IPEの果樹園2016
今週のReview
6/6-11
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ギリシャ債務危機 ・・・広島原爆慰霊碑とオバマ ・・・イスラエルと政治特区 ・・・新産業主義 ・・・EUを離脱せよ ・・・ポピュリズムに対抗する ・・・日本と中国とウクライナの言論統制 ・・・ネオリベラリズムの転換 ・・・ロンドンとジャカルタ ・・・中国の転換 ・・・ポーランドの保守政権
[長いReview]
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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times,
The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate,
SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)
[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
l ギリシャ債務危機
Bloomberg MAY 25, 2016
New Deal Aims to Forget Greece, Not
Forgive It
Leonid
Bershidsky
IMFとヨーロッパの財務大臣たちは、ギリシャに関する新しい合意を「画期的だ」と祝った。しかし現実には、ギリシャの手に負えない債務問題を、EU諸国にとって政治的に隠ぺいするための、またIMFの評価を損なわないように隠ぺいするための合意でしかない。生命維持装置に頼る患者がいる病棟の面会時間をキャンセルしたようなものだ。
昨年7月に、860億ユーロの救済融資に合意してから、IMFはそれが持続不可能であると叫び続けてきた。EU諸国が債務の削減を認めない限り、IMFは融資に参加することを拒んでいたため、それがヨーロッパの諸政府にとって、特に救済融資を指導したドイツにとって、政治問題となっていた。
ドイツの有権者たちは返済の見込みがない国に融資などしたくないのだ。2017年の総選挙まで、ドイツ政府は有権者が嫌うことをできない。しかも、合意が無意味かもしれないという疑いは、イギリスのEU離脱論者やヨーロッパの右派ポピュリストによるEUへの攻撃を強めるから、好ましくない。
IMFには、ギリシャ債務の組み替えを、大きな声で、公に要求する理由があった。IMFはギリシャの返済能力に関して疑われ、ヨーロッパがその支払いを融資するように求めるのだ。そうでなければ、IMFの指導力が政治的に損なわれる。発展途上諸国は、IMFがギリシャになぜそれほど寛大な融資をするのか理解できないし、ヨーロッパの偏った姿勢を疑っている。だからギリシャ債務の一部を、まず、ヨーロッパの債権諸国が免除するように求めるのだ。
ヨーロッパ諸国はIMFが、少なくともドイツの選挙が終わるまで、静かにするように求めた。ギリシャが支払い不能であることは誰でも知っているが、債務免除も(ドイツにとって)不可能なのだ。双方は満足できる合意に達した。ユーログループ、すなわち、ユーロ圏の財務大臣クラブは、ギリシャの債務組み換えを現在の救済融資が終わる2018年に考慮する、と決めたのだ。
ユーログループは組み換えのための資金を用意したし、IMFの支払いが遅れることに備えて、救済融資の次の支払いを認めた。その結果、IMFは債務削減しなければ支払わないという脅しを取り下げた。誰もが満足する解決策だ。政治的リスクは、当面、最小化した。特別な負担は何もない。
しかし、ギリシャはどうか? ギリシャ議会は、新しい救済融資を得るために、付加価値税、燃料、タバコ、インターネット利用への負担増を決めた。すでに年金削減も決めていた。救済融資が求める民営化基金も決めた。しかし、債権諸国が求めるリベラルな改革は成功しなかった。ギリシャのGDPは予測を超えて減少し、わずかに歳入を増やしても、歳出はもっと増えた。景気回復の見込みはない。
結局、画期的合意というのは、債務免除ではなかった。病院のどこかで機械によって命を保っている脳死患者のように、だれも電源プラグを抜かないから、ギリシャは今後も呼吸し続ける。しかし、患者のそばで相談しないだけだ。
FT May 29, 2016
The real threat to Europe lies in
the Aegean
Wolfgang
