IPEの果樹園2016
今週のReview
9/5-9/10
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コロンビア内戦終結の合意 ・・・Brexit後の論争 ・・・中国の内政外交 ・・・ヨーロッパの収斂 ・・・国家の悪弊 ・・・ヨーロッパの再武装 ・・・移民問題 ・・・ジャクソン・ホール・シンポジウム ・・・中国の国際行動 ・・・シリア・パラドックス ・・・トランプとメキシコ ・・・日本の内政外交 ・・・リベラルな民主主義の十字路 ・・・Appleと世界課税 ・・・ヨーロッパの経済政治統合
[長いReview]
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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times,
The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate,
SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)
[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
l コロンビア内戦終結の合意
NYT AUG. 25, 2016
Colombia’s Remarkable Peace Process
By
THE EDITORIAL BOARD
FP AUGUST 25, 2016
Colombia’s War Just Ended. A New
Wave of Violence Is Beginning.
BY
ELIZABETH DICKINSON
The Guardian, Friday 26 August 2016
Peace has been reached in Colombia.
Amid the relief is apprehension
Juan
Gabriel Vásquez
Project Syndicate AUG 26, 2016
Colombia’s Gift to the World
SHLOMO
BEN-AMI
4年間の交渉を経て、コロンビア大統領Juan Manuel Santosと反政府ゲリラthe Revolutionary Armed
Forces of Colombia (FARC)との和平協定が成立する。コロンビア内戦は、60年間も続き、推定22万人が殺害され、600万人が避難民となった。この外交的な成果を上げたサントス大統領はノーベル平和賞に値する。
和平協定には3つの重要な要素が働いた。コロンビア軍の能力が高まり、FARCの兵士たちを殺害した。サントス大統領の外交により、ベネズエラ、エクアドル、ボリビアという、近隣のFARC支援諸国と関係を修復した。最後に、キューバがアメリカとの和解を目指す新政策を採用し、サントスが和平の機会をつかんだ。
サントスはまた、紛争の根源を解決するために動いた。犠牲者と土地返還に関する法律the Victims and Land
Restitution Lawを定めたのだ。暴力的な反乱地域を平定すると同時に、土地を失った何百万もの農民たちに正義をもたらし、生活水準を改善した。ゲリラたちから、語られることのない虐殺行為を正当化する土地改革の目標を奪ったのだ。その法律は、生き残った女性や子供の人権に関する特別条項を含んでおり、国連人権高等弁務官事務所からも称賛された。
確かに,この法律と過渡的正義の体制には反対派もいるし,有権者を分裂させた.元大統領Álvaro UribeはFARCの兵士たちへの処罰が不十分だ,と和平に反対している.しかし,この合意は画期的である.それは報復ではなく,真実を語ることを強調する.「正義を回復すること」が目的だ.国民が回復するとしたら,それは長期の,野蛮な戦争が破壊したコミュニティーが修復され,再生することによってだけである.
犠牲者の最優先という原則により,ハバナにおけるFARC指導部との話し合いには,犠牲者の代表も参加した.女性やLGBTの権利を守る部局,また虐殺に関する歴史を検証する部局を設けて,和平がとん挫することを防いでいる.
和平の実現には国内政治が重要だ.内戦は人々を団結するが,和平には不可避的な妥協や擬制が伴う.平和を持やタスコストに対して,誰が支払うかで意見の対立が生じる.民主的な指導者にとって,戦争を続けるよりも,和平交渉の方がリスクは高い.しかも,サントス政権は民主的な選挙によって支持されなければならず,そのような過程を必要としないFARC指導部と交渉することに困難がある.それにもかかわらず,サントスは民主的な手続きを守り,透明性を重視した.
今後の過程は和平交渉以上に困難であるかもしれない.
NYT AUG. 26, 2016
Colombia’s Milestone in World Peace
By
STEVEN PINKER and JUAN MANUEL SANTOS
コロンビアの和平は,南北アメリカ,そして世界が平和に向かう里程標である.
この数十年間に,アメリカやソ連が支援することも加わり,各地の内戦が多くの犠牲者を出してきた.Guatemala, El Salvador
and Peru, as in Colombia・・・Nicaragua, Argentina
地域の国家間での紛争も,クーデタも,繰り返された.
しかし,今やラテンアメリカも平和な世界に参加できる.世界の戦争地帯は,ナイジェリアからパキスタンまで,人類の6分の1に集中している.戦争は紛争を解決するありふれた方法から,珍しい,小規模の,人々の規範から外れた方法に変わった.
紛争後の社会は脆弱で,紛争再発を防ぐには継続的な支援が必要だ.しかし,平和はユートピアの理想ではない.
Bloomberg AUG 26, 2016
Waging Peace in Colombia
Mac
Margolis
Project Syndicate SEP 1, 2016
Colombia’s Long Road to Peace
JOSÉ
ANTONIO OCAMPO
l Brexit後の論争
The Guardian, Friday 26 August 2016
Don’t be fooled. There will be
damaging fallout from Brexit
Will
Hutton
2カ月たって,離脱派はその勝利が事実や証拠によるものではなく,感情によるものだったと認めている.大破局が起きたわけではないが,スーパータンカーが方向を変えるように,その反応は非常に緩やかに,まだ始まったばかりである.
