前半から続く)

Bloomberg JUNE 20, 2016

The Day After the U.K. Votes to Leave the EU

Mohamed A. El-Erian

The Guardian, Tuesday 21 June 2016

David Cameron’s fatal mistakes on immigration threaten our country’s future

Owen Jones

The Guardian, Tuesday 21 June 2016

The shocking waste of cash even leavers won’t condemn

George Monbiot

The Guardian, Tuesday 21 June 2016

On Friday I’ll get my country back. Britain will vote remain

Polly Toynbee

FT June 21, 2016

America fears effect of Brexit way beyond Britain

Philip Gordon

FT June 21, 2016

Why I believe Britain belongs in Europe

Martin Wolf

イギリスはヨーロッパの国である。問題は、それがどのようなヨーロッパの国になるのか、ということだ。周辺にとどまるのか、その規模と歴史に応じた重要な役割を担うのか?

国民投票は非対称的なものだ。離脱の場合、それを逆転できない。確信をもって離脱しなければならない。しかし、決定は必ずしも合理的であるとは限らない。

離脱派は、冷静な計算よりも、感情に訴えた。離脱に反対する者は、イギリスを信じていない、というのだ。私は、ヒトラーを逃れた難民の子として、イギリスの静かな良識、民主的な伝統、リベラリズムを信じている。それはヨーロッパにとっても欠かせないものだ。

離脱派の主張も無価値ではない。彼らは誇張し、それを不完全に示した。

イギリスは主権国家である。国民投票がそれを示した。移民の流入は予想以上に多かった。その利益は誇張されたものだったが、コストも誇張されている。移民はよりうまく管理できる。

ユーロを加盟国すべてに採用させるのは大きな間違いだ。しかし、EUを離脱すればイギリスはその影響を受けない、というのもばかげている。EUにとどまって発言するべきだ。

離脱することでイギリス経済は良くなる、という主張に根拠はない。長期手も、短期でも、離脱の結果は悪いものと、破局的なものの中間であろう。エコノミストや専門家の予測を馬鹿にする離脱派の姿勢は愚劣である。

さらに悪いことは、離脱派が離脱後の包括的な計画を何も持っていないことだ。確実に言えることは、数年間も不活実な状態が続く、ということだけである。

Boris Johnsonは、EUをヒトラーの第3帝国にたとえた。しかし、その逆こそが正しい。EUはヨーロッパ大陸に民主主義と平和を広めたのだ。それは不完全なものである。しかし、その意味することは、EUにとどまってこれを完成するべきだ、ということだ。

イギリスは、ヨーロッパの大国であり、同時に、英語を話す諸国の母国である。これら2つのつなぎ目である。

Brexitの選挙運動が刺激したエリートに対する反感は、外国人を排斥するポピュリズムによって解決できるものではない。

FT June 21, 2016

As a moderate Eurosceptic, I have plumped to vote Remain

Sebastian Payne

FT June 21, 2016

If Britain leaves, the rest of Europe will face hard choices

Laurence Boone

FT June 21, 2016

Dangers of following the path to an offshore Britain

Adam Posen

離脱派は、EUの規制を逃れて、シンガポールやスイスのように自由な金融取引で繁栄できる、という。ロンドンは、金融センターではなく、ますます人民元などの、オフショア金融センターに過ぎなくなるだろう。シンガポールと違って、6000万人の国民がシティの金融取引で繁栄することは不可能だ。シンガポールでさえ、その浮動性、不動産バブル、通貨の増価による経済活動の衰退、に苦しめられている。

いずれにせよ、ロンドンがオフショア取引で繁栄することはない。ECBはユーロの取引をユーロ圏内に移そうとするだろう。すでに、イギリス経済にとって金融取引の比重は大きくなりすぎている。離脱後の不況は、政府に雇用の維持を強く求めるが、ポンドの下落と高金利によって、財政刺激策も行えない。

絶望的な手段として、さまざまな規制や介入を始めるだけである。しかし、すでに企業や個人は課税を回避し、規制を悪用しているではないか。ジャージーやケイマン諸島で取引しないはずがない。イギリスが金融取引のシェアを拡大する攻撃的な試みは、グローバルな金融市場に混乱を生じる。

SPIEGEL ONLINE 06/21/2016

Betting the Banks

Will Brexit Be End of Party for London?

