IPEの果樹園2016

今週のReview

8/15-20

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イギリスの暴動 ・・・グローバリゼーションへの不満 ・・・小池ユリ子 ・・・成長より分配 ・・・ネパールの憲法と政権 ・・・明仁天皇の訴え ・・・中国の不安 ・・・民主主義とポピュリズム ・・・金融市場統合と国際収支不均衡 ・・・Brexit後のEU改革 ・・・グローバル・ガバナンス批判 ・・・アベノミクス

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  イギリスの暴動

The Guardian, Friday 5 August 2016

It’s five years since the English riots, but the rifts in society are wider than ever

David Lammy

5年前、Tottenhamで暴動が起きた。政府はその教訓を何も学んでいない。

2011年の暴動は、外部の観察者によっても報道され、8月の夜の暴力事件が瞬く間に起きた。そのコミュニティに暮らす者にとって、再建には数年がかかった。

私は当時、1985年のBrixton暴動から政府は教訓を学べ、と強く求めた。しかし、当時、コミュニティは忘れられ、破棄されたのだ。2011年の暴動に関しても委員会the Riots, Communities and Victims Panelが調査を行い、報告書を発行した。人々は委員会に対して、真摯に、分断されたコミュニティの問題を証言した。

委員会は63の勧告を行ったが、その多くは拒否されるか、実施されなかった。

「もし多くの者が社会に帰属していると感じなくなれば、社会秩序は分裂し、平和は壊れやすいものとなる。絶望と無力さの感覚が、さまざまな世代に、そして地域全体を支配しているなら、社会とそのルールに対する尊敬は失われる。人々が失うものなど何もないと感じるとき、自暴自棄が急速に怒りや暴力に変わる。これが、学ばれなかった、暴動の教訓である。」


FT August 5, 2016

Pity Greece’s statistician bearing blame for errors of others

Philip Delves Broughton


l  グローバリゼーションへの不満

Project Syndicate AUG 5, 2016

Globalization and its New Discontents

JOSEPH E. STIGLITZ

グローバリゼーションへの不満は、発展途上諸国だけでなく、政府の間違った政策によって、今や、先進諸国にも広がっている。

ネオリベラルのエコノミストたちは、人々の生活はグローバリゼーションによって改善されているのに、彼らはそれを知らないのだ、というだろう。人々に必要なのは精神科医であって、エコノミストの問題ではない、と。

そのようなエコノミストにこそ治療が必要だ。アメリカ人の所得は、底から90%の人々にとって3分の1世紀も停滞している。白人のアメリカ国民はその寿命が短くなった。

1988年から2008年の20年間で、最も利益を得たのは世界の富裕層1%と、新興市場の中産階級であった。他方で、最大の敗者、所得が上昇しないか損失を強いられたのは、先進諸国の底辺・中間層、労働者であった。

完全市場という前提では、多くのネオリベラル派の経済分析が前提するのだが、自由貿易は世界中の未熟練労働者の賃金を均等化する。財の貿易は人間の移動を代替する。中国から財を輸入することは、その生産に未熟練労働者を大量に必要とするから、ヨーロッパやアメリカで未熟練労働者への需要を減少させる。

あたかも賃金格差が消滅するまで、中国人労働者がヨーロッパとアメリカに移住し続けるように。もちろん、このことをネオリベラル派は宣伝していない。そして、すべての者が利益を得られる、と言うのだ。

グローバリゼーションの信用は、主要な政治家たちが示す対策によっても損なわれた。彼らは銀行家を寛大な条件で救済した一方、普通の市民たちには自己防衛に任せた。一般に、ネオリベラル派は、グローバリゼーションの敗者を助ける社会保障の手段を、市場のマイナス誘因として反対した。

それはどちらも間違っている。もしグローバリゼーションが社会の多くのメンバーに利益をもたらすとしたら、それは強力な社会的保護システムが導入されているときだけだ。そのことを北欧諸国は以前から示していた。グローバリゼーションへの開放性と技術革新は、それらを求めている。

