(前半から続く)
FT July
10, 2016
Age of
Discovery’, by Ian Goldin and Chris Kutarna
Review by Gillian Tett
l ドイツの経常収支黒字
FT July 10,
2016
The German
balance of payments quandary
Gavyn Davies
ドイツの経常収支黒字は、昨年、記録的な水準に達した。2860億ドル、GDPの8.5%である。それは中国の黒字を抜いて、世界最大である。「危機」というのは、通常、貿易赤字国について言われるが、この不均衡は明らかにユーロ圏にとって、また、世界経済にとって重大な頭痛の種である。
黒字はドイツにも問題である。しかし、メルケル政権はドイツの伝統的な立場を継承して、それを経済的な成功のしるしとみなす。そのため、IMFと欧州委員会がドイツに黒字を減らすように求めても、聞こうとしない。
東ドイツを吸収した1990年代には、わずかに赤字であった。しかし、それ以降、黒字が続いている。2000年代に入ってユーロ圏内の黒字が増えたが、それはドイツの労働市場改革と、ユーロ圏周辺部で持続不可能なブームが起きたからだ。
ユーロ危機の後は、ユーロ圏内ではなく、世界の他の部分との間で黒字を出した。2015年に黒字が記録的な水準に達したのは、石油価格の下落と、ユーロ安が重なったからだ。ドイツは、それらを一時的な要因、という。
しかし、黒字を国民所得統計で見れば、国内投資と国内貯蓄との差である。それは非常に高い民間貯蓄率(高齢化)と、非常に低い民間投資率(外国に比べてドイツの成長率が低い)によって生じている。それが永続化している。
世界経済で見れば、Paul Krugman and Ben Bernankeのような新ケインズ主義者によれば、ドイツの黒字がその他の世界から総需要を奪っている。世界の総需要が不足しているなら、金利を下げ、ドイツの為替レートが増価することで、その黒字を調整すればよい。しかし世界の金利水準がゼロに近く、ドイツの為替レートはドイツ・マルクではなくユーロとして変動するから、ドイツの黒字はなかなか調整できないのだ。世界の長期停滞を促す要因となってしまう。
IMFは、ドイツの実質為替レートが15-20%も過小評価である、と考えている。
ユーロ圏内の問題としてみれば、ドイツは黒字を貿易部門の競争力が高い結果とみなしている。それゆえ解消すべきゆがみではない。その意味では、他のユーロ圏諸国がドイツの模範に従って労働市場を改革し、経済再編を行うことで、その赤字を是正する責任があるのだ。それは、ある程度、機能している。2006年以来、ドイツのユーロ圏内の黒字は半減した。スペインやイタリアは黒字になった。
しかし、2つ問題がある。第1に、均衡化のために内需(GDP)の成長率は非常に低く維持されている。それはドイツからの輸入を抑制するように、ユーロ圏全体が非常に低い成長率を維持することを意味する。均衡化のために、ユーロ圏の完全雇用は達成できなくなっている。こうした状態をヨーロッパの有権者たちは我慢しないだろう。
第2に、ユーロ圏内の貿易不均衡を融資する方法が問題だ。それは「健全な」民間資本移動によるのではなく、ECBの勘定間で、公的な資本が移転されている。Target
2 と呼ばれる仕組みだが、そこでドイツ連銀はECBに対して資産を累積している。他方、イタリアやスペインの中央銀行はECBに債務を累積している。
もしユーロ圏が解体するなら、ドイツ連銀はTarget
2 の資産の潜在的なデフォルトを心配しなければならない。それは非常に巨額であり、6000億ユーロに達する。すでにドイツ国内で政治問題といなっている。最近では、貿易不均衡が縮小しているのに、ユーロ圏周辺部からドイツに向けた資本移動が増えて、この不均衡を増大させている。
ドイツは、どうすればよいのか? IMFと欧州委員会は、ドイツに対外黒字の縮小策を求めている。すなわち、政府のインフラ投資を増やす、労働供給を増やす改革で長期成長率を高め、民間投資増やす、年金改革で民間貯蓄率を下げる、サービス部門の規制緩和で生産性を高める、他のユーロ圏諸国よりも急速に賃金を上昇させる。
しかし、ドイツはこうした診断を信じていない。
l 日本
NYT JULY
10, 2016
Japan Vote
Strengthens Shinzo Abe’s Goal to Change Constitution
By MOTOKO RICH
FT July
12, 2016
Japan
polls open the way to constitutional change
FT July
13, 2016
Tweaking
and tinkering will not fix Japan’s democracy
Sheila Smith
Bloomberg
JULY 14, 2016
Japan's
