IPEの果樹園2016

今週のReview

11/7-12

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Brexit株式会社 ・・・ウーバーを倒す ・・・テレビ3台の貧困中国とフィリピン ・・・公共投資と金融政策 ・・・ヒラリー・クリントン ・・・トランプ・ショック ・・・中央銀行と政治 ・・・強権的政治指導者 ・・・FBI長官の政治介入 ・・・シリア内戦は終わらない ・・・TPP支持論 ・・・レバノンの石油資源

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  Brexit株式会社

The Guardian, Friday 28 October 2016

Nissan got a sweetheart deal. Under hard Brexit, everyone will want one

Simon Jenkins

ようこそ、Brexit株式会社へ!

こちらでは、うなずき。あちらでは、ウィンク。見えないところで何かが決まっている。しかし、誰にも分らない。日本の自動車会社、日産に政府は何を約束したのか? 日産はSunderlandに、イギリス最大の自動車工場を持つ。

日産は、今、新型のQashqai the X-Trail SUV車について2018年の投資を決定する必要がある。あいまいな約束では実行できない。これは7000人の雇用を生む現実の投資であり、ハードBrexitなら、ヨーロッパとの取引に2倍の関税がかかる。Greg Clark産業大臣が「私を信じろ」と言っても、冗談にしかならない。「競争力」を維持すると約束し、雇用を維持する職業訓練やその他の支援策を、確かな言葉で提示したようだ。

同じような取引が、この惑星Brexitにおいて盛んに行われていると噂される。農家は収穫において大きく依存している移民労働者の受け入れ制度を求め、大銀行はそのスタッフがヨーロッパ中で問題なく仕事できるように求め、介護センターやNHS病院、建設業、観光業、など、多くの業界が議会のドアを叩く。彼らは低賃金の移民労働者、季節労働者を、大陸から雇用している。自動車産業は言うまでもない。トヨタ、フォード、その他の製造業で、日産と同じような補償を求めている。

イギリス政府は企業がアイルランドやルクセンブルグ、モナコと有利な取引を提供されていると不満を述べる。投資がどこにでもできる世界では、政府は底辺への競争を強いられるのだ。諸国が企業に与える補助金、あるいは、同じことだが、税金の免除、関税に対する補償である。ハードBrexitによる、WTOルールに戻るなら、日々、こうした取引が行われる。1つ、確かなことは、零細企業には何も得る力がないことだ。

FT October 28, 2016

Brexit is a chance to do the ‘Big Bang’ better

Philip Augar

FT October 29, 2016

May’s assurances to Nissan beg questions

サンダーランドの日産工場は、イギリス自動車生産のほとんど3分の1、輸出の1.4%を占めている。メイ首相がカルロス・ゴーン日産CEOに何を約束したのかが重要な問題だ。それは、最大企業による投資撤退の脅しに対する裏取引であってはならない。

Brexitで企業の競争力を悪化した場合、その保証を約束したのかもしれない。このような補償は明らかに高くつく。他の製造業にも拡大し、WTOの輸出補助金禁止ルールも犯すだろう。なぜ自動車産業なのか、もわからない。イギリスの雇用やGDPに一層大きな割合を占める金融サービスはどうか? 同じようにBrexitで損失を受ける。

より好ましいのは、メイ首相が関税のない常態を維持する合意をEUと結ぶことだ。政府の姿勢には変化する兆しがある。メイは、Brexitや産業政策について、国民に対してオープンに意見を述べるべきだ。

FT October 30, 2016

A continental partnership offers a way for the UK and Europe

Ed Miliband

FT October 31, 2016

The Nissan deal hints at a route for Brexit Britain

Wolfgang Münchau

Brexitもヘーゲル論理学のように、反対物との妥協に向かうだろう。日産自動車への対応が、それを示している。ゴーンにとって、関税同盟から出たイギリスに、工場を建てる意味はない。メイはそれを理解した。

ドイツは4つの自由(労働、資本、財、サービス)を切り離せないと主張したが、イギリスがソフトBrexitに向かうなら、それを支持するだろう。なぜなら、それはドイツにとってもソフトだから。

