IPEの果樹園2016

今週のReview

6/13-11

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TPPと反TTIP ・・・イギリスのEU離脱国民投票 ・・・ベーシック・インカム否決 ・・・低成長とポピュリズム ・・・トランプの選挙戦術 ・・・モハメド・アリ ・・・ブラック・ホール経済学 ・・・ISISとの戦争 ・・・反民主主義とG7 ・・・移民政策の見直し ・・・財政刺激策 ・・・技術、戦争、雇用について

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  TPPと反TTIP

NYT JUNE 2, 2016

If the Trans-Pacific Partnership Crumbles, China Wins

Roger Cohen

ベトナム戦争から40年が経って、アメリカはベトナムで高い支持を得ている。それは、オバマの訪問の間にも熱い歓迎に示された。アメリカは歴史的な宿敵である中国に対する対抗として、また若者たちにとっては成功のシンボルとして、支持されている。

もしベトナムの熱意を冷ます最も効果的な方法があるとしたら、それは議会がTPPを承認しないことであろう。それはアジアにおける安定化を促すアメリカの役割を損なう。

しかし、トランプは中国もインドがアメリカを利用していると攻撃し、その両国とも含まないTPPを「裏切りだ」と非難する。また、ヒラリー・クリントンも「21世紀の金本位制」というTPP称賛を取り消し、戦術的な後退を唱えている。

Project Syndicate JUN 6, 2016

Germany’s Strange Turn Against Trade

MARCEL FRATZSCHER

ドイツ人のTTIPthe Transatlantic Trade and Investment Partnership)に対する反感が増えている。ヨーロッパ平均の約2倍、70%が反対しているのだ。ドイツの利益にならないと考えている。低熟練労働者の賃金が下がる。大企業の利益が消費者を犠牲にして増える。情報や環境の規制が弱まり、市民の権利が侵される、と考えている。

しかし、ドイツは貿易や国際投資によって成功しており、TTIPで最も大きな利益を受ける国である。これほど多くのドイツ人が反発している理由はいくつかある。

1.ドイツの経済は非常に好調である。経済成長が持続し、失業率は4.6%で、記録的な低さだ。賃金も上昇した。経常収支黒字はGDP8%にも達する。

2.ポピュリストやナショナリストの政治的反感が広まっている。国民国家を超えた官僚制に主権を奪われている、という反感が、TTIPにも向けられる。ドイツ人はユーロ圏の問題でさまざまな支払いを求められ、これもそれを増やすと感じている。

3.ドイツ国内で所得格差が拡大している。ユーロ圏内で最大の不平等を示している。難民流入を政治的に悪用する者がいる。「システム」は不公平で、だまされている、という感覚が広まっている。

しかし、ドイツ経済は国民が考えるほど理想的ではない。OECD諸国の中では民間投資も公的投資も最低だ。労働人口の減少が進むだろう。TTIPを阻んで一番困るのはドイツである。


l  イギリスのEU離脱国民投票

FT June 5, 2016

Immigration could swing it for Brexit

Gideon Rachman

残留派は経済を語り、離脱派は移民を語る。

離脱派にとって、移民問題は3つの重要なポイントを示すことができる。1.主権の喪失。2.エリートの失敗。3EU改革のむつかしさ。

主権とは、多くの人々って、その国家に誰が属するかを決め、誰が公共のサービスを利用できるかを決める権利である。EU加盟国は、この権利を失っている。4つの基本的な自由として、加盟諸国は人の自由移動を認めているからだ。加盟国のどこに住み、どこで働くか、市民は自由に決めることができる。

しかし、私が知る限り、ヨーロッパからの移民はイギリスにとって利益であった。医療機関やコーヒー・ショップなど、多くのイギリス国内の活動は移民労働者によって支えられている。

同時に、実質賃金は停滞し、住宅価格は上昇し、公共サービスは不十分であり、多くのイギリス人がそれを移民増大と結びつけている。

NYT JUNE 6, 2016

Only in Europe Can Britain Be Great

By GORDON BROWN

かつてアメリカのアチソンDean Acheson国務長官はイギリスの将来の役割について語った。イギリスが世界において影響力を示すには、アメリカとの特別な関係を含めて、さまざまな関係がすでに有効性を失った。ただ1つだけが残されている。それは、ヨーロッパに積極的に関与することだ。イギリス自身の抵抗がそれを阻んでいる。

