IPEの果樹園2016
今週のReview
10/24-29
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モスルとアレッポをめぐる秩序 ・・・Brexitとポンド下落 ・・・トランプ現象 ・・・CETA、TTIPの運命 ・・・Brexitを実行する ・・・ロシア封じ込め ・・・中国のバブル崩壊 ・・・大国間均衡の時代へ ・・・ヨーロッパ難民危機の解決
[長いReview]
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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
l モスルとアレッポをめぐる秩序
The Guardian, Friday 14 October 2016
The Guardian view on international
law: we need enforcement and example
Editorial
戦争は他の手段による政治の継続である、と言われた。しかし、長い年月をかけて、ある種の戦術は野蛮な外交ではなく、戦争犯罪になった。近年、その人道を守るという尊い目標が、中東に広がる戦場では、病院や学校への卑劣な爆撃を免責することによって無意味にされてしまった。こうした爆撃は中止するべきだ。
イエメンでは、葬儀に参加していた人々、140人以上が、サウジアラビアの指導する連合軍の空爆で殺害された。サウジ連合軍は、イランが支援するフーシ派の反政府勢力と内戦を続けている。
ロシアの同盟者たちは、自国の市民に化学兵器を使用している。ロシアとシリアの戦闘機は、アレッポ上空で、意図的に、市民たちに爆撃している。アレッポでは、病院も、国連の輸送部隊も、学校も、もはや安全ではない。
シリアの大統領は、モスクワとテヘランの支援を受けて、「この地域(アレッポ)を掃討し、テロリストたちをトルコに追い出す」と述べた。彼らは来たところに戻るか、もしくは、殺害する、と。
国連安保理では、こうした人道に関する国際法に違反する行為を強く非難する意見が出た。しかし、常任理事国5か国中の4か国が、シリア、イエメン、スーダンで病院を爆撃する同盟者を支援している。
ケリー国務長官は、スイスでロシアのラブロフ外相と会うが、ロシアとの対話は無駄であろう。ロシアはいかなるコストを支払っても、アサド政府軍が勝利することを強く求めている。それは中東の権威主義体制の国々に、弱体化したアメリカが中東から引き揚げた真空を埋めるのはロシアだ、というシグナルを送っている。エジプトは、国連安保理でロシアの決議を支持したが、その中身はアレッポにおける空爆中止を求める決議だった。そしてエジプトは領土内にロシア空軍の拠点を置くことを話し合っている。
軍事力の行使が、国際法や説得より優勢になっている。
こうした行動が国際法の精神を損ない、その条文を破っている。普遍的な世界法廷という考え方より、西側の政府は権力政治(そして軍事力)を好むのだ。
2014年、イスラエル司法相Tzipi
Livniを保護するため、人道に関する犯罪について一時的に外交免責が与えられた。国際刑事裁判所は、当時、9か国中の8か国がアフリカの国で占められていたが、正義(とアフリカ諸国)を無視するこの対応に憤慨しただろう。中東に広がる人道に関する犯罪を観て、こうした犯罪を続ける諸国を免責することに、彼らが国際刑事裁判所から離脱すると脅したのも当然だ。
人道に関する罪を問う国際法を築くことは人類の進歩であり、放棄してはならない。戦争犯罪の証拠はなおも集められ、犠牲者たちは記憶されねばならない。The Commission for
International Justice and Accountabilityはすでに、アサド体制の行動を告発するための材料を集め始めた。将来、ロシアとシリアの政治が変化すれば、その血まみれの指導者たちは、法廷に立たされるかもしれない。チリのピノチェト将軍に起きたことだ。
西側もまた、国際法の制約に従うことを示す機会に直面している。近く、西側の支援するイラク軍がイスラム国の最後の重要拠点であるモスルを奪還するだろう。勝利のために、受け入れがたいような人道的罪を犯してはならない。国連の予測では、120万人の難民が発生する。難民キャンプを民間の人権保護団体が設定し、安全な避難路を確保するべきだ。すでにイラク軍は攻撃を始めている。たとえ軍事力を合法的に行使する責任がイラク政府にあるとしても、それはロンドンやワシントンが支援する政府だ。
