IPEの果樹園2016

今週のReview

6/27-7/2

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ベーシック・インカムの時代 ・・・Brexitとはどういう意味か? ・・・日本のマイナス金利 ・・・平和による社会的分解 ・・・ラジャンの退任

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介してます.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


ベーシック・インカムの時代

FP JUNE 16, 2016

When the Welfare State Met the Flat Tax

BY SAMUEL HAMMOND

65日、250万人のスイス国民はユニバーサル・ベイシック・インカム(UBI)を憲法が保障する権利として認める案を否決した。その案は、人間の尊厳や最適な税制などに関して、4年近い激しい論争を経て投票された。これは、UBIが主要な政策論争として認められたことを示すと同時に、76.9%23.1%、という大差で否決されたことも注目される。

スイス政府は、繰り返し、UBIの採用が莫大な増税を必要とする、と警告した。しかし、問題は増税への不安だけでなく、その目的が混乱していたことにもあった。

UBIへの関心は、近年、着実に高まってきた。特に、極左の社会主義者と極右のリバタリアンからの支持が高い。両社の合意は明らかに形成されつつあるが、それはよくても表面的で、悪くすると負い目になる。現実には、支持者たちの描くUBIは大きく異なっており、一方では、福祉国家の合理化、他方から見れば、プロレタリアート独裁である。

もっとも興味深い実験は、非営利団体GiveDirectlyが組織したもので、ケニアとウガンダの携帯電話保有者に給付されている。計画の目標額は3000万ドル、48の村で、4000以上の家族に対して、13年間、大人1人当たり1日に75セントを給付する。それは少ない、と思うかもしれないが、ケニアの年間1人当たりGDPの3分の1である。

スイスの国民投票後も、UBIに関する熱意は失われていない。フランス、オランダ、カナダで、実験的な導入が計画されている。問題は、今も、多くのイデオロギーが混入されていることだ。

Project Syndicate JUN 23, 2016

Basic Income Revisited

ROBERT SKIDELSKY

市民すべてに一定の所得を保証するan unconditional basic income (UBI)は,歴史的に再生してきた.その考えは18世紀のトマス・ペインに始まる.UBIの難しさは,2つの目的があることだ.貧困の緩和と,生きる目的としての労働を廃止することだ.

貧困の緩和は,実際的で政治的な問題だった.工業化社会では,多くの人々が工場で働き,機械が周期的に増設される時,仕事が止まる.仕事のない間も,彼らの生活を保障しなければならない,と労働運動は要求した.

労働者たちの賃金から資金を強制的にプールして社会保障とする,「福祉資本主義」が始まった.その要求は,身体障害者や,子どもを育てる女性にも拡大され,課税によって資金を賄うようになった.

1980年代のレーガンとサッチャーは,その意図に反して,福祉の範囲を拡大した.こうした人々は,雇用や賃金を保護するための制度と法律を解体したのだが,そのために,「市場」を採用した.職場を通じて給付する,あるいは,減税するというやり方だ.同時に,保守政権は,増大する社会福祉の費用を抑えるため,給付資格を削った.

UBIの倫理的側面は,聖書や古典派経済学にさかのぼる.労働とは背活費を得るための苦役である,という考えだ.これを減らす,すなわち,余暇を増やすことが目的になる.それは労働市場と所得とを切り離す改革思想であり,UBIに対する反対論者はこの点を,「無道徳」や「怠惰」の奨励として攻撃する.

しかし,それは歴史的に見て間違いだ.それが真実なら,すべての遺産相続は廃止されただろう.これまで, 19世紀のヨーロッパでは,ブルジョアとは多くが地主であって,誰も彼らが働かないことを問題にしなかった.今も,資産家の多くの所得は労働に依拠していない.

UBIを財源不足として反対する意見も,同様に,的外れだ.過去30年間の労働生産性上昇の果実は,その大部分が非常に裕福な階層の所得を増やした.あるいは,量的緩和の過程で,中央銀行は同じことをしている.こうした所得の一部を利用するだけで,最低限のUBIは導入可能だろう.

将来,ロボットが生産性を高めるのであれば,所得場の消滅を恐れるより,その利潤増大を人々の基本所得として還元するべきだ.


l  Brexitとはどういう意味か?