By Martin Hesse in London

Project Syndicate JUN 21, 2016

No Brexit Spoils for the EU

FABRIZIO CORICELLI

NYT JUNE 21, 2016

R.I.P., Jo Cox. May Britain Remember Your Wisdom.

Nicholas Kristof

NYT JUNE 21, 2016

Who Is to Blame for Brexit’s Appeal? British Newspapers

By MARTIN FLETCHER

NYT JUNE 21, 2016

After Brexit Vote, a Choice for Europe: Move Forward, or Fall Back

Eduardo Porter

FP JUNE 21, 2016

The Brexit Could Be Bad News for ‘Game of Thrones’

BY DAVID FRANCIS

FP JUNE 21, 2016

Europe Has a Referendum Addiction

BY MATT QVORTRUP

The Guardian, Wednesday 22 June 2016

This is why we must remain: if you're undecided, here's my final plea

Jonathan Freedland

FT June 22, 2016

Brexiters are 500 years behind the times

Rupert Gavin

主権の問題。金のかかる、自薦の、大陸における官僚制を嫌った。離脱による破滅を恐れる説教。それは1534年、イギリスはローマ・カソリックから離脱したときの論争だ。

FT June 22, 2016

Fleet Street’s European bite remains sharp

John Gapper

FT June 22, 2016

I have changed my mind on Brexit

Pierre Lagrange

FT June 22, 2016

A moment of destiny for Britain and Europe

FT June 22, 2016

The perils of a populist paean to ignorance

Philip Stephens

SPIEGEL ONLINE 06/22/2016

Don't Leave Us!

Why Germany Needs the British

By Peter Müller, Christoph Pauly and Christoph Scheuermann

FP JUNE 22, 2016

Win or Lose, the Brexit Vote Shows How Hard It Is to Defend the EU

BY DAVID MILLER

FP JUNE 22, 2016

Four Economic Questions on Brexit

BY PHIL LEVY

The Guardian, Thursday 23 June 2016

The UK is now two nations, staring across a political chasm

John Harris

FT June 23, 2016

Brexit would hurt Europe and Britain

Isabel Schnabel

NYT JUNE 23, 2016

Britain’s Dreams of a ‘Swiss Miracle’ Look More Like Fantasy

By JAMES B. STEWART

NYT JUNE 23, 2016

Brexit and the Risks of Democracy

Peter Eavis

YaleGlobal, 23 June 2016

Brexit and Burst? Britain’s Existential Crisis

Daniel Twining


l  日本のマイナス金利

FT June 17, 2016

Japan: The dash to stash

Leo Lewis and Robin Harding

彼女が西東京の自宅を出たのは、金庫を買おうと決断したからだ。昨年に比べて金庫の売り上げは2倍に伸びている。それはマイナス金利政策(NIRP)の効果だった。

日本ではすでに20年以上も、預金金利が1%を下回っている。この政策が2月に始まってから、預金金利は1%をはるかに下回り、100万円の預金に対して20円しか利子が付かなくなった。ATMの利用料は108円から216円に上がり、他の基本サービス料金も数倍になった。金庫は彼女のような人々の防衛策なのだ。

しかし、金庫は無駄である。安い金庫でも25000円するが、それは1000万円の預金しか入らず、5年で劣化する。これでは節約にならない。むしろ、国民総背番号制が導入されて、脱税できなくなったことを恐れた人々が金庫を買っているのだろう。

あるいは、彼女はアベノミクスや日銀の政策が失敗すると信じているのだ。さらに言えば、金庫を買うことは、合理的な節約というより、現在の経済環境や不安に対する人々の情緒的な反応である。

