IPEの果樹園2016

今週のReview

6/20-25

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Brexit迫る ・・・債務は返済されない ・・・アメリカの政治システム ・・・国際通商体制の再編 ・・・オーランドのテロ事件 ・・・国際通貨制度の改革

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  Brexit迫る

FT June 11, 2016

If Brexit wins out, let Britain go in peace

Wolfgang Münchau

もしイギリスがEU離脱を投票によって決定し,それが成功であるとみなされたら,他の加盟諸国もこれに続くだろう.EUの高官たちがそう言うのを何度も聞いた.危険は芽のうちに摘まねばならない,と.

彼らがそう考えるのは,Brexitが経済的に成功するかもしれない,と暗黙に認めているからだ.特に,Brexitの成功は,EU支持派・残留派の最も強い主張を否定することになる.すなわち,未知への不安である.不安をあおる作戦は成功しなかった.イギリスで失敗することは,ほかでも無理だ.もっと積極的な主張を探し出すことも難しい.

だから,彼らは何としてもBrexitが成功するのを阻まねばならない.フランスでは,単一市場を含めて,イギリスとのすべての条約を破棄する,という懲罰的な対応を主張する者がいる.しかし,Brexitは,離脱派が言うほど劇的な成功を示さないだろうが,成功すると思う.EU諸国が報復するべきではない.それはEUにとって破壊的であるだろう.

イギリスの大蔵省やイングランド銀行,OECD,そしてIMFも,Brexitの深刻な経済的打撃を予測する研究を発表しているのは知っている.しかし,こうした研究はその前提に問題がある.将来の貿易パターン,そしてより重要なこととして,長期的な経済の調整に関して,間違っているのだ.イギリス経済は,20年以上前に単一市場が始まったときに調整したのと同様,新しい体制にも最終的には調整するだろう.

マクロの数学的なモデルは,多くの有益な役割を果たすが,未知の政治的決定に関して長期的な経済結果を予測することはできない.そのような場合,マイナスの効果もプラスの効果も生じるだろう.ポンドの大幅な減価は経常収支赤字を減少させるだろう.住宅価格の下落は良いことでもある.シティのビジネスの一部は失われるが,経済全体にとって,それは良いことかもしれない.その国の豊かさは,熟練と資源と,政策の正しさによって決まる.Brexitでイギリスが北朝鮮にならない限り,イギリスは豊かさを維持できる.

突然の体制変化は,短期的に,マイナスのダメージを生じる.摩擦による損失もあるだろう.しかし,短期的なコストで,イギリスがヨーロッパに占める長期の戦略的な立場を判断するのは間違いだ.

Brexitの政治的な衝撃は避けられない.では他国はどのように反応するべきか? 追随する国が出ないように,移行の経済コストを高めるべきなのか? それは無責任で,非生産的である.EUはイギリスとの貿易で黒字を示している.それを失うことは望ましくない.しかも,トルコとの難民合意で評価を下げた上に,離脱する国を懲罰するというのでは,EUのソフト・パワーは大きく損なわれるだろう.

イギリスには平和的に離脱するのを許し,良好な取引,戦略的な姿勢を取るべきだ.多くの政策分野でヨーロッパはイギリスを必要としている.しかも,将来,イギリスがEUに復帰しないとは言いきれない.

残留派が勝利した場合,EUはそれを歓迎し,キャメロンとの同意を尊重するだろう.しかし,イギリスがヨーロッパ統合から免除されることはないし,特に,フランスは条約を変える気がない.国民投票の結果にかかわらず,イギリスがヨーロッパの将来に関わる積極的役割は大きく失われる.

FT June 12, 2016

Pooled sovereignty has advanced national goals

「現代世界では,主権の内実とシンボルとを区別することが重要だ.内実とは,独立して行動する自由であり,今ではどの国にとってもそれはめったに可能ではない.」と,1975年,サッチャーMargaret ThatcherEU残留に投票することを求めた.そして40年以上たっても,保守党のBrexit派は,主権のシンボルを得ようと闘っている.

「支配権を取り戻せ!」 というのが離脱派の繰り返すスローガンだ.1975年に比べて,さらに緊密に結びつき,相互依存している世界で,それは幻想でしかない.

