IPEの果樹園2016

今週のReview

11/14-19

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高等法院によるBrexit制限 ・・・アメリカ政治の変質 ・・・新富裕層と貧困層 ・・・アメリカの財政政策 ・・・香港への介入 ・・・安倍・プーチンの外交ペア・ダンス ・・・ヒラリー・クリントンの敗北 ・・・トランプと国際秩序の終わり

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  高等法院によるBrexit制限

NYT NOV. 3, 2016

Parliament’s Power Over Brexit

By THE EDITORIAL BOARD

FT November 4, 2016

The High Court ruling undermines Theresa May’s Brexit approach

David Allen Green

高等法院の3人の判事が、イギリス首相、Theresa MayBrexit政策に大きな障害を設けた。

先月、保守党大会でメイ首相が、来年3月までのEU離脱手続き開始、を表明したのは、彼女が決めることだ、と考えたからだ。しかし、昨日、高等法院はそう考えないと表明した。その判断を上訴によって翻さない限り、議会の承認を得ない国王大権の行使による離脱は違法になる。

保守党は下院でわずかに多数を制するが、首相と政府は議会全体をコントロールできない。すくなくとも、もはや首相はBrexitの行方を決定する力を持たなくなった。

しかし、裁定によってBrexitが挫折したわけではない。しかしメイ首相のアプローチは挫折した。彼女は、発表さえすれば、自分の意思でBrexitが実現する、と考えていた。それは何も複雑なことではなく、彼女は首相であるから、“Brexit means Brexit”と叫ぶだけで十分だ、と。

高等法院の裁定の中身も、それを示した判事たちの資格the Lord Chief Justice and the Master of the Rollsも、非常に強力である。3人目の判事はこの分野の専門家である。その判断は最高裁でも翻りそうにない。

鋭敏な政府なら、そのように危険な、一本だけのアプローチを慌てて採用しないだろう。慎重な政府なら、議会に簡潔な法案を審議させるだろう。そうすれば、3月までに、という期限は守れる。しかし、メイ首相は声高に期限を設定して、自ら政策を難しくした。

政府は高等法院の最低理由をじっくり考えるべきだ。その中心にあるのは、EU離脱がUK市民の権利に影響することを考慮した、ということだ。法廷はまさに、そのような権利の抹消は単なる行政府の執行措置ではない、と判断した。この複雑で、結び合わさった問題について、議会が精査するべきだ。憲法の示す代表権と民主主義の要素である。

賢明な離脱派は、EUからの離脱はそれほど単純なものではない、とわかっている。主権を委ねられた議会が決めるべきだ。しかし、他の離脱派は議会が加わることを好まない。国民投票が決めたBrexitを奪われるかもしれない。

政府は高等法院の最低をうまく利用できなかった。その判断を非難しただけだ。ここでも政府は現実の壁にぶつかった。他方、残留派が有利とも言えない。議会が国民投票を直接に否定する理由もない。

結局、政府はより広範で、議会にも協力を求める、オープンな過程でBrexitを実現するしかない。そこには多くの障害や問題が存在し、何もないかのように振る舞うことは無意味である。

FT November 4, 2016

Markets prepare for a vote that makes Brexit look basic

Gillian Tett

FT November 5, 2016

The Article 50 Brexit furore and Britain’s glorious constitution

Bruce Anderson

FT NOVEMBER 5, 2016

Building bridges with business is a priority for Number 10

Richard Lambert

FT November 6, 2016

Theresa May pitches for a ‘long’ Brexit

Philip Stephens

彼女はもっと長い離脱過程を考えた方がよい。ハードBrexitより、ロングBrexitである。

FT November 7, 2016

Brexit raises the stakes for the EU’s 27 remaining members

Tony Barber

Project Syndicate NOV 7, 2016

Triangulating Brexit

DANIEL GROS

イギリスはBrexitの交渉で、3つの目標にバランスを求められる。すなわち、移入民の規制。単一市場へのアクセス、金融サービスのパスポート。

移民規制を行いながら、単一市場に参加できる、というのは離脱派の幻想だ。ドイツのショイブレ蔵相は、ボリス・ジョンソンにわざわざリスボン条約を渡した。条約にある通り、これら2つのことは切り離せない、という意味だ。

