IPEの果樹園2016

今週のReview

10/31-11/5

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アメリカ大統領選挙の意味 ・・・ドゥテルテの北京訪問 ・・・Brexit論争とポンド下落 ・・・合法的な移民労働者の枠組み ・・・アレッポ住民の選択 ・・・アメリカのシリア介入 ・・・金融政策の迷走 ・・・中国のバブル崩壊

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  アメリカ大統領選挙の意味

The Guardian, Thursday 20 October 2016

We’ve seen Donald Trump before – his name was Silvio Berlusconi

John Foot

トランプ現象は「事実を無視した政治の時代」に入ったことを意味すると言われる。しかし、22年前に、事実を無視した政治が一定期間を支配した。それはイタリアのベルルスコーニSilvio Berlusconiである。

彼が立候補したとき、最初の反応は嘲笑だった。彼の政治運動Forza Italia – Go for it, Italyを反対派の政治家たちはジョークとみなした。

しかし、Forza Italiaはすぐに最大の「政党」になった。労働者階級の共産党が牙城としてきた地区でも、無名の精神科医がベルルスコーニの運動によって、長期に議席を維持してきた労働組合運動家を倒した。ベルルスコーニは勝利しただけでなく、左派の衣装を奪い、その支持者をもぎ取った。最初の内閣は短命であったが、その後も政界を20年間支配した。彼の首相在任期間は、ムッソリーニと、19世紀の偉大なリベラル派であるジョバンニ・ジョリッティに次いで、3番目の長さである。

ベルルスコーニとトランプの共通点は多い。成功したビジネスマンで、その企業には不正の疑いがある。脱税、会計操作、オフショア・カンパニー。ビジネスの成功とばく大な資産が政治的なアピールだ。自分を常に政治的なアウトサイダー、反エスタブリシュメントと位置付ける。その主張はポピュリストであり、自分の「パーソナリティー」が重要だ。

ベルルスコーニはイタリア政治を変えた。その後のレンツィも、Five Star Movementのグリロも、その影響は明らかだ。戦後の大衆政党は次第に意義を失っていたが、トランプが共和党を必要としないように、ベルルスコーニは政党を必要としなかった。

いわゆる失言は彼の政治戦略であった。すなわち、犬笛だ。彼はしばしば性差別的で、ホモセクシャルへの嫌悪、人種差別を示した。同時に偉大なリベラルの尊厳をまね、家族のことを重視する人物という評判を広めた。選挙はすべてが彼のことであった。政策綱領など存在しなかった。失言は常に、「誤解」として片付け、あるいは、「敵意あるメディア」の犠牲者なのだ。選挙は詐欺であり、投票箱はでっち上げられたものだ、と何度も主張した。

支持者たちを動員する際に、多くの敵を創り出した。裁判所、メディア、政界、コミュニズム、女性、EU、ユーロ。彼は「政治的な正しさ」の犠牲者であると主張した。彼は世界に約束したが、それが間違いでも気にしなかった。約束を守る気などなかった。ベルルスコーニは、有権者たちが長くは記憶していない、と知っていた。

多くの人々にとって彼のメッセージは魅力的だった。・・・私のようになれ。税金なんて払うな。人生を楽しみ、金を儲けろ。やりたいことを言えばいい。私たちはあなたの邪魔をしない。

ベルルスコーニが最も勢力を強めたとき、法律を変えて彼への告訴ができないような改変を試みたが、憲法によって阻まれた。ベルルスコーニへの反対運動は何度も起き、街頭デモも起きたが、彼を倒せなかった。彼の魅力はイタリア社会の根源にある、政治と政治家への憎悪、ポピュリズムの反面であるからだ。

トランプの勝敗にかかわらず、アメリカ政治の転換も避けられない。

NYT OCT. 20, 2016

How to Repair Moral Capital

David Brooks

人生のすべてを政治に生きてきたヒラリー・クリントンは、一度も公職を経験しなかったミシェル・オバマから何かを学んだようだ。

トランプが女性を蔑視し、民主的な選挙過程を疑い、知事の経験と自分のTV番組とを対比したことに、クリントンは道義的な情熱、明晰さ、軽蔑をもって答えた。

彼女たちは政治家として発言したのではない。ミシェルがしばしばそうしたように、親として発言したのだ。政治家は、「有権者の支持を得るために何ができるか?」と考える。親は、「子供たちが自宅を出たら、どのような世界に入っていくのか?」と考える。

