IPEの果樹園2016

今週のReview

5/23-28

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Brexit論争 ・・・オバマの広島訪問 ・・・民主主義の改革 ・・・ロンドン市長 ・・・独占と金融ビジネスに反対する ・・・ドイツと財政規律 ・・・新興市場からの資本流出 ・・・サイクス=ピコ条約100周年 ・・・トランプ大統領 ・・・南シナ海の平和 ・・・ドル危機 ・・・円高と介入 ・・・グローバリゼーションと経済学の責任

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  Brexit論争

FT May 12, 2016

Britain after Brexit would sacrifice access for independence

Martin Wolf

離脱にはいくつかのオプションがある。しかし、離脱派はそこでジレンマに直面する。イギリス(連合王国UK)は、政策決定のパワーを回復すればするほど、市場アクセスが不利になる。

ノルウェーはEEAの加盟国であり、共通漁業政策に参加し、共通農業政策には参加していない。共通関税政策にも属さず。EFTAのメンバーである。しかし、EUに輸出するには「ローカルコンテンツ条件」を求められる。

ノルウェーは単一市場に参加できるが、その条件として、EUの求める移民の自由移動や輸送・競争・社会政策に関しても従っている。離脱派にとってノルウェーと同じでは意味がない。

逆に、WTOのルールによってEUと貿易することも考えられる。しかし、アメリカもそうだが、地理的に近く、歴史的な経緯もあってイギリスの方がEUとの貿易割合が大きい。WTOだけでは自由化が進まず、特にサービス貿易に関して、イギリスにとって非常に重要な金融規制が問題だ。

イギリスは、WTOルールよりも有利で、しかもEEAほど制約されない地位を求めている。Ruth Leaは、スイスの地位を推薦する。スイスはEFTAのメンバーで、EUの金融サービス市場にもアクセスを得ている。

しかし、それは幻想である。イギリスもEFTAメンバーであったが、EUの政策に対する影響力を求めてEUに加盟した。ロンドンはチューリッヒではない。ヨーロッパの金融的首都なのだ。アメリカがトロントをアメリカの金融的首都になることを許さないように、ユーロ圏もEU離脱したロンドンからユーロ建て取引を引き揚げるだろう。ECBはもはやロンドンを拠点として金融取引に対してユーロ圏の取引と同じ保護を与えない。

FT May 13, 2016

Sound and fury in the debate over Brexit

FT May 15, 2016

What Brexit means for defence and diplomacy

Brexitは経済と移民に関する論争としてもっぱら扱われているが、外交・安全保障に関しても重大な意味を持っている。

ヨーロッパは、今、中国の台頭、ロシアの再興、中東における紛争激化に直面している。アメリカの関心はアジアに移っており、ヨーロッパは地域の安全保障により多くの負担を求められる。イギリスはヨーロッパが第1の防衛線であることを願っており、混乱の大陸になってほしくない。

Brexitは、ヨーロッパを不安定化し、イギリスにとっても悪いことでしかない。

FT May 15, 2016

Brexit would be a challenge for Berlin

Charles Grant

イギリスのEU離脱により、多くのドイツ人はEUをますます自分たちにあったものに感じるだろうが、EUの他の諸国ではドイツに対する不満が強くなるだろう。

各国は欧州委員会の権限増大を好まない。国内に問題を抱えているフランスのオランド、イタリアのレンツィは、EU内の役割を増大することができない。そのため、ますます、経済的に成功しているドイツと経験豊富はメルケルの指導力が求められるだろう。

ユーロ危機の回避で、また、ウクライナ危機の制裁で、ドイツはEU諸国にその考え方を受け入れさせた。特に、難民危機の鎮静化のため、EU諸国やその機関を無視して、メルケルは単独でトルコとの交渉を行ったし、難民受入れではEU補助金を失うことになると脅して加盟諸国の割り当てを強いた。その結果、ドイツとポーランドとの対立は深まっている。

ドイツがEUを指導すればするほど、他の加盟諸国の不満が高まる。それは不当な場合もある。アメリカがよく知っているように。ユーロ危機が財政緊縮や財政移転に向かうことに、南欧諸国だけでなく、ドイツ国内でも不満が高まった。

