IPEの果樹園2016

今週のReview

7/25-30

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トルコのクーデタ失敗 ・・・建設的ポピュリズム ・・・トランプ指名共和党大会 ・・・ソフトバンクによるARM買収 ・・・BrexitEU革新 ・・・EU移民政策の転換 ・・・イラク戦争の教訓 ・・・国際的無秩序

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  トルコのクーデタ失敗

FP JULY 15, 2016

Erdogan Has Nobody to Blame for the Coup but Himself

BY MICHAEL RUBIN

The Guardian, Saturday 16 July 2016

Turkey was already undergoing a slow-motion coup – by Erdoğan, not the army

Andrew Finkel

トルコは重要だ。G201つであり、イラク、イラン、シリアと国境を接する。NATO加盟国として重要な役割を果たすと期待されている。クルド人との緊張が高まるような、問題をトルコが起こせば、それは国境を超えて他の諸国に影響する。

それは無様なクーデタであった。国営テレビ局を占拠し、戦車を街頭に繰り出すという、時代遅れの戦術によって、この複雑な社会を掌握しようとした。彼らはソーシャル・メディアなど聞いたこともないのだろう。群衆は、通りを血に染めることを軍隊が恐れるほうに賭けて、兵舎に追い返した。それでも180人以上の死者が出た。

問題は、なぜ失敗したか、より、なぜクーデタを起こしたのか、である。それは、彼らがこれをエルドアン政権によって軍が完全に支配されるのを阻止する最後のチャンスと見たからであろう。8月の初めに、例年通り、軍の最高会議が開かれ、昇任や引退、左遷が決まった。それは政府に背く者を排除する粛清だった、と新聞が騒いだ。

トルコではすでにスローモーションのクーデタがおきている、というのが多数の意見だ。しかし、その主体は軍ではなく、エルドアン自身だ。過去3年間で、エルドアンは権力の主要機関を占拠した。

メディアへの圧力はよく知られている。政府に反対する新聞は裁判所の指名した機関によって乗っ取られた。反体制のテレビ局は、電波塔を取り外された。エルドアンは、週末にクーデタから救われたソーシャル・メディアを、それまで嫌っていた。裁判所も、ますます支配しつつある。政府に批判的な判決は出せなくなった。

トルコ議会は、民主主義が守られた、と祝っているが。議員たちは法の支配が失われてしまうことをなぜ黙認するのか。

エルドアンはますます権力を集中している。彼は首相を交代させて、議会から大統領に権力を移すことを推進した。クーデタの失敗は、エルドアンにこうした権力集中を正当化する材料を与えた。すでに亡命した反政府派の聖職者ギュレンFethullah Gülenと彼につながるものを追放すると約束している。

政府が軍と対立し、軍内部でも分裂しているなら、トルコが権力を強化し、イスラム国家を掃討し、シリア内戦を終結させる、と望めなくなった。さらにトルコ経済も、こうした政治リスクを重視する投資家により、一層変動し易くなる。

分裂した社会を率いる優れた指導者、せめて、統合を目指す指導者が必要だ。

FT JULY 16, 2016

Turkey slips into the chaos of the Middle East

David Gardner

イスタンブールのボスポラス海峡にかかる橋が、フランスのニースにおけるテロに対する犠牲者への連帯を示すため、フランス国旗の3色にライトアップされた。

その後、突然。部隊が動いて橋を占拠した。エルドアンRecep Tayyip Erdoganによるネオ・イスラム主義への緩やかな傾斜を止め、前世紀のアタチュルクによる政教分離を回復するという目的で、クーデタが試みられた。

兵士と戦車がテレビ局、空港、橋を占拠した。国営放送は停止し、ジェット機の爆音が上空で響いた。エルドアンは首相を3期務め、今は大統領になっている。反体制の新聞社や放送局を閉鎖し、ジャーナリストを投獄し、ソーシャル・メディアを弾圧した。エルドアンは、トルコを近代化すると同時に、新オスマントルコの権威主義体制を復活し、自分を現代のスルタンにしている。

独裁者の感覚で、フランス式の憲法を目指すエルドアンは、制約されないルールを持つ大統領府の権限を拡大する。しかし、2002年以来、10度の選挙を勝っている。軍の反乱には、群衆に呼び掛けた。