Chance to Resist a Turn to the Right
Noah Smith
l ロボット
FT July
11, 2016
Robots’
debut in aerospace production lines create new human jobs
Ross Tieman
l グローバリゼーションと左派
Project
Syndicate JUL 11, 2016
The
Abdication of the Left
DANI RODRIK
エコノミストと政策担当者は、現在のグローバリゼーションがもつ政治的な脆弱さを著しく過小評価していた。各地に起きている大衆的な反抗には共通した面がある。ローカルな、ナショナルなアイデンティティを求め、民主的な支配と説明責任を求め、中道の主要政党を拒み、エリートや専門家を信用しない。
市場の規制、安定化、正当化を行う制度を超えて経済グローバリゼーションを進める結果についての警告はなされていた。継ぎ目のない世界市場統合を目指すハイパー・グローバリゼーションは国内社会を破壊していた。
問題は、なぜ右派が政治的に支配するようになるか、だ。
グローバリゼーションの新しいコンセンサスが現れた。グローバル市場の機会を利用できる資源とスキルを持つ者と、持たざる者との間で、階級分化が進む、というものだ。階級の分断は、アイデンティティによる分断よりも、伝統的に、政治的な左派を強くした。
左派がグローバリゼーションに対して無力であるのは、移民問題への注目というより、左派が資本主義やグローバリゼーションを改造する明確なプログラムを示さない、示す能力を欠いていたことが原因である。実際、貿易や外国投資の衝撃を受けたラテンアメリカは、左派のポピュリズムが政治的に強化された。EUやIMFによって財政緊縮を強いられた、同じような政治文化を持つギリシャ、スペインでも、右派ではなく、新しい左派勢力が登場した。
左派のエコノミストやテクノクラートは、安易な形で、市場原理主義の批判に熱中した。それどころか、1980年代後半から1990年代初め、特に、短期も含めて、国際資本移動の自由化を推進したのは、フランス社会党やアメリカの民主党のケインズ主義エコノミストやテクノクラートであった。彼らは、金融グローバリゼーションに対して1980年代初めのミッテランによる社会主義的実験が失敗した結果、ヨーロッパ規模、そしてグローバル規模でルールを決めることを目指したのだ。
しかし、今は違う。グローバル資本主義に対する代案が示されつつあるからだ。Anat Admati and Simon Johnsonのラディカルな金融改革、Thomas Piketty and Tony Atkinsonの不平等に対する改革メニュー、Mariana
Mazzucato and Ha-Joon Changの公共部門と包括的な革新、Joseph Stiglitz and José Antonio
Ocampoのグローバル改革案、Brad DeLong, Jeffrey Sachs, and Lawrence Summersの長期的な公共投資とグリーン・エコノミーへの移行、など。
右派は、「我ら」と「彼ら」を分断し、左派は、改革によって亀裂を埋める。それは矛盾した意味で、資本主義をそれ自身の問題から解放するのだ。
l グローバリゼーションと政治選択
Bloomberg
JULY 11, 2016
Why
Advanced Economies Need to Learn From Developing Nations
Mohamed A. El-Erian
Project
Syndicate JUL 14, 2016
Brexit,
Trump, and Globalization’s Have-Nots
JEFFREY FRANKEL
Brexitの離脱派勝利と、トランプの共和党大統領候補者争いに共通するのは、どちらも全く予想外な勝利であり、また、説得的でない、愚劣な約束を繰り返したことだ。その意味は、グローバリゼーションの過程で取り残された人々の憤慨がどれほど大きいか、十分に理解されていない、ということだった。
彼らは指導者を必要とした。政党や議会、行政の部局が、彼らの利益を守ってくれるはずだった。イギリスの選挙制度は、最近まで、うまく機能していた。有能で、一貫した政策を示す、右派と左派の穏健な指導者が有権者に選択肢を示した。しかし、それでも、致命的な大失策を実行した。すなわち、サッチャーは人頭税を導入し、ブレアはイラク侵略に加担し、キャメロンはEU離脱の国民投票を行った。
グローバリゼーションに取り残された者に、有効な選択肢を示さねばならない。
l ファシズムが来る
FT July
12, 2016
A renewed
nationalism is stalking Europe
Tony Barber
NYT JULY
12, 2016
Are We on
the Path to National Ruin?
