IPEの果樹園2016

今週のReview

10/31-11/5

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リベラルな世界秩序の動揺 ・・・アメリカ大統領選挙の意味 ・・・ドゥテルテの北京訪問 ・・・Brexit論争とポンド下落 ・・・合法的な移民労働者の枠組み ・・・アレッポ住民の選択 ・・・アメリカのシリア介入 ・・・ロシアの戦争宣伝 ・・・金融政策の迷走 ・・・国際刑事裁判所 ・・・公的年金制度の改革 ・・・中国のバブル崩壊 ・・・アベノミクス礼賛

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  リベラルな世界秩序の動揺

NYT OCT. 19, 2016

The Decline of the West, and How to Stop It

By JAVIER SOLANA and STROBE TALBOTT

アメリカ、カナダ、そしてヨーロッパの大部分が、この70年間、平和と繁栄、民主主義のゾーンを形成してきた。この大西洋コミュニティーには9億人以上、30を超える国にまで拡大した。その成功は、アフリカ、ラテンアメリカ、東南アジアの地域協力に模範を示し、リベラルな世界秩序の基盤となってきた。

しかし、その成果が脅かされている。EUJean-Claude Junckerは「生存の危機にある」と述べた。またアメリカでは、2大政党がヨーロッパやアジアとの貿易協定に反対している。トランプは同盟諸国をバカにし、イギリスのEU離脱を喜んだ。しかも、西側の団結を壊すプーチンのような権威主義的指導者を称えている。

近代史の重要な教訓は、国際主義が世界を安定化し、好戦的なナショナリズムは破局に至る、ということだ。

1次世界大戦後のさまざまな失敗を経て、第2次世界大戦が避けられないものとなった。第2次世界大戦の勝者は、これらの失敗を繰り返さないと決意した。諸国民がコミュニティーを維持するには、価値や利害、制度を共有するだけでなく、世界最強の軍事力で守らねばならない。すなわち、アダム・スミスやイマニュエル・カントの思想だけでなく、ヨーロッパ統合のプロジェクト、大西洋主義と、それを守るマーシャル・プランやNATO(北大西洋条約機構)であった。

1970年代から、EU官僚たちはグローバリゼーションの時代を先行する試みとして強い誇りを持っていた。グローバリゼーションは、市場を開放して、不平等を抑制する、と主張された。特にアジアでは、数億人が貧困から脱出した。北米やヨーロッパにおけるグローバリゼーションのマイナス面は是正できると思われたのだ。

しかし1990年代の繁栄から、2007年、ダウジョーンズ工業平均株価が、1年後にユーロの対ドル価値が、記録的に高まった。その数か月以内に、アメリカの銀行、住宅部門が崩壊した。ヨーロッパは、アメリカ以上に厳しい景気悪化を経験した。1930年代以来、最悪の不況で、貿易も雇用も落ち込んだ。約900万人のアメリカ人が失業したのだ。

大不況The Great Recessionはヨーロッパでさらに悪化した。特に、地中海沿岸諸国がそうだ。経済危機はEUの構造的な欠陥を強めた。共通通貨ユーロが、債権国と債務国との関係を、通常以上に悪化させたのだ。政府債務危機に対するヨーロッパの対応は間違っており、債務国の雇用を劇的に損なった。

昨年になって、連続する危機がEUの政治を襲った。テロ攻撃、イギリスの離脱、中東からの移民・難民流入、それらがもたらした沈滞は、アメリカ大統領選挙にも見られる。地方やブルーカラーの有権者たちは、未来を悲観しており、素晴らしい過去の時代があったと懐かしむ。経済における保護主義、外交における孤立主義、政治におけるネイティビズム、大黒人排斥、などが広まっている。

幸い、西側の政府や指導者たちは市民を正しい方向に導こうとしている。特に、若者たちはナショナリズムより、ヨーロッパ市民としての自覚がある。EU加盟諸国の市民たちは、EUによって自分たちを正しく守ることができると考えている。

