IPEの果樹園2016

今週のReview

8/29-9/3

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オリンピックの金メダル争い ・・・Brexitは始まらない …欧米民主制の不安 ・・・金融政策の限界 ・・・将来の天皇とだれが結婚するか? ・・・世界政治の将来 ・・・ユーロ圏改革

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  オリンピックの金メダル争い

Bloomberg AUG 18, 2016

The Silver Lining in China's Gold Drought

Adam Minter

オリンピックの金メダル争いで、中国はイギリスに抜かれて3位になるかもしれない。そんな話題が注目を集めた。

中国においては、オリンピックの金メダル争いが国際的な地位の向上と同一視されてきた。しかしその成果は、1950年代に始まった国家の資金と権力を使う選手の選抜と訓練システムによるものだった。特に地方では、多くのスポーツ学校ができて、教科は無視して、オリンピック選手を育てた。適性のある子どもを集めて、4歳から、親元を離れた土地で厳しく訓練した。それが唯一ともいえる、良い生活への地方からの脱出ルートであった。金メダリストには政府がボーナスを与え、住宅さえもらえた。

2008年の北京オリンピックは、こうした金メダル獲得の頂点であった。この養成システムの中心的要素、スポーツで子供の成功を強く願う両親、というものが消滅したのだ。この5年間で地方の生活水準も上昇し、出生率が減少して経済機械は増したので、両親は子供にギャンブルのようなオリンピックの金メダルを期待しなくなった。スポーツ学校は減ったし、国家システム外からも良い選手を集めるために、もっと人間的になっている。

広く素質のある選手を集め、学校やコミュニティーの中で練習するのが、より長期的に、メダリストを増やす確かな道である。

NYT AUG. 19, 2016

Is Our Country as Good as Our Athletes Are?

David Brooks

この選挙ではペシミズムが好まれている。アメリカは衰退しており、世界貿易でも不利を強いられ、イラクの破滅によって今も苦しんでいる。

アメリカ人の多数が、民主主義を「かなり悪い」と「非常に悪い」と評価し、しかも急速に増えている。特に、若者の4分の1がそう考えている。アメリカは世界情勢にかかわるべきではない、と考える。

しかし、オリンピックはどうか? アメリカは終末期の衰退に向かう国ではない。アメリカの選手は常に勝利して、その勝者たちの語るアメリカの在り方や選手たちの個性は素晴らしい。

1人当たりのメダル数では、ニュージーランドやデンマーク、ハンガリー、イギリスに負ける。しかし、アメリカほど多くのメダルを得た国は歴史上になかったし、さらに獲得し続けている。

アメリカが勝つのは、選手たちの優秀さというより、システムが優れているからだ。メダルは個人だけでなく、制度によって獲得する。

重要なことは、アメリカのスポーツが示す制度の優秀さは、なぜこの国全体の優れた制度を意味しないのか? 実際、この数十年で、ブラジルやインド、中国のような新興諸国は、経済成長で素晴らしい数字を残したが、今や、制度の弱さが成長を制約している。

アメリカの通貨ドル、食品や医薬品の安全基準、特許制度、また、世界の最優良ブランド企業は10社中の9社、世界最大のエネルギー企業、世界の優良企業、大学、映画で、アメリカは大きくリードしている。

それでも選挙運動では、アメリカが外国人に騙され、破滅させられる、というのだ。現実には、オリンピックと同様に、アメリカは世界貿易でも勝利している。競争旅行で観て、スイスやシンガポールに次いで、アメリカは3位である。

ゼーリックRobert B. Zoellickは、自由貿易協定を結んだ国との貿易が世界貿易以上に伸びており、アメリカ製造業は貿易黒字を出している。しかし、世界貿易はゼロサムではない。

FT August 23, 2016

India’s female athletes are the heroes of Rio

Amy Kazmin

12億人の人口を持つインドには、しかもその65%35歳以下であるから、スポーツ選手の産能が豊富にあるはずだ。しかし、その人的な潜在能力を世界の競争における成果に結びつけることには成功していない。この問題は競技場に限らない。

イギリスから独立して69年間に、インドが獲得したオリンピックのメダルは23個であり、金メダルはわずか1個である。インドがリオに派遣した117人の選手団は、これまでで最大であるが、メダルは2つだけである。1人当たりのメダル数では、インドが繰り返し最低ランクに位置付けられた。