ネオリベラル派と主要政治家たちは、逆に、不平等を強め、経済パフォーマンスを悪化させる仕方で市場を改革した。ゲームのルールは、銀行と大企業の利益、すなわち、富裕層と権力者のために書き換えられたのだ。オバマ大統領が推進するTTPTTIPも、グローバリゼーションへの間違った方向を目指している。

Project Syndicate AUG 5, 2016

Free Trade’s Diminishing Returns

VLADIMIR POPOV

VOX 05 August 2016

Brexit and globalisation

Diane Coyle

NYT AUG. 6, 2016

The Rage Against Trade

By THE EDITORIAL BOARD

アメリカ大統領候補の2人とも、通商政策を主要な論点としている。トランプは、中産階級を空洞化させたものとして貿易を激しく非難し、既存の通商条約を破棄する、と公約している。多くの有権者がトランプに同調して不満の声を上げている。

貿易への反対は決して軽視できない。クリントンも、サンダースとともに、貿易が賃金の停滞や所得について重要な問題であることを認めている。しかし、賃金や雇用に対しては、機械化の方が重要な影響を与えているし、ドイツや日本のように大幅な貿易黒字の国でも、製造業の雇用は減少してきた。

たとえトランプが言うように、高関税で中国からの輸入品を締め出し、WTOからアメリカが離脱しても、アメリカに雇用が戻ることはないだろう。むしろ、報復関税によってアメリカからの輸出が失われる。

クリントンは、通商条約が「雇用創出、賃金上昇、安全保障に対する高い基準を満たすべきだ」と主張しているが、その詳細は分からない。共和党が支配する議会が認めなかった、貿易によって影響を受けた労働者への財政的な支援、通商交渉における労働基準や環境基準の引き上げ要求、競争力を高めるための為替レート操作の禁止、などを支持すると思われる。

Project Syndicate AUG 6, 2016

Globalization Is the Only Answer

ANABEL GONZÁLEZ


l  核軍備

FP AUGUST 5, 2016

Our Nuclear Procedures Are Crazier Than Trump

BY JEFFREY LEWIS


l  小池ユリ子

FP AUGUST 5, 2016

Japan’s Reluctant Feminist

BY BETHANY ALLEN-EBRAHIMIAN

小池ユリ子は、スウェーデンより大きな予算規模を持つ首都、東京の知事に当選した。インタビューにおいて事前の説明文を離れた発言を求めたのは、2点であった。1つは、安倍晋三の憲法裁解釈による軍備拡大、もう1つは、男性支配の文化における女性政治家の少なさ、であった。

ある調査the Inter-Parliamentary Unionによれば、議会における女性代議員の数は、193か国中、日本は155位である。それは、サウジアラビアよりも悪い。1946年に比べて、その比率は8.4%から9.5%へ、わずか1%しか改善していない。

2007年、小池は女性初の防衛大臣になったが、1か月で辞任した。2008年には、自民党総裁選挙に女性で初めて立候補した。小池は、その過程で、女性問題を主要な論点とした。安倍政権のテーマの1つに、女性の社会進出を推進することが掲げられた。

小池の祖父は数年間シアトルに移住していたことがある。インタビューの最後に、小池はヒラリー・クリントンと比較されることを意識して、もしそのまま祖父がアメリカに暮らしていたら、私はシアトルに生まれて、クリントンの対立候補になっただろう、と述べた。


l  移民政策

SPIEGEL ONLINE 08/05/2016

Refugee Deal at Risk

Europe Takes a Soft Approach on Erdogan

Project Syndicate AUG 6, 2016

Migration Fact vs. Migration Fiction

PETER SUTHERLAND

NYT AUG. 8, 2016

The World Loves Refugees, When They’re Olympians

Roger Cohen


l  成長より分配

FT August 6, 2016

A quiet shift in focus for economic policymakers

FT August 8, 2016

The progressive case for championing pro-growth policies

Lawrence Summers

1970年代後半に大学院生であったとき、アメリカの総所得が利潤と賃金、また富裕層と貧困層に分配される比率は一定である、というのが「定型化された事実」であると学んだ。