Münchau
年の初めには、EUが同時に3つの危機に直面していた。ギリシャの離脱Grexit、イギリスの離脱Brexit、難民危機。
ギリシャの危機は抑えられた。IMFが2年間の救済を受け入れたのだ。これはドイツ財務大臣Wolfgang Schäubleの意向に沿うものだ。ヨーロッパ側は、IMFの基準、GFN
gross financing needsをGDPの15%に抑えること、を受け入れた。
イギリスの世論も若干緩和された。EUはBoris Johnsonや離脱派を批判している。しかし、国民投票までに何が起きるかわからない。
メルケルはエルドアンと難民に関して合意したが、その見通しは逆に悪化している。EUの求めた人権に関する法改正を、エルドアンは拒否しているからだ。メルケルはトルコを訪れたが、クルド人議員やジャーナリストたちとは面会しなかった。このままでは難民に関する合意がヨーロッパの基本的価値を損なう。
ギリシャの債務も、イギリスとの新しい枠組みも、トルコとの合意は、ドイツの利益でしかなく、何も解決していないと気づくだろう。
NYT MAY 30, 2016
Australia Does Anxiety
Roger
Cohen
NYT MAY 31, 2016
The Soup Kitchens of Athens
By
YANIS VAROUFAKIS
l 広島原爆慰霊碑とオバマ
The Guardian, Thursday 26 May 2016
The Guardian view on Obama in
Hiroshima: facing a nuclear past, not fixing a post-nuclear future
「過ちは繰り返しませぬ」という原爆死没者の慰霊碑の前に、アメリカ大統領が立った、というのは良いニュースだ。しかし、アジアの戦略的な現実では、多くの同盟諸国が核抑止力の強化を求めている。
中国の台頭はバランス・オブ・パワーを変えた。北朝鮮の行動は予測できない。東シナ海では尖閣諸島について中国と日本が対立し、南シナ海では中国と近隣諸国が対立を深め、軍事強化が進んでいる。
オバマ大統領は、核なき世界の実現を唱えたプラハ演説にもかかわらず、今年の予算案では30年間で1兆ドルをかけた核兵器近代化を計画している。これではオバマの核廃絶が、まったくの偽善に聞こえる。
地政学的な制約がオバマをとらえて離さない。
FP MAY 26, 2016
The U.S. President Who Finally Went
to Hiroshima
BY
JEFFREY LEWIS
オバマ大統領は広島に行くべきだ。あなたも。なぜなら広島は意義ある場所だから。それはアメリカの、特にワシントンの広島に関する論争とは大きく異なる意義だ。頑迷さも、憤りも、そこでは関係ない。
アメリカにおける広島をめぐる論争は、冷戦を始めた責任に関するものだった。私はその答えに同意する。冷戦は3つの原因で起きた。すなわち、スターリン、スターリン、そしてスターリンだ。
テヘラン、ヤルタ、ポスダムで、東欧をソビエトが支配する現実を受け入れた。西側はスターリンが要求する影響圏を認めたのだ。1948年にはベルリンを封鎖し、1950年には朝鮮戦争を起こした。
その中で、西側の犯した失敗の1つに、核兵器開発がある。オッペンハイマーはトルーマン大統領に、核兵器に関してスターリンと話し合い、国際管理下に置くよう求めた。核軍拡競争を恐れたのだ。
しかし、彼らの懸念は遅かった。すでにスターリンは、スパイたちの情報から、アメリカの開発した核兵器について完璧に知っていた。トルーマンはスターリンに知らせることに決めたが、その反応について、スターリンは理解していない、と感じた。
ここから、原爆の使用が第2次世界大戦を終わらせた、スターリンを脅すためだった、という神話が生まれた。こうした歴史解釈には多くの問題がある。トルーマンが原爆を使用する意味を慎重に考えたうえで決めたとは、私には思えない。しかも原爆投下は、「アメリカ合衆国」のような巨大な人間集団の場合、単純な動機で説明できるものではない。広島に関して、その決断はなかった。それはさまざまな意見の対立の中で進んだ複雑な物語である。
私は、戦略爆撃や、John Herseyが総力戦の「物質的、精神的な邪悪さ」と呼ぶものについて、反対である。しかし、原爆使用の地政学的な正当化は、広島だけでなく1945年に示された人類の恐るべき残酷さを無視するものだ。
