IPEの果樹園2016
今週のReview
5/9-14
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トランプの世界戦略 ・・・Brexitと主権の意味 ・・・株式会社のガバナンス ・・・経済政策の衰退 ・・・大連立の失敗 ・・・ラテンアメリカの蒙昧 ・・・ロンドン市長選挙の犬笛 ・・・NATOのスピーチライター ・・・ロシアのシリア介入 ・・・金準備とバンコール ・・・難民危機と人権レジーム ・・・ベーシック・インカム ・・・日本のデフレ ・・・文明と戦争
[長いReview]
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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times,
The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate,
SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)
[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
l トランプの世界戦略
Bloomberg
APRIL 29, 2016
Trump Is
Riding a Warped 1980s Nostalgia
Leonid Bershidsky
トランプの成功は1980年代の再現、懐旧感である。力が正義であり、アメリカは常に正しい。1980年代の映画ヒーロー、クリント・イーストウッドやブルース・ウィリスと同じ世界観だ。
30年前、サウジアラビアはソ連が石油志輸出を増やすことを警戒して、供給量を増やし、価格を下落させた。国際通貨を入手するために商品輸出を増やしていたソ連は経済を悪化させ、崩壊に至った。今、サウジアラビアは同じことをしているが、その標的はアメリカである。
アメリカ経済の回復は予想より弱く、労働者たちの不満は爆発している。トランプは、アメリカが衰退し続けている、と主張する。期待との落差、認識が重要である。他方で、石油価格の下落はロシア経済も破壊したが、それは予想されたよりも軽かった。プーチンの支持者たちは西側の制裁によって不況になったことを憂慮するより、クリミアを奪い、シリアでロシアの国際的な影響力を高めたことを自慢する。
FT APRIL
30, 2016
US
election: Money can’t buy you power
Jurek Martin
Bloomberg APRIL
30, 2016
Here's
Your Degree. Now Go Defeat Demagogues.
Michael R. Bloomberg
FT May 1,
2016
Donald
Trump’s war with best and brightest
Edward Luce
知識人たちはドクトリンを作る。それが美しいほど、混乱した世界を判然とさせる。
アメリカの戦略家たちによれば、トランプの考えはとんでもない戯言だ。彼の外交政策に関する話は、まだ知的に尊敬される外交専門家を雇っていないことを示している。
しかし、トランプに対する批判の多くが正しいとしても、2つの点でそれは弱い。第1に、彼らは自分を安全な位置において石を投げつけているだけだ。共和党の元大統領候補者たちも、彼らの外交顧問たちも、さらに、トランプを批判する点で共闘するようになった、民主党のエリートやヒラリーも、アメリカは普遍的な価値を、必要なら軍事力を用いて、維持していると考えるのだ。
元国務長官のオルブライトが述べたように、アメリカがそうするのは、他国より秀でているからだ。彼らはそう信じている。
しかし、ベトナム戦争から何を学んだのか? かつての「ドミノ理論」でも、ジョージ・W・ブッシュの「先制的戦争」でも、何とも容易に大破局をもたらした。イラク戦争がISISを生んだこと、さらにリビア介入が新しい拠点をISISに与えたことは明らかだ。それでも彼らはまだ、アメリカをシリアの戦争に参加させ、ウクライナをめぐってロシアとの戦争も起こすのか?