イギリスにとって幸いなことに、すでにEUは自由貿易の体制に近く、単一市場を離脱しても高い関税は強いられない。しかし、EU諸国の1人当たり所得が大きく異なるため、賃金には大きな差がある。移民労働者の禁止はイギリス産業に不利である。また、金融サービスのパスポートは、イギリスが特に重視する問題である。

金融サービスには、その自由化に矛盾した関心があり、プラスにもマイナスにも働く。双方の共通利益で動くことが望ましいが、重商主義的な姿勢が交渉を支配するかもしれない。

Project Syndicate NOV 8, 2016

Brexit’s Doom Spirals

HAROLD JAMES

6月の国民投票の後、最初の経済効果は無視できるようなもので、いくらかプラスにさえなった。経済予測は上方修正された。しかし、ポンドが急落して、政府債務の利回りは上昇し、実際の離脱過程が高度に破滅的なものになろうとしている。

離脱が決まったからには、UKは短期の調整コスト、長期のマイナス効果を最小限にする離脱過程を目指すだろう。他方、EUは、経済コストの最小化だけでなく、主要加盟国の離脱によるEU評価の悪化を抑えようとする。

理想的には、紛争の参加者たちが冷静かつ合理的に長期の利益を考え、それに従って行動するべきだろう。しかし、残念ながら、彼らはそうしない。人々が離婚するときと同じである。

3つの潜在的な悪化メカニズムがある。第1に、離脱する国が増えるというEUの政治的、構造的なリスクだ。メルケルは、イギリスを特に不利に扱う意図はないと表明したが、イギリスの交渉担当者たちは、EUの強い動機を知っているから、交渉の条件がイギリスをできるだけ不利にするに違いないと考えている。それに対して、UKの離脱がEUに与えるインパクトを大きくして対抗しようとする。

2に、EU離脱後のイギリスが、ロンドンをさらにグローバルな金融センターとして成長させることを考え、規制緩和や税率の引き下げ、優遇措置を取ることだ。ところがメイは、キャメロンから政権を継ぐとき、肥大化した金融資本主義を批判した。政府自身が、最も効果的な離脱の戦略を分裂させている。

3に、移民の流入を規制するイギリス政府は、それが外国人労働力に依存するイギリス経済を破壊する分、一層激しくEUを非難することになる。他方、EUは金融資本主義を否定して、大規模な国家主導の投資プロジェクトによる成長戦略に向かうかもしれない。

イギリスのグローバル金融センターを、ヨーロッパの実体経済から切り離すことは、すべての者を苦しめ、多くの離婚と同じように、双方が激しく非難し合う。

Bloomberg NOV 8, 2016

Britain's Empire Strikes Back

Mihir Sharma

メイが最初にヨーロッパ外で2国間の首脳会談を行うのがインド首相Narendra Modiであることは、驚くことではないだろう。

また、メイが帰りの飛行機で、失望し、叱責されたように感じたことも、驚くことではない。Brexit後のイギリスは、自国に有利な条件を得られるほどの経済力を、もはや持ちえないのだ、ということを、痛ましいほど示したからだ。イギリスが経済に明確な見通しを示さない限り、誰もイギリスに投資するつもりはない。

離脱派の抱く、東洋との「特別な関係」は、妄想でしかない。

もしイギリスが大西洋のシンガポールを目指すなら、シンガポールのように、アイデア、貿易、国際投資、そして、移民にも開放することが必要だ。それが理解できないなら、イギリスはヨーロッパの排水路になるとしても、自分たちの責任だ。


l  アメリカ政治の変質

The Guardian, Friday 4 November 2016

If Donald Trump wins, it’ll be a new age of darkness

Jonathan Freedland

トランプ大統領が誕生したら、アメリカだけでなく世界中で、人々の生活が変わるだろう。

気候変動は中国のでっち上げだ、と言い、テロ捜査では拷問してもいいし、その家族を殺してもいい、と考える。サウジアラビアは核武装し、核の「壊滅的」パワーに魅了された、と言い、なぜアメリカはそれを使用しないのか、と繰り返し述べた。「私は戦争が好きだ」という男。ウラジミール・プーチンを称賛し、NATOを軽視し、その加盟国が攻撃されてもアメリカは防衛しない、と言う。それは、バルチック諸国を攻撃してもいい、とモスクワを招待したに等しい。アメリカに住まない者は誰も守らない。

