IPEの果樹園2016

今週のReview

10/3-8

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民主主義は移民を支持できるか? ・・・トランプ vs クリントン ・・・金融緩和への批判 ・・・労働党党首選挙 ・・・1回のテレビ討論 ・・・技術革新を恐れるな ・・・中国の債務と不動産市場 ・・・シモン・ペレスの訃報

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  民主主義は移民を支持できるか?

NYT SEPT. 29, 2016

What Does Immigration Actually Cost Us?

Thomas B. Edsall

全米科学アカデミー(NAS)が移民の影響に関する509ページの報告書“The Economic and Fiscal Consequences of Immigration”を発行した。左派も右派も、直ちに反応した。

NASの研究は、移民がアメリカにとって利益をもたらすことを確認した。」 リベラルな政策推進団体であるAmerica’s Voiceは、移民支持の立場から、こう表明した。トランプやそのネイティビストの群れが移民の恐怖を煽るのは間違っている、と。

保守派は、同じ報告書の異なった解釈から、一層の移民規制を主張した。「NASの研究は、移民が労働者と納税者の損失であり、大企業の利益になる、ということだ。」 移民研究所の所長Steven Camarotaは、移民がアメリカ人の賃金を下げ、移民たちと企業の利益になる、と述べた。

こうした反対の意見が示されることは、NAS報告の主要な発見が持つ複雑さによる。競争する意見を許容する多面性があるのだ。報告書が示すのは、移民が一方の正しさ、他方の間違いを、明解に決めることのできる問題ではなく、コストも利益もある、ということだ。

たとえば、低熟練の移民労働者が低賃金で熱心に働くことは、多数のアメリカ人の消費コストを下げた。医療、育児、食事の提供、住宅の清掃、修復や建設、など。同時に、こうした低賃金労働者は、アメリカ生まれの労働者の間で、低熟練層から高熟練層への、富の再分配を生じた。

さらに研究は述べている。移民の追加供給は、それによる賃金の低下から、資本の収益を増大させ、移民余剰the immigration surplusが生じた。そして資本を多く所有しているネイティブは利益を受け、資本をあまり所有していないネイティブは貧しくなった、と。

こうした対立を認めながら、それでもNASは、はっきりと移民を支持している。

「移民はその国の経済成長の一部である。移民による労働供給は、人工的な悪条件から経済が停滞する他国の諸問題を、アメリカは回避できる条件となっている。特に、労働力の高齢化や、高齢者による消費の減退である。さらに、高熟練の移民は人的資本の追加となり、その国の核心、企業家精神、技術変化に必要な能力を高めている。」

NASの研究は、移民が財政的に負担となるかどうかについても、双方に根拠を与える。すなわち、2011年から13年について、州と地方の財政に、第1世代の大人が与えた純コストは、平均、1人当たり1600ドルであった。しかし、第2世代と第3世代以降の大人がもたらした財政への純利益は、それぞれ、1人当たり、1700ドル、1300ドルであった。要するに、2011年から2013年に、第1世代の大人とその被扶養者は、574億ドルのコストとなり、第2世代と第3世代以降の大人は、それぞれ、305億ドルと2238億ドルの利益をもたらした。

移民支持派は、まさにこのままのことを主張したが、移民反対派は「移民たちは、現時点の公共サービスに対する十分な税金を支払っていない」と主張する。

こうしたイデオロギー的な亀裂は、大統領選挙や議会の論争でも見られる。トランプはクリントンの立場に示された原則を批判する。「政治家たちが移民制度の改革を議論するとき、その意味は、非合法移民のアムネスティ、低賃金、国境の開放、である。」・・・「われわれは、自国民より他国民の必要のために移民システムを作る、世界で唯一の国である。」

移民に関する論争と政治的な分極化は密接に結びついている。移民が多いほど、政治は分断されたのだ。たとえば、保守派は移民による送金を、本来アメリカで投資できた資金である、「外国人によるアメリカの富の盗掘」とみなす。しかし、NASは、送金による経済的な損失はごくわずかであり、むしろ貧しい国へ豊かな国からの支援となり、世界の成長を高め、国家間の不平等を減らし、国際移民をも減らす可能性がある、という。