インドはオリンピックに焦点を絞った選手の育成を行ってこなかった。隣国である共産主義の中国や、かつてのソ連のような、国家事業としてのインフラを持たなかった。十分な設備や国民規模のスポーツリーグも持たなかった。それはインドの国営学校システムにも言えることだ。多くの子供たちが読み書きや算数のような基本科目を学んでいない。

インドの政府職員や医師は、オリンピックに挑む選手たちのことより、個人的な利益を優先している、と非難された。

それにもかかわらず、オリンピックで示された、特に3人の若い女性たちの闘志と活躍に、インド国民は興奮している。バトミントンのPV Sindhu、レスリングのSakshi Malik、体操のDipa Karmakarである。女性はインドで不当に低く評価され、成果を上げることができない。

Malik嬢が育った小さな町Rohtak in Haryanaでは、女児を嫌う差別的な堕胎によって、男性1000人に対して女性は867人しかいない。彼女がレスリングを学ぶことを、コーチは認めたが、最初、家族やコミュニティーは反対した。設備もなく、スクーターの部品で間に合わせていた。

インドの女性の労働力参加率は、中東を除いて、世界最低である。インドが舞い上がるには、大都市だけでなく地方都市からも、女性の潜在能力を引き出さねばならない。

FP AUGUST 23, 2016

An Olympic Protest Is the Least of Ethiopia’s Worries

BY WILLIAM DAVISON

エチオピアのマラソンランナーFeyisa Lilesaがゴールするとき両腕を上げて交差させたのは、優勝を祝うためではなく、エチオピア政府に抗議するためであった。政府の治安部隊は、この数か月、何百人ものOromoの民を殺害した。


l  Brexitは始まらない

FT August 19, 2016

Further reading on Brexit

Gideon Rachman

Brexitはなかなか始まらない。それはイギリス政府内の分裂状態が、イギリスの意志と能力との乖離を強めているからだ。

The Guardian, Monday 22 August 2016

Want proof that Britain can thrive after Brexit? Look at South Korea

Christian Spurrier

Brexit後のイギリスが見習うべきモデルは、スイス、ノルウェー、カナダ、などではない。イギリスとの条件が大きく異なる。むしろ韓国だ。

韓国の人口は約5000万人、面積は10万平方キロで、イギリス(6000万人、13万平方キロ)と大きく異ならない。韓国も高度に都市化した国で、ソウルは、ロンドン以上に人口集中している。韓国も「ソフトパワー」を強調する。Brexitを支持した人々が魅力を感じるのは、1997年のアジア金融危機、2001年の9112008年の世界金融危機のように、韓国が繰り返し大きなショックを受けて、それでも成長したことだ。

韓国は、生活水準の改善において世界で最も優れた成果を上げた。それはハイテクの輸出主導型成長によるものだ。韓国のSamsung Galaxyは、世界でAppleに対抗できる唯一の企業である。しかも、主要な貿易協定に参加することなく、こうした成果を上げた。2007年、アメリカとの自由貿易協定を結んだことに始まり、中国、カナダ、オーストラリアとも同様の協定を結んだ。ヨーロッパもそうだ。だから残留派はパニックにならずに済むだろう。

ただし、韓国には帝国の歴史がなく、移民もほとんど受け入れていない。イギリスは多様性を受け入れている。


l  欧米民主制の不安

FT August 23, 2016

The crisis in Anglo-American democracy

Gideon Rachman

西側の2つの大政党、アメリカの共和党とイギリスの労働党が、崩壊に近い状態にある。それは大西洋の両眼で民主主義の健全さを脅かしている。

どちらのケースも、指導者は政界の周辺部から現れ、政党を異なった、ラディアカルな方向へ転換した。民主主義体制が機能するには、信頼できる反対派が政府に説明を求めることが重要だ。しかし、両国ではこの機能が失われた。

イギリスでは、EUからの離脱交渉で、警告や責任ある反対意見が必要である。テレサ・メイが政権を維持できているのは、それほど労働党が崩壊しているからだ。2か月たっても、メイ首相は具体的な取り組みに入れない。閣僚たちは対立し、首相は他の優先課題との関係を示せないままだ。

しかし、コービンの労働党は何もしようとしない。それは、彼が実際は、Brexitを支持しているからだろう。そうでなければ、本当に無能である。どちらにしても、労働党は野党の役割を果たしていない。

アメリカの状況はさらに深刻だ。トランプの反対意見は、インターネットやトークショウの陰謀論でしかない。その選挙運動は、ヒラリー・クリントンと民主党を「偽物」と非難することに執着するあまり、オバマ政権が残した、本当に重要な政治論争は何も取り上げない。シリア内戦の長期化、金融政策の超緩和状態に頼るアメリカ経済は、もっと議論しなければならないはずだ。