それは完全に変わった。

不平等が拡大し、中産階級の所得水準が激しい政治問題となっている。

かつて、成長率にすべてが連動していた。過去35年間、進歩派の多くにとって、成長を高める政策が重要だった。成長は連邦政府の財政収入を増やし、社会プログラムを拡大できた。労働市場が供給不足である状態を創ることは、最も優れた社会プログラムであった。

問題は、企業が成功することは望ましいか、ということではない。どのように実現するのが最善か、ということだ。公共投資を増やし、労働者の購買力を高め、企業の競争力を改善することだ。それは、成長率だけに注目した政府が忘れていた、分配の公平さも改善する。


l  ネパールの憲法と政権

NYT AUG. 7, 2016

A Maoist’s Burden in Nepal

By PRASHANT JHA

ネパールの反政府ゲリラ指導者、毛沢東派のPushpa Kamal Dahalがジャングルから現れ、政府のヘリコプターに乗って、カトマンズの和平交渉に参加した。彼は20年間の激しい武装闘争を指導して、Prachandaと呼ばれ、その姿を知るものはほとんどなく恐れられていた。

王制を廃して、カーストや地方コミュニティによる差別、政治的特権層を攻撃して、Prachandaは首相となった。しかし、新しい憲法がネパールの包括的な発展、地方の自治拡大を実現する、という約束を、彼は守らなかった。旧支配政党と組んだのだ。Prachandaは、憲法改正を実現するためだ、と説明した。

しかし、その後の政治的混乱と辞任によって、平たん部のインド系コミュニティはPrachandaが政府への支持を取り下げ、首相が辞任することを求めて、抗議のためインドからの輸入封鎖を行った。インド政府の支援を受けたものだ。これに対して、政府は、従来はインドの影響下にあったネパール政治に、対抗するため、中国に接近し始めた。

Prachandaが、再び首相になった。彼の最初の約束を守れるかどうか、最後の機会を得たのだ。


l  明仁天皇の訴え

NYT AUG. 7, 2016

At 82, Emperor Akihito of Japan Wants to Retire. Will Japan Let Him?

By JONATHAN SOBLE

月曜日に放映された録画で、明仁天皇は玉座を降りることを日本国民に願った。もし議会がこれを認めるなら、1946年の転換以来、最大の改革になる。

日本人の多くにとって、天皇は第2次世界大戦後の平和憲法を象徴する人物であり、安倍首相の保守政権が求める、軍事行動への憲法の制約を弱め、第9条を破棄することに対して、この憲法の強力な守護者とみなされている。天皇の退位は、安倍首相の軍事優先に対抗するシンボルを失う、と心配する専門家もいる。

退位と皇位継承に関するいかなる議論や改正手続きも、天皇制度を弱めたり、政治的な影響力を行使する余地を与えたりしないように、細心の注意を払わねばならない。

日本は急速に高齢化している社会であり、国民の多数は天皇の願いに対して同情的である。彼の人権を認めて、引退させてあげるのが良い、と化粧品店に勤める34歳の店員は応えた。

しかし、皇室をめぐる様々な論争が再発することも懸念される。女性の皇位継承に関して、皇室に男子が生まれないことから論争が続き、ようやく1人の男子が生まれて論争が鎮まった。当時、安倍首相の属する自民党右派勢力は、女子への皇位継承に対して強く反対した。天皇の退位に関しても、安倍は明確な姿勢を示していない。

日本は世界でも独特な暦を使用し、天皇が変わると元号を変える。第2次世界大戦が終わったとき、裕仁天皇は、自分が神ではなく人間である、と宣言して、戦時における軍事政権の宣伝を否定した。新憲法は戦勝国であるアメリカが付与し、天皇の政治権力を完全に奪い去った。そして、純粋に儀礼的な役割を与えたのだ。

歴史上、天皇が生前に退位することは異例ではなかった。日本の天皇の半数以上が、仏門に入り、出家する形で退位した。19世紀になって初めて、日本の指導者たちに天皇崇拝を煽動するカルトが現れ、退位は不可能になった。

天皇は、急速に変化する社会で、天皇の緩やかな死に関して注目が集まり、その後の長い皇位継承の儀式にも時間がかかることを懸念している。時代に合った天皇制を願っているのだ。