移民の政治は複雑だ。移民を支持つる共和党のジレンマとは、ヒスパニックの支持を得るのに必要な移民政策の自由化が、他方で、2つの有力な支持基盤を損なうのだ。すなわち、すでにアメリカに住む最近の移民たちと、高校を卒業していないすべての労働者たちである。また、移民の増加から経済的利益を受けるのは、共和党内のエスタブリシュメントである、企業、地主、投資家である。彼らは、トランプが候補争いの過程で、まさに攻撃した人々だ。

しかし、移民が増えることで、どれくらい、だれの賃金が減るのか、合意は存在しない。ハーヴァード大学のエコノミストGeorge Borjasは、移民がアメリカの労働者の賃金を減らす、特に、高校を卒業していない労働者の賃金を減らす、と主張した。他方、UCバークレーのエコノミストDavid Cardは、Borjasと論争し、移民はアメリカ人労働者の賃金を減らさないし、むしろ増やすかもしれない、と主張する。「証拠を見ればわかるように、通常、人口の増加は生産性を高める。」

確かに多くの政府が移民を管理し、選挙では反移民の候補者が得票しているが、その勝利は短命であろう。イエール大学のノーベル賞受賞者である、エコノミストのRobert Shillerは、最近おエッセー“The Coming Anti-National Revolution”で、世界が多くの知的な革命を経験してきたように、コミュニケーションの発達、グローバル企業の雇用、日常的なインターネット経由の接触を通じて、国境による障壁は失われる、と主張した。

トランプとクリントンは、異なる視点で、選挙を戦う。そして、大統領選挙が終わっても、論争は続くだろう。そして移民政策の改善を求める人々は、失われた過去を回復しようとする人々と、対峙するのだ。


l  トランプ vs クリントン

NYT SEPT. 23, 2016

Why Trump Won’t Save the Rust Belt

By EDWARD McCLELLAND

先月、トランプはデトロイト経済クラブで、自由貿易によって破壊されたかつての大都市について話した。

「デトロイトは私の敵対候補の経済政策が間違っていたことを示す生きた例である。」 「彼女は高い税金、過激な規制を唱え、仕事をコミュニティーから奪う。その治安政策はますますあなたの町を危険にする。」 そして結論した。「彼女は過去の候補だ。私たちこそ未来の候補だ。」

しかし実際は、トランプこそミシガンの過去を表している。だから州のあらゆる調査で支持を失っているのだ。トランプの選挙キャンペーンは懐古趣味の性格が強い。彼が約束する製造業の復活は、1980年代の態度であり、当時の有権者にふさわしい。あのころ、ミシガンには排外主義が強かった。特に、燃費の良い自動車を作る日本人を嫌っていたのだ。

トランプは、NAFTAのような通商条約を攻撃して、ブルーカラー労働者たちにアピールすれば、ミシガンなど、中西部の州で支持される、と信じている。多くの中産階級の製造業雇用が、メキシコに輸出された、と非難している。

しかし、サービスと知識に依拠した諸産業こそ、ミシガン経済でますます重要な役割を果たしている。典型的なミシガン労働者は、今、自動車を生産していない。2000年代に入って、健康関連産業が最も重要な雇用部門だ。トランプは、多くの自動車労働者が職を失ったのは、貿易よりも、機械化によるものであり、また、外国企業が(労働組合のない)南部に建てた工場との競争に負けたからだ、という事実を無視している。

トランプの経済ナショナリズムは、エスノ・ナショナリズム(自民族・白人優先主義)につながる。それは現在の労働者たちにも好まれない。かつて自動車関連製造業で働いていた男性Marcus Riddleは、その工場がコスタリカに移転され、今では1時間9ドルの老人介護ホームで働いている。しかし、インド人と黒人の両親を持つ彼は、クリントンに投票する、という。「トランプは人種差別主義者だ。」

ミシガン経済の未来は、デトロイトの自動車工場にはない。過去の候補は、未来の候補に勝てない。トランプが回復すると約束している生活とは、1980年代にもすでにわかっていたように、消滅しつつあったのだ。


l  金融緩和への批判

Bloomberg SEP 23, 2016

The Fed's Mission: A Rocket Launch From Jupiter

Narayana Kocherlakota

日銀は20年以上も苦しんできた。

ゼロに近い金利水準では、中央銀行がデフレと闘う術がない。物価が下落するという不安が、ほとんど自己実現的なものになる。それは、地球ではなく木星からロケットを発射するような試みである。木星では重力がはるかに大きいのだ。