離脱派は今も、イギリスが一人で立つときこそ最も愛国的である、と主張する。ヨーロッパから独立し、島となるのだ。残留派は、イギリスはヨーロッパの中心にあり、最も外向きの姿勢を持っている、と語りたがる。

しかし、保守党政権は、党内のヨーロッパ懐疑論に押されて、ネガティブな論争から抜け出せない。EU加盟をより小さな悪として擁護している。もっとポジティブな論争を指導するべきだ。

伝統的な愛国主義は現代の現実と対立するとは言えない。相互依存した世界では、各国が自律性と協力との間のバランスを取っている。EUに加盟していることで、イギリスはヨーロッパの超国家システムにアイデンティティを従属させることや、「小イングランド」の精神に後退することなく、建設的な役割を果たすことができる。

ローマ法王Pope Francisは、かつて偉大なヨーロッパは、その精神を高める魅力を失い、制度を維持するテクノクラートに変わった、と嘆く。イギリスは、大陸の魂を生気づけ、国際社会が求める同盟を回復する手助けができる。ヨーロッパが自己中心の内向きの存在になっているとき、強力な外交と通商関係を世界的な規模で展開するイギリスの役割こそが重要だ。

イスラム国家を鎮圧し、気候変動に対策を取り、金融危機後の世界に、ヨーロッパが成長のエンジンとなるには、イギリスが加わって新しい活動を展開するべきだ。

EUが超国家の連邦機関としてイギリスの主権を消滅させることはない。むしろEU加盟諸国は、28か国の政府を残すだろう。EUの将来は、ヨーロッパ合衆国United States of Europeではなく、ヨーロッパ諸国の統合体United Europe of Statesである。


l  ベーシック・インカム否決

FT June 3, 2016

A simple basic income delivers little benefit to complex lives

Alan Beattie

ベーシック・インカムもしくはシティズン・インカムは右派にも、左派にも大いに魅力的なアイデアであり、関心を集めている。それは複雑な福祉のシステムを、無条件の1人当たり給付に置き換える。その単純さが先進諸国で高く評価されている。

日曜日、スイスで国民投票が行われる。すべての住民に年3万スイスフランを基本にするベーシック・インカムを採用するかどうか。世論調査が正しければ、それは否決される。

ベーシック・インカムのアイデアは1世紀ほど前からあるが、煩わしい政治を回避して、単純な、クリアな物事の解決を求める人に支持されている。その理論では、怠惰を促すより、働く意欲を刺激する、ということになる。最低賃金水準より多くを受け取る者から財源を徴収するが、税率の上昇は緩やかだ。

しかし、納税額が減る人は喜ぶが、その代償は貧しいものがさらに貧しくなることだろう。リバタリアンと左派の同盟がベーシック・インカムを支持するとしても、一方は最小国家の楽園、他方は北欧型の福祉の楽園を実現できると考えるのだから、同盟崩壊は間違いない。

たとえ増税と給付削減とのバランスを取れたとしても、所得が増えると課税される家計は労働供給を減らすだろう。最低労働の必要条件を加えると、ベーシック・インカムの最初のアイデアから離れていく。

そもそも、社会が特定の人々に給付を行うのは、身体障碍者、扶養家族、高齢者など、労働することが難しく、追加の給付がなければ、彼らが十分な生活水準を維持できない、と認めているからだ。ベーシック・インカムの根本問題は、こうした人々の事情に応じた社会的給付を、民主的な社会が認めた、という点で、福祉政策の複雑さが生じていることを無視していることだ。

ベーシック・インカムに移行することは、身体障碍、高齢、育児、特定地域の住居費用高騰、といった問題が、行政の簡素化、所得証明の煩雑さより、軽視されることを意味する。むしろ問題は、どのような福祉政策をわれわれは望むのか、ということだ。誰にでも単純に一定の所得を給付すればよい、というのでは解決にならない。


l  トランプの選挙戦術

NYT JUNE 4, 2016

Italy Feels Our Pain

Frank Bruni

アメリカにトランプが登場したとき、イタリア人は喜んだ。なぜならSilvio Berlusconiベルルスコーニで物笑いの種にされてきたからだ。今度はアメリカの番である。

