前半から続く)


l  ドイツと財政規律

Project Syndicate MAY 13, 2016

Turning Crisis into Success in Germany

KEMAL DERVIŞ

社会的合意を重視するドイツ・モデルは重大な挑戦を受けている。しかし、もし難民の統合化に成功すれば、ドイツのモデルが一層の成果をもたらす。

FT May 19, 2016

Flexible budget rules are in the eurozone’s interest

より弾力的な財政ルールをユーロ圏で決めるべきだ。


l  新興市場からの資本流出

VOX 13 May 2016

Managing sudden stops

Barry Eichengreen, Poonam Gupta

資本流入が突然逆転する現象は、1990年代も2003年以降もあったが、後者の時期には、国内のファンダメンタルズとは関係が薄くなり、外部の影響が強くなっている。サドン・ストップに対して金融政策や財政政策で対処し、さらに大規模な逆転には資本規制やIMF融資を受ける、という対策が取られたが、後者の時期にはそれだけで十分な効果が得られていない。


l  北朝鮮難民

NYT MAY 13, 2016

Life as a North Korean Refugee

By HYEONSEO LEE


l  サイクス=ピコ条約100周年

FP MAY 13, 2016

Don’t Blame Sykes-Picot for the Middle East’s Mess

BY STEVEN A. COOK, AMR T. LEHETA

NYT MAY 14, 2016

Could Different Borders

By NICK DANFORTH

The Guardian, Sunday 15 May 2016

As Palestinians mourn their Nakba, the UK must acknowledge its responsibility

Ahmad Samih Khalidi

FT May 17, 2016

The Ottoman legacy dies hard in the Middle East

David Gardner

FT May 18, 2016

An inconvenient truth for the Middle East and a line in the sand

Roula Khalaf

中東の人々は、事態が悪化すると外部の犯人を求めた。その1つが、ヘンリー・キッシンジャーだ。第2は、CIAである。そして、第3の犯人は、サイクス=ピコ条約であった。秩序が不安定化する原因を、英仏の帝国主義が押し付けた不自然な国境線に求めた。

本当は、彼らにとって不愉快なことだが、その原因はもっぱら住民や指導者にあった。

今も中東の秩序を安定化するために、国家の分離案がしばしば議論される。イラク分割、シリア分割、などだ。ISISの登場は、サイクス=ピコ条約への関心を高めた。

しかし、中東の混乱を何十年も前の計画に結び付けるのは間違っている。植民地化が地域全体に損害を与えたが、国境線に国内統一の失敗を期するのは間違いだ。もしエスニックや宗派の違いで中東各地に分断化が進むとしたら、それは集団的な幻滅と治安の悪化によるものだ。

人々は尊厳をもって、責任ある政府に統治されることを望む。シリアでも、イラクでも、レバノンでも、市民社会が立ち上がるのは、経済管理の失敗に対して、腐敗した政治支配層に対してである。100周年を記念して、サイクス=ピコの亡霊を退けよ。


l  TTIPTTP

FP MAY 13, 2016

TTIP Must Die So the West Can Live

BY HANS KUNDNANI

Bloomberg MAY 17, 2016

The Best Way to Strengthen Ties With Asia? Ratify TPP

Editorial Board

FP MAY 19, 2016

Beauty Is In the Eye of the Beholder for Obama’s Asian Trade Pact

BY DAVID FRANCIS


l  汚職

Bloomberg MAY 13, 2016

There's No Rule Book for Eradicating Corruption

Leonid Bershidsky


l  AIとロボット

NYT MAY 14, 2016

Sexual Freelancing in the Gig Economy

By MOIRA WEIGEL

NYT MAY 17, 2016

One Neighborhood at a Time

David Brooks

FT May 18, 2016

Bring on the long-delayed dawn of the robot age

Chris Giles


l  トランプ大統領

FT May 14, 2016

Another brick in Trump’s wall

Edward Luce

FT May 15, 2016

What would Donald Trump mean for the US-UK special relationship?