FT June 17, 2016

Let us spurn Brexit and remain a beacon of tolerance

Simon Schama

主権、移民、というのも正しくない。問題は、われわれとは誰のことか? ということだ。国民は同質的なのか? われわれの国の歴史や制度は、まったく例外的なものか? われわれはいつも孤立し、オフショアにおいて(ヨーロッパ大陸から離れたところで)決定したのか?

極端な愛国主義、自国に生まれたものを優先する思想は、アメリカにも、ヨーロッパにもはびこっている。世界中のどこからでも、民主主義の思想を信じるものが集まったアメリカ人の例外主義を無視して、トランプが移民への憎悪をあおっている。ロシア、オーストリア、ハンガリー、フランスでもそうだ。イギリス独立党UKIPNigel Farage党首が掲げた最近のポスターもそれだ。

世界がたとえどれほどグローバリゼーションの利益を享受しても、すなわち、商品、人、アイデアが自由に移動し、インターネット空間が広がる。しかし、同時に、その反動が起きた。異国の、危険な、同化しない人々であると、誰かにスティグマを押しつけ、心理的、物理的な防御を強める。経済や社会のシステムが変化したことの結果として移民を見るのではなく、様々な社会病理の原因とみなして責める。

イギリスで、かつて同じことが起きた。10万人の貧しいユダヤ人が、ロシアの迫害を逃れて、20世紀初めにやってきた。移民たちを「ヨーロッパのあく(汚水)」とみなすthe British Brothers’ Leagueが結成された。ユダヤ人は、病気を持っており、危険であり、英語を話せない。イギリス人労働者から仕事を奪い、賃金を下げる、と嫌った。

こうした主張は、イギリスの孤立性、制度や歴史の純粋性を守る、ということが前提である。しかし、イギリスの制度はその起源も性格も孤立してできたものでは全くない。ジョン王にマグナカルタへの署名を求めた25人の貴族たちの名前を読めばよい。その多数はノルマン地方のフランス人だ。1689年の権利章典は、イギリスの立憲君主制を確立したものだが、それはオランダによる侵略、2000人の軍による18か月間のロンドン占領が結果として実現したものである。事後的に、イギリス貴族たちが「招待した」と正当化された。招待であったかどうか、いずれにせよ、イギリスを巻き込むことが、ルイ14世との戦争においてウィリアムズの死活問題であった。

その後、フランスはプロテスタントを禁止しに定住した。UKIPFarage党首の祖先もその1人である。2世紀後に、同じような多数のユダヤ人がやってきた。私の祖父たちも含まれる。1960年代、私の母はWhitechapel and Stepneyで働いたが、ベンガルからの移民の波を迎えた。

移民はイギリスが人々に示す魅力である。木曜日の投票は、開かれたイギリスと閉ざされたイギリスの選択だ。外向きと内向き、過去と未来の選択であり、25歳以下の若者たちは圧倒的に残留を望む。ヨーロッパから解放されて、世界に立ち向かうというのは幻想だ。離脱後のイギリスは通商条約を失う。やり直しの列に並ぶだけで、主権を取り戻すのではなく、孤立する。

殺害されたJo Cox議員が示したように、われわれのコミュニティーは移民を迎えることで高められている。多様性を祝福するべきだ。われわれの国は、連合王国なのである。

Project Syndicate JUN 17, 2016

Brexit’s Impact on the World Economy

ANATOLE KALETSKY

イギリスのEU離脱に関する国民投票は、その世界GDPに占める2.4%という大きさをはるかに超える重大な政治的・経済的影響を世界に及ぼす。

それは3つの理由による。

1に、Brexitはグローバルな現象の一部である。すなわち、既存の政党に対するポピュリスト的な反抗。高齢者、貧困層、低学歴層の強い不満。彼らは既存の制度を破壊し、「エスタブリッシュメント」の政治家や経済専門家を無視する。Brexitに向かう人口の特徴は、トランプやル・ペンの支持者たちと非常に似ている。高校を卒業していない、60歳以上、ブルーカラー労働者に限定すれば、「離脱」支持は65%になる。

イギリス、アメリカ、ドイツのポピュリスト的反抗は同様の不満とナショナリスト的感情を示すが、同時に、経済条件も似ている。どの国も失業率は5%で、ほぼ完全雇用状態に回復したが、多くの職場が低賃金である。様々な社会問題の責任を、銀行家に代わって、移民たちに負わせている。

国民はビジネス界の指導者や主流の政治家、エコノミストを信用しない。Brexitによる経済の悪化を彼らが予測しても、離脱後に生活が苦しくなる、と答えた者は増えていない。IMFOECD、世界銀行、イギリス政府、イングランド銀行の分厚い報告書は無視されたのだ。離脱派のBoris Johnsonは、トランプのように、それらを馬鹿にした。“Oh believe me, it will be fine.”

