IPEの果樹園2016

今週のReview

10/10-15

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ヨーロッパの左派政党 ・・・アメリカとロシアの停戦合意崩壊 ・・・アメリカ大統領選挙 ・・・アメリカにICBMsは要らない ・・・コロンビア国民投票の停戦案否決 ・・・メイの中道保守革命 ・・・グローバリゼーションと国民国家 ・・・日本の政治を動かす

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  ヨーロッパの左派政党

FT October 3, 2016

The left in Europe needs to change political course

Wolfgang Münchau

政治評論家たちは、Brexitは起きないし、トランプが共和党大統領候補には指名されないし、さらに、ジェレミー・コービン労働党党首がイギリス首相にはならない、と言っていた。本当だろうか?

中道左派の指導者で成功した者たちは、特にBill Clinton in the US, Tony Blair in the UK, Gerhard Schröder in Germanyであるが、彼らはグローバル資本主義に代わるものを提案したのではなく、その成果を再分配したのだ。それは左派ではなく、ほとんど穏健な中道派であった。

しかし、ある時代に成功したことが、いつも正しいとは限らない。たとえば、1920年代、30年代に、穏健な、体制を擁護する社会民主党はひどい失敗を犯した。その現代との共通点は、民主的政府が長い緊縮政策を続けたことである。主要政党がそれに代わる政策を示さないとき、過激な党派が支持されるようになる。

ワイマール共和国で、社会民主党SPDの支持率は、1919年の37.9%から、1933年の18.3%にまで減少した。この期間にSPDはさらに中道派になり、結局、デフレ政策を支持した。他方、この決定は、有権者の多くをナチスや共産党に投票させたのだ。

EU諸国の社会民主政党や社会党は、金融危機後に緊縮政策を支持し、今やその政治的な代価を支払っている。アメリカの民主党、イギリスのニュー・レイバー、ドイツの社会民主党SPDは、金融市場の規制緩和を熱心に推進したのだ。さらにSPDは、ユーロ圏の安定協定を支持し、財政均衡を求める憲法改正も支持した。彼らが歴史から教訓を学ばなかったのは明白だ。

世界金融危機はこの時代の最大の経済事件であり、政治を再定義する衝撃があった。

しかし、経済政策には顕著な変化が見られない。大規模な公共投資は提案されていない。主要政党で、これを主張するのはコービンの労働党だ。5000億ポンドの投資を約束している。あるいは、ドイツなら、東ドイツの共産党から変わった、左派党the Left partyだけだ。その提案を軽視してはならない。マクロ政策を転換し、金融危機後の停滞を抜け出す可能性がある。

ユーロ圏は複雑だ。こうした転換は、ドイツがユーロ債の発行や債務の貨幣化に強く反対する限り、ユーロ圏離脱を意味するからだ。それは過激な党派だけが主張しており、彼らの勝利を意味する。欧州委員会の提案もあるが、その中身はあいまいで、マクロ経済に無関係だ。

1980年代にそうであったように、政治は経済情勢に応じて調整する。それが1930年代のような形なのか、中道派の市場自由主義者たち支持しているコンセンサスの崩壊になるか、わからない。しかし、コービンを無視するのは間違いだ。

The Guardian, Monday 3 October 2016

If Europe's centre-left clings to discredited ideas, it will die

Paul Mason

スペイン社会党の党首が失脚した。それはヨーロッパ中で保守派の力を強めるだけだろう。

2度の選挙を経ても連立政権が組めず、政治的混乱が続いている。スペイン社会党はヨーロッパにおける社会民主主義の限界を示すものだ。ラディカルな左派、すなわちPodemos in Spain, Syriza in Greece, Bernie Sanders in the US and Corbyn in Britainは、ネオリベラリズムを批判して登場するが、その代替案を持たない。唯一、ラディカルな左派が政権に就いたのはギリシャであるが、シリザは北欧の社会民主主義に屈服させられた。