モスルは約束を実行する場であり、現代の戦争に勝利する方法が改善できることを示す機会である。
NYT OCT. 17, 2016
Israel Knows That Putin Is the
Middle East’s New Sheriff
Shmuel
Rosner
2001年、イスラエル首相になった直後に、シャロンはクレムリンへ行ってプーチン大統領と会った。世界の指導者の常として、プーチンはシャロンに、ヨルダン川西岸の支配地域をパレスチナ人に返還するよう求めた。シャロンは、イスラエル指導者の常として、そのような主張に倦んでいた。そこで彼は言った。イスラエルは小さな国である。領土を手放すことは危険なのだ。他方、ロシアはこれほど大きな国である。そうであれば、第2次世界大戦後にロシアが日本から返還を求められたthe Kurile Islands(千島列島)を、返してはどうか? と。
予想されるように、ロシアは拒んだ。「ロシアは領土を断じて譲らない。」 おまえはどうしてそんな大それたことを考えるのか? と。
2年後の会談で、ロシア語がうまくなったシャロンは、「イスラエルの真の友人」とプーチンを呼んだ。プーチンも同様に、その感情を隠す術を学んでいた。たとえば、オバマとシリアの停戦協定に合意したように。さらにロシアは、最近、ネタニヤフ首相とアッバース大統領との会談を、モスクワで開催する、と発表した。
ネタニヤフはロシア語を解さないが、プーチンと同じ言葉で試行していることを理解したようだ。シャロン以上に。必要は友情をもたらす。イスラエルにとって、中東におけるロシアの影響力が増大していること、また、アメリカが撤退していくことが、その理由だ。
少し前まで、イスラエルは、アメリカが中東におけるロシアの影響力を封じ込めることを疑わなかった。ゲームは単純だった。イスラエルは周りの小さな犬を抑え、アメリカは大きな犬がイスラエルに不利な介入をすることを抑える。
しかし、数年前から、プーチンはこのゲームを壊し始めた。2008年にグルジアへ侵攻し、2014年には、クリミアに侵攻した。それでもイスラエルは、アメリカが、ロシアの国境地帯で、プーチンがこうした小国をもてあそぶのを許しただけだ、と考えていた。
その後、2015年の夏、プーチンはシリアに軍隊を送った。オバマがその対応に苦慮している間に、ネタニヤフはプーチンを訪問し、この新しい中東の警察官と会ったのだ。2人は合意できなかったが、ネタニヤフはロシアとの関係を望んだ。プーチンはシリア政府を支援することで強いシグナルを発したし、その戦闘機はイスラエルから遠くない北の空を飛んでいる。
ロシアの大統領にとって、中東の和平会談や、アメリカに不満を持つ諸国を集めるのは、ロシアの威信を高め、アメリカを苦しめるためだ。和平会談の成功を真剣に望むわけではない。
この数か月間、プーチンがしたことを観れば、ロシアに好ましいのは中東情勢の不安定化である。シリア内戦でも、パレスチナでも、彼は外交的な解決策を望むようなふりをする。しかし、その同盟者が和平を破壊しているのだ。そしてロシアの力を強め、オバマ政権への失望を広める。
全ては次のアメリカ大統領にかかっている。
l Brexitとポンド下落
Bloomberg OCT 17, 2016
Six Reasons to Be Wary of Brexit
Optimism
Victoria
Bateman
EU離脱を唱えたエコノミストたちは、それが成長を制約するEUの政策から離れ、内外で市場を自由化するから、イギリスは高い成長を実現すると主張した。しかし、自由市場派の主張が疑わしいと考える重大な理由は6つある。
1.イギリス経済はすでに十分に自由である。2.離脱したほうが自由な条件で貿易できるとは限らない。3.グローバリゼーションが減速し、保護主義が高まりつつある。4.交渉の過程は非常に複雑で、時間がかかる。
5.すでに自由化した歴史がある。20世紀の前半、最初の統合化の後、世界がグローバリゼーションの逆転を起こしたときだ。1930年代までに世界貿易は縮小していった。自国の輸出を伸ばそうと、イギリスは帝国特恵関税を設けた。このシステムは、リカードの提唱した貿易と特化を促進することを意図していた。