政治家は個人の利害に焦点を当てるが、親は社会的、経済的、道義的な環境に関心を持つ。

この醜い選挙の年に、1つの見通しを与える。この国の道義的資本moral capitalが消滅しつつある。この過程を阻止し、逆転することが緊急課題である。

道義的資本とは、共同生活を可能にするような習慣、規範、制度、価値の組み合わせである。人類は、どこまでも利己的になる余地がある。権力をめぐる争いは野蛮さに向かう傾向がある。だから品のある社会には多数の制約に合意している。丁重さ、謙虚さ、利己的であることを抑えて相互に敬意を払い、和解に導くこと。

この年、トランプはこうした制約を次々の破壊した。

確かにクリントンもこうした過程を強めた。しかし、トランプは道義的資本にとって最大の脅威である、と彼女が強調したのは正しい。この資本を守ることは、いかなる政策判断よりも重要だ。「道義的コミュニティーは壊れやすい。それは築くことが困難で、破壊することは容易である。」とJonathan Haidt(社会心理学者)は書いた。

われわれは道義的資本の回復という大きな課題に直面する。2016年の1つの教訓は、もし誰かが野蛮な表現、女性蔑視の行為で、社会的・道義的な枠組みを破壊するなら、税金や最高裁に関する意見が何であれ、そんなことは重要でなくなる。そのような人物を拒否するか、あるいは社会全体が劣化して、政治の質が保てなくなるだろう。

トランプの台頭が示した社会的亀裂に対処しなければならない。左派でも、右派でも、多くの憤慨するポピュリストたちに対して、社会的結束をともなうダイナミズム、連帯を重視したグローバリゼーションに導く政治運動で反撃することは可能である。自由貿易を支持し、熟練労働者に国境を開放し、エスニックの多様性を支持し、アメリカが指導する自由な世界秩序を推進するだけでなく、ローカルなコミュニティーを再生し、経済の確実さ、道義的な結束、愛国心を国家が促進する。

言い換えれば、それはマクロ経済の保守主義と、リベラルな移民政策、道義や市民権に関する伝統、スウェーデン型の福祉国家政策、世界に占めるレーガン大統領風のアメリカ、これらを同時に満たすものだ。

2016年の大統領選挙は共和党や民主党のイデオロギーが破たんしていることを暴露した。トランプがもたらした良いことは、多くの人々が発言し、それらに代わる政治を求めたことだ。


l  ドゥテルテの北京訪問

FT October 24, 2016

America’s grip on the Pacific is loosening

Gideon Rachman

人民大会堂の聴衆が歓声を上げた。フィリピンのドゥテルテ大統領がアメリカとは「分離」し、中国との新しい「特別な関係」を表明したからだ。

この人物の放言は甚だしいが、このドゥテルテ旋回が持つ重大な意味を、アメリカの戦略家たちは心配し始めている。アメリカとフィリピンは太平洋における巡視活動で合意してきた協力関係を停止する、という。次期大統領になれば、クリントン夫人が最も重視するシーレーンの防衛、南シナ海における航行の自由を「深刻な国益」とみなす立場に対立するだろう。

中国が南シナ海に築く人工島や空軍基地に関して、フィリピンの姿勢は決定的に重要だ。しかも、フィリピンの戦略転換は、ある意味で、東南アジアの迫られている転換の一部を意味している。来年はフィリピンがASEANの議長国だ。

東南アジアにおけるこうした後退を阻止するために、アメリカは新しい外交的、戦略的な機会を探さねばならない。この地域で中国が支配を拡大することに反対し続けることが明確な国は、ベトナムである。今月、アメリカの2つの戦艦the USS Frank Cable and the USS John SMcCainが、ベトナムのカムラン湾にある海軍基地を訪問した。1975年にベトナム戦争が終ってから、初めての訪問である。