アメリカとイギリスは、ある程度、同じ空気を吸っている。トランプ大統領が誕生すれば、イギリスの空気も変わるだろう。移民を疑い、イスラム教徒を嫌い、壁を築いて、社会的な進歩を逆転させる。8年間、外国人排斥や孤立主義に向かう流れに反対して、オバマは警告してきた。トランプになれば、白人優先主義の運動家たちは、最強のメガホンを手にするだろう。人種差別や狂信的な振る舞いがいたるところで活性化し、運動を起こす。

同じことは、トランプが民主主義の基本的要素に対して示した侮蔑についても言える。共和党も含めて、対立候補たちに浴びせたひどい偏見は、ファシズムに似たものだった。自由な報道を抑え、彼を批判する新聞社を罰すると主張した。アメリカの将軍たちを解任し、自分の仲間に替えると示唆した。反対者を投獄し、銃規制を求めるクリントンが襲撃されるようにウィンクした。選挙結果を受け入れないと述べた。そのすべてが、リベラルな民主主義の礎石を打ち壊すものだ。

文明とは壊れやすいものだ。われわれを抑制するバランスと規制が微妙に組み合わされている。それらは何世紀もかかって築かれたが、破壊するのは一瞬だ。われわれが理解している以上に、文明の構築には善意、信頼、協力が必要である。それらが失われれば、闇の世界が始まる。

ナショナルな新聞は、Brexitの手続きに反対した判事たちを「人民の敵」と呼び、その証拠として、判事の1人が「ゲイであると公表した」人物であると指摘した。だから、彼らの裁定はいかさまであり、違法である、と。

これがトランプ主義だ。トランプも彼に従わない判事を非難した。そのウィルスはアメリカを超えて広がるだろう。アメリカ人がこの悪夢を止めるしかない。

SPIEGEL ONLINE 11/04/2016

Clinton Versus Trump

The Script of a Real-Life Tragedy

By SPIEGEL Staff

NYT NOV. 4, 2016

The Banality of Change

David Brooks

NYT NOV. 4, 2016

Still Feeling the Bern

Roger Cohen

NYT NOV. 4, 2016

Who Broke Politics?

Paul Krugman

NYT NOV. 4, 2016

The Post-Truth Presidency

Timothy Egan

選挙の日が来ても、有権者たちは2つの全く異なる集会を開いて、自分たちの快適なバブルの中で開票作業を観るのだろう。そして、大きな嘘の中から抜け出すことは不可能だ。この選挙運動では、事実をチェックすることさえ疑わしい行為とされた。

アメリカ人の4人に1人が、他用は地球の周りをまわっている、と信じている。ドナルド・トランプが主張した、アメリカの殺人事件は過去45年間で最悪だ、と、どれほど多くの人が信じているだろうか。「新聞はそのことを報じない。」とトランプは言った。それはそうだ。それは真実ではないからだ。殺人事件の発生率は、ピークであった1980年の半分以下であり、1965年から2009年までのすべての率に比べて低い。

数日前に、トランプは要った。もしヒラリー・クリントンが当選したら、アメリカ人口は1週間で3倍になる、と。65000万人がアメリカに流れ込む。つまり、南米、中米、カナダの人口のすべてだ。

FP NOVEMBER 4, 2016

Will America’s Good Name Survive the 2016 Election?

