IPEの果樹園2016

今週のReview

7/4-9

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Brexitの衝撃と波及

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


 

FT June 23, 2016

The waves from Brexit start to spread

Larry Summers blog

Brexitは始まった。アメリカ市場が開く前に、考えておくことがある。

ショックに対して市場は冷静に反応するだろう。為替市場はそれほど大きく変動していない。それは中央銀行が秩序の維持に必要なら何でもすることを市場参加者たちが信頼している証拠である。また、資産の価格下落に対する投機的な買いが入った。ロンドンでもブラッセルでも、人々は冷静に発言し、行動している。特に、市場はアメリカ連銀が金利引き上げを延期する姿勢に信頼を寄せている。

しかし、アメリカ市場が開いて、これらすべてが一気に変化するかもしれない。投資家たちは新しい浮動的な環境を嫌うだろう。週末にリスクを抱えたくない。月曜日の朝に資産が売られるリスクもある。1987年の株価暴落も同じように起きた。

ヨーロッパの諸銀行が弱体であることにもっと注意を払うべきだ。銀行の株価が下がっている。また、リスクを回避するために、ドルや円の資産に向けた資本逃避が起きている。これは新興市場にとって危険なことであるし、通貨戦争にもつながる恐れがある。

イギリスにとっての経済効果は2つある。一方では、離脱の不安、イギリス自体の分裂もありうる。他方で、豊富な通貨供給とポンドの減価が起きるだろう。この12か月間では成長が大きく鈍化し、不況が始まると思う。

イタリアやスペインで、イギリスより大きく株価が下げたのは、「離脱の感染」を恐れるからだ。ヨーロッパ経済の見通しは、国によっては、イギリスよりも悪い。為替レートの減価も、金利も、対応する余地がないからだ。

世界経済に対する効果は心理によって大きく変わる。イギリスが示した予想外の結果は、トランプが大統領選挙で勝利する見込みを一気に強めた。そのリスクは、特に国際的な展開を中心としている企業で投資決定を凍結することになる、と懸念される。またリスクからの逃避が、日本のインフレ促進政策や中国の通貨安定化に困難な状況をもたらす。

主要諸国には金利を下げる余地がない。財政再建をする時ではない。どこでも財政刺激策を考えるべきだ。為替レートの不安定化や保護主義、銀行の弱体化によるグローバリゼーションの逆転を抑えねばならない。

どこでも政治的な予測は信用できないことがはっきりした。特に、アメリカ大統領選挙だ。各国の「反発型ナショナリズム」を抑えるべきだ。グローバルな視点より、地域の人々や利益を重視せよ、という声は強い。こうした声を、破滅的な形ではなく、建設的な形で吸収できる政治家と戦略が求められている。

FT June 23, 2016

Political losses from Brexit will be deep and enduring

Richard Haass

株価は下落するが、少なくとも一部はすぐに回復する。しかし、政治的、戦略的な評価価値はそうではない。

最大の損失を示すのはイギリス・連合王国UKだ。スコットランドは、時期は分からないが、もはや分離を避けられないだろう。キャメロンは歴史的大失策を犯したと言える。

北アイルランドも不安定な平和を20年間維持したが、新しい圧力を受けてアイルランドとの併合を求める声が強まる。それは住民たちの分断を強める。北アイルランドとイギリス政府内の離脱派は、高い代償を支払うだろう。

連合王国は連合を失い、前より貧しい、弱い、魅力のない国になる。

次第に、ドイツとそれ以外の加盟諸国との差は拡大し、緊張が高まるだろう。2番目に大きな経済、最大の軍事力を失い、EUが世界で果たす役割は小さくなった。Brexitは、低成長、ロシアのウクライナ介入、難民流入に対して、EUが対応する力を低下させる。

アメリカも、Brexitの代償を支払う。たとえイギリスが弱くなっても、ヨーロッパ、中東、アジアで、イギリスに代わる特別な関係は見つからず、それを維持するしかないだろう。

国民投票は有権者がその不安や不満を表明することになったが、彼らの行動は大きなコストを生じた。無責任で、効果のない、ラディカルな解決策に人々は向かう、ということを民主主義とその機関は学んだ。

