IPEの果樹園2016

今週のReview

6/6-11

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ギリシャ債務危機 ・・・広島原爆慰霊碑とオバマ ・・・EUを離脱せよ ・・・ポピュリズムに対抗する ・・・ネオリベラリズムの転換 ・・・ロンドンとジャカルタ

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  ギリシャ債務危機

Bloomberg MAY 25, 2016

New Deal Aims to Forget Greece, Not Forgive It

Leonid Bershidsky

IMFとヨーロッパの財務大臣たちは、ギリシャに関する新しい合意を「画期的だ」と祝った。しかし現実には、ギリシャの手に負えない債務問題を、EU諸国にとって政治的に隠ぺいするための、またIMFの評価を損なわないように隠ぺいするための合意でしかない。生命維持装置に頼る患者がいる病棟の面会時間をキャンセルしたようなものだ。

昨年7月に、860億ユーロの救済融資に合意してから、IMFはそれが持続不可能であると叫び続けてきた。EU諸国が債務の削減を認めない限り、IMFは融資に参加することを拒んでいたため、それがヨーロッパの諸政府にとって、特に救済融資を指導したドイツにとって、政治問題となっていた。

ドイツの有権者たちは返済の見込みがない国に融資などしたくないのだ。2017年の総選挙まで、ドイツ政府は有権者が嫌うことをできない。しかも、合意が無意味かもしれないという疑いは、イギリスのEU離脱論者やヨーロッパの右派ポピュリストによるEUへの攻撃を強めるから、好ましくない。

IMFには、ギリシャ債務の組み替えを、大きな声で、公に要求する理由があった。IMFはギリシャの返済能力に関して疑われ、ヨーロッパがその支払いを融資するように求めるのだ。そうでなければ、IMFの指導力が政治的に損なわれる。発展途上諸国は、IMFがギリシャになぜそれほど寛大な融資をするのか理解できないし、ヨーロッパの偏った姿勢を疑っている。だからギリシャ債務の一部を、まず、ヨーロッパの債権諸国が免除するように求めるのだ。

ヨーロッパ諸国はIMFが、少なくともドイツの選挙が終わるまで、静かにするように求めた。ギリシャが支払い不能であることは誰でも知っているが、債務免除も(ドイツにとって)不可能なのだ。双方は満足できる合意に達した。ユーログループ、すなわち、ユーロ圏の財務大臣クラブは、ギリシャの債務組み換えを現在の救済融資が終わる2018年に考慮する、と決めたのだ。

ユーログループは組み換えのための資金を用意したし、IMFの支払いが遅れることに備えて、救済融資の次の支払いを認めた。その結果、IMFは債務削減しなければ支払わないという脅しを取り下げた。誰もが満足する解決策だ。政治的リスクは、当面、最小化した。特別な負担は何もない。

しかし、ギリシャはどうか? ギリシャ議会は、新しい救済融資を得るために、付加価値税、燃料、タバコ、インターネット利用への負担増を決めた。すでに年金削減も決めていた。救済融資が求める民営化基金も決めた。しかし、債権諸国が求めるリベラルな改革は成功しなかった。ギリシャのGDPは予測を超えて減少し、わずかに歳入を増やしても、歳出はもっと増えた。景気回復の見込みはない。

結局、画期的合意というのは、債務免除ではなかった。病院のどこかで機械によって命を保っている脳死患者のように、だれも電源プラグを抜かないから、ギリシャは今後も呼吸し続ける。しかし、患者のそばで相談しないだけだ。


l  広島原爆慰霊碑とオバマ

The Guardian, Thursday 26 May 2016

The Guardian view on Obama in Hiroshima: facing a nuclear past, not fixing a post-nuclear future

「過ちは繰り返しませぬ」という原爆死没者の慰霊碑の前に、アメリカ大統領が立った、というのは良いニュースだ。しかし、アジアの戦略的な現実では、多くの同盟諸国が核抑止力の強化を求めている。

