前半から続く)

NYT June 24, 2016

Brexit: The Morning After

By PAUL KRUGMAN

Brexitによる経済の破壊的な影響は心配しなくてよい。実際、それは予想外に小さかった。

確かにイギリスは貧しくなるだろう。それは、関税引き上げによるよりも、市場アクセスが不確実なことで長期投資が減るからだ。

金融的なショックが議論されたが、ポンドの下落はそれほど大きくなかった。それは通貨危機の国から見るなら、自国通貨で借金できるからであり、イギリスはアルゼンチンではない。歴史的に見ても、1992年にERMを離脱したときの4分の1の下落幅より少ない。

資本逃避と金利の引き上げが議論されたが、Brexitの影響を世界経済は恐れるから、むしろ金融緩和が進むのであり、イギリスも金利を下げるだろう。

むしろ問題は政治である。政治的に非常に悪い結果がイギリスでもヨーロッパでも起きるだろう。Brexitはポピュリスト、分離主義、外国人排斥の運動が大陸も含めて猛威を振るう始まりである。これはヨーロッパ経済が「長期停滞」に向かう傾向が加わって、危機に転じる。

こうした懸念は残留派が勝利しても同じである。政府が統合されないまま通貨を統合した上に、南欧の無責任な財政を非難するゲームを展開し、文化や所得水準が大きく異なる諸国間で労働力の移動を自由化することを唱えている。こうしたユーロ圏は機能しない、という問題をBrexitは示した。

Brexitがイギリス政治の最悪の部分を刺激し、これからUKを分断することが心配だ。

FP JUNE 24, 2016

Brinsanity

BY DAVID ROTHKOPF

FP JUNE 24, 2016

Everything Is Awful, Brexit Edition

BY KEITH JOHNSON, DAVID FRANCIS, ELIAS GROLL

FP JUNE 24, 2016

David Cameron Was a Historic and Disastrous Failure

BY ALEX MASSIE

FP JUNE 24, 2016

Britain’s Declaration of Independence From Reality

BY EMILE SIMPSON

FP JUNE 24, 2016

David Cameron’s Austerity Bomb Finally Went Off

BY DANIEL ALTMAN

イギリス人は、キャメロン政権の財政緊縮、しかも、イデオロギーに支配された公共部門の雇用削減によって、金融危機後、長期の、より厳しい不況を強いられた。失業は増え、生活水準は悪化して、このBrexitによるポンドの価値下落は彼らを直撃する。キャメロンは政権を去り、新しい進路を探すべきだ、と言うだけだ。

FP JUNE 24, 2016

The Brexit King of Britain

BY ROBERT COLVILE

FP JUNE 24, 2016

Here’s How the Brexit Will Actually Work

BY HENRY JOHNSON

イギリスのEU離脱条件は、リスボン条約の50条に従って、2年間の交渉によって決まる。自由貿易、人の移動、法の執行、安全保障、などの条件を決めなければならない。わずか2年間で決まるとは思えない。イギリス経済は世界の約5%、ヨーロッパではドイツ、フランスに次ぐが、イギリスのヨーロッパ向け輸出は、その逆よりも大きい。交渉の材料は主としてEUが握っている。

しかし、交渉が長引けば、EU内部の利害対立もあるから、ヨーロッパの立場は分裂して弱くなるかもしれない。

FP JUNE 24, 2016

The Long Road to Brexit

BY ROBERT TOMBS

Bloomberg JUNE 24, 2016

A Bad Day for Europe

Editorial Board

Bloomberg JUNE 24, 2016

The Sun, Not the Rain, Tipped the U.K. Vote

Leonid Bershidsky

Bloomberg JUNE 24, 2016

Seven Lessons From the U.K.'s Departure

Mohamed A. El-Erian

社会・政治的な分断は世界中に存在する。政治やビジネスのエリート、「専門家の意見」は、大衆から信頼されていない。・・・相手を攻撃し、過度の単純化や悪罵によって選挙を混乱させる国内政治・選挙が各地に広まっている。・・・主要政党が依拠する歴史的な前提は、もはや存在しない。アメリカ共和党もそうだ。・・・反エスタブリッシュメントで、過激な主張を繰り返す党派は、選挙で権力を得ることができなくても、政治そのものを変える。・・・極端な政治党派はその勢いを増し、国境を超えて影響力を及ぼす。・・・金融市場の予測ははるかに優れていると言われたが、多くの人々の予測と違わず、間違えた。・・・Brexitは、考えられないようなことが現実に起きることを示した。トランプの大統領就任も起きるかもしれない。

Bloomberg JUNE 24, 2016

'Citizens of the World'? Nice Thought, But ...