FT June 23, 2016

Britain takes a leap into the dark

FT June 23, 2016

Labour leaders’ failure to listen led to defeat over Brexit

John McTernan

FT June 23, 2016

Reasons to rejoice about the breach

Iain Martin

FT June 23, 2016

Britain left the EU decades before the referendum

Wolfgang Münchau

私は残留を支持したが、国民投票の結果をいくらか喜んでいる。私は今もヨーロッパ統合を圧倒的に支持するが、それは選挙で支持されなかったと認めねばならない。

残留派の主張は、離脱による経済的な悪化に関してマクロ経済学者の示すコンセンサスであったが、そうしたモデルはここ数十年も失敗していた。不況の予測によって恐怖を煽るキャンペーンは、彼らの傲慢さを示しており、嫌われた。

しかし、その戦術以上に、残留派には根本的に問題があった。すなわち、イギリスはずっと前に離脱を決めていたからだ。その離婚手続きは1990年代初めに始まった。マーストリヒト条約に関して、当時、保守党のジョン・メージャー首相は、通貨同盟に関するオプト・アウトを決めて、ゲームは終わった、と宣言した。

その後、ゴードン・ブラウンもこの権利を積極的に支持したし、トニー・ブレアはユーロ圏加盟を望んだが、後にはオプト・アウトに同意した。デーヴィッド・キャメロンも、ユーロ懐疑派との話し合いで保守党党首になった。つまり、これは残留派と離脱派のコンテストではなく、2つのユーロ懐疑派が争っていたのだ。

現代のEUにとって、単一市場にだけ加盟し、ユーロ圏には加盟しない、というイギリスのような国は、持続可能な地位を得られない。それがEUの政治経済である。

ユーロの誕生はヨーロッパ統合の性格を、非常に深い意味で、変えてしまった。もはやEUを共通市場として語ることはできない。たとえまだユーロ圏に参加していない国でも、それはイギリスの考えるEUとは異なる。イギリス政府も反対派も、正式にオプト・アウトを行使しているだけでなく、一貫して、将来もユーロを採用するつもりはない、と表明しているのだ。

ユーロ圏の議論とイギリスが切り離されたときから、その利害は乖離し始め、疎外され、ユーロ懐疑論が広まった。

ユーロ圏は単一市場の一層の統合を求めている。銀行同盟や共通労働市場が必要である。しかし、ユーロではないから、イギリスには必要ない。また、市場統合におけるイギリスの利益は、シティをユーロ圏のオフショア金融センターとして拡大する、という特殊な利益にとどまる。それは国民経済の成長にとって持続的な目標ではない。また、他のEU諸国にとっても受け入れられない。

私は、解体への不安と、BrexitEUの困難な諸問題を解決する発射台になる、という希望との間で迷っている。EUは、10年かかる財政統合や真の銀行同盟を決断するかもしれない。そうしなければ、改革は実現せず、ユーロ圏は崩壊するだろう。たとえEUの枠組みは残っても、政治的なパワーは失われる。

イギリスにとっても、ヨーロッパにとっても、将来には危険がある。私はイギリスが新しい地位で調整することには楽観するが、EUの主要な大国の中に政治的指導力を見いだせない以上、ヨーロッパについて楽観することはむつかしい。

FT June 23, 2016

The economic shock of Brexit is the lesser problem

Stephanie Flanders

いずれにせよ、市場は均衡を見出すだろう。キャメロンは、自国よりも保守党の利益を優先した、という非難を受けるだろう。しかし、ロンドンのグローバルな成功に、製造業を失ったイギリス経済を,その後背地として繁栄させることができなかったのは、保守党政権だけではない。コスモポリタンな繁栄を脅かす方に、多数の票が集まったことも不思議ではない。

今回の投票の経済・政治的意味が分かるには、何年も、もしかしたら何十年もかかるだろう。しかし、投資家や他の世界から、3つの問題が直ちに生じる。

1.市場に広がる「リスク・オフ」の雰囲気はどれくらい続くのか? そのことがもたらすダメージは? アメリカ連銀の金利引き上げはむつかしくなり、スイス・フランや日本の円は対応が難しい。

2.イギリス経済は落ち込むだろう。しかし、その他の世界、特にヨーロッパへの影響に関しては不確実さが大きい。

3.イギリス離脱後の関係はどうなるのか? 離脱派はブラッセルの束縛を棄てて、世界経済が示す機会をつかむ、と主張した。しかし、Brexitに投票した多くの有権者はまさに逆のことを望んだのだ。開放性と閉鎖性、未来と懐古、矛盾したものが離脱派の中にある。