2に、イギリスの国民投票は、専門家や市場と、世論調査とのどちらが、ポピュリストの台頭に関して真実に近いのか、それを測る最初のテストであるからだ。現在、大西洋の両岸で、政治評論家や金融市場は、自惚れにより、世論調査が示す有権者の怒りが現実の投票行動に示されることはない、と考えている。賭けの比率も、コンピューター・モデルも、トランプの当選やBrexitを、50%ではなく、25%と予測している。

3に、最も心配なことだが、投票結果の持つ意味だ。イギリスのように安定し、政治的に穏健な国で、Brexitが勝利するなら、ヨーロッパの他の地域やアメリカでも起きているポピュリストの台頭について、金融市場とビジネスの自己満足した対応は世界中で混乱へと向かう。市場の不安が経済の現実を変えるだろう。より大きな反エリートの怒り、政治的革命への一層の期待が生じる。

その感染が起きれば、Brexitは次の世界危機の触媒となる。仕事を失う労働者たち、貯蓄を失う年金生活者たち、住宅の価値が下落して資産がマイナスになる人々は、もはや、銀行家を責めることもできない。ポピュリストたちの革命を支持して、その失敗で苦しむのは自分たちでしかない。

FT June 19, 2016

Why true democrats should vote to remain in the EU

Gideon Rachman

国民投票をここでやめてほしい。投票の1週間前に、Jo Coxの殺害が起きた。それは、投票結果が何であれ、将来を暗示している。

国民投票は選挙と異なる。その結果は数年でひるがえせず、歴史的なものになる。それ故、人々は絶望し、時に憤慨する。

しかし正直に言えば、私は離脱派の主張も部分的に同意できる。EUが機能していない、ということは間違いない。ユーロ危機や難民危機がそれをはっきり示した。離脱派が主権と移民の問題を強調するのも理解できる。離脱に投票する人が、すべて人種差別主義であるとか、愚か者であるということはない。

しかし、私が残留派であるのは、現実面、情緒面、政治・経済面の理由があるからだ。

まず、離脱を決めれば、その後の数年は政治・経済的なカオスが続くだろう。EU単一市場は利用できなくなる。新しい通商条約を速やかに結べるとは思えない。交渉過程で、民主主義の共同体内に分裂と怒りが増大する。

それは、1990年代の政治的楽園を失ったわれわれにとって、非常に危険である。中東は秩序が失われ、ロシアとの軍事的緊張が増している。アメリカは人種差別的なデマゴーグで大統領選挙が混乱し、権威主義的な中国がアジアの支配的な大国になりつつある。こんな時に、イギリスはヨーロッパの仲間を失うのだ。

離脱派は、イギリスの民主主義を取り戻す、議会に主権を回復する、というが、EUは民主主義の味方であって、敵ではない。「ブラッセルの官僚たち」に憤慨するが、彼らはヨーロッパのどこにおいても法の支配を守り、すべての市民、すべての国民に同じ権利を守っている。EUの破壊を求めるヨーロッパの勢力を見れば、それはナショナリスト、レイシスト、権威主義者、極右、極左の勢力だ。Cox議員殺害と同じような、憎悪と暴力を好む、政治の暗黒がイギリスにも広がっている。

EUのおかげで、ヨーロッパの指導者たちは国家の城壁内から互いを罵るより、仲間として協力できるのだ。次の危機に対処するため、尊敬し、約束を守り、賢明な発言を行うEUのテーブルに就くことで、ヨーロッパ全体の民主主義を助ける残留に、私は投票する。

FT June 19, 2016

European values are more important than economics

Wolfgang Münchau

イタリアやスペインでEUを支持するのは容易である.懐疑論はあるが,たとえ国民投票をしても,EUは否定されない.なぜなら,多くの共通政策で成果を示せるからだ.EUは彼らの政治的DNAになっている.