Megan McArdle

Bloomberg JUNE 24, 2016

Eight Things to Know About the U.K. Vote

Barry Ritholtz

Bloomberg JUNE 24, 2016

Do the Experts Know Anything?

Justin Fox

The Guardian, Saturday 25 June 2016

There are liars and then there’s Boris Johnson and Michael Gove

Nick Cohen

The Guardian, Saturday 25 June 2016

Britain is not a rainy, fascist island – here’s my plan for ProgrExit

Paul Mason

労働党が政権を組んで、ボリス・ジョンソンやナイジェル・ファラージを阻止しなければ、イギリスはサッチャー型の自由市場による荒廃だけが支配するだろう。

The Guardian, Saturday 25 June 2016

In this Brexit vote, the poor turned on an elite who ignored them

Ian Jack

NYT JUNE 25, 2016

Hell Is Other Britons

By TOM WHYMAN

NYT JUNE 25, 2016

David Cameron’s Brexit Bust

Matthew d’Ancona

FP June 25, 2016

Post-Brexit Defense Policy

By Kori Schake

The Observer, Sunday 26 June 2016

Given that the Brexiters seem unprepared to govern, what now for Britain and the future of the EU?

The Guardian, Sunday 26 June 2016

We need a second referendum. The consequences of Brexit are too grave

David Lammy

The Guardian, Sunday 26 June 2016

The Guardian view on post-Brexit politics: perilous times for progressives

Editorial

FT June 26, 2016

Can Brexit be stopped? Anything is possible

Philip Stephens

Brexitから4日が経って、戻ることはできるのか? ブレア元首相は2度目の国民投票も可能だと示唆した。金融市場は動揺し、人々は後悔している。なんでも可能であると言えるが、2つのことが言える。そして、投票のやり直しはできない。

1に、離脱派もEUとの関係を破棄することは容易でないし、途方もなく破壊的であることを理解しただろう。第2に、真に予想外の出来事が起きない限り、議会が国民投票の結果を無視することはできない。最低でも、国民投票の結果を再考する、と公約する政党が総選挙で勝利しなければならない。

国民投票は、離脱が何を意味するか何も示さない。単一市場にとどまることは多数が支持するだろう。しかし、離脱派の指導者たちはそれを認めない。その結果、政治は機能しなくなる。また、EUへの財政負担金も、それを国民医療システムに支出するという意見と、小さな政府を支持する意見が、離脱派の中で分裂している。

EU支持派はあきらめるだろうか? 今後の2年間で、イギリス国内政治が大幅に転換することはありうる。考えられないことを考えるような、新しい政治の枠組みができるかもしれない。保守党も労働党も分裂し、新しい、中道的な、ヨーロッパを支持する政党が誕生する。

FT June 26, 2016

We will make an orderly exit to ensure the City’s future

Chris Grayling

Project Syndicate JUN 26, 2016

Britain at Sea

Carl Bildt

FT June 26, 2016

I do not believe that Brexit will happen

Gideon Rachman

翌日も、私の憂慮は深まった。しかし、その後、遅くなったけれど、私は理解した。この映画は前にも観た、と。私は結末を知っている。それは、イギリスがEUを離脱する、ということで終わらない。

EUを長く観察している者には、国民投票のショックはこれが初めてではない。1992年、デンマーク国民はマーストリヒト条約を否決した。2001年、アイルランド国民はニース条約を否決したし、2008年にはリスボン条約を否決した。

それでどうなったのか? EUはその後も維持された。デンマーク人とアイルランド人には、EUがいくらか譲歩した。そして2度目の国民投票が行われ、その条約を受け入れたのだ。なぜイギリスの国民投票もそうしないのか?