EUは国民国家に反する陰謀だ,イギリスの自由をヨーロッパの超国家体制に服従させるものだ,という.しかし,事実は反対だ.ドイツはドイツ的でなくなり,フランスはフランス的でなくなり,イギリスはイギリス的でなくなっている.むしろ,より強い主張では,20世紀の前半に経験した独裁と紛争の時代からヨーロッパの国民国家を救い出す同盟がEUである.

真の主権とは,国民の安全保障と繁栄とを前進させる能力を意味する.イギリスは何世紀もそれを共有してきた.1834年以降,数えることができる条約の数は13000を超えている.安全保障から,貿易,環境,人権,など,それらは国家の理論的な主権を取り崩すものだ.しかし,すべてではないとしても,そのほとんどが国益を実現している.

EUがイギリス議会から奪っているという主権は多くない.イギリス議会は,国防,経済管理,課税と財政支出,社会政策,保険・教育,計画に関して,自分たちで決めている.離脱派が執着する抽象的な主権のイメージは,40年におよぶEU加盟国としての経験と矛盾している.サッチャー革命も,労働市場の規制緩和も,金融市場の規制緩和も,ブラッセルが決めたわけではない.イギリス外交も,戦争の決断も,EUがイギリスに求めたわけではない.

Brexitは主権のシンボルを取り戻すだけだ.グローバリゼーションが進めば相互依存は深まっていく.経済的パワーが東や南に移動するにつれて,ヨーロッパの先進民主主義諸国が経済関係の条件を決定することは難しくなる.この変化から利益を実現できるのは,競争や変化に開放的な諸国だけである.

FT June 13, 2016

Britain: A time to lead rather than leave the EU?

Philip Stephens

帝国の神話を維持できなくなったイギリスは,ヨーロッパに参加する道を選ぶかもしれない.しかし,ナショナリズムの復活は,常に,それを統合への情熱から引き離す.

同じように,最初の心理劇が国民投票に先立つ数か月間,1960年に展開された.国民は衰退の10年を観ていた.スエズ危機をめぐる最後の帝国精神は,米ソによって再編された新しい地政学によって屈辱的な結末に終わっていた.

ドーバー海峡の向こうでは,敵対していた独仏が共通市場で手を組んだ.マクミラン保守党政権が世界に対する見方を再考したのはこの時だ.その結論は,現在,激しい反対運動が起きているものだった.イギリスが大陸の変化から離れたままでいることはできない,と.

当時の論争の本質的な要素は,今でも変わっていない.経済と移民に関する論争の背後に,歴史,自画像,アイデンティティーに関する,集団的な意志決定と抽象的な主権との緊張関係,ヨーロッパが示す展望とさらに広い世界をめぐる,神経痛のような感覚があった.それはまた,経済・政治的な生活における厳しい現実と衝突するような感情であった.

マクミランは彼の顧問と官僚たちに,イギリスの経済的・軍事的パワーの構成要素,さらに,10年後の姿を諮問した.そして19602月,the Future Policy Studyが届いた.

限定された部数を,「極秘」扱いで,マクミランは信頼する仲間に配った.イギリスはもはや大国のイメージを維持できず,そのグローバルな責任を果たすことは経済力を超えていた.

英仏によるスエズ運河奪還の屈辱的な失敗から4年を経て,報告書の著者たちはアメリカとの特別な関係を意識していた.イギリスの役割はアメリカとの緊密な同盟国であることに依存する,と.他方,フランスとドイツは,他の4か国と,大陸の共通市場に合意した.

イギリスの大臣や官僚たちは,石炭・鉄鋼の共通利用を目指すシューマン・プランが成功するとは思っていなかった.イギリス外交がそれを阻めると考えた.その後,イギリス外交の姿は,報告書の通り,戦略的な失敗であった.ドイツはヨーロッパの権力中枢に復活し,共通市場は成功した.イギリスが好んだEFTAは無意味になった.

イギリスは均衡を取る行動を模索したが,報告書は指摘していた.「何があろうとも,大西洋の両岸から選択を迫られるような立場だけは,絶対に避けねばならない.」

帝国を失ったイギリスだが,その視野は世界に向いていた.マクミランは,しかし,過去の帝国を引きずるイーデンAnthony Edenのノスタルジアを批判した.それは,Boris Johnson and Michael Goveにより,現在のBrexitでも繰り返されている.