コービンとトランプは、漫画の中で観るような異なった政治家だ。市民農園のコービンと、ペントハウスのトランプ、極左と極右、国際派とナショナリスト。

しかし、共通点も著しい。「反システム」であり、新しい活動家を動員し、政党の長老たちを非難し、しばしば暴力的な主張をする。プーチンに親近感を持ち、NATOを疑い、かつてシステムを動かすユダヤ人の陰謀論が左派や右派に広まったように、反ユダヤ主義を共有する。

英米の政治は、もはや左右の対立軸ではなく、エスタブリッシュメントと半システムとの対立で動いている。彼らは、このシステムが操作されたものであり、庶民はエリートによって踏みつぶされている、と考える。建設的なアイデアを持たず、経済の国家管理や、アメリカ優先の孤立主義のような、昔のアイデアを再生する。


l  金融政策の限界

FT August 23, 2016

Negative interest rates are not the drama they seem

Adam Posen

量的緩和に関して中央銀行形のコンセンサスがあったのは、もう古い話だ。マイナス金利に関しては、さまざまな言葉が並ぶ。日銀の黒田総裁は、マイナス金利も「排除しない。」 しかし、イングランド銀行のMark Carney総裁は、「好まない。」 スイス国立銀行のThomas Jordan総裁は、「正しい方向だ。」 他方、アメリカ連銀のJanet Yellen議長は、「完全に排除するわけではない」が、最後の手段である。

この論争は、マイナス金利によるコストの変化を同じとみなすことが間違いを生む。マイナス金利が機能するとしても、追加の政策が必要だろう。また、英米と日本、また、ドイツやイタリアとの違いを無視している。日本の貯蓄は、英米やスイスに比べて、ほとんど国境を超えない。また、ドイツやイタリアの金融では、今も銀行預金と融資が大きな割合を占めている。

すべて、制度にかかわるものには、政治がかかわる。マイナス金利にも政治的な影響がともない、それに関する政治的反発が生じる。政治は、各国の金融における構造的な違いを増幅するような介入を求めるだろう。

マイナス金利政策の効果を判断するには、これらの視点が欠かせない。


l  将来の天皇とだれが結婚するか?

NYT AUG. 20, 2016

Who Wants to Marry an Emperor?

By MINAE MIZUMURA

「税金を食いつぶす寄生虫」という感覚から、国民の苦しみを癒す役割に尽くす人物として、私は天皇に好意を持ったし、高齢者であるにもかかわらず公務に追われる身に同情した。だれも彼のような仕事を望まないだろう。

しかし、天皇よりも辛いのは、彼の妻になる女性だ。だれが天皇になる者と結婚するだろうか?

首相がころころ変わるこの国で外交的や役割を担い、また西側の知識人には理解できない制度を継続することに、私は楽しみを感じる。

しかし、たとえ天皇制を残すとしても、その子孫は天皇と結婚する女性がいなければ生まれない。彼女の役割は男子を生むことだ。美智子はそのストレスから言葉を失った。療養した後も、あまりにもか細い、衰弱した姿になって、私は驚いた。

天皇とその子供たちには、引退することも、仕事を選ぶこともできない。女性が天皇になることも、昔の法律により、あるいは、2600年の伝統により、否定する。だれが男子を生むために彼と結婚するだろうか?


l  世界政治の将来

FP AUGUST 21, 2016

Choose Your Own Adventure: The Future of the World

BY STEPHEN M. WALT

トランプに関して書き続けるより、もう1つの、ひどいけれどましな話、Brexitを取り上げたい。先週、the American Academy of Arts and Sciences on the implications of the Brexit voteに参加し、近頃の世界がどこに向かうのかについて考えたからだ。

現在の世界秩序が解体しつつある、と人々が感じているのは理解できる。世界の貧困は減少し、大国間の戦争は起きず、科学技術の目覚ましい進歩にもかかわらず、世界政治は20年前に期待された理想に向かっていない。

われわれの誰も未来を予測できないのだから、期待する世界政治やわれわれが勧める政策選択は、重要な意味で、核心となる信念に依存している。世界政治の基本性格について、重要なアクターのアイデンティティについて、彼らの行動を決める最も重要な主要因について、何を重視するか、という信念だ。

ギルピンには悪いが、私は3つのモデルを示したい。

1は、リアリズムの再生だ。リアリストは、国家を重要なアクターと考える。国家間の関係は、再発し続ける紛争や戦争によって決定される。国家に対して強制できるような効果的な世界政府がないから、国家は他国が何をするのか心配し、自己防衛のためにパワーや優位を求めて競争するからだ。国家間競争は、非国家アクターの登場も刺激する。

