IPEの果樹園2016
今週のReview
7/18-23
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Brexit後の変貌 ・・・アメリカ大統領選挙 ・・・イスラム国家 ・・・南シナ海と国際法 ・・・ドイツの経常収支黒字 ・・・グローバリゼーションと左派 ・・・ファシズムが来る ・・・メイ首相の誕生 ・・・保護主義の広がり
[長いReview]
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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
l Brexit後の変貌
Project
Syndicate JUL 8, 2016
Defusing
Migration
PETER SUTHERLAND
たとえ欠陥はあるとしても,半世紀にわたってヨーロッパの平和と安定とを促してきたEUという有意なプロジェクトを,イギリスの有権者が離脱するとは,考えもしなかった.
Brexitの勝利は,理性に対する不安の勝利である.「離脱派」は,不正直かつ無慈悲に,支配エリートに対する大衆の不信感,エリートの利益を実現するために起きた,不平等の増大,急激な社会変化に関する大衆の不満を,利用したのだ.反移民キャンペーンにおいて,離脱派とタブロイド紙は協力して,移民の影響についての歪曲された事実や真っ赤なウソを広めた.
この傾向は発展した諸国に広く見られる.ポピュリストの政治宣伝が,移民は国民の資源を枯渇させる,移民は国家主権を脅かす,と主張し続けている.支配権を回復するには,ハッチを閉めて,国際的な同盟を破棄し,国境の内側に退くことだ,と主張する.ヨーロッパの難民危機は,その間違った印象を強めた.
真実はそうではない.移民のせいで財政赤字を垂れ流すのではなく,高齢化する受け入れ社会にダイナミズムを注入しているのだ.移民の統合化は困難な挑戦であるけれど,達成可能ものである.
EUはその制度のシッパイに苦しんでいるというより,加盟諸国の多くが移民を正しく扱おうとしないのだ.欧州委員会の示す政策はむしろ適切なものであった.特に,ドイツやスウェーデンは積極的に応じた.
世界には2500万人が自国の外に逃れて暮らしている.6500万人が紛争や災害,その他の悲惨な条件から逃れて難民となっている.今年ヨーロッパに来るのは22万7000人程度である.阻止レ3000人近くが地中海で水死した.
人道的な危機に対して,豊かな諸国の多くはその義務を果たそうとしない.彼らの再定住を受け入れるという約束さえ果たさない.だれも,無際限な移民流入を認めろとは主張していない.移民を支持する者は,難民たちを保護し,合法的な諸過程を明確に示すことで,人々の管理された移動が容易になる,と主張しているのだ.例えば,ドイツでは難民の統合化を助ける言語と職業の訓練が行われるし,カナダでは民間のスポンサーシップで新移民を受け入れている.
移民に対する初期の投資は,わずか5年で,回収できるだろう.それは新移民たちによる経済活動から税収が増えるからだ.そのためにも,彼らが合法的に雇用され,活動できなければならない.
これらの複雑な問題に取り組む,新しい大胆な指導力が求められている.有権者を説得し,ますます多くの国が内向きになるのを止めるべきだ.この意味で,旅行やインターネットを通じて,外の世界と容易にアクセスできる環境で育った新しい若者たちは文化の多様性を受け入れ,その多くがEUを支持している.