NIRPは、投資を刺激する上でほとんど効果がない。わずかに効果があったとしたら、書店でNIRPの解説書が多く売れたことだろう。それは安倍首相にとって痛いことだ。アベノミクスの効果は人々から疑いの目で見られている。

株価が上昇していた間は、人々が株価の上昇や配当を喜んだ。日銀の金融緩和と円安、政府による年金基金の運用が国債から株式により多くの資金を移したことが、Topixを上昇させた。NIRPがデフレを終わらせることで、企業は投資に向かうはずだった。

しかし、人々がデフレの終わりを予想せず、株価が上昇し続けないとしたら、金庫が売れるだろう。それはNIRPの失敗をもたらす。

彼女がお店で金庫を選ぶとき、予想以上に金庫は大きくて、高価なものであることを知るだろう。買うのを諦めると信じたい。

FT June 20, 2016

Ignore Silicon Valley, Japan is still innovating

John Thornhill

Project Syndicate JUN 22, 2016

A Japanese Ponzi Scheme?

KOICHI HAMADA

20世紀の初め、Charles Ponziが多くの人から投資の資金を集めて成功したモデルは、資金が集まらなくなって必ず失敗した。しかし、アメリカや日本を含めて、多くの政府によって同じことが行われている。

政府が安定しており、税金を集めることができると期待できる限り、このモデルは成功する。それは何世代にもわたって、先に債務を増やし、その後に返済するからだ。ただし、過度の債務は経済を圧迫するし、ショックに弱い。

その意味で、債務を減らす努力は重要だ。問題は、そのやり方である。走っている自転車が一気に回転を止めることは不可能で、危険なように、政府の債務も一気に減らせない。日本経済が直面している逆風を考慮すれば、安倍首相が消費税の引き上げを延期したことは正しかった。それを市場も認め、国債市場のリスク評価は変わらなかった。


l  中国の経済改革

Project Syndicate JUN 17, 2016

A Good Economy for China

EDMUND S. PHELPS

投資より消費が大事だ、重工業からサービスへ資源を再配置するべきだ、と議論される。しかし、経済構造を生産物の構成だけで見ることは間違いだ。労働者の移動が無視されている。


l  アメリカ経済の回復

NYT JUNE 17, 2016

One Economic Sickness, Five Diagnoses

By N. GREGORY MANKIW

なぜアメリカ経済の回復は遅いのか? 誰にも確かなことは言えないが、5つの理論がある。


l  平和による社会的分解

FP JUNE 17, 2016

America Already Has More Than Enough Nuclear Missiles

BY ADAM SMITH

FP JUNE 17, 2016

The Case Against Peace

BY STEPHEN M. WALT

戦争がない平和の時代が続くと,すなわち,外的な脅威が減少すると,国家の内部で社会的・民族的な対立が強まり,国家の求心力が低下する.これが,世界各地で秩序の衰退,混乱が深まっている理由である.

FP JUNE 20, 2016

Donald Trump’s Nuclear Envy Problem, and Ours

BY JEFFREY LEWIS

YaleGlobal, 21 June 2016

Long Nuclear Shadow Could Revive Calls for Abolition

Bennett Ramberg

Project Syndicate JUN 23, 2016

Reviving the Non-proliferation Agenda

JAVIER SOLANA


l  アメリカと中東秩序

FP JUNE 17, 2016

Diplomats’ Dissent Bolsters Calls for U.S. Assault on Assad

BY JOHN HUDSON, DAN DE LUCE

The Guardian, Sunday 19 June 2016

Isolating Russia isn’t working. The west needs a new approach

Mary Dejevsky

FT June 20, 2016

US diplomats speak unrestrained truth to power on Syria

Richard Haass

FP JUNE 20, 2016

A Humanitarian Intervention in the West Wing

BY FREDERIC C. HOF

Project Syndicate JUN 21, 2016

Who’s Winning the Middle East’s Cold War?

