IPEの果樹園2016

今週のReview

11/7-12

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Brexit株式会社 ・・・テレビ3台の貧困中国とフィリピン ・・・公共投資と金融政策 ・・・トランプ・ショック ・・・強権的政治指導者 ・・・シリア内戦は終わらない ・・・レバノンの石油資源

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  Brexit株式会社

The Guardian, Friday 28 October 2016

Nissan got a sweetheart deal. Under hard Brexit, everyone will want one

Simon Jenkins

ようこそ、Brexit株式会社へ!

こちらでは、うなずき。あちらでは、ウィンク。見えないところで何かが決まっている。しかし、誰にも分らない。日本の自動車会社、日産に政府は何を約束したのか? 日産はSunderlandに、イギリス最大の自動車工場を持つ。

日産は、今、新型のQashqai the X-Trail SUV車について2018年の投資を決定する必要がある。あいまいな約束では実行できない。これは7000人の雇用を生む現実の投資であり、ハードBrexitなら、ヨーロッパとの取引に2倍の関税がかかる。Greg Clark産業大臣が「私を信じろ」と言っても、冗談にしかならない。「競争力」を維持すると約束し、雇用を維持する職業訓練やその他の支援策を、確かな言葉で提示したようだ。

同じような取引が、この惑星Brexitにおいて盛んに行われていると噂される。農家は収穫において大きく依存している移民労働者の受け入れ制度を求め、大銀行はそのスタッフがヨーロッパ中で問題なく仕事できるように求め、介護センターやNHS病院、建設業、観光業、など、多くの業界が議会のドアを叩く。彼らは低賃金の移民労働者、季節労働者を、大陸から雇用している。自動車産業は言うまでもない。トヨタ、フォード、その他の製造業で、日産と同じような補償を求めている。

イギリス政府は企業がアイルランドやルクセンブルグ、モナコと有利な取引を提供されていると不満を述べる。投資がどこにでもできる世界では、政府は底辺への競争を強いられるのだ。諸国が企業に与える補助金、あるいは、同じことだが、税金の免除、関税に対する補償である。ハードBrexitによる、WTOルールに戻るなら、日々、こうした取引が行われる。1つ、確かなことは、零細企業には何も得る力がないことだ。


l  旧世界からのポピュリズム

Project Syndicate OCT 28, 2016

Pensioners and Populism

ANATOLE KALETSKY

トランプやBrexitに示されたポピュリズムは、なぜ生じたのか? グローバリゼーションや移民に対する反発は、どこから来るのか?

所得が増えない。格差が拡大した。構造的な失業が続く。極端な金融緩和の弊害。・・・しかし、ポピュリストの政治と経済への不満は、必ずしも結び付かない。

多くのポピュリストは貧しくないし、失業者でもない。彼らはグローバリゼーションや移民、自由貿易の犠牲者ではない。人口学的に見て、彼らは労働力人口ではない。年金生活者、中年の主婦。障害者の補償を得ている教育水準の低い人たち。

Brexitに関するイギリスの調査が示すのは、経済的な動機より、文化やエスニックの要因が反グローバリゼーションの投票行動に関係している、ということだ。これは経済的な不満と言うより、1960年代から西側社会で続くさまざまな「文化戦争」である。

2008年の金融危機とその後の事態は、高齢者、保守層による政治的反動を表明する条件を強めた。彼らは、人種、ジェンダー、社会的アイデンティティーに関する闘いの敗者である。

金融危機の前に広まっていた、自由市場イデオロギーの支配は、論争を呼ぶような社会変化を許してきた。すなわち、所得格差の拡大から賃金競争の激化、ジェンダーの平等(女性の参加)、そのためのアファーマティブ・アクション。こうした態度がほとんど反対されなかった。「進歩的な」社会的リベラリズムと「保守的な」自由市場経済学とが、1つになって進行した。