NYT JULY
12, 2016
England’s
Last Gasp of Empire
By BEN JUDAH
エリザベス1世からエリザベス2世まで、イングランドは帝国だった。もはやそうではない。
エリザベス1世が1588年に王位に就いてから、彼女の冒険商人たちは帝国を探求した。エリザベス2世が生まれたときまでに、それは地球の4分の1近くにまで広がった。
Brexitが広めた、栄光を再現するという幻想、“taking back control”は、その逆のことを実現する。スコットランドはイングランドとの同盟から離脱するだろう。北アイルランドの地位も疑わしい。
この小さくなったイングランドが、ウィンストン・チャーチルによって確保された、国連の安保理常任理事国として拒否権を持つことが維持できるだろうか? 大国は、イギリスが彼らの要求を拒否することなど許さない。
イングランドがEU離脱を選択した理由は、エスニックの変化、であった。
「ここはもはやイングランドではない」と、国民投票の取材で国中を旅する私に多くの人が述べた。「私たちはもはや自分の国とは思わない。」
その理由は、移民だ。イングランド中部で、移民、とは、非白人のイギリス人を意味する。財政緊縮策より、移民が、彼らの離脱を選ばせた。
エリザベス2世が王位に就いた1953年に、イギリスの非白人人口は2万人しかいなかっただろう。ロンドンは非常に世界市民的な首都であったが、それでも1931年に、外国生まれの人口は3%でしかなかった。
離脱派は、イギリスがドイツの独裁に目に見えない形で従っている、と宣伝した。多くの人々がEUから移民の流れが押し寄せると考えていた。トルコの加盟は避けられない、と。郊外の住民たちは(移民の)暴力を恐れたのだ。それは表面には表れないが、数世紀に及ぶブリティッシュの本質を失ったことへの怒りであった。帝国、教会、海軍、階級。
彼らの夢想と病的なノスタルジーが、グレイト・ブリテンの最後の痕跡を引き裂いた。
l アメリカ大統領選挙
NYT JULY
13, 2016
The
(G.O.P.) Party’s Over
Thomas L. Friedman
単一政党の専制国家より悪いものが1つだけあるとしたら、それは単一政党の民主国家だ。なぜなら、前者は少なくとも事態を秩序に従って処理できるから。他方、後者は、ますます近年のアメリカが示す傾向であるが、大きなこと、難しいこと、重要なことは、何も実行できない。
私はヒラリー・クリントンが50州のすべてで勝利し、そして民主党が大統領、下院、乗員、さらに実質的に最高裁を取ることを望む。トランプが単に大統領にならないだけでなく、投票で粉砕されることがアメリカにとって良いことであるからだ。
第1に、クリントンが圧勝すれば、われわれは常識的な銃規制法案を成立させることができる。また、1000億ドルをほぼゼロの金利で借りて、政府はインフラを再建できる。それはブルーカラー労働者の雇用を増やし、アメリカの成長を刺激する。
クリントンが圧勝すれば、歳入に中立的な炭素税を導入できる。オバマケアの問題点を改善できる。同時に、トランプが共和党の大統領候補指名争いで示したような選挙運動を、すなわち、州流派を軽蔑し、対立候補を侮辱し、女性・身体障碍者・ラテン系住民・イスラム教徒を蔑視し、ヘイト・グループを蔓延させ、憲法を無視し、好んで嘘をつき、かつて大統領候補争いで見たことがないような醜悪な材料を持ち込んだことについて、2度とだれもすべきでない、と示せる。
最後に、トランプが政府のすべての分野で共和党の惨敗を示すことで、共和党自身が生まれ変わる必要を認めるだろう。
アメリカは安定した中道右派と、安定した中道左派の政党を必要とする。現在、共和党は健全な右派政党ではない。宗教的保守派、マイノリティになることを恐れ、貿易や移民を嫌い白人男性、銃規制の反対派、中絶反対派、規制反対の自由市場派小規模商店主、などの寄せ集めである。
共和党の混乱を最終的にすべて乗っ取る、外来侵略種がロナルド・トランプであった。像の風船を上げても、共和党はもはや存在しない。11月にクリントンが圧勝することで、共和党は統治と妥協を求める中道右派政党に戻るだろう。
l イスラム国家
NYT JULY
9, 2016
Is the
Islamic State Unstoppable?