また、日本政府が戦闘をやめたのはソ連が参戦したことで衝撃を受け、国内の左派に敗北することを恐れたからであった。あるいは、アメリカの求めた降伏文書の外務省による翻訳が関係していた、という研究もある。
時が経つにつれて、論争は冷戦から核戦争の脅威に関心が移った。広島は核抑止力の神話、勝利の武器になった。アイゼンハワーが回顧録に書いたように、世界中で軍事的な関与を約束するアメリカは、核兵器を持ち、必要ならそれを使用する意志を持つしかない、と考えた。
トルーマンとスターリンが話し合うことを求めた科学者たちは、核兵器の破壊力があまりにも莫大なことから、根本的に異なる政治制度が必要だ、と考えた。アインシュタインも、核戦争を恐れた。しかし、冷戦は50年も続いたし、核抑止力で平和は維持された。冷戦期には、何人もの専門家が核戦争の犠牲者が2000万人以下に抑えられる、と勝利を主張した。
核拡散防止条約が述べるように、国際管理下で核軍縮が進む、と考えるのは楽しい想像だ。しかし、核兵器の悪夢が平和の保証なのか? 広島の慰霊碑の前に立つとき、われわれの国際機関やわれわれ自身が持つ最悪の可能性を実感する。
広島の平和記念公園を歩くとき、私はこれらの論争を思い出す。その言葉は異様で、むなしく感じる。広島のどこかで、あなたはベビーカーを押す家族を、あるいは、仕事に急ぐ人を見るだろう。もしそれが朝の8時15分であれば、その時あなたは空を見上げて、一機の爆撃機を観るだろう。そして周りを見る。
その瞬間、あなたは周りの人々と運命を共有する。なぜなら、あなたは同じ場所にいるからだ。私はそれが広島という場所の意義だと思う。すべての人類と、運命を共有する。アメリカの原爆に関する論争が持つ頑迷さと敵意を哀れに感じる。防衛メカニズムは核時代の中心問題に答えていない。人類が共有する脆弱さから逃れ出た難民たちの怒りである。
人類はその歴史を終わる破壊力を手にして、転換点に至った。われわれはその相違を超えて、政治制度を変え、平和を共有するべきだ。他の場所で行われた会議なら、愚かに思うかもしれない言葉が、広島では違う。全く逆である。他のすべての論争こそが愚かなのだ。
いつもそう思うことを、広島ほど強く感じる場所はない。オバマ大統領もそうだと思う。
NYT MAY 26, 2016
Fear Sharpens in Japan That
Hiroshima’s Lessons Are Fading
By
JONATHAN SOBLE
アジア各地を侵略した軍事帝国から、戦争の恐るべき結果を経て、平和主義の国家に変わり、ドイツよりも長い時間、他国に兵士を送っていない。
オバマの広島訪問は、この町と平和主義の伝統に大きな関心を向けるだろう。なぜなら、日本でもその平和主義は、野心的な安倍首相の進める保守主義と憲法改正の運動によって、長い間、後退を強いられているからだ。
大江健三郎は、「日本国憲法は広島憲法であり、東京憲法ではない」と語った。しかし、平和主義の運動は広島でも衰退してきた。
安倍は、より強力で攻撃的な中国に、また核武装した北朝鮮に対抗するには、広島が示すような内向きの平和主義では意味がない、という。日本は「普通の国」に転換して、世界の舞台で、軍備を持ち、重要な役割を果たすべきである、と。こうした安倍のアプローチを、一種の「軍事的平和主義」である、という専門家Motofumi Asaiがいる。
日本の平和主義は常に矛盾を抱えていた。憲法が禁じている自衛隊を持ち、アメリカの核の傘が強化されることを望む。日本の平和主義は、アメリカの軍事力による防衛を前提している、と他の専門家Makoto Iokibeは言う。
安倍による憲法改正はむつかしい。しかし、オバマの訪問は安倍政権の支持率を高めるだろう。それは憲法9条にとって危険なことだ、と平和運動家は考える。
平和運動家Haruko Moritakiは、オバマが原爆投下を誤りだと認めてほしかった、という。原爆投下で視力の一部を失った彼女の父が、原水爆反対日本会議を創った。また、オバマが安倍と一緒に立つことに大きな不満を感じた、という。彼女にとって、安倍は慰霊碑の言葉を打ち消す者だから。
The Guardian, Friday 27 May 2016
Obama should not apologise for
Hiroshima. He should heed its lessons
Simon
Jenkins
オバマは広島への原爆投下を謝罪するべきか? No. それは的外れだ。謝罪は簡単だ。むしろ彼は説明し、正当化し、必要なら、広島から学ぶべきだ。その方がもっと重要だ。
