前半から続く)


l  NATOのスピーチライター

FP MAY 1, 2016

Confessions of a NATO Speechwriter

BY PATRICK STEPHENSON

NATOにおいて演説原稿を書くとはどういうことか、説明しよう。

20148月、私は当時のNATO総司令官Anders Fogh Rasmussenのスピーチライターになった。ウェールズ・サミットの1か月前で、アフガニスタンで従軍し、死んだ、多くの同盟諸国兵士たちを記念する式典であいさつする演説原稿を依頼された。

私はタイプしながら、集団としての「兵士たち」を称えるより、特別な一人の兵士を取り上げるほうが、力強いものになると考えた。そこで私は、アフガニスタンでその月にインサイダー・アタックで亡くなったHarold J. Greene少将について敬意を払う一文を書いた。

それは大きな問題になった。報道官がそのスピーチを読んで、非常に驚いた。彼女が言うには、少将に言及することはアフガニスタン人を攻撃するものだ。彼女は私の評価を下げようとまでした。私には、この文章がアフガニスタン非難には、どうしても結びつかなかった。

私は人に訴える演説を書きたいだけだった。誰も聞かないような説明に何の意味があるのか? 大西洋を結ぶ安全保障に関して対話を刺激する方が、たとえリスクを冒すものであっても、意味があるだろう。

ロシアはヨーロッパの東の境界線で圧力を強めている。そして過激派は境界線の中からも外からも攻撃を準備している。それにもかかわらず国民はNATOがまだあることに疑問を感じている。アメリカ人の半分以下しかNATOを指示していない。この低下傾向はNATOの存在を脅かす。アメリカ大統領選挙の主要な候補者である2人、バーニー・サンダースとドナルド・トランプは、NATOに批判的であるか、廃止を求めている。

NATOには重要な使命がある。同盟諸国とその市民たちが享受している自由を防衛することだ。テロやサイバー戦争など、集団的な、超国家的な脅威には、集団的な対応が必要だ。超大国でも単独では対応できない。それゆえNATOとその司令官はグローバルな政治対話の中心的役割を担わなければならない。無関心な、主要メディアが無視するような演説ではなく、改革を求めて声を上げるべきだ。

基本的な問題はそのインセンティブにある。NATOの広報外交部では、ビデオやドキュメンタリーを作っているが、それらは外部の聴衆にNATOの意味や活動を説明するものだ。しかし、透明性や説明力が不足しており、結果的に組織の内部の者が優先することだけを取り上げている。外部に制作させて、YouTubeに公開しても、その反応は何もない。閲覧者はNATO関係者だけだ、という冗談になった。

アメリカのオバマ大統領の元スピーチライターであるJon Favreauが、良い演説原稿を書くことについて述べた。それはストーリーを語り、正直な、本当の話で、対話的な調子にすることだ。基本的に、政策の中身を最小限にして、人間的な話を増やす。何よりも、スピーチライターは、演説する者が信念をもって、そのスタイルや説明を続けるように、ペンをとるべきだ。

NATOの演説原稿はこれらのルールをすべて破ったうえで、一層、悪いものだ。NATO3人の公式ライターを抱えており、彼らがすべての言葉に実質的な拒否権を持っている。病的なほどの楽観主義で、同盟の弱点を認めず、それを長所のように書いて、一層強化するように求める。何もかもが完璧なのだ。今少し、それを完璧以上にするだけである。このような喜劇は、外部の誰にも関心を失わせる点で、自己破滅である。

46日に、現在の総司令官Jens Stoltenbergが、ワシントンD.C.においてシンクタンクthe Atlantic Councilで演説した。彼の個人的な魅力は、すぐに常套句とバラバラな計画、さび付いた標語に変わった。その主要なメッセージ、「NATOを失えば、ヨーロッパもアメリカも安全でなくなり、世界はより危険な場所になる」ということが本当に説明されてはいない。

わずか数日前、トランプがNATOの将来を疑ったことについて、Stoltenbergはその経験を通じて語るべきだった。たとえその演説がトランプの怒りを招いても、NATOが何をすべきか、より公平で正直な対話を行えただろう。

同盟というのはアイデアである。われわれの領土だけでなく、価値観を守る。NATOは地政学的に永久の真実に依拠するが、戦争で命を懸けて守った世代がいなくなれば、どうやって維持できるのか? 人々は本当に理解しないことについて、めったに支持しない。