By HASSAN HASSAN
支配都市や領域を減らしても、イスラム国家は衰退していない。むしろ戦術を変化させて、情勢に適応する。彼らが行う自爆テロは増加している。その犠牲者は増大している。
ISIS、イスラム国家は、イラク戦争後のアルカイダにおける分派闘争から、独立してカリフ国家の宣言を経て、アルカイダを超える影響力を持つようになった。彼らの目標は、世界の聖戦を指導することだ。12世紀に十字軍に勝利したイスラム聖戦主義の戦略書を採用している。
イラク政府やシリア内戦が、今もスンニ派を弾圧している以上、イスラム国家に向かう兵士たちは減少せず、彼らが行う自爆テロ攻撃は増大し続ける。
l 南シナ海と国際法
Project
Syndicate JUL 12, 2016
The South
China Sea Is Not China’s
GARETH EVANS
ハーグの常設仲裁裁判所(PCA)が、南シナ海における中国の行為にフィリピンが訴えた件で、国連海洋法条約the United Nations Convention on the Law of the Sea (UNCLOS)を適用した判決を下した。中国が自国の湖とみなす行為を、予想以上に強い言葉で否定したのだ。
土地がなければ、領海もEEZ(排他的経済圏)もない。中国が主張するような南シナ海への主権や監視活動、軍事施設などの建設も認めない。
中国政府が島や環礁、岩礁の占拠を放棄することはないだろう。南シナ海への主権を主張することもやめないだろう。しかし、中国がその面目を失わないような形で何らかの行動を取るように促すことが、地域の安定化にとって重要だ。
たとえば、中国がthe Spratlysの人工島に軍事施設を建設することを中止する。紛争地域the Scarborough
Shoalで新しい主権を主張しない。「九断線」による要求を主権と結びつけない。そしてASEANの行動規範に従い、交渉に応じる。
逆に、中国が主張をエスカレートさせるかもしれない。UNCLOSを無視して、排他的な航空識別圏(ADIZ)を主張する。それはアメリカが無視しているが、軍事的衝突の危険が高まる。
Bloomberg
JULY 14, 2016
International
Law Isn't Quite Law, But It's No Joke
Noah Feldman
国際法はジョークなのか? そうだ、とも言えるし、そうでない、とも言える。
国際法は、強制力を行使する主権国家の命令ではない。通常、その条文や判断に国家を従わせることはできない。その点が、国内法と異なる。
しかし、国際法は重要だ。中国が国連海洋法に違反している、という判決は、世界の他の諸国が中国の軍事的な拡大について考えていることを示す、一種の早期警報として機能する。それはフィリピンだけでなく、中国と太平洋で利害が衝突している他の諸国、そして彼らに安全保障を提供するアメリカにとって有益である。
矛盾することだが、この判決は中国にとっても役に立つ。この判決は、中国が、地域的な拡大が合法化できない、と理解するのに役立つだろう。それでもおそらく中国は拡大をやめないだろう。しかし、そのことがもたらす抵抗について、中国指導部は明確なイメージを持っただろう。抵抗は彼らに大きなコストをもたらす。
好ましくない国際法廷の判決を無視するのは、中国だけではない。1986年、アメリカは、反政府ゲリラへの資金提供に関して、ニカラグア政府による国際法廷への告発と審議に加わるのを拒否した。アメリカ政府は法廷を認めず、敗北しても、その判決を無視した。
超大国に無視されても、国際法廷の権威は失われなかった。判決には限界がある、ということだ。アメリカは国際的な行動を非合法化されることはなかった。アメリカは非常に重要な国であり、国際法廷を無視しても、それに見合うような強い制裁を受けることはなかった。
中国も同様である。中国が判決を無視しても、より広範な国際法のゲームから中国を追放することはない。中国は、さまざまな国際機関に属しており、国際法違反を批判するとしても、システムから追放することは無益である。
中国が主張する主権や、人工島の建設は、違法であると繰り返し主張されるだろう。「九断線」が最初に現れたのは、1947年、中間民国政府によるものであって、アメリカとも問題にならなかった。しかし今は、中国による広範な主権の要求が紛争になっている。今後も、近隣諸国とアメリカからの反対は、弱まることがない、と知ることになった。
こうした情報を国際法廷が与えたことは、それがなかった場合を考えると、意味のあることだ。すなわち、中国からの好戦的な主張に、他国の好戦的な反発が生じ、それはすべての関係諸国に損害をもたらし、偶発的に、軍事衝突も起きかねない。
国際法とは、軍事力行使の枠外で、情報交換するメカニズムである。長々と話し合うことは、銃撃するより良いことだ。
l ドイツの経常収支黒字
FT July 10,
2016