イギリスのEU離脱がドイツの不満をさらに強め、ユーロを嫌うAfDの支持を高めるだろう。それはメルケルやキリスト教民主同盟を苦しめる。また、フランスなどの保護主義・国家介入主義に対抗して、自由貿易やEU予算拡大に反対するイギリスは、ドイツにとって重要な国である。

ドイツがますます強い支配力を得るという他の加盟国懸念に慎重に対応しなければ、BrexitEU内の混乱を招くだろう。

FT May 15, 2016

Gallantry needed if Tories are to reunite after EU referendum

Jacob Rees-Mogg

Project Syndicate MAY 16, 2016

The Economic Consequences of Brexit

PHILIPPE LEGRAIN

FT May 18, 2016

Brexiters have bet the bank on the triumph of emotion over reason

Philip Stephens

先進諸国の民主主義で広まる政治論争は、目に余る失敗を犯しながら、真実の枠組みにしがみつく、衰退したエスタブリッシュメントと、幻滅した市民たちの不安と怒りに乗じて、独自の政治を求める反政府勢力との間で、展開されている。Brexitもそうだ。離脱派の主張の多くはでたらめである。

離脱を経済的に支持することはむつかしいし、世界に占める役割を高めると信じるのも不可能だ。離脱派の目標は常に、有権者のさまざまな不安、不満を掻き立てること、それによってブラッセルへの謀反を正当化することである。

Project Syndicate MAY 19, 2016

Brexit and New Europe

LASZLO BRUSZT and NAURO F. CAMPOS

Bloomberg MAY 19, 2016

Leaving Europe Is a Risk the U.K. Shouldn't Take

Michael R. Bloomberg


l  オーストリア

FT May 12, 2016

Illiberalism takes root in Europe’s fertile centre

Tony Barber

Bloromberg MAY 19, 2016

Austria Shows Moderates Must Learn to Fight Back

Leonid Bershidsky


l  オバマの広島訪問

FT May 12, 2016

Obama cements his legacy with his trip to Hiroshima

Jacob Weisberg

大統領は任期の最後に遺産のことを考える。クリントンは貿易法案、ブッシュはイラク戦争の終結。オバマも最初は共和党との対話を唱えていたが、完全に阻まれた。その代わりに、他国との長期に及ぶ対立を解消することに向かった。そしてイランとキューバと合意した。

オバマの広島訪問は、もう1つのドアを開くものだ。彼を批判するものは、さっそく、オバマの「グローバル謝罪ツアー」が新しい駅に着く、と非難している。しかし、オバマは頻繁に謝罪していないし、謝罪のために行くのではない。

広島の平和記念公園に、日本の安倍首相とともに行くことは、タブーに挑戦するものだ。1995年、スミソニアン博物館で、広島に原子爆弾を投下したエノラ・ゲイB29を展示する企画があった。その展示が日本人に同情的過ぎると批判され、展示内容を変えたが、その後、中止された。当時、下院議長であったNewt Gingrichは、今、ドナルド・トランプの副大統領として名乗りを上げている。アメリカ人が恥ずべきだと一部の文化エリートに言われることに苦しみ、倦んでいる、と展示を非難した。

歴史家たちは今も原爆の使用について論争している。なぜトルーマン大統領は原爆投下を決断し、広島、長崎で20万人も殺害したのか? それは正当化できるか?

左派のGar Alperovitzは原爆投下を、冷戦を意識したソ連に対するデモンストレーションであった、と考える。トルーマンは市民に対する大量破壊兵器WMDの使用が戦争犯罪であると知っていた。他方、沖縄戦に示された天皇に忠誠を誓って死ぬまで戦う日本兵に対する征服の試みが示したように、原爆投下によって敗戦の受け入れを早めることができた、と正当化する。戦争終結までの米兵や日本人の犠牲が減ったからだ。

オバマは、こうした歴史家の論争に大統領が介入することはできないし、すべきでないと理解している。

オバマは広島訪問で、核兵器の時代が始まった場所に立ち、その恐怖を認めて、21世紀における核拡散と軍縮の議論を加速したいのだ。アメリカとアジアの同盟国、日本、とを分断するこの苦しい歴史を和解させる役割を担いたいと願っている。