時間が経てば経つほど、Brexitはシフトに変化する。それは名目を保つ妥協をもたらすだろう。今、移民の規制にこだわるメイには、それが受け入れられない。移民に一定期間の社会給付を拒むことで、妥協できるかもしれない。

The Guardian, Monday 31 October 2016

Don’t stop at Nissan – we all need comfort letters now

Polly Toynbee


l  ウーバーを倒す

The Guardian, Friday 28 October 2016

The Guardian view on the gig economy: obligations not excuses to workers are needed

Editorial

The Guardian, Friday 28 October 2016

Uber ruling is a massive boost for a fairer jobs market

Aditya Chakrabortty

2人の名前は記憶される。Yaseen Aslam. James Farrar. 500億ポンドの多国籍企業、そして、そのビジネスモデルを倒したからだ。

ウーバーUberのために働く運転手である2人は、自営業者となっている。その資格では、労働者のほとんど権利が否定されている。最低賃金、疾病手当、有給休暇。労働裁判所の裁判官は、それが間違っており、不公平である、と認めた。

彼らの勝利は重大だ。イギリス・ウーバーの存立を脅かす。同じようなビジネスモデルを使う世界中の他の分野にも、衝撃は波及する。ウーバーは、低賃金で運転手を働かせながら、彼らの権利を無視して自由に搾取し、莫大な利益を上げている。こうしたことは許されないだろう。

ウーバーのビジネスモデルは未来の理想ではなく、過去の搾取工場である。ウーバーのもたらすのは自営業者たちの楽園ではなく、厳しい競争と劣悪な労働環境だ。


l  ドイチェ・バンク

SPIEGEL ONLINE 10/28/2016

The Deutsche Bank Downfall

How a Pillar of German Banking Lost Its Way

By Ullrich Fichtner, Hauke Goos and Martin Hesse


l  旧世界からのポピュリズム

Project Syndicate OCT 28, 2016

Pensioners and Populism

ANATOLE KALETSKY

トランプやBrexitに示されたポピュリズムは、なぜ生じたのか? グローバリゼーションや移民に対する反発は、どこから来るのか?

所得が増えない。格差が拡大した。構造的な失業が続く。極端な金融緩和の弊害。・・・しかし、ポピュリストの政治と経済への不満は、必ずしも結び付かない。

多くのポピュリストは貧しくないし、失業者でもない。彼らはグローバリゼーションや移民、自由貿易の犠牲者ではない。人口学的に見て、彼らは労働力人口ではない。年金生活者、中年の主婦。障害者の補償を得ている教育水準の低い人たち。

Brexitに関するイギリスの調査が示すのは、経済的な動機より、文化やエスニックの要因が反グローバリゼーションの投票行動に関係している、ということだ。これは経済的な不満と言うより、1960年代から西側社会で続くさまざまな「文化戦争」である。

2008年の金融危機とその後の事態は、高齢者、保守層による政治的反動を表明する条件を強めた。彼らは、人種、ジェンダー、社会的アイデンティティーに関する闘いの敗者である。

金融危機の前に広まっていた、自由市場イデオロギーの支配は、論争を呼ぶような社会変化を許してきた。すなわち、所得格差の拡大から賃金競争の激化、ジェンダーの平等(女性の参加)、そのためのアファーマティブ・アクション。こうした態度がほとんど反対されなかった。「進歩的な」社会的リベラリズムと「保守的な」自由市場経済学とが、1つになって進行した。

経済的繁栄の条件として社会変化が正当化できないとなれば、民主主義の投票行動は、経済的リベラリズムやグローバリゼーションの前に存在した社会条件の復活を求めた。

Brexitとトランプは、2つの非常に異なる、むしろ矛盾した運動の、不安定な同盟によって力を得たものだ。彼らは社会的な保守派であり、保護主義者たちである。1960年代後半に始まった社会変化の逆転を望む者たちだ。彼らのスローガン、“Take back control” そして “I want my country back.”は、その感情をよく示している。

この不安定な政治的化合物は、アメリカでもイギリスでも溶解しつつある。メイ首相の内閣は、ナショナリストと経済的な自由主義とに分裂している。トランプの選挙運動や、ヨーロッパのポピュリストたちもそうだ。それは近代化に対する反動の終焉である。増大するコスモポリタンな若者たちに、懐古的な父権主義を押し付けようと願う高齢者の世代が、自国を不幸にするだけの、最後の息を吐き出した。