トランプの意見は、こうしたワシントンの常識を破壊するものだ。クリントンはパックス・アメリカーナの伝統を守るが、トランプは普遍的な価値などに関心がない。友好国でも、同盟国でも、商売を優先する。アメリカは負担することをやめて、もっと彼らに支払わせる。
それをとんでもない混乱だというヒラリーは、トランプに言わせれば、『グローバリズムの間違った曲』を歌っている。彼女は人権を重視するが、トランプはナショナリストの立場で他国と交渉する。
NYT MAY 2,
2016
Go Ahead,
Play the Woman Card
By JILL FILIPOVIC
NYT MAY 2,
2016
Experts
Warn of Backlash in Donald Trump’s China Trade Policies
By BINYAMIN APPELBAUM
トランプは、アメリカの雇用問題と通商政策を一貫して結び付けてきた。もし大統領になれば、中国やメキシコに対して、45%あるいは35%の関税、もしくは課税を求めている。
しかし、現在の法律に従うなら、アメリカはすべての輸入に高い関税を課すことはできない。不当な補助金を得ている外国の生産者について、それを証明しなければならない。また、その国が通貨価値を過小に操作していることも証明するのはむつかしい。
高い関税は、そのまま国内価格を上昇させない。企業は市場シェアを守ろうとするからだ。しかし、もし中国からの輸入価格が上昇すれば、その他の国から輸入が増えるだろう。また、中国が他のアメリカからの輸入財に報復関税を課すだろう。
アメリカの製造業雇用は、生産性の上昇によって減少してきた。WTOのルールを破壊してアメリカが行動することは、貿易摩擦型の紛争に拡大しないように努力してきた第2次世界大戦後の歴史を逆転させることになる。
FT May 3, 2016
Hillary Clinton plays the woman card
against Donald Trump
Roula
Khalaf
FT May 3, 2016
Donald versus Hillary — the fight
begins
Edward
Luce
NYT MAY 3, 2016
Trump and the Lord’s Work
Thomas
L. Friedman
Bloomberg MAY 3,
2016
Sanders Has Two Paths to Success
Jonathan
Bernstein
The Guardian, Wednesday 4 May 2016
Donald Trump’s triumph is a lesson
for Europe’s politicians
Simon
Jenkins
FT May 4, 2016
Trump and the future of American
leadership
NYT MAY 4, 2016
Why We Need a Foreign Policy Elite
By
EVAN THOMAS
Bloomberg MAY 4,
2016
Clinton's Thinking Vs. Trump's
Feelings
Cass
R. Sunstein
Bloomberg MAY 4,
2016
What Trump Has to Overcome to Beat
Clinton
Ramesh
Ponnuru
FT May 4, 2016
Donald Trump would tear up the Pax
Americana
Philip
Stephens
世界各地の首都が聴いている。第1に、アメリカはかつてのような超大国ではない。第2に、アメリカ大統領選挙の結果が出るまで、重要な決定は待つべきだ。第3に、トランプ大統領は最悪の悪夢を超えている。
アメリカ衰退論は行き過ぎであり、アメリカは今も、世界中のどこにでも介入できる、唯一の超大国だ。アメリカがグローバルな秩序の守護者であることは欠かせない。だから、アメリカ国民が次の大統領をだれにするかは、世界中に影響する。
しかし、トランプの政策公約には、左派のポピュリズムと、醜い右派の一方的ナショナリズムが混じっている。外交に関して言えることは、せいぜい、好戦的な孤立主義だ。
トランプは事実上、アメリカが第2次世界大戦後に築いたグローバルな構造を解体するよう提案している。彼にとっては、パックス・アメリカーナが全くの利他的な企てであり、寛大なアメリカが感謝する気持ちもない世界に与えた国際的秩序である。
FT May 4, 2016
Trump and the future of American
leadership
FT May 5, 2016
How to Trump-proof your portfolio
Gillian
Tett
Bloomberg
MAY 5, 2016
The GOP Is
Failing. Democracy Can, Too.