明仁天皇とその妻、美智子は、東日本大震災の被災者を励ますために訪問した。海外の多くの戦場や、北京も訪問した。1964年に東京でオリンピックが開催されたとき、まだ地位の不確かなパラリンピックの支援者となって、その普及に多くの時間を費やした。当時の日本では、身体障害者の社会的地位は低く、隠された存在であった。

明仁天皇の息子、成仁も、こうした社会的大義を掲げる父の姿勢を引き継ぎ、貧しい諸国の水問題にかかわっている。

The Guardian, Thursday 11 August 2016

Only a cruel despot would stop Japan’s emperor from retiring

Jake Adelstein

神が引退したらどうなるのか?

日本の天皇はもはや神ではない。しかし、それほど昔ではないが、この国の帝国の支配者たちは世界を統治できると信じていた。現在の天皇、明仁は、人間的であり、神になりたいとも思っていない。だが日本を支配する自民党と、その指導者である安倍晋三は、戦前の憲法を復活させ、天皇を神の地位に引き戻したいと考えている。

それこそ、82歳の天皇が、自身とその後継者たちに望まないものである。彼は神道を国家宗教にすることを嫌い、強制された愛国心を嫌う。彼は社会的大義を支持し、被災者、貧しい人々、身体障害者、在日2世のためにも、妻とともに、その苦しみが緩和されるように気を配った。彼が望むのは、国民が平和で、幸せであることだ。政治家たちは、もっと自分自身のことより、国民のことを考えるべきだ、と彼は思っているのではないか。


l  中国の不安

Bloomberg AUG 7, 2016

Why China Can't Solve Its Debt Problem

Christopher Balding

多くの者が、中国の官僚たちは、成長率が下がれば刺激策を採り、金融機関の流動性を維持するだろう、と信じていた。しかし、そうではない。最近の統計が示すように、財政状態は想像以上に急激に悪化し、成長を高める能力は失われている。

Bloomberg AUG 8, 2016

China Isn't a Threat to World Order

Zhu Feng

中国が常設仲裁裁判所の判決を無視したことを、日本の国際連盟脱退や、ヒトラーの世界秩序に対する否定と同じように報道するのは間違っている。それは、中国国内の右派の疑念を強めるだけだ。彼らは西側が中国の台頭を挫くための謀略を練っている、と確信している。

しかも、その判決を無視するケースは過去に多くあった。イギリス、ロシア、アメリカもそうだ。

FP AUGUST 9, 2016

China’s PLA Gets Smarter (and Bigger, Faster, Stronger)

BY BRIAN R. MOORE, RENATO R. BARREDA

Bloomberg AUG 10, 2016

Confucius Has Some Advice for Trading With China

Michael Schuman

FT August 11, 2016

China takes a gamble in scapegoating the west

Jamil Anderlini

中国で公開されたプロパガンダ映像は、国民に西側の悪意や危険性を宣伝し、一部の過激なナショナリストたちに政治運動を正当化する余地を与えている。こうした傾向は、欧米に見られるポピュリズムや軍事的強硬論と一致する者であり、しかも中国指導部が暗黙の支持を与えている。

中国における外国人や外国企業への優遇策は失われ、むしろ劣悪な条件や敵視する姿勢が広まっている。中国の開放政策が終わるとしたら、それは中国にとっても世界にとっても恐ろしいことだ。

YaleGlobal, 11 August 2016

China’s Attempt to Export Its Way Out of Glut Threatens World Economy

Börje Ljunggren

2008年の金融危機が深刻なとき、世界は深淵をのぞき込んでいた。中国が行った記録的な経済刺激策は、世界中に感謝されたのだ。しかし皮肉なことに、刺激策の連続は債務を急速に増大させ、世界貿易を危機に向かわせる過剰生産力を生んでしまった。

中国指導部は、債務の急増と過剰生産力によって、経済政策のコンパスを失ったのではないか。


l  民主主義とポピュリズム

FT August 8, 2016

The global democratic recession

Gideon Rachman

Project Syndicate AUG 10, 2016

Populism, Past and Present

SHLOMO BEN-AMI


(後半へ続く)