経済的繁栄の条件として社会変化が正当化できないとなれば、民主主義の投票行動は、経済的リベラリズムやグローバリゼーションの前に存在した社会条件の復活を求めた。

Brexitとトランプは、2つの非常に異なる、むしろ矛盾した運動の、不安定な同盟によって力を得たものだ。彼らは社会的な保守派であり、保護主義者たちである。1960年代後半に始まった社会変化の逆転を望む者たちだ。彼らのスローガン、“Take back control” そして “I want my country back.”は、その感情をよく示している。

この不安定な政治的化合物は、アメリカでもイギリスでも溶解しつつある。メイ首相の内閣は、ナショナリストと経済的な自由主義とに分裂している。トランプの選挙運動や、ヨーロッパのポピュリストたちもそうだ。それは近代化に対する反動の終焉である。増大するコスモポリタンな若者たちに、懐古的な父権主義を押し付けようと願う高齢者の世代が、自国を不幸にするだけの、最後の息を吐き出した。


l  テレビ3台の貧困

NYT OCT. 28, 2016

3 TVs and No Food: Growing Up Poor in America

Nicholas Kristof

大統領候補たちが決して話題にしない少年がいる。Emanuel Lasterだ。かわいい、笑顔を示す、絶滅に瀕した少年だ。この部屋にはテレビが3つある。しかも1つは大型スクリーンだ。電力は、料金を支払えないために止められるようだ。家に食べ物はない。

不潔で、散らかって、割れたガラス、マリファナのにおいがする。キッチンには汚れた皿がたまったままで、あまり何もない。

もしEmanuelがアレッポの子供なら、大統領候補たちはこの状態を心配し、議論するだろう。少しの時間だけ、無駄なことだが。しかし彼は、自国のごみ溜め、麻薬と絶望の中に住む貧困層だ。だから、彼は見えない。

「大学に行きたい」とEmanuelは言う。学校の成績は良い、と。警察官や、消防士、判事になりたい。しかし、彼は知っていた。この家には1冊の本もない。

貧困の中にある子どもたちは、彼・彼女たちの期待を裏切るような、成功への障害に直面する。

Emanuelはすでに万引きで捕まったことがある。「心から悔いている」と彼は言う。しかし、ギャング団が彼を誘いに来る、と母親は心配する。

多くのアメリカ人は貧困を理解していない。それはお金がないというより、出口がないということだ。貧困線以下のアメリカ人家庭は、その80%がエアコンを持っている。インドやコンゴの貧困家庭に比べて、その物質的な条件は明らかに優れている。しかし、他の意味で、彼らの状態はさらに悪い。

確かに、こうした若者たちは愚かなことをする。しかし、社会として考えれば、彼らがわれわれを裏切るより、ずっと前に、われわれが彼らを裏切っている。

貧困を解消する魔法の弾丸はないが、一揃いの政策は事態を改善できるだろう。幼児期の教育、労働を奨励する仕組み、お金を管理する教育プログラム。・・・そう、借金して大型テレビを買ったりしない。

10代の妊娠を避ける政策も、よい例だ。オクラホマのTulsaで、17歳の少女、Nataly Ledesmaに会った。彼女は13歳で妊娠した。「計画出産」なんて、聞いたこともなかった、と言う。

要するに、多くのことができるのに、われわれには政治的意志がないのだ。私は、大統領候補者たちがもっと議論し、国民、メディアがもっと政治家に要求してほしい、と思う。貧困を解消する政策を採るべきだ、と。

子供の貧困は、アメリカ政体が示す顕著な過ちである。5人に1人の子供が貧困の中に生きている。

人生の賭けは出生で決まるthe lottery of birth1人の少女は恵まれた医師の家庭に生まれ、ジャーナリストになる夢を持って、プライベート・スクールに通う。もう1人の少女は、覚せい剤を常用する両親のもとに生まれた。幼い頃は優秀であったが、学校に行かなくなり、退学した。14歳で家を出て、覚せい剤を売るボーイフレンドと暮らした。彼の子供を妊娠したときも、覚せい剤を打っていた。