他方,フランス大統領Charles de Gaulleは,マクミランによる加盟申請を退けた.「イングランドは大陸から切り離されている」と.イングランドは海洋国であり,交易,市場,供給ラインにおいて,しばしば遠方の諸国と結びついている,というド・ゴールは,イギリス最初のユーロ懐疑派として主張したわけだ.

イギリスにはヨーロッパが無くても,インドや中国と貿易できる,アメリカやカナダ,オーストラリアなど,英語圏で,あるいは,英連邦でまとまればよい,と考える.また,議会制民主主義はイギリス独自の発明である.イギリスのナショナリズムを煽ったパウエルEnoch Powellは,移民と結びつける論争を積極的に展開した.労働党の指導者は,マクミランの加盟案に反対して大きな支持を得た.

イギリスはパートナー諸国と異なる視点でEUを見てきた.フランスとドイツにとって,EUは戦争に対する答えであった.スペインとポルトガルにとって,EUはファシズムからの脱出路であった.中東欧諸国にとって,EUは自由の保証であった.しかし,イギリスは,戦争の勝者であり,1066年以来,敵国に占領されたことがない.

2008年の金融危機以後,緊縮策の強制や景気回復の失敗は,ポピュリズムに豊富な宣伝の機会を与えた.経済・社会不安と移民問題が結びつき,離脱派の主張が高まっている.グローバリゼーションに国境を開き,経済を不安定化したブラッセルの官僚たちを窓から投げ捨てるように,ポピュリストたちは訴える.

NYT JUNE 14, 2016

Britain’s Coming Independence Day

By DOUGLAS CARSWELL

キャメロン首相の最初の計画では、国民投票を呼び掛けて、EUから新しい条件を得ることで、国民を残留に説得できるはずだった。しかし、直前になっても、残留と離脱は拮抗している。

なぜこうなったのか? 残留派は、庶民とは違う感覚で、IMFOECD、イングランド銀行の損失予測を宣伝した。「黙れ」というわけだ。残留派は庶民を阻害し、彼らに敵対した。貿易が減少し、世界不況や、第3次世界大戦にまでなる、というのだ。

離脱派は、民主的な支配権を取り戻す、という主張に統一した。ブラッセルに提供している財源35000万ポンドを、自分たちの必要に応じて使うことができる。国境の支配を回復する。オーストラリア型のポイント制で移民を選ぶ。残留派こそ既得権集団に縛られている。

離脱派は楽観的だ。元ロンドン市長の下院議員Boris Johnsonは、イギリスの夜明けを代表する。ユーロ懐疑派を、時代遅れ、反動的なネイティビズムと侮蔑していた者たちは、むしろ離脱派こそが世界に開かれていることを知るべきだ。残留派は、ヨーロッパ統合のプロジェクトを1950年代から変わらずに主張する。グローバル化した世界に、規模やスケールのメリットは失われた。EUは衰退する貿易相手である。

オバマには人気があるけれど、イギリスの有権者は、アメリカが同じような主権移譲を決して認めないことを知っている。かつてアメリカが民主的な自治を選択して独立宣言したように、イギリスは独立を選ぶ。

FT June 15, 2016

Brexit imperils the confidence of strangers

Martin Wolf

離脱が選択された場合、その結果は非常に悪いものだ。離脱派を「嘘つきプロジェクト」と呼ぶのが正しい。しかも大蔵省の予測でさえ、不確実さがもたらすリスクを過小評価している。経常収支の赤字を資本流入で維持している。不確実さは資本を流出させるだろう。大幅な不況によってだけ均衡できる。

NYT JUNE 16, 2016

From Great Britain to Little England

By NEAL ASCHERSON

先週の土曜日,エリザベス女王の90歳の誕生日を祝う式典には,1000人のゲストがロンドン中心部の大通りthe Mallに並んだ.しかし,そのときも,翌週に迫ったイギリスの国民投票が歴史を変える準備を進めていた.

