IPEの果樹園2016

今週のReview

8/22-27

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Google政府 ・・・エコロジカル・オーヴァーシュート ・・・天皇制度 ・・・IMF融資の評価 ・・・組合の衰退とトランプの台頭 ・・・ジャマイカのランナー ・・・マイナス金利政策 ・・・香港立法会選挙 ・・・核先制攻撃の禁止 ・・・Brexitと権力の限界 ・・・オーストラリア ・・・ユーロの解体案

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  Google政府

Bloomberg AUG 11, 2016

'Googlement' Pushes Aside 'Government Sachs'

Justin Fox

あなたは、金融危機に際して金融街を守るために資金を投げ入れ、ゴールドマンサックスの前職者が並んだ政府を揶揄して、“Government Sachs”と言ったことを覚えているだろうか?

今なら、Govergle. もしくは、Googlement. Alphamentと言うところだろう。Googleのロビー活動に費やす資金は、10年前の100万ドル以下から、2015年には1670万ドルになった。ボーイングとゼネラルエレクトリックに次ぐ額だ。

Googleとアバマ政権との関係は、さらに深いものだ。


l  エコロジカル・オーヴァーシュート

The Guardian, Friday 12 August 2016

We are in ecological overshoot. Industrial strategy can provide a way out

Andrew Simms

201688日、世界は「エコロジカル・オーヴァーシュート」に入った。1年間で、自然が代替し、吸収できる以上に、資源を消費し、廃棄物を生産したのだ。われわれが消費するすべての者の排出を含めると、われわれのカーボン・フットプリントは、減少するのではなく上昇した。

政府顧問の中にも、生態系へのマイナスの効果がドミノ式に拡大すると懸念する者がいる。

SPIEGEL ONLINE 08/17/2016

'Paradise Lost'

How To Help Our Oceans Before It's Too Late

Interview Conducted By Philip Bethge


l  天皇制度

FT August 12, 2016

Japan’s abdication dilemma pits modernisers against nationalists

Ian Buruma

日本の天皇は、神聖な、神官型の王様ではなく、「国家のシンボル」である。そして、明仁天皇は、その妻、美智子とともに、この制度を人間として体現するために、多くの努力を費やしてきた。

自然災害の被災者を訪ねて慰め、激励し、アジア諸国を訪れて、日本との戦禍が癒えることを願った。1992年には、中国を訪問して、日本の首相の多くが「謝罪」することにためらう中でも、明確に「深い悲しみ、悔悟」の言葉を示した。

安倍首相の政治基盤には、さまざまなナショナリスト団体が加わり、極右の神道運動も参加する。安倍は、日本の軍事力と戦争を行う権利を否定した憲法を書き換えようとしている。彼は、愛国心教育を復活し、日本の戦争犯罪を認めず、天皇制の宗教的な復活を望んでいる。

しかし、天皇はこうした右翼団体に比べて、もっとリベラルである。それに関して意見を求められた日本会議の会長は、「天皇は常に正しい」と答えた。だからこそ、明仁は、直接に国民に訴えたのであろう。

(China Daily) 2016-08-13

A big blow to Abe's revisionist designs

By LIU QINGBIN

NYT AUG. 15, 2016

The Emperor and the Prime Minister

By NORIHIRO KATO


l  IMF融資の評価

Project Syndicate AUG 12, 2016

Airing the IMF’s Dirty Laundry

BARRY EICHENGREEN

2008年のギリシャとユーロ危機に関するIMF融資の、Independent Evaluation Office (IEO)による評価報告書が発行された。この評価機関は、1998年のアジア金融危機に対して論争が起きたことに応じて設立された。

しかし、IEOの評価はその権限に制約があるようだ。IMFは、ヨーロッパの自己弁護をなぜ受け入れたのか? その評価には不十分な点がある。


l  プーチン

Project Syndicate AUG 12, 2016

The Putin Question

Anders Åslund

プーチンは、われわれの目を見て、嘘をついた。確かに、われわれが彼の嘘を知っているのに。


l  ヒラリーとアメリカ

NYT AUG. 12, 2016

Hillary Clinton’s Plan for a Fair Economy

By THE EDITORIAL BOARD

FT August 15, 2016

The return of American exceptionalism

Edward Luce

NYT AUG. 15, 2016

Wisdom, Courage and the Economy

Paul Krugman

FP AUGUST 17, 2016

Henry Kissinger Will Eat Sh*t and Endorse Hillary Clinton

DICK_NIXON


l  組合の衰退とトランプの台頭

NYT AUG. 12, 2016

The Decline of Unions and the Rise of Trump

By NEIL GROSS

NYT AUG. 13, 2016

A Playboy for President

Ross Douthat

FT August 15, 2016

US election: Trump’s Russian riddle

Gary Silverman


l  ジャマイカのランナー

FP AUGUST 12, 2016

The Olympic Spirit Is Unbridled, Rabid Nationalism

BY DAVID CLAY LARGE

NYT AUG. 13, 2016

The Secret of Jamaica’s Runners

By ORLANDO PATTERSON

人口280万人の島が、なぜ走ることに驚くべき成功を示しているのか? 現在、世界で最速の男女はともにジャマイカ人である。100メートルで最速の記録を出した26人中の19人がジャマイカ人である。