2人の少女はよく似ている。元気にあふれ、親しみやすい性格で、チャーミングに、よく笑う。しかし、彼女たちは、まるで違う惑星に住んでいる。


l  中国とフィリピン

Project Syndicate OCT 28, 2016

Three Threats to China’s Economy

ZHANG JUN

中国の成長を脅かす要因として、3つの不安がある。第1に、増大する債務問題。投資を維持するために、一層の債務が求められ、持続不可能になっていく。

政府は、地方政府の債務を軽減している。しかし、債務問題の中心は国有企業である。巨大な国有企業を再編しなければならない。革新や競争力向上のための、分割、民営化も含まれる。

2に、固定資産投資が減少している。GDP20%から8%に減少した。製造業の投資の少なくとも60%は民間投資である。しかし、銀行融資や社債市場は国有企業が独占している。民間企業は容易に融資を受けられず、直接金融でも不利である。

3に、失業率が一定である。サービス部門の雇用は増えているが、生産性は低い。失業率は決して高くないが、それは国有企業が解雇しないからだ。このように、生産性の上昇率が長期に低迷してきたことの反映でもある。

市場改革は朱鎔基の時代から推進されたが、不完全で、分野によっては逆転している。

FT November 3, 2016

China’s magnetic force loses its pull

Jamil Anderlini

フィリピンのドゥテルテ大統領をはじめ、東南アジア諸国のさまざまな変化にもかかわらず、戦略的なバランス・オブ・パワーはほとんど変化していないし、予測しうる将来において変化することはないだろう。

ワシントンが地域の平和と自由貿易を強く支持する限り、こうした諸国は中国よりもアメリカを選択する。それは最近の中国経済の変化にも関わっている。

中国への輸出は確かに増大したが、この地域に需要を追加するものから、景気の浮動的な要因に変わった。各国は中国の成長に対して、その衛星軌道に取り込まれた。しかし中国自身が資源への需要を減少させる経済構造転換に入った結果、最近は依存を減らしつつある。

中国は、資本規制を強化し、人民元を減価する方向に政策を転換した。また、軍事的な能力だけでなく、その国民感情やソフトパワーの点でも、アメリカは明らかに優位にある。南シナ海など、各国が中国との境界紛争を抱える中で、中国との貿易や投資を増やしながらも、アメリカによるバランスを強く求めているのだ。


l  公共投資と金融政策

The Guardian, Monday 31 October 2016

Mark Carney is what stands between Britain and economic chaos

David Blanchflower

エコノミストでもない政治家たちが、共謀してイングランド銀行のカーニーMark Carney総裁を批判している。中央銀行の独立性を攻撃する者もいる。

しかし、カーニーは経済の減速にも、ポンド価値の下落にも、疑いなく何の責任もない。全く逆である。彼だけが、ほとんどだれの助けも得られないまま、イギリス経済が急激に落ち込む可能性を回避し、623日の国民投票に続く日々に市場心理が悪化するのを防いできた。

カーニーの交代を求める批評家もいる。しかし、もしカーニーが退場すれば、公式には政治から独立性を持つはずのイギリスだが、それは嘘だと市場が感じて、非常に高いコストを支払うことになるだろう。

すでにポンドの下落はインフレを生じて、回復しつつあった実質賃金が低下し、生活水準を再び悪化させている。EUとの交渉は困難が予想されている。EUの側に交渉上の優位があり、カナダとの貿易協定をワロン地区が拒否したことが示すように、望ましい決着がつくとは思えない。

カーニーを激励するべきだ。

The Guardian, Wednesday 2 November 2016

The Brexit war can still be won, but we must start fighting back

Will Hutton

イギリスは1945年以来の平和時における最大の危機に直面している。Brexitの国民投票は、その後の離脱過程を示しておらず、その結果、立憲的、政治的、法律的な危機に陥っている。経済停滞は長引き、確実に、不況になるだろう。リベラルで、寛容な、外向きの国が、非リベラル、不寛容、内向きの国家に変わりつつある。

