IPEの果樹園2016

今週のReview

8/29-9/3

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イスラム国 ・・・オリンピックの金メダル争い ・・・Brexitは始まらない …欧米民主制の不安 ・・・金融政策の限界 ・・・アフリカの移民 ・・・新興市場と金融緩和 ・・・将来の天皇とだれが結婚するか? ・・・世界政治の将来 ・・・ユーロ圏改革 ・・・メルケルの難民受け入れ ・・・財政赤字の誤解

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  イスラム国

FP AUGUST 16, 2016

Present at the Creation

BY HARALD DOORNBOS, JENAN MOUSSA

イスラム国の成立と,その急速な拡大の時期に,組織に参加した者が,内部からその過程についての詳しい証言を行った.


l  オリンピックの金メダル争い

Bloomberg AUG 18, 2016

The Silver Lining in China's Gold Drought

Adam Minter

オリンピックの金メダル争いで、中国はイギリスに抜かれて3位になるかもしれない。そんな話題が注目を集めた。

中国においては、オリンピックの金メダル争いが国際的な地位の向上と同一視されてきた。しかしその成果は、1950年代に始まった国家の資金と権力を使う選手の選抜と訓練システムによるものだった。特に地方では、多くのスポーツ学校ができて、教科は無視して、オリンピック選手を育てた。適性のある子どもを集めて、4歳から、親元を離れた土地で厳しく訓練した。それが唯一ともいえる、良い生活への地方からの脱出ルートであった。金メダリストには政府がボーナスを与え、住宅さえもらえた。

2008年の北京オリンピックは、こうした金メダル獲得の頂点であった。この養成システムの中心的要素、スポーツで子供の成功を強く願う両親、というものが消滅したのだ。この5年間で地方の生活水準も上昇し、出生率が減少して経済機械は増したので、両親は子供にギャンブルのようなオリンピックの金メダルを期待しなくなった。スポーツ学校は減ったし、国家システム外からも良い選手を集めるために、もっと人間的になっている。

広く素質のある選手を集め、学校やコミュニティーの中で練習するのが、より長期的に、メダリストを増やす確かな道である。

Project Syndicate AUG 19, 2016

The Governance Games

NYT AUG. 19, 2016

Is Our Country as Good as Our Athletes Are?

David Brooks

この選挙ではペシミズムが好まれている。アメリカは衰退しており、世界貿易でも不利を強いられ、イラクの破滅によって今も苦しんでいる。

アメリカ人の多数が、民主主義を「かなり悪い」と「非常に悪い」と評価し、しかも急速に増えている。特に、若者の4分の1がそう考えている。アメリカは世界情勢にかかわるべきではない、と考える。

しかし、オリンピックはどうか? アメリカは終末期の衰退に向かう国ではない。アメリカの選手は常に勝利して、その勝者たちの語るアメリカの在り方や選手たちの個性は素晴らしい。

1人当たりのメダル数では、ニュージーランドやデンマーク、ハンガリー、イギリスに負ける。しかし、アメリカほど多くのメダルを得た国は歴史上になかったし、さらに獲得し続けている。

アメリカが勝つのは、選手たちの優秀さというより、システムが優れているからだ。メダルは個人だけでなく、制度によって獲得する。

重要なことは、アメリカのスポーツが示す制度の優秀さは、なぜこの国全体の優れた制度を意味しないのか? 実際、この数十年で、ブラジルやインド、中国のような新興諸国は、経済成長で素晴らしい数字を残したが、今や、制度の弱さが成長を制約している。

アメリカの通貨ドル、食品や医薬品の安全基準、特許制度、また、世界の最優良ブランド企業は10社中の9社、世界最大のエネルギー企業、世界の優良企業、大学、映画で、アメリカは大きくリードしている。

それでも選挙運動では、アメリカが外国人に騙され、破滅させられる、というのだ。現実には、オリンピックと同様に、アメリカは世界貿易でも勝利している。競争旅行で観て、スイスやシンガポールに次いで、アメリカは3位である。

ゼーリックRobert B. Zoellickは、自由貿易協定を結んだ国との貿易が世界貿易以上に伸びており、アメリカ製造業は貿易黒字を出している。しかし、世界貿易はゼロサムではない。

FT August 20, 2016

Rio shows the endurance of the Olympic spirit

NYT AUG. 20, 2016

I Criticized the Olympics. That Doesn’t Make Me a Traitor.