2次世界大戦後、ヨーロッパ左翼は再建された。それはソ連の影響を排除する防波堤になるからであり、またスペインやポルトガル、ギリシャの軍事独裁体制が崩壊し民主化されたからだ。中道左派にはほとんど優れた思想家が出なかった。グローバルな影響力を持ったのは、ハンガリー出身のアメリカ人、カール・ポランニーだけだ。ポランニーは、資本主義が自由な市場に向かう運動と、それに反対する運動(社会の諸利益に従い資本主義を規制する)という、「二重の運動」から成っている、と考えた。彼の思想は、社会民主主義が「労働者階級を保護する」というより、「資本主義を改善するために規制する」という目的を与えた。

保守派に近づいて政権に参加しても、それは資本主義を転換することには向かわない。すでに警鐘がなった。オーストリアの大統領選挙で、左派よりの中道候補をほとんど退け、極右の候補が当選するところまで支持されたのだ。ヨーロッパの中道左派は、教訓を学ぶべきだ。ネオリベラリズムに執着すれば、死滅する。


l  アメリカとロシアの停戦合意崩壊

NYT OCT. 6, 2016

Don’t Intervene in Syria

By STEVEN SIMON and JONATHAN STEVENSON

アメリカとロシアのシリアにおける停戦合意は崩壊した。

この失敗と、アレッポで苦しむ人々の映像は、アメリカに再び軍事介入を支持する意見を刺激している。火曜日、副大統領候補Tim KaineMike Penceのテレビ討論は、ともにアメリカの積極的な行動を求めた。

しかし、それは間違いだ。アメリカが介入しても重大な戦争に巻き込まれないという時期ではもうない。遅すぎる。あるいは、ロシアやアサド政権と敵対する姿勢を貫けず、その後、立場を変えて弱腰だと非難されるだけだ。アメリカの目標は、市民の犠牲者を減らし、人命を救い、政治的な解決に向かう取り組みが続くように助けることである。停戦合意は、どれほど苦しいものでも、それを達成する最善の方法である。

モスクワは、明らかに、アサド政権の生存をシリアにおけるロシアの利益を守る決定的な目標と考えている。それはロシアが中東における地政学的なプレーヤーとして重要な役割を果たす前提なのだ。その結果、アサドはロシアに対する重要なテコを握り、いまだに化学兵器を自由に使用している。ロシアが停戦合意によって和平を促しても、アサドは反抗的な残虐さを抑えなかった。

アメリカは、ロシアがアサド政権に対して持つ抑制の効果を知らず、それゆえ、シリアで軍事的な関与を強めることは危険なのだ。

アメリカの介入支持論者は、市民をアサドやロシアの空爆から守る飛行禁止空域を設ける、という。しかし、それはロシア軍機を撃墜するリスクを生じる。まさに今週、ロシア軍は新しい防空システムをシリアに持ち込んだ。小規模な、目標を限定した空爆だけでシリアの行動を変えることはできないだろうし、介入のエスカレーションに向かう。もしくは、効果のない空爆を続けて、無能さを示す。

こうして紛争が激化し、国際的な圧力を受けて、アメリカがコストのかかる、終わりに見えない、感謝されない地上軍の投入に及ぶことを、国内世論は支持しない。アメリカを、国際秩序に不可欠の対抗とみなし、リベラルな国際介入主義を唱える者は、もはや1990年代ではない、ということを忘れている。

アメリカには明確なシリア政策がある。空爆と、アメリカが支援する反政府勢力、そして、可能な限りロシアとの協力によって、イスラム国家を敗退させることだ。人道支援を拡大する。持続可能な停戦と、アサドの政権離脱に向けた政治的以降に関する交渉を進める。それは不満の多い過程であろうが、それ以外の選択肢に比べて、唯一、意味のある方針だ。

オバマは、ロシアとの停戦合意に向けた交渉を再開せよ。


l  アメリカ大統領選挙

NYT SEPT. 30, 2016

The Death of Idealism

David Brooks

アメリカ大統領選挙は、ベビーブーマー世代の最年長者たちによる闘いとなった。しかし、70歳のトランプと68歳のクリントンは、まったく異なる時代を代表している。

トランプは1983年に、マンハッタンの5番街にトランプタワーをオープンした。1970年代の停滞を払しょくし、1980年代、資本主義は気力を取り戻した。ソ連を敗退させつつあった。