BY STEPHEN M. WALT

来週、ヒラリー・クリントンが当選して、世界は安どのため息をつくのか? そして他のことを見失う。

スウェーデン、ドイツ、フランス、イギリス、日本、オーストラリアの人々の80%が、トランプの外交政策を扱う能力は信用できない、と考えている。逆に、トランプが敗北すれば、イスラム国家やプーチン、習近平は残念だろう。すでに共和党の候補者争いから、トランプは「醜いアメリカ人」のステレオタイプになった。

クリントンが当選した安ど感はすぐに失われる。トランプの立候補とアメリカ政治は、すでに海外におけるアメリカのイメージを大きく損なった。選挙戦そのものがアメリカ民主主義のマイナスの宣伝になった。しかも、これは冷戦後の外交政策に関する国民投票でもある。クリントンが当選すれば、これまでの外交を引き継ぐだろう。リベラルなヘゲモニーを強調し、アメリカの「指導力」を確認する。しかし、トランプだけでなく、サンダースや共和党候補者たちの支持者の多くがこれに反対していた。

アメリカ人の多くが、トランプのイスラム教徒やメキシコ人、同盟諸国に関するゆがんだ理解を支持した。アメリカの2大政党制が破たんしていることも示した。議会も機能していない。予算案も、通商法案も通過せず、最高裁判事に関する聴聞も行わない。軍事力の行使を支持するかどうかも採決しない。諜報機関の活動も監督しない。重要な他の機能を果たしていないのだ。法律の制定より、選挙資金を集めることに熱心だ。

こんな政治システムを、他国が見習う手本だ、と主張するつもりか?

Bloomberg NOV 4, 2016

Clinton Must Begin Waging Her Next War

Francis Wilkinson

NYT NOV. 4, 2016

Donald Trump’s Denial of Economic Reality

By THE EDITORIAL BOARD

NYT NOV. 4, 2016

Beyond Lying: Donald Trump’s Authoritarian Reality

Jason Stanley

NYT NOV. 4, 2016

A New Movement in Liberal Economics That Could Shape Hillary Clinton’s Agenda

By NEIL IRWIN

NYT NOV. 5, 2016

Is There Life After Trump?

Peter Wehner

NYT NOV. 5, 2016

Imagining America on Nov. 9

By THE EDITORIAL BOARD

アメリカ合衆国はトランプ以上にひどいものを経験してきた。政治的危機、腐敗、海外での戦争、国内の流血事件。しかし、それでもなお、水曜日の朝にトランプが大統領として選ばれたときに広がる破滅を想像するのは容易でない。

NYT NOV. 5, 2016

Why This Election Terrifies Me

Frank Bruni

FT November 6, 2016

Is Donald Trump a fascist?

Gideon Rachman

ある政治家をファシストと呼ぶことに、ふつう、あまり意味はない。この言葉は説明する力を失ってしまったからだ。

しかし、なお、アメリカ大統領選挙で、ドナルド・トランプをファシストと呼ぶ評論家たちがいる。Andrew Sullivanは雑誌the Atlanticで、リベラルな民主主義を可能にする重要な規範を破壊したことに加えて、政敵の投獄という脅迫、独立した司法の否定、選挙結果への不服従、拷問の提唱、自由な報道機関へのモッブによる襲撃、陰謀論、イスラム教徒のデータ登録、など、長いリストを挙げて、これをファシストと呼ぶほかに適当な言葉が無い、と書いた。

Robert Kaganは、異なる理由で同じ結論に至った。Kaganによれば、ファシズムを定義する特別な政策はない。そうではなく、彼らは強権指導者のカルト集団である。イタリアのファシズム、ナチズム、フランコイズム、それらのイデオロギーは混乱している。彼らに共通するのは、強い指導者、総統への敬意である。その人物に民族の運命を託したのだ。問題が何であれ、彼は解決する、と。実際、トランプはこれによく似ている。共和党大会における演説で、彼はアメリカを衰微させたと考えられる諸問題をすべて挙げた。そして、「私だけが解決できる。」と結んだ。

Kaganはまた、トランプが示す「ファシスト」の性格は、もし火曜日に勝利を得た場合、大きく増大するだろう、と主張する。「彼が勝利すれば、彼の軍団は国民の多数派になり、そのパワーは大衆が服従するだけでなく、アメリカ大統領制が持つすべてのパワーになるからだ。司法省、FBICIA、軍に命令できる。だれが彼に反対できるだろうか?