ジャマイカ人の成功は、遺伝によるものではない。ジャマイカ人の多くは西アフリカ出身者の子孫である。そこには優れた短距離走者がいない。

ジャマイカ人に尋ねたら、まったく異なる答えが返ってくるだろう。それは、Champs (the Inter-Secondary Schools Sports Association Boys and Girls Athletics Championship)である。それは熱狂的な陸上ファンが3万人も参加する競技会だ。ジャマイカは、トラックとフィールド競技が最も人気のあるスポーツになっている、世界で唯一の国である。

なぜか?

制度、公衆衛生の実現と優れた健康状態、陸上スポーツ選手を育成する伝統、競争的な個人主義、アメリカに近く、スポーツ留学のための奨学金があること、などが指摘できる。貧しい国で、走ることは最も費用のかからないスポーツだ。建国の父であるN. W. Manleyも陸上選手だった。

しかし、20年前から、プロスポーツのクラブが始まった。アメリカ風のスポーツ企業家が増えている。

なぜ、スポーツの成功を経済成長にも適用できないのか? そこには違いがあるようだ。

NYT AUG. 15, 2016

Brazil’s Uplifting Olympics

Roger Cohen

Project Syndicate AUG 16, 2016

The Olympics’ Lesser Gods

LUCY P. MARCUS


l  マイナス金利政策

FT August 13, 2016

Interest rates are a spent economic force

Eric Lonergan

マイナス金利政策は、満期構造の転換に依拠した金融部門のビジネスを破壊する。また、相対的に裕福な諸国では、低金利が貯蓄や年金に影響し、家計所得にマイナスとなる。高齢化による医療費の増大や年金の不確実さに対して、人々は貯蓄を増やそうとする。企業の投資も、将来の成長やリスクに対する態度が影響する。余剰の現金を持てば、企業は発行されている株式の買い戻しを優先する。

The Guardian, Sunday 14 August 2016

Ever-lower interest rates have failed. It’s time to raise them

Mary Dejevsky

NYT AUG. 15, 2016

What Two Years of Negative Interest Rates in Europe Tell Us

By THE EDITORIAL BOARD

FT August 17, 2016

Easy money is a dangerous cure for a debt hangover

Amar Bhidé

FT AUGUST 18, 2016

Central bankers are threatening the engine of the economy

Bill Gross


l  香港立法会選挙

The Guardian, Sunday 14 August 2016

The rising power of China will create new political fissures in the west

Gideon Rachman

FT August 15, 2016

China’s wealthy residents take Nimbyism to their hearts

Tom Mitchell

NYT AUG. 16, 2016

The Umbrella Movement Fights Back

By LIAN YI-ZHENG

94日の香港立法会選挙に向けて、立候補する動きに緊張が高まっている。香港政庁と北京政府は強い関心を持っている。2014年の雨傘革命Umbrella Movementから、その運動家たちが初めて政治参加する機会であるからだ。

民主化運動家たちは、もはや基本法の下で香港の民主主義を守る、という「12制度」を信用していない。今では、香港の完全な自決権を求め、基本法が失効する2047年に、中国からの独立を主張する者もいる。

運動家たちが選挙に参加することで、香港政治は3分割された。以前は、エスタブリッシュメントと民主化運動との対立であった。彼らはともに「12制度」を信じ、愛国的であった。今では、活動家の中にも分裂がある。独立は、かつて非常にラディカルな考えであったが、今では若者たちのかなりの部分に支持されている。

しかし、独立派のイデオロギーは、その実現性に問題がある。軍事的にも、水供給でも、北京は独立を許さないだろう。しかし雨傘革命で、北京が一切の譲歩を拒んだことが、分離独立派の主張を強めたのだ。

The Guardian, Wednesday 17 August 2016

What does Theresa May really think about China?