Sebastian Payne

FP MAY 16, 2016

The Donald vs. the Blob

BY STEPHEN M. WALT

トランプとクリントンとの大統領選挙になりそうだ。これほど対照的な2人はいないだろう。クリントンは外交専門家の大陣営を味方につけている。少なくとも、自我を誇示するトランプの外交政策より、はるかに優れている、とだれもが認めるだろうか?

しかし、私はそれほど安心していない。

アメリカ人の多くは外交に関心がない。大統領を決めるのは、経済状況や雇用が重要であって、国際事件や優れた外交ではない。

また、現在のアメリカ国民は政治の主流派に批判的であり、エスタブリシュメントを嫌っている。クリントンに対する外交専門家たちの応援は、エスタブリッシュメントがこの数十年に行ったことへの評価も引き受けることになる。

1990年代はアメリカが世界の頂点にあり、リベラル派も保守派も「一極世界」を祝福して始まった。ビル・クリントン(“engagement and enlargement”)も、ジョージ・W・ブッシュ(“Freedom Agenda”)も、アメリカがそのパワーを使って世界に民主主義と人権を広めることを意味した。可能なら平和的に、しかし、もし必要なら軍事力を使って。アメリカ外交の善意の高官たちが監視する下で、市場は成長し、自由が拡大し、平和が支配するはずだった。

しかし、そうはいかなかったのだ。アメリカの中東政策は911攻撃を誘発したが、安全保障期間はそれを予測することも、防止することも、できなかった。イラクとアフガニスタンの戦争では、莫大な費用をかけて、目標を達成できなかった。豊富なレバレッジを駆使して、繰り返し試みたにもかかわらず、パレスチナとイスラエルとの中東和平は失敗した。NATOが伝統的なロシアの影響圏を侵食したために、ロシアとの関係が悪化した。北朝鮮、インド、パキスタンに核兵器が広まった。イランとの合意も、事実上の核武装が実現可能な状態になってからだ。リビア、イエメン、シリアでは破たん国家の誕生を手助けした。中国はパワーを増大させ続けてきたし、アジアの現状維持はむつかしくなっている。

ウォール街と同様に、エスタブリッシュメントはその仲間の責任を問わなかった。外交専門家たちはその地位の責任を問われても、システムを責めるだけで、個人は新しいポストで生き残った。グローバルな指導力を得た彼らの、自己中心的な外交の結果は、たとえ彼らが愛国心に富み、有能であったとしても、その責任を問うものだ。

ヒラリー・クリントンはこのコミュニティーに緊密に取り込まれている。彼女自身が、アメリカ外交の25年間における失敗に関する責任を共有している。彼女の夫が中東の「二重の封じ込め」を唱え、彼女自身がイラク戦争を支持し、彼女の国務長官時代にアフガニスタン戦争を拡大し、リビアのカダフィ体制を破壊した。そして、オバマ以上に、リベラルなヘゲモニーを追求した冷戦後の3人の大統領たちを擁護する。

それに比べて、トランプの負担は小さい。ビジネスで失敗したことや、著名人との付き合い、離婚、リアリティーTVなどだ。彼の提案する外交政策を、知識豊富な専門家たちは直ちに批判できるだろうが、専門家たちは信用されていない。

クリントンが勝つと安心するのは早すぎる。

SPIEGEL ONLINE 05/17/2016

An Exhausted Democracy

Donald Trump and the New American Nationalism

An Essay By Holger Stark

アメリカはトランプが権力を得るのを阻止できるのか? 暗黒の記憶がよみがえる。トランプは各地の演説の際に、支持者たちに宣誓を求めた。彼を大統領にするため、投票に行く、という宣誓だ。何千もの支持者が、彼の言葉に続いた。アメリカのメディアは、その情景をアドルフ・ヒトラーにたとえた。

トランプの台頭はこの20年間にわたるアメリカの危機の結果である。アメリカのエリートたちはそれを無視した。アメリカ人は、経済が良好に見えても、民主主義に消耗したようだ。世界で最も裕福な国の1つだが、富裕層は他の人々を気にしない。アメリカは勝者と敗者に分断されている。