統合、という信仰告白の言葉が、新しい重要性を発見した。移民や難民を、飛び地のように、インナーシティや郊外のスラムに押し込めるのではなく、低家賃住宅、教育、職業訓練を提供して、同化を加速するべきだ。しかし、西ヨーロッパの諸政府はナショナリストの反対派によって有権者を奪われ、守勢に立っている。

プーチンは、西側に疫病と不安をまき散らした。次のアメリカ大統領は、彼の挑戦に立ち向かわねばならないが、自国の政治にも問題を抱えている。行政府や大統領府が混乱し、国民は内向きになっているからだ。大統領選挙の分極化と悪感情が将来を制約する。

こうした困難にもかかわらず、西側政治家たちは、グローバリゼーションの影響を吸収して、自由で公平な貿易に関して国民を説得しなければならない。新興の工業化諸国に、労働条件の改善や環境規制、人権を重視するように求めるだけでは不十分だ。自国の弱い立場にある労働者たちに優れたセーフティーネットを整備し、成長部門で雇用を得るような、野心的で効果的な職業訓練が必要だ。

市民はシステムが腐敗していると感じている。大企業は改革しなければならない時期にある。特にアメリカ企業には、低税率の国へ利潤を映すことを許してはならないだろう。グローバリゼーションが政治的に持続化のであるためには、経済的にもっと平等でなければならない。世界、地域、国民レベルで、新しい繁栄の波をシェアするように、人々を説得する政策が始まった。

NYT OCT. 21, 2016

Ignoring the Debt Problem

By PAUL A. VOLCKER and PETER G. PETERSONOCT. 21, 2016

われわれ2人を合わせれば179年を生きたことになり、13人の孫がいる。われわれは両党に仕えたことがある。多くの選挙戦を観たが、これほど不思議な選挙はなかった。

この国がどこに向かうのか、向かうべきか、真剣な論争は存在しない。健全な、持続可能な財政基盤は、いかなる経済政策にとっても不可欠の条件だ。

しかし、この国は6000億ドル近い財政赤字を抱えている。それはGDP75%に達するだろうが、そのような率は、第2次世界大戦により赤字が膨張した1950年以降は、見たことがないものだ。連邦議会予算局の推定によれば、世紀半ばまでに、GDP140%に達すると予想されており、戦争中を含めて、かつてない水準だ。

もしわれわれが債務の膨張を止めず、金利が正常化したら、利子負担だけで予算が窒息し、必要不可欠な支出もできなくなる。現在広く支持されているインフラ整備や防衛力の整備がそうだ。それどころか、われわれは債務の維持を海外の投資家に依存し、その「好意」を維持するように政府は強いられるだろう。

グローバルな指導力や自国の成長と安定性を実現するのに、そのような状態は避けねばならない。あるいは、1970年代のスタグフレーションが復活する危険もある。

解決策は明白だ。社会保障の給付を見直し、削減することだ。破たんした税制とともに、徐々に調整するしかないが、政治家たちは急がない。不公平で、非効率で、政治的な歪みに満ちている。大統領候補者たちは、その最後の討論でも、財政的な責任や長期的な将来を語るべきであった。しかし、2人はその機会を逃した。

健全な財政と経済成長によって利益を得るのは孫やひ孫たちだ。しかし、長期というのは、今、ここで決まるのだ。

Project Syndicate OCT 26, 2016

Two Lessons for the Next US President

CHRIS PATTEN

北朝鮮の核の脅威を抑えるために、アメリカの次期大統領は中国を説得することになるだろう。中国がそれを好まない以上、北朝鮮の核の脅威を取り除くために、南シナ海と東シナ海におけるアメリカの姿勢を変えることで調整するかもしれない。それはアジアの同盟諸国に支持されないだろうが、核の脅威を取り除くためには、そのような選択肢も考えなければならない。

FT October 27, 2016

America’s elections — or the world’s?