トランプは、今や、純粋の利己主義にまで退化した資本主義を代表する。他人を者のように扱い、嘘をついて捨てる。税金を支払わないことを自慢し、他人が支払えばよいと考える。住宅破産で利益を上げ、苦しむ家族のことなど考えない。市民生活という概念を全く知らず、市民としての責任を果たすなど考えたこともない。

トランプの精神とは、・・・何でも自分のものにする。だれもが自分の面倒を見ろ。

トランプはわれわれに、資本主義のチャンピオンという人々でさえ、道徳的な自制心がともなわなければ、資本主義がいかに腐食性の悪質なものか、思い出させる。指導者が約束を守らないとき、社会生活は不可能だ。

クリントンは、1969年に演説した。そこには1960年代の、たっぷりと心を鼓舞する、理想主義が示されていた。彼女は、一見、不可能なことも可能にする芸術としての政治を説き、社会の改造ではなく、人間お改造に向かうべきだ、と主張した。

クリントンは、信頼を回復するような社会を夢見た。人々を操作しない。社会的なエンジニアリングを考えない。

その詩的な、躍動する感覚は、クリントンの選挙キャンペーンに全く見られない。クリントンは恐るべき対抗者であるが、国民の抱える諸問題に対して人間的な姿勢を示せない。情緒的なつながりを感じさせない。

大統領になってしたいことを、彼女は多くのプロジェクトとして並べるが、公共財への情熱的なイメージは生まれない。それは利益集団へのプログラムであり、連邦支出による有権者の買収でしかない。

この1960年代と1980年代の革命を継承した2人の対決が意味するのは、社会的な、そして、経済的な個人の解放であり、コミュニティーの弱体化であった。そして2人の選挙キャンペーンは、理想主義を死滅させた。

皮肉なことに、ベビーブーム世代の継承者に求められる課題とは、理想主義を再生することである。アメリカは孤立や分断化の危機にあり、利己主義、冷笑主義、不信、自閉によって引き裂かれた社会の部品を再び継ぎ合わす必要がある。

高齢の2人のベビーブーマーからは、まったく、それを得られない。

NYT OCT. 3, 2016

Donald Trump Trashes Nafta. But Unwinding It Would Come at a Huge Cost.

Neil Irwin

「アメリカ製」自動車を買うとき、あなたはメキシコやカナダで生産された部品が非常に複雑に組み合わさった自動車を買うだろう。電化製品やカーペットを買うときもそうだ。

これがNAFTA発効から23年を経た世界である。こうした緊密な統合化が進んでいる事態は、トランプの言う「アメリカが結んだ最悪の条約の1つ」を破棄することが容易ではない、というのを示している。それはアメリカ人の数百万人の雇用を支える産業が混乱することを意味する。

Dellコンピューターを組み立てる台湾Faxconn工場で、メキシコ人労働者たちが働いている。製品のデザインはテキサスで行われ、世界中で販売される。低賃金コストのおかげで、Dellは中国のLenovoと競争できる。そして、そのおかげで、Dellはアメリカ国内で多数のエンジニアや販売員に高給を支払い、雇用できている。

同様の現象がほかでも見られる。ヨーロッパでは、ドイツの製造業が世界市場の競争で成功している。しかし、ますます多くの労働集約的な、付加価値の少ない自動車部品、その他の製造業品が、賃金の安い、ポーランドやハンガリーのようなEU諸国から流入する。

確かに自動車産業のアメリカにおける雇用者数は減少したが、2010年以来、アメリカ国内の新規プロジェクトに770億ドルが投資された。メキシコに投資されたのは260億ドルである。

