IPEの果樹園2016

今週のReview

11/21-26

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ブリュメール18日 ・・・中国との貿易戦争 ・・・自由世界の指導者 ・・・トランプ改革とドル価値 ・・・トランプ政権の始動 ・・・グローバリゼーションと第3次世界大戦 ・・・3のリベラリズム ・・・トランプ大統領 ・・・中国の視点 ・・・トランプの財政・金融政策 ・・・SNSの拡大と世界秩序構築 ・・・インフラ投資と保護主義 ・・・移民政策 ・・・トランプと日本 ・・・トランプ政権の人選 ・・・インドの通貨混乱 ・・・労働組合 ・・・イギリスの改革 ・・・メルメルとトランプ

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  ブリュメール18

NYT NOV. 9, 2016

The Trump Era Dawns

By ROSS DOUTHAT

今日,119日は,フランス革命歴のブリュメール18日である.1799年のこの日,ナポレオン・ボナパルトが,彼自身によって築かれた革命政府をクーデタで打倒し,史上にもまれな,世界史の転換を行った.

ドナルド・トランプはナポレオンではない.しかし,喜劇的なオペラの登場人物や,世界市場の人物のパロディーと観ていた者たちに対して,彼自身のブリュメール18日を熟慮すべきことを教えた.

かつてないような大統領が現れるリスクがあると思う.しかし,その天才によって,私たちの政党システムや政治システムの弱点を見つけ出し,疎遠な,自己満足にひたるエリートたちが,せいぜい停滞を長引かせるような約束しかしない時に,支持者を獲得した.彼がその知略を生かして,単なる破壊者やデマゴーグではなく,何らかの,共通の利益に目を向けると期待しよう.

もしその希望が失われたら,我々すべてが,左派から右派まで,全く予想もしない夜に,アメリカの歴史が違う章を開いたと知って,何としても,彼に抵抗しなければならない.

NYT NOV. 9, 2016

Trump, the Traders and You

By TERESA TRITCH

NYT NOV. 9, 2016

A State of Alienation

Molly Worthen

NYT NOV. 9, 2016

Paul Krugman: The Economic Fallout

By PAUL KRUGMAN

トランプ大統領になるようだ.市場は急落しつつある.それはいつ回復するのか?

無責任で,無知な人物が大統領になって,世界で最も重要な経済について,間違った人々から助言を受ける,というのは,非常に悪いニュースだ.しかも,世界経済は金融危機から8年を経ても基本的に脆弱な状態にある.

今やマイナス効果の中でも最悪のものが生じた.経済政策を知らない者たち,経済政策が機能することに敵意を抱く者たちの体制が出現したのだ.連銀に財政政策からの支援は行われるか? 全くありえない.私は,連銀が独立性を失い,狂人どもから非難される,と恐れている.

つまり,私たちは世界不況に入って,そこから抜け出すことはできないだろう.

NYT NOV. 9, 2016

What’s the Biggest Fear of a Trump Presidency?

By DANI RODRIK

ドナルド・トランプの真の損失は、経済分野ではなく、政治分野に起きるだろう。

おそらく貿易障壁の増大や一方的な経済政策が採られるだろう。しかし、その多くの恫喝にもかかわらず、私はトランプが無差別に保護主義を採用するとは思わない。サプライ・チェーンの世界では、メキシコや中国からの輸入品に関税を課せば、アメリカ企業のコストを高くして、彼らが競争するのを難しくする。トランプはビジネスマンであり、たとえ今は理解していなくても、広範な保護主義政策の無意味さをすぐに理解するだろう。

これまで何度も貿易摩擦があった。思い出すべきは1980年代だ。日本などの輸出国と貿易摩擦が高まった末に、輸出自主規制のような、新しい保護主義が起きた。しかし、これらは世界経済に極めて限定的な影響しか及ぼさなかった。そのうちに、世界は一層のグローバリゼーションに向かったのだ。

さらに、現代では、IMFWTOのような、戦間期にはなかった強力な国際機関が存在する。また開放経済を求める(大企業、大銀行の)政治ロビー活動が強化され、ワシントンで強い影響力を持っている。

1930年代のように、国際経済秩序が崩壊して、貿易戦争が起きる、とは思わない。

トランプの真の危険は、われわれの政治的な基礎、リベラルな民主主義を機能させる規範に生じている。彼の選挙運動は、国民を分断するアイデンティティ政治であった。公平さ、平等な権利、ダイヴァーシティ、包容力の理想が、人種やエスニックの緊張を高めるレトリックにより損なわれ、メキシコ人移民や、中国の輸出企業、イスラム教徒の難民、など、想像上の敵に向けた情念が刺激された。