David Brooks
ヨーロッパでファシズムがどうやって起きたか、私は理解できなかった。しかし、今は、それがよりよく理解できる、と思う。それは、大恐慌や、情報経済への移行のような、根本的な歴史的転換から始まるのだ。一部の人々はそれから排除され、アイデンティティ。自尊心、希望を失う。
彼らは次第に自分の価値を、その行動ではなく、特殊な仲間(部族)に求める。彼らはますます恨みを深め、自分たちの犠牲者としての意識に夢中になる。彼らの問題の原因について嘘を並べつ政治家に集まり、それを乗り越える方法について、その話を信じる。事実はその意味を失う。そして、彼らを喜ばせる言葉が、現実に代わるのだ。
事実が漂流し始めると、すべてが漂流するだろう。私的には慎み深い、親切な人々が、公的な指導者を選ぶときには、そうした性格を失う。辛辣な皮肉によって、道徳的に損なわれた派手な興行師のような人物を支持する。
そこで、おそらく、変化を加速する事件が起きる。諸社会は文化的に緊張した状態で、互いに孤立している。すなわち、孤独な、疎外された多くの若者が、暴力によって自分の価値を示したがっている。ある者は警察官のバッジを付け、ある者は大量殺人犯を理想化する。彼らが行動するとき、社会はけいれんする。
正常な状態では、悲劇が起きると国民が団結する。しかし、社会が分断による病的な状態にあるなら、そして、現実の感覚を失っているなら、反対の方向に動き出す。部族の熱狂を高める行動が続くのだ。政治は成業できなくなって、奇妙な、認識不可能な状態に、その国を陥らせる。
1930年代のヨーロッパで、こうしたことが起きたのだ。現在、アメリカはそのような状態にないが、かつてより、それに近づいた。週末のある瞬間に、各地で深淵がその口を開けたことを、私は正直に認める。
先週、街頭における殺人があった。2つの都市で警察官の暴力による殺人、そして、他の町では警官たちが殺された。アメリカの指導力はひどい状態にある。ヒラリー・クリントンはキャリアを維持するために公然と嘘をついた。ドナルド・トランプは、もちろん、良心の呵責を感じずに、絶えず嘘をついている。
政治エリートの指導力は機能せず、政治論争は事実を無視し、政党は人種によって分断されている。
他方、国家がどうやってできたのか、また転換したのか、私は理解できなかった。1880s-90sに、アメリカ現在と同じような深刻な危機に直面していた。経済は画期的な転換と工業化を迎え、政治システムは現在以上にひどかった。
レイシズムと反移民感情は激しく、根深いものであった。都市の貧困のひどさは描くのも難しい。
しかし、新しい政治指導者たちが、都市から都市に現れて、進歩的改革を担い、政治を浄化して市民サービスを専門化した。セオドア・ルーズベルトは選挙政治に加わって、新しいナショナリズムを鼓舞し、資本主義を開かれた、公平で、競争的なものにする法律を成立させた。
これは、社会が新しい課題に応えた優れた例であった。
今も、アメリカにはまだ、地方や社会において、多くの資源がある。各地において、市長たちはプラグマティックに、ドグマにとらわれず、考えている。彼らがもっと力を発揮することで、国家レベルで生じる悪徳を一掃できる、と私は信じている。
l メイ首相の誕生
FT July
12, 2016
Expect
Theresa May to favour social order over freedom
Janan Ganesh
FT July
12, 2016
A new
prime minister — now comes the hard part
The
Guardian, Tuesday 12 July 2016
Theresa
May: a one-nation Tory in a one-party state
Rafael Behr
FT July
12, 2016
Theresa