ベトナム戦争が最も激しかった頃、カムラン湾はアメリカ海軍・空軍が北ベトナムを攻撃する重要な拠点であった。もし、中国の台頭がアジアを非常に深く変化させたために、ベトナムがカムラン湾にアメリカ軍を招待するとしたら、それは歴史の皮肉である。今回、アメリカはベトナムの敵ではなく、その同盟国である。


l  Brexit論争とポンド下落

Project Syndicate OCT 21, 2016

The Case for UK Import Substitution

ROBERT SKIDELSKY

Brexitの最も劇的な効果はポンド価値の崩壊だ。通貨バスケットに対して16%下落した。イングランド銀行のメルビン・キング前総裁はこれを「歓迎」した。経常収支赤字がGDP7%もある経済にとって、減価は経済ブームをもたらすだろう。しかし、そうだろうか?

そのためには通貨の減価に対して輸出財の需要が増えなければならない。しかしUK輸出品の需要の価格弾力性は低い。最近の研究によれば、輸出の長期的水準は実質為替レートに関係ない。

従って、イギリスの消費者が減価のコストをすべて負うことになるだろう。2008-09年、世界がデフレに瀕していたとき、UKはインフレ的な不況にあった。GDPは最高で年6.1%も縮小し、同時にインフレ率が5.1%であった。ポンドが21%も価値を失ったからだ。

2011年には経常収支赤字がGDP1.7%まで縮小したが、それは一時的な改善だった。その後、ポンドは元の水準に戻っていないが、赤字は増加した。輸入財と輸出財の価格弾力性が異なるのだ。その理由は、イギリスの製造業部門が大幅に減少したことだろう。かつてニコラス・カルドアが指摘したことだ。

さらに1990年代以来の構造改革が、イギリスの輸出部門をグローバルな部品供給に深く統合してしまった。その結果、イギリスの輸出には多くの輸入が必要になる。ポンドが減価すれば、それは投入財の価格を引き上げ、輸出競争力を損なうのだ。輸入された投入財が占める比率は、アメリカや日本が15%であるのに、イギリスは23%である。

UKがポンドの下落を止めるのはシティへの資本流入に頼るしかない。しかし、こうしたポンド需要は非常に不安定である。最悪の場合、急激なポンド下落がインフレをもたらし、イギリスの輸出価格も上昇して、さらなるポンド下落を強いる。発展途上諸国でしか見られないような大幅な消費者の実質所得減で(輸入が減って)、この悪循環を止めるしかない。

より起こりそうなシナリオは、緩やかな腐食である。繰り返されるポンドの下落によって、ポンドで稼ぐ人々の生活水準が悪化していく。

何をすべきか? 輸入財に対して国内財を代わりに利用するような政策介入をするべきだ。古典的には輸入規制だが、貿易ルールに反する。労働党が提唱している国家投資銀行を使って、輸入代替産業に投資することだろう。あるいは、大蔵省が補助金を出すことだ。水準の高い輸入代替財を作る産業を育てて、その競争力が高まれば、補助金を減らしていく。

イギリスの輸入をGDP30%程度から1970年以前の20%程度に下げるのが望ましい。何もしなければ、イギリスの成長は永久に損なわれるだろう。デフレ経済をインフレにし、インフレ的な経済をデフレにすることはできるだろう。しかしその結果、重要な外国市場へのアクセスを失うのであれば、それは後戻りできない。

FT October 25, 2016

Britain must pursue a ‘hard Brexit’ to create a more open economy

Ryan Bourne

残留派は今も、EU離脱は永久にイギリスを貧しくする、と考えている。それではまるで、EU内のUKがダイナミズムの最高点にあるかのような話ではないか。

他の非EU諸国が示すように、政治的独立を、経済的な成功にとって、恐れる理由はないのだ。Brexitは機会を与えるのであり、一層のオープン型経済に向けた圧力を生じるのだ。

EUとは何か? 第1に、関税同盟である。そして、ハードBrexitWTOルールによる一方的な自由化に向かっても、それはEUの怪物管理体制を破棄するだけのことだ。消費者物価は低下するだろう。長期的な実質的利益は、イギリスが比較優位を生かすことで生じる。