しかし、それは産業内貿易を無視していた。イギリス企業は、産業構造の似た諸国との競争にさらされなくなった。そうした競争こそ生産性の上昇に重要なものだ。1970年代、EU加盟とサッチャーの市場改革が行われるまで、競争圧力を欠いたまま、その後に、ようやくイギリスの生産性は回復し始めた。
6.国内企業の市場の規律を強制するのは、イギリスの場合、ヨーロッパ企業との競争である。EU市場から離脱すれば、それを失う。
l トランプ現象
Project Syndicate OCT 14, 2016
How Trump Happened
JOSEPH
E. STIGLITZ
世界を旅していると2つの質問を繰り返し受ける。トランプが大統領になることも考えられるのか? そもそも、どうして彼がこれほど支持されるのか? アメリカ人が、こんなロシアン・ルーレットを楽しむことは理解できない。外国人はその影響を受けるのに、選挙に参加できないのだ。
明らかに、トランプは16人の共和党候補者たちを倒した。その背後には多くの要因があった。まず、多くのアメリカ人の生活は、4半世紀前に比べて、経済的に悪化している。フルタイムの男性労働者について、所得の中央値は42年前より低い。
所得分配の最下層について、実質賃金はおよそ60年前の水準と同じだ。トランプが、経済の現状は腐っている、と言うとき、多くの支持を得るのは当然だ。しかし、彼の診断や処方箋は間違っている。トランプのような、一握りのトップに成長の成果が集中し、しかも、大規模な減税を繰り返したことが原因だ。
政治家たちは、貿易自由化や金融自由化を進めながら、同時に、必要な改革は実現しなかった。生活水準が停滞し、あるいは悪化した人たちは、政治指導者が分かっていないのか、嘘つきなのだ、と結論した。機会の国であり、次の世代が生活水準を高める、というアメリカ人の共有する前提が疑わしくなった。そしてトランプは、問題を貿易や移民のせいにした。
貿易協定が、すべての者の利益ではなく、大企業の利益に奉仕しているのは、共和党の政治家たちがしたことだ。彼らは貿易の利益を広く分かち合うことを拒んだ。さらに金融危機では、銀行家たちが救済され、職や住宅を失っても、多くの普通のアメリカ人は何も助けてもらえなかった。こうした不公平な結果をもたらすシステムは、いかさま(そして談合)だ。
トランプへの支持は、こうした政府への不信感・不満から生じている。しかし、彼の提案する政策は、事態をさらに悪化させる。たとえば、富裕層や大企業に巨額の減税を行えばよい、というトリクル・ダウン理論を再生する。あるいは、中国やメキシコと貿易戦争を始める。そんなことをすれば、多くのアメリカ人がさらに貧しくなり、イスラム国家の掃討、地球温暖化など、国際協調が重要な時期に協調を損ない、技術革新やインフラ改善の財源もなくなる。
過度に単純化された、ネオリベラルな市場原理主義は、40年におよぶ間違った政策を生み出し、成長を大幅な不平等に導いた。市場は真空に存在するのではない。サッチャー=レーガン「革命」が市場のルールを書き換え、富裕層に有利な、不平等な経済にしたのだ。
トランプ現象とは、アメリカ社会が分裂し、民主主義が損なわれ、経済が活力を失ったことを意味している。
l CETA、TTIPの運命
Project Syndicate OCT 14, 2016
No Time for Trade Fundamentalism
DANI
RODRIK
「我々が直面する挑戦の1つは、オープンな、拡大する国際貿易システムを維持することだ。」・・・保護主義が広がり、貿易システムが崩壊し、1930年代の暗黒時代が再現する危険がある、と。
最近の報道はグローバリゼーションの逆転を伝え、同様の警告を繰り返している。しかし、この文章は35年前、1981年に書かれた。
当時、先進諸国はスタグフレーションに苦しんでいた。貿易摩擦の元凶とされたのは、中国ではなく、日本だった。アメリカやヨーロッパで、貿易障壁が高まり、日本の自動車や鉄鋼に輸出自主規制(VERs)を求めた。
その後の事態は、貿易悲観論と逆だった。世界貿易は1990年代、2000年の最初の10年で、増大したのだ。WTO設立、貿易・投資協定、中国の台頭、などがグローバリゼーションの新時代、一種のハイパー・グローバリゼーションを創り出した。
後から考えると、1980年代の「新しい保護主義」とは、貿易体制の崩壊ではなく、その維持を担うものだった。新しい貿易関係が出現し、分配や調整の問題が生じたことに、「セーフガード」やVERsを導入して対処する必要があったのだ。