Simon Kuper


l  アメリカ大統領選挙の意味

The Guardian, Thursday 20 October 2016

We’ve seen Donald Trump before – his name was Silvio Berlusconi

John Foot

トランプ現象は「事実を無視した政治の時代」に入ったことを意味すると言われる。しかし、22年前に、事実を無視した政治が一定期間を支配した。それはイタリアのベルルスコーニSilvio Berlusconiである。

彼が立候補したとき、最初の反応は嘲笑だった。彼の政治運動Forza Italia – Go for it, Italyを反対派の政治家たちはジョークとみなした。

しかし、Forza Italiaはすぐに最大の「政党」になった。労働者階級の共産党が牙城としてきた地区でも、無名の精神科医がベルルスコーニの運動によって、長期に議席を維持してきた労働組合運動家を倒した。ベルルスコーニは勝利しただけでなく、左派の衣装を奪い、その支持者をもぎ取った。最初の内閣は短命であったが、その後も政界を20年間支配した。彼の首相在任期間は、ムッソリーニと、19世紀の偉大なリベラル派であるジョバンニ・ジョリッティに次いで、3番目の長さである。

ベルルスコーニとトランプの共通点は多い。成功したビジネスマンで、その企業には不正の疑いがある。脱税、会計操作、オフショア・カンパニー。ビジネスの成功とばく大な資産が政治的なアピールだ。自分を常に政治的なアウトサイダー、反エスタブリシュメントと位置付ける。その主張はポピュリストであり、自分の「パーソナリティー」が重要だ。

ベルルスコーニはイタリア政治を変えた。その後のレンツィも、Five Star Movementのグリロも、その影響は明らかだ。戦後の大衆政党は次第に意義を失っていたが、トランプが共和党を必要としないように、ベルルスコーニは政党を必要としなかった。

いわゆる失言は彼の政治戦略であった。すなわち、犬笛だ。彼はしばしば性差別的で、ホモセクシャルへの嫌悪、人種差別を示した。同時に偉大なリベラルの尊厳をまね、家族のことを重視する人物という評判を広めた。選挙はすべてが彼のことであった。政策綱領など存在しなかった。失言は常に、「誤解」として片付け、あるいは、「敵意あるメディア」の犠牲者なのだ。選挙は詐欺であり、投票箱はでっち上げられたものだ、と何度も主張した。

支持者たちを動員する際に、多くの敵を創り出した。裁判所、メディア、政界、コミュニズム、女性、EU、ユーロ。彼は「政治的な正しさ」の犠牲者であると主張した。彼は世界に約束したが、それが間違いでも気にしなかった。約束を守る気などなかった。ベルルスコーニは、有権者たちが長くは記憶していない、と知っていた。

多くの人々にとって彼のメッセージは魅力的だった。・・・私のようになれ。税金なんて払うな。人生を楽しみ、金を儲けろ。やりたいことを言えばいい。私たちはあなたの邪魔をしない。

ベルルスコーニが最も勢力を強めたとき、法律を変えて彼への告訴ができないような改変を試みたが、憲法によって阻まれた。ベルルスコーニへの反対運動は何度も起き、街頭デモも起きたが、彼を倒せなかった。彼の魅力はイタリア社会の根源にある、政治と政治家への憎悪、ポピュリズムの反面であるからだ。

トランプの勝敗にかかわらず、アメリカ政治の転換も避けられない。

FP OCTOBER 20, 2016

Donald Trump Can’t Undermine American Democracy Because It Barely Even Exists

BY ROSA BROOKS

Bloomberg OCT 20, 2016

Calm Down, America. Democracy Will Survive Trump.

Leonid Bershidsky

NYT OCT. 20, 2016

How to Repair Moral Capital

David Brooks

人生のすべてを政治に生きてきたヒラリー・クリントンは、一度も公職を経験しなかったミシェル・オバマから何かを学んだようだ。

トランプが女性を蔑視し、民主的な選挙過程を疑い、知事の経験と自分のTV番組とを対比したことに、クリントンは道義的な情熱、明晰さ、軽蔑をもって答えた。

彼女たちは政治家として発言したのではない。ミシェルがしばしばそうしたように、親として発言したのだ。政治家は、「有権者の支持を得るために何ができるか?」と考える。親は、「子供たちが自宅を出たら、どのような世界に入っていくのか?」と考える。