非リベラルな民主主義は世界各地で起きている。トランプによって、アメリカの伝統的なチェック・アンド・バランスや法の支配が厳しい試練にさらされる。その政治的危険性は、トランプの経済的な失策によって現れるだろう。彼は、取り残された中産階級、下層階級の想定上の指導者として成功した。そして、満たすことができないほどに彼らの期待を高めてしまったのだ。トランプの政策で、中産階級、下層階級の分配が改善されることはまずない。どのような通商政策を採っても、製造業の雇用は戻ってこない。こうした職場は、貿易ではなく、主に技術変化によって、永久に消滅したからだ。

トランプの在任中に、経済的な失望が最大になったとき、ロシアのプーチン大統領のようなポピュリストたちが昔から使う手法で反応するだろう。彼の支持者たちを動員して、経済問題から自分を切り離すのだ。選挙戦で非常に成功したアイデンティティ政治を強化して、避難所にするだろう。それはアメリカ社会を人種的、エスニック的な分裂状態に陥らせる。

NYT NOV. 9, 2016

Gritting Our Teeth and Giving President Trump a Chance

Nicholas Kristof

NYT NOV. 9, 2016

A Time to Keep Fighting

Andrew Rosenthal

NYT NOV. 9, 2016

Being American in the Trump Years

By THE EDITORIAL BOARD

NYT NOV. 9, 2016

Ten-Step Program for Adjusting to President-Elect Trump

Gail Collins

NYT NOV. 9, 2016

Now What? Personal Thoughts

By PAUL KRUGMAN

FP NOVEMBER 9, 2016

Why a Trump Presidency Might Not Be as Awful as We Fear

BY MAX BOOT

こんな日は、最悪の恐怖がやって来るように思える。アメリカがファシズムの悪夢に落ち込む? 白人至上主義者の勝利である? NATOの崩壊とプーチンの勝利? 黙示録の予言通りだ。

しかし、最悪のことが起きない可能性もある。トランプは最低の最低であるから、それを超える可能性もあるだろう。実際、彼が何をするのかは、まったくわからない。だれにも、おそらく、彼自身にもわからないのだ。もし今後に楽観する余地があるとしたら、それは彼がすべての政策について全く矛盾だらけだ、という事実である。

FP NOVEMBER 9, 2016

What Happened?

BY DAVID ROTHKOPF

FP NOVEMBER 9, 2016

Can Donald Trump Be a Good President?

BY PETER FEAVER, WILL INBODEN

FP NOVEMBER 9, 2016

On This Day In History the World Watched the Berlin Wall Crumble. Now Will They See Donald Trump’s Wall Rise?

BY KAVITHA SURANA

FP NOVEMBER 9, 2016

After Trump’s Upset, White House Shifts to Damage Control

BY DAN DE LUCE

FP NOVEMBER 9, 2016

 The World as We Know It Is Crumbling Before Our Eyes’

BY COLUM LYNCH

FP NOVEMBER 9, 2016

Trump’s Impact on the Economy: The Good, the Bad, and the Ugly

BY DAVID FRANCIS

Bloomberg NOV 9, 2016

Don't Despair, Liberals: Fight

Mihir Sharma

Bloomberg NOV 9, 2016

Trump Is the Change Voters Wanted

Virginia Postrel

Bloomberg NOV 9, 2016

Deciphering Trumponomics, Chapter One

Tyler Cowen

トランプ大統領の任期における経済状態はどうなるのか?

移民に関しては、トランプの大げさな主張に比べて、最終的な結果はまともなものだろう。トランプは支持者たちを満足させるために何かするだろうが、1100万人の非合法移民を国外追放するのは実際的でないし、不人気だとわかるはずだ。そこで、費用も掛かるし、嫌われるものだが、メキシコとの国境線に壁を築き始めるだろう。

しかし、トランプは高熟練労働者の移民を増やす考えを示唆している。壁は完成しないし、効果もないから、その方針は移民政策の転換に役立つ。

もし私の予測に共通のテーマがあるとしたら、それはトランプがその名声を利用して、比較的小さな資本で取引を成功させてきた経歴である。そうした彼の本能に従って、支持者を満足させるために、手っ取り早い、シンボリックな成果を求めるだろう。それから、政府がもたらす利益、債務、フリーランチの発想で、大衆的な人気を求める。その意味で、トランプ大統領が伝統的な保守や右翼を意味することはないと思う。