この視点からは、過去70年間が、奇跡的な、輝かしい例外であった。冷戦期は、2極化と核兵器による抑止力で、戦争を効果的に抑制した。ヨーロッパは、民主主義、経済的相互依存、平等化、エスニックな同質性によって、平和の維持、EUの成長と拡大を実現した。しかしそれは、アメリカ(そしてソ連)の「平和を広める力」が背景にあった。

こうしたリベラルな秩序が解体することは、不可避ではないが、それが起きてもリアリストたちは驚かない。ソ連は消滅して、対抗するために団結する必要はなくなった。ヨーロッパ市民は自国を守るために防衛する意志を持たず、アメリカに頼っている。ユーロ危機、難民危機、その他、EUの将来が怪しくなっている。Brexitへの支持投票は、最近の遠心力を示す1つの例でしかない。それは、少なくとも26年前から、リアリストたちが予測していたことだ。

しかし、それは悲観的に過ぎるかもしれない。1945年から2000年は、単なる例外ではない。むしろ転換点だった。将来は完全に異なったモデルに向かうのではないか。

2のモデルは、リベラルの復活だ。リベラリズムの楽観主義は1990年代に頂点に達した。「歴史は終わり」、われわれは豊かになることを新しいグローバル化した秩序の中で追求する。それらは東にも拡大する。トルコも西側に参加し、ロシア、中国、中東でさえ、次第に、リベラルな、ルールに依拠した世界秩序に、漸進的に、参加するだろう。それは他国にとって利益をもたらす、アメリカによる監視の下で実現する。

民主主義の拡大は、最近、後退し始めている。それでもリベラルな秩序が世界の将来に関するモデルとして残るのは、それを長期的に観た場合だけである。EUについても同じだ。ただし、EUには世代間で異なる効果がある。高齢者ほど伝統的なアイデンティティに縛られている。他方、若者は移動の自由を重視し、より広いヨーロッパにアイデンティティを求める。

将来に関するリベラルな思想は、歴史が長期的には正義を実現する、というものだ。識字率は高くなり、経済発展や相互依存は進む。代表による政府は、経済成果を競うだろう。こうした現実に機能する諸力によって、リベラルな秩序は一時的な後退を経て拡大する。19世紀の権力政治が復活するわけではない。

3に、根本的な不確実性がある。第1と第2のモデルは、世界政治を強い構造的力によって形成されると考える。その力が、独自のやり方で異なる社会を形成し、個々の政治指導者に時間を通じて実行できる選択肢を制限する。しかし、第3のモデルでは、世界政治をそのように観ていない。世界政治の見通しは、異なる条件、偶発性、指導者の交代、人間の気まぐれ、意図しない結果や不測の事態が不可避に交差する、非常に脆弱なものだ。

もし911の犯人たちが事前に逮捕されていたら、イラク戦争は起きず、アフガニスタンの占領もなく、イスラム国家やシリア内戦もなかっただろう。Brexitや、ウォール街の金融バブルもそうだ。

3のモデルによれば、世界政治の将来の可能性は途方もない、予測不可能なものだ。それは政治的選択の重要性、社会がある進路から異なる進路に転換することの容易さを示している。

アメリカの有権者は、11月の投票によって何が起きるか、強く意識しなければならない。


l  ユーロ圏改革

Project Syndicate AUG 22, 2016

Reform or Divorce in Europe

JOSEPH E. STIGLITZ

ユーロ圏のルールや制度を改革することでのみ、ユーロは機能するだろう。すなわち、

収れん基準(財政赤字の制限)を破棄する。緊縮より成長の戦略を採用する。危機を繰り返すシステムを解体する(各国政府の債務をユーロ債に)。不均衡の調整コストを公平に分担する。ECBの権限をインフレ抑制だけでなく、雇用、成長、安定性にも拡大する。預金保険を共有する。後進地域に対する産業政策を、禁止するのではなく、奨励する。

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The Economist August 13th 2016

Cheating death

War against crime in the Philippines: A harvest of lead

New rivalries on a contested continent: Asia’s scramble for Africa

Six big ideas: Fiscal multipliers - Where does the buck stop?

Free exchange: The problematic proposal

(コメント) 人間は死をだますことに成功しつつある,と特集記事で紹介します.老化を生じないような薬,治療,手術,IPs細胞による臓器の移植,など.それは就労や結婚という社会の在り方を根本的に変えるでしょう.