NAFTAを破棄すれば、企業が調整できない、ということではない。こうしたネットワークが発達した理由が失われ、その再調整にはコストが抱える、ということだ。NAFTAには欠陥もマイナス面もある。しかし、NAFTAのないアメリカ経済は、再調整されるか、世界経済の孤島になる。


l  アメリカにICBMsは要らない

NYT SEPT. 30, 2016

Why It’s Safe to Scrap America’s ICBMs

By WILLIAM J. PERRY

近年、アメリカとロシアは冷戦時代の核兵器を再建し始めた。世界を新しい軍備拡大競争の瀬戸際に押しやっている。しかし、われわれは20世紀の有害なドラマを再現する必要などない。

アメリカの核戦力維持・再建計画は、不必要な規模であり、無駄が多い。30年間で1兆ドルを支出する。

アメリカの地上に配備された大陸間弾道弾ミサイルICBMsは、冷戦時代の基本政策であったが、安全に放棄できるはずだ。それは間違った情報で偶発的な核戦争を生じる危険がある。もし敵がアメリカに向けてミサイルを発射したと感知したら、大統領は自国のミサイルが破壊される前に、ICBMsの発射を決断しなければならない。考える時間は30分もない。

40年ほど前に、国防次官補であったとき、私は間違った警報を経験した。深夜に起きて、私は国防省のコンピューターがソ連の発射した200基のICBMsを映し出すのを観たのだ。文明が消滅する瞬間を想像する恐怖を味わった。

今や、アメリカは潜水艦発射型ミサイルとステルス戦闘機によって守られている。われわれはその正確さと防衛力に自信を持っている。核兵器に過剰な投資をすることや、軍備拡大競争を刺激することは間違いだ。むしろアメリカは抑止力を維持する水準に核保有を抑制するべきだ。そしてロシアにも同じことをするよう説得する。

両国はそれによって大きな利益を得るだろう。軍拡競争を避ける唯一の道は、それを拒否することだ。


l  コロンビア国民投票の停戦案否決

The Guardian, Monday 3 October 2016

Why Colombians voted against peace with the Farc

Isabel Hilton

否決された理由はいろいろある。この国の地理的・政治的な分裂状態。サントス大統領の支持率は高くない。ゲリラの指導者を称賛することは受け入れがたい。和平合意でサントスは前面に立ち、不満を強めた。もしサントスではなく、犠牲者たちが和平合意を提示したら、投票結果は違っただろう。

反対派を指導したウリベ元大統領は、今も支配地域で高い支持を得ている。ウリベが反ゲリラ闘争を強化し、犠牲者も増えた。しかも暴力的な土地収奪を行い、和平合意では返還を求められている。

反対した人々は考える。FARCの得た利益は不当だ。ゲリラが政治参加することも許せない。左派の独裁政権に向かう恐れがある。庶民は犠牲になって、暴力を振るった者たちが利益を得た。犯罪者たちが過去の罪を問われない。

内戦と平和とを選択するのではなく、もっと違う条件の平和を求めた。これまで誘拐や暗殺を繰り返してきたFARCの指導者が、今さら愛を訴えても、支持されない。

The Guardian, Thursday 6 October 2016

A peace deal in Colombia is still possible – as my Northern Ireland experience shows

Jonathan Powell

コロンビアの国民投票で和平合意が否決されたと聞いたとき、私は胸苦しかった。この5年間、サントス大統領の交渉に助言してきたからだ。1300万票の6万票しか差はなかったが、否決されるとは信じられなかった。

その前の月曜日、Cartagenaでの和平協定調印式に、私は2人の女性と並んで座っていた。彼女たちは息子を内戦で亡くし、その遺影を胸に抱いていた。調印のとき涙を流した彼女たちが、その後、喜んで立ち上がった。それはFARCの指導者Timochenkoがコロンビア国民に対して、彼らが内戦中に行ったことを許してほしい、と願ったときだ。それは、20万人を超える犠牲者、数百万人の難民をもたらした内戦が終わる、という希望を見出したときだった。

和平合意に国民投票を強いる法的な理由はなかった。しかし、私は大統領の判断を支持した。合意文書を実行することは非常に難しいとわかっていたからだ。

だが、特にBrexitが起きてから、私は国民投票を心配し始めた。世論調査だけではわからない。政権の支持は低かった。右派のウリベ元大統領が指揮する強烈な反対運動が、この合意を攻撃していた。