通商関係もそれほど悪化しないだろう。トランプはメキシコを取り上げ、NAFTAを再交渉する。結果的にメキシコは、直接もしくは間接に、アメリカ市場へのアクセスを維持するために何かの支払いを強いられる。そうやって、トランプは、メキシコに「壁の費用を支払わせる」のである。そのせいでペソが暴落するかもしれない。

またトランプは中国に対してWTOへの告発を増やすだろう。アメリカに製造業の雇用が戻ることはないが、太平洋の国際関係は悪化する。しかし、それ以上のことはしないと思う。

1つの重要な可能性は、トランプ政権が不況を経験するときのことだ。その理由が何であれ、トランプは大規模な、積極的財政政策を採るだろう。多くの民主党(そして一部の共和党)エコノミストが長く主張してきたような、インフラ投資を大幅に増やすのだ。

不況の圧力があるかどうかにかかわらず、トランプは大規模な減税を行う。それは富裕層に対してだけではない。金利は非常に低いから、人々はそれができると感じている。財政の将来に関して危険なゲームを行うものだが、私は財政の持続可能な経路を踏み外さないと思う。社会保障やメディケアを削減することはないだろう。

オバマケアを廃止するか置き換える、と主張していたが、その細部も代案もわからない。可能性としては、以前の共和党案だ。それはさらに多くのコストがかかり、医療保険制度の諸問題を解決できないものだが、それによって有権者たちを不人気な強制加入から解放し、トランプ人気を高めるだろう。

気候変動に関しては、トランプの政策を予測できない。彼は単に何もせず、炭素税のような新しい税金は導入しないだろう。トランプにはこの問題で情報がなく、さらに何も知らない人々は急に考えを変えるかもしれない。

私の最大の懸念は、トランプ政権が太平洋、バルチック海、その他でも、地政学的な不安定性を高めることだ。それはグローバルな経済秩序や自由を損ない、アメリカ国内にも悪影響をもたらす。

Bloomberg NOV 9, 2016

Will Donald Trump Go Rogue in the War on Terror?

Eli Lake

Bloomberg NOV 9, 2016

Trump's Victory Proves the U.S. Is Unexceptional

Leonid Bershidsky

トランプの勝利は、アメリカ民主主義の崩壊ではなく、アメリカ例外主義とエリートたちの傲慢さが終わったことを示す。

ドナルド・トランプは、世紀転換期から東欧で有効になった政策ミックスを使って勝利した。すなわち、強烈なナショナリズムと、腐敗撲滅のキャンペーンだ。

Bloomberg NOV 9, 2016

Blame the Fed for Trump's Victory

Mark Gilbert

chinadaily.com.cn 2016-11-09

As president will Trump be as he was as candidate?

chinadaily.com.cn 2016-11-09

Trump and China: Looking into crystal ball

FT November 10, 2016

US election: Welcome to Trumpworld

Edward Luce

FT November 10, 2016

Donald Trump and the dangers of America first

Gideon Rachman

人種差別を振りまく候補者が当選したことは、アメリカ民主主義への敬意を打ち砕くものである。それはまた、1945年以来、アメリカが指導してきた世界全体での民主主義の大義を損なうものである。

1961年、ジョン・F・ケネディーは演説した。“Let every nation know, whether it wishes us well or ill, that we shall pay any price, bear any burden, meet any hardship, support any friend, oppose any foe, to assure the survival and the success of liberty.”

トランプは宣告する。“Our plan will put America first. Americanism not globalism will be our credo.”

FT November 10, 2016

The Republicans are now the party of outsiders

Christopher Caldwell

FT November 10, 2016

Donald Trump’s victory challenges the global liberal order

FT November 10, 2016

The Trump effect on the rules of engagement

Stephen King

FT November 10, 2016

Trump stirs market’s memories of Reagan

Roger Blitz

FT November 10, 2016

Autocrats of the world benefit from Donald Trump’s win

Roula Khalaf

アメリカ政治と選挙戦の泥仕合は、イランのハメネイが確信していたことの証拠とみなされる。中国やロシア、中東に広がる権威主義体制の指導者たちは、アメリカ政治の醜さ、競争的選挙の破壊性を観て、大いに満足しただろう。外国から見たアメリカ大統領選挙は、あたかもアメリカ自身が戦争しているようなものだった。自分たちが重視してきた諸価値を破壊するものだった。

