しなければならない。さもないと、貯蓄が価値のない紙切れになってしまう。


l  トランプ外交への憤慨と恐慌

NYT NOV. 16, 2016

Obama in Trumpland

Frank Bruni

NYT NOV. 17, 2016

Donald Trump, After Fits and Starts, Focuses on Foreign Policy

By MARK LANDLER and MICHAEL D. SHEAR

FP NOVEMBER 17, 2016

Enough Hysterics. Donald Trump’s Foreign Policy Isn’t Reckless or Radical.

BY EDWARD LUTTWAK

トランプ次期大統領の新しい外交政策に関する憤慨や恐慌は収まるだろう。

日本の安倍首相と会談することは、「正常化」の始まりである。トランプは、日本が中国封じ込めの防衛負担をもっと増やすように求めてきた。しかし、あからさまな要求はしないだろう。トランプは、日本の努力を歓迎するだろう。安倍は防衛力を強化し、日米同盟のために多くのことをするつもりだ。2人の指導者は容易に理解できる。

中国の膨張主義に対して、トランプの他の政策は有効だ。アフガニスタンとイラクから離脱し、ロシアのプーチン大統領とウクライナで和解するなら、アメリカの軍事的資源を中国封じ込めに利用できる。中国がフィリピン、日本、ベトナムから島々を奪うつもりなら、アメリカはより明確に軍事的な対抗策を採るだろう。オバマと外交顧問たちは、中国をまるでどこかの小さな国のように扱い、説得して姿勢を変えるように求めたが、それは間違いだった。トランプはそのような幻想を持っていない。太平洋司令官がシーレーンを開放する作戦を止める気はない。

もしトランプのロシア外交が成功すれば、NATOの同盟諸国に軍を増派する必要は減少する。トランプは、何度もヨーロッパ諸国、特に豊かな諸国に負担の公平さ、防衛費増額を要求した。そのような試みは、ヨーロッパが独自の防衛軍を創設するのを刺激する、という反対の声もあるが、それは防衛費増額に等しいだろう。むしろ結果は、ヨーロッパ諸国がGDP2%を拠出する、と合意する形になる。

トランプがヨーロッパのEU懐疑論者を刺激している、と言われる。今や、多くのヨーロッパ市民がそうであるように、彼もEUを失敗した実験だと考えている。その官僚制とユーロ体制とは経済成長を破壊している。たとえトランプが何も言わなくても、権威主義体制や人種差別に反対する中、自由と官僚支配との間で、各国はバランスを変えていただろう。

トランプがサウジアラビアとの関係をさらに悪化させる、という多くの予想は間違っている。オバマ政権はイランとの核合意を求めるばかりで、イランからの攻撃に常にさらされているイスラエルやサウジアラビアの懸念を無視した。トランプは「イスラム過激派」を敵対するイデオロギーと呼ぶが、主権国家間の関係を否定していない。オバマが拒否権を行使した、アメリカ市民がサウジアラビアを訴える法案に反対しないだろう。他方、イランとの合意を強く非難し、合意のいかなるい範囲も躊躇なく制裁するだろう。革命防衛隊が挑発すれば、その小さな船舶をいくつか撃破し、サウジアラビアとの関係は再び強固になる。

最も警戒されているのは、トランプの通商政策だ。確かにトランプはTPPを認めないだろう。しかし、それ以上の裏切りは犯さないだろう。WTONAFTAも維持する。アメリカの鉄鋼産業を守るために中国の鉄鋼製品をダンピング提訴するだろう。もちろん、中国もダンピングで訴えればよい。そんなものはないだろうが。アメリカの工場が外国に移転されるのを防ぐような、外国の低い法人税率を相殺する財政補助を行うだろう。

これはレーガン政権の誕生期に似ている。当時は、誰もアメリカが平和共存を否定するとは考えなかった。しかし、レーガンはそれを否定し、デタントを拒んだ。その結果は核戦争ではなく、ソ連の終焉であった。今、終焉するのは諸外国で行われたアメリカの介入政策だ。

FT November 18, 2016

Rodrigo Duterte’s pivot to Asia is a rational move

Chandran Nair

SPIEGEL ONLINE 11/18/2016

The End of Power

What Will Remain of Obama's Legacy?