広島から70年以上が経っても、まだ合意は形成されていない。
FT May 27, 2016
Barack Obama allays concerns about
his Hiroshima visit
Hisao
Tonedachi
NYT MAY 27, 2016
Turning Words Into a Nuclear-Free
Reality
By
THE EDITORIAL BOARD
The Guardian, Monday 30 May 2016
Hiroshima: I had family members
among the dead
George
Takei
私は日系人の収容所で広島に落とされた新型爆弾のうわさを聞いた。私の母は心配で気が狂いそうだったが、それは彼女の親戚が広島にいたからだ。収容所は外のニュースから隔離されていた。
NYT MAY 31, 2016
Why Obama Is Shinzo Abe’s Enabler
By
DREUX RICHARD
未来の歴史家たちは結論するかもしれない。オバマの広島訪問は、世界で最も裕福な、最も平和主義の国家を、再軍事化するための準備であった、と。
日米同盟を強化し、の本国憲法9条を無視することが安倍とオバマの共通プロジェクトであった。それは変化し続ける東アジア情勢、特に、核武装した中国に応えるために必要だ、と判断された。オバマは間違った戦略的パートナーを選んだし、日本はアメリカの戦略に支配されることを受け入れないだろう。
l ドイツ人の意識
NYT MAY 26, 2016
What Is German?
Anna
Sauerbrey
ドイツ人とは何か? ドイツ人になるとはどういう意味か?
大量の難民が流入する中で、ドイツ政治が「文化」を問題にし始めた。右派のAfD(the
Alternative for Germany)は、「イスラムはドイツではない」と掲げている。
この標語は、まったく逆の形で、2010年にドイツのChristian Wulff大統領が使った。それは移民やリベラル派、左派から支持を受けた。当時、それは論争の余地のない立場だった。しかし、今ではAfDのスローガンが60%の支持を得ている。
反イスラムや反移民感情はAfDへの支持を高めている。メルケルとキリスト教民主同盟は、右派の宣伝を拒むため、文化を新しい人種差別、と批判している。そして、軽い文化、国民文化の融合を掲げている。
NYT MAY 31, 2016
Is This the West’s Weimar Moment?
Jochen
Bittner
1930年代と現在とが比較される。そこには多くの相違があるが、当時と同じように、今もリベラルな主流派は深刻な問題に対処できない。
l イスラエルと政治特区
YaleGlobal, 26 May 2016
An Alternative to Boycotts or
Divestment for Israel
Ian
Shapiro and Nicholas Strong
イスラエル製品のボイコットは中東和平の促進に効果がない。むしろヨルダン川西岸からイスラエルの工場が撤退し、パレスチナ難民の雇用を減らしている。
産業特区より、むしろ、政治特区SPZsを設けるべきだ。そこでは住宅、雇用、学校、その他のサービスが、イスラエルとパレスチナの住民の共同所有で実施される。それを促す税制や規制を実施する。
l 新産業主義
Bloomberg MAY 26, 2016
Finding Better Ideas to Rebuild
America
Noah
Smith
新著“Concrete Economics”においてUniversity
of California-BerkeleyのBrad DeLong and Stephen S. Cohenは、新産業主義者のバイブルになるだろう。ネオリベラルの自由市場コンセンサスが燃え尽きた跡から手探りが始まっている。
DeLongは経済史家、Cohenは都市計画と環境の研究者である。彼らの主張は、経済政策を決めるうえで歴史が理論より重要である、政治は史上と同じくらい重要である、というものだ。良い経済政策に関する彼らの考えは、市場の機能や政府の行動に関する一般抽象理論から導かれるのではない。この本には、市場原理も社会主義もない。
