IPEの果樹園2016
今週のReview
6/27-7/2
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ベーシック・インカムの時代 ・・・Brexitとはどういう意味か? ・・・日本のマイナス金利 ・・・中国の経済改革 ・・・アメリカ経済の回復 ・・・平和による社会的分解 ・・・アメリカと中東秩序 ・・・ラジャンの退任 ・・・難民政策 ・・・トランプとクリントン ・・・ラテンアメリカの政治 ・・・国際援助と体制転換 ・・・ハイテク時代の労働者
[長いReview]
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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times,
The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate,
SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)
[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介してます.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
l ベーシック・インカムの時代
FP JUNE 16, 2016
When the Welfare State Met the Flat
Tax
BY
SAMUEL HAMMOND
6月5日、250万人のスイス国民はユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)を憲法が保障する権利として認める案を否決した。その案は、人間の尊厳や最適な税制などに関して、4年近い激しい論争を経て投票された。これは、UBIが主要な政策論争として認められたことを示すと同時に、76.9%と23.1%、という大差で否決されたことも注目される。
スイス政府は、繰り返し、UBIの採用が莫大な増税を必要とする、と警告した。しかし、問題は増税への不安だけでなく、その目的が混乱していたことにもあった。
UBIへの関心は、近年、着実に高まってきた。特に、極左の社会主義者と極右のリバタリアンからの支持が高い。両社の合意は明らかに形成されつつあるが、それはよくても表面的で、悪くすると負い目になる。現実には、支持者たちの描くUBIは大きく異なっており、一方では、福祉国家の合理化、他方から見れば、プロレタリアート独裁である。
左派にとってベーシック・インカムとは、「国民の配当」、アラスカのような資源豊富な政府が採掘権の販売から得た利益の分配モデルである。UBIは、政府投資信託を補完するものとして、年金制度を国有化することを意味するだろう。
他方、いわゆる現代貨幣理論MMTの支持者の中には、政府による「職場保障」を要求するマクロ経済学の異端があった。彼らがUBIを、所得補償として次善の策と考えた。MMTの中には、UBIの財源を財政赤字に求め、一種の「ヘリコプター・マネー」、すなわち、中央銀行が直接に人々の銀行口座に現金を振り込む、究極の需要刺激策と考える者もいる。「人民のための量的緩和」と彼らはみなすが、多くのものは「歯止めないインフレの作り方」とみている。
右派では、Charles Murrayのような支持者が、近代の経済的・社会的な下層階級を緩和する方策とみている。社会は熟練や文化によって分裂している。UBIは、保守派にとって社会の崩壊を予防する手段なのだ。それに加えて、保守派にとっては、女性を働かせず家庭に取り戻すという利点がある。
リバタリアンにとって、UBIの根拠はもっと単純だ。ベーシック・インカムは官僚制や父権主義的な介入が減ることを意味する。社会給付のために、80を超える資産チェックが官僚によって行われている。つまりUBIは、保守派が好むフラット・タックスの一種になる。それはフラット・トランスファーと言ってもよいだろう。UBIは、税制に潜む既得権を持つ者の反対を過小評価している。
UBIは、見る向きによって、ウサギにも、アヒルにも見える、だまし絵である。その効果を現実に議論し始めると、あまりにも費用が掛かることに気が付く。人間の尊厳、社会の結束、完全雇用、といった目標の違いは関係ない。
支持者たちはUBIを様々な社会問題の魔法の解決策のように主張する。それはあまりに出来過ぎた話だ。