Francis Wilkinson
l Brexitと主権の意味
Bloomberg
APRIL 29, 2016
Austerity's
Victims May Decide Britain's EU Vote
Jamie Murray
FT May 1,
2016
Europe is
moving ever closer to Britain
Vernon Bogdanor
The Guardian, Tuesday 3 May 2016
Why is the Brexit camp so obsessed
with immigration? Because that’s all they have
Peter
Mandelson
FT May 3, 2016
Brexit: sovereignty is not the same
as power
Martin
Wolf
イギリスがもしEU離脱を決めたら、離脱派が失ったと主張している主権を、取り戻せるのか? その答えは、No、である。国民投票が問うのは主権ではなく、国家権力の最善の利用方法について、である。
権力と権威とを区別することから始めるべきだ。主権国家とは、法律を定めてそれを実施する権威を持つ。国家の権力が弱いものでも、それを超える権威は存在しない。現在では、法を作る期間は民主的な説明責任を負うことで、その正当性を得ている。非合法的な(正当な法に依拠しない)政府は、専制国家である。
国家は市民の利益を実現するために存在する。その方法とは、唯一、他国と協力することだ。それゆえイギリスは1万4000もの条約を結んでいる。イギリスはそのすべてから合法的に離脱することができる。しかし、北朝鮮のようになることを望まない。条約は主権を否定するものではなく、むしろ主権の表現である。条約は主権の行使を制限するが、それは主権をより効果的にするためである。例えば、イギリスはNATOに属して、市民の生死にかかわる権限を委譲している。それは、まさに、NATOが市民の安全保障を高めるからである。
国民投票の政治的問題とは、主権ではなく、特定の義務に及ぶ条約によって管理されたシステム内で、権力を移譲することが正しいかどうか、である。EU加盟が、イギリス(UK連合王国)にとって、移譲された権力を行使する説明責任の低下と効果の改善との間で、正しいバランスを取るものか、と問うのである。
EU諸機関の説明責任の欠如は明らかで、特に、ユーロ圏では著しい欠陥となっている。ECBの政策決定権限は行使されるが、権力は各国議会にしかない。しかし、UKはユーロ圏に帰属していないし、キャメロン首相の交渉による成果で最も重要なことは、イギリスが現状維持にとどまることを、事実上、他のEU諸国が受け入れた、ということだ。
Brexitは、主権を行使する効果を大幅に失わせるが、せいぜい、説明責任をわずかに高めるだけだろう。
NYT MAY 3, 2016
Make Britain Great Again
By
TANYA GOLD
NYT MAY 3, 2016
The British Left’s ‘Jewish Problem’
Kenan
Malik
Bloomberg MAY 3,
2016
A Vote to Stay in the EU Isn't a
Vote for Europe
Clive
Crook
FT May 3, 2016
A risible case for Brexit based on
dubious data
Chris
Giles
Bloomberg MAY 4,
2016
Leaving the EU Is an English
Nationalism Thing
Marc
Champion
The Guardian, Thursday 5 May 2016
Brexit recycles the defiant spirit
of the Reformation
Giles
Fraser
l 富と貧困
The Guardian,
Saturday 30 April 2016
The
world's poorest 50% are a trillion dollars worse off - what's going on?
Deborah Hardoon
金融資産の利回りが経済成長率を超えているから、資産の集中は進む、とピケッティは指摘した。同時に、金融危機のショックを緩和できるマイクロ・ファイナンスやセーフティーネットがあるほど、貧困層の所得は大きく減らない。
The
Guardian, Sunday 1 May 2016
The
Guardian view on the state and the market: the end of ‘hands-off’ economics
Editorial
l レスターの奇跡
The
Guardian, Saturday 30 April 2016
The magic
of Leicester City goes well beyond football
Ed Smith
NYT MAY 3, 2016
Lessons in Perseverance From Leicester
City Football Club
By
GUY ANDREWS
l 株式会社のガバナンス
FT APRIL
30, 2016
Should
Mark Zuckerberg keep control of Facebook?
Facebookの創業者Mark Zuckerbergが経営を支配し続けられるように、新しいタイプの株式を発行する。これは正しいか? 市場が経営者を決めるべきか?