しかし,イギリスでは違う.イギリスは多くの重要政策で除外されることを選択してきた.ユーロ圏,シェンゲン協定,司法・治安問題,基本的権利の憲章.キャメロンは,イギリスがEUの政治統合から除外される権利を認めさせた.

では,木曜日の投票で,わざわざ何を決めるのか? イギリスから見ると,EUとは単一関税,単一市場でしかない.それはシティや大企業にとって重要だ.しかし,イギリス国民の多くには,それほど重要ではない.もし残留派が刈れば,イギリスはEU内のアウター・サークルにとどまる.離脱派が勝てば,EU外のインナー・サークルに入る.

インナー・サークルに入る(緊密な協力関係を維持する)ことには価値がある.すなわち,共通の政策を追求できるからだ.開放性と寛容さをともなう自由,平等な機会,公共財の強固な保持.

こうした目標は,たとえば,中国とブラジルと共有できない.金融的グローバリゼーションの1つの特徴は,労働報酬に大きな差が生じることであり,もう1つの特徴は,強力な権威主義体制である.新興諸国の多くは,ヨーロッパ的な社会民主主義モデルより,アメリカ型の金融資本主義に向かっている.

残留派が多くの時間を,EU加盟の経済的利益(あるいは,離脱の経済的損失)に時間を費やしたことは残念だ.EUは経済的な構築物であるが,加盟を決めるのは経済学ではない.生き方の問題だ.

FT June 20, 2016

A referendum that is both naive and necessary

Janan Ganesh

3年前にキャメロンが国民投票を約束したとき、彼の仲間、特にオズボーン蔵相はそれを恐れた。政府は、EU離脱を選択肢として認めたことになる。

しかし、その約束がなければ、2015年の選挙前に、キャメロンは保守党内で反対派に屈していただろう。そしてより右派の指導部により、保守党はいずれ国民投票をしたに違いない。それは木曜日の国民投票よりも離脱派に有利な条件であっただろう。

離脱に反対する者にとって、何が対案なのかを明確にすることが重要だ。

投票は、専門家たちの予測ではなく、基本的な条件を見るべきだ。それはもっともありふれた有権者の感覚である。国民投票で彼らに問われているのは、経済的な落ち着きを好むのか、それとも、移民を嫌う感情の方が強いのか? である。

キャメロンが投票に負ければ、彼について他に何も思い出してもらえない。キャメロンが勝利すれば、彼は保守党を復活させた魔法使いとして、また、2つの同盟を守った英雄として記憶される。すなわち、イングランドとスコットランドとの同盟、UKと欧州との同盟である。

Bloomberg JUNE 20, 2016

Europe Hurts if Britain Goes. It's Worse if Britain Stays.

Leonid Bershidsky

Jo Cox議員の殺害事件で残留派が優勢になった。Brexitによるディストピアを想像するより、イギリスがEUに残った場合の姿を考えるときだろう。ヨーロッパ統合の現状は、EU指導者たちの発言を聴いても、非常に深刻だ。

たとえば、ユーロ懐疑派とは決して思えないフランスの元大統領ジスカール・デスタンValery Giscard d'Estaingが、2000年に入って試みられたヨーロッパ憲法の制定失敗について示した厳しい判断である。憲法は一部で承認されたが、最後はフランスとオランダの国民投票で否決された。彼は、28か国によるEUを「統治不能」とみなした。「ヨーロッパにはもはや目的がない」とも述べた。

欧州理事会議長のトゥスクDonald Tuskは、われわれは現実とユートピアを和解させる責任がある、という。これまで現実をあまりにも多くのユートピアによって判断してきたが、われわれにはもはや時間がない。国民国家のない、目的や利害の対立もない、理想のヨーロッパ。しかし、それは庶民が願うものではない。「分裂の妖怪がヨーロッパを徘徊している。連邦のビジョンがそれに対する最善の答えであるとは思えない。」

また、ミッテラン元大統領の外交顧問で外務大臣であったHubert Vedrineは、特に連邦主義のイデオロギーを攻撃した。それは、より緊密な同盟という「父権主義的で権威主義者の教理問答」である。EUは研究、技術革新、教育、環境問題に集中して取り組むべきだ。国民国家間の多様性を考えれば、最小限のコンセンサスでよい。