確かに、イギリスはEUからの離脱を決めたのであり、新しいものだ。しかも、デンマークやアイルランドのような小国ではない。キャメロンは辞任の意思を表明し、イギリス政治の主要なアクターも変わるだろう。

しかし、イギリスにも2度目の国民投票に向かう兆候がある。離脱派の指導者であったボリス・ジョンソンは、離脱することがEUに再考を促す唯一の交渉手段である、と述べていた。ジョンソンは、デンマークが国民投票でマーストリヒト条約を否決したころ、ジャーナリストとしてブラッセルにいたからよく知っている。

ジョンソンは何であれ離脱でなければならないとは考えていない。直前になって、残留派から離脱派に変わったのだ。彼の目標は首相になることであって、離脱派を指導したのはその手段である。ジョンソンが首相になれば、EUに対する立場を変えるかもしれない。

ヨーロッパの交渉相手も、イギリスの姿勢を認めるだろう。ドイツのショイブレ財務相は、イギリスがすでに単一通貨もシェンゲン協定も認めていないのだから、EUの中核には参加せず、単一市場へのアクセスだけを維持したい、というのは既存モデルの延長である、とその地位を容認したことがある。

ジョンソンが第2の国民投票をする前にEUから得る譲歩は、移民流入に関する何らかの上限を定めて、イギリス政府がEU市民の流入にも緊急ブレーキをかける権利を認めることだ。もしEUがキャメロンにこれを認めていたら、国民投票の結果は変わっていただろう。

たとえEU加盟諸国がイギリスの行動に憤慨しているとしても、財政負担や軍事・外交面で、イギリスのEU加盟は重要だ。イギリスの労働市場が閉ざされることはEUの苦痛になる。

たとえドーバー海峡の両側に、その合意を激しく非難するグループがいても、双方の穏健派が合意を支持する。

FT June 26, 2016

British trade can flourish without the shackles of Brussels

Paul Marshall

NYT JUNE 26, 2016

This Is Just the Start of the Brexit’s Economic Disaster

By PHILIPPE LEGRAIN

専門家たちは確かに間違いを犯す.しかし,今回の投票で,専門家たちの意見を無視したイギリス国民は,その高い代償に苦しむ.

FT June 27, 2016

Brexit: The Norway option is the best available for the UK

Wolfgang Münchau

FT June 27, 2016

What will Brexit mean for UK jobs?

Sarah O’Connor

FT June 27, 2016

London can remain insurance capital after Brexit — Lloyd’s chief

Inga Beale

NYT JUNE 27, 2016

Britain to Leave Europe for a Lie

Roger Cohen

NYT JUNE 27, 2016

 ‘Brexit’ Is Locking In the Forces That Already Haunt the Global Economy

Neil Irwin

FP JUNE 27, 2016

The ‘Leave’ Camp Won. That Doesn’t Mean Brexit Will Happen.

BY DAVID FRANCIS

The Guardian, Tuesday 28 June 2016

Brexit is a disaster, but we can build on the ruins

George Monbiot

FT June 28, 2016

S&P issues a warning to Britain’s political class

NYT JUNE 28, 2016

At Home in London, Not Britain

By SARFRAZ MANZOOR

FP JUNE 28, 2016

It’s Time for the Elites to Rise Up Against the Ignorant Masses

BY JAMES TRAUB

Brexitは,現実を無視した党派が大衆の支持を得ることを示した.既存の左派も右派も,その一部が大衆の怒りを吸収する,現実を無視した党派に移るかもしれない.

グローバリゼーションの底辺で,政治が解体しつつある.かつて,1960年代にラディカルであった党派は,その後の現実を変え,政治的な枠組みを作り変えた.しかし,彼らの党派が大衆からの支持を失っている.アメリカでも,イギリスでも,ヨーロッパでも,現実に依拠したエリートたちと,それを強く嫌う,現実を無視した党派との対立が,新しい政治を形成するだろう.

FP JUNE 28, 2016

London Should Secede From the United Kingdom

BY PARAG KHANNA

ロンドン市民たちは,しばしば,国家として独立することを楽しい思考実験として語ってきた.しかし今,彼らはそれを賢明な現実の提案と考えるだろう.

FP JUNE 28, 2016

Brexit Will Be a Conscious Uncoupling, Not a Nasty Divorce

BY CHRIS BICKERTON

YaleGlobal, 28 June 2016

Globalization’s Angst and the “Brexit” Vote

Farok J. Contractor

Bloomberg JUNE 28, 2016

Brexit Without Tears, Norway-Style

Leonid Bershidsky

「おいしいところだけつまみ食いは許さない」と,ドイツのメルケル首相は語った.