ベルルスコーニも暴言を好み、ヨーロッパ中で嫌われた。アメリカはますますイタリアに似てきた。これはイタリア人のリベンジだ。ナショナリストの醜い政治がヨーロッパにも広まっている。オーストリアは民主的選挙で、第2次世界大戦後、初の右翼指導者を大統領にする寸前であった。イギリスはEU離脱を決めるかもしれない。ファシズムの復活が真剣な話題になっている。

ベルルスコーニは、自分自身を政治家階級の部外者、大胆な例外として、ファッションにした。汚職のスキャンダルが広まっていた。ベルルスコーニは超富裕なビジネスマンであり、メディアの操作方法を知って、しかも、それを所有していた。イタリア経済のダイナミズムを取り戻す、と約束した。「イタリアの新しい奇跡」を生み出す、と。

トランプにも、多くのノスタルジアが作用している。政治に対する深刻な不満がある。そしてベルルスコーニと同様に、超富裕層と一般の男女とを結びつける露骨な表現を知っている。ベルルスコーニは、判事たちや共産主義者を攻撃し、トランプは、メキシコ人やイスラム教徒を攻撃する。しかし、大衆と話すとき、いつもポケットに太陽を入れておく、とベルルスコーニは述べた。

トランプが異なるのは、アメリカがイタリアと比べ物にならないほど、世界中に脅迫する材料を持っていることだ。アメリカ人がトランプに従うなら、イタリア人がベルルスコーニを支持したよりも、はるかに危険である。

ベルルスコーニは道化師であり、イタリア人や外国人を笑わせ、最後は掃除された。しかし、トランプは違う。彼のポケットにあるのは、太陽ではない。

Project Syndicate JUN 7, 2016

Springtime for Fascism?

IAN BURUMA

言葉や思想には結果がともなう。今のポピュリストの指導者たちを、虐殺を好んだ最近の独裁者にたとえるべきではない。しかし、同じような大衆の気分を刺激する点で、彼らは毒された雰囲気を醸成し、再び、政治的な暴力を主要な表現とするだろう。


l  モハメド・アリ

The Guardian, Sunday 5 June 2016

Muhammad Ali knew he had a job to do on this planet – inspire people

Gary Younge

ブラック・パワーを示すためにオリンピックで拳を突き上げた陸上選手John Carlosがいた。アリもボクサーとして天才であっただけでなく、地球上に生きている者が何かをすることで人々を勇気づける、ということに成功した人だった。

アリは、黒人の分離主義運動を支持するthe Nation of Islamに加わったことで、また、ベトナム戦争に反対したことで、政治エリートによってパリアとみなされ、排除された。ボクサーとしてのタイトルも、試合の機会も失ったが、その信念を変えなかった。

アリは時代の産物であったが時代を超え、スポーツの世界で評価を得たがスポーツを超え、黒人であったがそのアピールは黒人を超えた。アメリカがアリを見る目は50年間で大きく変わったが、それは時代が変わっただけではない。アリが世界を変えたのだ。


l  ブラック・ホール経済学

FT June 5, 2016

The eurozone cannot escape political and fiscal union

Wolfgang Münchau

金槌しか持たないなら、すべての問題は釘を見つけることである。エコノミストたちはユーロ圏の危機を保険の問題として解決する。

保険問題として議論することで、必要な統合の問題は最も小さく見える。加盟国にショックが起きたとき、保険が機能して解決するからだ。しかし、それが政治問題を含まない、というのは間違いだ。

保険の経済モデルは法律の存在や、詐欺の取り締まり、保険契約を強制する政府の役割を前提している。しかし、国際間の債務危機には、こうした政府機関がない。以前、全ヨーロッパ規模の預金保険や、ユーロ安定化債の発行、を主張したときもそうだ。多くの国は支持したが、ドイツは反対した。