FT June 23, 2016

The British public takes revenge on the City of London

Patrick Jenkins

FT June 23, 2016

Brexit: Identity trumps economics in revolt against elites

Matthew Goodwin

FT June 23, 2016

How Vote Leave won the EU referendum

Sebastian Payne

「勝利をもたらしたのは2つのBである。Boris and bordersボリス・ジョンソンと国境管理・移民問題。」

離脱派は世論調査や賭け屋を打ち負かした。規律ある運動、代表的な人物、スローガン。常に“Vote leave, take back control”が叫ばれた。

キャメロンの再交渉が残留派のアキレス腱となった。3年前に国民投票を表明したときから、キャメロンは大幅な改革への期待を高めた。しかし、キャメロンがしたことは現状維持でしかない。その責任は大陸の指導者たちにもあるのだが。

残留派が経済不況を予測したが、離脱派は2年もかけて、財界を動員した離脱キャンペーンをしていた。経済論争は、終盤で、移民とトルコに関する注目により消滅してしまった。

また、労働党内の分裂、指導力の欠如は深刻だったし、メディアが果たした役割も無視できない。

FT June 23, 2016

Brexit means a bumpy road ahead for the UK economy

Chris Giles

FT June 23, 2016

Brexit: a vote that changes everything

Philip Stephens

The Guardian, Friday 24 June 2016

There is a way Brexiters could really hand back control to voters

Caroline Lucas

The Guardian, Friday 24 June 2016

Brexit won’t shield Britain from the horror of a disintegrating EU

Yanis Varoufakis

離脱派が勝利したのは、多くの有権者がEUを権威主義的で、不合理な、議会制民主主義を軽蔑するものとみなし、われわれの主張するEU改革を信じなかったからだ。

私は全ヨーロッパでラディカルなEU残留を支持する運動Democracy in Europe Movement (DiEM25)を展開した。イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドを訪問して、革新勢力に対して、EU解体が解決策にはならない、と説得した。解体は各地にデフレ圧力を生じて、緊縮策を強化して、エスタブリシュメントの権力と外国人排斥の傾向を強めるだろう。

私はEUに残留し、同時にEUの既存権力や制度に反対した。われわれの敵は、キャメロンであり、計量モデルで恐怖を煽るイギリス大蔵省であり、我慢ならないほど傲慢なシティであり、ヨーロッパ周辺部に拷問を続けるブラッセルのEU本部であり、イギリス有権者を脅して離脱への怒りに火を付けたドイツのショイブレ財務大臣であり、フランスの情けない社会党政権であり、ヒラリー・クリントンとその大西洋「有志連合」であり、緊縮策を受け入れ続けるギリシャ政府である。

離脱の反応は、その警告を超えて暗いものであろう。しかし、市場の反応はしばらくすれば落ち着き、イギリスはEUとノルウェー型の合意を結ぶだろう。

イタリア、フィンランド、スペイン、フランス、そして明らかにギリシャは、現在の枠組みにおいて持続可能ではない。ユーロ圏の構造は経済停滞を固めるものであり、債務とデフレの悪循環、そして外国人排斥の右翼を強めるものである。

今後の計画を推進するのはドイツのショイブレ財務大臣だけだ。Brexit後の不安を利用して、永久にユーロ圏を財均衡同盟に変える機会とする。彼の計画には、いくらかの飴と巨大な棍棒がある。すなわち、小規模のユーロ圏予算を組んで、失業手当と預金保険を整備する。棍棒は、各国の赤字予算を拒否する権利だ。

もし私の予想が正しければ、Brexitは鉄の檻になる。この制度化された緊縮策は、イギリスだけでなく中国にもデフレを輸出するだろう。

しかし、別の可能性は、鉄の檻が破られて、たとえば、フランスやイタリアがその制約を無視して、ドイツが崩壊するユーロ圏を離脱することだ。それはウクライナまで及ぶドイツ・マルク圏を誕生させ、巨大なデフレのエンジンとなる。マルクは大幅に増価して、ドイツ企業の国際競争力は失われ、イギリスと中国はデフレショックにむしろうまく対処できるだろう。

Brexitを経験したEUの指導者たちは、民主化の要求を圧殺し、恐怖による支配を強めるだろう。多くの進歩的なイギリス人が離脱を選ぶことは当然である。

私は残留を確信するが、イギリス国民の選択を歓迎する。EUには民主主義が不足しており、民主的な主権を回復するべきだ。EU解体は全速力で進行するだろう。国境や政治的党派を超えて、ヨーロッパが民主主義を回復することこそ、外国人排斥の、デフレを広める、1930年代型混乱に陥るのを避けるために必要だ。

The Guardian, Friday 24 June 2016

The Guardian view on the EU referendum: the vote is in, now we must face the consequences