すでに不確実性の高まりによって、投資家のストライキが起きている。イギリスには500社以上の多国籍企業が展開しており、1兆ドルの直接投資による資産がある。それは中国やアメリカに匹敵する。EU離脱は投資に深刻な影響を与えるだろう。ポンド安による輸出増も期待通りには進まない。経済システムが弱くなっているからだ。

イギリス社会は、強いショックを吸収するのにふさわしい状態でなくなっている。世代間、地域間、階級間で、所得や資産が不平等化している。不況になれば財政赤字がさらに増え、それだけ政府支出による積極的なプログラムは失われる。

国境を管理し、外国人を排斥するのは、改革プログラムではない。それはグローバリゼーションからの撤退、封鎖と停滞のプログラムだ。イギリスはEUを離脱してはならない。離脱派は、民主的な投票結果を翻すことはできない、と言う。しかし民主主義とはたえざる討論であり、熟慮である。1度きりの投票を永久化することではない。

単なる再投票の要求ではなく、それ自体が一部であるような、改革プログラムを議論することだ。所有権、金融・技術革新、など、イギリス資本主義の目標を変更する。労働組合は「ギグ・エコノミー」の挑戦に対抗する。市民にとってのリスクを抑制し、新しい、弾力的な、スキルを重視した社会保障システムを築く。公共政策を積極的に展開できる広範な基礎に立つ税制を構築する。

これは何よりも政治過程である。中道左派の労働党議員たちがグループを立ち上げたことを私は歓迎する。


l  トランプ・ショック

Project Syndicate OCT 29, 2016

The Consequences of a Trump Shock

SIMON JOHNSON

トランプが当選するとしたら、そのショックに世界経済は耐えられるのか? 残念ながら、株式市場は暴落し、世界経済は不況になるだろう。

最も顕著な不安材料はヨーロッパにある。イギリスの離脱問題、ユーロ圏の銀行システム、低成長による、スペイン、イタリアの不安。中所得国、新興市場の成長も弱い。

トランプが勝利すれば、輸入を遮断する政策を即座に実行するだろう。それはアメリカ経済に急ブレーキとなる。トランプ不況はヨーロッパに波及し、全面的な不況をもたらすから、深刻な銀行危機、銀行の破たんが生じる。

FT November 1, 2016

Investors face political risk whoever wins in the US election

Tina Fordham

喜劇と笑劇との間をうろうろした選挙戦が、FBIの捜査再開で劇的な変化を示したが、なお世論調査ではクリントンが優勢だ。

クリントンの勝利は、アメリカと世界秩序にとって常態への復帰を意味するだろうか? いや、それは気が早い。投資家たちは、アメリカ大統領選挙の結果にかかわらず、先進経済に生じた新しいタイプの政治リスクに悩まされる。

まず、市場が安心した後、当然に気づくことは、分裂した議会が膠着状態を続け、政府債務の上限をめぐる瀬戸際戦略を繰り返し、改革は進まない、ということだ。

UKEU離脱投票、トランプの台頭が意味するのは、先進経済の政治が示しつつある新興市場(EM)への転換だ。

政敵を汚職の罪で投獄すると脅迫し、陰謀論をまき散らす、トランプの選挙運動と彼の支持者たちはEM政治教本に従っている。政敵が当選する資格はないと主張するだけでなく、アメリカの政治制度に対する疑念を公言する。共和党員の多くが、選挙は操作されている、と信じている。

最も警戒するEM政治の兆候は、トランプが選挙で敗北しても、その結果を受け入れない、と言及したことだ。民主的な選挙の原則を否定する。その反抗的な姿勢は、市民的な抗議ではなく「負け惜しみ」であり、投票者への脅迫、暴力の示唆である。