中国の台頭はバランス・オブ・パワーを変えた。北朝鮮の行動は予測できない。東シナ海では尖閣諸島について中国と日本が対立し、南シナ海では中国と近隣諸国が対立を深め、軍事強化が進んでいる。

オバマ大統領は、核なき世界の実現を唱えたプラハ演説にもかかわらず、今年の予算案では30年間で1兆ドルをかけた核兵器近代化を計画している。これではオバマの核廃絶が、まったくの偽善に聞こえる。

地政学的な制約がオバマをとらえて離さない。

FP MAY 26, 2016

The U.S. President Who Finally Went to Hiroshima

BY JEFFREY LEWIS

オバマ大統領は広島に行くべきだ。あなたも。なぜなら広島は意義ある場所だから。それはアメリカの、特にワシントンの広島に関する論争とは大きく異なる意義だ。頑迷さも、憤りも、そこでは関係ない。

アメリカにおける広島をめぐる論争は、冷戦を始めた責任に関するものだった。私はその答えに同意する。冷戦は3つの原因で起きた。すなわち、スターリン、スターリン、そしてスターリンだ。

テヘラン、ヤルタ、ポスダムで、東欧をソビエトが支配する現実を受け入れた。西側はスターリンが要求する影響圏を認めたのだ。1948年にはベルリンを封鎖し、1950年には朝鮮戦争を起こした。

その中で、西側の犯した失敗の1つに、核兵器開発がある。オッペンハイマーはトルーマン大統領に、核兵器に関してスターリンと話し合い、国際管理下に置くよう求めた。核軍拡競争を恐れたのだ。

しかし、彼らの懸念は遅かった。すでにスターリンは、スパイたちの情報から、アメリカの開発した核兵器について完璧に知っていた。トルーマンはスターリンに知らせることに決めたが、その反応について、スターリンは理解していない、と感じた。

ここから、原爆の使用が第2次世界大戦を終わらせた、スターリンを脅すためだった、という神話が生まれた。こうした歴史解釈には多くの問題がある。トルーマンが原爆を使用する意味を慎重に考えたうえで決めたとは、私には思えない。しかも原爆投下は、「アメリカ合衆国」のような巨大な人間集団の場合、単純な動機で説明できるものではない。広島に関して、その決断はなかった。それはさまざまな意見の対立の中で進んだ複雑な物語である。

私は、戦略爆撃や、John Herseyが総力戦の「物質的、精神的な邪悪さ」と呼ぶものについて、反対である。しかし、原爆使用の地政学的な正当化は、広島だけでなく1945年に示された人類の恐るべき残酷さを無視するものだ。

また、日本政府が戦闘をやめたのはソ連が参戦したことで衝撃を受け、国内の左派に敗北することを恐れたからであった。あるいは、アメリカの求めた降伏文書の外務省による翻訳が関係していた、という研究もある。

時が経つにつれて、論争は冷戦から核戦争の脅威に関心が移った。広島は核抑止力の神話、勝利の武器になった。アイゼンハワーが回顧録に書いたように、世界中で軍事的な関与を約束するアメリカは、核兵器を持ち、必要ならそれを使用する意志を持つしかない、と考えた。

トルーマンとスターリンが話し合うことを求めた科学者たちは、核兵器の破壊力があまりにも莫大なことから、根本的に異なる政治制度が必要だ、と考えた。アインシュタインも、核戦争を恐れた。しかし、冷戦は50年も続いたし、核抑止力で平和は維持された。冷戦期には、何人もの専門家が核戦争の犠牲者が2000万人以下に抑えられる、と勝利を主張した。

核拡散防止条約が述べるように、国際管理下で核軍縮が進む、と考えるのは楽しい想像だ。しかし、核兵器の悪夢が平和の保証なのか? 広島の慰霊碑の前に立つとき、われわれの国際機関やわれわれ自身が持つ最悪の可能性を実感する。

広島の平和記念公園を歩くとき、私はこれらの論争を思い出す。その言葉は異様で、むなしく感じる。広島のどこかで、あなたはベビーカーを押す家族を、あるいは、仕事に急ぐ人を見るだろう。もしそれが朝の815分であれば、その時あなたは空を見上げて、一機の爆撃機を観るだろう。そして周りを見る。