Editorial

FT June 24, 2016

Britain turns its back on Europe

George Parker, Michael Mackenzie and Ben Hall

FT June 24, 2016

Brexit: Cameron and Osborne are to blame for this sorry pass

Nick Clegg

FT June 24, 2016

How a cautious nation came to tear down the political temple

Philip Stephens

FT June 24, 2016

Brexit will reconfigure the UK economy

Martin Wolf

真っ赤な嘘が勝利した。Boris Johnson, Michael Gove, Nigel Farage, The Sun and the Daily Mailが広めた嘘だ。連合王国、ヨーロッパ、偽側、世界が損なわれた。イギリス史における、第2次世界大戦後、おそらく最大の破滅的事件である。

ポンドの価値が下落しても、イングランド銀行は短期的にこれを無視するだろう。しかし、インフレに影響するようになれば介入が必要だ。そのためには外国からの支援がなければならない。

シティの役割も変化するだろう。多国籍企業や銀行のスタッフは減少する。

FT June 24, 2016

Brexit: UK voters may soon come to miss a humiliated Cameron

Janan Ganesh

何が起きたかを理解するまでには数年を要するだろう。それは予測できないほどの大きな事件となるからだ。われわれもそれを予測できなかった。

アンソニー・イーデンが60年前にスエズ運河軍事介入で無様に失敗して以来、これほど大きな指導部の失敗は存在しない。

FT June 24, 2016

Merkel and Hollande must seize this golden chance

Daniela Schwarzer

Brexitはパリとベルリンに最高のチャンスを与える。ロンドンを疎外することなく、この危機を機会に変えることができる。

市民たちは、市場とともに、EUが動揺しないことを知りたいはずだ。投資家たちはユーロを試すだろう。もしEUがここで無力な姿を示せば、南部の辺境では最悪の衝撃が襲う。それはECBにも止められない。

必要なことは、むやみに統合の深化を求めることではない。第1に、指導者たちは通貨同盟を完成するべきだ。同時に、失業や不平等に対するしっかりした政策、インフラ、技術革新、教育に対する投資を通じて競争力を高める政策を示すことだ。

2に、ベルリンとパリは、民主的な正当性を高める制度改革を提案するべきだ。EUではなくUKに関する投票であったが、事態は変化した。ユーロ圏の財務大臣や議会の改革は、条約を変更しなくても実現できる。

3に、安全保障に関する改革だ。イギリスに限らず、自分たちの運命をコントロールすることを願う声はイギリスに限らず強い。それがEUにおける右派と左派のポピュリズムに向かっている。指導者たちは国境管理、難民政策、情報機関の協力に関して、行動しなければならない。

ロンドンとの交渉は強い姿勢で臨むべきだ。反EUの運動に、これが手本であってはならない。新しい合意は、閣僚理事会、ヨーロッパ議会、イギリス国会で承認される。イギリスはこの国会承認をEUとの新しい関係として歓迎するべきだ。

FT June 24, 2016

Brexit and the making of a global crisis

Gideon Rachman

FT June 24, 2016

The Outers’ message resonated with those who feel left behind

David Goodhart

FT June 24, 2016

Britain cuts itself adrift from the EU

SPIEGEL ONLINE 06/24/2016

Brexit Aftermath

Europe's Zero Hour Presents an Opportunity

By Dirk Kurbjuweit

SPIEGEL ONLINE 06/24/2016

Europe Is Dead

Long Live Europe?

By SPIEGEL Staff

Project Syndicate JUN 24, 2016

A British Tragedy in One Act

CHRIS PATTEN

Project Syndicate JUN 24, 2016

Britain’s Democratic Failure

KENNETH ROGOFF

イギリスのEU離脱を決めた投票で最も狂ったところは、指導者たちが加盟の利益と移民圧力との評価を国民投票に問うたことではない。離脱の基準を愚かなほど低く設定したことである。単純多数決を求めたのだ。投票率70%であれば、わずか35%の支持票で離脱が決まることになる。

これは民主主義ではない。共和制に対するロシアン・ルーレットである。重大な結果をもたらす決定に、それは一国の憲法を改正するほど重大なことであるのに、何のチェック・アンド・バランスもなかった。

1年後に再投票は準備されていない。議会はBrexitを支持していない。有権者たちは選択の結果を十分に理解していなかった。UKも、世界経済も、政治的安定性も、離脱によって大きな打撃を受けた。