EM政治リスクが先進経済に至る経路は、政治制度やエリートへの信頼が低下したことだ。政界やビジネス界のエリート、専門家たち、メディアが疑われている。ポピュリスト型ウィルスに対して政体に免疫を与えるのは、単なる経済成長ではなく、将来への希望、信頼である。信頼が崩壊したことは多くの数字に示されている。

アイデンティティーや文化のようなソフト面で、技術革新に加えて、社会の解体や不安が増幅する。人々は、変化のスピードが速すぎる、と感じている。この傾向は金融市場の反応に最も鋭く示されるだろう。

トランプが敗北しても、信頼の低下、アイデンティティー政治、人口の分断、は発展した地域に残る。来年は、ドイツ、フランス、オランダで選挙がある。Brexitの交渉や、クリントンの政権運営にも影響する。それはおそらく、大統領への捜査、断崖のリスクが継続する、ということだ。

経済成長、支持率、選挙結果、これらの旧来の結びつきは失われた。新興市場の旧来からの常態が、先進経済の新しい常態になる。その世界経済に及ぼす影響ははるかに重大だ。


l  中央銀行と政治

Project Syndicate OCT 31, 2016

Investment for Sustainable Growth

JEFFREY D. SACHS

世界経済の大きな失望とは、投資率の低さである。2008年の金融危機に至るまで、高所得諸国の経済成長は住宅や個人消費によって高められた。しかし危機が起きると、2つの支出は急減し、投資の遅れは埋められていない。こうした事態を変えねばならない。

世界の多くの中央銀行が金融緩和したが、その効果にも限界がある。しかも、コストが高まっている。投資の質は悪化し、投機が広まる。金融政策が引き締めに転じるとき、資産価格の暴落リスクがある。

鉄道、道路、港湾、低炭素エネルギー、安全な飲み水、衛生、健康、教育、こうした分野に長期投資が必要である。公共政策、国際税制の不確実性は民間投資を減少させている。

どのプロジェクトを、公共部門と民間部門の協力により、どのような財源で行うか? 政府は決定しなければならない。国連・持続可能な開発目標The Sustainable Development Goals (SDGs) と気候変動に関するパリ協定the Paris Climate Agreementこそ、低金利状態を利用して、このような投資するプロジェクトとして適当である。

Project Syndicate NOV 1, 2016

Central Banks and the Revenge of Politics

OTMAR ISSING

中央銀行への称賛は正規転換期に頂点となり、2008年の金融危機では、中央銀行への過剰な期待、中央銀行総裁の人格化、過剰な負担をもたらした。すでにインフレ目標や様々な戦略は崩壊している。マクロ・プルーデンシャルだけでなく、ミクロ・プルーデンシャルを求められ、この問題では強い政治的圧力にさらされる。

特に、ECBの責任は制度的に重くなりすぎている。物価の安定性を求められる限り、守られてきた中央銀行の独立性が、ますます国内社会の政治的対立に影響されるようになっている。


l  強権的政治指導者

FT October 31, 2016

Trump, Putin, Xi and the cult of the strongman leader

Gideon Rachman

モスクワからマニラ、北京からブダペスト、アンカラからデリーまで、ナショナリストの「強権的」指導者が流行になっている。

強い指導者への熱望は、専制体制でも民主体制でも変わらない。北京では先週、習近平が、共産党に「中核的指導部」を唱え、毛沢東的な、個人崇拝の傾向にまた一歩近づいた。世界の強権指導者に対するパトロンとなったロシアのウラジミール・プーチンは、民主主義の罠を逃れるさらなるルールの個人化を進めている。

民主主義の形態を残しつつ、専制体制との混合物を目指すのは、各地の強権的指導者が試みている。トルコのエルドアン大統領、より少ない程度ではあるが、ハンガリーのオルバン首相だ。インドのナレンドラ・モディ、日本の安倍晋三は、本来の民主的システムを維持しながら、その中で、指導者の決断や、ナショナリズムの風潮を刺激しながら、強権化を進めている。