Vanessa Barbara

FP AUGUST 22, 2016

The Party Is Over in Rio

BY RIORDAN ROETT

オリンピックの評価をするにはまだ早い。多くの問題が起きたが、記憶に残るゲームもあった。政治的、経済的な困難にあえぐブラジル人にとって、少なくとも一時的な休息にはなっただろう。

ルセフDilma Rousseff大統領の弾劾裁判に関する最終手続きが残っている。直接の容疑は、議会が認めた借り入れを超えて予算を組んだこと。しかし、それ以上にルセフの政治スタイルが激しい対立を生じた。ブラジルの多数政党による政治が、繰り返し連立を組んで進むという手法を拒んだのだ。そして下院議長の再選を阻んだ。議会はこれに対して報復した、と思われる。

ルセフは多くの経済・金融危機につながる失敗を犯した、と責められている。閣僚の指名や、労働者党(PT)の拡大した社会保障制度に対して、支出削減をしなかった。経済は過熱し、インフレが進んだ。失業は増え、直接投資が減少した。

現在の危機の核心は、国営石油公社Petrobrasがかかわる賄賂やキックバックである。それが政党の財源を満たしてきた。政党の違いはなく、すべての指導者たちは政治スキャンダルにまみれている。ルセフは知らなかったと言うが、冗談だろう。多数の政治家と指導者が投獄される。収賄が犯罪になる、という新しい政治的現実に直面するのだ。それはブラジルの将来にとって良いことだ。しかし、民間部門と政府との快適な癒着や、公共部門の非効率さは、打撃を受ける。

BRICSとして称賛されたが、ブラジルの財政危機は深刻な状態だ。ブラジルの原材料や商品に対する中国からの需要で外貨準備は増えたが、生産性や競争力が改善したわけではなかった。インフラ整備もなされなかった。非生産的な労働者を雇用し続ける労働法、熟練や教育の不足、や、低水準の公衆衛生、社会保障制度の赤字、など、問題は放置されてきた。PTの政権下で、税の徴収が混乱したまま、労働者の雇用を増やそうとした。

非常に裕福な層と貧困層とのギャップははなはだしい。それは安定した社会保障制度の実現を妨げている。オリンピックはこの分断を示した。上空からの映像は、海岸線の高級住宅から山に広がるファヴェーラ、すなわちスラムをとらえた。ファヴェーラの住民たちに入場券を買うことはできない。

観光客と中上流階層がマラカナ競技場で声援する間も、ファヴェーラではギャングと治安部隊との銃撃戦が続いている。麻薬ギャングたちは優勢であり、鎮静化は失敗しつつある。しかも、ギャングだけでなく、非政府の武装集団が増えている。

政治改革が進まなければ、事態を改善することは何1つ実現しないだろう。

FT August 23, 2016

India’s female athletes are the heroes of Rio

Amy Kazmin

12億人の人口を持つインドには、しかもその65%35歳以下であるから、スポーツ選手の産能が豊富にあるはずだ。しかし、その人的な潜在能力を世界の競争における成果に結びつけることには成功していない。この問題は競技場に限らない。

イギリスから独立して69年間に、インドが獲得したオリンピックのメダルは23個であり、金メダルはわずか1個である。インドがリオに派遣した117人の選手団は、これまでで最大であるが、メダルは2つだけである。1人当たりのメダル数では、インドが繰り返し最低ランクに位置付けられた。

インドはオリンピックに焦点を絞った選手の育成を行ってこなかった。隣国である共産主義の中国や、かつてのソ連のような、国家事業としてのインフラを持たなかった。十分な設備や国民規模のスポーツリーグも持たなかった。それはインドの国営学校システムにも言えることだ。多くの子供たちが読み書きや算数のような基本科目を学んでいない。

インドの政府職員や医師は、オリンピックに挑む選手たちのことより、個人的な利益を優先している、と非難された。

それにもかかわらず、オリンピックで示された、特に3人の若い女性たちの闘志と活躍に、インド国民は興奮している。バトミントンのPV Sindhu、レスリングのSakshi Malik、体操のDipa Karmakarである。女性はインドで不当に低く評価され、成果を上げることができない。

Malik嬢が育った小さな町Rohtak in Haryanaでは、女児を嫌う差別的な堕胎によって、男性1000人に対して女性は867人しかいない。彼女がレスリングを学ぶことを、コーチは認めたが、最初、家族やコミュニティーは反対した。設備もなく、スクーターの部品で間に合わせていた。