ドイツが反対する理由は2つだ。1.それは隠れた財政移転である。2.それは他国の債務に共通の責任(ドイツが支払う)を認めるものだ。

ユーロ圏の問題は、ドイツが累積する経常黒字の問題であり、ドイツに集中するパワーをユーロ圏が対抗する組織を作らない限り解決しない。それは主権の一部をその機関に移譲することであり、財政・政治統合を意味している。

FT June 5, 2016

Here is one export Germany should not be making

Peter Bofinger

4月、ドイツの財務大臣Wolfgang SchäubleECBの金融政策を厳しく批判したとき、そのマクロ経済学に対する特異な理解を明確に示していた。ドイツのエコノミストたちは、総需要の問題を物価の弾力性ほど重視しない。そして、ほとんどすべての経済問題に構造改革を唱え、財政の黒字化を要求する。

その背後には1つの経済哲学、“Ordnungspolitik”がある。それは1950年に亡くなったフライブルグ大学の経済学者オイケンWalter Euckenによる思想だ。メルケル首相も、その誕生125周年にあいさつし、「フライブルグ学派」の現代における有効性を支持した。

そこには2つの側面がある。プラスの面は、契約の自由、開放市場、私的所有、反独占、という原則を厳しく守ること。マイナスの面は、ケインズ主義を拒むことだ。

大恐慌の経験から、ケインズは積極的な需要管理の必要性を導いた。しかしオイケンは、逆に、ケインズの完全雇用政策を中央計画経済への道である、と拒否した。ケインズは市場経済の不安定性を見たが、オイケンは賃金の弾力性や金融秩序が不十分であった、と考えた。そして今でも、ショイブレは財政刺激策に反対し、ドイツのエコノミストたちはユーロ危機において緊縮策の需要面を無視した。

なぜドイツの考え方は変わらないのか? それはドイツ経済が成功してきたからだ。しかし、その理由はドイツ経済が非常に開放的であるからだ。DGPに対する輸出額の比率は46%もあり、日本の18%、アメリカの13%に比べて、非常に高い。その意味は、ドイツが他国のマクロ政策による需要管理で、受動的なマクロ安定化を実現した、ということだ。ドイツの経常黒字の60%は、米英仏伊の、大きな財政赤字を出す国との間に生じている。ドイツは(愚かにも)こうした財政政策を厳しく批判している。

世界的な視点で、ドイツが他国の需要管理政策に依存することは可能だ。しかし、非常に開放的な、孤立したケースではなく、それほど開放的ではなく、巨大なユーロ圏がその政策を採ることは間違いだ。それは世界経済のブラック・ホールになる。


l  ISISとの戦争

FT June 6, 2016

It will take more than military victories to defeat Isis

David Gardner

イスラム国家ISISの聖戦主義者たちは激しい軍事圧力にさらされている。西部のファルージャは陥落寸前であり、米軍の空爆による支援を受けて、北部のモスルに対する政府軍の進行が始まった。しかし、あまりにも多くのアクターが異なった目標を追求しており、後退したとしてもイスラム国家の反撃能力はあなどれない。

2007年から8年のアメリカ軍増派において、ISISの前身であるアルカイダはほぼ壊滅された。しかし、5年以内に聖戦主義は復活していた。それは増派による決定な勢力であったthe Sahwa (Awakening) 、すなわち、スンニ派の連合軍が、その後、無視され、解体されたからだ。彼らはアルカイダの弾圧に反発して結成された。シーア派中心のバクダッド政府は彼らを武装したセクト主義者とみなした。

シリアの紛争でも、スンニ派の多数集団はアサド政権に対する抗議運動でアメリカに裏切られたと感じた。彼らの政治的な真空は、ISISにとって理想的な勧誘対象、イラクへの反撃拠点になった。

狂気の仮面舞踏会のような共闘と再編が個々の戦場では続いている。それらを包括する政治的な方針は存在しない。ISISを完全に敗退させるには、それに対抗するように、スンニ派アラブを支援する戦略が必要だ。

アメリカは、2003年のイラク侵攻で、さらに2013年のアサド体制に対する警告とそれを無視した化学兵器の使用に対してオバマ政権が行動しなかったことで、影響力を失った。