その瞬間、あなたは周りの人々と運命を共有する。なぜなら、あなたは同じ場所にいるからだ。私はそれが広島という場所の意義だと思う。すべての人類と、運命を共有する。アメリカの原爆に関する論争が持つ頑迷さと敵意を哀れに感じる。防衛メカニズムは核時代の中心問題に答えていない。人類が共有する脆弱さから逃れ出た難民たちの怒りである。

人類はその歴史を終わる破壊力を手にして、転換点に至った。われわれはその相違を超えて、政治制度を変え、平和を共有するべきだ。他の場所で行われた会議なら、愚かに思うかもしれない言葉が、広島では違う。全く逆である。他のすべての論争こそが愚かなのだ。

いつもそう思うことを、広島ほど強く感じる場所はない。オバマ大統領もそうだと思う。

NYT MAY 26, 2016

Fear Sharpens in Japan That Hiroshima’s Lessons Are Fading

By JONATHAN SOBLE

アジア各地を侵略した軍事帝国から、戦争の恐るべき結果を経て、平和主義の国家に変わり、ドイツよりも長い時間、他国に兵士を送っていない。

オバマの広島訪問は、この町と平和主義の伝統に大きな関心を向けるだろう。なぜなら、日本でもその平和主義は、野心的な安倍首相の進める保守主義と憲法改正の運動によって、長い間、後退を強いられているからだ。

大江健三郎は、「日本国憲法は広島憲法であり、東京憲法ではない」と語った。しかし、平和主義の運動は広島でも衰退してきた。

安倍は、より強力で攻撃的な中国に、また核武装した北朝鮮に対抗するには、広島が示すような内向きの平和主義では意味がない、という。日本は「普通の国」に転換して、世界の舞台で、軍備を持ち、重要な役割を果たすべきである、と。こうした安倍のアプローチを、一種の「軍事的平和主義」である、という専門家Motofumi Asaiがいる。

日本の平和主義は常に矛盾を抱えていた。憲法が禁じている自衛隊を持ち、アメリカの核の傘が強化されることを望む。日本の平和主義は、アメリカの軍事力による防衛を前提している、と他の専門家Makoto Iokibeは言う。

安倍による憲法改正はむつかしい。しかし、オバマの訪問は安倍政権の支持率を高めるだろう。それは憲法9条にとって危険なことだ、と平和運動家は考える。

平和運動家Haruko Moritakiは、オバマが原爆投下を誤りだと認めてほしかった、という。原爆投下で視力の一部を失った彼女の父が、原水爆反対日本会議を創った。また、オバマが安倍と一緒に立つことに大きな不満を感じた、という。彼女にとって、安倍は慰霊碑の言葉を打ち消す者だから。

NYT MAY 31, 2016

Why Obama Is Shinzo Abe’s Enabler

By DREUX RICHARD

未来の歴史家たちは結論するかもしれない。オバマの広島訪問は、世界で最も裕福な、最も平和主義の国家を、再軍事化するための準備であった、と。

日米同盟を強化し、日本国憲法9条を無視することが安倍とオバマの共通プロジェクトであった。それは変化し続ける東アジア情勢、特に、核武装した中国に応えるために必要だ、と判断された。オバマは間違った戦略的パートナーを選んだし、日本はアメリカの戦略に支配されることを受け入れないだろう。


l  EUを離脱せよ

FT MAY 28, 2016

Britain’s island story is different from Europe’s

David Abulafia

ヨーロッパの旗はどこでも見られる。イギリス人はヨーロッパに熱狂を示さないが、それは単に旗が退屈なだけではない。

ヨーロッパが称賛する多様性とは、キプロスからフィンランドまで共通のアイデンティティを持つ、というアイデアだが、それはどの国家間や小さな国の中でも間違いだ。19世紀にイタリアの国土回復を指導した政治家は言った。「われわれはイタリアを創った。さあ今度は、イタリア人を創らねばならない。」 ヨーロッパもそうだ。