NATOがその思想を守るために、表現の自由を許し、予算を削るだけでなく、創造性を生かした本当の改革に取り組むべきだ。そして総司令官のスピーチライターは、NATOが大西洋の安全保障で中心にあることを示すために演説草稿を書く。


l  ロシアのシリア介入

FT May 2, 2016

Russia and the US can deliver peace in Syria

Gideon Rachman

YaleGlobal, 3 May 2016

Russia Needs Options to Deal with China

Thomas Graham

プーチンは、中国の拡大と依存関係を警戒して、西側との関係改善を願っている。

NYT MAY 4, 2016

In Aleppo, We Are Running Out of Coffins

By OSAMA ABO EL EZZ

先週、シリアとロシアのジェット機がAl Quds病院を空爆した。分断されたアレッポの東側だ。少なくとも50人が死亡し、80人以上が負傷した。私の友人Dr. Muhammad Wassim Mo’azは、アレッポで最後の小児科医だった。親切な人で、患者たちとコミュニティーのことを想い、病院に泊まり込んで、赤ん坊や子供たちのために駆け付けた。彼もこの爆撃で死んだ。

われわれには、友人や家族を埋葬するための棺もなくなってしまった。

FP MAY 4, 2016

After Weeks of Bloodletting, U.S. and Russia Forge Deal on Ceasefire in Aleppo

BY JOHN HUDSON, COLUM LYNCH


l  水問題

FT May 1, 2016

A water shortage that is more than a tale of town versus country

Victor Mallet

Project Syndicate MAY 4, 2016

War and Peace and Water

LAURA TUCK


l  金準備とバンコール

VOX 02 May 2016

Business cycle synchronisation and the Bretton Woods nostalgia

Eric Monnet, Damien Puy

Bloomberg MAY 2, 2016

Why Currency Markets Seem Erratic

Mohamed A. El-Erian

Project Syndicate MAY 3, 2016

Emerging Markets Should Go for the Gold

KENNETH ROGOFF

新興市場の中央銀行は、ドルを過剰に持っており、金を軽視しているのではないか? 新興市場がもっと金を重視することで、国際金融システムの機能は改善し、すべてのものが利益を受けるだろう。

私は金本位制の復帰を唱える者ではない。彼らの多くは極右である。私は、新興市場が保有するドルの外貨準備(中国だけでも33000億ドル)を金に転換することを主張している。

豊かな諸国では、金の脱貨幣化がすべてのものの利益になる、と議論されてきた。実際、ヨーロッパ諸国の中央銀行間では脱貨幣化の合意が1999年に成立した。準備として金を保有することは、すでに金融制度が発達し、政治的な安定性を達成している諸国で、合理的な理由がない。

しかし、新興市場は今も金の買い手である。アメリカの財務省証券やその他の諸国の公債を外貨準備に保有することはなかなか進まない。問題は、こうした諸国が今もハード・カレンシーに依拠した世界貿易に生きていることだ。もし彼らが資源をプールして、例えば、IMFによる融資を受けるなら、その方が優れているが、そうした取り決めへの信頼はまだ存在していない。

金保有を増やすことのメリットは、金には価格の上限がないことだ。現状では、新興市場の諸国が先進諸国の公債を競争して購入するために、その利回りをさげている。先進諸国の債券供給は、その課税ベースによって制限されている。

確かに金保有の非効率性や貯蔵コストという問題はあるが、たとえば、ニューヨーク連銀に委託して海外保有するなら、それも大幅に節約できる。金価格の上昇は無利子というデメリットに代わるものだ。

Project Syndicate MAY 4, 2016

Imagining a New Bretton Woods

YANIS VAROUFAKIS

世界金融危機後の国際金融システムは、かつてケインズが考えたようなものになる、と中国の中央銀行総裁Zhou XiaochuanIMFの元専務理事Dominique Strauss Kahnが示唆した。ケインズは、世界経済の好況期に債務国と債権国の間の不均衡が拡大し、不況期には債務国へのデフレ圧力が強く働き、債権国には調整が強いられない、という非対称性を考えて、対照的な調整を実現するシステムを構想した。

諸国は国際決済同盟ICUに加盟し、世界貿易のシェアに応じて共通の単位バンコールを保有し、それで国際決済する。そして不均衡に対する対照的なペナルティーが科せられる。しかし、現代では、ケインズの構想が示した以上に、デジタル貨幣や発達した為替市場を利用できるだろう。そして、新しいICUが、グローバルな脱炭素過程を実現する基金にもなる。


l  難民危機と人権レジーム

NYT MAY 2, 2016

The Refugee Crisis Is Humanity’s Crisis

Brad Evans and Zygmunt Bauman

Zygmunt Baumanとの対話。

Brad Evans: あなたは10年以上前から、難民の絶望的な苦境に注目してきた。あなたはまた、この問題が新しいものではなく、もっと広い歴史的な文脈で理解されねばならない、と強調してきた。今、ヨーロッパで起きている難民危機は、その歴史を繰り返しているのか? それとも、何か異なるのか?