Project Syndicate OCT 28, 2016

How Inequality Found a Political Voice

MICHAEL SPENCE

FT November 2, 2016

Liberals need courage to resist the populists and nationalists

Alexander Stubb


l  テレビ3台の貧困

NYT OCT. 28, 2016

3 TVs and No Food: Growing Up Poor in America

Nicholas Kristof

大統領候補たちが決して話題にしない少年がいる。Emanuel Lasterだ。かわいい、笑顔を示す、絶滅に瀕した少年だ。この部屋にはテレビが3つある。しかも1つは大型スクリーンだ。電力は、料金を支払えないために止められるようだ。家に食べ物はない。

不潔で、散らかって、割れたガラス、マリファナのにおいがする。キッチンには汚れた皿がたまったままで、あまり何もない。

もしEmanuelがアレッポの子供なら、大統領候補たちはこの状態を心配し、議論するだろう。少しの時間だけ、無駄なことだが。しかし彼は、自国のごみ溜め、麻薬と絶望の中に住む貧困層だ。だから、彼は見えない。

「大学に行きたい」とEmanuelは言う。学校の成績は良い、と。警察官や、消防士、判事になりたい。しかし、彼は知っていた。この家には1冊の本もない。

貧困の中にある子どもたちは、彼・彼女たちの期待を裏切るような、成功への障害に直面する。

Emanuelはすでに万引きで捕まったことがある。「心から悔いている」と彼は言う。しかし、ギャング団が彼を誘いに来る、と母親は心配する。

多くのアメリカ人は貧困を理解していない。それはお金がないというより、出口がないということだ。貧困線以下のアメリカ人家庭は、その80%がエアコンを持っている。インドやコンゴの貧困家庭に比べて、その物質的な条件は明らかに優れている。しかし、他の意味で、彼らの状態はさらに悪い。

確かに、こうした若者たちは愚かなことをする。しかし、社会として考えれば、彼らがわれわれを裏切るより、ずっと前に、われわれが彼らを裏切っている。

貧困を解消する魔法の弾丸はないが、一揃いの政策は事態を改善できるだろう。幼児期の教育、労働を奨励する仕組み、お金を管理する教育プログラム。・・・そう、借金して大型テレビを買ったりしない。

10代の妊娠を避ける政策も、よい例だ。オクラホマのTulsaで、17歳の少女、Nataly Ledesmaに会った。彼女は13歳で妊娠した。「計画出産」なんて、聞いたこともなかった、と言う。

要するに、多くのことができるのに、われわれには政治的意志がないのだ。私は、大統領候補者たちがもっと議論し、国民、メディアがもっと政治家に要求してほしい、と思う。貧困を解消する政策を採るべきだ、と。

子供の貧困は、アメリカ政体が示す顕著な過ちである。5人に1人の子供が貧困の中に生きている。

人生の賭けは出生で決まるthe lottery of birth1人の少女は恵まれた医師の家庭に生まれ、ジャーナリストになる夢を持って、プライベート・スクールに通う。もう1人の少女は、覚せい剤を常用する両親のもとに生まれた。幼い頃は優秀であったが、学校に行かなくなり、退学した。14歳で家を出て、覚せい剤を売るボーイフレンドと暮らした。彼の子供を妊娠したときも、覚せい剤を打っていた。

2人の少女はよく似ている。元気にあふれ、親しみやすい性格で、チャーミングに、よく笑う。しかし、彼女たちは、まるで違う惑星に住んでいる。


l  中国とフィリピン

Project Syndicate OCT 28, 2016

Three Threats to China’s Economy

ZHANG JUN

中国の成長を脅かす要因として、3つの不安がある。第1に、増大する債務問題。投資を維持するために、一層の債務が求められ、持続不可能になっていく。

政府は、地方政府の債務を軽減している。しかし、債務問題の中心は国有企業である。巨大な国有企業を再編しなければならない。革新や競争力向上のための、分割、民営化も含まれる。