オバマが広島を訪問することの歴史的な勇気は認めるが、政治的限界を無視できないだろう。

Bloomberg MAY 13, 2016

Why Obama Can't Apologize for Hiroshima

Ramesh Ponnuru

トルーマンが非戦闘員に対して原爆を投下し、殺害したことについて、それが間違いであったというのは、その効果と結び付けて議論される。しかし、アメリカの政治的な伝統、戦争にも倫理があり、正しい戦争に関する考え方は、1945年の前からあったし、その後も認められている。トルーマンの決断は、その意味で、間違いであった。

しかし、謝罪するべきか? アメリカ大統領が、国民を代表して謝罪する、というのはむつかしい。確かに、奴隷制や黒人差別に関する謝罪は行った。しかし、広島には謝罪できない。なぜならアメリカ国民の多くは、今も広島・長崎への原爆投下は正しかった、と考えているからだ。

広島への謝罪は、将来の大統領に委ねられる。

(China Daily) 2016-05-13

Obama's Hiroshima visit at risk of being hijacked

FP MAY 18, 2016

Mercenaries Are the Silent Majority of Obama’s Military

BY MICAH ZENKO

一貫した「オバマ・ドクトリン」について論じることはむつかしいが、多くのメディアが無視し、オバマも触れないことが1つある。海外における軍事作戦を支援するために、かつてないほど多くの民間軍事契約者を利用したことだ。

概ね、アフガニスタンでは、米兵1人に対して3人の契約者が働いている。現在、イラクでは7773人の契約者がアメリカ政府と軍にサービスを提供している。オバマの下で、これらの国に展開する米兵の数よりも多くの民間軍事契約者たちが死亡した。

Project Syndicate MAY 19, 2016

Obama at Hiroshima

YURIKO KOIKE

EUを生んだヨーロッパの指導者たちKonrad Adenauer, Charles de Gaulle, Alcide De Gasperiと同様、岸信介の孫である安倍首相は、オバマ大統領と広島で、将来の平和と繁栄のために過去の恨みを乗り越える。

Bloomberg MAY 19, 2016

Did Bombing Hiroshima Save Japanese Lives?

James Gibney


l  中国の内政・外交

Bloomberg MAY 12, 2016

China Should Want a Stronger Taiwan

Adam Minter

台湾を国際機関から排除する中国の政策は非生産的である。2003年、SARSの感染に関して、WHOから台湾を排除したことは間違いだった。地球温暖化に関するパリ協定でもそうだ。通商政策に関しても、台湾を中国にだけ依存させておく政策は失うものが多い。

FT May 15, 2016

China’s Future’, by David Shambaugh

Review by Tom Mitchell

NYT MAY 16, 2016

Chinese Newspaper Breaks Silence on Cultural Revolution

By CHRIS BUCKLEY

FP MAY 16, 2016

My Uncle Was a Red Guard in China’s Cultural Revolution. He Isn’t Sorry.

BY KAROLINE KAN

FP MAY 16, 2016

Is China Returning to the Madness of Mao’s Cultural Revolution?

BY TENG BIAO

現代中国でも、文化大革命は再現するのか?

FP MAY 17, 2016

Taiwan’s Kids Are Not All Right

BY ANNA BETH KEIM

FT May 17, 2016

North Korea makes public its paranoia over China

Jamil Anderlini


l  民主主義の改革

The Guardian, Friday 13 May 2016

Post-truth politicians such as Donald Trump and Boris Johnson are no joke

Jonathan Freedland

真実を失った政治の時代this era of post-truth politicsにおいては、躊躇なく嘘をつける者が王者である。厚かましい不正直な者ほど、パンツに火がついても気にせず、繁栄することができる。

放送局は事実をチェックしない。若者たちが退屈するからだ。細かいことに流れて視聴者を失う、と心配する。

それは以前からあったことだ。より重要なことは、メディア文化の変化である。技術は政治家たちを支持者に、直接、結びつけることも可能にした。事実かどうかをチェックするニュース番組の編集局が介在することはない。トランプと彼のトウィッターがそうだ。ソーシャルメディアや、アメリカのケーブルテレビ局は、政治家の見解を支持するような情報ばかりを有権者に流す。

そのことが、有権者たちを変化させ、ますます不快な事実に対する拒否反応が強まっている。彼らがひどく嫌うメイン・メディアの事実を無視するために、秘密の作戦を進めている。現実を無視した仮想現実の世界を支持者たちに本当だと思わせること、嘘に満ちた陰謀論の肥沃な土壌を耕すこと、である。

基本的な事実に関して合意できないとき、民主主義が機能することはない。それはアメリカで深刻な問題になっており、イギリスでも、BBCをめぐる論争のように、始まっている。誰もが嘘つきだと非難する、真実のない荒涼とした世界にわれわれは取り残される。

NYT MAY 14, 2016

Is There Too Much Democracy in America or Too Little?