Zygmunt Bauman: まだ歴史の新しい章は開かれていない。近代において、大規模な移民は珍しくもないし、散発的でもなかった。それは近代的な生活の、恒常的で、絶えざる効果であった。それと並行して、永住型の占拠による秩序構築、経済進歩がともなったのだ。その2つの性質が、特に、果てしなく「余剰人口」を生産する工場として働き、彼らをその土地では雇用されない、また、政治的に許されない者たちとし、それゆえ彼らは避難所を、また、より約束された機会を求めて、その生まれた土地から離れるように強いられたのだ。

近代的な生活が、その起源であるヨーロッパから、世界の他の部分にも広がるにしたがって、移民の支配的な方向も変化した。ヨーロッパが地球上の唯一「近代的な」大陸であるとき、余剰人口はまだ「前近代的な」土地に向かって送られた。そして植民地の入植者、兵士、植民地政府の官僚となった。6000万人ものヨーロッパ人口が、植民地型帝国主義の最盛期に、南北アメリカやアフリカ、オーストラリアに去ったと信じられている。

しかし20世紀の半ばから、移民の流れは逆転する。移民のロジックは土地の占拠から切り離され、むしろ元入植者たちが破壊した土地と、彼らの国内経済とのギャップにより、生きるチャンスを比べることに変わったのだ。特に、中東やアフリカにおいて故郷を出るしかない人口が増大しているのは、多くの内戦、エスニック・宗教の違いによる紛争、そして植民地化によって、旧宗主国が供給した膨大な武器と安定性を欠いた、名前だけの主権、人工的「国家」において行われる強奪行為のせいである。

難民は、あまりにもしばしば、人権を確立した生まれつきの住民たちに対する<脅威>という役割を負わされる。難民たちが、暴力的にはく奪された同じ権利を回復することを求める、人類の傷つきやすい部分として定義され、扱われることはない。

今や、定住した人口や彼らによって選出された政治家たちは、「難民問題」を普遍的な人権問題としてではなく、内部の治安問題として議論する傾向が強い。問題を治安サービスに委ねることを好み、有権者たちの満足を得る能力も意向も持たない政府は、社会サービスの提供に忙殺されている。

難民の大規模な流入は、われわれが苦しみ、何とか隠している不安を、突然、目に見える形で表面化したのだ。それは受け入れ社会そのものの壊れやすさについての不安、われわれの運命が、自分隊で制御できないどころか、理解もできない勢力に委ねられてしまったという、ますます強まる疑念である。難民たちは、神秘的であいまいな、しかし、遠くにあると願っていた「グローバルな勢力」を、まさに目に見える、手に触れる形で近隣に出現させた。

難民たちは、秩序の崩壊、安定した事態が失われたらどうなるか、という姿を示す。難民たちがわれわれに治安を失った状態をむき出しにするからこそ、難民自身が悪魔のように見なされる。国境を要塞化して彼らをわれわれと反対側に押しとどめることが、そのようなグローバルな勢力を阻止し、管理することを意味する。

B.E.: 戦争状態から逃れてきた人々を論争するとき、彼らを「移民」や「難民」と呼ぶことは正しいか? 問題を単純化することにならないか?

Z.B.: 彼らは、耐えられない状態(自国)と、受け入れられない・許されない状態(新しい国)との間で、選択を強いられている。われわれは誰もそのような選択を強いられたくない。何百万もの人々がそうした状態にある世界の現状を表す言葉、批判的に語る表現力が求められる。

「経済移民」というラベルは、犠牲者たちを非難するものであり、使用すべきではない。

B.E.: 21世紀のヒューマニズムとは何か?