著者たちは読者を、うまく行った経済政策の歴史的な事例に導く。その始まりはアレクサンダー・ハミルトンの幼稚産業保護、インフラ整備、銀行業と製造業の育成である。それに続けて、政府による土地供与が基礎となった鉄道の建設、進歩的時代の再分配とトラスト解体、ニュー・ディール政策、そして、20世紀半ばの科学に依拠した産業政策に至る。
彼らの語るところでは、アメリカの経済政策は1970年代・80年代に脱線した。アメリカの指導者たちが勝者を決めず、抽象的な理論、この時には市場原理主義に従って政策を決め始めたからだ。その結果、製造業は崩壊し、金融業と医療産業がその空隙を埋めた。他の論者たちと同様、彼らの意見でも、アメリカの医療産業は全く非効率であり、金融ビジネスは価値を生み出すより、それを奪い取る不労所得者を多く抱えている。それに比べて、アジアの経済は輸出と産業政策によって成長を高めてきた。
しかし、こうした歴史分析の欠陥は、過去を一定のパターンに容易に変えることだ。彼らは日本のケースに触れようとしないが、Michael Porter, Hirotaka
Takeuchi and Mariko Sakakibaraは、日本の産業政策が放棄された過程を“Can Japan Compete?” に書いている。韓国や中国もまだ、金融漬けのアメリカと同じ所得水準には達していない。
そのような限界はあるが、彼らのメッセージは聴くべきだ。アメリカの経済政策は単純で強力な自由市場理論にあまりにも囚われていた。理論は誇張され、是正するべきだ。もっと歴史分析が必要である。
彼らの主張の多くは先行する研究と重なっている。その議論はまだ精緻な理論にならないが、しかし新しい産業主義の考え方を人々に説いている。
Project Syndicate MAY 27, 2016
Putting Profits in Perspective
LAURA
TYSON and JAMES MANYIKA
高利潤は、優れた経営や革新というより、独占の証拠かもしれない。
l フランス
The Guardian, Friday 27 May 2016
France’s chaos stems from its
failure to adapt to globalisation
Natalie
Nougayrède
FT May 31, 2016
For French workers, old habits die
hard
Sudhir
Hazareesingh
l EUのテスト
Project Syndicate MAY 27, 2016 0
Twin Tests for the EU
HANS-WERNER
SINN
6月はEUにとって運命の月となる。6月21日、ドイツの憲法裁判所が、債務危機に対するECBの政府券購入プログラムに反対するかもしれない。その2日後、イギリス・連合王国の有権者がEU離脱を決めるかもしれない。どちらの決定も、EUの長期的な政治・経済の安定性に重大な結果をもたらす。
VOX 27 May 2016
Reinforcing the Eurozone and
protecting an open society: Refugee bonds
Giancarlo
Corsetti, Lars P Feld, Ralph S.J. Koijen, Lucrezia Reichlin, Ricardo Reis,
Hélène Rey, Beatrice Weder di Mauro
CEPRの新しい報告書(Reinforcing
the Eurozone and Protecting an Open Society)は、政府債務危機と難民危機を克服する協力のための制度改革を、政治的にも実行可能なものとして提案した。
Project Syndicate JUN 1, 2016
The ECB’s Illusory Independence
YANIS
VAROUFAKIS
l 北朝鮮とトランプ
Project Syndicate MAY 27, 2016
The Donald Trump of North Korea
CHRISTOPHER
R. HILL
l アメリカ外交の混迷
FP MAY 26, 2016
A New-Old Plan to Save the World …
That Has No Hope of Saving the World
BY
STEPHEN M. WALT
もしエスタブリシュメントの政策が明らかに失敗し、国民に不信の目を向けられるようになったら、また、それに代わる政策思想が公的な論争で注目を集め始めたら、現状維持を目指す者たちは何をするだろうか?