政治家は個人の利害に焦点を当てるが、親は社会的、経済的、道義的な環境に関心を持つ。

この醜い選挙の年に、1つの見通しを与える。この国の道義的資本moral capitalが消滅しつつある。この過程を阻止し、逆転することが緊急課題である。

道義的資本とは、共同生活を可能にするような習慣、規範、制度、価値の組み合わせである。人類は、どこまでも利己的になる余地がある。権力をめぐる争いは野蛮さに向かう傾向がある。だから品のある社会には多数の制約に合意している。丁重さ、謙虚さ、利己的であることを抑えて相互に敬意を払い、和解に導くこと。

この年、トランプはこうした制約を次々の破壊した。

確かにクリントンもこうした過程を強めた。しかし、トランプは道義的資本にとって最大の脅威である、と彼女が強調したのは正しい。この資本を守ることは、いかなる政策判断よりも重要だ。「道義的コミュニティーは壊れやすい。それは築くことが困難で、破壊することは容易である。」とJonathan Haidt(社会心理学者)は書いた。

われわれは道義的資本の回復という大きな課題に直面する。2016年の1つの教訓は、もし誰かが野蛮な表現、女性蔑視の行為で、社会的・道義的な枠組みを破壊するなら、税金や最高裁に関する意見が何であれ、そんなことは重要でなくなる。そのような人物を拒否するか、あるいは社会全体が劣化して、政治の質が保てなくなるだろう。

トランプの台頭が示した社会的亀裂に対処しなければならない。左派でも、右派でも、多くの憤慨するポピュリストたちに対して、社会的結束をともなうダイナミズム、連帯を重視したグローバリゼーションに導く政治運動で反撃することは可能である。自由貿易を支持し、熟練労働者に国境を開放し、エスニックの多様性を支持し、アメリカが指導する自由な世界秩序を推進するだけでなく、ローカルなコミュニティーを再生し、経済の確実さ、道義的な結束、愛国心を国家が促進する。

言い換えれば、それはマクロ経済の保守主義と、リベラルな移民政策、道義や市民権に関する伝統、スウェーデン型の福祉国家政策、世界に占めるレーガン大統領風のアメリカ、これらを同時に満たすものだ。

2016年の大統領選挙は共和党や民主党のイデオロギーが破たんしていることを暴露した。トランプがもたらした良いことは、多くの人々が発言し、それらに代わる政治を求めたことだ。

FT October 21, 2016

Trump stokes furore over whether he will abide by result

The Guardian, Friday 21 October 2016

The Guardian view on the US election: the time is right for a female president

Editorial

FT October 21, 2016

The truth about Trumpkins

Gillian Tett

NYT OCT. 21, 2016

Why Hillary Wins

Paul Krugman

彼女は冷静に計算する野心家であると思われている。マクロ経済など、いくつかの問題では、たとえ彼女が問題をよく理解し、正しいことを話しても、いくらか情を欠くように見える。しかし、彼女が女性の権利について、人種差別の不正義について、家族を支援する方法について、語るときの決意は本物であり、情念さえ感じる。

そういう意味で、彼女は恐るべき候補者なのだ。

Bloomberg OCT 21, 2016

It's Too Bad the Candidates Didn't Debate This

Albert R. Hunt

NYT OCT. 22, 2016

The Dangers of Hillary Clinton

Ross Douthat

ドナルド・トランプよりヒラリー・クリントンに投票する理由は多くある。リスクより安全を、自慢を好む無謀な者より堅実で有能な者を、統治不能な情熱より心理的な安定性を、有権者はホワイトハウスに望む。

しかし、飛行機事故のような候補を無視できない理由がある。

ヒラリー・クリントンが大統領になることにも危険があるからだ。それは、われわれがよく知っているように、エリートたちの思考に重大な問題があるからだ。過去15年間、西側のすべての危機が示すのは、その根源にある、エスタブリシュメントたちの決まった失敗のパターンである。イラク戦争は2大政党が支持し、ブレアも加わって左右の支配勢力が指示した決定であった。