May should beware of imitating the German model
Ursula Weidenfeld
NYT JULY
12, 2016
Theresa
May and the Cutthroat Conservatives
By HELEN LEWIS
The
Guardian, Wednesday 13 July 2016
Theresa
May took on the police but her new foes are far fiercer
Simon Jenkins
FT July
13, 2016
Theresa
May must now tell us what ‘Brexit means Brexit’ means
Chris Giles
NYT JULY
13, 2016
Britain's
New PM May Gives Johnson Big Job, Says Needs Time Before Brexit Talks
By REUTERS
FP JULY
13, 2016
Britain
Has a New Snooper-in-Chief
BY ELIAS GROLL
FT July
14, 2016
Theresa
May (and Angela Merkel) should play Brexit long
Philip Stephens
メイTheresa Mayが首相官邸に入ったことは、イギリスが完全に狂ったわけではない、という希望を与えた。
メイは可能な最善の選択肢であった。彼女は残留派であったが、選挙運動では姿を見せなかった。彼女の評価は、冷徹で有能な内務大臣として固められた。彼女は困難な選択を避けて、国境線の管理と移民ルールの執行に失敗した。しかし、内務省内の争いには生き残った。彼女はプラグマティスとであり、演技を好まない。彼女の政府はより公式的で、その態度はドイツのメルケルに近づくだろう。
Brexitの投票後、政策の空白が続いている。国民がヨーロッパから離脱することを望むのなら、また彼らがそれを変える権利もあるのか? 経済が不況に向かえば、彼らの後悔も強まるだろう。
離脱派は、ヨーロッパなど簡単に飛び越えることができると考える。ドイツは自動車を売りたいし、フランスはワインを売りたいのだから。
しかし、政治家は夢想ではなく事実と蓋然性に依拠するべきだ。40年に及ぶ政治・経済統合を解体する過程は複雑であり、コストを生じ、しばしば感情を害するだろう。その中から現れるイギリスは、経済的に弱く、国際的な関与も小さくなる。
メイが好きなセリフは、“Brexit means Brexit” である。それは保守党内の離脱派にその姿勢を確認する言葉だ。しかし、離脱後の関係がどうなるかについては何も意味しない。新首相は、単一市場へのアクセスと、移民に対する国家管理の間で、どのようにバランスを取るのか、手の内を明確に示さない。それは2つの交渉になるだろう。1つは、ビジネス界の利益と党内の小イングランド主義との衝突に関する、党内交渉であり、もう1つは、EU27か国との交渉である。
メイはBrexit派から、50条に基づく交渉をできるだけ早く開始して、不透明さを払しょくせよ、と求められる。しかし、首相はそれを無視するべきだ。多くの集団間で交渉を長くすることが、唯一の希望である。
時間をかけて、政治的に不可能であることを可能にする、受け入れがたい妥協を1年か2年かけて共通意識にすることこそ、メイが考える希望に違いない。
イギリスの都合に合わせてEUを折り曲げることはできない。メイは決定を急がず、慎重に行動するだろう。彼女は来年の選挙を考える。フランスのオランド大統領もそうだ。EU全体の移民規制を強化することは好ましいはずだ。様子を見ることが、だれにとっても有利である。
FP JULY
14, 2016
The Tories
Are Dead, Long Live the Tories!