アメリカ人がこれほど将来について悲観的であったことはない、とコラムニストDennis Pragerは書いた。ジャーナリストのAndrew Sullivanも、成熟段階の資本主義は、成熟段階の民主主義が抑制や穏健化を求める力がない、という人々の義憤、革命的な不満を生んでいる。アメリカは1930年代のヨーロッパが示した性格を帯びている、と警告した。

トランプの政策の中心部分は、マージナル(周辺・限界)化や孤立を恐れる気持ちに反応するものだ。メキシコ故郷に壁を築き、イスラム教徒の入国を否定する。それらはファシストの教科書から直接に出てくる、とファシズムの専門家Robert Paxtonは述べた。自分たちが犠牲者だ、グローバリゼーションに翻弄されている、という不満に、ヨーロッパの極右のポピュリストと同じく、トランプも攻撃的なナショナリズムで応える。

歴史が繰り返すわけではない。トランプは他国への侵略や、何百万人もの殺害を準備していない。トランプはファシストではなく、危険な形で、全体主義の要素を利用するのだ。その挑戦にアメリカのエリートと市民社会は対抗しなければならない。民主党の大統領候補になるであろうクリントンは、この課題に一部しか応えていない。彼女自身が政治のインサイダーで、エスタブリッシュメントを代表し、大きな利益を得ている。

有権者の怒りの原因、富の不公平な分配、資本主義の行き過ぎに関して、アメリカ社会の全体にわたる議論を必要としている。かつて共和党のリンカーンが奴隷制を廃止し、現代のアメリカの基礎を確立したように。共和党と民主党という2大政党の候補だけであることも、もはや国民の意見を代表していない。

トランプのように他者を排除するのではなく、包摂するような、社会の弱者にも開かれた戦略を示すことだ。

NYT MAY 17, 2016

A Really Bad Deal for America

By ELIOT A. COHEN

Project Syndicate MAY 18, 2016

Preparing for President Trump

BILL EMMOTT

アメリカの同盟諸国は、最善を望みながら、最悪に備えなければならない。トランプとクリントンとの違いは、これまで大統領選挙における候補者の違いと全く異なるものだ。世界にとって、クリントンは継続性、トランプは断絶、を意味する。

外交に関するトランプの演説から、同盟諸国はその変化に備えなければならない。トランプはアメリカ優先を掲げ、同盟諸国に防衛負担の増額を求め、アメリカに対する黒字を示す国には2国間で厳しい要求を行う。アメリカにとって「災厄」である、というNAFTAを破棄する。

しかし、トランプの本も言うように、良い準備は渉による利益をもたらすだろう。彼が大統領になっても、そのような相手を称賛するはずだ。

1に、嫌がらせに対してもひるまない、強い相手であることを示す。第2に、同盟や友情というのは相互に認め合う。

弱い立場の日本や、28か国も集まった分裂状態のEUは、トランプ大統領の標的になりやすい。日本はこの12か月間で自由化による成長戦略を本気で実行することだ。ヨーロッパ諸国も財政均衡へのこだわりを捨てて、成長を刺激し、雇用を生み出す公共投資に取り組むことだ。

それらはいずれにせよ必要であったし、強固な同盟関係を築く基礎になる。

トランプ政権がNAFTAを破棄した場合、カナダとメキシコは協力の大義を得る。またTPP合意を無視した場合、他の諸国は、おそらく日本とオーストラリアが指導して、同じような協定を結ぶだろう。EUにたいする貿易や防衛に関するトランプの強要を防ぐには、EUNATOの加盟諸国が強固な統一姿勢を準備することだ。それは各国による防衛費の増額も意味している。金融危機や難民危機で紛糾するEUに、イギリスが離脱問題を追加することは愚かである。

アジアの同盟国、日本と韓国は互いに敵対しており、アメリカの仲介によって、かろうじて協力関係を維持している。日本が東南アジア諸国に協力しても、正式な安全保障に関する条約はない。これから9-12か月の間に、貿易戦争、通貨戦争、従来の安全保障条約が破棄される可能性に備えて、敵対や分裂ではなく、地域的な連帯を固めるときである。