1968年、ミルトン・フリードマンはNewsweekに「マイナスの所得税に対する、右派、左派、ビジネスマン、教授たち、共和党員、民主地王院からの支持、合意形成という外観は、ひどい誤解である。」と書いた。
一種のマイナスの所得税the Family Assistance Planが、リチャード・ニクソンによって提出された。下院を1970年に通過したが、上院では、その寛大さや目的に関する論争が起き、否決された。その後、1975年には、より緩和された福祉政策として、the earned income tax credit (EITC)が導入された。それは働かない者の所得を保証せず、より多く働くような動機を与えた。この政策は600万人を貧困から救った。また多くの子供の貧困を緩和した。
EITCは、この成果を拡張して、ベーシック・インカムが実現するための手がかりにできる。子供がいる家計に拡大し、また、所得がゼロではなく、ベーシックな最低所得を基準にすればよい。
2011年、WHOの報告書は、開発援助として、(貧困層への)直接の現金給付が増えてきたことを「革命的」と評価した。そして、多くの証拠から、この政策は「慢性的な、世代間にわたる貧困から、人々が抜け出す助けになっている」という。UBIは、豊かな国の政策論争として注目を集めているが、実施の可能性は、スイスやアメリカより、発展途上諸国の極端な貧困解消で大きい。
もっとも興味深い実験は、非営利団体GiveDirectlyが組織したもので、ケニアとウガンダの携帯電話保有者に給付されている。計画の目標額は3000万ドル、48の村で、4000以上の家族に対して、13年間、大人1人当たり1日に75セントを給付する。それは少ない、と思うかもしれないが、ケニアの年間1人当たりGDPの3分の1である。
スイスの国民投票後も、UBIに関する熱意は失われていない。フランス、オランダ、カナダで、実験的な導入が計画されている。問題は、今も、多くのイデオロギーが混入されていることだ。
Project Syndicate JUN 22, 2016
Could a Basic Income Help Poor
Countries?
PRANAB
BARDHAN
Project Syndicate JUN 23, 2016
Basic Income Revisited
ROBERT
SKIDELSKY
市民すべてに一定の所得を保証するan unconditional basic income (UBI)は,歴史的に再生してきた.その考えは18世紀のトマス・ペインに始まる.UBIの難しさは,2つの目的があることだ.貧困の緩和と,生きる目的としての労働を廃止することだ.
貧困の緩和は,実際的で政治的な問題だった.工業化社会では,多くの人々が工場で働き,機械が周期的に増設される時,仕事が止まる.仕事のない間も,彼らの生活を保障しなければならない,と労働運動は要求した.
労働者たちの賃金から資金を強制的にプールして社会保障とする,「福祉資本主義」が始まった.その要求は,身体障害者や,子どもを育てる女性にも拡大され,課税によって資金を賄うようになった.
1980年代のレーガンとサッチャーは,その意図に反して,福祉の範囲を拡大した.こうした人々は,雇用や賃金を保護するための制度と法律を解体したのだが,そのために,「市場」を採用した.職場を通じて給付する,あるいは,減税するというやり方だ.同時に,保守政権は,増大する社会福祉の費用を抑えるため,給付資格を削った.
UBIの倫理的側面は,聖書や古典派経済学にさかのぼる.労働とは背活費を得るための苦役である,という考えだ.これを減らす,すなわち,余暇を増やすことが目的になる.それは労働市場と所得とを切り離す改革思想であり,UBIに対する反対論者はこの点を,「無道徳」や「怠惰」の奨励として攻撃する.
しかし,それは歴史的に見て間違いだ.それが真実なら,すべての遺産相続は廃止されただろう.これまで, 19世紀のヨーロッパでは,ブルジョアとは多くが地主であって,誰も彼らが働かないことを問題にしなかった.今も,資産家の多くの所得は労働に依拠していない.
UBIを財源不足として反対する意見も,同様に,的外れだ.過去30年間の労働生産性上昇の果実は,その大部分が非常に裕福な階層の所得を増やした.あるいは,量的緩和の過程で,中央銀行は同じことをしている.こうした所得の一部を利用するだけで,最低限のUBIは導入可能だろう.
将来,ロボットが生産性を高めるのであれば,所得場の消滅を恐れるより,その利潤増大を人々の基本所得として還元するべきだ.
l Brexitとはどういう意味か?