インドの女性の労働力参加率は、中東を除いて、世界最低である。インドが舞い上がるには、大都市だけでなく地方都市からも、女性の潜在能力を引き出さねばならない。

FP AUGUST 23, 2016

An Olympic Protest Is the Least of Ethiopia’s Worries

BY WILLIAM DAVISON

エチオピアのマラソンランナーFeyisa Lilesaがゴールするとき両腕を上げて交差させたのは、優勝を祝うためではなく、エチオピア政府に抗議するためであった。政府の治安部隊は、この数か月、何百人ものOromoの民を殺害した。


l  Brexitは始まらない

FT August 19, 2016

Further reading on Brexit

Gideon Rachman

Brexitはなかなか始まらない。それはイギリス政府内の分裂状態が、イギリスの意志と能力との乖離を強めているからだ。

FT August 20, 2016

Britain’s economy after the Brexit vote is an enigma

Bloomberg AUG 21, 2016

The Brexit Question That Nobody Asked

Clive Crook

イングランド銀行の元総裁メルヴィン・キングMervyn Kingが書いた論説は、イギリスのEU離脱に関して読んだものの中で最善のものだ。これまで問われていない問題を指摘した。

すなわち、イギリスがEUにとどまるべきか、という問題は、EUがどこに向かうのか、という問題に依存している。

UKが属するにしても、離脱しても、EUには安定した政治条件が欠けている。彼らは馬車を馬の前につないだ。政治同盟の前に通貨同盟を合意してしまったのだ。単一通貨に必要な、政治同盟を欠き、財政移転が行われない。

こうした改革を有権者は、特にドイツ政府と有権者が、望まない。もしそれが実現するとしたら、危機的な事態によって強いられる場合であろう。民主的基礎を欠いたヨーロッパの政治統合は、みんな二位タイの破壊に向かう実験を行うことになるだろう。

イギリスは、ユーロ導入やシェンゲン協定から離脱し、このプロジェクトのコアの参加者ではなかった。改革に関して効果的な発言をする条件はない。しかしEU残留派は、イギリスが最も有利に地位を占めることができる、と主張する。

問題は、ますますイギリスが例外的なパートナーになっていることだ。

FT August 22, 2016

Britain’s farmers will need help after Brexit

The Guardian, Monday 22 August 2016

Want proof that Britain can thrive after Brexit? Look at South Korea

Christian Spurrier

Brexit後のイギリスが見習うべきモデルは、スイス、ノルウェー、カナダ、などではない。イギリスとの条件が大きく異なる。むしろ韓国だ。

韓国の人口は約5000万人、面積は10万平方キロで、イギリス(6000万人、13万平方キロ)と大きく異ならない。韓国も高度に都市化した国で、ソウルは、ロンドン以上に人口集中している。韓国も「ソフトパワー」を強調する。Brexitを支持した人々が魅力を感じるのは、1997年のアジア金融危機、2001年の9112008年の世界金融危機のように、韓国が繰り返し大きなショックを受けて、それでも成長したことだ。

韓国は、生活水準の改善において世界で最も優れた成果を上げた。それはハイテクの輸出主導型成長によるものだ。韓国のSamsung Galaxyは、世界でAppleに対抗できる唯一の企業である。しかも、主要な貿易協定に参加することなく、こうした成果を上げた。2007年、アメリカとの自由貿易協定を結んだことに始まり、中国、カナダ、オーストラリアとも同様の協定を結んだ。ヨーロッパもそうだ。だから残留派はパニックにならずに済むだろう。

ただし、韓国には帝国の歴史がなく、移民もほとんど受け入れていない。イギリスは多様性を受け入れている。

VOX 22 August 2016

Unity in diversity: The way forward for Europe

Lars Feld, Christoph Schmidt, Isabel Schnabel, Volker Wieland

NYT AUGUST 22, 2016

My Daughter the Pole

Roger Cohen

FT August 24, 2016

The sharp costs of Brexit will be felt soon enough

Rupert Pennant-Rea

FT August 24, 2016

Eurozone looks beyond the Brexit vote

FT August 25, 2016

Scottish independence and the Brexit paradox

Project Syndicate AUG 25, 2016

Theresa May and the Three Brexiteers

ROBERT HARVEY


l  欧米民主制の不安

FT August 19, 2016

The centre left in Europe faces a stark choice

Tony Barber

ユーロ危機、移民問題などで、ヨーロッパの社会民主党など、穏健左派が迷走している。特に、労働組合の組織率が低下した国では、ナショナリスト政党が支持層を侵食している。