FT November 10, 2016

It will take time to mend America’s broken promise

Sarah Churchwell

YaleGlobal, 10 November 2016

Crazy Campaign Ends With Upset, and Hard Work of Governing Begins

David Dapice

The Guardian, Thursday 10 November 2016

The reasons for Trump were also the reasons for Brexit

John Harris

The Guardian, Thursday 10 November 2016

Be calm: Trump is not the worst and won’t go unchallenged

Simon Jenkins

The Guardian, Thursday 10 November 2016

Many Middle East countries will welcome Trump’s victory. Here’s why

Jane Kinninmont

FT November 10, 2016

America can survive Trump. Not so the west

Philip Stephens

FT November 10, 2016

Investors: sit tight and look for Trump clues

Stephanie Flanders

FT November 10, 2016

Social media alone understood the Donald Trump story

John Lloyd

SPIEGEL ONLINE 11/10/2016

Running Out of Allies

Trump's Election Triggers Deep Concern in Europe

By Markus Becker

Project Syndicate NOV 10, 2016

Who Is President Trump?

JEFFREY FRANKEL

政治的にも、軍事的にも、経歴のない人物が大統領になったことはない。真実を当たり前のように捻じ曲げ、陰謀論を振りまき、自己矛盾している人物が大統領になったのも初めてだ。トランプ政権を予測することはほとんど不可能である。

しかし、トランプ大統領の登場には前例があるのだ。ジョージ・W・ブッシュだ。ブッシュと同様に、トランプの得票数は少なかったが、変化への権限を獲得した。その転換の結果は、彼の支持者でも喜ばないものだろう。

経済政策に関しては、富裕層への減税と、軍事、その他の財政支出を行うだろう。その結果は、ブッシュと同様に、不平等の拡大、予算赤字の増大であろう。

7年も続いた株価上昇は終わるだろう。選挙戦でトランプは連銀の金融緩和を攻撃したが、その立場を変えて、金利を上げるなと迫るだろう。

トランプは、アメリカ経済の輸出シェアを増やす、という約束を守れないだろう。製造業の雇用も回復しない。所得分配の不平等は再び拡大するだろう。

トランプの任期中に、景気は悪化するだろう。ブッシュ政権の初期に2つの景気後退があった。大恐慌以降、アメリカの不況は、ほとんど共和党の大統領任期中に起きている。

最も懸念されるのが外交分野だ。潜在的に多くの破滅が起きる可能性に直面する。ブッシュ政権が911からイラク戦争に向かったように、誤算は悲劇をもたらす。グローバルな指導者の地位は損なわれ、リベラルな民主主義は見習うべきモデルでなくなる。その無慈悲さは、アメリカの伝統的な敵である、ロシア、シリア、北朝鮮に自信を与える。

共和党が上下両院を支配し、トランプは約束したようにオバマケアthe Affordable Care Actを廃止する。しかし、これは重大な試練である。トランプは、医療保険を取り上げられた人々の反発をどうするのか。

トランプと共和党支配の議会はドッド=フランク金融規制を後退させるだろう。反トラストや環境保護、特に温暖化ガス排出規制に関しては後退する。

最後に、トランプは保守派の判事を最高裁に任命するだろう。

しかし、幸いなことに、トランプのとんでもない選挙戦中の主張は、実行されないだろう。メキシコ故郷に壁を築き、その費用をメキシコ人に支払わせることはできない。イスラム教徒の移民を国外追放することも、アメリカの原則を否定することになるし、いくら保守的な最高裁判事でも反対する。しかし、オバマのDACAは廃止するだろう。

同様に、トランプはNAFTA, NATO、ジュネーブ条約を破棄しないだろう。しかし、グローバルな秩序を損なうような決定がもたらす広範な結果に、直面するだろう。

アメリカは共和党が完全に議会支配し、気分にむらのある、ポピュリスト的な大統領の下で、生活しなければならない。議会がこの大統領の責任を厳しく問うように願う。

Project Syndicate NOV 10, 2016

A Majority of “Deplorables”?

JAN-WERNER MUELLER

NYT NOV. 10, 2016

America Elects a Bigot

Charles M. Blow

NYT NOV. 10, 2016

Erick Erickson: Eating Crow on Donald Trump

By ERICK-WOODS ERICKSON

NYT NOV. 10, 2016

Presidential Small Ball

Thomas B. Edsall

NYT NOV. 10, 2016

The Rage of White, Christian America

By ROBERT P. JONES

NYT NOV. 10, 2016

Are There Limits to Trump’s Power?