2に、固定資産投資が減少している。GDP20%から8%に減少した。製造業の投資の少なくとも60%は民間投資である。しかし、銀行融資や社債市場は国有企業が独占している。民間企業は容易に融資を受けられず、直接金融でも不利である。

3に、失業率が一定である。サービス部門の雇用は増えているが、生産性は低い。失業率は決して高くないが、それは国有企業が解雇しないからだ。このように、生産性の上昇率が長期に低迷してきたことの反映でもある。

市場改革は朱鎔基の時代から推進されたが、不完全で、分野によっては逆転している。

FT October 31, 2016

Chinese investors take a tumble on the global stage

James Kynge

Project Syndicate OCT 31, 2016

China’s Incomplete Contracts

ANDREW SHENG and XIAO GENG

FT November 3, 2016

China’s magnetic force loses its pull

Jamil Anderlini

フィリピンのドゥテルテ大統領をはじめ、東南アジア諸国のさまざまな変化にもかかわらず、戦略的なバランス・オブ・パワーはほとんど変化していないし、予測しうる将来において変化することはないだろう。

ワシントンが地域の平和と自由貿易を強く支持する限り、こうした諸国は中国よりもアメリカを選択する。それは最近の中国経済の変化にも関わっている。

中国への輸出は確かに増大したが、この地域に需要を追加するものから、景気の浮動的な要因に変わった。各国は中国の成長に対して、その衛星軌道に取り込まれた。しかし中国自身が資源への需要を減少させる経済構造転換に入った結果、最近は依存を減らしつつある。

中国は、資本規制を強化し、人民元を減価する方向に政策を転換した。また、軍事的な能力だけでなく、その国民感情やソフトパワーの点でも、アメリカは明らかに優位にある。南シナ海など、各国が中国との境界紛争を抱える中で、中国との貿易や投資を増やしながらも、アメリカによるバランスを強く求めているのだ。

VOX 03 November 2016

Public debt and private investment in China

Yi Huang, Marco Pagano, Ugo Panizza

YaleGlobal, 3 November 2016

Preparing for Difficult Reforms, Chinese Party Leaders Consolidate Power

Frank Ching


l  大企業の時代

Bloomberg OCT 28, 2016

It’s Good to Be a Big Corporation Again

Justin Fox


l  公共投資と金融政策

FT October 29, 2016

Britain’s sorry history of big infrastructure policies

John Kay

ロンドンのヒースロー空港拡張工事(そして、高速鉄道計画)に関する意思決定プロセスは、イギリスが大型公共投資に関して適切なプロセスを持たないことを示している。

The Guardian, Monday 31 October 2016

Mark Carney is what stands between Britain and economic chaos

David Blanchflower

エコノミストでもない政治家たちが、共謀してイングランド銀行のカーニーMark Carney総裁を批判している。中央銀行の独立性を攻撃する者もいる。

しかし、カーニーは経済の減速にも、ポンド価値の下落にも、疑いなく何の責任もない。全く逆である。彼だけが、ほとんどだれの助けも得られないまま、イギリス経済が急激に落ち込む可能性を回避し、623日の国民投票に続く日々に市場心理が悪化するのを防いできた。

カーニーの交代を求める批評家もいる。しかし、もしカーニーが退場すれば、公式には政治から独立性を持つはずのイギリスだが、それは嘘だと市場が感じて、非常に高いコストを支払うことになるだろう。

すでにポンドの下落はインフレを生じて、回復しつつあった実質賃金が低下し、生活水準を再び悪化させている。EUとの交渉は困難が予想されている。EUの側に交渉上の優位があり、カナダとの貿易協定をワロン地区が拒否したことが示すように、望ましい決着がつくとは思えない。

カーニーを激励するべきだ。

FT October 31, 2016

Brexit Britain can balance immigration and single market access

Sunder Katwala

VOX 31 October 2016

The fundamental factors behind the Brexit vote

Sascha O. Becker, Thiemo Fetzer, Dennis Novy

FT November 1, 2016

Brexiters who bully Bank governor Mark Carney will target others

Janan Ganesh

SPIEGEL ONLINE 11/01/2016

Ms. Brexit

Theresa May Seeks to Reinvent Britain

By Christoph Scheuermann

The Guardian, Wednesday 2 November 2016

The Brexit war can still be won, but we must start fighting back

Will Hutton

イギリスは1945年以来の平和時における最大の危機に直面している。Brexitの国民投票は、その後の離脱過程を示しておらず、その結果、立憲的、政治的、法律的な危機に陥っている。経済停滞は長引き、確実に、不況になるだろう。リベラルで、寛容な、外向きの国が、非リベラル、不寛容、内向きの国家に変わりつつある。