By MICHAEL LIND

ドナルド・トランプが登場するアメリカの民主主義は行き過ぎなのか? アメリカ大統領選挙で、大衆の意志を制限する必要がある、と議論されている。ヨーロッパでは、民主主義の不足がデマゴーグたちの反動を招いている。

アイルランドの政治家Peter Mairは、大西洋の両岸で進む民主主義の空洞化現象を、大衆選挙政治からのエリートたちの離脱、と見ている。政治は、大衆政党の党員によって候補者が選択される過程ではなく、資金提供者や、有権者に向けた金のかかる広告による選別へと変わった。近隣地区における政党組織は衰退し、低所得者や教育を受けていない有権者が投票しなくなった。アメリカの投票行動は富裕層に偏っている。

政治資金を集める必要から、共和党も民主党も候補者を献金団体の意見によってスクリーニングしている。その制約を受けないのは、Bernie Sandersのような社会運動のシンボル, Ross Perot or Michael Bloombergのような大資産家、Arnold Schwarzenegger or Jesse Venturaのような人気スターたちである。トランプは後の2つに当てはまる。

過去数世代の間に、有権者の投票結果は政策に反映されなくなってきた。州政府・地方政府の支出の多くは、法律によって社会保障支出を定められている。また、連邦政府内でも、かつて議会が決めていたことが、今では法的手続き、独立機関、大統領・行政府によって行われている。

多数決が無視されるもう一つの仕組みは、安全性、プライヴァシー、健康・環境規制など、選挙に依存しない機関が決めていることだ。通商交渉を進める秘密主義の超国家機関のように。その合意は、企業や投資家が国内法や政策による不利益について国家を訴えることができる、と決めている。わずかな経済利益を得るために、あまりにも多くの主権を失っている。多国籍企業や超国家のNGOs職員たちが、選挙されることもなく、各国のルール決定権を奪っている、と考えても、それは保護主義者であることを意味しない。

政治的無気力や不満に対して、有権者の投票にもっと多く政策決定を委ねるべきだ。自動的な有権者登録、オンライン投票、休日投票、など、選挙改革は投票率の引き上げに好ましい。基本的な権利に関しては連邦の法律に従うべきだが、公共政策の他の分野では、できるだけ多くの政策を投票結果によって決めるべきだ。

行政府の高い水準の決定ほど、一般市民ではなく、企業や資金豊富なNGOsによるロビー活動が強い影響力を持っている。労働者や地方市民は州の政治やワシントンに影響できない。彼らが疎外されたと感じないようにするには、もっと地方分権が必要だ。そして、市やカウンティの実験的な政策を行う自由を認めることだ。権力と財源を、議会は地方政府とシェアする。教育、医療、インフラに関して、財源への制約を減らすのが良い。

白人プロテスタントのエリート政治の初期には、多数支配という「非リベラルな民主主義」であった。その反対の極にある、エリートだけの「非民主的なリベラリズム」が答ではない。

民主主義の不足は反動を招くだけだ。より多くの民主主義によってデマゴギーを排除できる。

NYT MAY 14, 2016

How and Why You Diversify Colleges

Frank Bruni

FT May 16, 2016

Donald Trump, Vladimir Putin and the lure of the strongman

Gideon Rachman

トランプ現象は、アメリカに特別なことではなく、むしろグローバルな強権政治の趨勢に遅れて参加した。

歴史家たちは2012年をその転換点とするかもしれない。ウラジミール・プーチンと習近平が権力を固めた年だ。新しい指導体制を確立するため、彼らはメディアを使って個人崇拝を煽り、その強さと愛国心を宣伝した。

エジプトAbdel Fattah al-Sisi、トルコRecep Tayyip Erdogan、インドNarendra Modi、ハンガリーViktor Orban、最近では、フィリピンRodrigo Duterte、である。