VOX 26 August 2016
Brexit and other harbingers of a
return to the dangers of the 1930s
Avinash
Persaud
6月23日の国民投票で,イギリス国民はEU離脱に52%が賛成し,48%が反対した.離脱派のキャッチフレーズは,しばしば内外のエリートに対する拒否を示す怒りの声とみなされた.エリートたちはこの選択を,事実を無視した,莫大な経済的損失を招く,排外主義によって煽動された,と理解した.
しかし,Brexitを無知や,労働党指導者の失敗とみなすのは,さらに危険な意味を持つ.それは,1930年代にヨーロッパとアメリカを経済混乱に陥れ,第2次世界大戦の惨禍に導いた,強力な社会変化を見逃すことを意味する.それはイギリスだけでなく,トランプの台頭のような,国際的現象だ.
離脱を選択した有権者は,高齢で,大学を卒業していない者が多い.
多くの国や時期についての研究が示すように,貿易自由化の調整コストをもっぱら負担する者は,EU離脱を選択した有権者と同じである.すなわち,非熟練の,高齢の労働者たちだ.Brexitは,無知な有権者の非合理的な反応ではなく,他の地域にも見られる,貿易によって損失を被るもののきわめて合意的な投票であった.
もちろん,貿易自由化から利益を得るかどうかは,単に,大学卒業の資格があるかどうかの問題ではない.自由化が,あなたと同じ熟練の労働者の供給を増やすかどうか,である.アメリカでは1970年代以来,インフレに比べて平均時給が上昇しなかった.そして70%の労働者の時給は低下してきたのだ.低熟練部門では,イギリスの工場が,いつでも働くことができる待機労働者に対して,支払う仕事がないような「ゼロ時間」契約を導入できるようになった.
事実が経済学の理論に従う珍しいケースだ.貿易は,その国の厚生水準をネットで高める.これを実験で示すことは難しいが,スエズ運河の閉鎖は,その純粋な例である.1967年6月5日にイスラエルはエジプト空軍に攻撃を加えた.スエズ運河閉鎖によって,インドからイギリスには,喜望峰を回る追加の4800キロ,16日間が必要になった.えいきょうをうけたすうかこくのぼうえきとGDP に関するJames Freyrerの研究によれば,貿易において10%の増額(もしくは減額),国民所得の1.6%追加(もしくは減少)であった.
貿易による受益者は,敗者に対して補償することで,その勝利を正当化できる.しかし,貿易自由化はネオリベラルの主張と結びついていた.すなわち,それは敗者の失敗である,と.貿易自由化は,失業手当,労働者再教育,(低所得者向け)社会住宅の廃止と一緒に行われた.貿易による利益は分配されることなく,ますます集積したのだ.貿易自由化により,諸国間の所得格差は縮小したが,国内の所得格差は拡大した.Brexitやトランプの共和党大統領候補指名は,ひとびとが意見を変えたことを示した.
流行の対策は金融緩和であるが,これは熟練を持つエリートたちがもっぱら所有する住宅や金融資産の価格を上昇させ,他の者からはますます手が出なくなる.消費を刺激する効果はほとんどない.持続的な効果を得るには,財政政策を使って敗者たちに補償することだ.職を失った労働者たちの熟練を高める強烈な政策,新しい職場のそばで労働者が借りることのできる住宅を建設する政策だ.
それにはコストがかかるが,何もしなければもっと大きなコストを強いられる.もし貿易ナショナリズムが1930年代の貿易・通貨戦争に至れば,貿易とGDPは減少し,大量失業が生まれる.
FT August 29, 2016
Remainers fighting the wrong battle
will harden Brexit
Wolfgang
Münchau
FT AUGUST 29, 2016
London and New York must cement
their bond after Brexit
Dan
Glaser
FT AUGUST 29, 2016
The challenges facing Britain’s
housing market after Brexit
Project Syndicate AUG 30, 2016
May’s Day
CHRIS
PATTEN
FT AUGUST 30, 2016
Brexit requires more than political
will — it needs to be capable of happening
David
Allen Green
FT September 1, 2016
Theresa May’s Victorian inspiration
is outdated
Giles
Wilkes
FT September 1, 2016
Article 50 is not for ever and the
UK could change its mind
Jean-Claude
Piris
SPIEGEL ONLINE 09/01/2016
German Caution, French Decisiveness
How Brexit Affects EU Defense Policy
A
Guest Editorial By Jean-Marie Guéhenno
FT September 2, 2016
Brexit gives us a chance to finish
the Thatcher revolution
Nigel
Lawson
さまざまな脅迫にもかかわらず,イギリスの有権者たちは正しい選択をした.それは民主的な自治政府を持つことを意味する.
嬉しいことに,われわれが正しいカードを配るなら,Brexitから十分な経済的利益を得ることができる.