この高齢の女王を祝する人々は,女王やイギリス国民について,さよなら,を言うのか? あるいは,外向きの,世界を駆け巡ったグレイト・ブリテンから,リトル・イングランドに退避するのか?

離脱派のスローガン“Take back control!”が至る所に見える.これは主権の問題である,と.特に国境の管理を取り戻す.

しかし,イギリス人の受け入れた移民はヨーロッパ諸国に比べて多いわけではない.移民が少ないもちほど,声高に外国人を排斥する.住民の10人のうちの4人が外国生まれであるロンドンは,EUに残留することを支持する.

論争には怪しい予測が氾濫している.経済的な破局を示す残留派と,バラ色の未来を約束する離脱派.どちらも信用できない.Brexitの背後には,昔のイギリス帝国と例外論がある.ヨーロッパの雑多の国々とグレイト・ブリテンは同じ国家ではない.

しかし,ロンドンの政治家たちはBrexitに続くスコットランドの分離を恐れる.北アイルランドもそうだ.紛争を平和的に解決したが,イギリスが解体するとどうなるのか? イングランドのナショナリズムも抑えられない.自分たちだけの議会を求める.

キャメロンは失脚して,ボリス・ジョンソンが首相になるのか? ブラッセルもロンドンも,政治的な中枢が支配しているだけだ.国民は政治エリートを嫌っている.議会の政治家たちはBrexitに反対だ.ドイツはBrexit後のイギリスには単一市場を許さないだろう,という.

孤立はイギリスにとって最悪の時代を意味する.チェコスロヴァキアが助けを求めたとき,イギリスの首相Neville Chamberlainは,遠くの国のことだ,と無視した.Brexitになれば,同じような態度を取るだろう.戦争による破壊と殺戮が,ヨーロッパで国民国家の信用を失わせた.


l  債務は返済されない

Project Syndicate JUN 10, 2016

A Tale of Two Debt Write-Downs

ADAIR TURNER

2015年末,ギリシャの公的債務はGDP176%である.他方,日本の債務比率は248%である.どちらの政府も債務をすべて返済することはないだろう.債務の償却や貨幣化は避けられない.それは両国をグローバルな先駆者にしている.世界GDPに対する政府と民間の債務の比率は215%であり,なお増大し続けている.ギリシャと日本の政府債務について言えることは,世界についても正しいだろう.

ユーロ圏の当局は削減案を拒んできた.しかし,ギリシャ債務の持続可能性は,大幅な削減なしには支持できない,とIMFが強く主張した.

ギリシャの債務危機は,それが3400億ドルでも,金融安定性を脅かすリスクである.しかし,それでは10兆ドルに及ぶ日本の債務はどうなのか? ギリシャ債務は今や公的機関に保有されているが,日本の債務はそうではない.世界中で民間投資家のポートフォリオにある.その場合,債務の削減ではなく,貨幣化が持続可能性を回復する道になる.

2010年に,IMFが示した債務返済へのシナリオは妄想である.2030年までに債務のGDP比率を80%まで下げるため,GDP6.4%という予算赤字を,2020年までに6.4%の黒字に転換する,というのだ.その後,10年間、黒字を維持する.それほどの財政収支の転換は深刻な不況をもたらすだろう.

しかし,債務が無限に膨張することはできず,現在,国債発行額は年に40兆円足らずだが,日銀が量的緩和策として80兆円を購入している。日本の公的債務は,2018年末に,ネットでGDP28%に減少する.2020年代の初めにはゼロになるだろう.

民間が保有するすべての公的債務が返済されるという虚構を維持することは愚かである.現実的に考えて,日銀が固有する国債を政府に対する無利子の融資に転換することだ.規律のない,事実上の貨幣化が進むより,量的に明確な制約を課して貨幣化するほうがよい.

もちろん,債務がこれほど膨張する前に,政策を転換するべきであった.ギリシャに詐欺的なユーロ圏加盟を認めず,日本は20年前に成長とインフレを刺激するため政策を転換すべきであった.世界全体として,2008年の危機が起きる前に,過度の債務に頼らず経済を成長させる,根本的に異なる政策が必要であった.