金融危機もそうだ。政治的エスタブリシュメントの党派を超えた支持で、金融サービスが規制緩和され、住宅購入が促された。あるいは、ユーロもそうだ。メルケルが行った無思慮な国境の開放も危機につながった。

こうしたエリートたちの失策のせいで、アメリカでは「狂った候補者にやらせてみる」という支持者がいるのだ。そして、ヨーロッパ諸国にも多くのトランプ的な政党が増えている。

そして、クリントンの重要な特徴とは、ブッシュやオバマ以上に、国家の決断でエリートたちのコンセンサスから離れることはない、という姿勢である。

FP OCTOBER 22, 2016

Trump Won’t Inherit the Land, So He’s Sowing It with Salt

BY JULIA IOFFE

The Guardian, Tuesday 25 October 2016

Elizabeth Warren is the US president we need, but can’t have – this time

Owen Jones

Bloomberg OCT 25, 2016

What Would Trump's America Look Like? India

Michael Schuman

The Guardian, Thursday 27 October 2016

Hillary Clinton will win. But what kind of president will she be?

Martin Kettle

今や、クリントンが勝つかどうかではなく、彼女が大統領として議会と協力できるかどうかが問題である。


l  ドゥテルテの北京訪問

FP OCTOBER 20, 2016

Duterte’s Flip-Flop Into Bed With China Is a Disaster for the United States

BY MAX BOOT

リアリストの理論家たちが国家の行動を説明するような、地理や人口を重視する合理的モデルと違い、フィリピンの行動は矛盾したものだ。

フィリピンのドゥテルテ大統領が北京を訪問し、南シナ海のthe Scarborough Shoal領有権に関しても合意した。フィリピンはアメリカではなく、中国やロシアの同盟国になるだと言う。この立場の転換に応じて、北京は130億ドルの貿易を約束した。

しかし、フィリピンの最大の貿易相手国は日本である。アメリカも3番目だ。シンガポールなど、アメリカと同盟諸国との貿易が圧倒的に多い。もしドゥテルテがアメリカ海軍ではなく中国の人民解放軍に基地を使用させるなら破滅的な結果をもたらし、南シナ海の防衛やシーレーン防衛も非常に難しくなる。

こうした立場の転換は、フィリピン海軍が反対しており、ドゥテルテの個人的な気まぐれである。

YaleGlobal, 20 October 2016

After Announcing “Separation From the US,” Philippines President Embraces China

Murray Hiebert

FT October 21, 2016

A high-stakes game in the South China Sea

Bloomberg OCT 21, 2016

The Philippines Just Blew Up Obama's Asia Pivot

Eli Lake

FT October 24, 2016

America’s grip on the Pacific is loosening

Gideon Rachman

人民大会堂の聴衆が歓声を上げた。フィリピンのドゥテルテ大統領がアメリカとは「分離」し、中国との新しい「特別な関係」を表明したからだ。

この人物の放言は甚だしいが、このドゥテルテ旋回が持つ重大な意味を、アメリカの戦略家たちは心配し始めている。アメリカとフィリピンは太平洋における巡視活動で合意してきた協力関係を停止する、という。次期大統領になれば、クリントン夫人が最も重視するシーレーンの防衛、南シナ海における航行の自由を「深刻な国益」とみなす立場に対立するだろう。

中国が南シナ海に築く人工島や空軍基地に関して、フィリピンの姿勢は決定的に重要だ。しかも、フィリピンの戦略転換は、ある意味で、東南アジアの迫られている転換の一部を意味している。来年はフィリピンがASEANの議長国だ。

東南アジアにおけるこうした後退を阻止するために、アメリカは新しい外交的、戦略的な機会を探さねばならない。この地域で中国が支配を拡大することに反対し続けることが明確な国は、ベトナムである。今月、アメリカの2つの戦艦the USS Frank Cable and the USS John SMcCainが、ベトナムのカムラン湾にある海軍基地を訪問した。1975年にベトナム戦争が終ってから、初めての訪問である。