大学教授で、元労働長官のRobert Reichも、トランプを「21世紀のアメリカ的ファシスト」と呼んだ。強い指導力を好み、ナショナリズムと暴力を肯定する。「彼の言うことにはまったく意味がない。それはスタイルである。」

雑誌The Economistは、強い指導者へのカルトだけでファシストと呼ぶのは不十分だ、と言う。若者を惹きつけた1930年代のファシズムと違って、トランプの支持者には高齢層が多い。未来や近代的なものへの嗜好ではなく、1950年代の再現を試みている。

ファシズムに関する学会の権威と言えば、コロンビア大学のRobert Paxtonであろう。トランプがまだ指名される前から、Paxtonは指摘した。「彼のスタイルは、ファシストと同調する。暴力を奨励し、内部の敵を攻撃する、システムは腐敗しており、それを解決できるのはアウトサイダーだ、と言う。アメリカを偉大にする、というのは、ドイツを偉大にする、とファシストが述べたことだ。」

トランプをソーシャルメディアの産物と議論する者も多い。Paxtonは、トランプが伝統的なファシストの手法にも習熟している、と言う。それは大衆を歓喜させることだ。その群衆の中で、自分を代表して声をあげる者は誰もいない、と怒る多くの群衆と親密な関係を築く。ムッソリーニのように、トランプはそれがうまい。ただし、トランプは自分の軍隊を持っていない。

たとえトランプが敗北しても、アメリカ政治に起きた変化は消え去るわけではない。New York Times に載ったVolker Ullrichのヒトラー研究に関して述べられたことが、この点に関係する。「この本で最も驚くのは、ヒトラーの存在ではなく、ヒトラーをひそかに待望する者がこれほど多くいた、ということだ。」

NYT NOV. 6, 2016

On Election Eve, a Brexistential Dread

Simon Critchley

Bloomberg NOV 6, 2016

Dismal Campaign Presages a Crisis of Government

Albert R. Hunt

FT November 7, 2016

American democracy’s gravest trial

Edward Luce

アメリカの歴史上、この火曜日の選挙は、1862年から1864年に行われた選挙と内戦に似ている。トランプが勝とうが負けようが、アメリカの民主主義は動揺している。

SPIEGEL ONLINE 11/07/2016

Brutal Historical Logic

Democracy at a Dead-End in America

An Essay by Georg Diez

Project Syndicate NOV 7, 2016

Donald Trump and a World of Distrust

JANINE R. WEDEL

市民の制度に関する国民の不信感、政府、立法、裁判所、メディア、など。こうした制度への不信こそがトランプの登場につながった。

危機は新しいものではない。2007年。国連のフォーラムに向けた委員会は、工業化された、民主主義諸国で、過去40年間に広がった政府への不信を問題にしていた。東欧では、共産主義体制が崩壊した後、人々が同様の不信感を抱いていた。

世紀転換期のアメリカ世代millennials (those born between 1982 and 2004)は、自分たちをアウトサイダーとみなし、トランプのような指導者を好む傾向がある。彼らはエリートを嫌い、システムに反対する。ヨーロッパで、イギリスで、ドイツで、フランスでも、同じようなことが起きている。

この数十年間に起きた深刻な経済・技術変化、すなわち、民営化、規制緩和、デジタル化、金融化、これらがエリートのパワーと強め、シンクタンクや慈善団体を介して政治的影響力を行使した。メディア、選挙資金、自分たちの利益を実現する「広報」を強化した。この種の「新しい腐敗」は技術的に合法であり、しかも、事実上の透明性がない。公共の信頼を高度に侵食する性質がある。

さらに不平等が拡大し、Facebook and Twitterが集団内の偏見を強めた。そして、事実までも歪めた。デジタル世代はますます孤立し、それは皮肉なことに、共産主義体制が創り出したものと、それほど違わない。

ロシアのプーチン大統領のように、トランプは虚実を利用し、怒りを利用し、懐古とナショナリズムを吸収する。移民のような弱い立場の人々をスケープゴートにする。ゲイやマイノリティーを公式の標的にする。理想を失ったアメリカでは、すでに周辺化されている集団がいじめられ、悪魔のように攻撃される。