エルドアンの目覚ましい成功の理由は、1つには、繰り返されたクーデタによりリベラルと左派が政治文化として消滅し、この強力な軍人たちに対抗するため、穏健なイスラム主義の正義発展党(AKP)が組織され、国民に支持された、という事情があった。

AKPが選挙で2度目の勝利を得た2007年、軍はAKPを禁止しようとした。しかし、逆に政府による軍の粛正を招いた。エルドアンは、イスラム教の聖職者ギュレンFethullah Gulenに従う警察、検察、スパイを使って軍を粛清したが、軍の法廷がますます装飾された証拠で固められる一方、2013年、ギュレンの支持者はエルドアンの仲間にも腐敗追及の対象を向けた。このイスラム主義者内の紛争が諸機関を巻き込んで激化し、軍は再び権力を得た。政府の見方では、このクーデタはギュレン派が「二重国家」としてクーデタを試みたものだ。

トルコは、最近まで、シリアへの兵士や武器を供給するジハード主義者のパイプラインとして機能してきた。しかし、ISISはクルド人の舞台やエルドアン政府に対して、テロ攻撃を行った。エルドアンはクルド人、ギュレン派、ISISに対する対応に忙殺されている。軍や秘密警察が弱まることは、NATO加盟国として、中東のカオスをヨーロッパと分けていたトルコの力を損なうだろう。

NYT JULY 16, 2016

The Counter-Coup in Turkey

By THE EDITORIAL BOARD

NYT JULY 16, 2016

Turkey’s Coup That Wasn’t

Roger Cohen

愚かな試みであった。政治権力を掌握することなく、指導者が参加することもなく、情報戦略もなく、軍隊内部や社会における決定的な多数を動員することもなかった。

司令官たちは、明らかに、分極化し、不満を持つ社会が、彼らのクーデタに呼応する、と信じていたのだろう。彼らは間違っていた。しかし、エルドアンのトルコでは、社会の暴力的傾向と不安定性に対する権力強化が結び付いている。

最後のクーデタから35年が過ぎ、1997年の軍の介入からも20年が過ぎた。トルコ人は、軍と民間政府とがシーソーのように権力を争った1960年から1980年のトルコに戻りたいと思わないのだ。たとえエルドアンに不満があっても、主要政党も、国民も、クーデタを支持することはない。

もしクーデタが成功していたら、それは惨事となっただろう。エルドアンへの支持はアナトリアで、宗教的な保守派の間に特に強い。トルコ中のモスクが、エルドアンの呼びかけに応じて、一晩中、ライトアップし、民衆が街頭で政府を支持するように促した。いかなる軍事政権も、シリアのように、イスラム主義者たちの抵抗に直面しただろう。中東における最後の民主主義の拠点は大きな打撃を受け、法の支配は無視されただろう。

オバマ大統領とケリー国務長官が、トルコのすべての党派に、民主的な選挙で成立したトルコ政府を支持し、自制心を示して流血の暴力を避けるべきだ、と表明した。

ただし、「自制心」などという言葉はエルドアンにとって意味がない、という問題がある。このクーデタ事件を、社会の分裂を緩和するような機会とするより、エルドアンは全く逆のことをするだろう。敵対者への追及、表現やその他の自由の制限、である。そして権力を一層強化する。すでに数時間内で、2800人以上の軍人、2745人の判事を解任した。

エルドアンが生き延びたことは、最小の悪で事態を抑えたことになった。しかし、一層の悪化が起きないとは言えない。クーデタの失敗は、民主主義の勝利ではない。

NYT JULY 16, 2016

A Night at the Coup

By KAYA GENC

FP JULY 16, 2016

Why Turkey’s Coup d’État Failed

BY EDWARD LUTTWAK

FP JULY 16, 2016

Failed Coup Could Upend Turkish Military

BY PAUL MCLEARY

FP JULY 16, 2016

Turkey’s Failed Coup Prompts Fears of an Erdogan Power Grab

BY JOHN HUDSON

The Guardian, Sunday 17 July 2016

Turkey has defeated a coup – and unleashed a violent mob

Alev Scott

中産階級の、世俗的な居住区域では、人々が自宅でニュースを見守り、恐怖と混乱が支配的であった。2013年のGezi Parkにおける抵抗運動を、政治変化の兆しと見て支持したような、窓辺に出て鍋を叩く光景は一切見られなかった。