より友好的でないアメリカが誕生するときまでに、こうやって備えておくことだ。

NYT MAY 18, 2016

Donald, Save Your Golf Greens, and the Planet

Thomas L. Friedman

FP MAY 18, 2016

Six Reasons Why Trump Meeting With Kim Jong Un Is a Very Bad Idea

BY MICHAEL GREEN

トランプは今週のインタビューで、北朝鮮の金正恩とも会談する用意がある、と述べた。しかし、トップ会談は間違いだ。

キムは核兵器を手放さない。会談は北朝鮮を核保有国として認め、核管理に合意することを意味する。アメリカの同盟諸国は抑止への信頼を失うだろう。そのリアリティー・ショーを演出するのはキムだ。北朝鮮で苦しむ何百万人もの国民を無視することになる。

キムとのトップ会談を考えたオバマは、これまでの経過を説明されて、その考えを捨てた。トランプも捨てるべきだ。

The Guardian, Thursday 19 May 2016

At last a good idea from Donald Trump: dialogue with North Korea

Aidan Foster-Carter

会談が核保有の正当化につながる、というのはナンセンスだ。金正恩の人物を知り、その姿勢を交渉に向けさせるためにも、会談は重要だ。

FT May 18, 2016

US presidential campaign: Trump’s casino war

Gary Silverman


l  南シナ海の平和

FP MAY 15, 2016

A Novel About War With China Strikes a Chord at the Pentagon

BY DAN DE LUCE

FP MAY 16, 2016

Freedom of Navigation Operations in the South China Sea Aren’t Enough

BY JULIAN G. KU, M. TAYLOR FRAVEL, MALCOLM COOK

YaleGlobal, 19 May 2016

Japan Trains Other Nations to Enforce Law in East and South China Seas

Yoichi Funabashi

地域が団結して、ルールに基づく秩序へ向かえば、紛争を減らせる。中国の挑発に過剰反応することなく、平和的に中国の行動を正すべきだ。そのためにも、日本は、東シナ海・南シナ海における海上の警備と訓練を、国際協力によって高めることだ。日本はグローバルな警察力を整備する指導的国になる。


l  アフリカの産業革命

FT May 15, 2016

Africa has to go through its own industrial revolution

Kingsley Moghalu


l  ユーロビジョンとウクライナ

The Guardian, Monday 16 May 2016

The Guardian view on the Eurovision song contest: how to protest and survive

Editorial

Bloomberg MAY 16, 2016

Eurovision's Music Drowns Out Politics

Leonid Bershidsky

FT May 18, 2016

Ukraine sings to a tune of new national pride

Serhii Plokhii


l  大学改革

FT May 16, 2016

Universities must learn to serve students better

Project Syndicate MAY 17, 2016

The Evidence on Education Reforms

BJØRN LOMBORG


l  サウジアラビア

Project Syndicate MAY 16, 2016

Saudi Arabia’s Bold Vision for Economic Diversification

MOHAMED A. EL-ERIAN

FT May 18, 2016

Saudi Aramco: Fix for a one-trick economy?

Anjli Raval


l  ドゥアルテ大統領

FP MAY 16, 2016

Duterte Harry Has Been Dirty For a Long Time

BY PHELIM KINE

NYT MAY 19, 2016

A Challenge in the Philippines


l  ドル危機

Project Syndicate MAY 17, 2016

Trumping the Dollar

BENJAMIN J. COHEN

トランプが、カジノのように、アメリカの赤字を、ディスカウント価格での債券買戻しで大幅に減らす、と主張している。

しかし、アメリカが債務の一部をデフォルトにする考えがあると示唆するだけで、債券の格付けは下がり、ドルの価値が下落するだろう。国際的な準備通貨としての地位を失うことになる。それはアメリカの超大国という地位を大きく損なうのだ。

ドルが国際通貨であることは、アメリカが100か国以上で軍事基地を持っていること、中東でも、太平洋でも、ヨーロッパでも、同盟諸国を守る軍事行動がとれること、の重要な条件である。その費用を、アメリカはドルの印刷によって支払えるからだ。