フィリピンで強権的指導者が推進する犯罪撲滅,豊かな諸国で嫌われるTPPTTIP,それ以上に,ケインズ経済学の乗数に関する優れた説明と評価の変遷が興味深いです.

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IPEの想像力 8/29/16

台湾の観光ツアーに家族で参加しました。

いちばん情緒があったのは,有名な九份の夜景でした.階段に面した九份の茶房でお茶の淹れ方を習い,お菓子と一緒に,暮れ行く景色を楽しみました。

ガイドさんが連れて行ってくれた朝の市場では,さまざまな食材や花,雑貨が売られ,活気がありました.市場の端にあるお寺では、線香を3本取って,彼らを真似てお辞儀しました.地元の有名な寺では,お経が一斉に始まり,さまざまな神様がいて、庶民の恐れや願いのすべてに形を与えているのだな,と納得します。キリスト教会や天皇制よりも,私には親しみがわきました.

ふんだんに並ぶお供えや、2枚の木札を落として始まる占いの仕方も聞きました。

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観光は、極端に偏った消費行為だな、と感じました。それは,学生に勧める「旅」というものと根本的に異なります。

観光バスや、ホテルの朝食、お土産のショッピング休憩は,私たちに,迷うことなく消費を促します。時間と体力が許す限り,そして,もちろん財布も,観光客は景色の中を移動しながら,消費し続けます.

自然が豊かな貧しい国が観光開発に頼るとき,あるいは,日本の地方経済を観光で活性化する,というとき,よく考えた対応が必要です.

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台湾旅行で最も感心したのは,マグカップの文字です.畏怖,でしょうか.

次男が故宮博物院の記念に買った、中華の朱色と見える大きなマグカップには、皇帝が彼の統治を改善するために、「国務に関して恐れることなく意見せよ」という意志を示し、特別な高官だけに与えた石章(石の刻印)がデザインされていました。

絶対的な権力,無謬の権威を示すはずの皇帝が,特定の賢者や高官に,意見することの自由を与えたのはなぜでしょうか.今,中国の杭州では習近平主席がG20を主催しています.あるいは,香港の立法院では選挙が行われ,「民主派」だけでなく,香港の独立を唱える「本土派」が議席を得ました.

西洋とは違う意味で,民主主義の伝統がある,と中国の指導者たちは考えるのでしょうか.

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忠誠記念堂では衛兵の交代式を観ました。

厳しく選抜された衛兵たちは,整然と行進し,銃剣の構えや型を同時に示して入れ替わります.直立したまま,瞬きもせずに,不動の姿勢を保つのだ,とガイドは自慢しました.

記念堂の門には,片側に孫文が指導した辛亥革命,もう片側には,国民党・蒋介石が指導した抗日戦争が彫刻されています.台湾の人々は親日的である,と言いますが,それは北京政府との対立が深刻であるからでしょう.尖閣諸島に関しては,北京と同じ立場です.

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MRT(台北の地下鉄、メトロ)はとても便利でした。ホテルから歩いて2キロほどで、メトロの駅があり、もっと利用できたらよかったです。一人旅なら、メトロですべての名所旧跡を訪ねたでしょう。駅までの道の半分ほどが、国立台湾技術大学のキャンパスに沿った道でした。

とても立派なキャンパスです。ジョギングしていた朝6時過ぎにも、学生が歩いていました。小国として、世界市場に生き残るために、国家が技術の開発や教育に期待する姿勢を強く感じました。

また、娘と尋ねた国立台湾芸術大学も、その美しいキャンパスや設備に、国家の意気込みを感じました。

台湾の庶民の暮らしは、まだ貧しいものです。しかし,雑然とした住居の群れを,近代的な高層ビル群が分断します.中国語の車内放送を聞きながら,地上を走るメトロの車窓から見える都市の景観は、映画「ブレード・ランナー」と似ています。

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台湾の複雑な歴史は、そのガバナンスに多くの複雑な意味を与えています。

現在,中華民国の総統である蔡英文は,前任者と違って,1つの中国論を支持しません.国民党の独裁体制は民主化され,国民党による台湾への支配と弾圧に関して,蔡総統は謝罪する姿勢を示しました.

中国共産党,国民党,台湾の大企業による中国進出,日本の植民地時代,アメリカの提供する「あいまいな」安全保障,それらの複雑な関係の下で,通りを埋め尽くす中小企業,市場や屋台の活気が,アジアのガバナンスを問う「カナリア」です.

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