The Guardian, Friday 17 June 2016
So Britain, are you ready to enter
the United Kingdom of Ukip?
Marina
Hyde
FT June 17, 2016
Let us spurn Brexit and remain a
beacon of tolerance
Simon
Schama
議員が殺害されたことを思い出すまでもなく、EU論争を決めるのは経済学ではない。
離脱派の指導的議員Michael Goveは、「イギリス人は専門家たちにうんざりしている」と述べた。それはBrexitの短期と長期の経済悪化を予測した報告を嫌うからだ。資本逃避、ポンドの暴落、政府や研究予算が空っぽになるのは、恐怖をあおる妄想ではない。切迫した現実だ。
イギリスは単一市場から締め出される。製造業は消滅するかもしれない。氷山にぶつかって行くようなものだ。しかし、投票は合理的に決まらない。選挙運動は、理性ではなく、情熱が動かす。
それは民主主義の問題でもない。「顔の見えない官僚たちが決めている」と離脱派は決まり文句を言うが、欧州委員会が提案しても、ヨーロッパ議会と閣僚会議が決めなければ成立しない。後者は加盟諸国の選挙で決まった閣僚だ。
主権、移民、というのも正しくない。問題は、われわれとは誰のことか? ということだ。国民は同質的なのか? われわれの国の歴史や制度は、まったく例外的なものか? われわれはいつも孤立し、オフショアにおいて(ヨーロッパ大陸から離れたところで)決定したのか?
極端な愛国主義、自国に生まれたものを優先する思想は、アメリカにも、ヨーロッパにもはびこっている。世界中のどこからでも、民主主義の思想を信じるものが集まったアメリカ人の例外主義を無視して、トランプが移民への憎悪をあおっている。ロシア、オーストリア、ハンガリー、フランスでもそうだ。イギリス独立党UKIPのNigel
Farage党首が掲げた最近のポスターもそれだ。
世界がたとえどれほどグローバリゼーションの利益を享受しても、すなわち、商品、人、アイデアが自由に移動し、インターネット空間が広がる。しかし、同時に、その反動が起きた。異国の、危険な、同化しない人々であると、誰かにスティグマを押しつけ、心理的、物理的な防御を強める。経済や社会のシステムが変化したことの結果として移民を見るのではなく、様々な社会病理の原因とみなして責める。
イギリスで、かつて同じことが起きた。10万人の貧しいユダヤ人が、ロシアの迫害を逃れて、20世紀初めにやってきた。移民たちを「ヨーロッパのあく(汚水)」とみなすthe British Brothers’
Leagueが結成された。ユダヤ人は、病気を持っており、危険であり、英語を話せない。イギリス人労働者から仕事を奪い、賃金を下げる、と嫌った。
保守党は動揺して、移民を規制するthe Aliens Act of 1905を議会が成立させた。1968年、Enoch
Powellは悪名高い演説“Rivers of Blood”をおこない、英連邦からの移民流入を止めなければ社会不安が起きると警告した。
こうした主張は、イギリスの孤立性、制度や歴史の純粋性を守る、ということが前提である。しかし、イギリスの制度はその起源も性格も孤立してできたものでは全くない。ジョン王にマグナカルタへの署名を求めた25人の貴族たちの名前を読めばよい。その多数はノルマン地方のフランス人だ。1689年の権利章典は、イギリスの立憲君主制を確立したものだが、それはオランダによる侵略、2000人の軍による18か月間のロンドン占領が結果として実現したものである。事後的に、イギリス貴族たちが「招待した」と正当化された。招待であったかどうか、いずれにせよ、イギリスを巻き込むことが、ルイ14世との戦争においてウィリアムズの死活問題であった。
その後、フランスはプロテスタントを禁止しに定住した。UKIPのFarage党首の祖先もその1人である。2世紀後に、同じような多数のユダヤ人がやってきた。私の祖父たちも含まれる。1960年代、私の母はWhitechapel and Stepneyで働いたが、ベンガルからの移民の波を迎えた。