信頼こそが繁栄する社会の基礎である。

NYT NOV. 7, 2016

Vote for Your Health and for Your Life

Charles M. Blow

FP NOVEMBER 7, 2016

The United States Needs a Post-Election Peace Plan

BY BRIAN KLAAS

近代の歴史で初めて、アメリカ合衆国が選挙後の和解プランを必要とするだろう。それは、典型的に、深刻な分裂状態にある紛争後の諸国が必要としたものだ。

なぜなら選挙後も、数百万を超える人々が、失望するだけでなく、選挙結果を受け入れようとしないからだ。

幸いにも、ほとんどのアメリカ人は政治的暴力を認めない。しかし、一部の集団は、「問題のある市民は政府と一緒に、数発の弾丸で狙うことで解決できるだろう」といった主張に同意している。

もしクリントン大統領が誕生すれば、彼女は2重の問題に直面する。彼女を悪魔とみなす人々の政治的暴力にさらされるリスクがある。同時に、すべてのアメリカ人の大統領として、近代アメリカ史上、最も人種差別的で、国民を分断した政治家を、堂々と支持した何千万もの人々を取り込む必要がある。逆に、トランプが大統領になれば、人種差別や女性蔑視を自慢するような人物に反乱を起こす集団からも勝利を認められねばならない。

ペンシルヴェニア通りの新大統領は和平案を求めている。私はこれまで、発展途上諸国(from Madagascar to Thailand, from Tunisia to Côte d’Ivoire)における不正選挙と政治的暴力を研究してきたが、まさかアメリカでその知識を利用できるとは思わなかった。選挙結果を受け入れず、支持者に暴力を行使させたコートジボアールの大統領候補から、また、イスラム体制に支配される不安を払拭するため、選挙に勝利した後、敗北した側に参加するよう呼びかけたチュニジアの「アラブの春」から、アメリカは学ぶべきだ。

時間を無駄にしてはいけない。

FP NOVEMBER 7, 2016

For Kenyans Who Survived Post-Election Violence, U.S. Race Feels Like Déjà Vu

BY TY MCCORMICK

FP NOVEMBER 7, 2016

American Democracy Is Dying, and This Election Isn’t Enough to Fix It

BY DARON ACEMOGLU

James Robinsonと私は、Why Nations Failの中で、包括的諸制度が権力の維持に重要だ、と主張した。それらがあることで、権力機構はチェック・アンド・バランスを内包し、一部の者がハイジャックできないように、開放性を保つ。トランプは、システムの包括性が依存する2つの政治的規範を破壊するよう挑発している。法律を軽視し、強者が弱者をいじめることを楽しむ。そうすることで、政治は開放性を失うのだ。

ドナルド・トランプは、われわれの政治システムにとって重大な試練である。われわれはこれを生き延びることができるか?

歴史は、ある時まで頑健に見えた諸制度が崩壊した、という多数の例に満ちている。包括的であったヴェネチアの共和政は、14世紀の初め、裕福な商人層によって支配され、重要な決定について他の発言を受け入れなくなった。ローマの共和政は、BC1世紀の一連の内戦で自己崩壊したが、それは共和制の一部が政治規範を尊重しなくなったからだ。

われわれの諸問題は、その根源に、繁栄を分かち合うことができない、政治システムがこの問題を議論せず、取り組む意志がない、ということがある。技術革新や貿易から得た利益を広く分かち合う。より強固で、合理的な、社会保障システムを築く。課税と給付のシステムを改革する。零細ビジネスを苦しめる規制を撤廃する。教育システムを改善する。インフラに投資する。そして、たとえば都市中心部の暴力や、刑務所の超過収容など、社会の最も不利な地位にある人々が直面している問題を解決する。

それらがアメリカの分断を深め、トランプを生んだ。エリートたちの闘いは、火曜日に終わるのではない。

China Daily 2016-11-07

Presidential poll a test for US democracy

By Zhao Mei

SPIEGEL ONLINE 11/07/2016

America Votes

One Mistake Too Many

An Editorial by Klaus Brinkbäumer

NYT NOV. 8, 2016

Let’s Not Do This Again

David Brooks

NYT NOV. 8, 2016

After These Days of Rage

By ALAN JOHNSON

NYT NOV. 8, 2016

After the Election, a Nation Tinged With Racial Hostility

Eduardo Porter

FP NOVEMBER 8, 2016

If Clinton Wins, Her Hawkish Wings Will Be Clipped

BY DAN DE LUCE, MOLLY O’TOOLE

FP NOVEMBER 8, 2016

What Kind of President Will Hillary Clinton Be?