対照的に、エルドアンの与党であるAKPの支持者たちは強い反応を示した。彼らは命がけで戦車を阻止した。エルドアンの名を叫ぶ熱狂的な支持者たちが、兵士たちの入った空港に殺到して、包囲した。

トルコ人の意志は、過去の時代を特徴づけた暴力的なクーデタを拒んだ。しかし、反クーデタの群衆は、さらに醜悪な性格を示した。兵士たちの多くは10代の徴集兵であった。彼らは明らかに訓練の一環と考えていたのだ。群衆は、その若い兵士たちを取り囲み、殴打し、衣類をはぎ取り、リンチした、という報告もあった。

こうした暴力的なモッブが「民主主義の守護者」として大統領に認められる時代に、われわれは生きている。

The Guardian, Sunday 17 July 2016

The Guardian view on Turkey: beware an elected dictatorship

Editorial

FT JULY 17, 2016

Further repression will worsen Turkey’s situation

Project Syndicate JUL 17, 2016

Turkey’s Baffling Coup

DANI RODRIK

トルコの軍事クーデタには、成功してもしなくても、予測されるパターンがあった。政治集団、典型的にはイスラム主義者、が権力を増大し、アタチュルクの政教分離に反するものと軍隊によってとみなされる。緊張が高まって、しばしば街頭で暴力的な衝突が起きる。そして軍隊が介入し、憲法の認める権限において秩序を回復し、世俗化の原則を確認する、と主張する。

今回のクーデタは非常に異なった。

一連の偽装裁判による世俗派軍人の追放により、エルドアンは、軍隊のヒエラルキーにおけるトップを自分の支持者に入れ替えていた。テロ攻撃が続き、経済が悪化しても、軍内部に不穏な動きやエルドアンへの反対は見られなかった。逆に、エルドアンが最近、ロシアやイスラエルと和解したことは、明らかに、シリア内戦に積極的にかかわる姿勢を後退させたものとして、支配層に歓迎されていた。

和解は、資本や観光客を呼び戻すことを望んだからだが、クーデタ未遂は投資家たちに強い懸念を与えるだろう。しかし、政治的には、エルドアンの権力が強化される。権威主義体制はさらに進み、トルコ民主主義にとって良いことは何もない。

クーデタが成功していたら、民主主義の見通しはさらに大きく損なわれ、長期にわたる影響を及ぼしただろう。その意味では、喜ばしいことだった。

NYT JULY 17, 2016

Is It Time to Celebrate Democracy in Turkey?

By MUSTAFA AKYOL

FP JULY 17, 2016

In Coup’s Aftermath, New Rifts Between U.S. and Turkey

BY YOCHI DREAZEN

FT July 18, 2016

Botched coup casts shadow over Turkey

Peter Westmacott

FT July 18, 2016

Turkey must seek accord, not reprisals

SPIEGEL ONLINE 07/18/2016

Public Enemy No. 1

A Visit with Fethullah Gülen, Erdogan's Chief Adversary

By Veit Medick and Roland Nelles

Project Syndicate JUL 18, 2016

The Strategic Consequences of Turkey’s Failed Coup

SINAN ÜLGEN

FP JULY 18, 2016

Turkey and NATO: What Comes Next Is Messy

BY JAMES STAVRIDIS

Bloomberg JULY 18, 2016

Failed Turkish Coup Holds Lessons for Putin

Leonid Bershidsky

プーチンは何を学んだか? エルドアンに比べて、プーチンは軍との友好関係を築き、軍の拡大に努めてきた。プーチンはロシア政治を作り替え、実質的に、単一政党による民主主義である。エルドアンの支持率52%に対して、プーチンの支持率は80%だ。反対勢力は残っていない。

FP JULY 18, 2016

America’s Nukes Aren’t Safe in Turkey Anymore

BY JEFFREY LEWIS

FP JULY 19, 2016

If the Turkish Coup Had Succeeded, Would Washington Have Played Along?

BY NICK DANFORTH

FP JULY 19, 2016

The Purge After the Coup

BY ZIA WEISE

YaleGlobal, 19 July 2016

A Coup Is Foiled in Turkey, What Next?