ROBERT HARVEY

FT June 21, 2016

Russia and Iran move towards a political solution for Syria

David Gardner

SPIEGEL ONLINE 06/23/2016

'We'll Be Back'

Islamic State Losses Could Fuel Sectarian Warfare

By Christoph Reuter

NYT JUNE 22, 2016

The False Lure of Military Intervention in Syria

By THE EDITORIAL BOARD


l  アジア外交

(China Daily) 2016-06-18

How to avoid a China-Japan conflict at sea

By Zhou Bo

FT June 19, 2016

Nuclear talks complicate shifting South Asia alliances

Ahmed Rashid

FP JUNE 23, 2016

The Fight Inside China Over the South China Sea

BY FENG ZHANG


l  ラジャンの退任

FT June 19, 2016

Raghuram Rajan’s departure is huge setback for reform in India

Eswar Prasad

ラジャンRaghuram Rajanがインド準備銀行の総裁を止めると表明したことは,金融市場に衝撃をもたらした.その長期の影響が懸念される.

ラジャンが総裁に就任した2013年9月には,ルピーの価値が急落し,経経済成長は停止し,インフレ率が2桁に達していた.ラジャンは経済に対する手堅い才能を証明した.彼はインフレを抑え,金融システムを改革したのだ.

グローバルな経済不安が高まる中で,インド準備銀行がラジャンを失うなら,投資家の不安は高まる.インドの制御できないショックが続けば,資本流出が起きるだろう.

Bloomberg JUNE 19, 2016

"Rexit" Is Bad News for India

Mihir Sharma

FT June 20, 2016

Raghuram Rajan’s exit raises doubts about reforms in India

Project Syndicate JUN 20, 2016

Trump-style Politics Comes to India

DEVESH KAPUR

Project Syndicate JUN 22, 2016

India’s Economy after Rajan

GITA GOPINATH

FP JUNE 22, 2016

Forget Brexit. Rexit Is The Real Problem.

BY JAMES CRABTREE


l  歴史の創造

FP JUNE 19, 2016

Let Them Eat Alexander the Great Statues

BY VALERIE HOPKINS


l  イタリア政治

FT June 20, 2016

The risky allure of Italy’s Five Star Movement

FT June 21, 2016

Renzi, the rottamatore of Italy, risks being left behind

Bill Emmott


l  難民政策

NYT JUNE 20, 2016

The Local Costs of the E.U. Refugee Deal

DAVID LEPESKA

FP JUNE 20, 2016

To Stay Open, Europe Needs to Close Its Doors

BY JAMES TRAUB


l  大いなる乖離

VOX 22 June 2016

Market disintegration as a pre-cursor to the Great Divergence

Daniel Bernhofen, Markus Eberhardt, Jianan Li , Stephen Morgan


l  トランプとクリントン

Bloomberg JUNE 21, 2016

Trumponomics Gets Scarier When You Actually Study It

Paula Dwyer

Project Syndicate JUN 22, 2016

Are Democrats Really Better for America’s Economy?

JEFFREY FRANKEL

ヒラリー・クリントンの主張は100%正しい.民主党の大統領であった時期の方が,共和党の大統領であった時期よりも,アメリカ経済がよかった.Alan Blinder and Mark Watsonは,こうした民主党の配当を,詳しく検討している.

2人によれば,経済パフォーマンスを決めたのは主として5つの要因だ.石油ショック,生産性上昇,防衛予算,外国の経済成長,消費の動向.そして,政府がこれらの要因に対して政策でどのように対処したか,が重要だ.

SPIEGEL ONLINE 06/23/2016

America's Last Hope

Can Clinton's Reason Defeat Trump's Rage?