ベトナム戦争が最も激しかった頃、カムラン湾はアメリカ海軍・空軍が北ベトナムを攻撃する重要な拠点であった。もし、中国の台頭がアジアを非常に深く変化させたために、ベトナムがカムラン湾にアメリカ軍を招待するとしたら、それは歴史の皮肉である。今回、アメリカはベトナムの敵ではなく、その同盟国である。


l  自動運転の可能性

FT October 20, 2016

Driverless cars will change everything

Simon Kuper


l  Brexit論争とポンド下落

FT October 20, 2016

Hard Brexit heralds a closed Britain

Philip Stephens

Project Syndicate OCT 21, 2016

The Case for UK Import Substitution

ROBERT SKIDELSKY

Brexitの最も劇的な効果はポンド価値の崩壊だ。通貨バスケットに対して16%下落した。イングランド銀行のメルビン・キング前総裁はこれを「歓迎」した。経常収支赤字がGDP7%もある経済にとって、減価は経済ブームをもたらすだろう。しかし、そうだろうか?

そのためには通貨の減価に対して輸出財の需要が増えなければならない。しかしUK輸出品の需要の価格弾力性は低い。最近の研究によれば、輸出の長期的水準は実質為替レートに関係ない。

従って、イギリスの消費者が減価のコストをすべて負うことになるだろう。2008-09年、世界がデフレに瀕していたとき、UKはインフレ的な不況にあった。GDPは最高で年6.1%も縮小し、同時にインフレ率が5.1%であった。ポンドが21%も価値を失ったからだ。

2011年には経常収支赤字がGDP1.7%まで縮小したが、それは一時的な改善だった。その後、ポンドは元の水準に戻っていないが、赤字は増加した。輸入財と輸出財の価格弾力性が異なるのだ。その理由は、イギリスの製造業部門が大幅に減少したことだろう。かつてニコラス・カルドアが指摘したことだ。

さらに1990年代以来の構造改革が、イギリスの輸出部門をグローバルな部品供給に深く統合してしまった。その結果、イギリスの輸出には多くの輸入が必要になる。ポンドが減価すれば、それは投入財の価格を引き上げ、輸出競争力を損なうのだ。輸入された投入財が占める比率は、アメリカや日本が15%であるのに、イギリスは23%である。

UKがポンドの下落を止めるのはシティへの資本流入に頼るしかない。しかし、こうしたポンド需要は非常に不安定である。最悪の場合、急激なポンド下落がインフレをもたらし、イギリスの輸出価格も上昇して、さらなるポンド下落を強いる。発展途上諸国でしか見られないような大幅な消費者の実質所得減で(輸入が減って)、この悪循環を止めるしかない。

より起こりそうなシナリオは、緩やかな腐食である。繰り返されるポンドの下落によって、ポンドで稼ぐ人々の生活水準が悪化していく。

何をすべきか? 輸入財に対して国内財を代わりに利用するような政策介入をするべきだ。古典的には輸入規制だが、貿易ルールに反する。労働党が提唱している国家投資銀行を使って、輸入代替産業に投資することだろう。あるいは、大蔵省が補助金を出すことだ。水準の高い輸入代替財を作る産業を育てて、その競争力が高まれば、補助金を減らしていく。

イギリスの輸入をGDP30%程度から1970年以前の20%程度に下げるのが望ましい。何もしなければ、イギリスの成長は永久に損なわれるだろう。デフレ経済をインフレにし、インフレ的な経済をデフレにすることはできるだろう。しかしその結果、重要な外国市場へのアクセスを失うのであれば、それは後戻りできない。

FT October 23, 2016

Britain and Europe share an interest in an amicable split

Wolfgang Münchau

FT October 24, 2016

The economy could reshape the UK as the Japan of Europe

Tim Harford

Brexit後の最善のモデルとは何か? それは日本だ。イギリスは、ハイテク・ソフトとロボット工学による生産者と消費者の国、ヨーロッパの日本the Japan of Europeになるべきだ。