しかし、債務の累積を許した今では,それが返済できないことを認めるほうが,ずっと良いのだ.


l  アメリカの政治システム

Bloomberg JUNE 10, 2016

This Campaign Broke the U.S. Two-Party System

Leonid Bershidsky

アメリカ人には2大政党制が変わることなど想像できないだろう.しかし,アメリカの民主主義もアメリカ自身も,多党制の下で政治家たちが行動するほうが,よりよく機能するだろう.今年の選挙がそれを示している.

アメリカの政治がヨーロッパ的な多党制に変わる,と私が示唆するとき,アメリカ人は笑って相手にしなかった.しかし,コロンビア大学のサックスJeffrey Sachsも,サンダースが民主党を離れて,2020年までに4大政党の選挙を進めるだろうと指摘した.すなわち,社会民主主義的左派政党,中道派政党,右派保守党,ポピュリスト的反移民政党,である.

私は5つの政党,すなわち,サンダースの社会主義政党,ヒラリー・クリントンの中道左派政党,John Kasich and Jeb Bush and Senator Marco Rubio中道右派政党,クルーズが指導する保守派キリスト教政党,トランプの右派ポピュリスト政党,を考える.

もちろん,ヨーロッパと同じようには進まないだろう.議会選挙後に,もし(大統領選挙の)勝者が多数の支持を得るために(議会の)連合を形成するとしたら,無条件に立場の近い政党が連合するのではなく,イデオロギーを超えて,妥協するようになる.それは,ヨーロッパが示すように,時には紛糾し,政権が成立しないだろう.しかし,オバマ政権が経験したような,長期にわたって議会が大統領府と協力しないようなマヒ状態にあることは不可能だ.

クリントンが僅差でトランプを破っても,ドイツやオーストリアがそうであるように,中道的な連携がアメリカを治めるだろう.技術革新だけでなく,政治システムの革新でも,アメリカは開放的であるべきだ.


l  国際通商体制の再編

Project Syndicate JUN 13, 2016 12

Tips for the TTIP

ANA PALACIO

3年前に交渉が始まったTTIPthe Transatlantic Trade and Investment Partnership)は、その勢いを失い、政治的合意のチャンスを狭めている。アメリカでも、EUでも、主な政治家たちが反対している。

グローバリゼーションが行き過ぎて、少数者の利益を実現するだけで、庶民の生活を脅かしている、という反発が強まっているからだ。しかし、実際には、国際的ルールや基準に従う自由貿易は、マクロ経済にネットでプラスの影響を与える。重要なことは、そのマイナスの影響を抑えるように、経済を開放する社会の準備を進めることだ。

損失を強いられた集団への事後的な補償メカニズムがアメリカにもEUにもあるが、それらは不十分だ。財、サービス、資本が自由に移動する社会には、根本的な構造改革が避けられない。そのために、特に注目されるのは教育である。

TTIPを個別の分野で自由化交渉するのではなく、もっと規制の枠組みを収斂させ、改善するものとして捉えるべきだ。EUがグローバルな通商体制に発言力を強めることになる。政治的な制約を超えて、TTIPが創造的な思考を可能にするなら、世界の195か国が参加する合意の枠組みを提示できるだろう。

そのためには世論の支持が欠かせない。開放性と進歩に対する社会の調整に向けたエネルギーを補給するべきだ。


l  オーランドのテロ事件

NYT JUNE 15, 2016

Lessons of Hiroshima and Orlando

Thomas L. Friedman

オーランドの悲劇を考えるとき,私は広島のオバマ演説を思い出した.オバマは,アメリカが全人類を滅ぼす兵器を手に入れ,それを最初に使用した国である,と述べた.それゆえ,核兵器の廃絶にアメリカは責任がある,と.

オバマの演説は,科学の進歩が1国や1人の指導者,さらには,狂気に駆られる個人に途方もない殺傷力を与えることに注意した.われわれの文明は,科学技術の進歩に見合った個人の道徳や社会制度を準備してこなかった.

この点で,オーランドの殺戮が重なる.軍事的なオート・ライフル銃を誰でも買える社会は異常である.しかも,イスラム・コミュニティーの良識を深く尊敬していたが,若者たちからは多数の西側市民,イスラム教徒をも殺害する自爆テロを実行する者が次々に現れている.