By Holger Stark


l  スペインの政治モデル

The Guardian, Wednesday 22 June 2016

There is a model for the new politics we need. It’s in Spain

Owen Jones


l  ラテンアメリカの政治

FT June 22, 2016

Latin America: Under new management

John Paul Rathbone

FT June 23, 2016

Brazil bankruptcy shows up bad debt dynamics

ブラジルにおける債務累積の悪循環は,政府による保証が民間債務の負担を抑えていたことで,政府(国・都市)債務の累積と民間の破産処理が連動している.


l  国際援助と体制転換

FP JUNE 22, 2016

USAID Should Become the Department of Nation-Building

BY MAX BOOT, MICHAEL MIKLAUCIC


l  ハイテク時代の労働者

FT June 23, 2016

One small step for gig economy workers

Gillian Tett

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The Economist June 11th 2016

Banyan: Foreign lives

Charlemagne: The politics of alienation

Consequences of Brexit: Beyond the fringe

Brexit brief: The charms of variable geometry

Bagehot: The new J-curve

(コメント) シンガポール経済がアジアの外国人労働者によって支えられていることは知っていました.その出稼ぎ労働者が詩集を出版した,という記事です.労働者の38%を占める,という数字に,日本の非正規雇用を想います.

オランダのハーグにおいて,イスラム教徒のコミュニティーが中道左派政党に失望し,自分たちの政党を立ち上げた,という話です.しかし,アイデンティティによって別の政党を立ち上げることが,政治による統合を妨げる悪循環を指摘します.

Brexitは起きました.2週間前から,現在まで,この時差をともなう紹介は,ジャーナリストたちの思索の鋭利さ,深淵さを問い直します.グローバリゼーションのJカーブ効果,として,短期的には政治的不安定化が経済的利益を超えることに注目します.

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IPEの想像力 6/27/16

イギリスの国民投票はEU離脱が多数となりました。Brexitは起きたのです.

それは,惑星が衝突したような,一瞬,ちょっと考えられないことでした.たとえEUがかなり嫌いでも,移民や難民が多すぎると考えても,まさか詐欺師のような政治家に従って,EUから離脱することはないだろう.・・・ 離脱したからと言って,何が解決するというのか? ・・・

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ティモシー・ガートン・アッシュの論説に「英国はヨーロッパの一員なのか?」という考察があります.彼の答えは,「いかなる明瞭な知見にもほとんど到達することがないアイデンティティ研究の本性そのものからして,また英国的アイデンティティの本性からしても,結論は全く存在しない」というものです.政治がアイデンティティを論争するとき,間違いを犯す,という意味に理解しました.

国家とは常に作られた構築物であり,国民は歴史という大きな物語を学ぶことで創り出されます.それは,「英国が爆弾の轟音によって突然に覚醒させられて以来60年」・・・(これは,ジョージ・オーウェルの予感を継承し,2001年のアッシュの論説では,第2次世界大戦を意味します.しかし,今なら,イラク戦争やロンドン地下鉄のテロでしょう.)・・・「ますますヨーロッパの一因になり,ますます島国でも,アメリカに顔を向けた大西洋国家でもなく,ポスト帝国的でもない国になってきた」という,新しい物語です.

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少し考えてから,なるほど,イギリスはそもそも離脱する余地を持つ国だった,と思いました.イギリスは独仏による戦争を嫌っていましたが,自国は独裁者や占領に苦しんだわけではなく,2度の世界戦争の勝者であり,ソ連の支配も及びませんでした.

戦後のイギリスは,独仏の保護主義にEFTAで対抗し,スエズ危機のよる外交転換後,ECへの加盟を申請して,2度,ド・ゴールに加盟を拒否されました.さらに,為替レートの安定化ではドイツの支援を得られず,ERMを離脱して,その後,東西ドイツ再統一に強く反対し,ユーロ圏にも参加しないことを権利として認めさせた国です.

イギリス人のイメージでは,ドーバー海峡が大西洋よりも広い,容易に渡れない海なのです.前者は断崖絶壁,後者は小さな池というイメージです.