移民はイギリスが人々に示す魅力である。木曜日の投票は、開かれたイギリスと閉ざされたイギリスの選択だ。外向きと内向き、過去と未来の選択であり、25歳以下の若者たちは圧倒的に残留を望む。ヨーロッパから解放されて、世界に立ち向かうというのは幻想だ。離脱後のイギリスは通商条約を失う。やり直しの列に並ぶだけで、主権を取り戻すのではなく、孤立する。
殺害されたJo Cox議員が示したように、われわれのコミュニティーは移民を迎えることで高められている。多様性を祝福するべきだ。われわれの国は、連合王国なのである。
FT June 17, 2016
Lessons we should learn from the
life of Jo Cox
Project Syndicate JUN 17, 2016
Brexit’s Impact on the World Economy
ANATOLE
KALETSKY
イギリスのEU離脱に関する国民投票は、その世界GDPに占める2.4%という大きさをはるかに超える重大な政治的・経済的影響を世界に及ぼす。
それは3つの理由による。
第1に、Brexitはグローバルな現象の一部である。すなわち、既存の政党に対するポピュリスト的な反抗。高齢者、貧困層、低学歴層の強い不満。彼らは既存の制度を破壊し、「エスタブリッシュメント」の政治家や経済専門家を無視する。Brexitに向かう人口の特徴は、トランプやル・ペンの支持者たちと非常に似ている。高校を卒業していない、60歳以上、ブルーカラー労働者に限定すれば、「離脱」支持は65%になる。
イギリス、アメリカ、ドイツのポピュリスト的反抗は同様の不満とナショナリスト的感情を示すが、同時に、経済条件も似ている。どの国も失業率は5%で、ほぼ完全雇用状態に回復したが、多くの職場が低賃金である。様々な社会問題の責任を、銀行家に代わって、移民たちに負わせている。
国民はビジネス界の指導者や主流の政治家、エコノミストを信用しない。Brexitによる経済の悪化を彼らが予測しても、離脱後に生活が苦しくなる、と答えた者は増えていない。IMF、OECD、世界銀行、イギリス政府、イングランド銀行の分厚い報告書は無視されたのだ。離脱派のBoris Johnsonは、トランプのように、それらを馬鹿にした。“Oh believe me, it will be fine.”
第2に、イギリスの国民投票は、専門家や市場と、世論調査とのどちらが、ポピュリストの台頭に関して真実に近いのか、それを測る最初のテストであるからだ。現在、大西洋の両岸で、政治評論家や金融市場は、自惚れにより、世論調査が示す有権者の怒りが現実の投票行動に示されることはない、と考えている。賭けの比率も、コンピューター・モデルも、トランプの当選やBrexitを、50%ではなく、25%と予測している。
第3に、最も心配なことだが、投票結果の持つ意味だ。イギリスのように安定し、政治的に穏健な国で、Brexitが勝利するなら、ヨーロッパの他の地域やアメリカでも起きているポピュリストの台頭について、金融市場とビジネスの自己満足した対応は世界中で混乱へと向かう。市場の不安が経済の現実を変えるだろう。より大きな反エリートの怒り、政治的革命への一層の期待が生じる。
その感染が起きれば、Brexitは次の世界危機の触媒となる。仕事を失う労働者たち、貯蓄を失う年金生活者たち、住宅の価値が下落して資産がマイナスになる人々は、もはや、銀行家を責めることもできない。ポピュリストたちの革命を支持して、その失敗で苦しむのは自分たちでしかない。
NYT JUNE 17, 2016
Britain’s Dangerous Urge to Go It
Alone
By
THE EDITORIAL BOARD
NYT JUNE 17, 2016
Fear, Loathing and Brexit
Paul
Krugman
NYT JUNE 17, 2016
Jo Cox, Brexit and the Politics of
Hate
By
DANIEL TRILLING
NYT JUNE 17, 2016
Britain Asks if Tone of ‘Brexit’
Campaign Made Violence Inevitable
By
STEVEN ERLANGER
FP JUNE 17, 2016
Welcome to the Fantasy Island of
Little England
BY
EMILE SIMPSON