私は、国民投票に際して、経済や安全保障がもっぱら議論されていることに失望する。当然、EUに帰属したイギリスの過去の経済成果には注意する。低成長、世界貿易におけるシェア低下、危機から危機へよろめく通貨。

イギリス政府はすべての家庭に、基本データを並べ、改革されたEUにとどまることを勧めるパンフレットを配った。しかし、イギリスと他のEU加盟諸国との関係は根本的な再編を求められる。事実ではなく偏見や、将来への不安から、投票するのは正しくない。

しかし、一層の緊密な統合とは何を意味するのか? 共同市場の創設者たちは「ヨーロッパ合衆国」を目指した。そこではすべての市民が単一の政治体制に帰属し、共通の大統領、共通の防衛と外交を持ち、経済統合とは全く違うものになる。

主権はどうなるのか? すべての国家は、NATOなどの加盟で主権を譲歩するが、それは非常に限られたものだ。EUは全く違う。法律が外から決められる。その解釈もECJが決める。イギリスとヨーロッパとの法律は伝統的に全く異なる。イギリスには明文化した憲法がない。過去の法律や権限、議会の手続きが根拠となる。

イギリスは何世紀にもわたってヨーロッパ諸国とは異なる歴史を持った。バークEdmund Burkeが『フランス革命の省察』で述べたように、イギリスは革命ではなく進化を好む。確かに19世紀の社会不安に加えて、15世紀や17世紀にもイギリスは激しい内戦を経た。しかし、最初の産業国家が最初の革命国になるというマルクスとエンゲルスの予告は裏切られたし、ファシズムや急進左派はヨーロッパほど影響力を持たなかった。

EUよりも、われわれの政府の方が、優れた法律、優れた制度を実現し、自国の必要に応じて調整できる。離脱を求める投票は、民主主義を求めるものだ。


l  ポピュリズムに対抗する

FT MAY 28, 2016

Voters need a credible alternative to populism

THEDA SKOCPOL

ECBも、ポピュリズムの台頭を警告する声に加わった。ユーロ圏の経済改革が遅れているせいでポピュリズムへの支持が高まっている。政府債務の返済を行うのに必要な財政・構造改革がなされていない、というのだ。

そこには逆説的な意味がある。金融政策を担当するECBは、成長を実現できないエスタブリッシュメントの一部である。ポピュリストが権力を得るとしたら、ECBなど、中央銀行は真っ先に攻撃されるだろう。

エスタブリッシュメントへの信頼を失った人々に、信用できる、成長回復の効果的な政策を示すべきだ。金融的な刺激策はその一部であるが、むしろ財政的な刺激策が重要だ。ユーロ圏内の財政的な余裕がある国は、支出を増やし、生産的な用途に向けるべきだ。


l  ネオリベラリズムの転換

FT May 30, 2016

A misplaced mea culpa for neoliberalism

「成長をもたらすより、ネオリベラリズムのいくつかの政策は不平等を拡大し、それがしっかりした成長を犠牲にすることになった。」Jonathan D. Ostry, Prakash Loungani, and Davide Furceri, “Neoliberalism: Oversold?” FINANCE & DEVELOPMENT, June 2016, Vol. 53, No. 2

IMFの機関誌がネオリベラリズムを批判する論文を載せたことは、実証的な議論をする技量もない無思慮なラディカルたちに、何でもかんでも批判する言葉として「ネオリベラリズム」が使われることを助長するものである。

いくつかの政策、とは何か? この著者たちは、競争政策、自由貿易、民営化、直接投資、財政の健全化は、圧倒的に多数の国で重要であると考える。論文が問題にしているのは、規制されない短期資本移動の急激な動き、財政赤字を減らす急激な変更、の2つである。これら2つは以前から批判されている。

ネオリベラリズムを攻撃するのは、非常に危険な意味がある。世界中で抑圧的な体制が、ネオリベラリズムを攻撃する十字軍に加わっている。彼らは非効率な政策で住民を苦しめ、極端な不平等を利用して国家の強権を正当化している。