Z.B.:  “Cosmopolitan Vision” においてUlrich Beckがその難問をみごとに表現した。われわれは(それで良いかどうか尋ねられたわけではないが)人類の普遍的な相互依存状態、世界市民的な状態に投げ込まれている。しかし、それにともなう世界市民意識を、まだ真剣に形成し始めることもなく、獲得していない。

“If Mayors Ruled the World”Benjamin Barberが明敏に宣言した。「今日、地域的な成果を歴史的に上げてきた国民国家が、グローバルな規模でわれわれを苦しめつつある。国民国家は、自律的な住民や諸民族の自由と独立を守る完璧な対策であったが、相互依存した状態には全く不適当だ。」 地球規模の問題に対して、国民国家の性質はあまりにも競争しがちであり、相互に排除し合う。協力することができず、グローバルな公共財を確立できない。

そうした問題をたどれば、権力と政治とが乖離していることに至るだろう。結果は政治的な制約を離れ、政治は権力を失っている。スペインの社会学者Manuel Castellsの言葉を使えば、国境や法律、政治体制がその内部で決めた利害を、意のままに無視できるような、「フロー・スペース」が広がっている。政治的行為の手段は今も存在しているが、それは100年か200年前と同じ、国歌の場所によって決まった制約を受けている。それに代わる「歴史的主体」が強く求められている。

現在の難民問題を解決する近道はない。人間性の危機にある。人類が連帯するほかに危機の出口はない。そこに至る道で最初の障害とは、対話を拒むことだ。沈黙は、自己疎外、よそよそしい、不注意な、無死や無関心をもたらす。愛憎の2極ではなく、愛と憎しみと、さらに無関心もしくは無視という3極が、難民たちを迎えている。

Project Syndicate MAY 3, 2016

Reinventing Europe

JOSCHKA FISCHER

FT May 4, 2016

Europe’s limited options over the Turkey visa deal

VOX 05 May 2016

Reinforcing the Eurozone and protecting an open society: Refugee bonds

Giancarlo Corsetti, Lars P Feld, Ralph S.J. Koijen, Lucrezia Reichlin, Ricardo Reis, Hélène Rey, Beatrice Weder di Mauro


l  北朝鮮

NYT MAY 2, 2016

North Korea’s Brazen Nuclear Moves

By THE EDITORIAL BOARD


l  ベーシック・インカム

Bloomberg MAY 2, 2016

A Basic Income Should Be the Next Big Thing

Paula Dwyer

世界中でベーシック・インカムに対する関心が高まっている。それは、政府がすべての市民に対して、何の条件も付けず、資格も問わずに、たとえば、年1万ドルを与える、という考えである。

ヨーロッパ、カナダ、南米では、社会保障として考えられている。

ベーシック・インカムには様々な種類があり、その理由もいろいろだ。革新派は、貧困や不平等を抑え、失業や不況の苦痛を緩和する方策と見ている。保守派は、小さな政府への道とみなす。シリコン・ヴァレーも関心を示す。なぜならオックスフォードの研究者たちが、アメリカの職場の47%ITによる自動化によって失われる、と予測するからだ。

その費用をどうやって賄うのか? もしアメリカ国民が年間1万ドルを受け取るなら、32000億ドルが必要だ。しかし、4500万人の退職者はすでに社会保障でベーシック・インカムを得ているから除くと、その費用は27000億ドルに減る。1万ドル以上の給付を得ている家計を除くと2兆ドルに、大人だけを対象に限ると15000億ドルに減る。

リベラル派は、ベーシック・インカムを疑っている。既存の社会給付にかかわる職員が解雇されることを恐れるのだ。しかし、ベーシック・インカムを採用する他国の社会保障システムが改善される中で、多くの者が貧困や依存から抜け出せるとしたら、複雑なキルト状に絡み合うプログラムを維持するのは不合理である。


l  ロボット

FT May 2, 2016

How unprepared we are for the robot revolution

Martin Ford

大幅な雇用減少をどうするのか? 軍事的な利用による倫理問題をどうするのか?

FT May 3, 2016

The trick is to work alongside robots rather than try to compete

Diane Coyle

FT May 3, 2016

Driverless cars: when robots rule the road

Tim Bradshaw

FT May 4, 2016

We should embrace robots, not fear them

Andrew McAfee

ロボットが人間から仕事を奪うのは、まだずっと先の話だろう。人は労働者であるだけでなく、老人や子供でもある。さまざまな場面で、ロボットは人間を助けてくれる。また、多くの新しい仕事が生まれるし、すべての仕事がなくなるわけではない。失った仕事から多くの労働者が移動することは政府や経済に課された問題であり、ロボットの責任ではない。ロボットは、多くの豊かさや可能性を与えるのであるから、それを分かち合う責任は人間にある。


l  公共放送

FT May 3, 2016

The BBC should be regulated, not intimidated

Chris Patten


l  中国の過剰生産力

NYT MAY 3, 2016

China’s Steel Makers Undercut Rivals as Economy Slows

By STANLEY REED and KEITH BRADSHER

鉄鋼の過剰生産は、不況によって世界的な政治論争になっている。多数の鉄鋼労働者たちが中国の鉄鋼輸入にダンピング規制を求めている。しかし同時に、国内の鉄鋼利用者は自由を失うことを恐れている。