実際、アメリカ連銀が発行した銀行券の60-70%はアメリカ国外で保有されている。ドル建ての金融資産には、安定した避難所を求めて、世界の企業や資産家が投資している。それがアメリカの財政赤字を容易に融資し、アメリカの国際的な関与と軍事行動を維持可能にする。

かつてフランス大統領Valéry Giscard d’Estaingが「途方もない特権」と非難した、このドルの地位をトランプが失うなら、ドルから他の通貨に向けて資本が流出し、アメリカの地位は第1どころか、第2、第3に落ちてしまう。

Bloomberg MAY 18, 2016

Bring On the Currency War

Narayana Kocherlakota


l  ラトビア

Bloomberg MAY 17, 2016

Austerity Worked for Latvia

Leonid Bershidsky


l  ベネズエラ

FT May 17, 2016

The ice finally begins to crack in Venezuela

Bloomberg MAY 18, 2016

A Socialist Revolution Can Ruin a Country

Noah Smith


l  社会企業家と政府

FT May 18, 2016

Social entrepreneurs can give the government a lift

Anne-Marie Slaughter


l  円高と介入

FT May 18, 2016

Japan can do a lot better than selling the yen

円高を恐れて為替市場への介入を主張するより、安倍政権はもっと財政・金融政策において自国の経済を立て直すべきである。

中国が人民元の価値下落を止めたのは高く評価される。日本やユーロ圏が引き続き金融緩和を進める結果として、ドル高、円安とユーロ安が進むのも理解できる。しかし、為替介入を政策手段として強調することは、古い時代の通貨戦争を示唆し、国際関係を緊張させるだけだ。


l  イエメン

FP MAY 18, 2016

How the War on Terror Failed Yemen

BY JACK WATLING, NAMIR SHABIBI


l  トルコとドイツ

FT May 18, 2016

Erdogan’s march to absolute power has Berlin’s blessing

Marc Pierini


l  パレスチナ和平の障害

FP MAY 19, 2016

A History of Sustainable Violence

BY AARON DAVID MILLER


l  グローバリゼーションと経済学の責任

FP MAY 19, 2016

Economics Has Failed America

BY DANIEL ALTMAN

グローバリゼーションで仕事を失った、生活できなくなった、すべてのアメリカ人に、私は謝罪したい。経済学はあなた方をだました。そのイデオロギー、政治学、怠慢によって、あなたたちを裏切ったのだ。経済学の教えたことは、全く不十分だった。

経済学は、「実証的な」問題に数学で答える。その後、政策に関する「規範的な」問題に価値判断を示す。教室では前者を教えて、後者にはほとんど触れない。これは経済政策に関して非常に不完全な議論だ。学生たちは原理を知るだけで、現実世界を知らない。

自由貿易やグローバリゼーションに関して、この省略は致命的な間違いだ。大学1年生は、すべて、比較優位と貿易の利益を学ぶ。彼らは、財・サービスの貿易が利益をもたらすことを示す、数学的な証明を知る。利益の方が損失よりも多い、と。

しかし、再分配は生活水準を広く改善するために必要だが、ほとんど実施されないか、全く言及もされないのだ。政府はある者から奪って他の者に与えるべきか? 誰が受け取るのか? 何を受け取るのか? 理論的には、だれもが貿易から利益を得ているし、だれもがその不利益を強いられている。こうした補償に関して社会は合意できるのか?

Tyler Cowen and Alex TabarrokPaul Krugman and his wife, the economist Robin WellsN. Gregory MankiwR. Glenn Hubbardは、こうした問題に十分答えていない。貿易によって不利益を被った人々を助けるThe Trade Adjustment Assistance (TAA) programはあるが、その予算額は66400万ドル、GDPの約0.004%でしかない。しかも、彼らが現金を受け取るわけではない。

貿易で多くの利益を得るのは、最も裕福な、高度な教育を受けた、最も国際的にリンクした人々だけだ。また、貧しい国では、労働集約的な輸出産業に雇用される人々も利益を受ける。しかし、アメリカの多くの人々は、その利益を受けていない。労働者や中産階級はグローバリゼーションの敗者である。

われわれエコノミストは、学生たちに重要なことを教えていない。より統合化された世界経済への移行をどのように管理するべきか?