限られたモデルしか存在しない.WTO,トルコ,カナダ,スイス,そして,ノルウェーだ.離脱派とEUが支持するのは,ノルウェーであろう.

Brexitは誇張である.実際には,イギリスとEUとは,適度に距離を置いた協力関係になる.裏切り者への復讐と,血みどろの離婚劇ではない.EUは回避策と漸進的な改革を好む.

Bloomberg JUNE 28, 2016

Britain's Latest Ugly Partition

Nisid Hajari

Project Syndicate JUN 29, 2016

Little England and Not-so-Great Britain

IAN BURUMA

Bloomberg JUNE 29, 2016

Will Brexit Actually Happen?

Clive Crook

FT JUNE 30, 2016

Britain is starting to imitate Greece

Philip Stephens

このままではEUとの交渉が進められない.イギリスの2大政党は解体するだろう.そして,極端なナショナリズムや左派の強硬派ではない,新しい親ヨーロッパ政党が誕生する余地がある.独仏とEU諸国は,同じような扱いをギリシャとの間で経験した.

FT JUNE 30, 2016

This is no time to attack the credibility of the Bank of England

FT JUNE 30, 2016

English is about to lose its crown in Europe

Nicholas Ostler

FT JUNE 30, 2016

Young people feel betrayed by Brexit but gave up their voice

Roula Khalaf

Project Syndicate JUN 30, 2016

Football, Brexit, and Us

RICARDO HAUSMANN

NYT JUNE 30, 2016

The Macroeconomics of Brexit: Motivated Reasoning?

By PAUL KRUGMAN

FP JUNE 30, 2016

Great Britain’s Great Unraveling

BY AMANDA SLOAT

FT JUNE 31, 2016

Watch the interest rate outlook shift following Brexit vote

Gillian Tett

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The Economist June 18th 2016

Divided we fall

Brexit: What if?

The referendum campaign: The Battle of Evermore

Mass arrests in Bangladesh: Round up the usual suspects

Between the borders

(コメント) 前半だけ見ました.特集記事は別に紹介します.

Brexitに向かう趨勢を分析しています.離脱派の宣伝が勝利しました.キャメロン(とEU指導者たち)は争う条件を間違ったのです.

バングラデシュのテロ事件が起きる前に,政治情勢に懸念がある,と記事が伝えていました.

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IPEの想像力 7/4/16

国民投票の直前,「残留」を支持するThe Economist June 18th 2016 は,EUを理解するための複雑な叙述を提示しました.“Between the borders: The idea of European unity is more complicated than its supporters or critics allow”

国民国家を超えるモデルとしてではなく,かといって,国民国家にとどまるモデルでもない.ヨーロッパが多くの森や湖を持つ豊かな土地であるように,EUは国境によって分断された国家間の戦争を抑えて,エスニックなモザイクを生み出し,そのような現実に応じた,新しい政治体をめざす試みの途上にある,ということを認めます.

・・・なぜEUは生まれたのか? 国民国家を滅ぼすものとしてではなく,それを救済するものとしてEUはできた,とは,どういう意味か?

3650万人を殺害したヨーロッパの戦争が,その終結策としてEUを生んだ.たとえばユーゴスラビアでは,ブドウ畑の25%,家畜の50%,道路の60%,鉄橋の75%,工業の30%,住宅の20%が破壊されたのだ.

1648年,ウェストファリア条約という国家間体制を築いたのも30年戦争であった.平和は国家間のバランスで実現するはずだった.しかし,近代国家の膨張をバランスさせることは困難であった.ナポレオンが始めた国民軍は,各地に国境を超えるエリートに代わる,国民として中途半端に教育された群衆を生んだ.

1814年以来,ドイツは5度もフランスを侵略した.ヨーロッパの国民国家はそれぞれに植民地を拡大し,世界を2度も戦争に巻き込んだ.1948年,ソ連がプラハで共産主義革命を支援した後は,ドイツへの恐怖にソ連の恐怖が加わった.

これがローマ条約を結んだ背景である.ヨーロッパ中で,政府は人々を裏切った.飢餓,消耗,恐怖にさいなまれた末に,庶民の福祉に徹するために平和を維持する政府を強く求めた,分断され,解体された世界で,国家が正当性を認められるには,新しい有権者たちに,繁栄,雇用,福祉をもたらす必要があった.彼らは,ボルシェビキに頼らなかった労働者たち,農業賃金が1930年代に急落しても,ファシズムに走らなかった農民たちである.