また、こうしたネオリベラリズム批判に同調することでIMFが得たものは何か? 流行に乗ろうとして、帽子を後ろ向きに被った、時代遅れのおじさんとみなされるだけだ。そして、既存の政策に新しい名前を付ける宣伝で忙しくすることは、本当に重要な問題から注意を奪ってしまう。すなわち、生産性上昇が継続して低下していることについて言及していない。

Project Syndicate MAY 30, 2016

Overdosing on Heterodoxy Can Kill You

RICARDO HAUSMANN

2008年の金融危機以降、それを予測できなかった、間違った処方箋を書いた、危機の回避に失敗した、とエコノミストは非難されている。新しい経済学が求められ、正しいとされた。しかし、新しいものがすべて正しいわけではないし、良いものがすべて新しいとは限らない。

中国の文化大革命の50周年に、正当な考え方を窓から投げ捨てればどうなるか、考えるべきだろう。ヴェネズエラの現在の経済危機もそれを示す。世界で最も豊かな国の1つだが、最悪の不況と最高のインフレーション、社会指標の最悪の下落を示している。世界最大の石油埋蔵量がありながら、国民は食糧や医薬品が手に入らず、文字通り、飢えている。

それにもかかわらず、ヴェネズエラはさまざまな国際機関やイギリス労働党の左派指導者Jeremy Corbyn、ブラジルの前大統領Luiz Inácio Lula da Silva、アメリカのシンクタンクthe US Center for Economic Policy Researchに称賛されていた。ヴェネズエラは、経済原理主義を拒否する英雄だったからだ。

経済原理は、社会的な目的を達成する良い方法として、弾圧よりも、市場を利用することを考える。市場とは要するに自己組織化の1つであるから。ヴェネズエラ以外の多くの国では、食料も、石鹸も、トイレット・ペーパーも買える。それが国家の政策を乱すことはない。

もし市場の結果を好まないとき、経済理論は、課税することや、補助金を出すことを求める。あるいは、トマス・アキナスにさかのぼって、「公正な」価格を求める。経済学はそれを間違った考え方とみなす。価格は生産や消費を決める重要な情報であるからだ。

ヴェネズエラで公正な価格を求める法律が意味したのは、農家が耕作をやめ、商品が闇市場に消えたことだ。さらに、高率のインフレを抑える世界で最多品目の管理価格体制と、商品を備蓄した商店主の投獄、密輸を禁止するための国境閉鎖になった。

また伝統的な経済原理では、正しいインセンティブの構造を創り出すこと、国有企業を経営する正しいノウハウを得ることは、非常に難しい、と考えられている。だから国家は、よほど深刻な市場の失敗がなければ、あるいは、よほど重要な戦略部門でなければ、国有化しない。ところがチャベスは2006年に再選された後、農場、スーパーマーケット、銀行、電話会社、発電所、石油会社、製造業(鉄鋼、セメント、コーヒー、ヨーグルト、など)を国有化した。その結果は、生産性が急落したことだ。

財政の慎重な管理もヴェネズエラは拒否した。これも、経済的な正統派の考えとして、しばしば非難されている。しかし、ヴェネズエラが示すのは、石油価格の高騰した時期に巨額の対外政府債務を増やした末に、2013年、国際資本市場から締め出され、紙幣を印刷したことだ。過去3年間で、通貨価値の98%を失った。

進歩は間違いを特定し、異端の考え方を求めることで実現する。しかし、学習は困難で、大きな時間的遅れがともなう。すべての正統的な考え方を窓から投げ捨てても、それは災難を招くに過ぎない。文化大革命や、現在のヴェネズエラがそれを示す。


l  ロンドンとジャカルタ

FT June 1, 2016

Jakarta points the way for London mayor Sadiq Khan

Kishore Mahbubani

ロンドン市長選挙でイスラム教徒のSadiq Khanが当選したことは喜ばしい。それは西側文明の開放性と寛容さとが、今もうまく機能することを示したからだ。そして、意外かもしれないが、同じ精神はイスラム世界にも見られる。