Brexitの前に、こうしてEU政治家たちは同盟の建設や拡大を休止する議論をしていた。もっと現実の生活問題を解決し、ユーロ懐疑派にも好かれるような改革を目指し始めた。しかし、理想主義者のいうことにも一理ある。もしEUが緊密な統合化を目指すものでなくなったら、連合は停止し、解体が始まるだろう。

イギリスが残留を決めても、離脱派はEUに対する考えを変えない。それはイギリス政府に、EUを強化する試みに反対するほど強い政治圧力を及ぼす。イギリスも、反EUを掲げる政党を恐れる他の諸政府も、EUが強化され、より効果的で、問題解決に役立つような改革に、反対するだろう。これ以上の主権を手放すことは支持されない。

Brexit以前のEUは機能せず、合意形成の過程が混乱している、と批判された。しかし、Brexit後は、怯えた政治家もモラルを失った官僚も、さらに一層の醜態をさらすだろう。改革が単に同盟を弱めるとなれば、すべての改革を延期するが、それもまた同盟を弱める。加盟諸国は主権を奪い返し、条約で認めたEUの権限を無視する。

トゥスクの母国ポーランドでは、彼の政敵たちが権力を握っている。彼らは裁判所や国営メディアに介入しても、EUからの批判に耳を貸さない。予算赤字が減らせなくても、各国は例外を認めてほしいとEUに訴えない。

イギリスが残るEUとは、こうした臆病な政治家と右翼の闊歩する機関であり、EUとは何か、その目標を考えなくなった機関である。キャメロン政権は離脱派に応えるためのEU改革を提案しなかったし、フランスとドイツもEU官僚たちも、改革案を示さなかった。Brexit後の大陸の政治指導者たちは、背教者に対する執念深さを持ち、離脱を選択する愚かさを示したい、と熱望するだろう。

後者の感情はEU改革を進める力になりうる。危機を無駄にしないことだ。各国の主権を温存し、加盟国が容易に合意できることしかしない、という形で現在のEUを維持するとしたら、崩壊の道に進むだろう。

FT June 21, 2016

Dangers of following the path to an offshore Britain

Adam Posen

離脱派は、EUの規制を逃れて、シンガポールやスイスのように自由な金融取引で繁栄できる、という。ロンドンは、金融センターではなく、ますます人民元などの、オフショア金融センターに過ぎなくなるだろう。シンガポールと違って、6000万人の国民がシティの金融取引で繁栄することは不可能だ。シンガポールでさえ、その浮動性、不動産バブル、通貨の増価による経済活動の衰退、に苦しめられている。

いずれにせよ、ロンドンがオフショア取引で繁栄することはない。ECBはユーロの取引をユーロ圏内に移そうとするだろう。すでに、イギリス経済にとって金融取引の比重は大きくなりすぎている。離脱後の不況は、政府に雇用の維持を強く求めるが、ポンドの下落と高金利によって、財政刺激策も行えない。

絶望的な手段として、さまざまな規制や介入を始めるだけである。しかし、すでに企業や個人は課税を回避し、規制を悪用しているではないか。ジャージーやケイマン諸島で取引しないはずがない。イギリスが金融取引のシェアを拡大する攻撃的な試みは、グローバルな金融市場に混乱を生じる。


l  日本のマイナス金利

FT June 17, 2016

Japan: The dash to stash

Leo Lewis and Robin Harding

彼女が西東京の自宅を出たのは、金庫を買おうと決断したからだ。昨年に比べて金庫の売り上げは2倍に伸びている。それはマイナス金利政策(NIRP)の効果だった。

日本ではすでに20年以上も、預金金利が1%を下回っている。この政策が2月に始まってから、預金金利は1%をはるかに下回り、100万円の預金に対して20円しか利子が付かなくなった。ATMの利用料は108円から216円に上がり、他の基本サービス料金も数倍になった。金庫は彼女のような人々の防衛策なのだ。

しかし、金庫は無駄である。安い金庫でも25000円するが、それは1000万円の預金しか入らず、5年で劣化する。これでは節約にならない。むしろ、国民総背番号制が導入されて、脱税できなくなったことを恐れた人々が金庫を買っているのだろう。

あるいは、彼女はアベノミクスや日銀の政策が失敗すると信じているのだ。さらに言えば、金庫を買うことは、合理的な節約というより、現在の経済環境や不安に対する人々の情緒的な反応である。