戦争を阻止することとヨーロッパ共同体との繋がりは,フランスにとって明白だった.フランスが繁栄するにはドイツの原料が必要だ.また,ドイツに新しい侵略を許してはならない.1945年,ド・ゴールは,ルールとラインの石炭と鉄鉱石を永久にフランスのものとし,西ドイツを農業国にすることが最善の解決策だと考えた.

この考えはアメリカとイギリスによって拒否された.彼らは,貧しく,抑圧された西ドイツが,反乱を起こし,ソ連の影響下に入るのを恐れたからだ.

だから1949年,フランスの外相,ロベール・シューマンは,ヨーロッパという神話を復活させ,新しい思想,新しい歴史を与えた.モネの石炭鉄鋼共同体である.それは新種の通商条約であった.参加する6か国の上に高等管理局を設け,新しい加盟国に開かれていた.・・・

EUは抑制された試みでした.なぜなら,諸国家は権力をできるだけ失いたくなかったし,同時に,政治やその熱狂に対する深い疑念が存在したからです.ボルシェビキやナチズム,ヨーロッパの統一秩序や単一通貨は,すでに空しく唱えられていました.

また,モネと連邦主義者たちは,諸国家の特権を奪えませんでした.

・・・1950年にヨーロッパ軍を作る提案がなされた.それはNATOの下で西ドイツが再軍備するのに代わる案であった.フランスのド・ゴール主義者たちが反対し,アメリカはフランスとの関係を見直すと脅したが,1954年に朝鮮戦争が終わると,フランス議会はヨーロッパ防衛共同体案を否決した.・・・

それ以降,石炭鉄鋼共同体はヨーロッパ経済共同体(EEC)として,自由貿易圏になったのです.アメリカはこのヨーロッパの統合を慎重に促そうとしていました.ジョージ・ケナンはそれを要約しました.「ヨーロッパ統合なしにドイツが再建されれば,ドイツは支配するようになるだろう.ドイツが再建されなければ,ロシアが支配するだろう.アメリカは,ドイツ問題を解決できるような,強く,繁栄するヨーロッパを求める.」

ヨーロッパの統合計画が現在のような水準に達したのは,1980年代の例外的な高揚期,ジャック・ドロールの時代でした.彼は,フランスの財務大臣から欧州委員会委員長になって,統合化を爆発的に推進したのです.単一市場,EU,政府の拒否権を制限,ヨーロッパ議会の権限強化,単一通貨.共同市場は北部と南部で加盟国を増やし,ワルシャワ条約の解体は旧共産主義諸国にEU加盟を新しいモデルとしました.

この深化と拡大は,EUを機能不全にする困難な初期条件となりました.

1861年に,「われわれはイタリアを作った.さあ,イタリア人を作らねばならない.」とイタリアの政治家が述べたように,EU市民を作る道具をブラッセルは持っていません.ヨーロッパの偉人たちを並べ,ヨーロッパの歴史教科書を書き,反発を招きました.ヨーロッパ防衛軍がフランスによって拒まれてからは,「ロウ・ポリティクス」として関税や貿易を話し合いました.それは有権者の支持を得ずに,官僚たちだけで進めました.

一気に権力装置を作り上げ,政治的アイデンティティーはそれに従う,と考えることもできます.しかし,ヨーロッパ議会の現状は懐疑論を強めるだけです.2001年,ヨーロッパ憲法の提案も,オランダとフランスで拒否されました.

かつてヘンリー・キッシンジャーは,ヨーロッパの平和を地政学的なシステムとみなし,パワー・シフトと正当性の源泉に注目しました.ジャン・モネは,正当性を政府から市民に移そうとしました.しかし,市民たちがこれに反対し,パワー・シフトも起きています.人口移動とユーロは,国民国家による均衡の条件を根本的に変えてしまいました.

現在のようなパワーをプールする政治は,危機によってしか進みません.それはあまりに遅く,あまりにわずかしか改革しないことで,一層の危機を招きます.新しいドイツ問題が起きています.「ドイツは,ヨーロッパの中で多くの国の中の1国であるには大きすぎ,EUのコストを単独で負うには小さすぎる.」

戦争を繰り返すボーダーランドから,森林と湖の広がるヨーロッパに多様な市民が育つには,まだ1000年の平和が必要です.

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