The Guardian, Saturday 18 June 2016
Scotland’s Europhilia stands between
Cameron and catastrophe
Ian
Jack
The Guardian, Saturday 18 June 2016
The aftershocks of a vote to leave
the EU will rebound on Britain
Natalie
Nougayrède
VOX 18 June 2016
The pound and the macroeconomic
effects of Brexit
Giancarlo
Corsetti, Gernot Müller
The Guardian, Sunday 19 June 2016
Brexit is being driven by English
nationalism. And it will end in self-rule
Fintan
O'Toole
The Guardian, Sunday 19 June 2016
Take your country back from those
who seek to destroy it
Nick
Cohen
離脱派の選挙運動はイングランドの最悪のものをつかんだ。それを魅了して、絶叫し、心を閉ざし、他のことなど気にしない無責任な運動を展開している。新しい右派が勝利すれば、その結果は容易に逆転できない。
FT June 19, 2016
Democracy needs to be nurtured and
protected
Chris
Patten
FT June 19, 2016
Why true democrats should vote to
remain in the EU
Gideon
Rachman
国民投票をここでやめてほしい。投票の1週間前に、Jo
Coxの殺害が起きた。それは、投票結果が何であれ、将来を暗示している。
国民投票は選挙と異なる。その結果は数年でひるがえせず、歴史的なものになる。それ故、人々は絶望し、時に憤慨する。
しかし正直に言えば、私は離脱派の主張も部分的に同意できる。EUが機能していない、ということは間違いない。ユーロ危機や難民危機がそれをはっきり示した。離脱派が主権と移民の問題を強調するのも理解できる。離脱に投票する人が、すべて人種差別主義であるとか、愚か者であるということはない。
しかし、私が残留派であるのは、現実面、情緒面、政治・経済面の理由があるからだ。
まず、離脱を決めれば、その後の数年は政治・経済的なカオスが続くだろう。EU単一市場は利用できなくなる。新しい通商条約を速やかに結べるとは思えない。交渉過程で、民主主義の共同体内に分裂と怒りが増大する。
それは、1990年代の政治的楽園を失ったわれわれにとって、非常に危険である。中東は秩序が失われ、ロシアとの軍事的緊張が増している。アメリカは人種差別的なデマゴーグで大統領選挙が混乱し、権威主義的な中国がアジアの支配的な大国になりつつある。こんな時に、イギリスはヨーロッパの仲間を失うのだ。
離脱派は、イギリスの民主主義を取り戻す、議会に主権を回復する、というが、EUは民主主義の味方であって、敵ではない。「ブラッセルの官僚たち」に憤慨するが、彼らはヨーロッパのどこにおいても法の支配を守り、すべての市民、すべての国民に同じ権利を守っている。EUの破壊を求めるヨーロッパの勢力を見れば、それはナショナリスト、レイシスト、権威主義者、極右、極左の勢力だ。Cox議員殺害と同じような、憎悪と暴力を好む、政治の暗黒がイギリスにも広がっている。
EUのおかげで、ヨーロッパの指導者たちは国家の城壁内から互いを罵るより、仲間として協力できるのだ。次の危機に対処するため、尊敬し、約束を守り、賢明な発言を行うEUのテーブルに就くことで、ヨーロッパ全体の民主主義を助ける残留に、私は投票する。
FT June 19, 2016
European values are more important
than economics
Wolfgang
Münchau
イタリアやスペインでEUを支持するのは容易である.懐疑論はあるが,たとえ国民投票をしても,EUは否定されない.なぜなら,多くの共通政策で成果を示せるからだ.EUは彼らの政治的DNAになっている.