インドネシアは世界最大のイスラム教徒人口を抱える国である。その首都ジャカルタは、中国系クリスチャンBasuki Tjahaja Purnamaによって統治されている。中国系の市長が高い支持を得ていることは、1998年にも、反華僑暴動で1000人以上が殺害されたことを想うなら、非常に意義深い。そのときPurnamaは、自身もこん棒やモロトフ・カクテル、大ナタをもって、家族を守った。

市長として17か月を送ったが、彼の支持率は高い。それは果敢に改革を進めているからだ。ナイト・クラブを閉鎖し、公娼地帯を清掃し、スラムの人々を貧困から救い、運河のどぶを浚った。

困難な政策選択にも取り組む姿勢を示した。モノレールの計画をやめて市電に変え、25年以上も官僚制が阻んでいた地下鉄計画も進めている。

Purnamaの強さは、情報の透明性を信じていることだ。ジャカルタ市の予算はオンラインで公表している。自分の電話番号を公表し、市民からのテキスト・メッセージに自分で応える。だからイスラム過激派の攻撃は効果がないのだ。ジャカルタは、世界で最もソーシャル・メディアが普及している都市だ。人々はPurnamaが都市を改善していることを知っている。

彼に会った時、政治的に成功する秘訣は何か、と尋ねた。彼の答えは、「命がけでやることだ。私はいつでも死ぬ気でやっている。」“Be prepared to die. I am ready to die”.

彼には勇気がある。圧倒的に多数がイスラム教徒の社会で、彼の勇気は命取りだ。しかし、彼は支持されている。ジャカルタ市民は自分たちの都市が、アジア各地の都市に比べて、遅れていることを心配している。Purnamaは、シンガポールから台北まで、アジアの都市を研究して、その良い面をジャカルタに取り入れる、と公約した。彼らはそれを支持したのだ。

だから、私は文明の衝突ではなく、文明の融和がグローバル化すると信じる。中国系キリスト教徒のジャカルタ市長が支持されているのは、彼がこう呼びかけているからだ。「スマホを観ればわかるように、世界は急速に前進している。私と一緒に、世界最高水準の都市行政を実現しよう。」

イスラム教徒のカーンをロンドン市民が支持し、中国系キリスト教徒のPurnamaをジャカルタ市民が支持した。ともに重要な変化である。

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The Economist May 21st 2016

The referendum craze: Let the people fail to decide

Plebiscite in Europe: Referendumania

The UN: Get the best

UN peacekeeping in Congo: Never-ending mission

Banyan: Rebuilding bridges

Crime in El Salvador: The gangs cost 16% of GDP

Bello: Lessons of the fall

Charlemagne: Vexed in Vienna

Faith in race: Integration nation

(コメント) 直接民主主義,国民投票が望ましい,という考えの間違いを正します.むしろ,政治を無意味な党派的混乱に単純化し,破局を招きます.国連事務総長の選出や,国連平和維持軍のコンゴ駐留は,理想を再生できるのか?

なぜ政治家は広島と伊勢志摩を選んだのか? エル・サルバドルのギャング,ブラジルの左派政党,オーストリアのコーポラティズム崩壊,そして,イギリスでは多文化の有機的統一論を批判し,積極的な文化統合か,融和の誘導か,が議論されています.

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IPEの想像力 6/6/16

旧支配層に対する不満が注目されています.旧思想や正統派の革新が議論されています.

50年前,文化大革命で若者たちが旧い思想を窓から投げ捨て,何を得たのか? とRICARDO HAUSMANNは問います.The Economistは,日本が犯した戦争における蛮行と,中国の文化大革命を並べて,「暗黒の歴史」と指摘します.頭を冷やして自国の歴史を直視せよ,というわけでしょう.

あるいは,東ベルリンを去る列車の窓から東ドイツ通貨や自宅アパートの鍵を投げ捨てた人々,アラブの春で体制の崩壊を歓迎した人々も,同じように問い続けているでしょう.経済活動や市場の背後には,政治があり,軍事力があり,思想があります.