私は投票率が心配だった。世論調査で6040の差により承認されると予想されるとき、わざわざ平和のために時間をかけて投票所へ行くだろうか? 実際、投票率は38%だった。

1998年の北アイルランドに関するグッド・フライデー合意を思い出した。ナショナリストの支持を得ていたが、ユニオニストからの支持は不明確であった。その重大さに気付いて、われわれはトニー・ブレアのすべての時間を使って支持獲得に運動した。ジョン・メージャーも協力した。奮闘の結果、ユニオニストのかろうじて半分から支持されたのだ。

内線は双方の信頼を破壊した。合意を相手側が実行して初めて、信頼は回復する。言葉だけでは無理だ。しかも人々は合意に自分たちの条件を求める。コロンビア国民の多くは、ゲリラ指導者を長期に投獄し、彼らには政治活動を許すべきでない、と考えている。

北アイルランドでもそうだった。シン・フェインのGerry Adams and Martin McGuinnessについて、同じことが言われた。しかし、合意とは双方に譲歩を求めるものだ。一方的な要求だけでは成立しない。あるいは、そんな合意は続かない。30年間投獄されるとわかって、ゲリラの指導者たちが調印することはない。この合意では、移行期の正義、という革新的な条件が盛り込まれた。

サントスは、和平合意に代わる道はない、と表明した。この後退を経て、より強い合意を結ぶことだ。地理的に分断され、政府はその一部を統治できるだけで、暴力が支配する国で、和平合意が失われれば、FARCが支配権を失った真空地帯に麻薬ギャングが支配力を強め、あるいは、かつての準軍事組織が殺戮を始めるリスクは常にある。

国民投票の敗北後、サントスは、和平合意は残る、と述べた。FARCも、ジャングルに戻って内戦を再開することはない、と述べた。ウリベでさえ、平和を支持し、FARCは暴力から守られる、と述べた。

内戦は再発しない。平和は永久にここにある。


l  メイの中道保守革命

FT October 1, 2016

Theresa May eyes centre stage with review of ‘gig economy’

George Parker and Sarah O’Connor

メイ首相は、トニー・ブレアの元政治顧問Matthew Taylorを労働市場改革の評価報告書作りに採用した。それは彼女がデジタル社会、「ギグ・エコノミー」the “gig economy”の新しい就労形態に関心を持ち、労働者の権利を拡大したい、という姿勢を示すものだ。

首相は述べた。「労働規制とその実施は労働者の変化に合わせて変わるべきだ。」 それはパートタイム労働やUberのような自営業の就労形態を指している。労働党が内部分裂を生じているときに、保守党は従来の労働党が重視した領域でも改革を指導し、保守党の支持基盤を中道まで拡大する戦略である。

60歳の誕生日を迎えたメイ首相は、土曜日、バーミンガムで開かれた保守党大会の前夜祭で、6月のBrexitは、自分たちの人生がコントロールできないという絶望感が、人々を離脱に向かわせた、とあいさつした。まるで2015年のEd Milibandによる労働宣言のように聞こえるが、労働者の権利拡大、ゼロ時間契約労働者の問題を、メイ首相が言及した。

「われわれはイギリス政治に新しい中道右派の基盤を築くつもりだ。」 「普通の労働者階級の人々が雇用の安定性と権利を拡大することが、特権的な少数者のためではなく、すべての者のために国家や経済を築くうえで肝心なことである。」

メイの顧問は、評価報告書が「労働市場が弾力性を維持しつつ、同時に、雇用の確保や労働者の権利を支持する」にはどうするべきか、考える。その際、Uber and Deliverooのような急速に成長する企業に注目する。

こうした企業ではネット上のプラットフォームを利用するだけで、労働者は自営業者に分類されている。そのため、最低賃金、疾病保障、有給休暇、その他の労働者の権利が認められていない。しかし、メイは企業の責任を拡大し、被雇用者が経営幹部に参加することを支持している。