移民の流入は抑制する。貿易は、ヨーロッパ大陸の供給ラインから離れて、金融サービスにも問題が生じる。しかし、労働市場で需給がひっ迫すればロボットを導入すればよい。金融ビジネスへの依存を減らして、オランダ病も抑えられる。

ブラッセルへの非難を並べているタブロイド紙は、今度は国内の規制を問題にするだろう。

Project Syndicate OCT 24, 2016

The Brexit Paradox

ANA PALACIO

VOX 24 October 2016

New eBook: What To Do With the UK? EU Perspectives on Brexit

Charles Wyplosz

Bloomberg OCT 24, 2016

Brits Start to Count the Cost of Brexit

Mark Gilbert

FT October 25, 2016

Even a homeless liberalism remains the best idea going

Janan Ganesh

FT October 25, 2016

Brexit has reopened the Irish question

Jim Gallagher

FT October 25, 2016

Britain must pursue a ‘hard Brexit’ to create a more open economy

Ryan Bourne

残留派は今も、EU離脱は永久にイギリスを貧しくする、と考えている。それではまるで、EU内のUKがダイナミズムの最高点にあるかのような話ではないか。

他の非EU諸国が示すように、政治的独立を、経済的な成功にとって、恐れる理由はないのだ。Brexitは機会を与えるのであり、一層のオープン型経済に向けた圧力を生じるのだ。

EUとは何か? 第1に、関税同盟である。そして、ハードBrexitWTOルールによる一方的な自由化に向かっても、それはEUの怪物管理体制を破棄するだけのことだ。消費者物価は低下するだろう。長期的な実質的利益は、イギリスが比較優位を生かすことで生じる。

既得権を持つ生産者がそれに反対している。残留派の支持者は、激しい競争にさらされる製造業者や農家である。しかし、もしEUにおける競争を歓迎するなら、なぜグローバルな競争を歓迎しないのか? EUの共通農業政策は、納税者に高いコストを強いて、革新を妨げている。

1980年代のニュージーランドは、自由化が達成できるものを示している。その国の羊の数は半減し、牛や羊を飼う農家は3分の1も減少した。しかし、農家は大規模化して生産的になった。フルーツやワインの生産量は急速に増大し、鹿肉の業界が誕生した。サプライ・チェーンの革新もあって、世界価格による貿易は成功した。

3の要素は、規制の共通圏である。しかし、イギリスが特化しているサービス分野では規制が弱い。

単一市場からの離脱派直接投資を減らすだろう。移民流入にも規制を強める。しかし、イギリスは孤立するのだろか? むしろUKは一層の開放を求める圧力を受けると思う。また、サービス分野の貿易に成功するほど、それには人の移動がともなう。

Project Syndicate OCT 25, 2016

Theresa May’s Nasty Britain

MARK LEONARD

FT October 26, 2016

Tragic legacy of Britain’s indecision over identity

Harold James

Brexitは、ヨーロッパについて気持ちが定まらないイギリスの悲劇である。David Cameron首相、Theresa May首相、Jeremy Corbyn労働党党首のアンビバレントな態度がそれを示す。政党を破壊し、その立憲的秩序を動揺させる悲劇である。

イギリスがヨーロッパの統合プロジェクトの中心に加われない強力な理由がある。イギリスは地理的に島国である。近代的な国家の成立においてローマ・カソリックから分離した。そして政治経済的な理由だ。フランスとドイツには、衰退していく巨大な農業部門があり、低生産性の、反抗する農業労働者たちがいた。しかし、イギリスではそのような問題が存在しなかった。

何よりも、イギリスは近代ヨーロッパの核心にある独仏の心理的な葛藤に戸惑い、距離を感じていた。アデナウアーとド・ゴールは、自国のエリートたちに裏切られ、戦争と征服と独裁をもたらした国家を再建しようとした。歴史的な深い傷を克服するために、他国を包摂することでのみ治癒される、という神秘的な考え方を、ド・ゴールは展開した。

イギリスは、この問題の多い結婚で傍観者にとどまった。ドイツは、地中海諸国からの国家介入主義に対抗するため、UKを仲間にした。フランスは、ますます協力になるドイツに対抗するため、UKを求めた。その過程で、イギリス人は間違った感覚を持ったのだ。独仏の求めは同時に成り立たない。