インフレ目標が2%であるアメリカ連銀は、まだ1.3%のインフレしかないとき、経済のエンジンがもっと加速しなければ金利を引き上げない、と説明した。それは木星からの発射であることを知っているからだ。

FT September 26, 2016

Only government action can resolve a global solvency crisis

William White

中央銀行は、かつてなかったような実験的な金融緩和を試みてきた。未知の恐怖がその過激な政策を緩和することはなかった。それ自体危険であるが、その政策を逆転することも危ない。

極端な金融緩和は総需要を刺激できなかった。債務は、特に新興市場で累積し、将来の支出に対する期待を抑え、現在の投資を抑えている。消費者はますます貯蓄を増やして、引退後の所得を確保したいと考える。

金融緩和には2つの好ましくない副作用がある。

1に、金融の不安定化を強める。融資が減り、長期と短期の利子がその差を失う。銀行、保険会社、年金などのビジネスモデルが危機に瀕する。金融市場もその構造が変質し、資産価格は危険なほど高い水準に達している。

2に、将来の成長を損なう。金融危機前に悪化した資源配分は、ゾンビ銀行やゾンビ企業に固定されてしまう。そして金融機関も金融市場も、正常に機能しなくなる。

金融緩和政策の副作用を超えて、2つの悪循環が働いている。需要面で、累積債務が向かい風となり、さらに金融緩和を求め、さらに債務を増やす。供給面では、資源配分の悪化が成長を減速し、一層の金融緩和、一層の資源配分悪化、低成長につながる。

期待利潤の減少が過去の金融政策によるのであれば、その政策を続けることは正しくない。しかし、金利を上げることも難しい。世界経済は、実物面でも金融面でも壊れやすい状態だ。

幸い、抜け出す方法はある。中央銀行ではなく政府が行動することだ。

J.M.ケインズに従い、2つの解決策が示唆できる。1.財政刺激策の余地を活用するべきだ。長期の財政再建策を法制化することで持続可能性が強化できるだろう。2.民間部門と一緒に、インフラ投資を増やすべきだ。

フリードリヒ・ハイエクに従うなら、2つの解決策がある。1.過度の債務は償却するか組み替える。金融機関は自己資本を増やすか、不良資産が多ければ倒産させる。2.成長率を高める構造改革を行う。それは債務の維持能力を高め、長期の配当をもたらす。

われわれはケインズにもハイエクにも従うべきだ。その障害は、明らかに、思考の枠組みにある。経済と政策の働き方を見直し、財政再建の法制化を進め、中央銀行は政府が行動するための時間を稼ぐに過ぎない、と理解することだ。行動する時が来た。

Project Syndicate SEP 27, 2016

Secular Stagnation or Self-Inflicted Malaise?

HANS-WERNER SINN

リーマンブラザーズが世界経済を不況に落ち込ませてから、8年が経過した。工業世界全体が第2次世界タイ背に以来最悪の危機を経験した。中央銀行は超低金利を維持したが、危機はまだ完全に終わっていない。逆に、南欧諸国やフランスのように、ほとんど成長できない国もある。日本は4半世紀も停滞している。

それは「長期停滞」の証拠だ、という者もいる。利潤の期待できる投資プロジェクトが枯渇し、自然実質金利が低下し続ける。それゆえ政策金利もそれに応じて下げ続けるしかない、と。しかし、私はむしろ違うメカニズムが働いている、と思う。それは、自己誘発型停滞“self-inflicted malaise”と呼ぶものだ。

この仮説は、シュンペーターJoseph Schumpeterの景気循環論で考えるとよくわかる。市場参加者の間違った期待は、繰り返し、信用膨張と資産価格上昇のバブルを生じる。不動産価格も上昇し、建設ブームが起きて、所得の上昇が借り入れをますます強気にする。

その後、バブルは破裂する。投資は破たんし、不動産価格は下落する。企業も銀行も破産し、工場もマンションも空っぽのまま放置され、人々は解雇される。物価と賃金が下がって、新しい投資家が新しいビジネスを始める。こうして「創造的破壊」を経て、急速な拡大の新局面が現れる。