ISISが支配領域を失っても、外からはアメリカとロシア、地域内ではサウジアラビア、イラン、トルコが、一定の政治的な経路に合意しなければ、スンニ派の世界から追い出すことはできない。


l  反民主主義とG7

Project Syndicate JUN 7, 2016

Latin America’s Rising Right

MOHAMED A. EL-ERIAN

ラテンアメリカ諸国に政策の右転換が起きている。これは、成長の欠如、公共サービスの供給失敗、という現象から生じている。アルゼンチンやブラジルのポピュリスト政権が、有権者たちの期待に応えなかったことが明白になった。ヴェネズエラの左派政権はすでに破たん国家状態だ。中国経済の減速や国際商品価格の下落などが引き金になった。

しかし、右派政権がグローバリゼーションへの不満に応えられず、また、より包括的な成長を実現しなければ、単なるエスタブリシュメントへの権力移行だけでは済まない。フィリピンでは新しく右派のポピュリストが政治家たちを激しく攻撃して大統領になっている。

Project Syndicate JUN 7, 2016

The New Backlash Against Globalization

HAROLD JAMES

伊勢志摩におけるG7サミットへの不満は明らかだ。ポピュリストたちG7を考えることは不可能だ。アメリカのPresident Donald Trump、フランスのPresident Marine Le Pen、イギリスのPrime Minister Boris Johnson、イタリアのPrime Minister Beppe Grillo、ドイツのChancellor Frauke Petryが主張するのは、さまざまな形のナショナリズムや孤立主義である。

かつて反グローバリゼーションは貿易をめぐる反対であったが、今は貿易や消費者の反応も変わった。生産者は消費者のそばに移動し、消費者も多様な外国企業の供給を歓迎する。むしろ反グローバリゼーションの中心は移民流入に対する反感になっている。

しかし、かつてよりも人々は外国文化に親しみ、反発するような変化は生じていないはずだ。むしろ、短期の外国旅行を通じて、信頼の情勢や文化理解ではなく、写真撮影やお土産の購入だけで、あわただしく列車やバスを乗り継ぐ旅行が増えている。

2次世界大戦後、大西洋間の同盟関係を深めるために、チャーチルが24日間もF.D.ルーズベルトのホワイトハウスに滞在したようなことは、反グローバリゼーションのポピュリストに対する最も重大な反撃になるだろう。


l  移民政策の見直し

FT June 9, 2016

Europe finally opens up to its neighbourhood

EUと近隣諸国との関係において、移民は圧倒的な優先課題になった。

トルコとの合意により、エーゲ海を超える移民は減少した。しかし、毎月数千人が地中海を超えて危険な旅をしている。2014年の初めから、すでに1万人以上が死んだ。移民を規制できない政府に対して、ヨーロッパ中で過激な政党が不満を煽っている。

欧州委員会は、中東やアフリカ諸国の政府と協議し、移民の抑制に関して協力する政府に支援を与え、それを守らない政府に罰を与えようとしている。貿易、開発援助、ビザ、など、あらゆる手段を駆使して移民を抑える決意だ。

このようなアプローチには批判がある。それは倫理的に支持できない。民主的価値や法の支配を拡大する今までの主張と矛盾している。EUの「ソフト・パワー」を損なうだろう。また、開発援助をこうした目的に使うことで、本当に必要な援助を開発分野から奪ってしまう。受け取る諸国はEUの援助を求めて脅迫するようになる。推定されている支援額は、さらに膨張するだろう。

しかし、移民の抑制に効果を上げるため、こうした飴と鞭の政策は有効である。レバノンの難民の扱いを改善する支援の合意、ヨルダンの難民たちを経済特区からの輸出部門に雇用させるためEU市場を開く合意、などは、これまで実質的な中身が乏しかったEUの近隣地域に関する政策を大きく変えるものだ。

EUの生存をかけて、一貫した地域協力関係を模索するしかない。


l  財政刺激策

Project Syndicate JUN 8, 2016

Let’s Get Fiscal

BILL EMMOTT

苦しくとも得られるものがある、というのではなく、苦しいだけで得られるものはない。アメリカ、ヨーロッパ、日本で、財政緊縮を続けたことは何ももたらさず、財政刺激策に転換するときだ。