Brexit後も、ドイツには同盟国が要る、黒字を守りたい、多くのフランス人がロンドンで働いている、UKを欠くヨーロッパは安全保障を損なう、など、議論しているが、どれも表面的な理由である。ヨーロッパ人たちは、Brexitを、自分たちが協力するための過激な結婚セラピーとしか考えていない。

イギリス人にとって新しい悲劇は、その将来が決められないことだ。開放するのかどうか、グローバリゼーションを支持するのかどうか。しかも、国際安全保障は急激に悪化している。

論争はイギリスの主要政党が抱える内部の亀裂を解体に向かわせる。保守党大会におけるメイの独立に向けた演説も、コービンの一国社会主義論も。その論争は、1688年の名誉革命の後、あるいは、19世紀半ばの穀物法撤廃の後、イギリス政治が大改造されたことに似ている。どちらの場合も、新しい政党が誕生した。

UKとヨーロッパとの関与を問題にするより、世界への関与を問題にするBrexit後には、財と人と資本が移動することを管理するルールが求められる。この小さな島が、危険な、不安定化する世界に対して、どのように影響力を行使できるのか、有権者を力強く説得できる政党が必要なのだ。

FT October 28, 2016

The Remainers’ role is to act as the loyal opposition

Martin Wolf


l  コロンビア和平案の改定

VOX 20 October 2016

Why we fail to prevent civil wars: A forecaster’s perspective

Hannes Mueller, Christopher Rauh

FP OCTOBER 25, 2016

To Achieve Real Peace in Colombia, Go After the FARC’s Money

BY JOSÉ R. CÁRDENAS


l  合法的な移民労働者の枠組み

NYT OCT. 20, 2016

How to Vote as an Immigrant and a Citizen

By IMBOLO MBUE

NYT OCT. 25, 2016

If Immigration Can’t Be Stopped, Maybe It Can Be Managed

Eduardo Porter

非合法移民について何ができるか?

トランプが提案する国境の壁は答にならない。壁はすでにあるからだ。長い国境線沿いにフェンスがあり、ドローンとセンサー、そして小規模な要員が補完している。

20年間、2000億ドルを費やして、連邦政府は移入民を規制することに失敗してきた。登録されていない移入民が1100万人にまで膨張したのだ。むしろ最善の方法は、メキシコとアメリカが協力して、低熟練メキシコ人労働者にアメリカで働く合法的な道筋を示すことだ。

これは雇用者に安価な外国人労働者を与えて、アメリカ人労働者の賃金を切り下げるだけ、と見えるだろう。クリントンもトランプも、選挙でこんなことは言えない。しかし、これは唯一の正しい戦略である。

1940年代から60年代まで、この考えが実行されていた。ブラセロ計画だ。1950年代後半、そのピーク時に、40万人以上の一時雇用ビザが発行され、メキシコから来た多くの労働者が農場で働いた。非合法移民はほぼゼロになった。

同様の枠組みを、学者や政策担当者が提唱している。“Blueprint to Regulate US-Mexico Labor Mobility”である。1964年に労働省がブラセロ計画を廃止したとき、農業労働者の低賃金が問題になっていた。しかし、その後も賃金は上昇せず、未登録の移民労働者が増えた。

ゲストワーカーに関する批判の多くは正しい。ブラセロ計画には欠陥があり、悪用された。労働者たちは1人の雇用主に縛られた。現在、すでにH-AH-2Bの一時雇用ビザが存在する。これにも多くの濫用が報告されている。しかし、アメリカとメキシコの両政府が協力すれば、多くの問題を解決することは可能だ。

雇用主はメキシコ移民を雇用する際に手数料を支払い、それがアメリカ人労働者を優先して雇うように促す。メキシコ人労働者への支払いは大部分が貯蓄されて、彼らが帰国した際に引き出せる。移民労働者へのビザ発行は労働市場の需給に合わせて調整される。


(後半へ続く)