Marc Grossman

クーデタ失敗後のトルコは、国内社会の和解、特にクルド人との和解、と外交における方針転換、特にISISとの国際戦線、が必要だ。

FT July 20, 2016

After the coup, Turkey is losing its checks and balances

David Gardner

NYT JULY 20, 2016

Trump and the Sultan

Thomas L. Friedman

トルコはクリーブランドからはるかに遠い。クリーブランドで共和党大会が開かれ、党の大統領候補を決めている。しかし、私はエルドアンに対するクーデタの失敗を研究するよう求めるだろう。アメリカはトルコではないが、エルドアンとトランプは、その個性や政治戦略の点で、よく似ている。

トルコで起きたドラマは、ある国で指導者が政敵たちをすべて悪魔とみなし、異常な陰謀論を騒ぎ立てて、彼だけが本当の男であり、この国を再び偉大な国にする、と主張して自分の権力を確立した場合、成功していた国がどのような破滅的経路に向かうかを示した。

エルドアンは、2003年から2014年まで首相を務めた後、名目的な大統領の地位について、権力を大統領に集中させた。私はワシントン・ポストのエチケットに関する批評家Miss Mannersに尋ねてみたい。「悪者たちに悪いことが起きたときは、どのように対応するのが正しいのか?

エルドアンは、何年もかけて、静かにトルコの民主主義を転覆するクーデタを進めてきた。すなわち、記者たちを投獄し、巨額の税を課して敵対者を弱め、クルド人との内戦を再開して、自分が権力集中を行うことの正当化に利用した。彼は、死ぬまで、現代のスルタンでありたいのだ。

私はクーデタが失敗したことを喜ぶ。特に、どれほどエルドアンの専制支配に強く反対しても、トルコの民主主義を守るために、民衆が軍の陰謀に反対するため街頭で抗議した。彼らが民主主義の感覚を集団として示したことに感動した。

クーデタの翌日に、エルドアンは2745人の判事や検察官を追放した。わずか1日で、彼は追放するべき人物を特定したのか? クーデタの前から、敵対者のリストを準備していたのか? さらに、1500人の大学講師、21000人の教員免許を停止し、35000人の軍・治安・裁判関係者を「クーデタ支持者の粛正」に加えた。

これは悲劇である。エルドアンは、最初の5年間、トルコ経済を高め、中産階級の地位を高めた、傑出した指導者であった。しかし、その後は、彼を支持するイスラム教徒の忠誠を、他の世俗の批判者と分断し、社会対立を煽った。

彼の支持者たちはエルドアンの権力と自分たちの尊厳を同一視しているから、彼が何を言い、何をしても、政治的な代償を支払うことがない。敵対者の脅威を唱えるだけで、彼はいつでも支持者たちを動員できる。

これはトランプの戦術と同じである。トランプは産業規模で事実や数字をねつ造している。繰り返し陰謀論をまき散らす。どのような失敗を犯しても、敵対者を持ち出して支持者の忠誠心を高めている。事実をチェックするマスメディアを回避して、ソーシャル・メディアを使ってニュースにする。妻がオバマ夫人の演説を盗用しても、彼や家族の周りに集まる人々をスターにできる。

もしトランプが当選すれば、アメリカがどうなるか、ジェブ・ブッシュは予言した。「カオスの候補者」が「カオスの大統領」になるだろう。アメリカ人は繰り返し街頭に出て政府に抗議するだろう。重要な問題にも嘘をつく男に従わない。大統領として何も準備しない、陰謀論で支持者を集める、未来を恐れさせる男に従わないだろう。

トルコで今起きていることを好むなら、あなたはトランプのアメリカを愛するだろう。

The Guardian, Thursday 21 July 2016

The Guardian view on the week in Turkey: coup – and counter-coup?

Editorial

FT July 22, 2016

Turkey faces risk of institutional collapse

FT July 22, 2016

Anger and paranoia grip Turkey after the coup attempt

Elif Shafak


l  キューバ

NYT JULY 15, 2016

Cuba, a Country Frozen in Time

By CARLOS MANUEL ÁLVAREZ


l  Brexit政権

The Guardian, Sunday 17 July 2016

Why Brexit may be a deadly experiment for science

Will Hutton

Brexitは、イギリスの主要な輸出産業である、科学的調査のサービスに大きな打撃となるだろう。EUからの科学研究に対する補助金は失われ、研究者たちの移動がむつかしくなるだけでなく、主要な企業はイギリスを去るからだ。