しかし、こうした提案は強い反対にあう。特にドイツだが、それに限らず、多くの政府、政治家、候補者が、財政赤字を悪魔のように嫌い、反対する。

単純な真実を認めることだ。緊縮策は失敗する。

先進諸国の中でも、ユーロ圏は緊縮策を指導したが、2012年の財政協定はユーロ圏の公的債務を、2010年のピークから2015年までに3分の2も削減することを約束した。しかし、実際は債務のGDP比率が上昇した。ドイツは何とか減らした(79.7%から71%)が、フランスもイタリアも増大した。

問題は経済成長が遅れていることだ。賃金も増加せず、税収は増えない。政府が財政赤字を減らすことは不可能だった。今では成長を妨げる最悪の要因が財政緊縮である。

インフレが高い時期には、財政緊縮策には意味があった。1970年代、80年代には、財政赤字が増えるとインフレ・リスクに対して投資家が高い利回りを求め、長期金利が上昇した。逆に財政緊縮策を実行する政府には長期金利が低下したのだ。その経験が、2010年以降も、政府の財政緊縮策で民間投資は増える、という仮定を生んだ。

しかし、インフレはゼロに近く、デフレに苦しむようなユーロ圏や日本では、こうした仮定は間違いだ。しかも、長期の借入金利は記録的に低くなっている。

金融緩和だけでは明らかに不十分だ。民間投資も、雇用創出も、賃金上昇も起こせない。財政刺激策に代わるものはない。アメリカの資金ではなく、自分たちの資金で実行できる新しいマーシャル・プランが必要だ。


l  技術、戦争、雇用について

Project Syndicate JUN 9, 2016

Innovation Is Not Enough

DANI RODRIK

技術革新と生産性上昇は、経済全体にどのように広がるのか? それによって楽観派と悲観派、懐疑派が生まれる。

急速に技術革新が進む時代にも、社会には技術の二重経済が生まれるだろう。そして、生産性の高い分野に技術革新が生じる結果、労働者が生産性の低い分野に移動することも起きる。また発展途上諸国では、十分な製造業の雇用が増大する前に、早期脱工業化が起きている。

Project Syndicate JUN 9, 2016

From War to Work

FRANCES STEWART

戦争・紛争と雇用との関係は詳しく研究されていない。一般に、戦争は投資や雇用を減少させる、と考えられている。しかし、戦争・紛争はすべて異なる。紛争地域が限定されているとき、雇用や経済活動への影響は必ずしもマイナスではない。雇用は失われるが、武器輸入や輸入代替、非合法活動が増える。

失業の増加が紛争をもたらす、というのも間違った政策に結び付く。雇用にもいろいろあり、インフォーマル部門や貧困層の雇用が考慮されなければ、雇用促進政策だけでは紛争後の社会に安定化をもたらさない。

暴力的な紛争は、指導者が帰属集団のメンバーを動かすときに起きる。その動機はさまざまであるが、最も多くは権力から排除されたときだ。指導者は共通のアイデンティティに訴え、例えば宗教やエスニシティだが、メンバーたちを動員する。

雇用促進策の規模は、しばしば、その問題の大きさに比べて不十分だ。コソボでは戦争が終結して6年経つが、失業率は45%である。成功例としては、ネパール政府の政策がある。インフォーマル雇用の機会を増やし、特にもっとも困窮する地域やカーストを狙って、インフラ投資、マイクロ・クレジット、技術支援を行った。

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The Economist May 28th 2016

A nuclear nightmare

American elections: Voting wrongs

Banyan: Rocking boats, shaking mountains

Migration: Looking for a home

Free exchange: Make me

(コメント) いくつかの記事が,民主的な選挙制度の問題にかかわっています.

移民・難民という人口移動を扱った特集記事が興味深いです.難民の保護や入国を拒まないという国際合意には法的な強制力がなく,ヨーロッパの人権思想や社会福祉体制と中東,特にシリアからの難民流入は圧倒的な政治圧力となりました.ヨーロッパが率先して,国際移民体制を樹立するしか,解決策はありません.