The German
balance of payments quandary
Gavyn Davies
ドイツの経常収支黒字は、昨年、記録的な水準に達した。2860億ドル、GDPの8.5%である。それは中国の黒字を抜いて、世界最大である。「危機」というのは、通常、貿易赤字国について言われるが、この不均衡は明らかにユーロ圏にとって、また、世界経済にとって重大な頭痛の種である。
黒字はドイツにも問題である。しかし、メルケル政権はドイツの伝統的な立場を継承して、それを経済的な成功のしるしとみなす。そのため、IMFと欧州委員会がドイツに黒字を減らすように求めても、聞こうとしない。
東ドイツを吸収した1990年代には、わずかに赤字であった。しかし、それ以降、黒字が続いている。2000年代に入ってユーロ圏内の黒字が増えたが、それはドイツの労働市場改革と、ユーロ圏周辺部で持続不可能なブームが起きたからだ。
ユーロ危機の後は、ユーロ圏内ではなく、世界の他の部分との間で黒字を出した。2015年に黒字が記録的な水準に達したのは、石油価格の下落と、ユーロ安が重なったからだ。ドイツは、それらを一時的な要因、という。
しかし、黒字を国民所得統計で見れば、国内投資と国内貯蓄との差である。それは非常に高い民間貯蓄率(高齢化)と、非常に低い民間投資率(外国に比べてドイツの成長率が低い)によって生じている。それが永続化している。
世界経済で見れば、Paul Krugman and Ben Bernankeのような新ケインズ主義者によれば、ドイツの黒字がその他の世界から総需要を奪っている。世界の総需要が不足しているなら、金利を下げ、ドイツの為替レートが増価することで、その黒字を調整すればよい。しかし世界の金利水準がゼロに近く、ドイツの為替レートはドイツ・マルクではなくユーロとして変動するから、ドイツの黒字はなかなか調整できないのだ。世界の長期停滞を促す要因となってしまう。
IMFは、ドイツの実質為替レートが15-20%も過小評価である、と考えている。
ユーロ圏内の問題としてみれば、ドイツは黒字を貿易部門の競争力が高い結果とみなしている。それゆえ解消すべきゆがみではない。その意味では、他のユーロ圏諸国がドイツの模範に従って労働市場を改革し、経済再編を行うことで、その赤字を是正する責任があるのだ。それは、ある程度、機能している。2006年以来、ドイツのユーロ圏内の黒字は半減した。スペインやイタリアは黒字になった。
しかし、2つ問題がある。第1に、均衡化のために内需(GDP)の成長率は非常に低く維持されている。それはドイツからの輸入を抑制するように、ユーロ圏全体が非常に低い成長率を維持することを意味する。均衡化のために、ユーロ圏の完全雇用は達成できなくなっている。こうした状態をヨーロッパの有権者たちは我慢しないだろう。
第2に、ユーロ圏内の貿易不均衡を融資する方法が問題だ。それは「健全な」民間資本移動によるのではなく、ECBの勘定間で、公的な資本が移転されている。Target
2 と呼ばれる仕組みだが、そこでドイツ連銀はECBに対して資産を累積している。他方、イタリアやスペインの中央銀行はECBに債務を累積している。
もしユーロ圏が解体するなら、ドイツ連銀はTarget
2 の資産の潜在的なデフォルトを心配しなければならない。それは非常に巨額であり、6000億ユーロに達する。すでにドイツ国内で政治問題といなっている。最近では、貿易不均衡が縮小しているのに、ユーロ圏周辺部からドイツに向けた資本移動が増えて、この不均衡を増大させている。
ドイツは、どうすればよいのか? IMFと欧州委員会は、ドイツに対外黒字の縮小策を求めている。すなわち、政府のインフラ投資を増やす、労働供給を増やす改革で長期成長率を高め、民間投資増やす、年金改革で民間貯蓄率を下げる、サービス部門の規制緩和で生産性を高める、他のユーロ圏諸国よりも急速に賃金を上昇させる。
しかし、ドイツはこうした診断を信じていない。
l グローバリゼーションと左派
Project
Syndicate JUL 11, 2016
The
Abdication of the Left
DANI RODRIK
エコノミストと政策担当者は、現在のグローバリゼーションがもつ政治的な脆弱さを著しく過小評価していた。各地に起きている大衆的な反抗には共通した面がある。ローカルな、ナショナルなアイデンティティを求め、民主的な支配と説明責任を求め、中道の主要政党を拒み、エリートや専門家を信用しない。
市場の規制、安定化、正当化を行う制度を超えて経済グローバリゼーションを進める結果についての警告はなされていた。継ぎ目のない世界市場統合を目指すハイパー・グローバリゼーションは国内社会を破壊していた。
問題は、なぜ右派が政治的に支配するようになるか、だ。
グローバリゼーションの新しいコンセンサスが現れた。グローバル市場の機会を利用できる資源とスキルを持つ者と、持たざる者との間で、階級分化が進む、というものだ。階級の分断は、アイデンティティによる分断よりも、伝統的に、政治的な左派を強くした。