ビジネス界はそれを嫌うようだが、首相はこうした改革こそ資本主義への信頼を回復し、成長の成果をより公平にシェアするために重要だ、と確信する。「それは、保守党政権だからこそできる改革だろう。」

評価報告書は、the “gig economy” の得失や、その他の高度に弾力的な労働、ゼロ時間労働契約に関する論争に加わることになる。

The Guardian, Sunday 2 October 2016

Nissan is an early sign of the downturns and the divisions Brexit could bring

Will Hutton

もしBrexitに良い点があるとすれば、それはイギリスが渇望している経済・政治憲法の改革を開始する引き金を引く場合だ。しかし、保守党政権によるBrexitはハード版に向かっている。

Sunderlandの住民の61%は離脱を支持したが、彼らは金曜日のニュースに驚いたはずだ。ヨーロッパ最大の自動車工場であり、7000人を雇用する地域経済の大黒柱であるルノー日産が、Brexitの細部が明らかになるまで、新規投資を見合わせる、と発表したからだ。カルロス・ゴーンCEOはそれを説明して、Sunderland工場の効率は素晴らしいが、その利潤はEU離脱による関税を考慮していない。「重要な投資の決定は、暗闇の中で行えない。」

ハードBrexitになれば、EU向け輸出に関税支払いが生じ、EU市場における製品の安全性やサービスの提供には新しい保証が求められるだろう。イギリス企業は、いわゆる、EUのパスポートを失うのだ。

Brexit支持者は、EUに制約されない自由貿易協定によって、イギリスは失うより得るほうが大きい、と主張する。しかし、それは存在しない。新しい貿易交渉は多年を要し、相互の市場アクセスを譲歩し合う形で決まる。

しかもBrexitは、イギリスがアメリカや中国と並ぶ直接投資の受け入れ国であり、1兆ドルをこえる投資がすでになされている、という事実に直面する。イギリスには多国籍企業の本社や地域統括本部が所在し、その数は他のEU諸国の合計より2倍以上も多い。イギリスのビジネス環境は良好で、ニューヨークとカリフォルニアを合わせて、ヨーロッパ大陸市場を後背地にできるからだ。しかし、ハードBrexitはその利点のすべてを失わせる。

経済的コストだけでなく、イギリス社会や政治にも排外主義や人種差別など、Brexitが広めた悪影響が残されている。

イギリスは国民投票を超えて、憲法を持たない欠陥を強く示した。EU離脱を通告することは、他の民主主義国なら国民投票で60%を得なければならない決定だ。しかし、イギリス議会は解散もせず、保守党政権が続いたまま、それをブラッセルに通告する。

政治・経済構造の解体が、議会の多数支配とゆがんだメディアにより、実行されるのだ。


l  グローバリゼーションと国民国家

FT October 4, 2016

There is no need to fret about deglobalisation

Dani Rodrik

中国、杭州で開催されたG20は、包括的な成長、文明化された資本主義、を求めた。しかしグローバルの進展は減速、低迷し、脱グローバリゼーションの時代に入ったと心配されている。指導者たちは新しいアイデアを示せなかった。

2次世界大戦後、経済成長とグローバリゼーションの相互に補完的なパターンを支えた要素は大きく損なわれた。先進民主主義国家で、福祉国家と経済は違法との社会的な取引は、解体されてしまった。政府への信頼は、経済を管理する能力が失われるとともに、低下した。容易な工業化の道は、特に中国の工業化によって、閉ざされた。移民、貿易、自由な資本移動は、激しい論争にさらされている。

しかし、われわれはグローバリゼーションの逆転をあまりにも心配し過ぎている。むしろ、グローバル市場とナショナルな責任とが不均衡に陥っている事態を再考するべきだ。

経済の開放を支持する知的コンセンサスは維持されている。むしろ問題は、主流の政治家たちがハイパー・グローバリゼーションという維持できないモデルに固執していることだ。その結果は、ネイティビストの政治的主張に対抗できないまま、経済や民主主義を損なってしまう。中産階級は下層の人々が持つ不満は、政治的エリートたちが国内問題よりもグローバル経済を優先している、という認識から生じている。