トランプの政治スタイルは、プーチンやエルドアンのような、最も専制的な支配者とよく似ている。国外には多くの敵対勢力、国民に対する陰謀、「内部の敵」を強調する。外国人による屈辱の歴史を逆転して、自国の再生を約束する。

トランプは、アメリカのシステム全体が腐っていると主張し、沼地の水を抜いて掃除する、と約束する。新しい強権指導者が登場するとき、腐敗したエリートへの攻撃、というのをよくやる。プーチンはオリガークを粉砕し、習は汚職撲滅運動を推進した。また個人的な崇拝を刺激するカルトを集める。

1930年代との類似した情勢も顕著だ。当時、大恐慌の後、世界中で政治が過激化した。2008年の金融危機後も、ヨーロッパ、中東、アジアで紛争が起き、強い指導者を求める声が高まっている。強権的指導者の外交は、制度や国際法よりも、男と男の関係を重視する。安倍首相も、ロシアの指導者との個人的な親しさを強調する。こうした個人に依拠する外交は、劇的であると同時に、瞬時に不安定化する。

マッチョ強権指導者が流行すると同時に、メルケルに代表される強力な女性政治家が現れた。彼女たちは、静かな、合意形成を重視する。ヒラリー・クリントンがホワイトハウスに入れば、強権指導者の信奉者たちに打撃を与えるだろう。

NYT NOV. 3, 2016

Rodrigo Duterte Plays U.S. and China Off Each Other, in Echo of Cold War

By MAX FISHER

ドゥテルテ大統領が中国とアメリカに対して示した行動は、冷戦の時代に中規模の諸国が米ソの間で行った行動に等しい。ドゥテルテは、中国から多くの経済支援を訳されたと同時に、アメリカによる安全保障の約束も保持したままである。

冷戦期の外交を分析したガディスJohn Lewis Gaddisは、「新しいパワー・バランシング」と呼んだ。アジア、アフリカ、ヨーロッパで、諸国が繰り返し米ソに相手側への転換を示唆し、その脅迫によって利益を得たのだ。

これらの脅しはしばしば無意味なのだが、超大国は小国が軌道から外れることを恐れて、直ちに報酬を与えるしかなかった。「尻尾が犬を振り回し始めた。」と、ガディスは書いた。

ユーゴスラビアのチトー、エジプトのナセル、中国の毛沢東もそうだ。フランスでさえ、1960年代にド・ゴールはNATOを離脱し、ナショナリズムを鼓舞して、国内権力を高めながら、しかもアメリカの安全保障を得たままであった。

アメリカには、他になす術がない、と当時のジョンソン大統領は認めた。


l  シリア内戦は終わらない

FT October 31, 2016

Partition presents the best hope for peace in Syria

Ray Takeyh

シリア内戦は今も荒れ狂い、アレッポは炎上している。政治家や政策立案者たちは、戦争を管理するためのプランを示す。安全圏、人道的支援ゾーン、難民再定住化計画、外交的和平のフレーム。

そのようなプランは、戦争を止めるものではない。そのための唯一の方法は、アメリカとヨーロッパがシリア分割案を示し、それを強制するために大規模な軍隊を展開することだ。それを恐れるから、政治家や戦略家たちは退却を議論するだけで、敵対関係を止めることは議論しないのだ。

ケリー国務長官はレバノン内戦の終結を念頭に置いて行動している。レバノンは宗教的に分裂した、キリスト教徒、スンニ派、シーア派の支配的連合によって統治される国であった。その微妙なバランスが崩れ、1970年代半ばから内戦に突入した。地域の大国がこれに介入し、すべての和平工作が失敗した。