BY ALEX MASSIE
l ポケモンGo
NYT JULY
12, 2016
Pokémon
Go? Get Outta Here!
NYT JULY 14,
2016
Pokémon Go
See the World in Its Splendor
By AMY BUTCHER
FT July
14, 2016
Nintendo
has ventured into a scary world
John Gapper
l 長期停滞
FT July
13, 2016
An end to
facile optimism about the future
Martin Wolf
Robert Gordon of Northwestern Universityの The Rise and Fall of American Growthは、アメリカ経済の停滞を予想する。その理由は、技術革新が衰えるからだ。しかし、発明、革新の測定には問題がある。
l 保護主義の広がり
Project
Syndicate JUL 13, 2016
What’s the
Problem With Protectionism?
BARRY EICHENGREEN
次の大統領が自由貿易を支持しないことはすでに明白になった。
通常であれば、保護主義は間違いである、と言えばよい。しかし経済が「流動性の罠」に陥って、ゼロ金利に近く、デフレが迫っているときに、マクロ経済の論理は無視される。保護主義が必ずしも間違いとは言えない。1930年代がそうだった。
トランプは、メキシコのフォード工場で作った自動車や部品の輸入に35%の関税を課し、中国からの輸入には45%の関税を課す、という。エコノミストは、この計画のマクロ経済的な効果は破滅的だ、と考える。自由で開放的な市場を否定すれば、信頼は失われ、投資が減少するからだ。外国も報復してアメリカからの輸入財に高い関税を課すから、輸出も減少する。
しかし、消費者にとっては好ましくないが,輸入財の価格を引き上げ、その報復によって外国市場が失われることより,物価が上昇するほうが重要かもしれない。それは投資家を元気づける。
私の主張は、デフレの下で保護主義が正しい、ということではない。なぜなら、正しい政策は別にあるからだ。それは、減税や公共投資などの、まともな財政刺激策である。
さらに、関税引き上げがデフレの悪影響を緩和するとは言え、それを有益なことと誤解してはいけない。なぜなら保護主義は、第1に、国際金融システムを機能不全にする。債務を返済するために輸出を行っていた諸国が、輸入国の保護主義で債務の返済を停止するからだ。第2に、他の公共目的に関する国際協力を積み重ねている大国間の外交が、保護主義によって敵対するようになる。
スムート=ホーリー関税は、ナチズムの台頭に反対する外交的な協力を難しくしただろう。
l 法と正義
NYT JULY
13, 2016
When Law
Is Not Justice
Brad Evans and Gayatri Chakravorty Spivak
l アメリカの衰退
FP JULY
14, 2016
America Is
Losing the High Ground
BY DAVID ROTHKOPF
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The Economist July 2nd 2016
The politics of anger
Brexit fallout: Adrift
Brexit: An aggravating absence
The economic fallout: Managing chaos
Post- Brexit politics: Shifting sands
Bagehot: Brexitland versus Londonia
Central Asia: Stans undelivered
Banyan: The forest and the trees
Free exchange: The consensus crumbles
(コメント) Brexitをめぐって,さまざまな考察が展開されています.その多方面にわたる影響,経済におけるシナリオ,イギリス国内政治の再編,などが興味深いです.
中央アジアとアジアの政治経済的景観が変貌したことを考え,グローバリゼーションに関する様々な合意が変異を始めたことにも注目します.詳細は,読む価値ありです.
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IPEの想像力 7/18/16
Brexitやグローバリゼーションが人々の後悔を深めています.