20年以上にわたってアメリカの外交と安全保障を支配してきたリベラル・ヘゲモニーの大戦略は、次のような行動を取って、自分たちの支配を続けようとしている。
ステップ1.超党派の政府元幹部を集めて、「アメリカの指導力」を称え、その維持を説く。
ステップ2.他の専門家たちを招いて、同じような発想の者ばかりで、会議、夕食会、研究グループを作る。真の批判者や部外者は入れない。
ステップ3.言葉の巧みな者を雇って、中身があると見えるほどの分量で、しかし人々が読めるほどの短いものを書かせる。
ステップ4.愛国者のしるしを強調する。アメリカ国旗は、いつも論争に勝利をもたらす。
ステップ5.必要なら、何度もこれを繰り返す。
FT May 30, 2016
America’s Middle East allies could
win friends for Isis
Hassan
Hassan
l 中央銀行総裁
Bloomberg MAY 27, 2016
Central Banks Can't Go It Alone
Anymore
Mohamed
A. El-Erian
G7サミットでも、ギリシャ債務をめぐるヨーロッパ会合でも、政府はようやく根本的な政策の転換と協力、また、成長の障害となるものを認めて構造改革に取り組みつつある。しかし、認識は転換したが、その行動は遅く、それが遅れるほど政治的安定性が失われる。
FT May 31, 2016
Successful central banks focus on
greater purchasing power
John
Greenwood
FT May 31, 2016
Central banks as pawnbrokers of last
resort
Martin
Wolf
イングランド銀行の元総裁Lord Mervyn Kingの新著
The End of Alchemyは、金融危機に関するハムレットの問題を示す。錬金術師は金融システムの危機を防げるのか? 現在の危機を防ぐことは、次の危機を準備しているのか?
銀行家は錬金術師である。預金者は、いつでも、どこでも、その預金が引き出せる、と思っている。預金者が強く信じるときだけ、それは正しい。そんなはずはないのだが。守れるはずのない約束だ。それは儲かるビジネスだが、危機になれば政府が救済するしかない。
政府の保証があるから、金融機関が巨大になり、また、その報酬は巨額になるが、政府はそれを心配する。
根本的には、2つの解決策がある。1.銀行自身に基金を用意させる。2.銀行を危険な・長期の資産から切り離す。
キング卿は第3の選択肢を示す。中央銀行は最後の貸し手であるが、モラル・ハザードを生じない方法でそれを行う。すなわち、あらかじめ保証する資産を限定し、あらかじめ預金者の資産(銀行預金)を危機においては削減する割合や方法を明示する。すなわち、中央銀行は景気変動を通じた質屋a “pawnbroker for all
seasons”である。
Project Syndicate MAY 31, 2016
Uncertainty at the Fed
J.
BRADFORD DELONG
中央銀行の行動が予想できないとき、消費や投資は決められない。連銀は金融政策の決定について市場の信頼を得なければならない。そのためには、矛盾する目標に関して連銀としての考えを明確にし、市場との対話を深めるべきだ。
FT June 2, 2016
The Fed takes a look beyond US data
Gillian
Tett
Bloomberg JUNE 2, 2016
Draghi's Message to European
Political Leaders
Mohamed
A. El-Erian
l EUを離脱せよ
FT MAY 28, 2016
Britain’s island story is different
from Europe’s
David
Abulafia
ヨーロッパの旗はどこでも見られる。イギリス人はヨーロッパに熱狂を示さないが、それは単に旗が退屈なだけではない。
ヨーロッパが称賛する多様性とは、キプロスからフィンランドまで共通のアイデンティティを持つ、というアイデアが、どの国家間や小さな国の中でも間違いだ、ということだ。19世紀にイタリアの国土回復を指導した政治家は言った。「われわれはイタリアを創った。さあ今度は、イタリア人を創らねばならない。」 ヨーロッパもそうだ。