政府は、オオカミ少年のような貿易専門家たちに依存してはならない。それは事態を悪化させるだろう。確かに、以前よりも、各地でポピュリストの政治的な勢いが増している。しかし、1980年代の教訓は、ハイパー・グローバリゼーションの逆転が悪いことではない、というものだ。国民国家の自立性とグローバリゼーションとのバランス改善が必要だ。リベラルな民主主義の要求は、国際貿易や投資の条件よりも重要だ。
ポピュリストたちに対抗して、どのようなコストを支払ってもハイパー・グローバリゼーションを守る、というのは正しい答えではない。さまざまなルールを持つ、オープンな世界経済を守るべきだ。
FT October 17, 2016
The monstrous battle to secure a
trade deal
Wolfgang
Münchau
EUとカナダとのComprehensive
Economic and Trade Agreement(CETA)が、ドイツとベルギーからの反対で、その成立を阻まれる。ある点では、これは良いニュースだ。
反グローバリゼーションの運動を含む19万人の原告により、ドイツの憲法裁判所はメルケル政権が満たすことの難しい条件を付けた。さらに、ベルギーのフランス語圏、ワロン地区の議会が条約を阻止する投票を行った。これでベルギーはCETAの成立期限に法的に間に合わない。
ドイツの裁判所が加えた制限は非常に強い。ベルギーの承認拒否は確実だ。加盟国すべての合意を必要とするCETAは死んだ。それはイギリスのメイ首相にも重大な意味を持つ。EUとの通商交渉ができないなら、イギリスのBrexitは最もハードなもの、WTOの決めた条件しかなくなる。
しかし私は、CETAや、同様にアメリカと交渉中のTTIPが成立しないことを、2つの理由で歓迎している。第1に、貿易協定は反グローバリゼーションの抗議活動が標的にしている。Brexitの後に、リベラルなエリートたちが失敗を再現することは避けたい。第2に、こうした協定の性格は、投資家の裁判を認める、反民主的な性格があり、ヨーロッパ憲法の原則に反している。
CETAとTTIPは、われわれの時代のもっとも有害な論争を招いている。それは1980年代の中距離核兵器、2000年に入ってイラク戦争がそうだった。その条約がもたらす利益は、たとえあるにしても、これほどの問題には値しない。
The Guardian, Wednesday 19 October
2016
I hate Trump and Farage. But on free
trade they have a point
Aditya
Chakrabortty
われわれは銀行家のためのグローバリゼーションを持つが、それはシリアの空爆を逃れる子供たちのためではない。投資家のための安全保障はあっても、労働者のためにはない。
自由貿易とは、かつて保護主義を攻撃する主張であった。しかし今では、それが大企業を守る主張、人々の利益に反するものとなっている。CETAやTTIPを支持する者はこう主張する。もし条約が成立すれば、経済は成長し、雇用が増え、上げ潮ではすべての船が浮き上がる、と。
しかし経済史では、貿易で大きな利益を得る者は、20世紀前半のアメリカでも、現在の中国でも、自由貿易を破る者だった。CETAの予想利益はわずかであり、誰が利益を得て、誰が損失を強いられるのか、その大きさは、無視されている。
問題は、彼らの共有する前提である。すなわち、条約によって影響を受ける経済では、短い、鋭いショックと、その後の回復が訪れる。しかし、金融危機の後も、イングランド銀行や大蔵省の予想に反して、回復は容易に訪れず、イギリス労働者の給与はリーマンショック前に戻っていない。
自由貿易の前提は、愚かなほどにひどいこじつけで、市民たちが被るコストを無視している。しかも、最悪の負担が最も貧しい者、低熟練の高齢者たち、身体障害者たちに強いられるだろう。
l Brexitを実行する
FT OCTOBER 15, 2016
Britain after Brexit: Lionel
Barber’s lecture in Tokyo
Lionel
Barber
Brexitは人民革命だった。「エスタブリシュメント」にとっての手痛い敗北だ。イギリス政府も、IMFやOECDも、オバマ大統領も、日本の安倍晋三首相も、FTも、離脱の経済コストは大きく、ありえないと考えていた。しかし、それは間違いだった。