FT July 18, 2016

How to make Brexit manageable

Wolfgang Münchau

NYT JULY 19, 2016

Theresa May’s Shock Therapy

Matthew D’Ancona

イギリスの議院内閣制は上品な野蛮さを持っている。デービッド・キャメロンは去り、テレサ・メイが首相官邸に入った。この制度では、権限は政党に発しており、個人ではない。

メイは、移民を減らすと約束する党内右派に属すだけでなく、同性婚や人種間の平等を支持する、保守党の基盤を拡大する「近代化論者」である。首相争いでは、オズボーン蔵相や、ボリス・ジョンソン前ロンドン市長が離脱した後、メイが容易に勝利した。

メイは容赦なく前政権の閣僚を切り捨てた。こうしたメイの指名における野蛮さは、首相が現状維持ではなく、ラディカルな変化を示そうとしたからだ。システムにショックを与えようとした。

メイ首相は、デマゴーグでも、手柄を自慢する人でもない。イデオローグではなく、テクノクラートであり、実際的な政治家だ。

NYT JULY 19, 2016

Theresa May’s Vision of a Radical British Conservatism

By STEVEN DAVIDOFF SOLOMON

Project Syndicate JUL 21, 2016

Britain in Search of a Country

CHRIS PATTEN

Project Syndicate JUL 21, 2016

Deserting the Battle for Britain

KEVIN HJORTSHØJ O'ROURKE

残留派がイギリスの未来を諦めているように見えるのは残念だ。しかも、イギリスにはヨーロッパ人が多すぎる、という離脱派の主張を信じているのはもっと残念だ。

単一市場からも離脱するハードBrexitは、ソフトBrexitより、はるかに危険で有害である。


l  建設的ポピュリズム

FT July 17, 2016

Leaders must make the case for globalisation

Gordon Brown

FT July 20, 2016

Global elites must heed the warning of populist rage

Martin Wolf

「複雑な問題にはすべて、明快で、単純で、しかも間違った答えがある。」と、現代政治についてHL Menckenなら考えるだろう。西側世界は疑いなく複雑な問題に直面している。特に、多くの市民たちが示す不満だ。トランプやル・ペンが示す答えは、ナショナリズム、ネイティビズム、プロテクショニズムである。

それらは偽物だ。しかし病気は本物だ。エリートたちは確かな治療法を示せない。問題を解決できなければ、民主的な自治と、開放的な、協力的世界秩序とを結びつける努力が見捨てられるだろう。

この反動の原因は、もっぱら経済にある。豊かさが高まることは、それ自体で、良いことだ。しかし、それは合計がプラスになる政治をもたらす可能性があるからだ。経済的、社会的な混乱に苦しむ人々が和解するように、すべての人々の生活が改善するとき、民主主義は機能する。それができないとき、憤慨が生じる。

The McKinsey Global Instituteが発表した報告Poorer than their Parents?は、人々が不満を感じるときについて、明確な調査結果を示している。2005年から2014年に、25の高所得経済が、実質所得の停滞や減少に苦しんでいる。家計の65%から70%がそれにあたる。他方、1993年から2005年までは、再分配政策により、実質所得の停滞や減少で苦しむ家計はわずか2%でしかなかった。

McKinseyによれば、人々の不満は、同じ世代の富裕層に対する格差より、過去の同じような世代に比べて所得が増えているかどうか、ということに依存する。

実質所得が長期停滞している原因は、金融危機とその後の回復が遅いことだ。ほかにも、高齢化や賃金シェアの減少がある。また、グローバリゼーションの結果として、文化が変化していることにも人々は不安を感じている。豊かな諸国の市民は、自分たちの市民権を最も価値のある資産とみなす。そして、他者と分け合うことを嫌う。

では、何をするべきなのか? 第1に、繁栄は互いに依存しあっている、ということを理解する。主権の強調は、グローバルな協力とバランスさせる必要がある。グローバル・ガバナンスは、不可欠の、自国では解決できないような問題について行うことだ。すなわち、貿易や資本移動を自由化するより、気候変動の抑制といった公共財を重視する。

2に、資本主義を改革する。金融の役割は肥大化している。金融システムを安定化するべきだ。株主以外の利害関係者についても、その意見を企業経営にもっと反映するのが良い。

3に、国内の重要な目標を政府が達成することに役立つような、国際協力を重視するべきだ。特に課税面だ。正当な民主主義によって治安を守られている資産保有者が、課税を回避するべきではない。