ウェブサイト,ソーシャル・ネットワーク,モスクで,非寛容な考え方が広められている.政府はこうした個人を探査し,監視する完全な権限を,適切な法的評価制度の下で,行使できなければならない.

そのための複雑な社会的コンセンサスを,指導者は慎重に導く責任がある.オバマの意見にすべて賛成するわけではないが,トランプが大統領になれば,その行動とそれに対する反応は,彼を大統領候補にした共和党議員の責任である.


l  国際通貨制度の改革

Project Syndicate JUN 14, 2016

Financial Scarcity Amid Plenty

BARRY EICHENGREEN

世界に低利の融資があふれているときに、国際流動性の不足が世界経済のリスクを高めている。

「国際流動性」とは、輸入の支払い、債務のサービスに、世界中で受領される高度な品質の資産である。それは中央銀行が外国為替市場で介入のために使用し、国際投資家が価値の保蔵手段として利用し、金融市場のベンチマークになる。また、国境を超える融資の担保として受け入れられる。

最も重要な形態を1つだけ上げれば、それはアメリカ政府債である。銀行、企業、他国の政府によって保有されている。より一般的には、OECD諸国の中央銀行が発行する債務、すなわち、「ハイパワード・マネー」であり、AAAAA格付けの政府債、世界銀行や地域開発銀行の発行する債券、政府や民間が保有する金である。

国際流動性は、2009年に世界GDP60%から、今日では30%にまで減少した。それは債務超過の政府債の格付けが低下し、その他の供給は増えなかったからだ。これは、世界の貿易がGDPの成長よりも伸びなくなった、とか、グローバルな資本移動がかつてなく減少している、という問題に関係する。

アメリカ政府が債券をもっと多く発行する、というのは解決策にならない。高い格付けの民間企業が債券を発行しているが、これも国際流動性にはならない。かつてアメリカが財政黒字になった時期にそれは議論された。しかし、中央銀行や政府は、民間債券を保有したがらなかった。なぜなら、経済危機のときに、政府債のような中央銀行による支払い保証を、民間債券には期待できないからだ。

IMFSDRを多く発行することは、それが民間の取引市場を持たないから、国際流動性の追加にならない。もしアメリカ連銀のように、IMFが各国中央銀行にSDRを供給し、それを元に中央銀行が通貨を供給するなら、原理的に、解決策になる。しかし、政治的には強い反対がある。

各国は通貨発行の特権を失いたくない。しかし、国際流動性の問題を解決できない限り、グローバリゼーションの成果の多くが犠牲になる。

VOX 16 June 2016

Rules of the monetary game

Prachi Mishra

大不況において各国が採用した近隣窮乏化政策を回避するため、戦後のブレトン・ウッズ体制では、不公平な形で競争的な優位を達成する通貨価値の切り下げを禁止した。その後、固定為替レートも資本移動の規制も撤廃された後、変動レート制の下では、各国が自国にとって最善の政策を採ればグローバルな均衡は達成される、というコンセンサスが広がっている。

しかし、そのような自動的な調整を前提することは、グローバルな環境変化によって再考が求められている。なぜなら、新しい条件で総需要が不足し、あるいは、長期の高失業状態が続く、債務の膨張や超低金利が続くとき、各国が攻撃的な金融緩和政策を採用することで、グローバルな均衡をさらに悪化させる危険が増すからだ。

すべての金融政策にはスピル・オーバーが生じる。各国が「底辺への競争」を強いられるかもしれない。国際社会にとって、世界市民の視点から、どのような政策が正しく、どのような政策は避けるべきか、交通信号の役割を果たす「ゲームのルール」が必要だ。

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The Economist June 4th 2016

Rethinking the welfare state: Basically flawed

Universal basic income: Sighing for paradise to come

Refugees: Their own public Idaho

Bello: Fujimori versus anti-Fujimorismo

Brexit and the Union: Tug of war

Walmart: Thinking outside the box

(コメント) ベーシック・インカムの議論も特集されています.説得的とは言えませんが,興味深いです.財源はどうするのか? 移民はどうするのか? 無駄な仕事ばかりするのではないか? その通りです.