NIRPは、投資を刺激する上でほとんど効果がない。わずかに効果があったとしたら、書店でNIRPの解説書が多く売れたことだろう。それは安倍首相にとって痛いことだ。アベノミクスの効果は人々から疑いの目で見られている。

株価が上昇していた間は、人々が株価の上昇や配当を喜んだ。日銀の金融緩和と円安、政府による年金基金の運用が国債から株式により多くの資金を移したことが、Topixを上昇させた。NIRPがデフレを終わらせることで、企業は投資に向かうはずだった。

しかし、人々がデフレの終わりを予想せず、株価が上昇し続けないとしたら、金庫が売れるだろう。それはNIRPの失敗をもたらす。

彼女がお店で金庫を選ぶとき、予想以上に金庫は大きくて、高価なものであることを知るだろう。買うのを諦めると信じたい。


l  平和による社会的分解

FP JUNE 17, 2016

The Case Against Peace

BY STEPHEN M. WALT

戦争がない平和の時代が続くと,すなわち,外的な脅威が減少すると,国家の内部で社会的・民族的な対立が強まり,国家の求心力が低下する.これが,世界各地で秩序の衰退,混乱が深まっている理由である.


l  ラジャンの退任

FT June 19, 2016

Raghuram Rajan’s departure is huge setback for reform in India

Eswar Prasad

ラジャンRaghuram Rajanがインド準備銀行の総裁を止めると表明したことは,金融市場に衝撃をもたらした.その長期の影響が懸念される.

ラジャンが総裁に就任した2013年9月には,ルピーの価値が急落し,経経済成長は停止し,インフレ率が2桁に達していた.ラジャンは経済に対する手堅い才能を証明した.彼はインフレを抑え,金融システムを改革したのだ.

グローバルな経済不安が高まる中で,インド準備銀行がラジャンを失うなら,投資家の不安は高まる.インドの制御できないショックが続けば,資本流出が起きるだろう.

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The Economist June 11th 2016

Banyan: Foreign lives

Charlemagne: The politics of alienation

Consequences of Brexit: Beyond the fringe

Brexit brief: The charms of variable geometry

Bagehot: The new J-curve

(コメント) シンガポール経済がアジアの外国人労働者によって支えられていることは知っていました.その出稼ぎ労働者が詩集を出版した,という記事です.労働者の38%を占める,という数字に,日本の非正規雇用を想います.

オランダのハーグにおいて,イスラム教徒のコミュニティーが中道左派政党に失望し,自分たちの政党を立ち上げた,という話です.しかし,アイデンティティによって別の政党を立ち上げることが,政治による統合を妨げる悪循環を指摘します.

Brexitは起きました.2週間前から,現在まで,この時差をともなう紹介は,ジャーナリストたちの思索の鋭利さ,深淵さを問い直します.グローバリゼーションのJカーブ効果,として,短期的には政治的不安定化が経済的利益を超えることに注目します.

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IPEの想像力 6/27/16

イギリスの国民投票はEU離脱が多数となりました。Brexitは起きたのです.

それは,惑星が衝突したような,一瞬,ちょっと考えられないことでした.たとえEUがかなり嫌いでも,移民や難民が多すぎると考えても,まさか詐欺師のような政治家に従って,EUから離脱することはないだろう.・・・ 離脱したからと言って,何が解決するというのか? ・・・

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ティモシー・ガートン・アッシュの論説に「英国はヨーロッパの一員なのか?」という考察があります.彼の答えは,「いかなる明瞭な知見にもほとんど到達することがないアイデンティティ研究の本性そのものからして,また英国的アイデンティティの本性からしても,結論は全く存在しない」というものです.政治がアイデンティティを論争するとき,間違いを犯す,という意味に理解しました.

国家とは常に作られた構築物であり,国民は歴史という大きな物語を学ぶことで創り出されます.それは,「英国が爆弾の轟音によって突然に覚醒させられて以来60年」・・・(これは,ジョージ・オーウェルの予感を継承し,2001年のアッシュの論説では,第2次世界大戦を意味します.しかし,今なら,イラク戦争やロンドン地下鉄のテロでしょう.)・・・「ますますヨーロッパの一因になり,ますます島国でも,アメリカに顔を向けた大西洋国家でもなく,ポスト帝国的でもない国になってきた」という,新しい物語です.