穏健左派が消滅するということはないが、その支持層の分裂は深刻である。一方には、貧しい、保守的な価値を持つ労働者、他方に、EUを支持し、開かれた市場を好む、豊かでコスモポリタンなリベラル派、がいる。

FT August 23, 2016

The crisis in Anglo-American democracy

Gideon Rachman

西側の2つの大政党、アメリカの共和党とイギリスの労働党が、崩壊に近い状態にある。それは大西洋の両眼で民主主義の健全さを脅かしている。

どちらのケースも、指導者は政界の周辺部から現れ、政党を異なった、ラディアカルな方向へ転換した。民主主義体制が機能するには、信頼できる反対派が政府に説明を求めることが重要だ。しかし、両国ではこの機能が失われた。

イギリスでは、EUからの離脱交渉で、警告や責任ある反対意見が必要である。テレサ・メイが政権を維持できているのは、それほど労働党が崩壊しているからだ。2か月たっても、メイ首相は具体的な取り組みに入れない。閣僚たちは対立し、首相は他の優先課題との関係を示せないままだ。

しかし、コービンの労働党は何もしようとしない。それは、彼が実際は、Brexitを支持しているからだろう。そうでなければ、本当に無能である。どちらにしても、労働党は野党の役割を果たしていない。

アメリカの状況はさらに深刻だ。トランプの反対意見は、インターネットやトークショウの陰謀論でしかない。その選挙運動は、ヒラリー・クリントンと民主党を「偽物」と非難することに執着するあまり、オバマ政権が残した、本当に重要な政治論争は何も取り上げない。シリア内戦の長期化、金融政策の超緩和状態に頼るアメリカ経済は、もっと議論しなければならないはずだ。

コービンとトランプは、漫画の中で観るような異なった政治家だ。市民農園のコービンと、ペントハウスのトランプ、極左と極右、国際派とナショナリスト。

しかし、共通点も著しい。「反システム」であり、新しい活動家を動員し、政党の長老たちを非難し、しばしば暴力的な主張をする。プーチンに親近感を持ち、NATOを疑い、かつてシステムを動かすユダヤ人の陰謀論が左派や右派に広まったように、反ユダヤ主義を共有する。

英米の政治は、もはや左右の対立軸ではなく、エスタブリッシュメントと半システムとの対立で動いている。彼らは、このシステムが操作されたものであり、庶民はエリートによって踏みつぶされている、と考える。建設的なアイデアを持たず、経済の国家管理や、アメリカ優先の孤立主義のような、昔のアイデアを再生する。


l  金融政策の限界

FT August 19, 2016

How weak productivity can neuter monetary policy

Stephen King

FT August 22, 2016

Monetary policy lacks the muscle to boost growth

Michael Heise

Project Syndicate AUG 22, 2016

The Politics of Negative Interest Rates

YANIS VAROUFAKIS

貨幣は政治の産物である。

デフレ時代の金融政策が、中央銀行の独立性をめぐる前提を否定する。デジタル貨幣でマイナス金利を実行する、物価水準と名目GDPを目標にする案が出ている。

FT August 23, 2016

Negative interest rates are not the drama they seem

Adam Posen

量的緩和に関して中央銀行形のコンセンサスがあったのは、もう古い話だ。マイナス金利に関しては、さまざまな言葉が並ぶ。日銀の黒田総裁は、マイナス金利も「排除しない。」 しかし、イングランド銀行のMark Carney総裁は、「好まない。」 スイス国立銀行のThomas Jordan総裁は、「正しい方向だ。」 他方、アメリカ連銀のJanet Yellen議長は、「完全に排除するわけではない」が、最後の手段である。

この論争は、マイナス金利によるコストの変化を同じとみなすことが間違いを生む。マイナス金利が機能するとしても、追加の政策が必要だろう。また、英米と日本、また、ドイツやイタリアとの違いを無視している。日本の貯蓄は、英米やスイスに比べて、ほとんど国境を超えない。また、ドイツやイタリアの金融では、今も銀行預金と融資が大きな割合を占めている。

すべて、制度にかかわるものには、政治がかかわる。マイナス金利にも政治的な影響がともない、それに関する政治的反発が生じる。政治は、各国の金融における構造的な違いを増幅するような介入を求めるだろう。

マイナス金利政策の効果を判断するには、これらの視点が欠かせない。

Project Syndicate AUG 24, 2016

The Easy Money Contagion

CARMEN REINHART

The Guardian, Thursday 25 August 2016

The Guardian view on central bankers: growing power and limited success

Editorial

FT August 26, 2016

Central bankers ponder moving the goalposts


後半へ続く)