アイダホ州の難民センターがある町で,その閉鎖を求める住民投票があったそうです.しかし,難民センターの継続派が勝利します.なぜか? 事実は反対派の主張が間違っていることを示しました.モルモン教徒の多い土地で,海外の伝道を経験し,難民のことも良く知っている住民が多いのです.しかし,難民を救済するだけで,その後の統合を支持しない者が多いことを市長は批判します.

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IPEの想像力 6/20/16

イギリスの国民投票に関して何か言ってないか、と思い、NHKのニュースを観ました。・・・九州の大雨で死者が増えています。熊本の地震被害と重なって、被災者の暮らしがどうなっているのか、心配です。

311の大震災と津波による被災者が今も仮設住宅に住んでいることを想えば,熊本の被災者が楽観できる材料は乏しいかもしれません.地震,津波,火山,台風,大雨,大雪,洪水,など,天災の国として,救援活動や救済基金,公共住宅の準備がないのはどうしてか?

・・・同じニュースが伝えました.高浜原発の使用許可が20年延長された,と.

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また,介護に疲れた家族が利根川で心中した事件の初公判が報道されていました。この事件には,貧困や生活保護,高齢化と介護の問題など,深刻な重層した圧力を受け止める家族の痛みがあると実感します.

“下流老人の悲劇”利根川一家心中 事件直前に作成された一家の生活保護の認定調書」週刊朝日2015/12/02

「生活保護調査「惨めになった」 利根川心中、三女初公判」朝日新聞デジタル2016621

NHK福祉・ハートネット「届かなかった支援利根川心中事件をめぐって

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昨夜、NHKの番組で、世界難民デーが紹介されていました。

その映像で知りましたが,アフガニスタンからの男性が同志社大学でも学んでいます。しかし、彼の難民申請も却下されました。迫害を示す証拠がない、というのです。

番組は、歯切れの悪い、日本の難民政策の虚構をどうやっても弁解できない、ということがわかる終わり方でした。専門家として学者がコメントした「家族内のけんかで国を出たような人もいる」という部分をわざわざ引用したのは、何だったのか、と思います。

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NHKは子供の貧困も取り上げていました。たとえば、「シリーズ 子どもクライシス」 第1回「貧困・追いつめられる母子」を観たように思います。

いわゆる風俗店で働く若い女性たちのための託児所を紹介した国谷裕子のクローズアップ現代に驚きました。「あしたが見えない~深刻化する“ガールズ・プア”~」

通信制高校や夜間の専門学校に通う19歳の女性が、食費も十分に得られないようなアルバイトで生活しています。いくつもの非正規の仕事を掛け持ちで勤めて、やっと月収が13万円では、とても結婚して子供を育てることなど考えられません。

10代、20代の女性の貧困が深刻になり、シングルマザーでも,子供を預けて働ける、他より高収入、と宣伝する風俗店に集まるのです。

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先日、再放送されていたNHKドキュメンタリー「走れ 国をひとつにするために~南スーダン 陸上~」2016515日を観ました。

「難民選手団」リオ五輪に特別参加 IOC決定」テレ朝ニュース(2016/06/04)

かつて1つの国であったスーダンは,内戦を繰り返し,住民投票で独立したはずです.しかし,ダルフールの紛争,油田とパイプライン,自衛隊の派遣,などで注目していました.

難民となった女子陸上選手が,十分な食事もとれず,激しい練習に体調を崩して苦しみます.選考会に参加するため帰国する旅費もありません.

オリンピックに難民枠を認めたことがキャンプで暮らす子供たちの励みとなるでしょうか.

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グローバル・ベーシック・インカム(GBI)は、こうした問題に対抗できるかもしれません.しかし, The Economistの特集記事は、BIに否定的です.FTも否定的な内容の論説でした.スイスでは住民投票によってベーシック・インカムが否決されました.

BIには,まだ,さまざまな問題があると思います.しかし,福祉国家が時代の政治経済構造に応じて誕生したように,グローバリゼーションやロボット,AIの時代に,労働者たちが人間として文明生活を享受できるような,新しい考えが必要です.GBIも,これほど深刻な問題が繰り返される限り,きっと将来は現実になっていると思います.

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