すでに不確実性の高まりによって、投資家のストライキが起きている。イギリスには500社以上の多国籍企業が展開しており、1兆ドルの直接投資による資産がある。それは中国やアメリカに匹敵する。EU離脱は投資に深刻な影響を与えるだろう。ポンド安による輸出増も期待通りには進まない。経済システムが弱くなっているからだ。

イギリス社会は、強いショックを吸収するのにふさわしい状態でなくなっている。世代間、地域間、階級間で、所得や資産が不平等化している。不況になれば財政赤字がさらに増え、それだけ政府支出による積極的なプログラムは失われる。

国境を管理し、外国人を排斥するのは、改革プログラムではない。それはグローバリゼーションからの撤退、封鎖と停滞のプログラムだ。イギリスはEUを離脱してはならない。離脱派は、民主的な投票結果を翻すことはできない、と言う。しかし民主主義とはたえざる討論であり、熟慮である。1度きりの投票を永久化することではない。

単なる再投票の要求ではなく、それ自体が一部であるような、改革プログラムを議論することだ。所有権、金融・技術革新、など、イギリス資本主義の目標を変更する。労働組合は「ギグ・エコノミー」の挑戦に対抗する。市民にとってのリスクを抑制し、新しい、弾力的な、スキルを重視した社会保障システムを築く。公共政策を積極的に展開できる広範な基礎に立つ税制を構築する。

これは何よりも政治過程である。中道左派の労働党議員たちがグループを立ち上げたことを私は歓迎する。

Bloomberg NOV 2, 2016

What Canada Can Teach Post-Brexit Britain

Clive Crook

CETAを合意したカナダが称賛されている。しかし、カナダは移民を管理できるし、他国との通商条約を互恵的に交渉できる。

カナダはカナダであり、アメリカの一部ではない。グローバリゼーションの中で主権は存在しない、と言われるが、そうではない。クリントンは女性の権利を強く主張したが、メルケルは保守的な価値を支持し、慎重だった。しかし、クリントンより、メルケルの方が女性の社会的進出や政治活動を刺激している。

FT November 3, 2016

Article 50 notification is taken out of Theresa May’s hands

David Allen Green

FT November 4, 2016

A Brexit thunderbolt from the High Court


l  ヒラリー・クリントン

FT October 29, 2016

Clinton needs more than competence to quell America’s anger

Simon Schama

8年前、人種の壁が問題である、とわれわれはナイーブに信じていた。だからオバマはそれを克服するために努力し、差別主義的な白人にも説得した。しかし、彼らはバーサーとなり、トランプの暴言を支持するようになった。

クリントンが当選しても、文化戦争は終わらない。クリントンは、子供たちがアメリカの将来に希望を見出すように、この国を再建する、と言う。そのためには、リンカーンの雄弁さと、エレノア・ルーズベルトの道義的な決意が求められる。

FT October 31, 2016

FT endorsement: For all her weaknesses, Clinton is the best hope

NYT OCT. 31, 2016

What Do Clinton and Merkel Have in Common?

Anna Sauerbrey

NYT NOV. 2, 2016

Why America Needs a Female President

By ANGIE KIM

Bloomberg NOV 2, 2016

What Clinton Could Learn From Merkel

Leonid Bershidsky

クリントンとメルケルを比較すると、何がわかるか。多くの類似点がある。他方で、違う点は、メルケルが正直だと思われていること。クリントンを正直だと思うアメリカ国民は少ない。


l  トランプ・ショック

Project Syndicate OCT 29, 2016

The Consequences of a Trump Shock

SIMON JOHNSON

トランプが当選するとしたら、そのショックに世界経済は耐えられるのか? 残念ながら、株式市場は暴落し、世界経済は不況になるだろう。

最も顕著な不安材料はヨーロッパにある。イギリスの離脱問題、ユーロ圏の銀行システム、低成長による、スペイン、イタリアの不安。中所得国、新興市場の成長も弱い。

トランプが勝利すれば、輸入を遮断する政策を即座に実行するだろう。それはアメリカ経済に急ブレーキとなる。トランプ不況はヨーロッパに波及し、全面的な不況をもたらすから、深刻な銀行危機、銀行の破たんが生じる。