Robert Armstrong ・・・不確実で、敵意に満ちた世界において、善意の、繁栄をもたらす独裁制は何も問題ないのでは? Facebookの株価は3年で3倍になった。買収も成功している。
しかしFacebookは非常に強力で、今後も独占状態を創り出すだろう。古典的なレント(地代)産業だ。そうであれば、資本主義には悪いが、株式保有の構造など問題にならない。株価は上昇し続けて、株主たちはこの王国の、裕福で、従順な臣民たちZuckerbergoniaであり続ける。
もし資本主義が機能するなら、Facebookの独占は掘り崩されるだろう。人々の要求と指導者の間に乖離が生じる。高収益と交換で真の所有権を廃止してしまった人々は、それを訴えるすべがないと気づく。
John Gapper ・・・長期的な問題は、創業者が支配を手放さなくなることだ。
Martin Wolf ・・・投資家たちが買う物を正しく理解しているなら、(投票権を薄めた、あるいは、投票権がない、その他の制限を付けた)株式を発行しても問題ない。しかし、株主たちが新しい株式の導入に同意することが重要だ。Facebookの場合、Zuckerbergが会社そのものであるから、彼に支配権を与えることは株主すべての利益でもある。
コーポレート・ガバナンスとは、会社の健全さを維持するためのものであり、1つの株式が1つの投票権であることを守るものではない。もし投票権を制限することが会社のガバナンスの改善であるなら、それに反対すべきではない。一般的には、唯一の正しいアプローチを主張するより、多くの異なるアプローチが許されることが最善である。
Richard Waters ・・・シリコン・ヴァレーの創業者たちを崇拝する者は、こうした提案を歓迎するだろうが、創業者が企業を指導する場合と、支配する場合とは、区別しにくい。スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツも企業帝国を築いたが、そのような株式を必要としなかった。ハイテク企業が繁栄するには、創業者たちと外部の投資家とのバランスを常に変えていくことが重要だ。
Jonathan Ford ・・・この提案はZuckerbergをゴールの位置に近づけるものであり、それを押し戻すことはむつかしくなる。差別化した投票システムは、サンセット条項を付けて実施するのが望ましい。
l TPP
VOX 30
April 2016
Economics
of the Trans-Pacific Partnership: Distributional impact
Peter A. Petri, Michael Plummer
TPPは、もっぱら富裕層の利益になる、と主張されているが、中所得・低所得のアメリカ家計に少し利益をもたらす。そして貧しい発展途上諸国に大きな利益をもたらすだろう。
l 経済政策の衰退
FT May 1,
2016
Fiscal and
monetary policy can be uneasy bedfellows
Shahin Vallée
金融の量的緩和とマイナス金利の組み合わせは、その効果が薄れていく。金融緩和政策と財政刺激策とを同時に採用することが議論されている。それは、マネタリー・ベースの増大、中央銀行の独立性にも及ぶだろう。インフレ目標が達成されれば、これをやめる。
その政策による分配上の効果や、停滞が長引いたときの協力関係の解消が難しい。
Project Syndicate MAY 2, 2016
The Global Growth Funk
NOURIEL
ROUBINI
世界経済の成長は低下し続けている。さらに悪いことに、先進諸国でも、新興市場でも、潜在成長率が低下している。生産性の上昇率が減少し、高齢化による労働力の増加も減少している。所得と資産の不平等化は、グローバルな貯蓄過剰に結びつく。循環的な不況が長引くと、ヒステレシス(履歴)効果が生じる。長期失業は労働者の熟練を破壊する。潜在成長を高める構造改革には、最初に大きなコストが生じて、その利益は中長期にしか実現しない、という問題がある。その結果、改革への反対派に政治的な優位がある。
個人、企業、政府にとって、持続不可能な赤字や債務を減らすには貯蓄を増やすしかない。成長を回復する責任は金融政策に過大な責任を負わせている。しかし、金融緩和の効果は時間とともに失われている。債務国と債権国との非対称的な調整過程もグローバルな成長を低下させる。債務国の支出削減は強制的であるが、債権国の支出拡大は強制されない。
政治的な容易な解決策はない。長期化する債務削減の過程を避けて、債務を秩序正しく削減するメカニズムは、主権国家間で機能していないし、国家内部でも家計、企業、金融機関に対して実施するのは困難である。同様に、潜在成長を高める、構造的な、市場に依拠した改革が必要だが、すでに経済が不況にある中では支持されない。非伝統的な金融緩和策を正常な水準に戻すことも容易でない。他方、財政政策は、たとえそれが可能な国でも、累積赤字や間違った緊縮策により、実施する余地を見いだせないままだ。
こうした世界経済の状態を、IMFはthe “new mediocre,” ラリー・サマーズは
“secular stagnation,” 中国政府は the “new normal”と呼ぶ。しかし、誤解してはいけない。こうした経済パフォーマンスに、「正常さ」も「健全さ」もない、ということだ。多くの国で不平等が増大し、右派からも、左派からも、貿易、グローバリゼーション、移民、技術革新、市場に依拠した政策に反対するポピュリストの反対が顕著になっている。
Project Syndicate MAY 2, 2016
The False Promise of Helicopter
Money
JAMES
MCCORMACK
Project Syndicate MAY 2, 2016
Central Bankers Gone Wild?