二重の危機がEUの政治能力、メルケルの指導力を損なった。キャメロンは、ユーロ危機がEUを緊密に統合させると考えていた。しかし、それは間違いだった。ドイツを中心に、統合強化は反対された。そして、危機は長引いた。難民流入は、EUがその境界線を管理できないことを示した。
6月23日の国民投票は、take
back controlと叫ぶ離脱派のアイデンティティー政治によって、経済学が圧倒された。移民管理と主権回復を優先し、単一市場へのアクセスも残す、メイの望むようなBrexitは実現しないだろう。
1.協議離婚型、2.即席離婚(ラスベガス)型、3.泥仕合型、が考えられる。離婚が紛糾する中で、金融市場は混乱し、国債利回りは急騰し、消費者心理は悪化するから、イギリスは不況に落ち込む。そうなれば、メイは国民投票の結果ではなく、解散、総選挙を選ぶしかない。
EUも変わる。ル・ペン大統領やメルケルの敗退に至るとは思わないが、EUは非常に流動的だ。コアEUが分離し、二極化するかもしれない。あるいは、イギリスに続いて、各地でEU離脱が起きるかもしれない。
重要な問題は何か?
イギリスはヨーロッパの辺境に位置する、ほどほどの繁栄に満足し、徐々に衰退していく中流国家になるのか? Brexitは、イギリスが敏捷な通商国家として、21世紀のヴェニス、巨大な大西洋のシンガポールになる新しい機会なのか?
私は、強力で開放されたイギリスを望む。そしてビジネスと通商のパワフルな磁石となり、反グローバリゼーションやナショナリズムに反対して、リベラルな秩序を再建する声を上げてほしい。
l ロシア封じ込め
FT October 16, 2016
The best answer to Russian
aggression is containment
Ivo
Daalder
アメリカとロシアの関係は、この30年間で最悪の状態にある。
10月7日、アメリカの諜報部長が、クレムリンの高官たちがアメリカの個人や機関のe-mailをハッキングして選挙に干渉することを承認していた、と発表した。その後、ケリー国務長官はシリアの停戦合意に関するロシアとの交渉をやめた。そして、ロシアのアレッポにおける攻撃は戦争犯罪にあたる、と非難した。
これに対してロシアのプーチン大統領は、核兵器に利用される水準の濃縮ウランに関するアメリカとの合意から離脱した。その後、核搭載可能なミサイルを、ポーランドとバルチック諸国との間にあるロシアの飛び地Kaliningradに移送した。ワシントンもEU同盟諸国も、ロシアのこうした姿勢に対して包括的な戦略を示していない。
ヨーロッパでは、政治的・経済的な包摂を深めて、軍事的には寛容な姿勢を取ることで、モスクワを建設的な考え方に導ける、という者が多い。しかし、ロシアを西側のシステムに組み込む試みは、意義あるものだが、失敗に終わった。
有効な対応とは、封じ込め戦略である。かつて1946年に、ケナンGeorge
Kennanがソ連封じ込めを主張した。すなわち、ソ連のシステムは、内部の弱さから対外膨張策を採っている。F.D.ルーズベルトはソ連を仲間にしようと試みたが、失敗した。外部からの圧力で内部の変化をもたらすべきだ、と。
それは現在にも当てはまる。ロシアの最大の弱点は経済だ。資源採取産業に大きく依存している。制裁を強化することで、モスクワは苦痛を感じる。ソ連が崩壊するまでには40年かかった。ロシアはもっと弱い。封じ込めに必要なことは、忍耐と堅固さである。
l 中国のバブル崩壊
NYT OCT. 18, 2016
As China’s Economy Slows, a Look at
What Could Happen
By
NEIL GOUGH
政府は6.7%の成長を予測している。しかし民間のエコノミストたちは、異なる指標に注目する。
中央銀行、エコノミスト、投資家、企業幹部、彼らの関心は、輸出と投資による高成長が終わった今、次に何が起きるのか? である。
中国は2008年の世界金融危機を、国家の支持による支出増大、信用拡大によって回避した。それは今なお信用膨張を続けている。非伝統的な資産運用契約のような、「影の金融」が急成長した。IMFの推定では、小規模銀行は資本の300%も影の金融に頼っている。
中国政府は金融システムを厳しく管理しているから、金融危機は起きない、と言う。資本の流出を監視し、為替レートも安定化できる。