もし不平等を抑える税制が企業のグローバルな移動によって阻まれるとしたら、後者を禁じて、前者を優先するべきだ。もし景気循環を抑える金融・財政政策が短期資本の移動によって阻まれるとしたら、金融を規制するべきだ。

もし発展途上国が経済多様化のための産業政策をWTOルールが阻むなら、貿易ルールを書き直すべきだ。もし国内の労働基準が、労働者の権利を認めないような国に生産拠点を移す企業によって阻まれるなら、その貿易を禁止するべきだ。

もし外国投資家が各国の法体系から特別に保護されることを求めるなら、それを拒むべきだ。何よりも、政治家たちはグローバリゼーションの陰に隠れてはならない。構造改革、その他の政策は、自国のメリットによって実行されるのであって、グローバル市場での「競争」を理由にしてはならない。

ポピュリストたちからの圧力を感じて、主流の政治家もグローバリゼーションのメッセージを修正し始めている。しかし、よく考えたものではない変心は、その信頼を損なうだけである。政治家たちは、国内の社会契約が再生する話を描き、それをグローバリゼーションより優先しなければならない。

より健全な政策を行う国が、グローバリゼーションを進展させ、それを受け入れることもできる。国民国家を再建するというのは、グローバリゼーションに有害と思うだろうが、国民国家が社会の結束を高め、堅固な成長を維持し、リベラルな民主主義体制を築くことは、開放型の世界経済の必要を極めてよく充足する。


l  日本の政治を動かす

FP OCTOBER 4, 2016

Japan’s Summer of Women

BY JOJI SAKURAI

蓮舫(民主党党首)、小池(東京都知事)、稲田(防衛大臣)、3人の女性政治家が躍進し、他方、安倍首相は「Women-nomics女性経済学」を唱え、男性中心の企業文化を変え、支援制度を整備しようとしている。

女性の社会的な活躍を阻んできた硬直的な日本のシステムは変わるのか?

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The Economist September 24th 2016

The low-rate world

The fall in interest rates: Low pressure

Religion and state in Malaysia: Adulterers beware

Internet governance: The road to serfdom?

Charlemagne: The parable of Ticino

A Chinese steel merger: Welding bells

Norway’s global fund: How to not spend it

Free exchange: The emperor’s new paunch

(コメント) 低金利の時代はなぜ続くのか? どうすればよいのか? 中央銀行の姿勢を批判する意見もあれば,中央銀行は貯蓄と投資との長期均衡水準が低下したことに反応しただけ,という.社会保障の無い中国の中産階級とその高貯蓄率が,世界に波及した? 金融政策に冒険を求めるより,財政政策を適切に使用できる仕組みを開拓せよ.

マレーシアの政治的な宗教利用,スイスの反移民要求,中国における鉄鋼国営企業の合併,ノルウェーの政府系投資信託,に興味を持ちました.世界銀行の主任エコノミストになったPaul Romerによる過激な経済学批判,あるいは,その暴露と嘲弄のレトリックについて,ノーベル経済学賞の政治色とともに,楽しむというより,苦悶します.

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IPEの想像力 10/10/16

日本の社会が直面する,おそらく,最も重大な挑戦は,グローバリゼーションと高齢化です.

NYTのドキュメンタリー短編映像を見ました.MEGAN MYLAN “Taller Than the Trees,” NYT OCT. 6, 2016

広告業に関わる男性が,小学生の息子と話しながら,母親の介護をする短い作品です.彼の妻はキャビン・アテンダントであるため,ほとんど帰宅できません.彼は,母の着替え,料理,お風呂,体の屈伸,などを,言葉をかけながら続けます.

日本の政治・行政機関が直面している変化への圧力は,グローバリゼーションだけでなく,むしろ高齢化です.その対応に長期的な方針を見いださない限り,さまざまな問題で対処する能力を失い続けます.たとえば,かつて,日本の製造業や金融システムは健全で,先進諸国との比較論が栄え,発展途上諸国の目指すモデルとなりました.円の国際化,円圏,が議論されたのもそのころです.それらが「日本病」として,失敗から学ぶべき国になりました.