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Brexitは例外ではなく,改革の触媒もしくは先駆なのです.ヨーロッパ大陸においても、ユーロ危機や難民危機について、あるいは,財政=政治統合について、国境管理や財源をナショナリズムの強まる各国議会に残すべきか、重大な論争が起きています。

Brexitは,グローバリゼーションによる衝撃,東欧10か国のEU加盟と移民の流入,金融バブルや財政緊縮策による地方の疲弊を,政治的に受け止める党派を持てなかったことに対する反発でもあったでしょう。イギリス社会の内部に,EU加盟諸国間に,ロンドンとそれ以外の地域の間に,亀裂が走ります.

私は、穀物法の撤廃をめぐって、トーリーが保守党と自由党に分裂したことを思い出しました。今回,Brexitをめぐる,保守党だけでなく,労働党の混乱を見ると,両党による政権交代がイギリスの政治を動かしてきた歴史的構造をBrexitが変えるかもしれない,と思います.

穀物法撤廃は,大陸に於ける政治的な変動、革命に対する積極的な政策転換、むしろ体制の転換(先制的な革命)といえるものでした。反穀物法同盟が,工業資本家と労働者階級との連携に向かうのを恐れて,大陸的な暴力革命を避けるため,支配階級であった地主・貴族の政権が実行した旧体制からの離脱です.

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どうすれば、イギリスのEU離脱は防げたのか? そして,Brexit後のイギリス,Brexit後のEUはどうなるのか?

EU3つの危機に効果的に対応していたら、右派ポピュリストは政治の辺境で不満を吐き出すだけでした。すなわち、ユーロ危機、ウクライナ危機、移民・難民危機です。それは、世界金融危機と国際安全保障の危機において、EUが国家を超えた経済的繁栄、平和と民主主義を拡大する理想に従うものです。

EU諸国がBrexitに対して執念深い報復を試み,イギリス国民が贖罪のための政治経済危機を味わうべきだ,と大陸の人々が願うなら,EUそのものが崩壊に向かう,という論説に注目します.

また,Brexitをナショナリズム復活の好機とみなし,政治的詐欺師たちが大きな賭けによって歴史に名を刻もうとするはずです.世界各地に模倣者たちが現れるでしょう.

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日本もイギリスである,と思います.アイデンティティや歴史認識に関する政治家たちの論争は何の答えも得られないまま,アジアの戦後世界を呪縛しています.アジアは今も冷戦の秩序に凍結されたまま,バブルの後始末や領土紛争の解決をバラバラに模索しています.

日本の参議院選挙も、同じように、社会の分解や貧富の格差、成長を高める構造改革が論争の焦点になるべきです。優れた経済政策,社会の仕組みを改善できる党派に,選挙過程は有権者の関心を向けるでしょうか?

もし憲法改正を問うのであれば,国民投票を議会制民主主義と効果的に組み合わせてほしいと思います.たとえば,・・・3度の国民投票を行います.

1度目,憲法改正の開始を問います.投票者の過半数が支持すれば,改正の手続きに入ります.憲法草案をさまざまな党派が提示します.各案は公開され,詳しく議論されるでしょう.

2度目,半年後,すべての憲法案から1つに投票します.80%を超える投票率,80%を超える支持票がなければ,次の国民投票を準備し,各草案への支持票を合わせて,最大の2つの派閥が,最終的な2つの草案を作ります.

3度目,半年後,同じ条件を満たす草案が,新憲法になります.もし議会が多数決で4度目の国民投票を認めたら,さらに半年後に,新しい2つの修正案で国民投票を行います.

こうして,80%80%の支持,有権者の64%が投票によって支持しなければ,新憲法は成立しません.改正手続きは終了し,機は熟していない,と判断します.

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感情的一体化なしには,何らかの共有された神話,バジョットが「魔法」と呼んだものなしには,人為的な,創造された政治的構造は生きながらえることができない,とアッシュは最後に書いています.EUも,英国も,そして,日本も,脆弱な政治的構築物を鍛える仕組みが必要です.

千年の神話より,憲法改正の論争過程を,現代の「魔法」にすることです.

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