既得権を持つ生産者がそれに反対している。残留派の支持者は、激しい競争にさらされる製造業者や農家である。しかし、もしEUにおける競争を歓迎するなら、なぜグローバルな競争を歓迎しないのか? EUの共通農業政策は、納税者に高いコストを強いて、革新を妨げている。

1980年代のニュージーランドは、自由化が達成できるものを示している。その国の羊の数は半減し、牛や羊を飼う農家は3分の1も減少した。しかし、農家は大規模化して生産的になった。フルーツやワインの生産量は急速に増大し、鹿肉の業界が誕生した。サプライ・チェーンの革新もあって、世界価格による貿易は成功した。

3の要素は、規制の共通圏である。しかし、イギリスが特化しているサービス分野では規制が弱い。

単一市場からの離脱派直接投資を減らすだろう。移民流入にも規制を強める。しかし、イギリスは孤立するのだろか? むしろUKは一層の開放を求める圧力を受けると思う。また、サービス分野の貿易に成功するほど、それには人の移動がともなう。

FT October 26, 2016

Tragic legacy of Britain’s indecision over identity

Harold James

イギリスがヨーロッパの統合プロジェクトの中心に加われない強力な理由がある。イギリスは地理的に島国である。近代的な国家の成立においてローマ・カソリックから分離した。そして政治経済的な理由だ。フランスとドイツには、衰退していく巨大な農業部門があり、低生産性の、反抗する農業労働者たちがいた。しかし、イギリスではそのような問題が存在しなかった。

何よりも、イギリスは近代ヨーロッパの核心にある独仏の心理的な葛藤に戸惑い、距離を感じていた。アデナウアーとド・ゴールは、自国のエリートたちに裏切られ、戦争と征服と独裁をもたらした国家を再建しようとした。歴史的な深い傷を克服するために、他国を包摂することでのみ治癒される、という神秘的な考え方を、ド・ゴールは展開した。

イギリスは、この問題の多い結婚で傍観者にとどまった。ドイツは、地中海諸国からの国家介入主義に対抗するため、UKを仲間にした。フランスは、ますます協力になるドイツに対抗するため、UKを求めた。その過程で、イギリス人は間違った感覚を持ったのだ。独仏の求めは同時に成り立たない。

論争はイギリスの主要政党が抱える内部の亀裂を解体に向かわせる。保守党大会におけるメイの独立に向けた演説も、コービンの一国社会主義論も。その論争は、1688年の名誉革命の後、あるいは、19世紀半ばの穀物法撤廃の後、イギリス政治が大改造されたことに似ている。どちらの場合も、新しい政党が誕生した。

UKとヨーロッパとの関与を問題にするより、世界への関与を問題にするBrexit後には、財と人と資本が移動することを管理するルールが求められる。この小さな島が、危険な、不安定化する世界に対して、どのように影響力を行使できるのか、有権者を力強く説得できる政党が必要なのだ。


l  合法的な移民労働者の枠組み

NYT OCT. 25, 2016

If Immigration Can’t Be Stopped, Maybe It Can Be Managed

Eduardo Porter

非合法移民について何ができるか?

トランプが提案する国境の壁は答にならない。壁はすでにあるからだ。長い国境線沿いにフェンスがあり、ドローンとセンサー、そして小規模な要員が補完している。

20年間、2000億ドルを費やして、連邦政府は移入民を規制することに失敗してきた。登録されていない移入民が1100万人にまで膨張したのだ。むしろ最善の方法は、メキシコとアメリカが協力して、低熟練メキシコ人労働者にアメリカで働く合法的な道筋を示すことだ。

これは雇用者に安価な外国人労働者を与えて、アメリカ人労働者の賃金を切り下げるだけ、と見えるだろう。クリントンもトランプも、選挙でこんなことは言えない。しかし、これは唯一の正しい戦略である。