しかし、その債務の規模はかつてない水準である。政府による支出促進は、住宅市場のバブルを生じている。Nicholas R. Lardyは、国家による投資の生産性は、成長を維持するために低くなっている、と言う。
累積債務、政府支出の限界、改革に対する政治意志の不足、と言えば、日本の失敗がそうだった。工場や企業の破たんを回避して、それに代わる経済停滞の年月を日本の指導者たちは耐えた。多くの問題は今も続いている。
それでも、中国の指導者たちにとって、それ以外の選択肢より良いかもしれない。その債務の規模と拡大のスピードは日本以上である。多くの点で、日本の結果は中国にとっても最善のコースだろう。Fitch Ratingsの元アナリストCharlene
Chuはそう述べた。
l 大国間均衡の時代へ
FT October 19, 2016
We are returning to a world of
great-power rivalry
John
Sawers
アメリカは今も最強の国であるが、もはやグローバルな覇権国ではなくなった。アメリカの一極世界は25年ほど続いたが、無謀な戦争と世界金融危機によって終わったのだ。それは西側の経済支配力に関しても顕著に示されている。G7はかつて世界GDPの70%を占めたが、今では47%に低下し、減少し続けている。
世界の安定化を最優先しなければならない。強力な防衛力が欠かせない。しかし、それはロシアや中国との冷戦に戻ることを意味しない。むしろ6つの強国が均衡を維持した、19世紀における「ヨーロッパの協調」に戻るべきだろう。その平和は100年近く続いた。他国の異なる統治システムを認め、たとえそれをどれほど嫌うとしても、すべての国が敵対行為に明確な限界を受け入れるのだ。
多くの国は大国関係を最優先することを嫌うだろう。受け入れがたい、非民主的な行動を認めることになる。しかし、自分の好みではなく、世界をありのままに認めるべきだ。大国間の軍事衝突を招くことは避けねばならないから。
l ヨーロッパ難民危機の解決
FP OCTOBER 18, 2016
Europe Wishes to Inform You that the
Refugee Crisis Is Over
BY
JAMES TRAUB
ヨーロッパの難民危機は終わったのか? トルコとの合意で、難民の送還が行われ、難民キャンプの条件を改善する基金が用意された。
しかし、トルコを避けて、地中海経由の難民は増えている。彼らの多くが地中海で水死している。狡猾的な解決策とは何か? たとえば、2015年、George
SorosはFPに提案した。
・・・ヨーロッパは毎年30万人の難民を受け入れる。世界にも同数を期待する。300億ユーロの基金を設けて、ヨーロッパ内の定住地を支援し、難民キャンプのある国を支援し、難民を流出する諸国の経済発展とガバナンスを改善する。EUの境界を守るイタリアとギリシャを支援する。EUが合法的移民受け入れの道筋を定義する。
問題は、政治的な意思があるか、だ。壁を築いても、解決することはできない。ますますヨーロッパも、アメリカのように、白人が減り、キリスト教徒が減り、同質的でなくなっている。政治指導者たちは、市民たちに説明し、このことを悪用してはならない。
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The Economist October 8th 2016
The road to Brexit
The Tories and Brexit: Mind your steps
The crisis of the Arab World: From Aleppo to Mosul
Iraq’s Sunni minority: The day after
Barack Obama: The way ahead
Colombia’s peace process: What now?
Italy’s referendum: A great big reform package
Jean-Marie Le Pen: Un prophete
The yuan in the SDR: From base to gold
(コメント) イギリスの保守党政権は何を考えているのか? Brexit派の閣僚たちが首相とともに内紛を演じ,首相はますます党内支持を固めるために選挙に向けた新機軸を示します.