現在の危機では、金融政策で創造的破壊を阻止してしまう。シュンペーターの景気循環は大規模な債券購入で克服される、と中央銀行は信じている。紙幣を増刷し、金利を下げるのだ。

それは多くの資産を救ったかもしれないが、同時に、若い起業家、新しい投資家の登場を阻んだ。特に、日本やヨーロッパでは、多くのゾンビ企業とゾンビ銀行が生き残っている。彼らは競争を妨げ、成長が回復するのを許さないのだ。ECBのように、中央銀行によっては、金利の連続的な引き下げで、資産価格が上昇し、金融緩和の罠に陥っているケースもある。このままでは、マイナス金利やヘリコプター・マネーに突入する。

罠から脱出する唯一の道は、創造的破壊を加速することだ。ヨーロッパの場合、それは債務免除、ユーロ圏離脱、通貨切り下げを伴うものだろう。

その衝撃は既存の資産保有者に痛みを生じる。しかし、土地、不動産などの資産価格のドル価値が下がった後、新しいビジネスと投資が速やかに増大し、雇用が生み出されるだろう。投資の自然収益率は回復し、経済も正常な率で拡大する。この離脱は早ければ早い方が穏やかであり、ヨーロッパとその他の経済も安堵できるだろう。


l  労働党党首選挙

The Guardian, Sunday 25 September 2016

Now Labour’s two sides can start to bridge the great divide

Gary Younge

労働党には以前から2つの競合する流れがあった。左派の活動家Hilary Wainwright1987年に書いた本で、それをエスタブリシュメントとグラスルーツと呼んだ。

エスタブリシュメントは上意下達の指導権をモデルに、選挙における勝利だけを目指した。あたかも組閣自体が目的であるように。他方、グラスルーツは、片足を党組織、もう片足は社会運動に置いている。彼らは議会にも実現できないような、社会の根本的転換を目指している。

前者はプラグマティズムを誇り、ありのままの社会に関与する能力、ウェストミンスターで権力を握り、漸進的な関与の増大が多数の人々の生活を改善する、と考える。しかし後者は、行動主義を信奉し、パワーの分配そのものに挑戦する。

コービンの党首再選と指導力の強化が、こうした2つの流れを、労働党の設立原則にさかのぼって生産的に共存する道を見出すのでなければ、党とイギリスにとって大きな損失になるだろう。


l  1回のテレビ討論

FT September 28, 2016

America’s dystopian presidential debate

2人のテレビ討論を聴いた人は、アメリカが破局の瀬戸際にあると思うだろう。トランプによれば、アメリカは、第三世界の国のように、その雇用を中国などに大規模に奪われて苦しんでいる。暴力は制御不能になっており、アメリカの各地が内戦状態にある、というのだ。

クリントンの話は、それほど情緒的ではないが、アメリカが開放的な世界経済による脅威にさらされている、という前提を共有する。彼女はTPPを支持する姿勢を示さず、もしバラク・オバマを継承した場合、アメリカが世界に対してどのような姿勢を示すか、明らかにできなかった。

2人がアメリカ人に向けて伝えたメッセージは、「恐れよ、もっと恐れよ。」 世界はそのことに注目しなければならない。

アメリカ経済の相対的な健全さと、特に、ヨーロッパや日本に比べて、アメリカ政治を翻弄するディストピアとのギャップは、大きな謎である。トランプの指摘に反して、アメリカの失業率はヨーロッパの半分である。2008年の大不況から速やかに回復したし、移民流入は雇用を奪うことも、賃金を下げることもなく、メキシコからの非合法な流入は逆転した。アメリカ人の所得の中央値は、長い低迷を終えて、昨年やっと上昇した。不況の時期に貿易や外国人をスケープゴートにすることはあるが、景気は回復している。

アメリカの不満とは何か、である。中産階級の所得水準は、まだ、今世紀の初めよりかなり低い。アメリカ経済の成長は、上位10%の富裕層、特に最上位の1%に集中している。1990年代の生産性急上昇は再現しないだろう。工場労働者の将来は特に荒涼としている。彼らの憤慨がトランプへの支持を高めたのだ。

トランプもクリントンも、20世紀半ばの工場労働者の快適な雇用を取り戻せる、と言うが、それは幻想である。労働者たちが苦しむのは、アメリカ国内の分配が悪化した政であって、その原因は北京ではなくワシントンにある。アメリカの税制が間違っているのだ。

アメリカが挑戦するべきは、繁栄する諸都市を21世紀の技術革新に至るハブにすることだ。外国人を非難するのは政治的に有利かもしれないが、愚かな政策と経済停滞の深化につながる。

The Guardian, Thursday 29 September 2016

Do you live in a Trump bubble, or a Clinton bubble?