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The Economist May 7th 2016

China’s financial system: The coming debt bust

Special report: Finance in China - Big but brittle

Overhauling tax policy: Central tendency

Jobs in Africa: In praise of small miners

Our crony-capitalism index: The party winds down

(コメント) 中国の金融システムに債務危機が迫っている,という特集記事は説得的です.政府保証の下で,シャドー・バンキングを介した融資が膨張しており,しかも競争の激化と資本移動の自由化が迫っています.しかし,世界の破滅を予想するわけではないし,解決策がありきたりであるけれど,中国と国際金融システムの将来を考えさせます.

アフリカの小規模な違法鉱山が繁栄する,という記事が面白いです.ウェークフィールドの植民地経営と似た,資本主義のダイナミズムを示す例だと思います.

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IPEの想像力 5/23/16

何のための構造改革なのか? 何のための原子爆弾なのか?

労働市場を自由化するだけで「改革」と称するのは間違いです.もっと自分たちが働き,生活する上で,好ましい社会条件を整備しなければ,「改革」とは呼べません.

G7における財政政策の協調は失敗し、為替レートに関する合意も全く得られないようです。グローバル・アベノミクスは伊勢志摩G7政治ショーの幻であり,もとから世界の経済政策における合意された枠組みに忠実な話でした。アベノミクスは、日本の財政再建をめぐる国内の論争、日銀をめぐる金融政策の転換に,安倍政権が政治的に勝利することでした。

マクロ経済政策が対立する中で,各国の構造改革がサミットの焦点となるでしょう.

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日本で議論されているのは,財政再建や社会保障、女性の社会参加,労働市場の改革、そして成長率を高め,所得分配の平等化を達成することだと思います.そのためにも企業の余剰資金を国内投資と雇用の創出に向けること、また,TPPに応じた企業の競争力改善や農業の改革、などが議論されています。

私は,財政再建を、成長+社会保障改革+増税+インフラや教育への支出+地方分権、というパッケージによって実現することはできないか? と思いました.国民に支持されるように,「アベノミクス」より,もっとまじめな,共感を呼ぶ,良い名前を付けて.

そこでは,ベーシック・インカムが非常に重要な役割を果たすでしょう。老人や子供に対して,社会給付を無条件に行い,重要政策をめぐる政治の機能不全を解消します.労働市場では、非正規雇用と正規雇用の区別をなくす必要があります。そのために、強い権限を持った労働基準監督官を充実することです。非正規雇用や,女性,外国人の雇用・給与を差別する者は厳罰を受けます.

京都の観光はすでに適切な規模を超えた? 金融や観光ではなく、先端医療や介護ビジネス、アミューズメント・パークでもなく、もっと製造業(そのITやロジスティクスも含む)の雇用を増やして、積極的な生産性上昇を目指すことが重要だと思います。

にぎやかな商店街や町工場,大工や八百屋,魚屋,小さな食堂と小さな医院が混在する,コミュニティーに私は住みたいです.活発に働く女性や外国人が住みやすい社会、国際移民や難民が積極的に受容され、社会的ネットワークが国境を超えて広がる社会になることです.その過程で,老人ばかりの限界集落がなくなる国になってほしいです.

構造改革とは,そうした社会をもたらすからこそ,重要なのです.

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FTの論説で、Roula Khalafは,中東の人々が政治や経済の悪化を外の犯人や陰謀のせいにする,と書いています.それは中東だけではありません.

オバマが広島で、原子力発電や原子爆弾に依存しない世界を求めて,私たちはもっとアイデアをだして議論しよう,と呼びかけるのを聴きたいです。

トランプが最終候補である大統領選挙とは、アメリカが国内・国際秩序から離脱することを問う国民投票Amexitです。トランプは脅迫や挑発で,アジアの対立を選挙に利用するでしょう.為替レートや貿易自由化について合意し,中国の市場改革や日本の制度改革が競い合い,組み合わさることで,住みよい社会を実現する時代を積極的に切り拓くときです.

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