左派がグローバリゼーションに対して無力であるのは、移民問題への注目というより、左派が資本主義やグローバリゼーションを改造する明確なプログラムを示さない、示す能力を欠いていたことが原因である。実際、貿易や外国投資の衝撃を受けたラテンアメリカは、左派のポピュリズムが政治的に強化された。EUやIMFによって財政緊縮を強いられた、同じような政治文化を持つギリシャ、スペインでも、右派ではなく、新しい左派勢力が登場した。
左派のエコノミストやテクノクラートは、安易な形で、市場原理主義の批判に熱中した。それどころか、1980年代後半から1990年代初め、特に、短期も含めて、国際資本移動の自由化を推進したのは、フランス社会党やアメリカの民主党のケインズ主義エコノミストやテクノクラートであった。彼らは、金融グローバリゼーションに対して1980年代初めのミッテランによる社会主義的実験が失敗した結果、ヨーロッパ規模、そしてグローバル規模でルールを決めることを目指したのだ。
しかし、今は違う。グローバル資本主義に対する代案が示されつつあるからだ。Anat Admati and Simon Johnsonのラディカルな金融改革、Thomas Piketty and Tony Atkinsonの不平等に対する改革メニュー、Mariana
Mazzucato and Ha-Joon Changの公共部門と包括的な革新、Joseph Stiglitz and José Antonio
Ocampoのグローバル改革案、Brad DeLong, Jeffrey Sachs, and Lawrence Summersの長期的な公共投資とグリーン・エコノミーへの移行、など。
右派は、「我ら」と「彼ら」を分断し、左派は、改革によって亀裂を埋める。それは矛盾した意味で、資本主義をそれ自身の問題から解放するのだ。
l ファシズムが来る
NYT JULY
12, 2016
Are We on
the Path to National Ruin?
David Brooks
ヨーロッパでファシズムがどうやって起きたか、私は理解できなかった。しかし、今は、それがよりよく理解できる、と思う。それは、大恐慌や、情報経済への移行のような、根本的な歴史的転換から始まるのだ。一部の人々はそれから排除され、アイデンティティ。自尊心、希望を失う。
彼らは次第に自分の価値を、その行動ではなく、特殊な仲間(部族)に求める。彼らはますます恨みを深め、自分たちの犠牲者としての意識に夢中になる。彼らの問題の原因について嘘を並べつ政治家に集まり、それを乗り越える方法について、その話を信じる。事実はその意味を失う。そして、彼らを喜ばせる言葉が、現実に代わるのだ。
事実が漂流し始めると、すべてが漂流するだろう。私的には慎み深い、親切な人々が、公的な指導者を選ぶときには、そうした性格を失う。辛辣な皮肉によって、道徳的に損なわれた派手な興行師のような人物を支持する。
そこで、おそらく、変化を加速する事件が起きる。諸社会は文化的に緊張した状態で、互いに孤立している。すなわち、孤独な、疎外された多くの若者が、暴力によって自分の価値を示したがっている。ある者は警察官のバッジを付け、ある者は大量殺人犯を理想化する。彼らが行動するとき、社会はけいれんする。
正常な状態では、悲劇が起きると国民が団結する。しかし、社会が分断による病的な状態にあるなら、そして、現実の感覚を失っているなら、反対の方向に動き出す。部族の熱狂を高める行動が続くのだ。政治は成業できなくなって、奇妙な、認識不可能な状態に、その国を陥らせる。
1930年代のヨーロッパで、こうしたことが起きたのだ。現在、アメリカはそのような状態にないが、かつてより、それに近づいた。週末のある瞬間に、各地で深淵がその口を開けたことを、私は正直に認める。
先週、街頭における殺人があった。2つの都市で警察官の暴力による殺人、そして、他の町では警官たちが殺された。アメリカの指導力はひどい状態にある。ヒラリー・クリントンはキャリアを維持するために公然と嘘をついた。ドナルド・トランプは、もちろん、良心の呵責を感じずに、絶えず嘘をついている。
政治エリートの指導力は機能せず、政治論争は事実を無視し、政党は人種によって分断されている。
l メイ首相の誕生
FT July
14, 2016
Theresa
May (and Angela Merkel) should play Brexit long
Philip Stephens
メイTheresa Mayが首相官邸に入ったことは、イギリスが完全に狂ったわけではない、という希望を与えた。
メイは可能な最善の選択肢であった。彼女は残留派であったが、選挙運動では姿を見せなかった。彼女の評価は、冷徹で有能な内務大臣として固められた。彼女は困難な選択を避けて、国境線の管理と移民ルールの執行に失敗した。しかし、内務省内の争いには生き残った。彼女はプラグマティスとであり、演技を好まない。彼女の政府はより公式的で、その態度はドイツのメルケルに近づくだろう。