Timothy Garton Ash

ドナルド・トランプは5分ごとに嘘や間違ったことを言う、と最近の分析は述べている。今年のテレビ討論は、アメリカのメディアがこのナルシスティックな、自慢する、虚像の、無知な、そして危険なデマゴーグを、有権者にどのように伝えるべきか、という論争でもある。メディアに起きていることが、その問題の一部なのだ。

ニュー・ヨーク・タイムズでさえ、その社説で、トランプのことを「アメリカ現代史で、主要政党が出した最悪の候補者」と書いた。彼は国内の市民的な平和を乱し、国外においてアメリカの地位を脅かす、と。

残念ながら、メディアが立場を示すことは、アメリカ民主主義の構造的な腐食を加速することになるだろう。自由な表現を支持する議論は、民主的な自治に必要なものと考えられてきたことを示す。市民たちは関連するすべての議論や証拠を知ることができる場合だけ、自分たちで選択して、統治者を決めることができる。まず発言し、それから投票する。だから双方の議論を聴くべきなのだ。

しかし、月曜日のテレビ討論は有権者が共有する例外的な短い時間である。彼らはその他の時間を、自分たちの共鳴ボックスのような仲間との情報交換に費やす。それはインターネットが与える「繭(まゆ)」のような、「フィルター」のような条件だ。

トランプの支持者たちにとってそれは、Fox News, rightwing radio talk shows, internet sources such as Breitbart、そしてFacebookの友人たちだ。他方、クリントンの支持者には、MSNBC, National Public Radio, Public Broadcasting Service, そして Slate the Huffington Post、仲間たちのソーシャル・メディアがあり、今ではthe New York Timesもそうだ。

インターネットがメディアの伝統的なビジネスモデルを破壊して以来、だれもが関心を集め、マウスをクリックしてもらうために情報を流し、メディアは伝統的な株式取引所の立会場と同じものに変わった。すなわち、絶叫、絶叫、絶叫、である。

ニュアンスを考え、バランスを取り、証拠を基に報道する、というのでは聴き手を集めることができない。異なるリアリティを作るため、事実、証拠、専門家の意見よりも、神話、並外れた誇張、嘘、強烈な、単純化された物語が重要になる。トランプは“Make America great again”と連呼し, EU離脱派は“Take back control” と叫んだ。プロパガンダの歴史が示すように、嘘は、心がマヒするほど繰り返すことで支配的になり、真実を締め出すことができるのだ。


l  技術革新を恐れるな

Project Syndicate SEP 28, 2016

How Scary is Disruptive Technology?

MARTIN FELDSTEIN

技術革新の流れによって、ドライバーのいない自動車が道路にあふれ、AIとロボットがホワイトカラーの職業を占拠するようになりそうだ。人の雇用は減って、労働者の余剰が増大する、と予測するアナリストも現れる。

しかし、私は、アメリカが新しい技術にも容易に適応する、と楽観している。勝者と敗者は出るが、アメリカ人全体は生活が改善するし、職を失った労働者も他の分野で雇用されるだろう。大量失業が起きると心配する理由はない。

その根拠は何か? 歴史である。急速な技術革新は歴史的に新しい現象ではない。そのたびに、景気循環を経てアメリカ経済は完全雇用に復帰した。1950年には1300万人を雇用した製造業部門が、機械化により、現在では900万人しか雇用していない。製造業の生産額は75%も増えている。

コンピューターはさらに広くサービス部門でも労働者に代わるだろう。しかし、ロボットやコンピューターの利用は労働時間を減らし、余暇を増やす。人々は生活の質を高め、あるいは高齢化して、ますます多くのサービスを求める。現在、アメリカの雇用の81%はサービス部門である。