しかし,イギリスでは違う.イギリスは多くの重要政策で除外されることを選択してきた.ユーロ圏,シェンゲン協定,司法・治安問題,基本的権利の憲章.キャメロンは,イギリスがEUの政治統合から除外される権利を認めさせた.
では,木曜日の投票で,わざわざ何を決めるのか? イギリスから見ると,EUとは単一関税,単一市場でしかない.それはシティや大企業にとって重要だ.しかし,イギリス国民の多くには,それほど重要ではない.もし残留派が刈れば,イギリスはEU内のアウター・サークルにとどまる.離脱派が勝てば,EU外のインナー・サークルに入る.
インナー・サークルに入る(緊密な協力関係を維持する)ことには価値がある.すなわち,共通の政策を追求できるからだ.開放性と寛容さをともなう自由,平等な機会,公共財の強固な保持.
こうした目標は,たとえば,中国とブラジルと共有できない.金融的グローバリゼーションの1つの特徴は,労働報酬に大きな差が生じることであり,もう1つの特徴は,強力な権威主義体制である.新興諸国の多くは,ヨーロッパ的な社会民主主義モデルより,アメリカ型の金融資本主義に向かっている.
残留派が多くの時間を,EU加盟の経済的利益(あるいは,離脱の経済的損失)に時間を費やしたことは残念だ.EUは経済的な構築物であるが,加盟を決めるのは経済学ではない.生き方の問題だ.
FP JUNE 19, 2016
Good Riddance to Great Britain
BY
THOMAS VON DER DUNK
The Guardian, Monday 20 June 2016
The Guardian view on the EU
referendum: keep connected and inclusive, not angry and isolated
われわれの時代の重要問題は国境を重視しない。離脱派は「専門家」を馬鹿にするが、多国籍企業、移民、税回避、兵器の拡散、伝染病、気候変動、など、私たちがその意味を理解するのに専門知識などいらない。
より良い世界とは、国境を越えて機能するものであり、その中に逃げ込むことではない。世界から切り離すことは問題の解決をもたらさない。
もしあなたが離脱に投票して、勝利した離脱派が年金生活者や労働者の保護を維持するとか、拡大すると思うなら、それは幻想である。逆に、人権、平等、健康や安全性、難民支援、などは窓の外へ投げ捨てる。離脱に投票する人は、エリートに対する抵抗として投票するのだろう。しかし、真実は、権力をエリートたちの最悪の部分に渡すことである。彼らは労働者のために「支配権を取り戻す」のではない。
もし離脱派が勝利すれば、それは若者達の投票を無視することである。スコットランドのナショナリストを刺激することである。憎悪に支配された数十年の北アイルランドに和平をもたらした合意を危機に導くものだ。
The Guardian, Monday 20 June 2016
Brexit is a fake revolt –
working-class culture is being hijacked to help the elite
Paul
Mason
離脱を選択することの意味は、保守党の右派に支配権を渡すだけである。
The Guardian, Monday 20 June 2016
The English working class will be
the first victims of a Brexit vote
Billy
Bragg
FT June 20, 2016
A manifesto for Britain to properly
engage with the EU
Hugo
Dixon
FT June 20, 2016
A referendum that is both naive and
necessary
Janan
Ganesh
3年前にキャメロンが国民投票を約束したとき、彼の仲間、特にオズボーン蔵相はそれを恐れた。政府は、EU離脱を選択肢として認めたことになる。
しかし、その約束がなければ、2015年の選挙前に、キャメロンは保守党内で反対派に屈していただろう。そしてより右派の指導部により、保守党はいずれ国民投票をしたに違いない。それは木曜日の国民投票よりも離脱派に有利な条件であっただろう。
離脱に反対する者にとって、何が対案なのかを明確にすることが重要だ。
投票は、専門家たちの予測ではなく、基本的な条件を見るべきだ。それはもっともありふれた有権者の感覚である。国民投票で彼らに問われているのは、経済的な落ち着きを好むのか、それとも、移民を嫌う感情の方が強いのか? である。