BY JAMES TRAUB

ヒラリー・クリントンは、ジョージ・W・ブッシュやバラク・オバマのような魔法を信じていない。事実の力によって大統領候補になった。アメリカには多くの魔術的な大統領がいた。おそらく、そうではない時代が来たのだ。

Robert Kaganは、彼女を「民主党のネオコン」と呼んだ。New York TimesのコラムニストRoss Douthatは、「ワシントン・コンセンサスの生まれ変わり」と呼んだ。イラン、ロシア、イスラエル、アラブの春、どんな時でも彼女は、オバマを囲む理想主義的な若者たちと違い、懐疑的なリアリストであった。私は昨年秋のForeign Policyで、彼女のことを、アメリカのパワーに対する古風な信奉者である、と主張した。誇大なレトリックを信用せず、荒々しい政治の現実に足を置き、小さな一歩を重視する、慎重な人物である、と。

大国間競争が再現したときオバマは驚いた。敵対する国も相互利益を認めて宥和できる、という彼の本能的な革新が裏切られたからだ。しかし、クリントンは違った。

クリントン大統領が直面する世界は変化に満ちている。ヨーロッパは弱体で、中東は戦火に包まれ、2つの専制的な大国、ロシアと中国が、アメリカの指導する世界秩序にますます挑戦する。問題を解決できると信じる大統領でも、これ以上の条件を望むのはむつかしいだろう。

ヒラリー・クリントンは優等生で、愚かな間違いは冒さないだろう。すべての同盟者に関係を再確認し、南シナ海では中国の冒険主義をけん制するが、ナショナリズムを刺激することはない。ネオコンたちを失望させるはずだ。兵士を殺さず、政策立案は乱さない。彼女はわれわれの時代のアイゼンハワーである。手堅い方法で大地を耕す。

FT November 9, 2016

New president has an economic in-tray full of problems

Martin Wolf


l  ビジネス・モデル

FT November 4, 2016

The Cohen model of making billions loses its appeal

Philip Delves Broughton


l  韓国大統領

FT November 4, 2016

Park Geun-hye, a nation’s princess recast as puppet

Bryan Harris

NYT NOV. 9, 2016

South Korea’s President Must Go

By SE-WOONG KOO


l  新富裕層と貧困層

Project Syndicate NOV 4, 2016

Populism for the Rich

IAN BURUMA

最近、ブカレストの議会宮殿に旅した。

この巨大な建造物は1980年代に、ルーマニアの独裁者Nicolae Ceauşescuの命令で建設されたが、彼は完成を観る前に処刑された。私たちのガイドが紹介した統計には圧倒される。世界で3番目に巨大な建築物で、22万平方フィートにカーペットが敷かれ、100万立方メートルの大理石、3500トンの水晶が使われた。膨大な大理石の階段は何度も作り直されたが、それは独裁者の歩幅に厳密に合わすためだった。彼は小男だったのだ。

このネオ古典的な怪物を建設するために、都市の一帯、18世紀の住宅、教会、シナゴーグが建つ美しいエリアを破壊し、4万人が立ち退かされた。100万人以上が、昼夜を問わず工事を続けた。それは国家を破産させ、チャウシェスクの側近たちでさえ暖房や電力のない時間が多かった。それは今なお年間600万ドル以上も維持費を必要としている。議会や美術館が入っているが、建物の70%は利用されていない。

チャウシェスクの愚行は誇大妄想の見本であるが、その規模を別にすれば、決して珍しいものではない。トルコのエルドアン大統領は、それに対抗する宮殿をアンカラに建てた。ヒトラーのベルリン再構築計画も、同じネオ古典主義の巨大愛好癖であった。ブカレストの宮殿が示すインテリアは、強壮剤を加えたルイ14世風のもので、フロリダやニューヨークでドナルド・トランプが住む一帯を極端に拡大したものでしかない。