FT November 1, 2016

Investors face political risk whoever wins in the US election

Tina Fordham

喜劇と笑劇との間をうろうろした選挙戦が、FBIの捜査再開で劇的な変化を示したが、なお世論調査ではクリントンが優勢だ。

クリントンの勝利は、アメリカと世界秩序にとって常態への復帰を意味するだろうか? いや、それは気が早い。投資家たちは、アメリカ大統領選挙の結果にかかわらず、先進経済に生じた新しいタイプの政治リスクに悩まされる。

まず、市場が安心した後、当然に気づくことは、分裂した議会が膠着状態を続け、政府債務の上限をめぐる瀬戸際戦略を繰り返し、改革は進まない、ということだ。

UKEU離脱投票、トランプの台頭が意味するのは、先進経済の政治が示しつつある新興市場(EM)への転換だ。

政敵を汚職の罪で投獄すると脅迫し、陰謀論をまき散らす、トランプの選挙運動と彼の支持者たちはEM政治教本に従っている。政敵が当選する資格はないと主張するだけでなく、アメリカの政治制度に対する疑念を公言する。共和党員の多くが、選挙は操作されている、と信じている。

最も警戒するEM政治の兆候は、トランプが選挙で敗北しても、その結果を受け入れない、と言及したことだ。民主的な選挙の原則を否定する。その反抗的な姿勢は、市民的な抗議ではなく「負け惜しみ」であり、投票者への脅迫、暴力の示唆である。

EM政治リスクが先進経済に至る経路は、政治制度やエリートへの信頼が低下したことだ。政界やビジネス界のエリート、専門家たち、メディアが疑われている。ポピュリスト型ウィルスに対して政体に免疫を与えるのは、単なる経済成長ではなく、将来への希望、信頼である。信頼が崩壊したことは多くの数字に示されている。

アイデンティティーや文化のようなソフト面で、技術革新に加えて、社会の解体や不安が増幅する。人々は、変化のスピードが速すぎる、と感じている。この傾向は金融市場の反応に最も鋭く示されるだろう。

トランプが敗北しても、信頼の低下、アイデンティティー政治、人口の分断、は発展した地域に残る。来年は、ドイツ、フランス、オランダで選挙がある。Brexitの交渉や、クリントンの政権運営にも影響する。それはおそらく、大統領への捜査、断崖のリスクが継続する、ということだ。

経済成長、支持率、選挙結果、これらの旧来の結びつきは失われた。新興市場の旧来からの常態が、先進経済の新しい常態になる。その世界経済に及ぼす影響ははるかに重大だ。

NYT NOV. 2, 2016

Donald Trump Voters, Just Hear Me Out

Thomas L. Friedman

NYT NOV. 3, 2016

5 Reasons to Vote Trump

Nicholas Kristof


l  中央銀行と政治

Project Syndicate OCT 29, 2016

Would Higher Interest Rates Boost US Growth?

J. BRADFORD DELONG

Blackstone CEOである Tony JamesFTに書いた「アメリカ経済復活のために、金利を引き上げよ」というのは、非常に悪い考えだ。

もし過去6年間にアメリカ連銀が金利を引き上げ、今の金利が4%であるとしたら、何が起きたか考えてみることだ。

おそらくJamesは、金利を引き上げても企業は投資計画を合理化しない、と考えるのだろう。しかし、もちろん、多くの企業はそうする。例えば建設業では、特に沿岸部で、金利が重要な役割を果たす。不動産価値は金融コストと利用可能なキャッシュ・フローに強く反応する。同様に、消費や零細企業の行動も影響を受ける。

連銀はキャッシュを追加供給したので、金利は低下した。もし連銀が金利を維持していたら、キャッシュは生産的な投資から失われ、余剰資金を増やし、支出が減少しただろう。アメリカ経済は新しい不況に入ったのだ。