By ERIC POSNER

NYT NOV. 10, 2016

In China-U.S. Trade War, Trump Would Have Weapons

By KEITH BRADSHER

FP NOVEMBER 10, 2016

Trump Won Because Voters Are Ignorant, Literally

BY JASON BRENNAN

FP NOVEMBER 10, 2016

Trade Under Trump

BY PHIL LEVY

FP NOVEMBER 10, 2016

Trump and the Shibboleths

BY KORI SCHAKE

FT November 11, 2016

The right lesson to draw from Ronald Reagan

トランプはレーガンから何を学ぶのか? 財政赤字を無視せよ、ということか。

レーガンが当選したときも、強い懸念が存在した。その後の36年間で、アメリカの世界経済も大きく変化した。しかし、同じ問題があるとすれば、どちらの政策も大幅に財政赤字を増やすことだ。

トランプは、貿易や、連銀の金融緩和を激しく攻撃した。他方で、財政赤字は無視して、減税と防衛支出の増額、そしてインフラ投資の大幅な増大を唱えている。「われわれのハイウェイ、橋、トンネル、空港、学校、病院を再建する。」

しかし、財政赤字が急激に増えてインフレが高まり、債券利回りの増大が生じる。それは金融政策の引き締めを意味する。トランプが批判した金融緩和は、政府による金融政策決定への介入ではなく、こうした形で「正常化」するだろう。

この政策ミックスは、トランプが主張した高成長と矛盾する。さらに、イエレン議長の後退はもっと破壊的な結果につながるだろう。トランプはイエレンを温存し、もっと税収を意識した税制改革をするべきだ。

また、弱い財務長官を指名して、大統領府が財政政策を動かす、という発想は間違っている。市場の不安や疑念を払しょくするような、強い財務長官を示するべきだ。

FT November 11, 2016

The economic consequences of Mr Trump

Martin Wolf

トランプ政権はグローバリゼーションを逆転し、金融システムを不安定化し、アメリカの財政を悪化させて、ドルへの信頼を失わせる。

FT November 11, 2016

Prepare for a reversal of monetary rule under President Trump

Gillian Tett


l  中国との貿易戦争

Bloomberg NOV 10, 2016

Who Wins a Trade War? China

Michael Schuman

トランプは間違った中国を前提に、貿易を罰しようとしている。それは成功しないだろう。

不公平な貿易、低賃金で、アメリカから雇用を奪った、とトランプが攻撃しているような中国は、もはや存在しない。現在の中国はジーンズの縫製やiPhoneの組み立てに、それほど関心がない。中国でのコストが上昇して、多くの工場は他の発展途上国やアメリカに移転しつつある。

中国は世界の工場ではなく、ウォルマートや他のチェーンストアに安価な商品を並べるために生産しているのではない。むしろ自国のチャンピオン企業を育て、アメリカ企業とも世界市場で競争させたいと願っている。トランプの政策は、中国のこの方針を強化するだろう。

しかも中国市場は、スターバックスやボーイングなど、アメリカ企業にとって決定的に重要なものになっている。もし中国が、その市場、豊かな消費者をアメリカ企業に対して閉じれば、アメリカの雇用は失われる。

また、トランプの反貿易感情は、アメリカの力を失わせ、中国の経済定、政治的な影響力を強めるだろう。トランプが拒むTPPは、中国にアメリカの秩序を求める圧力になったはずだが、今や中国が独自の提案をするだろう。

China Daily 2016-11-11

What Trump means for China

Shen Dingli

The Guardian, Friday 11 November 2016

As the election haze clears, Trump’s China conundrum will become clear

Jonathan Fenby

アメリカを再び偉大な国にする、という主張と、中国が雇用を奪った、という主張とは、単純に結びつかない。

トランプ大統領は、賢明な助言を得て、選挙運動における中国攻撃と政策を切り離し、この世界第2の新興大国を扱い、世界で最も重要な2国間関係を管理するべきである。

鄧小平は、1970年代の末に、中国を再び偉大な国にするため、そして中国共産党を崩壊から救い出すために必要なことは経済成長だ、と理解した。2001年にWTOに加盟し、安価な輸出品を増やし、国際投資と技術を引き寄せた。

アメリカに指導された豊かな諸国は、安価な中国製品を輸入してインフレを抑え、消費者を喜ばせた。この取引は中国の貯蓄をアメリカの政府債券に投資させ、ますます信用による経済膨張を導いた。2008年、世界金融危機でそれは終わったが、オバマは中国問題の周囲で悩み、トランプがこれに決着をつける。