平和に暮らす西側諸国の住民は、それを気にしなくてもよいのか。戦争や内戦が起きることはないから。しかし、決定が及ぼす重大な結果が長期にわたる場合、多くの社会は多数決の条件を厳しくしている。イギリスの国民投票には、スコットランド(2014)やケベック(1995)の先例があった。そのルールを再考するべきだ。

現代民主主義は、破滅的な結果が情報を十分に得ていない有権者によって支持されるとか、少数派の利益を損なうということがないように、チェック・アンド・バランスのシステムを発展させた。重大な決定であればあるほど、その決定水準を高くするべきだ。たとえば、憲法改正には、予算案の通過よりも高い水準を求める。しかし、現在の国際的なモデルでは、飲酒年齢を引き下げるより国家を分割する方が簡単だ。

古代ギリシャの民主主義では、多数派の支配を、情報を知る党派が重大な決定に大きな発言力を確保する異なった仕組みを考えた。スパルタでは、賛成・反対の喝采で決めた。人々はその支持する程度を声によって示せた。他方、アテネでは、女性を除くが、すべての階級に完全に平等な投票権を与えた。いくつかの破滅的な戦争を決めた後、アテネは独立した機関により大きな権限を与えることにした。

もしイギリスがEU離脱を国民投票で問うなら、その決定基準をもっと高くすべきであったし、2年を待って2度の投票を行うべきだった。世界が重要な決定を単純多数決に委ねるのは、カオスの方程式である。

Project Syndicate JUN 24, 2016

The Brexit Revolt

HAROLD JAMES

EUは第2次世界大戦後に戦争回避を目指して構築された。

EUに至った2つの戦争は、国民国家間の競合する目標が中心的な役割を果たした。それゆえヨーロッパ市民は、新しい政治秩序の基礎として国際主義を受け入れ、いかなる犠牲を払ってもそれを擁護した。ヨーロッパ市民を相互に結び付け、統合のために個別国家に制限を課す、超国家機関の構築は決定的に重要だった。

その結果、ヨーロッパはしつこく叱る乳母のようになった。加盟国には何ができるか、債務危機からどうやって抜け出すか、年金受給者にどれくらい支払えるか、EUは主張した。それはギリシャのような小国にとって、不公平な、時には残酷な要求として非難された。統合によって成長が容易になる、という夢は叶わなかった。

さらに移民や難民危機が加わった。国境の開放を主張し続けるEUは、マニアックな趣味のクラブを維持するホストのようになった。多くのヨーロッパ市民は移民を歓迎しなかったが、EUはそれを無視した。キャメロンもEU残留を支持したが、移民は、国民医療制度の維持に関して、イギリス国民に利益をもたらしている、と明確に主張しなかった。

国民は、専門家や政治エリートを嫌って、離脱を選択した。しかし、イギリス経済や政治の安定性を維持する解決策には、ヨーロッパに代わるものはない。

Project Syndicate JUN 24, 2016

The Right Left for Europe

YANIS VAROUFAKIS

Brexitに対抗するには、左派の支持が要る。しかし、左派の多くはEUから離脱を願っている。しかし、社会主義的なナショナリズムは、ヨーロッパに広まる国家社会主義に対抗できない。

VOX 24 June 2016

On the financial market consequences of Brexit

Jon Danielsson, Robert Macrae, Jean-Pierre Zigrand

NYT JUNE 24, 2016

Britain Leaves on a Cry of Anger and Frustration

By THE EDITORIAL BOARD

NYT JUNE 24, 2016

Britain’s Brexit Leap in the Dark

Roger Cohen

NYT JUNE 24, 2016

Brexit and Europe’s Angry Old Men

Jochen Bittner

NYT JUNE 24, 2016

Tony Blair: Brexit’s Stunning Coup

By TONY BLAIR

私が首相のとき、イギリスの未来はヨーロッパとともにあると信じていた。スコットランドの自治を拡大し、北アイルランドの和平を進めて、連合王国を守った。EU離脱はこれらを危うくする。

保守党の一部とUKIPによる離脱運動は、もし労働党がそれを許さなければ、決して成功しなかっただろう。

Brexitの前から、現代のポピュリスト政治家たちが政党の支配を握ることはあるとわかっていたが、イギリスのような国家の支配権を得るとは思われなかった。それが起きたのだ。

そこには極右と極左の収れんがみられる。右派な移民を非難し、左派な銀行家を非難する。権力者たちへの怒りは、複雑な問題にデマゴーグの解決策を示すが、その背後にあるのはグローバリゼーションに対する敵意である。

極右や極左の幻滅に終わる実験ではなく、中道が権力を維持するべきだ。


後半へ続く)