ソ連とその周辺の共産主義体制が解体したとき,市場自由化と民主化によって,新しい「社会主義」に向かう可能性がある,と考えた人々はいなかったのでしょうか? おそらく,内部から共産主義体制を転換するために闘った人々の多くが,そう考えていたのではないか,と私は思います.
市場取引が活発に行われて,創意工夫で新しいビジネス機会を利用する人々が増えるのは良いでしょう.政府の政治宣伝や反政府派に対する弾圧を終わらせ,自由に権力装置や特権を握る人々を批判できるのも良いでしょう.外国からの新しい技術や情報,さまざまな文化や思想が流入して,自分たちの社会を活性化することは,「資本主義」でも「共産主義」でもありません.
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たまたま大学で知り合った先生たちと一緒に,20年前(1996年),私は中央アジアへの調査旅行に出かけました.
遠くに天山山脈が見える平原地帯を,延々とバスは走り続けていたことを思い出します.道路わきには,時折,小さな机がぽつんと立っていました.その意味が分かったのは,机の上に水の入ったボトルや果物が載っていることもあったからです.彼らは,市場に参加する小さな一歩を踏み出した,というわけです.
当時の私が注目した点は,ソ連によって統合されていた経済システムが解体されるとき,特に,生産ラインや通貨・金融システムが分断されることによって,大きく生産が落ち込む,という問題でした.地域の共通通貨や安全保障,そして,中国と中東・ヨーロッパをつなぐ輸送の拠点となって新しいグローバルな価格体系と成長モデルを築けるか,ということを意識しました.
国によって,資源・エネルギーの供給を通じた財政移転を失うことが,有利であったり,不利であったりすることも,心配でした.「市場自由化」というのは,地域間の格差や,当時もすでに起きていた民族紛争,政治不安を強める,と思われたからです.
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それゆえに,The
Economistに中央アジアの記事が載ると,そのたびに特別な関心を持ちました.
最近の記事によれば,中央アジアには,巨大建造物に対するマニアックな嗜好を示す,かつての共産党のボスが支配する国家が多く,いずれも反体制派を弾圧する,クローニズムに侵された,買収・汚職の蔓延した政治体制です.唯一,民主化革命を経たキルギスタンも,タジキスタンと並んで最も貧しい,ロシア寄りの国となっています.
カザフスタンが1人当たりGDPでロシアの水準を超えたのも,優れた政府のおかげというより,資源を輸出できたからです.政治的威信のために,無意味な巨大建造物を作り,ロシアと中国とアメリカとの関係を利用して,うまくふるまっているように見えただけで,石油価格の暴落後は,経済・政治不安が高まっています.
中央アジア諸国は,今も,ロシア語を使用し,ロシアからのテレビ放送を見て,その反米的世界観を共有し,さらに,貧しい諸国ほど,多くの労働者がロシアへの出稼ぎに行って,劣悪な労働条件で働き,差別され,西側によるロシアへの経済制裁の最初の犠牲者となって職を失っています.彼らを通じて,穏健な信仰心が一般的であった中央アジアにも,過激なイスラム主義が広まりつつある,と懸念されます.
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ソ連崩壊後の中央アジアに,私は,周辺諸国との国際秩序が安定すること,通貨や貿易に関する地域協力を進めること,直接投資を通じてロシアや欧米との経済関係を緊密化すること,を考えました.その焦点となるのが,カスピ海の油田開発やパイプラインであるという意味で,破たん国家とならないよう,中央政府の強化,すなわち,行政やインフラ整備,制度的枠組みのために国際援助が欠かせない,と日本政府の関与を求めたのです.
その後の20年間,資源のある国も,無い国も,世界市場統合や,中国の台頭と拡大,ロシア,アメリカ,インド,中東の紛争激化とイスラム原理主義,などに,翻弄され続けています.サマルカンドのホテルで,少年が運んでくれたお茶を一人で飲めたとき思ったのは,彼らの不安でした.共産主義崩壊後の社会は,もっと違う社会改革を求めていたのではないか,と思います.
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