1940年代から60年代まで、この考えが実行されていた。ブラセロ計画だ。1950年代後半、そのピーク時に、40万人以上の一時雇用ビザが発行され、メキシコから来た多くの労働者が農場で働いた。非合法移民はほぼゼロになった。

同様の枠組みを、学者や政策担当者が提唱している。“Blueprint to Regulate US-Mexico Labor Mobility”である。1964年に労働省がブラセロ計画を廃止したとき、農業労働者の低賃金が問題になっていた。しかし、その後も賃金は上昇せず、未登録の移民労働者が増えた。

ゲストワーカーに関する批判の多くは正しい。ブラセロ計画には欠陥があり、悪用された。労働者たちは1人の雇用主に縛られた。現在、すでにH-AH-2Bの一時雇用ビザが存在する。これにも多くの濫用が報告されている。しかし、アメリカとメキシコの両政府が協力すれば、多くの問題を解決することは可能だ。

雇用主はメキシコ移民を雇用する際に手数料を支払い、それがアメリカ人労働者を優先して雇うように促す。メキシコ人労働者への支払いは大部分が貯蓄されて、彼らが帰国した際に引き出せる。移民労働者へのビザ発行は労働市場の需給に合わせて調整される。


l  アレッポ住民の選択

FT October 26, 2016

Aleppo and Mosul — two sides of the same sprawling war

Roula Khalaf

緑のバスに乗るか、死体になるか? アレッポ東部の住民に、シリア政府のジェット戦闘機から散布されたパンフレットである。ダマスカスとモスクワは、3日間の「人道的通路」を宣言した。

同じころ、他の説明書も住民たちに配布された。それはアメリカが支援する同盟軍が、イラク北部のモスルをISISから解放するために、配布したものだ。空爆の際に、どのように安全にとどまるかが説明されている。難民流出を防ぎ、住民の生活を維持しようとしている。

アレッポとモスルは、同じ戦争の異なる側面である。しかし広大な中東の混乱状態においては、その違いは容易に無視される。

ウラジミール・プーチンはこの混同を助長しているようだ。ロシア軍によるアレッポの空爆を、西側は戦争犯罪と非難しているが、アメリカとその同盟軍がモスルを攻撃するにつれて、ロシアの罪を一時的に忘れるだろう、というわけだ。ロシアはイラクの都市を指さして言う。そこに市民がいるではないか? 爆撃することで犠牲者が出る、と。

2つの町の不幸は、同じスンニ派の悲嘆から生まれた。2011年、シリア、アレッポの多数派であるスンニ派は、少数派のアラウィート派が独裁体制を強いることに反対する運動に参加した。イラクでは、2年前、イラク北部にISISが侵攻し、モスルを制圧した。それは住民の多数派がスンニ派で、バクダッドのシーア派政権により弾圧されていたからだ。

2つの町はよく似た終焉に向かっている。アレッポでは、テロリストへの攻撃と称して、シリア政府軍とロシアの戦闘機が反政府派の住民を爆撃している。他方、モスルは、狂信的な過激派たちが町を暗黒時代に戻そうとした。イラク政府軍とクルド人の部隊が、西側の空爆や特殊部隊による支援を受けて、ISISを敗退させ、住民の解放を目指している。

モスルの解放は、ISISの撤退だけでなく、住民たちの扱いによっても評価されるだろう。イラク政府軍が奪還したスンニ派地域の記録は良くない。住民たちは政府軍やシーア派民兵の報復を恐れている。

モスル住民は、アレッポと同じような人権蹂躙を免れ、プーチンが予告したような惨劇を回避せねばならない。アレッポは処罰されつつあるが、モスルは救出されるのだ。


l  アメリカのシリア介入

FP OCTOBER 24, 2016

The Great Myth About U.S. Intervention in Syria

BY STEPHEN M. WALT

シリアへの軍事介入を主張する声が再び高まっている。彼らの中には、残酷な事態が起きていることを知りながら、アメリカが行動する「意志」を示さなければ、アメリカの評価は失われる、という理由で、軍事介入を要求している。それはアメリカの衰退を加速する、というわけだ。