Brexitの投票後、政策の空白が続いている。国民がヨーロッパから離脱することを望むのなら、また彼らがそれを変える権利もあるのか? 経済が不況に向かえば、彼らの後悔も強まるだろう。
離脱派は、ヨーロッパなど簡単に飛び越えることができると考える。ドイツは自動車を売りたいし、フランスはワインを売りたいのだから。
しかし、政治家は夢想ではなく事実と蓋然性に依拠するべきだ。40年に及ぶ政治・経済統合を解体する過程は複雑であり、コストを生じ、しばしば感情を害するだろう。その中から現れるイギリスは、経済的に弱く、国際的な関与も小さくなる。
メイが好きなセリフは、“Brexit means Brexit” である。それは保守党内の離脱派にその姿勢を確認する言葉だ。しかし、離脱後の関係がどうなるかについては何も意味しない。新首相は、単一市場へのアクセスと、移民に対する国家管理の間で、どのようにバランスを取るのか、手の内を明確に示さない。それは2つの交渉になるだろう。1つは、ビジネス界の利益と党内の小イングランド主義との衝突に関する、党内交渉であり、もう1つは、EU27か国との交渉である。
メイはBrexit派から、50条に基づく交渉をできるだけ早く開始して、不透明さを払しょくせよ、と求められる。しかし、首相はそれを無視するべきだ。多くの集団間で交渉を長くすることが、唯一の希望である。
時間をかけて、政治的に不可能であることを可能にする、受け入れがたい妥協を1年か2年かけて共通意識にすることこそ、メイが考える希望に違いない。
イギリスの都合に合わせてEUを折り曲げることはできない。メイは決定を急がず、慎重に行動するだろう。彼女は来年の選挙を考える。フランスのオランド大統領もそうだ。EU全体の移民規制を強化することは好ましいはずだ。様子を見ることが、だれにとっても有利である。
l 保護主義の広がり
Project
Syndicate JUL 13, 2016
What’s the
Problem With Protectionism?
BARRY EICHENGREEN
次の大統領が自由貿易を支持しないことはすでに明白になった。
通常であれば、保護主義は間違いである、と言えばよい。しかし経済が「流動性の罠」に陥って、ゼロ金利に近く、デフレが迫っているときに、マクロ経済の論理は無視される。保護主義が必ずしも間違いとは言えない。1930年代がそうだった。
トランプは、メキシコのフォード工場で作った自動車や部品の輸入に35%の関税を課し、中国からの輸入には45%の関税を課す、という。エコノミストは、この計画のマクロ経済的な効果は破滅的だ、と考える。自由で開放的な市場を否定すれば、信頼は失われ、投資が減少するからだ。外国も報復してアメリカからの輸入財に高い関税を課すから、輸出も減少する。
しかし、消費者にとっては好ましくないが,輸入財の価格を引き上げ、その報復によって外国市場が失われることより,物価が上昇するほうが重要かもしれない。それは投資家を元気づける。
私の主張は、デフレの下で保護主義が正しい、ということではない。なぜなら、正しい政策は別にあるからだ。それは、減税や公共投資などの、まともな財政刺激策である。
さらに、関税引き上げがデフレの悪影響を緩和するとは言え、それを有益なことと誤解してはいけない。なぜなら保護主義は、第1に、国際金融システムを機能不全にする。債務を返済するために輸出を行っていた諸国が、輸入国の保護主義で債務の返済を停止するからだ。第2に、他の公共目的に関する国際協力を積み重ねている大国間の外交が、保護主義によって敵対するようになる。
スムート=ホーリー関税は、ナチズムの台頭に反対する外交的な協力を難しくしただろう。
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The Economist July 2nd 2016
The politics of anger
Brexit fallout: Adrift
Brexit: An aggravating absence
The economic fallout: Managing chaos
Post- Brexit politics: Shifting sands
Bagehot: Brexitland versus Londonia
Central Asia: Stans undelivered
Banyan: The forest and the trees
Free exchange: The consensus crumbles
(コメント) Brexitをめぐって,さまざまな考察が展開されています.その多方面にわたる影響,経済におけるシナリオ,イギリス国内政治の再編,などが興味深いです.