彼らはすべて強い個人の力で国民の復活させることを約束した。リベラルな理想などは無視する。国家の敵には非合法な暴力を使用する。

強権スタイルは批判する声に敏感だ。表現の自由を弾圧し、メディアを攻撃する。彼らは典型的に、大衆の不安、恐怖、不満を吸収する。汚職や不平等に対する庶民の怒りを支持基盤にする。犯罪者や外国人に対する強硬な姿勢で国家の衰退を逆転する、と主張する。

彼らが互いを称賛するのは、その政治スタイルだけであり、本気で連携することはない。深刻な点は、その暴力的な指導力が最初に現れるのは、国内ではなく、国外においてであることだ。

FT May 17, 2016

Failing elites are to blame for unleashing Donald Trump

Martin Wolf

SPIEGEL ONLINE 05/18/2016

Wrong Majorities

What Extremist Success Means for Democracy

A Commentary by Dirk Kurbjuweit

NYT MAY 19, 2016

The Real Bias Built In at Facebook

Zeynep Tufekci


l  ロンドン市長

The Guardian, Friday 13 May 2016

The Guardian view on migration: we need a stronger state

Editorial

SPIEGEL ONLINE 05/13/2016

Refugee Wrangling

Merkel's Deal with Turkey in Danger of Collapse

By SPIEGEL Staff

NYT MAY 13, 2016

Sadiq Khan and the Future of Europe

By MEHDI HASAN

イギリスのイスラム化を非難する者たちは、新市長の誕生によって否定された。

完璧な世界であれば、料理番組でだれが優勝しても、フットボールで最優秀選手にだれがなっても、ロンドン市長にだれがなっても、特別な意味はない。しかし、非常に不完全な現実、イスラモフォービア(イスラム教徒を嫌う)世界では、彼らがイスラム教徒であることは重要だ。

統合と多文化に向けて流れが変わった、と言うのは早いだろう。カーンが語ったように、過激派に対する最善の対抗策は、イギリスで成功したイスラム教徒のモデルを増やすことだ。カーン自身が新しいモデルとして、今や多くの新生児が彼の名前をもらっただろう。

ロンドンは多様な移民社会である。イギリスのイスラム教徒260万人の内、その4割が住む。しかしロンドンの外でも、より寛容な、多文化のイギリス・モデルは、宗教や民族の違いを超えた統合化について、強く同化を求める大陸ヨーロッパ・モデルよりも優れている。

アンゲラ・メルケルやニコラス・サルコジは多文化主義の失敗を宣言するのだが、ドイツやフランスは真の多文化主義を試みたことがない。イギリスのアイデンティティを築くために、以前のアイデンティティを否定する必要はない、とキャメロン首相でさえ述べた。

確かにカーンがベルリンで当選することは想像できない。しかし、悪意ある宣伝は自己実現的である。イスラムやイスラム教徒を悪魔のように避難すれば、彼らも敵対的な意見を持つようになる。恐怖や嫌悪は統合化をもたらさない。新市長は、ロンドンが恐怖より希望を、分断より統合を選んだ、と述べた。それはヨーロッパへの模範である。

Project Syndicate MAY 16, 2016

Clarifying Europe’s Refugee Problem

ANA PALACIO

VOX 16 May 2016

Immigration, free movement and the UK referendum

Jonathan Portes

SPIEGEL ONLINE 05/17/2016

Global Migration?

Actually, The World Is Staying Home

By Guido Mingels

NYT MAY 17, 2016

Refugees Shouldn’t Be Bargaining Chips

By BEN RAWLENCE


l  独占と金融ビジネスに反対する

Project Syndicate MAY 13, 2016

Monopoly’s New Era

JOSEPH E. STIGLITZ

200年間、何が所得分配を決定するか、そして、経済はどのように機能するか、に関して2つの考え方があった。1つは、アダム・スミスと19世紀のリベラルなエコノミストたちが提起した、競争市場に注目する考え方だ。もう1つは、スミスの自由主義がいかに急速に富と所得の集中をもたらすか、市場の独占化傾向に注目する考え方だ。