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EUECB,ユーロに対する不満だけでなく,イスラム国家のテロやシリア・リビアの内戦を逃れる難民の増加,そしてヨーロッパのイスラム化を恐れる声が,各国における極右や右派のポピュリストにより増幅されています.

普通の人々は不安や恐怖に駆られて,国家・国境・治安の強化,ナショナリズムや自民族の強権体制・ポピュリスト政治家を正しい政治だと感じているようです.グローバリゼーションも,国際機関も,ヨーロッパ統合も破壊して,内向きの雇用と安全を求めるのでしょうか? 「新しい中世」が,いよいよ実現し始めたのかもしれません.

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しかし,誕生し続ける歴史の在り方を,1つに決めつけるのは間違いでしょう.思想は,現実の軋轢の中で,また,それを担う人々の柔軟性や才気により,いかようにも変わるところが面白いのです.

ロンドン市長について,BagehotThe Economist May 14th 2016)は紹介します.当選したカーンは,バッキンガム宮殿に呼ばれて宣誓します.しかし,バイブルに手を置いて,というわけにはいかず,イスラム教徒としてコーランを使ってほしい,と願います.バッキンガム宮殿には1冊のコーランもなく,どうしたら良いか,と困っていると,カーンは自分のコーランを持ってきていました.

よかったね,・・・という話ではありません.宮殿はコーランをカーンに返そうとしましたが,カーンは逆に問いかけたのです.「次にここへ来る人のために,コーランを置いて帰りましょうか?

イスラム教徒の入国は認めない,と暴言を吐いたトランプですが,カーンは例外として入国を許す,と言いました.ロンドン市長として.カーンはその申し出を断ります.「これは単に私だけの問題ではない.私の友人,私の家族,私と同じ背景を持つ世界中の人々の問題だ.」

Bagehotは考えます.旧来の,単純な多文化主義に代わって,より高度な概念が生まれるだろう.それは地域に限らない,国民に及ぶ,首相や内閣における多文化主義だ,と.もしそれが成功すれば,トランプはヒラリー・クリントンに敗北する前に,ロンドンで敗北する.そして,バッキンガム宮殿に残るカーンのコーランと,それを気にしないイギリス国民が勝利する.

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世界最大のイスラム教徒が住むインドネシアの首都,ジャカルタ市長(特別区知事),プルナマBasuki Tjahaja Purnamaは中国系クリスチャンです.インドネシアでは何度も反華僑暴動があり,多数の住民が襲撃・殺害された,というのに.

どうして彼が市長なのか? イスラム過激派は攻撃しないのか? プルナマは,ジャカルタをアジアで最高の都市にしたい,と約束しました.それを実行し続けていると市民が信じたから,市長として高い支持を得ています.市の財政をネット上に公開し,市民からの質問に自分で答えます.多くの困難な問題に直面する政治家としての覚悟を,自分は死んでもいい,必ず改革する,と語ったそうです.

暴動の中では,武器を手にして家族を守りました.

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IMFによる「ネオリベラリズム」の死亡宣告について,新産業主義の宣言について,世界金融危機後の論争はますます思想の根源を問い直します.

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なぜサミットは伊勢志摩で行われたのか? BanyanThe Economist May 21st 2016)は考えます.これはオバマと安倍の政治的な取引だった,と.2人は,アジアにおける中国との政治経済競争で同盟関係を強化したい.アメリカは中国と対抗する上で日本を欠かせないし,日本は,もちろん,アメリカを欠かせない.

オバマ大統領は自分のレガシーとして,核廃絶を唱えたこと,大統領として初めて広島を訪問し,核なき世界への関心を高めることを望みました.他方,安倍首相は伊勢志摩で世界の最高指導者たちを歓迎し,神社や神道を日本の伝統や精神世界として公式に宣伝し,承認されることを望みました.2人は,日本の軍備強化,国際安全保障を担う国家としての地位を,平和主義の日本国民に訴えます.

しかし,オバマは同盟の相手を間違ったのではないか?

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