イスラム国家を解体させても,その後のイラクの政治的な安定化は形を示せないようです.さまざまな宗派の自治区に分かれてしまうのか,財源と権力を誰が握るのか? また,コロンビア内戦の和平協定が書き換え可能か,試されます.
オバマが望むアメリカの次の改革,イタリア首相,フランスの極右政治家,そして,SDRに参加した人民元を,パルコ・ポーロが驚いた紙幣の時代と比較し,政治的魔法使いを考えます.
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IPEの想像力 10/24/16
イタリアのレンツィと,フランスのジャン・マリー・ル・ペン,たまたまですが,2人が取ったよく似たポーズの写真が載っています(The Economist October
8th 2016).安倍首相や小池都知事も,同じポーズを取ります.政治的アクション,ボディーランゲージと言えるでしょう.
両手を振り上げて,レンツィは指揮者のように,最大限の支持を求めます.ル・ペンは,両手のこぶしを握り,勝利を誇示しています.他方,オバマの写真は執務室のテーブルで,静かにペンを執る姿です.この大統領は,軍事力の行使を拒むことで歴史を創りたい,と願ったのです.
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アメリカ大統領選挙が最終局面に入ったとき,退任を前に,オバマは次期大統領が改革すべき分野を考察しています.
長期的な経済停滞,特に,中低所得の家族の低迷と不平等の拡大を,オバマは憂慮します.グローバリゼーションや自動化・IT化が労働者の交渉力を奪い,賃金を抑えているのではないか? 有能な人材が,実物経済の技術革新ではなく,金融部門の投機的利益に集まっているのではないか? 大企業とそのエリートたちは,庶民と全く違う世界で暮らしている?
アメリカの指導者として,オバマは,グローバル経済がもたらす繁栄と不確実さ,不安に対して,資本主義を改善できると考えます.放置すれば独占やレント・シーキングに向かうでしょう.4つの分野で政府が介入し,より広い基礎に立つ,高い成長を実現できる,と主張します.すなわち,1.生産性(公共投資と民間投資の増額),2.不平等の是正(CEO給与,税制,労働組合),3.十分な雇用(労働市場と不況期の補完),4.将来の高い成長力(システムの破たんを避け,競争促進),です.
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イタリアのレンツィ首相は,自分の政治生命を賭けて,憲法改正の国民投票に挑みます.
イタリア経済の不幸は制度的なものである.既得権層が構造改革に反対するのだ.その解決には,イタリアを近代化する広範なパワーを政府に与える必要がある,とレンツィは訴えます.
しかし,市民は深い懸念を抱いています.同じような主張を,1930年代の独裁者が訴えたからです.第2次世界大戦後,この憲法を起草した者たちは,権力を分散し,1人の人物や1つの機関が権力を持たないようにしました.その結果,均等な権力を持ち,法案を何度もやり取りして,成立までに長い期間がかかる政治を生んだのです.
国民投票で反対派を代表する元最高裁判所長官は,ポピュリスト運動が政権を執った場合,何が起きるだろうか? と問います.
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フランスのジャン・マリー・ル・ペンは,誇りをもって宣言します.「かつて世論はわれわれを過激派とみなしたが,今や,ル・ペンが正しかった,と理解している.」
ガス室さえも戦争の些事だと片づける,88歳の極右運動家,ナショナル・フロント創立者は,先見の明があった.反移民,反エリートの叫びは世界中にこだまする.トランプ支持を表明し,同じメッセージで,プーチンも,Brexitも称賛した.
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たとえ勝利しても,イスラム国の支配体制から解放されるイラクでは,アバディ首相がスンニ派を含む信頼できる政治体制の仕組みを示さない限り,何が起きるかわからないのです.1400年もの征服と抑圧の時代を脱したシーア派に代わって,イラクのスンニ派は古代からの繁栄の都を失い,暴力的なニヒリズム,聖戦主義に向かう人々が続きました.
マイノリティーの自治区,地方分権,あるいは,イラク分割を回避するために権力集中.いずれのモデルも混沌を広め,先に撤退を急いで失敗した英米軍が,今度は議会における和解への政治的努力を擁護できるのか,問われています.
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