4に、経済成長を高め、人々の機会を増やすべきだ。特にユーロ圏では総需要を増やす。しかし、それだけでなく、投資や革新を促し、経済の見通しを改善する。最低賃金の引き上げや税制を通じて、底辺層の所得を改善することも重要だ。

5に、謬見を否定する。先進経済に流入する未熟練労働者の圧力は強いが、賃金構造を変えるほどではない。保護主義で製造業の雇用を増やすことはできない。

経済停滞が長引き、文化が混乱し、政策が失敗し続ければ、民主主義とグローバルな秩序のバランスが失われる。

Project Syndicate JUL 20, 2016

The Case for Constructive Populism

KEMAL DERVIŞ

エスタブリッシュメントの政治に対する反発。専門家たちの失敗。左派の消滅。・・・Brexitやトランプは多くの人々に警鐘となった。

元アメリカ財務長官、ハーヴァード大学学長のラリー・サマーズが、しばしば好戦的で、反移民、保護主義を宣伝する右派のポピュリズムに対抗して、「責任あるナショナリズム」を要請した。それは市民たちの経済的福祉を最優先する。同時に、そのことが他国の市民の利害を損なうことも理解している。国際合意を、規制の調和や、障壁の解体としてではなく、市民たちの力を高める手段として評価する。

グローバリゼーションは世界経済に全体として大きな利益をもたらすが、直接にも、間接的にも、勝者は敗者に対して補償することがない。さらに、勝者ははるかに少ない。政策も、勝者の影響を受けて決めており、全体の利益に従うものとは程遠い。

しかし、こうした意見では、ネイティビズムや攻撃的なナショナリズム、矛盾した政治スローガンの圧力により、穏健派を政治から排除してしまう。絶叫し、短いメッセージをSNSで送るアイデンティティ政治の扇動者が、グローバルな人間社会を信じ、利益を共有する人々を背後から攻撃し、防戦を強いられる。

ポピュリストたちに対してこうした反撃をするのはむつかしい。穏健派には優れた経済分析や意味のある政策提案がある。しかし、論争やボディ・ランゲージにおいては、専門家の話に支持が広まるより、あくびが起こるだろう。

今、非常に求められているのは、穏健で、人道的で、グローバルな、「建設的ポピュリズム」である。それは、過激な主張に対抗し、複雑な数学的モデルを使わず、多数の人が同調できるシンプルな、しかも強力なアイデアを示す、ということだ。1930年代のフランクリン・ルーズベルトや、ヨーロッパ共同体の創設者たちがそうだった。

平和を維持するための不断の警戒が重要だ、という政治的メッセージを再発見しなければならない。しかも、具体的な形で。世界のリベラルな民主主義は3つの構成要素にある。1.強固な防衛力と知的な能力がある。2.共通の基礎を見出して敵と味方とを交渉させる正当性。3.民主的価値や人権を共有し、そのような価値観の周りに長期の同盟関係や友好関係を構築すること。

短期的な懸念や他の利害で、こうした原則を損なってはならない。建設的ポピュリズムは、決してシニカルな姿勢を取らない。それは現実的で、状況に応じて変化しながらも、徐々に進歩が起きることを知らねばならない。

市場が機能するのは、すべての利害に対して配慮した規制が行われるとき、生産的な資産が公共支出によって創り出され、しかも公的債務は抑制されているとき、成長の果実を広く共有するという意味で経済のパフォーマンスが測定されるときだけである。

建設的ポピュリズムは、単純で、正確で、真剣である。

Project Syndicate JUL 20, 2016

Poor Leadership Makes Bad Globalization

JORGE G. CASTAÑEDA

NYT JULY 21, 2016

The West’s Crisis of Leadership

Sylvie Kauffmann

バスティール・デイ(フランス革命記念日)にニースでテロ攻撃が起きる数日前、オバマ大統領はワルシャワのNATOサミットに出席していた。しかし明らかに、彼の心はダラスにあったようだ。79日に、最後の記者会見で大統領の話を聴いたとき、その悲しい、疲れた、ほとんど敗北主義ともいえる話し方に、強い衝撃を受けた。世界最強の国民を指導する大統領が、アメリカ社会内部の分断について説明したときだ。「これはわれわれがどういう人間かを示すものではない。」 あたかも自分を確信させようと試みているかのように、彼は主張した。


(後半へ続く)