MOJMÍR
HAMPL
Project Syndicate MAY 4, 2016
The Fed’s Risky New Mandate
ALEXANDER
FRIEDMAN
FT May 5, 2016
The ECB should change course before
it is too late
David
Folkerts-Landau
l ポーランド
FT May 1,
2016
Poland: An
inconvenient truth
Henry Foy and Zosia Wasik
l 大連立の失敗
FT May 1,
2016
Europe’s
grand coalitions have allowed extremes to prosper
Wolfgang Münchau
見た目は立派である。伝統的な反対派が、国益のために連立政権に加わり、絶対多数を形成する。それは政治的安定と、困難であるが、必要な改革を実行するために正しいことである。
しかし、大連立の結果は政治的な破滅になっている。オーストリアを見ればよい。今月初めの大統領選挙で、2大政党が推す候補は有権者に嫌われ、優位を得た候補は極右政党Freedom party (FPÖ)と緑の党である。有権者は、大連立に反対したのだ。
大連立の優位は、それが絶対的な多数を確立することにある。しかし、中東左派や中道右派の支持率は低下してきた。特に、低成長、金融危機、移民・難民問題で、中道派の支持基盤が損なわれた。
ドイツで大連立が組まれたのは、極左や極右の政治勢力を排除するためであった。社会民主党SPDは左派を全国レベルで排除し、キリスト教民主同盟はAfD(the
Alternative für Deutschland)を政権から排除した。しかし、その後のSPDは支持を大きく失ってきた。
たとえメルケルが大連立で第4次政権を組めるとしても、オーストリアのように、それはAfDへの政権移譲を用意することになりかねない。
l ラテンアメリカの蒙昧
NYT MAY 1,
2016
In Brazil,
a New Nostalgia for Military Dictatorship
Vanessa Barbara
Project Syndicate MAY 3, 2016
Faulty Political Narratives
RICARDO
HAUSMANN
ラテンアメリカ全体で、最近まで、左派政権を熱心に支持者していた有権者たちが、変心したようだ。ブラジル、ヴェネズエラで左派の指導者を追放しようとし、アルゼンチンでは左派政権がすでに支持を失った。ボリビアやペルーでも、左派指導者の意向は阻まれた。
しかし、彼らが経験から学ぶ、とは言えない。現在は過去の単なる繰り返しではないからだ。人々は現実について説明する物語を求める。たとえば、人民とエリートの対立。あるいは、汚職の追放。あるいは、ネオ・リベラリズムの経済思想と緊縮策と、それを否定する主張。最後に、外部の経済環境が変わった、という話だ。
将来、政府がもっと効果的になるとしたら、それは有権者たちが政策について厳しい要求をするまでに、自ら学習する場合だけである。ラテンアメリカの有権者たちが知る政治的な物語から学ぶことは、何の役にも立たない。
真実を言えば、ラテンアメリカのほとんどの国が、1970年代のブームを正しく扱わなかった。そのブームが終われば1980年代に債務危機が起きた。各国はこの危機処理にも失敗し、融資を得られないとなると、通貨を増刷し、為替レートの減価とインフレの高進に至った。それを抑えるため、最後には通貨や物価を統制した。
1980年代の後半に、彼らは異なる戦略を採用した。債務を組み替え、金融規制を解除し、通貨の増刷を止めるための財政引き締め、増税と支出削減を行った。再選された指導者たち(Carlos Menem of
Argentina, Fernando Henrique Cardoso of Brazil, and Alberto Fujimori of Peru)は、明らかに、債務危機の克服、財政均衡化、インフレ抑制に成功したことが支持されたのだ。