Mary Dejevsky

Project Syndicate AUG 17, 2016

China’s Higher-Education Glut

EDOARDO CAMPANELLA

Project Syndicate AUG 18, 2016

China’s Corporate-Debt Challenge

DAVID LIPTON


l  核先制攻撃の禁止

NYT AUG. 14, 2016

End the First-Use Policy for Nuclear Weapons

By JAMES E. CARTWRIGHT and BRUCE G. BLAIR

核兵器の時代に、大統領たちは上級司令官が核兵器の第1撃を選択するプランを認めてきた。

しかし、冷戦が終わり、非核兵器の軍事力が進歩して、核兵器を使用しなければ敵の攻撃を抑制できないようなケースはますます限定されるようになった。

ロシアや中国に対する核兵器の使用は、全面的な報復により、アメリカとその同盟諸国の生存を脅かすだろう。より小さな脅威に対しては、その他の武器が使用できる。

それ以外にも、核兵器の先制使用を否定することで、いくつかの利益が得られる。


l  Brexitと権力の限界

Project Syndicate AUG 15, 2016

Brexit and King Canute

ANATOLE KALETSKY

初期のアングロサクソン王であったKing Canuteの伝説は、国王の権力の限界を示すものだ。Canuteは、玉座を海辺に設けた。そして、潮が退くことを求めた。しかし、いつも通りに潮は満ち、彼は濡れたことで、国民が権力の限界を知ったはずだ、と述べた。

メイ首相は、“Brexit means Brexit”という言葉を繰り返した。残留派であった彼女も、国民投票が離脱を求めた以上は、「離脱は正しい」というわけだ。

これはナンセンスだ。イギリスがヨーロッパの単一市場から切り離されるなら、人々の投票と関係なく、経済は悪化する。民主主義は潮の満ち引きを変えたわけではない。そして経済が悪化すれば、メイはBrexitの条件を争う国内権力を失うだろう。

Brexitを決めるのは、ロンドンではなく、ブラッセルやベルリンだ。

彼らが考える問題とは、EUのルールや制度を拒否したイギリスに、EU加盟諸国と同じ便益を与えるのか? イギリスではなく、ヨーロッパ全体に、EU加盟の魅力を高める改革を行うべきか? その答えは明白だ。NO、そして、YES.

社会福祉の給付を制限し、あるいは、緊急避難的な移民流入規制を認めることが考えられる。南欧が苦しむ、景気変動を悪化させる予算制限や銀行規制を緩和することも、各国議会からEUへの権力集中を逆転し、「統合の深化」というスローガンを公式に下ろすことも。

いずれの改革もブラッセルには考えられないことだろう。そのためには、条約の改正が必要になる。それは不可能だ、と。しかし、本当の障害は、権力の低下を拒む官僚制だ。

欧州委員会やJuncker委員長は、King Canuteの伝説を思い出すべきだ。各国民主主義の潮が高まる中で、EU統合を唱えることは、水没する玉座にしがみつくことである。

FT August 17, 2016

The challenge to ensure that Brexit works for business

Matthew Elliott

Project Syndicate AUG 17, 2016

Brecht on Brexit

HOWARD DAVIES

FT AUGUST 18, 2016

Britain pays the price for a badly designed Brexit choice

Richard Thaler

YaleGlobal, 18 August 2016

Among All Uncertainties After Brexit Vote, Low Growth Is Sure

David Dapice


l  アベノミクス

FP AUGUST 15, 2016

Empire of the Setting Sun

BY JEFF KINGSTON

FT AUGUST 18, 2016

Abenomics breeds a new generation of Japanese gold bugs

Leo Lewis


l  オバマ外交

FP AUGUST 15, 2016

A Defense of Obama’s Middle East ‘Balancing Act’

BY AARON DAVID MILLER

VOX 16 August

More bombs, more shells, more napalm: Nation building through foreign intervention

Melissa Dell, Pablo Querubin


l  オーストラリア

FT August 16, 2016

Why Australia’s luck may be running out

Gideon Rachman

オーストラリア人は、中国の新聞やソーシャルメディアを観ない方がよい。南シナ海問題とオリンピックが重なって、オーストラリアは中国の西側に対する反感の焦点になっている。アメリカや日本と同じく、オーストラリア政府も常設仲裁裁判所の判決に従うよう、中国に求めるコメントを出した。その反発は激しいものだった。・・・もしオーストラリアの船舶が南シナ海に近づいたら、警告して、撃沈する。

長い間、オーストラリアは「ラッキー・カントリー」であった。2400万人の国民が、恵まれた気候や地下資源を利用して、世界の紛争からは広大な海洋によって分離されてきた。

しかし、それは海洋を支配するのが友好的なイギリスやアメリカであったからだ。もし南シナ海を、あるいは、さらに太平洋の広範な領域を、中国が支配するようになれば、オーストラリアはむつかしい選択に直面する。そのジレンマに関して、オーストラリアの戦略家たちは論争を始めている。アメリカとの同盟関係はゆるぎないが、そのアメリカは力を失っていく。

中国の台頭、そしてアジアのダイナミズムを取り込むことで、オーストラリアは四半世紀も不況を経験しなかった。中国は資源への強い需要を持ち続け、オーストラリア政府はアジアの成長の波に乗っていたのだ。

しかし、中国の資本がオーストラリアの土地や企業を買収するケースで、政府はそれを認めないことが続いている。アメリカも中国も、次第に、より厳しい要求をするようになっている。オーストラリアが21世紀の地政学的な発火点にもなりかねない。


(後半へ続く)