私はアメリカがシリア内戦に介入するべきではないと考える。もちろん、その最初から、アメリカはさまざまな形で関与してきたのだが。私はその目標に関しては同意するが、それを達成するために軍隊を派遣することには反対だ。そのような決定は、結局、流血の事態を止められないし、報復を招くし、一層の過激派の参加をもたらすだけだろう。

特に、軍事介入を支持する者が、戦後のシリアの政治体制のあり方に関して何も説得的な目標を示さず、そこに至る道も示していないことは重要だ。イラクでも、リビアでも、その独裁体制を崩壊させた後、アメリカは新しい秩序を構築できなかった。

私が何より拒否するのは、軍事介入を抑制することが、アメリカのパワー、イメージ、評価を損なう、という主張だ。そのような意見に根拠はない。実際、アメリカは多くのケースで軍事介入をしなかった。それがアメリカ外交に大きなダメージを与えたことなどない。

パキスタンの分離独立、冷戦下の多くの事件、カンボジアのポルポトによる虐殺、エル・サルバドルやグアテマラにおける極右武装集団による虐殺。

問題は、人道的危機にアメリカが介入するべきかどうか、ではない。アメリカがそのパワーと情報を駆使することが、受け入れ可能なコストで、事態を改善するか、ということだ。


l  金融政策の迷走

Project Syndicate OCT 25, 2016

Taking Monetary Policy to the People

HOWARD DAVIES

中央銀行の独立性は、これまでのように、議論の余地がないことではなくなった。非伝統的な量的緩和にまで踏み込んだことで、預金者の不満や弊害について、以前のコンセンサスは動揺している。独立性とは、国民に対する高度な説明責任と透明性によって与えられているものだ。

Project Syndicate OCT 26, 2016

What Could Go Wrong in America?

MARTIN FELDSTEIN

アメリカ経済の状態は良好だ。しかし、1年後の経済が悪化しているとしたら、その原因は何だろうか? 金融資産の価格が正常な水準を大きく超えていることは暴落のリスクを意味しており、それゆえ連銀は短期金利を引き上げるのをためらっている。


l  公的年金制度の改革

Project Syndicate OCT 24, 2016

The Creeping Public-Pension Debacle

BILL EMMOTT

もし発展した諸国が合理的に行動するなら、有権者が支払った税金の使い方について関心を持つなら、その公的年金制度の支払い開始年齢を70歳以上にするだろう。改革に取り組まないことで、西側の福祉国家は財政的に衰微し、経済的に病弱で、政治的に緊張状態を強める。

高齢化は、社会的、経済的に見て、地球温暖化に等しい。人々は負担を将来世代に先送りする。しかし、公的年金制度に関するつじつま合わせは、温暖化以上に、高いコストをもたらす。

1970年、フランスの男性労働者が引退する実質的な平均年齢は67歳だった。それは当時の平均寿命と同じだった。今では、引退する年齢が60歳を切り、平均寿命が83歳に近い。OECD加盟13か国のGDPから10%が公的年金に支出されている。

ドイツのビスマルク首相が世界最初の国家による年金制度を1889年に導入したとき、年金給付は70歳からだった。ほとんどの人がそれほど長く生きなかったし、多年の給付を受けることもなかったのだ。先進諸国の人口の5分の1が(さらには3分の1が)65歳以上になることから、公的年金への支出は政府の他の支出をクラウド・アウトしてしまうだろう。それは、インフラ整備、教育、研究・開発、防衛、その他の重要な公的支出を削減することにつながる。年金生活者は、それを支出するから、無駄になるわけではない。しかし、より高い成長をもたらすものでもない。

労働組合は今も公的年金制度の改革に反対している。また、政治家によっては、雇用の塊が固定的であるという間違った考えから、年金給付によって高齢者が労働市場から退出する方が、若者の雇用に好ましい、と考えている。それは間違いだ。引退を遅らせることは雇用を奪うのではなく、むしろ雇用を創出する。また、企業もコスト削減のために高齢者を解雇するより、高齢者の雇用を継続する・増やすような条件を提示するべきだ。


l  中国のバブル崩壊

Bloomberg OCT 25, 2016

China Can Resist a Crash But Can't Prevent One

Tyler Cowen

7%8%の高い成長を多年にわたって実現した多くの経済が,オーバーヒートして,バブルとその破裂に至る.1980年代,90年代に,韓国や日本で起きたことだ.しかし,中国経済は成長を保ち(公式統計で6.7%),破局論者たちの予測を裏切った.今年の景気回復を示すデータもある.