Project Syndicate OCT 31, 2016

Investment for Sustainable Growth

JEFFREY D. SACHS

世界経済の大きな失望とは、投資率の低さである。2008年の金融危機に至るまで、高所得諸国の経済成長は住宅や個人消費によって高められた。しかし危機が起きると、2つの支出は急減し、投資の遅れは埋められていない。こうした事態を変えねばならない。

世界の多くの中央銀行が金融緩和したが、その効果にも限界がある。しかも、コストが高まっている。投資の質は悪化し、投機が広まる。金融政策が引き締めに転じるとき、資産価格の暴落リスクがある。

鉄道、道路、港湾、低炭素エネルギー、安全な飲み水、衛生、健康、教育、こうした分野に長期投資が必要である。公共政策、国際税制の不確実性は民間投資を減少させている。

どのプロジェクトを、公共部門と民間部門の協力により、どのような財源で行うか? 政府は決定しなければならない。国連・持続可能な開発目標The Sustainable Development Goals (SDGs) と気候変動に関するパリ協定the Paris Climate Agreementこそ、低金利状態を利用して、このような投資するプロジェクトとして適当である。

NYT OCT. 31, 2016

Was Alan Greenspan Motivated by Politics More Than Economics?

By JUSTIN FOX

Bloomberg OCT 31, 2016

Central Banks Weigh Different Policies Under Similar Constraints

Mohamed A. El-Erian

3つの中央銀行がそれぞれ異なる形で難問に答えようとしている。

イングランド銀行は、インフレ率の上昇もあるが、政治的な攻撃にさらされている。Brexit後の不確実性に対する金融緩和を続けながらも、予想より経済は好調であることから、スタグフレーションのリスクを警戒しつつ、当面は静観するだろう。

日本銀行は、政府が構造改革で前進しない限り、金融政策でできることは限られる、とわかっている。

アメリカ連銀は、最も好調な経済を監督しつつも、大統領選挙の巨大なリスクに警戒している。これは「ルーズ・ルーズ」の条件であり、金融政策はより不透明で、リスクを高め、選挙が終わるまで遅れがちになり、状況が悪化していく。

政策思想やプログラムは転換しつつあるのだ。金融政策に過度の依存する状態から、より包括的な構造改革を示すときだ。

Project Syndicate NOV 1, 2016

Central Banks and the Revenge of Politics

OTMAR ISSING

中央銀行への称賛は正規転換期に頂点となり、2008年の金融危機では、中央銀行への過剰な期待、中央銀行総裁の人格化、過剰な負担をもたらした。すでにインフレ目標や様々な戦略は崩壊している。マクロ・プルーデンシャルだけでなく、ミクロ・プルーデンシャルを求められ、この問題では強い政治的圧力にさらされる。

特に、ECBの責任は制度的に重くなりすぎている。物価の安定性を求められる限り、守られてきた中央銀行の独立性が、ますます国内社会の政治的対立に影響されるようになっている。

Project Syndicate NOV 1, 2016

The New Fiscal Reality

JEAN PISANI-FERRY

これほど財政赤字が債務を膨張させているときに、財政刺激策を採る余地はあるのか? 一方では財政再建策の信頼性、他方では、例外的な低金利を活かした特別な投資計画を立てること。

Project Syndicate NOV 2, 2016

Big Danger at the Lower Bound

KENNETH ROGOFF

超低金利の問題は、次の深刻な危機に対して金融緩和する余地がない、ということだ。マイナス金利やフォワード・ガイダンスだけでなく、保護主義の採用や、構造改革の中止を求めることも、非常に困惑する政策だろう。

Project Syndicate NOV 2, 2016

A Perfectly Crazy Idea for the IMF

UGO PANIZZA

VOX 02 November 2016

The New View of fiscal policy and its application

Jason Furman

Project Syndicate NOV 3, 2016

An Agenda for Global Fiscal Activism

JIM O'NEILL

英米両政府は、財政政策による刺激についてもっと積極的な姿勢を示すべきだ。それは新興市場の経済回復にも大きく影響する。


(後半へ続く)