By Klaus Brinkbäumer and Holger Stark

SPIEGEL ONLINE 11/18/2016

SPIEGEL Interview with US President Barack Obama

'We Could See More and More Divisions'

Interview Conducted by Klaus Brinkbäumer and Sonia Seymour Mikich

FP NOVEMBER 18, 2016

East Asia Will Take Trump’s Nuclear Talk Literally and Seriously

BY SHARON SQUASSONI

NYT NOV. 19, 2016

The Wreckage of Obama’s Legacy

By JULIAN E. ZELIZER

FT November 20, 2016

A return to normalcy for unselfish America

Robert Kagan

トランプの通商、外交に関する心配は、すべてグローバルな秩序に関するアメリカの責任、という問題に結びつく。彼は明らかに、そのような負担を引き受ける気はない。アメリカ第1、というのは、70年に及ぶアメリカの世界秩序が終わることを意味する。

これはアメリカが伝説の「孤立主義」に回帰するわけではないし、1930年代に向かうことでもない。アメリカの利益を非常に狭く限定した、アメリカ優先の姿勢、世界においても国益の観について行動する、普通の国になる、という意味だ。

極度に批判的なヨーロッパ諸国は、自分たちも同じ唯我論であるにもかかわらず、アメリカが世界秩序を守るために無私の行動を取ることを当然とみなしている。アメリカは戦後も70年にわたって、アメリカの防衛とは直接に関係ないヨーロッパやアジアに軍隊を駐留してきた。1945年には世界GDPの半分を占めたから、開放型の経済秩序を築くことはアメリカの利益であり、他国の繁栄や競争も許容できた。独裁者を倒した後に民主主義が広まることも、その国がより独立性を強めても気にしなかった。

アメリカがこうした開明的な国益を認めたのは、ソ連との冷戦があったからだ。リベラルな世界秩序を守ることをアメリカの国益と考えた。しかし、それは永久に続くものではない。1920年と同じように、トランプを選らんだアメリカ人たちは正常への回帰a return to normalcyを望んだのだ。トランプがアメリカの脅威と認めるのはイスラム過激派のテロだけである。外交政策は、対テロ戦略を中心に、アメリカの利益を判断する。イスラム主義者と闘う意志があるかどうか。ロシアも、エジプトも、シリアも、イスラエルも、この戦いのパートナーである。その関係は、内外の批判に反して、彼らの影響圏や支配として報奨される。

アメリカが海外で基地を維持する必要はない。過去70年間、世界秩序を守るために同盟国や諸原理を防衛したことは、アメリカの選択した戦争であった。限定したアメリカの国益ではない。ドローンによる攻撃や特殊部隊を派遣しても、軍事介入はしない。

国益による外交は、1920年代、30年代の基本であった。アメリカの学者や、特に国民は、アメリカが他国の紛争処理の仕事を引き受けてきた、と不満を感じている。しかし、かつて20年間、その役割を避けた末に、世界秩序は崩壊して、アメリカはそれが彼らの問題ではなく、アメリカの国益であると認めた。

再び認めることになるだろう。問題は、そのダメージがどれほどか、ということだ。過去と違って、回復するには遅すぎるかもしれない。

FT November 21, 2016

Marine Le Pen looms over a Trumpian world

Gideon Rachman

FP NOVEMBER 21, 2016

Trump’s Grassroots Supporters Will Likely Pay the Price of His Economic Surge

BY DAVID FRANCIS

NYT NOV. 22, 2016

Don’t Retreat Into Fortress America

By WILLIAM S. COHEN and GARY HART

ディーン・アチソン元国務長官が書いた回想録“Present at the Creation”は、アメリカの戦略的利益を説明した古典である。

共通の価値観に基づき大西洋同盟、NATO、第2次世界大戦後のヨーロッパ再建を支持した。安全保障と経済的機会を拡大する国際機関の設立は、アメリカの利益であった。EU、ブレトンウッズ合意、マーシャル・プラン、トルーマン・ドクトリンが続いた。

これらは人と商品の自由移動を可能にする広範な制度的枠組みに至った。ヨーロッパの共通通貨と、大西洋を超えて安全保障と繁栄をもたらした。

トランプの選挙は、市民たちがこうした歴史から離れたことを示した。トランプは国際機関に疑問を示すが、それは「要塞としてのアメリカ」に帰還することでしかない。NATOの集団安全保障を疑い、NAFTAを解体し、気候変動に関する2015年のパリ協定からも離脱する、と言う。しかし、気候変動はますます安全保障にも影響する。

トランプは答えなければならない。国際的ガバナンス、人権、自由市場の保護、軍事力に訴えることなく問題を解決するのは、だれか? もしトランプがその責任を引き受けないなら、モスクワが、北京が、テヘランがそれを引き継ぐだろう。

アメリカの軍事力は、その基地や空母によって、ヨーロッパとアジアで安全保障と地域安定化に対するアンカーであった。個々の国が安全保障の枠組みを求め、核武装することは、アメリカの利益にならない。それは北朝鮮だけで十分に示されている。

賢明な指導者たちTruman, Eisenhower, Marshall and Achesonは、自由と繁栄の神殿を築いた。トランプは内装にしか関心を持たないが、中心的な支柱を失えば、建物は崩落する。

NYT NOV. 22, 2016

Mexico Doesn’t Have to Appease Trump. It Can Fight Back.