しかし,崩壊の危機は去っていない.不動産市場のバブルを示す多くの証拠があり,経済はますます政府の刺激策と民間融資の拡大に依存している.

いくつかの理由で,中国経済は西側のモデルと異なっている.それゆえ,経済予測はバブルの分析というより,レースの勝者を予測することに近い.

アメリカと違い,中国には国有企業が多い.その事実は,中国政府に巨大な資産のストックを操作する能力を与える.悪いニュースがあっても,政府は企業に資産を使って支出し,雇用を維持するように指令できる.それは財政刺激策のようなものだ.不況になると,西側経済において即座に所得を減らすが,中国では資産の減少に転換され,大きな景気後退をまぬがれる.

それは有益であるかもしれないが,同時に,悪用される.中国の倒産はあまりにも少なく,過剰な生産力,非効率な企業が残されている.

1つの問題は,企業の資産が尽きる,あるいは,もっと前に,国有企業の経営者たちが異なる政策を要求することだろう.そして,もう1つの問題は,あまりにも多くの非効率な企業が生き残る,ということだ.最終的に,激しい不況が起きた場合,アメリカが金融危機の際に持っていたような,さらにひどい不況を回避するための資産がなくなってしまう.

中国は貧しい国であり,危機を回避するために資産を失っている.外貨準備が減少し,債務の水準が急速に高まっているのも,その現れだ.

エコノミストたちは,この10年間,中国の経済システムには,欧米の経済システムより,はるかに長く危機を遅らせる能力がある,と知った.

では,経済危機は起きないのか?

中国には,それを支持するいくつかの要因がある.労働生産性の上昇,生産性を高める都市への人口移動,外国からの技術移転.そして,かつてほどではないが,自由化と政策の改善である.企業の不調に対して,こうした要因は救済を可能にしていた.投資低迷や債務の負担が深刻になる以上に,財政政策は十分に長い間,成長を維持できる,と考えるかもしれない.

だが悲観的に考えるなら,中国人はまだ経済危機を脱したわけではなく,政策担当者たちは,ますます短期的な,政治的権力を維持することに焦点を向けている,と見るだろう.大きな不況を回避するたびに,より多くの債務,より過剰な投資が残っている.それは一層のプラスの要因を必要とするが,生産性の上昇や都市化は減速しつつあるのだ.

これは競争である.このレースの結果に,世界経済は大きく依存している.政策担当者が勝利することは次第に難しくなっている.私は,キャッチアップのプラス要因がいつでも勝利する,とは思わない.

中国にとっての1929年は,まだ,その登場を延期されていたとわかっても,私は驚かない.

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The Economist October 15th 2016

The debasing of American politics

Intervention in Yemen: The forgotten war

China’s property market: Rotten foundations

Sterling: Taking a pounding

Hong Kong politics: No swearing

A policeman’s lot: Not happy

US-Mexico trade: In the shadow of the wall

The rise of Syria’s White Helmets: Local heroes

The United Nations’ secretary-general: Can the next man do better?

Chinese property: When a bubble is not a bubble

Buttonwood: Flash and the firestorm

China today (1) To have and to hold

(コメント) クリントンが勝つだろうが,共和党は議会上下院を支配して協力を拒むのではないか.クリントン大統領は行政命令に頼り,予算の成立を阻まれ,行政府の閉鎖や債務不履行の脅迫,弾劾裁判請求,政府に正当性はない,というイメージが広まる.

サウジアラビアによるイエメンへの軍事介入をなぜ西側は支援するのか? 石油を,資本を,軍隊を,西側は中東においても維持し,望ましい形に転換するため関与を強めるしかないからだ.そのためにも,戦争犯罪を裁く国際法を尊重するべきだ.