もはや単なる経済問題ではない。習近平は、鄧小平の助言を棄てて、太平洋の現在の秩序に対抗している。アメリカが軍事的な優位を維持しているとしても、中国は南シナ海で軍備を拡大しつつある。中国が1つの分野で圧力を受ければ、それを他の分野に拡大するだろう。関税によって衰退産業から中国製品を排除すれば、それは中国に進出しているアメリカ企業を脅かす。

同盟諸国に関するトランプの不快な主張により、東アジアにおける日本や韓国の不安は高まっている。トランプは新しい権力政治の文脈をどのように処理するつもりか。

YaleGlobal, 15 November 2016

China and the US: Two Visions, One Collaboration?

Marc Grossman


l  自由世界の指導者

The Guardian, Friday 11 November 2016

Populists are out to divide us. They must be stopped

Timothy Garton Ash

今や、自由世界の指導者、という言葉は、ドイツのメルケル首相を意味するようになった。

自分は人民の声を直接に断弁している、というのがポピュリストの特徴だ。トランプのセリフ、“I am your voice”はポピュリストを代表する。しかし、彼らの代弁する「人民」とは、ごく一部でしかない。そして、それを理由に民主的な価値や制度を否定する。

ポピュリズムに広がりを逆転するには、勇気、決断、一貫性、そして新しい政治的言語と政策が必要だ。

FT November 12, 2016

Accepting the result does not mean staying calm

Simon Schama


l  トランプ改革とドル価値

Bloomberg NOV 11, 2016

Time to Save the World, Mr. Trump

Narayana Kocherlakota

Project Syndicate NOV 11, 2016

Can Global Capitalism Be Saved?

ALEXANDER FRIEDMAN

Project Syndicate NOV 13, 2016

What America’s Economy Needs from Trump

JOSEPH E. STIGLITZ

現在の経済システムは国民の大部分に成果をもたらさない、破たんしたシステムである。多くの、特に白人男性労働者が、成長から取り残され、トランプに投票した。

技術革新が加速して、世界中で製造業の雇用が減少している。トランプが何をしても、高い給与が得られる製造業の雇用はアメリカに戻ってこない。もしトランプが不平等を減らし、社会のためにルールを改善したい、と願うなら、いくつかの要点を示せるだろう。

起業の第一の使命は長期の成長を実現する投資を行うことだ。トランプもすでに主張しているように、インフラや研究開発に投資を促すべきである。

包括的成長モデルのためには、最低賃金の引き上げ、組合の権利・交渉力の強化、CEO給与の制限や金融化の抑制が必要だ。

その他、さまざまな方法で、レーガン時代の深刻な失敗を是正するべきである。

FT November 14, 2016

The end of the era of central bank independence

Wolfgang Münchau

FT November 15, 2016

How far will the pendulum swing against globalisation?

Lorenzo Bini Smaghi

FT November 15, 2016

Three ways to make sense of the dollar in uncertain times

Barry Eichengreen

トランプの当選でドル価値はどうなるのか? 伝説的な投資家Bernard Baruchの株価に関する知恵に頼るしかない。それは、将来も変動する、ということだ。アメリカ経済の見通しが不確実でなければ、ドル価値の見通しもそれほど不確実ではない。

さらに、ドルのシナリオを考えるために、3つの視点が有効だ。第1は、アメリカの財政と金融政策だ。より拡大的な財政政策が採用されるであろう、ということはわかっている。それが何であれ、成長とインフレが加速する。そして連銀は遅かれ早かれ金利を引き上げる。レーガン時代の知見によれば、財政支出拡大と金融引き締めはドル高をもたらすだろう。投資家たちがドルを買うのは当然だ。

しかし、われわれはまた、投資家たちが債務の持続可能性も考えることも知っている。財源のない、巨額の減税は、彼らの疑念を強める。トランプが債務の条件を無視したコメントをしているので、財政の持続可能性を損なうことは財務省証券に投資するとき問題になる。

マクロ政策の組み合わせは短期的なドル高、財政的な持続可能性は長期的なドル安を意味する。もし市場が近視眼的なら、ドル高が続くだろう。しかし、投資家たちが将来を観れば、ドル高は比較的短期で終わる。

