IPEの果樹園2016

今週のReview

4/25-30

 *****************************

Brexitの政治経済学 ・・・ルセフ大統領の弾劾決議 ・・・アメリカの新しい政治経済地図 ・・・トランプ主義とクリントン主義 ・・・チェルノブイリ原発事故30周年 ・・・生産性上昇と労働者 ・・・中国経済はどうなるか? ・・・移民・難民の世界

 [長いReview]

******************************

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  Brexitの政治経済学

Project Syndicate APR 15, 2016

A British Bridge for a Divided Europe

ROBERT SKIDELSKY

EUがイギリスで好まれたことは一度もない。イギリスは遅れて参加し、623日には、離脱するかどうか、有権者に問う。国民投票は法的に政府を縛るものではないが、国民が離脱すると決めた場合、イギリスがとどまるとは考えられない。

ヨーロッパをめぐるイギリスの論争は、時代とともにその焦点が変わった。1960年代と70年代には、当時のEECにイギリスが参加できるかどうか、議論された。イギリスは世界で最も早く成長する市場から締め出されるのではないか、また、アメリカとのパートナーシップが損なわれるのではないか、という不安があった。

今、イギリスで論争されているのはヨーロッパのパワーではなく、その衰弱である。2008年の金融危機以降、EUとは失敗を意味するようになった。イギリスとドイツのほかには、経済成長がほとんどない。その境界線はテロリストたちに無防備だ。その諸制度は正当性を欠いている。28か国の準主権国家が集まっているが、EUとして行動できず、単に、行動するつもりだと表明するだけだ。主権国家に戻る動きが起きるのは当然だ。

EUの運命は、その最も脆弱な特徴に結びついている。すなわち、ユーロ圏だ。19か国が単一通貨を採用するユーロ圏は経済停滞の核心にあるからだ。イギリスとデンマークだけが、そこから離脱することを許されている。他の国は、その基準を満たせばユーロ圏に参加すると予想される。ユーロ圏は政治同盟にとってのエンジンであるが、このエンジンが壊れている。

2008年の金融危機はアメリカの銀行破たんで始まったが、その後、世界の他の地域が回復したのに、ヨーロッパは景気回復しなかった。ヨーロッパの経済全体を危機の感染から守る、自立した主権が存在しないからだ。非対称的ショックに応じる財政移転システム、余剰資金を保有できるリスクのない金融資産(ユーロ債)、銀行と資本市場を監督する単一のシステム、最後の貸し手となる中央銀行、EU全体の安定化と景気回復をもたらす政策実行能力、こうしたものを欠いている。

ユーロ圏は国民国家の妥協を弱めたものであったから、参加する諸国が主権を失うような超国家機関を創らなかった。ヨーロッパの経済通貨統合を完成させる呼びかけがあるけれど、その順序は正しいのか? ECBの元主任エコノミストであるOtmar Issingは、主権のないまま、金融政策を含めて、重要な政策権限を上位の機関に移すことは、深刻な正当性の欠如をもたらす、と批判し続けている。

EUが政治同盟を漸進的に達成しようとしたのは、それから始めることは不可能であったからだ。この「ヨーロッパ・プロジェクト(統合計画)」は、危機を繰り返すことで政治的統合を推し進めるものと期待された。それがジャン・モネの希望であった。逆の効果を生むかもしれない、と反対されたことはなかった。

イギリス人は急速な政治統合を好まない。それはますます多くの主権がユーロ圏に集まることを意味するから。キャメロン首相が交渉したことは、この「より緊密な政治同盟」から離脱することだった。しかし、政治同盟なしにはユーロ圏は機能しない。それゆえ、ユーロ圏は互換性のある部品に分かれるだろう。

1つは、北部単一通貨圏だ。ドイツが、あるいは、より起きそうなものは、独仏が協力して主権を樹立する。それは南部と自由貿易でつながる。南部は財政政策や金融政策を北部と共有しない。南部加盟諸国は、相互に、また、北部と、調整可能な固定為替レートを採用する。

しかし、南部にはドイツに対抗できる国がない。もしあるとしたら、それはイギリスである。イギリスのEU離脱に反対する重要な論点がここにある。イギリスはEUにとどまって、もしユーロ圏が解体する場合、その過程が極端な混乱に陥らないように、ヨーロッパ統合の創設者たちの精神を継承する受け皿となるのだ。

イギリスは常に、異なる世界の懸け橋であった。将来の2つのヨーロッパのためにも、そうなるべきだ。

FT APRIL 16, 2016

Could Brexit be a good thing for Europe?