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少し考えてから,なるほど,イギリスはそもそも離脱する余地を持つ国だった,と思いました.イギリスは独仏による戦争を嫌っていましたが,自国は独裁者や占領に苦しんだわけではなく,2度の世界戦争の勝者であり,ソ連の支配も及びませんでした.

戦後のイギリスは,独仏の保護主義にEFTAで対抗し,スエズ危機のよる外交転換後,ECへの加盟を申請して,2度,ド・ゴールに加盟を拒否されました.さらに,為替レートの安定化ではドイツの支援を得られず,ERMを離脱して,その後,東西ドイツ再統一に強く反対し,ユーロ圏にも参加しないことを権利として認めさせた国です.

イギリス人のイメージでは,ドーバー海峡が大西洋よりも広い,容易に渡れない海なのです.前者は断崖絶壁,後者は小さな池というイメージです.

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Brexitは例外ではなく,改革の触媒もしくは先駆なのです.ヨーロッパ大陸においても、ユーロ危機や難民危機について、あるいは,財政=政治統合について、国境管理や財源をナショナリズムの強まる各国議会に残すべきか、重大な論争が起きています。

Brexitは,グローバリゼーションによる衝撃,東欧10か国のEU加盟と移民の流入,金融バブルや財政緊縮策による地方の疲弊を,政治的に受け止める党派を持てなかったことに対する反発でもあったでしょう。イギリス社会の内部に,EU加盟諸国間に,ロンドンとそれ以外の地域の間に,亀裂が走ります.

私は、穀物法の撤廃をめぐって、トーリーが保守党と自由党に分裂したことを思い出しました。今回,Brexitをめぐる,保守党だけでなく,労働党の混乱を見ると,両党による政権交代がイギリスの政治を動かしてきた歴史的構造をBrexitが変えるかもしれない,と思います.

穀物法撤廃は,大陸に於ける政治的な変動、革命に対する積極的な政策転換、むしろ体制の転換(先制的な革命)といえるものでした。反穀物法同盟が,工業資本家と労働者階級との連携に向かうのを恐れて,大陸的な暴力革命を避けるため,支配階級であった地主・貴族の政権が実行した旧体制からの離脱です.

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EU諸国がBrexitに対して執念深い報復を試み,イギリス国民が贖罪のための政治経済危機を味わうべきだ,と大陸の人々が願うなら,EUそのものが崩壊に向かう,という論説に注目します.

また,Brexitをナショナリズム復活の好機とみなし,政治的詐欺師たちが大きな賭けによって歴史に名を刻もうとするはずです.世界各地に模倣者たちが現れるでしょう.

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日本もイギリスである,と思います.アイデンティティや歴史認識に関する政治家たちの論争は何の答えも得られないまま,アジアの戦後世界を呪縛しています.アジアは今も冷戦の秩序に凍結されたまま,バブルの後始末や領土紛争の解決をバラバラに模索しています.

日本の参議院選挙も、同じように、社会の分解や貧富の格差、成長を高める構造改革が論争の焦点になるべきです。優れた経済政策,社会の仕組みを改善できる党派に,選挙過程は有権者の関心を向けるでしょうか?

もし憲法改正を問うのであれば,国民投票を議会制民主主義と効果的に組み合わせてほしいと思います.たとえば,・・・3度の国民投票を行います.

1度目,憲法改正の開始を問います.投票者の過半数が支持すれば,改正の手続きに入ります.憲法草案をさまざまな党派が提示します.各案は公開され,詳しく議論されるでしょう.

2度目,半年後,すべての憲法案から1つに投票します.80%を超える投票率,80%を超える支持票がなければ,次の国民投票を準備し,各草案への支持票を合わせて,最大の2つの派閥が,最終的な2つの草案を作ります.

3度目,半年後,同じ条件を満たす草案が,新憲法になります.もし議会が多数決で4度目の国民投票を認めたら,さらに半年後に,新しい2つの修正案で国民投票を行います.

こうして,80%80%の支持,有権者の64%が投票によって支持しなければ,新憲法は成立しません.改正手続きは終了し,機は熟していない,と判断します.

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感情的一体化なしには,何らかの共有された神話,バジョットが「魔法」と呼んだものなしには,人為的な,創造された政治的構造は生きながらえることができない,とアッシュは最後に書いています.EUも,英国も,そして,日本も,脆弱な政治的構築物を鍛える仕組みが必要です.

千年の神話より,憲法改正の論争過程を,現代の「魔法」にすることです.

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