社会的に不安定なアウトサイダーが太陽王になったとき、こうした場所が現れる。

ヒトラーは税官吏の息子で、チャウシェスクは貧しい農夫だった。2人とも首都では、自分が小さく、田舎者であると感じていた。彼らが洗練された都市のエリートを支配したやり方が、暴力的に弾圧し、都市を自分の誇大妄想に合わせて作り直すことだった。

トランプも、自分の名前を付けたすべてのものが何よりも大きく、何よりも輝くことを望んだ。確かに、彼はニューヨーク生まれで、父親から多額の資産を受け継いだ。しかし彼も、自分のことを、野卑な成りあがり、として見下すエリートたちを恨んだ。

現代のポピュリズムは、しばしば、グローバル化した世界の受益者と取り残された者たちとの間の、新しい階級戦争として描かれる。トランプやBrexitの支持者は、彼らが反対する「エスタブリシュメント」に比べて教育を受けていない。しかし、彼らだけでは運動があれほど影響を及ぼすことはなかった。アメリカのティーパーティー運動は、比較的小さな、辺境の運動だった。しかし、新富裕層が彼らと同じ怨恨を抱いていたのだ。

イタリアのベルルスコーニSilvio Berlusconiがそうだ。タイの中華系ビジネスマン、タクシンThaksin Shinawatraもそうだ。オランダでは、不動産で成功した新富裕層が、右翼のポピュリストPim Fortuynやその後継者Geert Wildersを支援した。

双方は、その資産保有額が極端に違うにもかかわらず、彼らを見下す者たちへの怒りを共有している。都市の、教育ある階級は、Brexitの支持者やトランプを支援する人々を、間抜けで、頭がおかしい連中だ、と拒否している。ここに怨嗟の融合が生まれたのだ。

デマゴーグたちは、アメリカでもヨーロッパでも、彼らに夢をまき散らす。それが政治的な破滅に至るのを止めるには、有能なテクノクラートや、市民の規範、穏健さを要求するだけでは難しい。怒りに駆られた人々には、明敏な理性ではなく、異なるビジョンを示さねばならない。

問題は、世界にそのようなアルタナティブがないことだ。フランス革命が200年以上前に唱えた「自由、平等、友愛」を、いまこそ再生してはどうか。

NYT NOV. 5, 2016

Consider a Monarchy, America

By NIKOLAI TOLSTOY

FT November 7, 2016

Ideas that fed the beast of fascism flourish today

Mark Mazower

アメリカにファシズムは起きない。あれは1930年代の、破たんした民主主義国家で起きただけだ。ワイマール共和国やムッソリーニのイタリアと、現代のアメリカ社会は全く異なっている。

しかし、ナチズムの専門家で歴史家のFritz Sternは、公共的な議論が変質していることを警告した。特に、Twitterの衝撃で、主要メディアにまで陰謀論が氾濫している。

彼らは我々と全く異なる、と多くのアメリカ人は考えている。彼らは第1次世界大戦で悪夢を経験した。また彼らは、多分、大恐慌で全資産を失ったのだ。極右を支持するのは例外的な条件があったからだ。

しかし、人種差別的な言葉や反移民感情は決して消えていない。

ファシズムが登場したのは、リベラルな民主主義に深刻な危機が生じていたからだ。第1次世界大戦前、人々は民主的な諸制度の強化を求めて激しく闘っていた。しかし、戦後は、こうした諸制度が急速に輝きを失い、崩壊したのだ。

その類似性は明らかだ。政党は極端に分裂し、互いに基本的な性格を非合法なものと非難した。裁判所や警察も両極化した。

真の問題は独裁者個人ではなく、その影で彼らの登場を促した条件である。すでにアメリカで観られるように、民主主義の基本的諸制度は空洞化していたのだ。

FT November 7, 2016

How to quell the politics of insurrection

Wolfgang Münchau

NYT NOV. 6, 2016

Our Reactionary Age

By MARK LILLA

FT November 7, 2016

The fight for Europe’s religious tradition

Anne-Sylvaine Chassany


後半へ続く)