1991年に内線が終わったのは、多くの要因が戦争を維持不可能にしたからだ。グローバルなレベルでは、冷戦が終結し、ロシアは西側との関係改善を望み、中東での生産的な役割を目指した。地域レベルでは、イランがよりプラグマティックなラフサンジャニの下で、サウジアラビアとの関係改善を進めた。それと並行して、シリアは戦後のレバノンに影響力を確保したため、戦争の長期化は必要なくなった。

しかし、外部のアクターが合意しても、それを内部の戦闘集団に強制しなければならない。彼らは戦闘を続ける傾向がある。また、アメリカは、レバノンのように、ロシアとの合意が地域の安定化、そしてシリア国内の戦闘集団にも及ぶと考えた。これは間違いだ。ロシアとアメリカの対立はシリアに限らない。多くの紛争テーマを抱えている。さらに、イランとサウジアラビアとの対立も地域的な冷戦に固定され、戦闘集団は今も勝利を確信している。

ケリーの間違いは、ロシアとイランの支援を得て、シリアを再建できると信じていることだ。たとえ合意が成立しても、各地の武装勢力は戦闘をやめない。アサドの樽爆弾で家族を亡くした者は支配体制がわずかでも残ることを受け入れないし、ISISは存亡の危機にある。最善の策は、切り離された小さな独立州が、連邦の枠組みによって生き残ることであり、それには数十年を要するだろう。

アメリカと英仏などの西側同盟軍が、権力をシェアする原則を描き、それを守らせるために大規模な軍を展開する。その駐留期間は長引くだろう。しかも衝突や犠牲が生じる。

シリア内戦が終わらない理由はこれだ。アメリカには必要な軍事力がある。しかし、彼らが躊躇する理由は理解できる。政治家たちは成功する見込みのない中途半端な手段を提案し、シリアは燃え続ける。


l  レバノンの石油資源

Project Syndicate NOV 3, 2016

Can Lebanon Escape the Resource Curse?

NASSER SAIDI

レバノンで,2年半も決まらなかった大統領を議会が決めた.予算赤字(GDP8.1%)も,累積赤字(GDP144%)も多い.この国に油田が発見されたことで,経済発展や財政再建が進むかもしれない.

しかし,「石油の呪い」を避けるには,主要なリスクに対してガバナンスを改善する必要がある.すなわち,1.石油価格は著しく不安定で,下落したままだ.2.埋蔵量は不確かである.3.領土紛争が関係している.4.政治が機能していない.

改革を進めるためには,1EITIのような国際機関と協力して,採取産業からの資金の流れを透明化する.2.天然資源憲章を採用して,制度と利権を切り離す.3.財政政策に健全性を求める法的枠組みを設ける.

混乱する地域で問題の多い国が転換し,資源を健全かつ効果的に管理できれば,「石油の呪い」を免れて発展のモデルになるだろう.

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The Economist October 22nd 2016

Putinism

The battle for Mosul: Crushing the caliphate

Bhutan: Happy-grow-lucky

Banyan: Duterte’s pivot

Politics: Master of nothing

Election 2016: Hating Hillary

Special Report: Russia – Inside the bear

(コメント) ロシアは強くない.その経済,政治,社会の中に多くの深刻な問題を抱えている.人口は高齢化し,2050年までに10%も減少するだろう.政府支出と国有企業によってGDP70%が支えられている.腐敗,汚職が広がり,経済的な利益と損失もクレムリンが決める.国内の弱さがあることで,プーチンは対外強硬策を好む.民主化を求めた都市のインテリや富裕層は,弾圧するより,戦争のプロパガンダとナショナリズムにより焦点を失った.

中国はあまりにも巨大で,指導者の命令は地方官僚にまで届かない.党の規律を強化しようとするが,成功するとは思えない.ソ連崩壊と同様に,分裂した権威主義体制の限界が来た.

ヒラリーは,なぜこれほど嫌われたのか? アメリカ政治に潜在するセクシズム,男性優位の発想や感覚が問われている.彼女の当選は,それを変えるはずだったが,トランプのアメリカに対抗して,女性たちは何を始めるべきか?