アメリカの失業率がEUの半分であるのは、多くの理由が関係しているが、特に、アメリカの労働法や労働組合が少ないせいで、被雇用者や企業に新しい技術の採用を妨げない、ということが重要だ。アメリカが比較的自由な労働市場を維持するなら、労働者たちは新技術にも積極的に調整するだろう。


l  中国の債務と不動産市場

Project Syndicate SEP 26, 2016

Keynes and Hayek in China’s Property Markets

ANDREW SHENG and XIAO GENG

中国の不動産市場は、再び、バブルなのか? 市場の調整は終わったのか? 金融危機後のケインズ主義的な需要維持を重視した政策と、土地利用や住宅建設規制によって、住宅価格は高騰していた。

しかし、地域によって、不動産価格の変動には大きな違いがある。中国の不動産市場には、まだ政策による介入の余地が多くある。

VOX 27 September 2016

Why a banking crisis in China seems unavoidable

Edoardo Campanella, Daniel Vernazza

中国のGDPに対する債務の増大は、銀行危機を予想させる。これまでの9つの激しい金融危機に至ったケースNorway (1990), Sweden (1991), Finland (1991), Japan (1992), Mexico (1994), UK (2007), US (2007), Ireland (2008), and the Netherlands (2008)は、その水準を示している。危機の前に、概ね、その比率が8倍を超えていた。

現在、中国は30倍である。政府の行動が必要だ。


l  シモン・ペレスの訃報

NYT SEPT. 28, 2016

Peres: 93 Years Young

Thomas L. Friedman

ペレスShimon Peresはナイーブではなかった。彼は、イスラエルの核兵器開発計画を立てた人物として、一般に認められている。弱冠29歳で国防省の局長となった。何度も閣僚となり、首相、大統領にもなった。彼は、中東が北欧ではない、と知っていた。イスラエルは無慈悲な敵に囲まれており、ユダヤ人がこの地域に自分たちの国を築き、維持するとしたら、敵が無慈悲である限り、自分たちも無慈悲になるしかない、という意味だ。しかし、彼は話がそれで終わることを拒んだ。

初めはイスラエルの壁を多く築いた人物であるが、真の安全保障は壁ではなくウェブで達成される、と信じた。すなわち、イスラエルがパレスチナやアラブ諸国と関係の網の目に入ることで、平和は得られるのだ。

NYT SEPT. 28, 2016

Shimon Peres, the Realist Dreamer

By TZIPI LIVNI

国民から裏切り者と呼ばれ、「オスロの犯罪者」という叫びを聴いた。その叫びは彼を傷つけた。

しかし彼は平和を求め、説得した。すべての指導者は彼から教訓を学ぶべきだ。Follow your inner compass no matter what. 政治家たちは明日の朝刊の見出しを考えるが、真の指導者なら歴史の書物について考えよ。

最新の3者会談(イスラエル、ぺレスチナ、アメリカ)の席で、私は結論した。・・・“history is not made by cynics. It is made by realists unafraid to dream.” その時、私はペレスのことを考えたわけではない。しかし、彼の訃報に接して、最初に思ったことはそれであった。

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The Economist September 17th 2016

A giant problem

Special Report: Companies – The rise of superstars

British politics: Britain’s one-party state

The Labour Party: Salvaging Jerusalem

Tibet: The plateau, unpacified

Buttonwood: Trust busting

(コメント) インターネットという技術が企業の環境を根本的に変え、グローバルな企業の集中が起きています。それは、企業が取引を内部化するのは市場よりもコストを安くできるからだ、というコースの考えた企業の限界を、根本的に変えてしまった、と特集記事は考えます。個人や伝統的な個別企業には不可能であるような効果を、インターネットを介して市場を拡大する一握りの企業は実現しているからです。それは消費者によって支持されて、革新的な商品を広めているという面と、経済や企業の生存条件を著しくゆがめるという面があります。

Brexitが示したイギリス政治の爆発は、保守党だけでなく、むしろ労働党で深刻です。どうなっているのか? という疑問に、優れた考察が示されています。

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IPEの想像力 10/3/16

Brexitが起きた1つの理由として、労働党の姿勢が分裂し、労働者に対してEU残留を説得できなかった、と指摘されています。左派のコービン党首がEUに反対してきたことが、EU支持の党の立場と矛盾したからです。

The Economistの記者は、2015年にジェレミー・コービンが党首選で勝利したとき,バーミンガムとレスターの中間にあるNuneatonの町で,買い物の人々に尋ねました.この町は1983年以来,常に勝利した側の政党に投票してきたからです.イギリス有権者の意見を代表する性格がある町なのでしょう.彼らは慎重に保守党のテレサ・メイを支持し,コービンについては「冗談だろ」,「彼が世界の動きを知っているとは思えない」,「だめだ」と応えました.