FT May 4, 2016

China’s fizz goes flat, even with far bigger credit stimuli

James Kynge

中国は金融危機後に融資を拡大し、投資を刺激した。しかし、過剰生産力の処理に苦しんでいる。市場が調整過程で重要な決定を担うようになるのか? そのようには見えない。


l  日本のデフレ

Bloomberg MAY 3, 2016

A Possible Cure for Japan's Low Inflation

Narayana Kocherlakota

Bloomberg MAY 4, 2016

Easy Money Isn't the Answer for Japan

Michael Schuman

渋谷を行き交う人々はいつも通り買い物や食事に忙しい。失われた10年なんてどこにもない。

安倍政権と日銀はインフレ率を目標に過激な政策を提唱したが、日本人はすでに蓄積した富を守る政策を採ってきた。その意味で、長く日本経済を苦しめたと言われるデフレは、実際にはブームである。貯蓄の価値を高め、高齢者の固定された所得を助けている。固定価格で観た場合、デフレのおかげで、日本の1人当たりGDP1992年に比べて17%も増えている。

しかし、このことは日本がGDPの増大を追求しなくてもよい、という意味ではない。若者たちの雇用を増やすためには成長が必要だ。彼らの多くは不確実な低賃金職に就いている。その対策として、金融緩和は間違いだ。むしろ構造改革によって企業や投資を促し、生産性の上昇や外国からの投資を呼ぶ必要がある。

多くの日本人がデフレの下で満足していることが、劇的な改革を拒否させ、ゆっくり煮られるカエルのように、自分が料理されていることに気が付かない。将来の日本人はもっと貧しくなるだろう。


l  政治の前提

FP MAY 3, 2016

The End of Politics as We Know It

BY CHRISTIAN CARYL

フランス革命に由来する左派党派の分割は政治で意味を失いつつある。既存の政党には社会変化に対応した主張が見いだせなくなっている。新しい政治党派が支持を得ているが、その見通しは立たない。これまで考えられたように政治が終わったのかもしれない。

The Guardian, Thursday 5 May 2016

Here’s nine ways to fix the electoral system – but first get out and vote

Polly Toynbee


l  文明と戦争

FP MAY 4, 2016

The (Con)Fusion of Civilizations

BY STEPHEN M. WALT

最新のForeign Affairsに載ったKishore Mahbubani and Larry Summers の論説(“The Fusion of Civilizations”)は、グローバリゼーションが文明を宥和し、世界平和をもたらす、というが、私はそう思わない。文明が戦争を起こすのではなく、国家が起こすのだ。

たとえ完全い合理的な国家でも、James Fearonが示したように、自国の強さに関する情報を公開せず、間違った情報を示す動機が働き、平和的に紛争を解決することに失敗する。世界には中央権力がないから、たとえ合意したことでも他国がそれを守る保証はない。

合理主義や文明の融和時代が続いても、中産階級の増大や民主主義の普及、社会主義の理想が共有されても、国家間で戦争することを防げなかった。

世界政治が国家によって分割され、ナショナリズムが最強のイデオロギーである限り、戦争はなくならないだろう。


l  プエルトリコ

FT May 5, 2016

Puerto Rico’s looming Katrina-style disaster

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The Economist April 23rd 2016

Can she fix it?

Brazil: The great betrayal

Brazil’s political crisis: The darkest hour

Bloodshed in central Africa: Burundian time-bombe

Burundi: Sliding towards anarchy

Germany sours on Russia: Fool me once

America and Brexit: More special in Europe

Free exchange: Money from heaven

(コメント) アメリカとブラジルの大統領制度が激しく揺れています.ヒラリー・クリントンは勝利に向けて,その政策に輝きを失う恐れがあり,ディルマ・ルセフは弾劾を前にして大統領としての才覚を見限られたようです.