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IPEの想像力 10/7/16

コンゴでもなく,リビアでもなく.最も富裕で,最も強力な軍と金融ネットワークを持つ国.

トランプの勝利を伝えるNew York Timesのウェブ記事を観て,何とも掴みどころのない不安と不満の混濁した汚水があふれ出るのを感じます.それだけでなく,とても危険な,滑落する予感,あるいは,怪しい世界観が地面から湧き出してくる,異様な印象を持ちました.

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何だ,これは?

私たちは,宇宙船で冬眠しながら航行し,違う惑星に移住したのかもしれません.

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ヒラリーはこれほど嫌われていた? 中央権力に対する,不実なシステムに対する,また,専門家や政府機関・国際機関の分析や予測に対する,塩を噛むような憤りがあるのか?

政治的な正しさ,というルールで,差別的な表現・意思表示を抑制する,表面的な回避策は,むしろ政治を闇に押し込んだ.あるいは,政治の常道である多数派工作や政治資金集めが,政治を全く異質なものにして,政治論争から真実の社会対立・権力闘争を見えなくしてしまった.

その1: これは,ベルルスコーニだ.嘘と笑い.恫喝,金,セックス,超資産家,スポーツ,メディア,政治やエリートを嫌う人々のためのショー・ビジネス.

その2: あるいは,もしかしたら,明日はレーガンだ.・・・毒舌より,明るい笑顔が素敵.素人だから,中央の政界を知らないから,当選したよ,と,ヒラリーを呼んで,抱きしめる.国民のために和解しよう.・・・あなたは勉強しすぎだね.

その3: 企業を,女性を,共和党を,ついにホワイトハウスを乗っ取り,もう十分だ.後のことは考えていない.自分は帝王のようにふるまい,政策に関してはコンサルタントに委ねる.人気を維持する代わりに,政策の中身は両党の重要なものを取り入れる.

その4: さらに将来は,プーチンだ.選挙後の安定期から,次第に,最高権力者の妄想へと彼の関心が移るかもしれない.そして,歴史に名を残すため,偉業がほしくなる.最強の軍隊を動かせるから.小国を相手にマッチョを誇示する.それに飽きたら,どうするのか?

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アメリカの社会的分断はどうなるのか? ますます発展途上国の政治,新興市場の経済危機に似てくるかもしれない.

この選挙が残す「感覚」というのは,人々に大きな穴が開くことではないか.時間が経つにつれて,民主主義に対する不信感,空虚感が深まり,政治的な合意を得ることの困難を避けるようになる.裏取引でしかなかったもの,水面下の脅迫や買収でしかなかったものが,政治交渉そのものになる.

世界の各地に広がる無秩序や暴力,無政府状態のもたらす貧困,難民,フロンティの管理体制はどうなるのか?

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金融を中心にした市場統合の流れは,今後,何を目指すのか? 超資産家や非リベラルな民主的強権体制は,むしろ金融資本との緊密な連携を生み出す.

中国や新興市場の躍進は,何に向かうのか? アメリカ市場を失って破滅するのか?

保護主義,金融緩和の継続,ドル安,減税,軍備拡大,などが,移民規制とともに始まるとしたら,それはどのような経済になるのか? アメリカの景気回復と,それにつれて,主要国との2国間交渉でアメリカ第1の通商条約を結びなおす.

それは,予想外に,自国と世界の景気回復,ユーロ圏,人民元の貿易・通貨圏を,一定の独自性において,着実に整備させ,3極経済管理体制に向けた模索が始まるのかもしれない.

中東への軍事介入はやめる.ロシアとの対抗関係も解消する.グローバルな勢力均衡を重視して,大国間外交の世界に向かうだろう.その基準は,国際的な理想や経済的利益ではなく,支配者にとっての国内政治だ.

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この星で,私たちは,冬眠から覚めた昆虫になる.

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