コービンは,Brexit投票後に,党内で不信任の動議が出され,40名の議員は彼を支持し,172名が反対した,ということです.これほど議員たちに支持されていない党首が再選されるのは考えられないことですが,コービンは動議にも揺るぎませんでした.なぜなら党首選では勝利することを確信していたからです.

再選により,コービンは党内権力を確立し,議員たちの役割を低下させ,一般党員やオンラインの活動家に大きな発言権を与えると思われます.支持者たち(コービニスト)によれば,すべての先例に背いて,労働党はイギリス政治を変える.そして,パワーを強め,広範な社会運動になる.南欧,特にギリシャのシリザが示すモデルだ,というわけです.

ただし,Nuneatonの住民が示したように,労働党は次の選挙で全く支持されないでしょう.かつて,トニー・ブレアの時代には,有権者の意向に沿うことがすべてでした.1997年,2001年の選挙で,ブレアの労働党が大勝しました.イラク戦争後の2005年でも,保守党を退けたのです.

何が起きたのか? 

保守党は,次第に,中道の人々をブレアから奪いました.イラク戦後の占領政策と沈静化の失敗は決定的でした.2007年に長く蔵相であったゴードン・ブラウンがブレアを退け,同時に草の根の運動家たちから支持を受けて,左に寄ります.しかも,直後の世界金融危機により党内の労働組合勢力が左派に傾いて,2010年の総選挙では,組合がブラウンの後継者であったエド・ミリバンドを支持しました.彼は一層の左傾化を進めたけれど,金融危機後の不況をブラウンの失策とみなす保守党の宣伝に押されて,2015年,選挙で労働党が敗北します.

党員の減少に対して,ミリバンドは新しいルールを定め,3ポンドを支払うなら党員として党首選挙に投票できる,としました.この変更の重要な意味を,主流派の議員は誰も理解しませんでしたが,コービンは積極的に支持者を党員に勧誘しました.それは理想主義的な中産階級の若者,あるいは,ブレアの時代に労働党を去った旧世代の社会主義者たちでした.党首選の有権者は倍増し,コービンの優位が確立されたのです.

コービンは,イラク戦争に反対したし,閣僚や,影の内閣に参加した経験がないことは,その罪の無さ,一貫した反対派の経歴として,評価を高めました.しかし,彼の主要な立場,すなわち,鉄道を再国有化し,国歌斉唱を拒み,イギリスの核武装に反対し,労働組合が失った権限を回復し,エネルギー産業を国有化する,という主張を有権者は支持しません.

イギリスは,野党が存在しない,保守党の長期政権時代を迎えるかもしれません.しかし,保守党内でも、グローバリゼーションへの不満とEU懐疑派が強まり、ナイジェル・ファラージの独立党UKIPが保守党の支持基盤を奪いつつありました。UKIPは、労働党の姿勢に不満を持つ労働者たちにも支持者を拡大していました。

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Brexitの背後に,イギリス国内の権力争いがあったのは当然です.問題は,保守党も,労働党も,国民のための成長戦略やグローバリゼーションとの関係を示せなかったことです.イギリスでも,アメリカでも,ドイツ,フランス,など,多くの民主国家で,移民・難民の扱いが政治の辺境にいる過激な党派によって強調されます.

The Economistの特集記事は,GoogleAmazon,などのグローバル・スーパースターについてです.技術革新による新商品・サービスは消費者によって支持され,莫大な利益を上げて,その極端な資産の蓄積と釣り合わない,わずかな雇用しか創出していません.彼らが葬った職場に比べて,社会に還元される富の少なさ,グローバルな節税行動と政府に対する強烈なロビー活動は,市場への社会的な支持を失わせます.

主要政党どころか,先進的な民主主義の体制が崩壊の危機を抜け出せるとは,容易に期待できません.

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