しかし、彼らの成果が現れるとき、1997年7月からの東アジア危機が起き、国際商品価格が下落した。1998年8月のロシアのデフォルトが、金融市場でラテンアメリカに感染し、経済危機は左派政権につながった。
その状況は2004年に急変する。国際商品価格が最長のブーム期に入ったのだ。投資家たちは新興経済の債券に強い購入意欲を示した。しかし、このブームによる利益もラテンアメリカ諸国は正しく扱えなかった。1980年代後半と同じように、ブーム期には有権者たちが強く求める財政支出増を実現し、そのパーティーが終わった今は、より保守的な政権が支持されている。経済の安定化と、民間投資を呼ぶための市場の信認回復を、有権者が願うからだ。
有権者たちは学ばず、支配的な物語も正しい政策を促すものではない。
NYT MAY 3, 2016
Populist Policies Let Brazil’s
Tomorrow Slip Away
Eduardo
Porter
l ロンドン市長選挙の犬笛
FP MAY 1,
2016
London Is
Calling for its First Muslim Mayor
BY IAN DUNT
イギリスで毎週、伝統となっているPMQs(Prime
Minister’s Questions)において、キャメロン首相は公然とレイシスト(人種差別主義者)という非難を浴びた。
最初はコービン労働党党首との教育政策に関する普通の論争であった。しかし首相は、ロンドン市長候補のイスラム教徒、カーンSadiq
Khanとイスラム過激派との間につながりがある、という疑いに言及したのだ。キャメロンは前にいる彼を見上げて、「私は労働党候補に懸念を持っている」と述べた。
野党議員たちは激しく憤慨した。しばくして、彼らはこれがロンドン市長選挙における保守党の犬笛キャンペーン、つまり、有権者にイスラム教徒の市長が現れることへの不安を刺激するための作戦だ、と確信した。キャメロンの発言はその1つである、と。
突然、労働党側から叫ぶ者があった。「レイシストだ!」 キャメロンはそれを無視して先に進もうとしたが、その後、他の労働党議員からも「レイシスト」と呼ばれた。首相の顔に、一瞬、不安が現れた。彼はグラスの水を飲み、しばらく待ったが、叫ぶ声は増え続けた。「この点で声を上げるというのは、彼らが真実を聴きたくないからだろう」と、キャメロンはやっと言った。しかし、それは遅すぎたし、確信した強い声でもなかった。
ロンドン市長選挙はますます醜い泥仕合になっている。ロンドンの生活の多彩さを示す、パキスタン系のバス・ドライバーの息子と、裕福な白人弁護士との選挙であったものが、毒々しい選挙戦になっている。自称「世界の首都」が本当はどの程度まで他者に寛容であるのか、疑いを強めることになった。
カーンは、イスラム教徒として、パキスタンから移住してきた両親の8人の子供の5番目であった。人権擁護の法律家として、警察の嫌がらせにあった人々を代表してきた。政界に入ると流星のように上昇し、ゴードン・ブラウン首相が大臣に抜擢した。
保守党は、市長選挙において、カーンを破るための標的を2つの集団に絞った。多文化的なインナー・ロンドンから疎外され、憤慨している白人有権者、そして、イスラム教徒の市長が誕生する可能性に、当然、警戒しそうな南アジア出身の有権者たちである。
その戦術は、Zac
Goldsmithを保守党の穏健派代表と見ていた多くの保守党員を失望させた。若く、ハンサムで、ソフトな話し方の、非常に裕福なGoldsmithは、環境問題に強かった。まさか彼が、イギリスにドナルド・トランプの選挙戦術を輸入するとは、誰も思わなかった。しかしこれが政治であり、彼のチームは、インナー・ロンドンの弱さをアウター・ロンドンの集票でバランスすることを期待したのだ。そして、カーンとイスラム過激派とをなんでも結びつけた。ラディカルな聖職者Suliman
Ganiと関係があった、ということも主張した(しかし実際には、Ganiが昨年の議会選挙で、カーンではなく、保守党候補を支持していたことが分かった)。
これまでエスニック・マイノリティーが選挙戦の冊子で強調された場合、いつでも積極的な意味で、あるコミュニティーに候補者が何をするか主張する内容だった。今回、初めて、特定の集団の不安を煽る戦術が採られたのだ。「あなたが好まない特定のコミュニティーに対して、私の対立候補がすることについて、あなたは心配しているはずだ。」