私は、国民投票に際して、経済や安全保障がもっぱら議論されていることに失望する。当然、EUに帰属したイギリスの過去の経済成果には注意する。低成長、世界貿易におけるシェア低下、危機から危機へよろめく通貨。
イギリス政府はすべての家庭に、基本データを並べ、改革されたEUにとどまることを勧めるパンフレットを配った。しかし、イギリスと他のEU加盟諸国との関係は根本的な再編を求められる。事実ではなく偏見や、将来への不安から、投票するのは正しくない。
しかし、一層の緊密な統合とは何を意味するのか? 共同市場の創設者たちは「ヨーロッパ合衆国」を目指した。そこではすべての市民が単一の政治体制に帰属し、共通の大統領、共通の防衛と外交を持ち、経済統合とは全く違うものになる。
主権はどうなるのか? すべての国家は、NATOなどの加盟で主権を譲歩するが、それは非常に限られたものだ。EUは全く違う。法律が外から決められる。その解釈もECJが決める。イギリスとヨーロッパとの法律は伝統的に全く異なる。イギリスには明文化した憲法がない。過去の法律や権限、議会の手続きが根拠となる。
イギリスは何世紀にもわたってヨーロッパ諸国とは異なる歴史を持った。バークEdmund Burkeが『フランス革命の省察』で述べたように、イギリスは革命ではなく進化を好む。確かに19世紀の社会不安に加えて、15世紀や17世紀にもイギリスは激しい内戦を経た。しかし、最初の産業国家が最初の革命国になるというマルクスとエンゲルスの予告は裏切られたし、ファシズムや急進左派はヨーロッパほど影響力を持たなかった。
EUよりも、われわれの政府の方が、優れた法律、優れた制度を実現し、自国の必要に応じて調整できる。離脱を求める投票は、民主主義を求めるものだ。
The Guardian, Monday 30 May 2016
However we vote, the elites will win
the EU referendum
Irvine
Welsh
Project Syndicate MAY 31, 2016
A British Test of Reason
JEAN
PISANI-FERRY
l ポピュリズムに対抗する
FT MAY 28, 2016
Voters need a credible alternative
to populism
THEDA
SKOCPOL
ECBも、ポピュリズムの台頭を警告する声に加わった。ユーロ圏の経済改革が遅れているせいでポピュリズムへの支持が高まっている。政府債務の返済を行うのに必要な財政・構造改革がなされていない、というのだ。
そこには逆説的な意味がある。金融政策を担当するECBは、成長を実現できないエスタブリッシュメントの一部である。ポピュリストが権力を得るとしたら、ECBなど、中央銀行は真っ先に攻撃されるだろう。
ギリシャやスペインで反緊縮政策を求める人々、フランス、ドイツ、オーストリアでEUを嫌い、移民を排斥する人々は、世界金融危機以後に最も損失を受けた人々である。安定した雇用と将来の繁栄を前提にしていた中産階級や労働者が、グローバリゼーションと技術革新に脅かされている。この10年間で、彼らの所得水準は低下してきた。彼らの怒りは、移民とエリートに向けられている。
2011年、当時のECB総裁Jean-Claude
Trichetが債務危機の中でも金利を引き上げて、ユーロ圏の成長はアメリカに比べて遅れ始めた。しかしポピュリストたちはEUの政策を非難するだけで、解決策を持たない。壁を築いても、統合を破壊しても、成長は戻らない。
ところが、右派ポピュリズムからの政府攻撃は、ベルリンのECB批判を強め、他の中央銀行にも金融緩和の拡大を困難にしている。フランスではル・ペンへの支持が高まり、労働市場改革が容易に進まない。スペインでは政治的真空を生じている。ギリシャ債務危機の解決が遅れ、イギリスがEU離脱を決めるとしたら、こうした不安定さは増すばかりだ。
エスタブリッシュメントへの信頼を失った人々に、信用できる、成長回復の効果的な政策を示すべきだ。金融的な刺激策はその一部であるが、むしろ財政的な刺激策が重要だ。ユーロ圏内の財政的な余裕がある国は、支出を増やし、生産的な用途に向けるべきだ。
Project Syndicate MAY 30, 2016
Republicans Ride the Trump Tiger
(後半へ続く)