キャメロンが投票に負ければ、彼について他に何も思い出してもらえない。キャメロンが勝利すれば、彼は保守党を復活させた魔法使いとして、また、2つの同盟を守った英雄として記憶される。すなわち、イングランドとスコットランドとの同盟、UKと欧州との同盟である。
FT June 20, 2016
EU referendum: A fight for hearts
and wallets
George
Parker
FT June 20, 2016
Brexiters split into nice and nasty
camps
Sebastian
Payne
FT June 20, 2016
Young people will be the losers if
Britain opts for isolation
Martin
Sorrell
FT June 20, 2016
Free Britain to trade with the world
Daniel
Hannan
FT June 20, 2016
Pollsters and bookies pose different
questions
John
Kay
FT June 20, 2016
Global risks of Brexit dwarf the
likely direct impact
Larry
Summers blog
FT June 20, 2016
A manifesto for Britain to properly
engage with the EU
Hugo
Dixon
Project Syndicate JUN 20, 2016
Brexit in Context
MICHAEL
SPENCE
政治・社会の分裂はヨーロッパを越えて広がっている。アウトサイダーとして,何が問題の本質か,について視点を追加することができるかもしれない。
第1に、分裂状態には理由がある。所得・資産の分配、強制的な構造変化のコストと利益、という意味で、ここ20年間の開発世界は、その成長パターンに問題があった。グローバリゼーションとデジタル技術の性格(特に自動化と非仲介化)は、仕事や所得を両極分解し、どの国でも中産階級に圧力がかかっていた。
第2に、ヨーロッパで続く危機は、慢性化しているようにみえるが、成長があまりにも遅く、失業が、特に若年層で、受け入れがたい高水準である。アメリカでもそうだ。しかし、大部分において、効果的な政策対応が取られなかった。中央銀行だけが、単独で、その能力や手段を拡張して対応した。ところがエリートは何もせず、金融政策の成果が不十分だと非難している。
これに対する当然の民主的反応は、意思決定者を交代させ、異なることを試す、というものだ。結局のところ、市民たちの意思を示すだけでなく、民主主義とは実験のシステムである。ただし、新しいものが改善ではなく改悪、しかも、大幅に悪化することもあるだろう。
第3に、EUが直面しているのは、他の開発諸国よりも激しい問題だ。選挙で決まった政治家たちを越えて、強力な権限を行使し、市民たちの生活を変え、それらから離れると無力さを感じるからだ。EUのガバナンス問題は、民主的な制度を超越する要素がある。
このことは、ローカルなガバナンスが問題を持たない、という意味ではない。汚職、特殊利益、無能さ、など、問題はどこでも共通している。それを改善する可能性も抵抗する制度もある。
ユーロ圏は特に不安定だ。市民たちは遠くの、官僚的エリートたちから疎外され、伝統的な経済調整手段(為替レート、インフレ、財政移転)を欠いている。財政移転には厳しい制約がある。Brexitはこの一部である。それは経済学ではなく、ガバナンスの問題である。効果的な、包括的自治というのはむつかしい。技術変化の影響は国境を無視して進むからだ。この暴風雨に対抗するために、国民のアイデンティティは失われるのか? 2014年のスコットランド独立を問う国民投票を言及した。
イギリス人は、この渦巻く水域を乗り越える能力が、EU加盟によって高まっているのか、あるいは、弱められているのか? さらに根本的には、政治的なアイデンティティが問われている。
Project Syndicate JUN 20, 2016
Europe’s Wake-Up Call
GILES
MERRITT
NYT JUNE 20, 2016
The Consequences of a Brexit
NYT JUNE 20, 2016
Jo Cox and Britain’s Place in Europe
Roger
Cohen
Bloomberg JUNE 20, 2016
Europe Hurts if Britain Goes. It's
Worse if Britain Stays.