しかし,この1冊で強い関心を持ったのは,ブルンジにおけるジェノサイドへの政治的発酵と,ドイツとロシアの関係を扱う記事です.前者で,現代でも起きる集団的殺戮の恐怖を予感しつつ,行動できないこと,後者では,あたかも第1次世界大戦の勃発を準備した国際政治の原始状態が継続していることを,実感しました.

オバマはBrexitがヨーロッパやNATOを介して世界秩序の背骨を砕くことを恐れます.「ヘリコプター・マネー」は,金融政策の政治的限界を迂回するまやかしの手品に過ぎない?

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IPEの想像力 5/9/16

政治過程を集約する主体が、国民国家ではなく、都市であればよいのでしょうか? 難民をめぐって,Zygmunt BaumanBenjamin Barberは都市の連合を考えます.ロンドン生まれの労働党員,イスラム教徒でもあるサディク・カーンが市長に当選したことは希望を与えます.

しかし,イギリスのEU離脱はどうなるのか,スコットランド独立はどうなるのか,ドイツとロシアの対立や,アジア太平洋における米中間の秩序は? 不安が希望を圧する情勢が各地にあります.

明日は,ロンドンなのか、サラエボやアレッポなのか?

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暴力的な異変が頻発する世界,虐殺や集団的暴行が罰せられることなく,明日も自分や家族の生活が平穏である保証は何もないと感じるような,荒涼とした世界を終わらせるために,公的な秩序はある,と思います.

この秩序が,ある日から,衰弱し,消滅することもある,というのを,いくつかの事件を読んで意識しました.

ブルンジで、ルワンダに起きた虐殺と同じことが再び準備されている、と恐れられています。

「ブルンジの首都Bujumburaの郊外で,汚れた,固められた道路を進む警察が,住民たちに夜は電灯をつけておくように求めた.従わない者には5万フランの罰金を科す.電灯をつけたままにしておけば,警察は容疑者を見つけやすい.」

すでに若者たちの多くはよそへ,国外に逃れました.都市においても,誘拐,拷問,殺害が頻発しています.農村部では,経済の崩壊によって飢餓が発生しています.政府の高官でさえ,常に暗殺を恐れています.かつてフツ族とツチ族とのえしにっくによる分断があったブルンジで,政治的紛争がルワンダのような大量虐殺に向かう懸念が強まっているのです.

危機は,昨年4月,現在の大統領であるPierre Nkurunzizaが,3期目の大統領に立候補する,と表明したとき始まった,とThe Economistは伝えます.すでに昨年1211日に,フツ族とツチ族の両方からなる反政府派の武装集団が兵舎を攻撃し,手りゅう弾を投げる武力衝突が起きました.その後,政府軍はこの地区で,反対派を支持した疑いにより住民を無差別に殺害し,死体を集団埋葬しました.

政治家たちは虐殺を煽るような隠語を繰り返しています.治安部隊はツチ族で占められ,多くのフツ族が逮捕されています.軍や警察からフツ族は排除されています.EUやアフリカ連合は介入できず,国連安保理が平和維持部隊を送る準備をしています.しかし,エスニック紛争と虐殺は,ブルンジからさらにコンゴ民主共和国にも波及する恐れがある,と言います.

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人権も、世界平和も、核の廃絶も、金融危機を拡大しない国際通貨システムも、地理的に分割された諸国家が主権を維持する世界では、実現しない。どれほど文明が融和し,人々が豊かになっても,合理的な,プラグマティックな考え方に従うとしても,戦争を行うのは国家である.

国家は互いにその力を隠蔽し,あるいは誇張して,交渉を有利にする合理的な理由を持つ.国家は国際的な合意が,一旦,自分たちの利益に一致しないと考えるなら,それに従わないし,国家の逸脱を罰する超国家的な秩序はない,ということを認めている.世界が領土的な分割された公的秩序の集まりで,各国がその力を高めることによって目的を達成する限り,戦争や虐殺へのエスカレーションを止めるのは,大国の介入,パワーの均衡,報復の予想である,という説明に,何か違う答えを見つけなければなりません.

カーンの対立候補が行った恐怖を煽る選挙,文化やアイデンティティによる分断化は,ロンドンで敗北しただけで,あらゆる選挙区において成功するでしょう.もし権力者が暴徒と組み,殺戮を始めたら.

21世紀に,すべての人が治安と安全保障の組織化を学び,武装するモデル,そして,軍が民主政治を反映する,さまざまなモデルが試されます.

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