2の考え方は、「パワー」から出発する。独占を行使する能力を重視するからだ。第2次世界大戦後、西側ではリベラルな考え方が支配的であった。しかし不平等は拡大し、懸念が広がった。限界生産物を個人の報酬に結び付けることは、ますます、経済の機能を説明できなくなった。

現代経済では、telecoms, cable TV, digital branches from social media to Internet search, health insurance, pharmaceuticals, agro-businessなど、多くの分野で独占が支配的である。競争によっては、こうした分野を理解できない。競争があるとしても、それは寡占競争である。

市場経済の多くの前提は競争モデルを受け入れている。それは政府による介入を躊躇させる。市場が基本的に効率的で、公平であれば、政府は事態を改善できないからだ。しかし、もし市場が搾取に基づき、自由放任の合理性が失われたのであれば、拡大するパワーに対する闘いは、民主主義に向けたものであるだけでなく、効率性や繁栄を分かち合うためのものでもある。

The Guardian, Wednesday 18 May 2016

Making things matters. This is what Britain forgot

Ha-Joon Chang

Brexitへの不安が景気回復を妨げているのか? イギリス経済の弱さを示す深刻な数字は、その原因がもっと深いところにあることを教えている。イギリスは2008年の金融危機以後、ほとんど回復していないのだ。

2015年末、インフレ調整後のイギリスの1人当たり所得は、2007年のピークからわずか0.2%高いだけである。これは年率にすれば0.025%の成長率だ。日本の1人当たり成長率が、1990年から2010年の、いわゆる「失われた20年」において、年率で1%の成長であったことを思い出すべきだ。

この実質的な回復を不可能にしている根源は、数十年にわたり進展した経済の不均衡にある。金融部門が過剰に拡大し、製造業部門は委縮している。2008年の金融危機直後は、この金融肥大化を止めるべきだと広く認識されていた。しかし、それは実行されなかった。製造業のGDPに占める割合は、10%程度にとどまっている。

このことは、危機後にポンドの価値が30%も減価したことを考えれば、さらに異常である。これほどの通貨安があれば、他国なら製造業の輸出が伸びて拡大できたはずだ。不幸にして、イギリスの製造業は1980年代にあまりにも弱められたために、そのような回復をもたらさなかった。製造品の貿易収支赤字はGDP5.2%に達する。

これを問題にしない意見もある。イギリスはまだ世界で第8位の製造業大国である。また、もはや知識集約型の脱工業化時代である、というのだ。

しかし、イギリス製造業の規模は人口によって大きく見えるだけで、1人当たりでは20位から25位の間である。また、生産性が高まる可能性の大きい分野は、機械化や化学的な加工を含む、製造業部門にある。そして、製造業のもたらすインプットが他の分野で生産性を高めている。研究開発や革新が起こるのも製造業が中心である。

アメリカは、金融技術の革新に優れていたから20世紀半ばに金融センターをロンドンからニューヨークに奪ったのではない。そのときアメリカが指導的な工業国になったのだ。

これまでの間違った政策を転換し、製造業復活のため、十分な投資、研究開発への支援、労働者の訓練に取り組むべきだ。バランスの取れた持続的な成長のために、製造業が必要だ。


l  アラブ世界のガバナンス

Project Syndicate MAY 13, 2016

Improving Governance in the Arab World

MARWAN MUASHER

FT May 16, 2016

Why inaction in Libya will be costly

The UN decision to arm the government is right, writes William Wallis


l  金融政策と制度・思想

Project Syndicate MAY 13, 2016

Manna from Helicopters

MICHAEL BIGGS

VOX 13 May 2016

The ECB grants debt relief to all Eurozone nations except Greece

Paul De Grauwe

事実上、ECBQEによって債務免除を行っている。今は排除されているギリシャの債務もこれに含めるべきだ。

NYT MAY 13, 2016

Time to End the Greek Debt Tragedy

By THE EDITORIAL BOARD

FT May 17, 2016

Smoke, mirrors and helicopter money

John Kay

Project Syndicate MAY 17, 2016

The Way Back for Monetary Policy

LEE JONG-WHA

Project Syndicate MAY 18, 2016

Fighting the Next Global Financial Crisis

ROBERT J. SHILLER

将軍たちが先の戦争を戦い続けているように、政府や金融当局も先の金融危機と戦っている。金融システムの改革には、危機のナラティブが重要だ。


後半へ続く)