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IPEの想像力 6/13/16

国際政治経済学に関する基本原理を、簡潔に、説明することができるでしょうか? いくつかのクラスで、学生たちにワールド・カフェで取り上げてもらったテーマはいろいろあります。

l  イギリスの製鉄業が衰退するのをどうするべきか? 中国による鉄鋼製品のダンピング輸出にどう対処するべきか?

l  イギリスはEUを離脱するべきか? EU離脱はイギリスに利益をもたらすか? ポンドと、シティに集まる金融ビジネスはどうなるか?

l  中東やアフリカからの移民・難民流入をどうするべきか? 国境で移民を制限することが解決なのか?

l  世界金融危機後の成長減速に対して国際政策協調は可能か? 財政政策の国際協調は望ましいか? ドイツによるECB批判、ユーロ圏への財政健全化要求は正しいか?

l  金融政策はさらに緩和するべきか? 量的緩和から、マイナス金利やヘリコプター・マネーに進むことは必要か?

l  アベノミクスは失敗したのか? 日本の累積債務はどうなるのか? 消費税引き上げの延期は正しいか?

l  ギリシャへの救済融資は正しいか? 大幅な債務削減は必要か? ユーロ圏を離脱して、通貨を切り下げるべきか?

l  シリア内戦、ウクライナ内戦、北朝鮮に、国際社会はどう対処するべきか?

l  イスラム国家、あるいは、国内のイスラム過激派、移民排斥の極右、など、政治テロをどのように抑えるか?

l  アメリカの金利引き上げは日本やヨーロッパ、中国、新興市場に破壊的な影響を及ぼすか?

l  中国は金融危機に向かうのか? 中国政府は、債務の膨張、銀行システムの危機を回避できるか?

これらをシンプルな問題として整理し、国境線を低くすれば、世界の政治経済問題は1つに融合する、とわかるでしょう。

1.衰退産業と地域=国際競争、2.政治経済変動と人口移動、3.マクロ政策による成長維持・雇用安定化、4.政府と民間企業の債務累積と削減圧力・金融危機、5.独自通貨・為替レートと通貨統合、そして、財政=政治統合。

複雑化する過程は無限にあります。問題の性格や条件が異なるから、地域ごとに解決するべきだ、というケースと、統合化と国際協調によって解決するべきだ、というケースが、繰り返し、各地の政治意識に現れます。

IPEが学問であるには、これらの異なるケースに一般的な原理や歴史的条件を見出し、ケースとケースの間を移動するための政策手段や政治・社会運動を識別することです。

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国際政治経済学(IPE)の原理を示す最も基本的な表現は、国境と通貨です。国境があることで、それがない地域において実現する政治経済の構造変化と異なる問題が発生し、共通するショックにも異なる調整過程が現れます。

IPEは、国境を超える調整過程を考えるとき、経済的な変動やショックが、政治的・社会的な強制過程として認識され、対抗的な手段や介入、報復や軍事的侵略を導くことに注目します。

権力による介入が、内外の調整過程を受け入れやすくすることもあれば、妨げることもあります。領土内の権力を一気に変える独裁者の交代、あるいはGrexitBrexit、大統領選挙Amexitこそ、国際政治経済秩序の構造問題を加速・悪化させる源泉だと言えるでしょう。

それゆえ、帝国と国際通貨制度は、IPEの基本的な認識地図なのです。さまざまな機会が平等かつ豊富に存在し、参加型の、公平な競争と、市民としての生活水準を保障する、そのような政治経済共同体を実現することが、帝国の拡大、もしくは、国際通貨制度において、構造変化と政治経済過程を結ぶ<問題の核心>です。

あるいは、日本がアメリカの1つの州であるとき(フロリダ、カリフォルニア、プエルトリコ)、中国の1つの省であるとき(広東省、台湾、香港)、EU1つの加盟国であるとき(ギリシャ、イギリス、スウェーデン)、衰退する産業や地域、高齢化、移民流入、金融危機に対して、どのような異なる対応策を取っただろうか? と私は考えます。

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