2の視点は、新しい政権の保護主義政策だ。課税もしくは他の手段で輸入を抑えるなら、アメリカの貿易収支は改善する。貿易赤字の減少はドル高を促す。輸入価格の上昇はいくらか物価を挙げるから、やはり金利の引き上げにつながる。そしてドル建て資産も魅力が増す。

しかし、同じ政策は他国による報復を招くリスクがあり、まったく逆の効果(貿易赤字の拡大)を持つ。また、新しい関税はグローバル・サプライ・チェーンを乱し、アメリカの生産性を損なうだろう。その結果、成長が減速すれば、アメリカへの投資やドルの魅力は減少する。新政権の通商政策は、短期的なドル高、長期的なドル安を意味する。

3に、避難所としてのドル高がある。ドルは不確実性が高まるとき強くなる。その問題の源がアメリカであっても、ドルの価値は高まる。アメリカ財務省証券の市場は世界で最も流動性の高い金融市場である。危機において投資家たちは、流動性を何よりも重視する。それゆえ、トランプが権力を握れば、不確実性が高まり、ドル高になると考える者がいる。

この見解は、避難所のより深い意味を理解していない。それは、深い、流動的な市場だけではないのだ。通貨を発行する中央銀行の政策や、それを支える政府の姿勢が、同様に、健全で安定していなければならない。ある通貨が避難所になるには、その国が地政学的にも安全でなければならない。それは軍事的な強さと、強力な同盟関係を意味する。

トランプが中国との緊張を高め、海外への関与を取りやめ、NATOを無視するなら、ドルの運命は大きく変わるだろう。

Bloomberg NOV 17, 2016

A Primer on the Dollar's Surge

Mohamed A. El-Erian

The Guardian, Thursday 17 November 2016

Goodbye, American neoliberalism. A new era is here

Cornel West

Project Syndicate NOV 17, 2016

Globalization’s Last Gasp

BARRY EICHENGREEN

グローバリゼーションは終わったのか? 世界貿易の成長率はほとんどゼロになっている。しかし、その原因は世界経済の成長率が下がったからだ。逆ではない。だから、グローバリゼーションが終わったとは言えない。

成長が減速した、のは、あるいは、長期停滞になったのは、投資が減っているからだ。貿易はますます投資によって起きているので、その影響は大きい。成長が高まるには、中国の奇跡は終わり、グローバル・サプライ・チェーンの拡大にも限界があるから、金融危機後の問題と政策の不確実さを緩和するべきだ。


l  トランプ政権の始動

FT November 11, 2016

The right lesson to draw from Ronald Reagan

Project Syndicate NOV 11, 2016

A New-Model Trump?

LUCY P. MARCUS

トランプが選挙戦で広めたメッセージは国民を分断し、危険なものだった。一刻も早く、彼はその方針を改め、責任ある指導者に変わらねばならない。暴力には強く反対し、移民とマイノリティーを守る積極的な措置を取ることから始めるのが良いだろう。

Project Syndicate NOV 11, 2016

The Taming of Trump

NOURIEL ROUBINI

トランプは不動産取引で成功したビジネスマンであり、イデオローグではなくプラグマティストだ。選挙の戦術としてはポピュリストであったが、それは必ずしも彼の信念ではない。

トランプの人選を観ても、スタッフたちの考えは極端なポピュリストの主張を詮索に反映するのを避けるだろう。共和党員やビジネス界の指導者たちもそれを望む。トランプは、議会によっても正統的な政策手法に引き戻される。アメリカの政治システムは権力を分割してチェックしている。

しかし、市場こそがトランプの最大の制約要因だ。もし彼が極端なポピュリスト政策を追求すれば、市場の反応による迅速な処罰を受けるだろう。株価とドル価値が急落し、投資家はアメリカ財務省債券に逃避し、金価格が急騰する。しかし、もし無害なポピュリスト政策に、もっとビジネスに友好的な主流派の政策を組み合わせれば、市場の暴落は避けられる。もはや選挙に勝利したのだから、安全策よりポピュリズムを優先する理由はない。

もちろん、プラグマティストのトランプによる政策は、イデオロギー的に混乱し、成長にも良いとは言えない。しかし、彼の選挙中の約束に比べて、投資家や世界にとってはるかに受け入れやすいものだ。

NYT NOV. 11, 2016

The View From Trump Tower

David Brooks

NYT NOV. 11, 2016

Thoughts for the Horrified

Paul Krugman

SPIEGEL ONLINE 11/11/2016

Populist Revolution

The Unpredictable Presidency of Donald Trump

By Gordon Repinski and Holger Stark

The Guardian, Saturday 12 November 2016

Trump’s world is too dark – even for Leonard Cohen

Jonathan Freedland

NYT NOV. 12, 2016

What Whiteness Means in the Trump Era

By NELL IRVIN PAINTER

FP NOVEMBER 14, 2016

Could There Be a Peace of Trumphalia?