By JORGE G. CASTAÑEDA

FP NOVEMBER 22, 2016

Trump’s ‘America First’ Is the Twilight of American Exceptionalism

BY MAX BOOT

リベラル派は認めないが、トランプの外交方針はオバマに似ている。しかも、それはうまく行かないだろう。

Project Syndicate NOV 23, 2016

Growing Out of US Leadership

ADAIR TURNER

トランプの当選で、世界はアメリカに過剰に依存する状態が終わったと知るだろう。アメリカの選挙結果に振り回されないような国際制度を築くことだ。

Project Syndicate NOV 23, 2016

America and the World in Transition

RICHARD N. HAASS

NYT NOV. 23, 2016

The Curse of Hypercorrection in Latin America

By JAVIER CORRALES

FP NOVEMBER 23, 2016

Is There Anyone In Asia Who Still Trusts America?

BY J. BERKSHIRE MILLER

FT November 24, 2016

Donald Trump stands to lose from a break with Europe

Philip Stephens


l  新しい労働組合

FT November 16, 2016

Unions can help heal fractured societies

Michael Skapinker

Brexitとトランプが示したような、われわれの深く分裂した社会を、どのように修復するべきか? というパネル・ディスカッションがあった。2人のパネラーStephen Kinnock and Helena Morrisseyは、労働党員でEU加盟支持派と、シティの経験豊富な資金運用担当者で、EU離脱派である。

驚いたことに、2人とも労働組合が重要な役割を果たす、と考えていた。

1970年代や80年代初めの労使紛争を記憶している者は誰も、労働組合が分断社会の治癒者になる、などと思わないだろう。アメリカでもイギリスでも、組合はメンバーの長期的な利益を守れない、と人々は見ている。かつて高い組織率を示した地域で、労働者たちはBrexitとトランプを支持する投票をした。

組合は賃金や年金を獲得したが、それにはコストがともなった。企業は他の投資先を探したのだ。そして製造業は海外に移転され、職場は失われたままだ。

2人のパネラーが組合を支持したのは、人々が帰属する集団を必要としているからだ。最も圧力にさらされた、職場や給与を失う危険のある人々は、上司のほかに頼れる者を求めている。しかし、組織率の低下は破滅的な状態だ。ますます企業の幹部は高給を得ているが、組合には何もできない。その不満はBrexitとトランプに向かった。

組合が影響力を取り戻すには、新しい技術に応じた労働者の要求を組織することだ。鉄鋼労働者がストライキしたような時代に復帰することはないが、分裂した社会における不利な立場の人々、弱者を守る、社会的な媒介になれるだろう。

FT November 17, 2016

Remake the union to heal Europe’s rifts

Nicolas Sarkozy


l  イギリスの制度改革

FT November 17, 2016

The right questions to ask about social mobility

FT November 17, 2016

Baby boomers are still the lucky ones

Chris Giles

Project Syndicate NOV 17, 2016

What Is the Pound Telling Us?

JIM O'NEILL

ポンド価値の下落を輸出ブームと見なして歓迎するような政府は、政策を誤る。

FT November 25, 2016

Litigation prompts a shake-up in a sleepy pension world

Gillian Tett


l  メルケルとトランプ

FT November 17, 2016

Now Angela Merkel wears the west’s mantle

Philip Stephens

Bloomberg NOV 17, 2016

Germany and Merkel Are Ready for Trump

Leonid Bershidsky

メルケルは西側指導者の中で最も保守的な人物だ。オバマのリベラルな理想を継承するにはふさわしくない。しかし、その後、彼女のプラグマティストの政策は変化した。今や、自由貿易、気候変動、ロシアの攻撃的姿勢、移民、といった重要政策に関して、2人の立場は一致している。

FT November 23, 2016

Victory for Austria’s far right will send ripples across Europe

Tony Barber

SPIEGEL ONLINE 11/23/2016

'Whipping Boys'

The Erosion of German Democracy

By SPIEGEL Staff

ドイツでも、民主主義の浸食がすすんでいる。


(後半へ続く)