中央アジアとアジアの政治経済的景観が変貌したことを考え,グローバリゼーションに関する様々な合意が変異を始めたことにも注目します.詳細は,読む価値ありです.
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IPEの想像力 7/18/16
Brexitやグローバリゼーションが人々の後悔を深めています.
ソ連とその周辺の共産主義体制が解体したとき,市場自由化と民主化によって,新しい「社会主義」に向かう可能性がある,と考えた人々はいなかったのでしょうか? おそらく,内部から共産主義体制を転換するために闘った人々の多くが,そう考えていたのではないか,と私は思います.
市場取引が活発に行われて,創意工夫で新しいビジネス機会を利用する人々が増えるのは良いでしょう.政府の政治宣伝や反政府派に対する弾圧を終わらせ,自由に権力装置や特権を握る人々を批判できるのも良いでしょう.外国からの新しい技術や情報,さまざまな文化や思想が流入して,自分たちの社会を活性化することは,「資本主義」でも「共産主義」でもありません.
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たまたま大学で知り合った先生たちと一緒に,20年前(1996年),私は中央アジアへの調査旅行に出かけました.
遠くに天山山脈が見える平原地帯を,延々とバスは走り続けていたことを思い出します.道路わきには,時折,小さな机がぽつんと立っていました.その意味が分かったのは,机の上に水の入ったボトルや果物が載っていることもあったからです.彼らは,市場に参加する小さな一歩を踏み出した,というわけです.
当時の私が注目した点は,ソ連によって統合されていた経済システムが解体されるとき,特に,生産ラインや通貨・金融システムが分断されることによって,大きく生産が落ち込む,という問題でした.地域の共通通貨や安全保障,そして,中国と中東・ヨーロッパをつなぐ輸送の拠点となって新しいグローバルな価格体系と成長モデルを築けるか,ということを意識しました.
国によって,資源・エネルギーの供給を通じた財政移転を失うことが,有利であったり,不利であったりすることも,心配でした.「市場自由化」というのは,地域間の格差や,当時もすでに起きていた民族紛争,政治不安を強める,と思われたからです.
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それゆえに,The
Economistに中央アジアの記事が載ると,そのたびに特別な関心を持ちました.
最近の記事によれば,中央アジアには,巨大建造物に対するマニアックな嗜好を示す,かつての共産党のボスが支配する国家が多く,いずれも反体制派を弾圧する,クローニズムに侵された,買収・汚職の蔓延した政治体制です.唯一,民主化革命を経たキルギスタンも,タジキスタンと並んで最も貧しい,ロシア寄りの国となっています.
カザフスタンが1人当たりGDPでロシアの水準を超えたのも,優れた政府のおかげというより,資源を輸出できたからです.政治的威信のために,無意味な巨大建造物を作り,ロシアと中国とアメリカとの関係を利用して,うまくふるまっているように見えただけで,石油価格の暴落後は,経済・政治不安が高まっています.
中央アジア諸国は,今も,ロシア語を使用し,ロシアからのテレビ放送を見て,その反米的世界観を共有し,さらに,貧しい諸国ほど,多くの労働者がロシアへの出稼ぎに行って,劣悪な労働条件で働き,差別され,西側によるロシアへの経済制裁の最初の犠牲者となって職を失っています.彼らを通じて,穏健な信仰心が一般的であった中央アジアにも,過激なイスラム主義が広まりつつある,と懸念されます.
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ソ連崩壊後の中央アジアに,私は,周辺諸国との国際秩序が安定すること,通貨や貿易に関する地域協力を進めること,直接投資を通じてロシアや欧米との経済関係を緊密化すること,を考えました.その焦点となるのが,カスピ海の油田開発やパイプラインであるという意味で,破たん国家とならないよう,中央政府の強化,すなわち,行政やインフラ整備,制度的枠組みのために国際援助が欠かせない,と日本政府の関与を求めたのです.
その後の20年間,資源のある国も,無い国も,世界市場統合や,中国の台頭と拡大,ロシア,アメリカ,インド,中東の紛争激化とイスラム原理主義,などに,翻弄され続けています.サマルカンドのホテルで,少年が運んでくれたお茶を一人で飲めたとき思ったのは,彼らの不安でした.共産主義崩壊後の社会は,もっと違う社会改革を求めていたのではないか,と思います.
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