私は1980年代にイギリス経済を転換させたサッチャー政権の閣僚であった.それはサプライサイドの改革であった.法的な規制緩和が決定的に重要な中身であった.しかし,それはイギリスが自国で行っている規制にとどまり,ますます多くのEUによる規制体系によりイギリスは取り込まれていた.Brexitはこの改革を完成するチャンスを与えるものだ.
イギリスを,ヨーロッパで最もダイナミックな,自由な国にすることだ.
現在,すべての関心はEUとの交渉に向かっているが,特別な合意など必要ない.EU市民の資格を失うことは災厄ではない.世界中の他の諸国がヨーロッパ単一市場と取引しているのだから.自由貿易協定などなくても,WTOの加盟国であることで,貿易はできる.
ロンドンの地位を心配する声もあるが,ニューヨークと並んで世界の2大金融センターに代わる国はヨーロッパの時間帯に存在しない.むしろ銀行同盟や金融取引税のようなEUの規制こそ金融センターを損なうだろう.
移民規制や共通農業政策にかかわる農業問題は交渉を必要とするが,EU規制体系を離脱することの利益は大きい.
l 中国の内政外交
Bloomberg AUG 26, 2016
Winners and Losers in the New China
Christopher
Balding
FT September 1, 2016
China turns away from the market
Jingzhou
Tao
SPIEGEL ONLINE 08/31/2016
China Heads West
Beijing's New Silk Road to Europe
By
Erich Follath
l ヨーロッパの収斂
FT August 26, 2016
Convenience, not common culture, holds
Europe together — just
Josef
Joffe
l 国家の悪弊
Project Syndicate AUG 26, 2016
The Siren Song of “Strongmania”
MINXIN
PEI
FP AUGUST 26, 2016
The Countries with the Worst Bad
Habits
BY
STEPHEN M. WALT
ロシアはしばしば反政府活動家やジャーナリスト、元高官を毒殺する。それは古くからあることだ。ロシアに限らず、国家には様々な悪弊がある。
アメリカは相手の事情を無視して民主主義を拡大し、それが逆噴射すると戦争を起こした。遠くの国で、標的とする人物を爆撃している。イスラエルは占領政策と厳格な報復措置を実施している。周辺地域で関係者たちを殺害した。ドイツは、その極端なインフレ嫌悪の政策を理由にユーロ圏のデフレを悪化させ、他国で深刻な失業を生じている。
こうした悪弊は治せないことではない。ドイツや日本が平和国家になった。アメリカもかつての奴隷制や人種差別を是正した。しかし、一朝一夕に変わるものでもない。現実的であるべきだ。
l ヨーロッパの再武装
Project Syndicate AUG 26, 2016
Reviving Arms Control in Europe
FRANK-WALTER
STEINMEIER
Project Syndicate SEP 1, 2016
Playing Defense in Europe
MARK
LEONARD
l 移民問題
Project Syndicate AUG 26, 2016
Cities for Migrants
PETER
SUTHERLAND
ますます国家間の移民問題は安全保障として関心を集めている。しかし、都市ではそうではない。いくつかの都市では、住民たちの問題として、積極的な受け入れを整備している。
国家ではなく、もっと都市に資源や政策の権限を移す方が、移民問題は正しく議論できるだろう。
FT September 1, 2016
Europe’s migrant crisis is back with
a vengeance
Tony
Barber
SPIEGEL ONLINE 09/02/2016
Did We Do It?
Taking Stock One Year After
Refugees' Arrival
By
Philipp Wittrock (text) and Christina Elmer (information graphics)
NYT SEPT. 2, 2016
The Immigrants Turned Away
Timothy
Egan
l ジャクソン・ホール・シンポジウム
FP AUGUST 26, 2016
The Stimulus Our Economy Needs
BY
PEDRO NICOLACI DA COSTA
FT AUGUST 29, 2016
Sims highlights fiscal dominance at
Jackson Hole
Gavyn
Davies
FT AUGUST 29, 2016
Jackson Hole: The Fed has not
inspired faith in its policy framework
Larry
Summers blog
FT AUGUST 30, 2016
Central bankers ponder moving the
goalposts
FT AUGUST 30, 2016
Jackson Hole was a missed
opportunity for a policy pivot
Mohamed
El-Erian
ジャクソン・ホール・シンポジウムは2つの意味で注目された。1.世界経済は今もその生産能力を下回って活動している。2.金融政策だけに依存する状態が続いている。
中央銀行家たちは経済的な課題に対する新しい政策を示す、と期待する者もいた。他方、こうしたことが、非生産的とまではいわないが、効果がないと考える者もいた。結局、国際金融システムに重要な役割を果たす中央銀行は、現行の政策を続けるだろう。
それは失望させるものだ。
今、求められているのは政策の新機軸だ。中央銀行家たちに過度に依存することをやめて、より全体的な対応、成長志向の、構造改革に及ぶ広範な政策対応が必要だ。
われわれはT字路にある。どちらに進むのか?
FT September 2, 2016
Echoes of 2008 as danger signs are
ignored
Gillian
Tett
FT September 3, 2016
No cause for complacency over the
world economy
Project Syndicate SEP 2, 2016
The Unavoidable Costs of Helicopter
Money
MICHAEL
HEISE
(後半へ続く)