中国のバブルに関して,アメリカとメキシコの貿易と投資がもたらした統合経済に関して,国連事務総長の決定に関して,ポンド価値下落に関して,興味深い記事が読めます.

シリアに生まれた,爆撃の後の瓦礫からの人々を救出するボランティア部隊の存在に,戦争の高貴な側面を観ます.

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IPEの想像力 10/31/16

中国では,昨年,株式市場の投機的な取引がバブルを生じ,崩壊しました.その後,世界金融危機を回避したものの,下落したはずの住宅市場のバブルが再燃し,債務による取引が過熱している,と警告する報告や記事が増えています.

立ち退きを拒む住宅が,そのまま残された形で,政府や業者が新しい造成工事を進める現象を「ネール・ハウス」(爪の家)というようです.世界各地で,林立するクレーンや都市の超高層ビルとともに,バブルを象徴する現象です.

Jo Blason, "China's nail houses: the homeowners who refuse to make way – in pictures," The Guardian, Tuesday 15 April 2014.

https://www.theguardian.com/cities/gallery/2014/apr/15/china-nail-houses-in-pictures-property-development

一方ではバブルが生じ,その破裂によって実体経済が大きく損なわれる.他方では,開発業者によって住む家を追われ,法律も政府も守ってくれない貧しい人々が増える.・・・なぜ,こうした現象が起きるのか?

バブルが生じないように,金融取引(特に銀行融資)が不動産によって膨張するメカニズムを止める方策は提案されています.これら2つの結びつきを切ることは,長期経済成長の安定化や所得分配の平等化にとって,重要な前進となるでしょう.

あるいは,人々が自分の意思に反して住宅から追い出される,住むことのできないような状態に追い込まれることは,正しい法律や制度の導入によって防げるはずです.確かに,開発業者は,住民の合意を得るまで時間がかかるかもしれません.しかし,社会の在り方を調整するのであれば,それは必要なプロセスです.調整を促す補償や代替の選択肢,合意形成を促す住民組織,公共住宅のプール,など,各地の取り組みが参考になるでしょう.

エコノミストの記事は,不動産部門が中国GDPに占める割合を約4分の1とみなし,その回復によって世界GDPに重要なダイナミズムを与えた,と評価しています.ただし,ますます投機的になり,規制は無効になっている,と注意します.

私は,かつて「大西洋経済」の長期変動と統合を描いたB.トーマスなどの研究を思い出します.今や「太平洋経済」の誕生だな,と感じたわけです.中国や西側の諸政府は,次のバブル崩壊を回避できるのか? 国境を超えた平和と繁栄を共有する時代にふさわしい,新しい政治が各地に生まれてほしい,と願います.香港の若者たちが政治に参加したように.

しかし,中国に関するM. Peiの新著を紹介する記事,持つ者と持たざる者,は深刻な事態を伝えます.共産党エリートや地方の犯罪集団により成長は私物化されており,政治においても,権力の分散がもたらした地方幹部の独裁・専横が強まっている,というのです.そして,もしこの1党独裁体制が崩壊すれば,その結果は,ロシアやウクライナで起きた混乱に近いだろう,と考えます.

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市民の居住区域や,病院,食糧貯蔵所,水道局などを爆撃して,人々の離散,消滅を狙うシリア政府は,狂気の「民主主義」であると思います.その暗黒の中から,White Helmetsというボランティア組織が誕生したことに驚きます.・・・なぜ彼らは,命を失う危険を知りながら参加するのか?

「子供や老人が,がれきの中でまだ生きている.彼らはあなたの眼を見て,希望を持ち,助けてほしいと訴える.それは(自分がそれに応えることは)素晴らしい感動だ.」

住民を瓦礫の中に取り残す不動産開発も,債務を支払えない家族を住宅から追い出す金融危機も,空爆のようなものです.アメリカとメキシコの統合経済が政治的枠組みを模索するように,日本政府のTPP法案は,成否に関わらず今後も内容を精査されるでしょう.大国の合意がこれからの世界経済に新しい性格を与えます.

日本の地方は,高齢者たちの暮らしは,その中で,どのように変わるのでしょうか?

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