Leonid
Bershidsky
Jo
Cox議員の殺害事件で残留派が優勢になった。Brexitによるディストピアを想像するより、イギリスがEUに残った場合の姿を考えるときだろう。ヨーロッパ統合の現状は、EU指導者たちの発言を聴いても、非常に深刻だ。
たとえば、ユーロ懐疑派とは決して思えないフランスの元大統領ジスカール・デスタンValery Giscard d'Estaingが、2000年に入って試みられたヨーロッパ憲法の制定失敗について示した厳しい判断である。憲法は一部で承認されたが、最後はフランスとオランダの国民投票で否決された。彼は、28か国によるEUを「統治不能」とみなした。「ヨーロッパにはもはや目的がない」とも述べた。
欧州理事会議長のトゥスクDonald Tuskは、われわれは現実とユートピアを和解させる責任がある、という。これまで現実をあまりにも多くのユートピアによって判断してきたが、われわれにはもはや時間がない。国民国家のない、目的や利害の対立もない、理想のヨーロッパ。しかし、それは庶民が願うものではない。「分裂の妖怪がヨーロッパを徘徊している。連邦のビジョンがそれに対する最善の答えであるとは思えない。」
また、ミッテラン元大統領の外交顧問で外務大臣であったHubert Vedrineは、特に連邦主義のイデオロギーを攻撃した。それは、より緊密な同盟という「父権主義的で権威主義者の教理問答」である。EUは研究、技術革新、教育、環境問題に集中して取り組むべきだ。国民国家間の多様性を考えれば、最小限のコンセンサスでよい。
Brexitの前に、こうしてEU政治家たちは同盟の建設や拡大を休止する議論をしていた。もっと現実の生活問題を解決し、ユーロ懐疑派にも好かれるような改革を目指し始めた。しかし、理想主義者のいうことにも一理ある。もしEUが緊密な統合化を目指すものでなくなったら、連合は停止し、解体が始まるだろう。
イギリスが残留を決めても、離脱派はEUに対する考えを変えない。それはイギリス政府に、EUを強化する試みに反対するほど強い政治圧力を及ぼす。イギリスも、反EUを掲げる政党を恐れる他の諸政府も、EUが強化され、より効果的で、問題解決に役立つような改革に、反対するだろう。これ以上の主権を手放すことは支持されない。
Brexit以前のEUは機能せず、合意形成の過程が混乱している、と批判された。しかし、Brexit後は、怯えた政治家もモラルを失った官僚も、さらに一層の醜態をさらすだろう。改革が単に同盟を弱めるとなれば、すべての改革を延期するが、それもまた同盟を弱める。加盟諸国は主権を奪い返し、条約で認めたEUの権限を無視する。
トゥスクの母国ポーランドでは、彼の政敵たちが権力を握っている。彼らは裁判所や国営メディアに介入しても、EUからの批判に耳を貸さない。予算赤字が減らせなくても、各国は例外を認めてほしいとEUに訴えない。
イギリスが残るEUとは、こうした臆病な政治家と右翼の闊歩する機関であり、EUとは何か、その目標を考えなくなった機関である。キャメロン政権は離脱派に応えるためのEU改革を提案しなかったし、フランスとドイツもEU官僚たちも、改革案を示さなかった。Brexit後の大陸の政治指導者たちは、背教者に対する執念深さを持ち、離脱を選択する愚かさを示したい、と熱望するだろう。
後者の感情はEU改革を進める力になりうる。危機を無駄にしないことだ。各国の主権を温存し、加盟国が容易に合意できることしかしない、という形で現在のEUを維持するとしたら、崩壊の道に進むだろう。
(後半に続く)