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家に着いて玄関を開けると,私は「こんにちは.来ました.」と,母にあいさつします.そして,リュックを置いて,冷蔵庫の中をのぞきに行きます.何があるかな? お昼は何を食べるかな?

料理は私がして,食器を洗うのは母がしてくれます.ただし,ねぎのみじん切りは難しいので,母に任せます.たいてい,残り物やサケ,タラコなどがあるので,お昼は味噌汁だけ作ります.

おかずを並べたら,「ごはんとお茶を出して」と,母を呼びます.母はお箸を丁寧に並べ,茶碗にご飯を入れてくれます.炊き立てのご飯は,まず仏壇にお供えします.

食後,母がむいてくれたリンゴや梨を食べながら,私は台所のテーブルでノートパソコンを開けて,Reviewをまとめます.ときどき,母が観ているテレビを覗いて雑談し,チャンネルを変えて面白そうな映像を探します.百名山,グレートレース,ランニング,鑑定団,林先生,・・・

おやつの時間には一緒にお茶を飲みます.それからNHKの「きょうの料理」をネットで調べ,その日の晩御飯を考えます.足りない材料をメモし,近所のスーパーに買い物に行きます.

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もし母の認知症がもっと重くなって,私の顔もわからなくなったら,そして,常に誰かがそばにいて,介護しなければならないとしたら,どうすればよいのか? 夜間の徘徊や,排せつの世話をできるのか? ベッドから立てない,歩けない,妄想や攻撃的な言葉を繰り返すようになったら・・・

どうしたらよいのか,今は分からない,と思います.

できることは自分でしたいです.しかし,介護についての知識や技能が必要だと感じます.適切に,小さな手助けが得られれば,仕事や自分の時間も維持して,介護を続けられるでしょう.

何もかも満足するような支援は受けられない,と分かっています.大変な費用が掛かるでしょう.そもそも,介護者には十分な賃金や地位,社会的に上昇するキャリアがないように思います.介護が,社会の重要な一部になっているのか? 介護制度の社会との一体化を図るべきです.

それは,どういうことか? ・・・介護の必要な家族は,支援センターで支援を受け,介護の方法を学ぶことができます.介護労働者は,さまざまなサービス労働の中の1つとして雇用されると同時に,その意義や多方面の組織化を指導する地位に上昇する展望があります.また,大学や企業は,介護の実習を全員に義務付け,その実態を深く理解できるように,定期的に講習を受けます.高齢者と向き合う介護の現場には,外国人の出稼ぎ労働者を歓迎し,また,さまざまな補助器具や装置,AIやロボットを開発して,介護ビジネスの発展を促します.・・・

外国から来た出稼ぎ労働者が,そのまま日本に住むことも歓迎してはどうでしょうか? 多くの日本人と接し,高齢者とその家族,大学や企業からの研修生と知り合う中で,彼らが日本で暮らすことを望むなら,永住権を得て,国籍・市民権を得る道も開きます.若手の労働者を求める地域の農村や自治体,酪農家,活気のある職場を維持するためにも若者に熟練を伝えたいと願う町工場からも,彼らの就労を支援する申し出があるでしょう.

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製造業が衰退し,サービス輸入も増えて,日本の貿易収支は急速に赤字になるかもしれません.ヨーロッパ諸国でも,病院や介護の分野で,かつての建設やレストランに代わって,多くの外国からの出稼ぎ労働者が働いていると読みます.円の国際化が成功していたら,国債の管理や為替レートの安定化に苦しむところでした.

しかし,外国生まれの定住者や日本人が増えることは,うまく行けば,若者たちの活躍する,可能性に満ちた柔軟な社会に,日本が生まれ変わる過程です.各地に新しいエスニック・シティが生まれ,出身地との貿易や投資が増えて,彼らの母国の成長を促すと同時に,その過程に日本は積極的に関与します.

社会が育児や介護,移民を受け入れて,成長する姿を想像したいです.諸外国で活躍する日本人の姿を,母とテレビで観ながら,私は料理を楽しみます.

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