BY STEPHEN M. WALT

トランプはスマートな目標に向けて政府を動かすか? 「スマート」とは、彼自身の巨大なエゴと、アメリカの国益、そして歴史的なレガシーとを、一致させることを意味する。

選挙戦でトランプが述べたもっともなことは、アメリカの同盟諸国はただ乗りしている、際限のない「国家再建」はばかげている、アメリカの外交政策はアメリカ最優先、国益のために行われる、というものだ。しかし、彼は同時に、分裂をもたらす、無思慮で、危険な無駄口を多く吐いた。

もし今、私が彼に助言するとしたら、シンプルな外交原理に依拠して問題を解決するように勧めるだろう。しかし、そのような原理を見出すことは容易でない。

なぜならトランプは、政治的制約、経済的制約、さらに現在の国際システムによる制約を受けるからだ。アメリカが新しい大戦略を示すのは、多くの専門家から助言を受けても、素人にはむつかしすぎる。

国際秩序に破壊的な影響を与えず、トランプの考えを反映するような原理はあるのか? 私はあると思う。ワシントンの専門家たちは無視しており、嫌うかもしれないが、それは“Westphalian sovereignty”である。国家は、その領土と国民に責任を持つ。他国はそれに干渉してはならない。トランプのアメリカ第1にも合致する。この考え方は伝統的なものであり、今も国際法の重要な基礎である。

あなたの不満はわかっている。クリミアはどうなんだ? 国家の主権と領土の一体性を守るという約束はどうなるのか? しかし第45代大統領になるビジネスマンは答えるだろう。1.ウクライナはアメリカの同盟国ではない。2.ウクライナを守ると約束したことはない。3.混乱のすべてはオバマの失策だ。

クリミアの分割は、オバマたちObama, Clinton, and Kerryが、EUや国務次官Victoria Nulandの行動を十分に抑制せず、むしろウクライナをロシアの軌道から外して西側に移すとプーチンを刺激したことで起きた。トランプは任期中に同じようなことは起きないと約束できるし、ロシアの主権を尊重し、彼らに屈辱を与えないだろう。

FP NOVEMBER 14, 2016

Trump Appointments Send an Ominous Signal

BY DAVID ROTHKOPF

長い、異常な1週間だった。火曜の夜から、スローモーションの悪夢が始まった。そのあと、日曜の夜、トランプは政権移行チームを発表したが、再び明らかになったのは、これが普通の事態ではない、ということだ。次期大統領は、アメリカ合衆国に対する深刻な脅威である。

選挙後も多くの暴力事件やヘイト・スピーチが起きている。しかし、次期大統領の陣営からは、こうした攻撃を非難する声明は一切出ていない。それはおそらく、彼がその支持者であるオルタナ右翼alt-rightがやったと知っているからであろう。トランプがしたことは、Steve Bannonをホワイトハウスの主任ストラテジストに指名したことだ。バノンは、妻に対する暴力の告発を受けた、元ゴールドマンサックスの金融マン、そしてオルタナ右翼の神官の1人である。

トランプが首席補佐官としてReince Priebusを、主任ストラテジストにSteve Bannonを指名したことは、何を意味するのか?

それは、大統領の陰で真の権力を握る者が、イスラモフォビア(イスラム教への憎しみ)、反ユダヤ主義、女性差別主義、アンチ・ゲイの、アメリカにおけるヘイト・メディアの魔法使いである、ということだ。

われわれはアメリカ安全保障政策の新しい時代に入りつつある。ここでは最大の脅威を、この国の首都の、最も神聖な建物の中に見出す。確かに、われわれの海岸の向こうに危険な世界はある。しかしトランプとその仲間は、遠くにあった危険をわれわれの恐怖にしただけでなく、自国のホワイトハウスの中にさらに大きな危険をもたらした。

Bloomberg NOV 14, 2016

Trump’s Tangled Web of Family and Business Ties

Timothy L. O'Brien

Bloomberg NOV 14, 2016

Trump's Anti-Intelligentsia Revolution

Leonid Bershidsky

NYT NOV. 15, 2016

What a Trump America Can Learn from a Berlusconi Italy

Beppe Severgnini


後半へ続く)