この分断戦術が有効かどうか、わからない。イギリスでも人種的偏見が高まっているものの、ロンドンはそうではない。隠されたイスラム教徒への不安Islamophobiaを、世論調査では示されないが、選挙に利用できるかもしれない。北アフリカや中東からヨーロッパに難民が流入することについて激しい論争が起きている中で、それを利用した汚い戦術だ。Goldsmith陣営に加わったオーストラリアの戦略家Lynton
Crosbyは、感情的な右翼の話題を強調してJohn
Howardを再選させた。
ロンドンは、イギリスの中でも優れて寛容な、混合型のコミュニティーを自慢してきた。人種や宗教が異なっても、隣同士で仲良く暮らしてきたのだ。彼らロンドン市民は、ニューヨークやパリを訪れた際、人種によるインフォーマルな分断を観てショックを受けた。少なくとも今のところ、Goldsmith派の選挙戦略は成功していない。
Revolt on the Rightを書いた作家のMatthew
Goodwinは、ロンドンの人口変化が関係していると言う。年老いた、白人労働者階級は、こうしたキャンペーンに反応すると期待されるが、すでにロンドンを出て、UKIPのような反移民政党が支持されているエセックスやケントに移住した。彼らはリベラルな多文化主義者に変わったのではなく、政治的にクラウド・アウトされただけである。
分断を刺激する選挙戦術が、イギリス全体では効果的かもしれない。カーンは抜け目ない政治家であるから、泥仕合を自分の有利な宣伝に利用する。労働党内では人種差別的な発言をした議員が批判されている。左派で、ロンドンの元市長、Ken
Livingstoneを党から追放するようカーンは主張した。
このまま保守党からの攻撃を数週間受けながら、カーンが市長となって、ロンドン外の有権者にもイスラム教徒の政治家を恐れることはない、と示すかもしれない。人口変化以上に、それが分断戦術を放棄させるなら、喜ばしいことだ。
The Guardian, Tuesday 3 May 2016
Electing Sadiq Khan as mayor of
London would be the terrorists’ worst nightmare
Yasmin
Alibhai-Brown
カーンSadiq Khanは真のロンドン市民であり、それゆえ彼こそが市長にふさわしい。彼の人種や宗教、階級よりも、重要なことである。カーンは、パキスタン生まれでバス運転手だった父と、裁縫労働者だった母との間の8人の子供の1人である。両親は貯蓄によって家を買い、すべての子供たちを大学に行かせた。カーンは公営住宅に住み、公共交通機関を使い、権利のはく奪を知っているし、都市の上昇志向を表している。
カーンはスマートで、賢明な、改革派、優れたアイデアを持った人物だ。彼はセクトや政党に縛られない、ユニバーサリストである。彼は、数か月に及ぶ保守党や極右からの攻撃に対して、礼儀を重んじ、忍耐強い対応を示した。私が最後に街頭で踊ったのは、ニュー・レイバーが最初に保守党から権力を奪ったときだった。もしカーンが勝利すれば、私は再び踊りたい。私たちは価値ある市長を得ると思う。
FT May 2, 2016
London mayor candidate Sadiq Khan
faces anti-Semitism question
Sebastian
Payne
Project Syndicate MAY 3, 2016
Anti-Semitism From the Left
IAN
BURUMA
FT May 3, 2016
Zac Goldsmith is no longer the
Conservative poster boy
Sebastian
Payne
Zac
Goldsmithはどうしたことか? Richmond Park選出の下院議員、現代的な保守党の優等生であった。熱烈な環境保護派、直接民主主義の支持者、EUに関する原則的立場を維持していた。しかし、彼のおぞましい選挙運動はそのイメージを破壊した。
(後半へ続く)