イギリスが離脱することはEUにとって良いことか?

Lionel Barber ・・・EUの加盟国は、さまざまな理由でイギリスがEUに残ることを好むだろう。ドイツは、国家介入主義に反対する自由貿易派のパートナーとしてイギリスを好む。スカンジナビア諸国は政治的独立を重視する英語の国家を好む。フランス人はドイツに対抗するため、また、強力な軍事力を持つ同盟国としてイギリスを好む。

Brexitは、EU各地のポピュリスト政党お刺激し、分離を求める勢力が強くなる。

Gideon Rachman ・・・Brexitがヨーロッパを助けるのか? 理論的にはYesだ。しかし、実際にはNoである。

確かにイギリスはEUの連邦主義にいつも反対してきた。だから理論的には、イギリスの離脱が、政治同盟や経済政府に向けたEU内の合意を容易にするはずだ。

しかし、実際に、近年の連邦主義を妨げているのは、主要諸国間の、とくに独仏間の意見対立である。経済政府がどのように機能するのか、という問題は、イギリスが離脱しても解決しない。

Alan Beattie ・・・たしかにEUの意思決定は容易になるかもしれない。特に、貿易と農業において。しかし、残念ながら、その合意は間違ったものになる。

イギリスの金融・サービス部門が貿易相手国の市場アクセスを要求することもなく、EUの通商交渉はより目標を引き下げて、保護主義的な内容に合意する。鉄鋼のような部門で、自己破壊的な保護主義政策が採用されることもあるだろう。共通農業政策の改革は遅れ、農業の保護関税はあまり低下しない。

FT April 19, 2016

Britain’s friends are right to fear Brexit

Martin Wolf

西側の指導者たちはBrexitをどう見ているのか? 特に、バラク・オバマは。

離脱の経済コストに関しては、イギリス大蔵省が優れた分析を示した。それによれば、離脱後の3つの可能な選択肢において、深刻なコストが予測できる。すなわち、1.ノルウェーのようにEEAに加盟する:GDP3.4%から4.3%の損失。2.カナダのように2国間協定を結ぶ:GDP4.6%から7.8%の損失。3.日本のようにWTOルールに頼る:GDP5.4%から9.5%の損失、である。

こうした数字を信じるべきか? NO。しかし、その方向は正しい。その数字は小さすぎるだろう。イギリス経済は貿易や直接投資に対する開放度を低下させる。それはイギリスの生産性を損ない、その産出を減らす。

EU加盟諸国はイギリスの離脱を阻止することに圧倒的に傾いている。どのような離脱も、できるだけ苦痛の大きなものにするだろう。Brexitは、混乱と不確実性に満ちた長い期間の始まりとなる。ユーロ危機が示したように、そのような不確実さは非常に大きなコストをもたらすし、数年どころか、はるかに長い将来を損なうだろう。

それゆえ友好国は、Brexitのもたらすイギリスを超えた潜在的なダメージを嫌悪する。アメリカはその代表だ。イギリスは主権を奪われている、という離脱派に、オバマは思い出すよう求めるべきだ。もしアメリカが戦争に参加していなければ、イギリスは今頃、ナチスかソ連の衛星国になっているだろう。第2次世界大戦と冷戦を通じて、アメリカの資源とその意志が西側を守ったのだ、と。

イギリスはEUを離脱するべきではない。ヨーロッパのシンガポールになる、などと望んではならない。それを喜ぶのは西側の敵だけだ。


l  ルセフ大統領の弾劾決議

NYT APRIL 19, 2016

Dilma Rousseff’s Impeachment Isn’t a Coup, It’s a Cover-Up

By CELSO ROCHA DE BARROS

ルセフの支持者たちは憤慨し,反対派は歓喜に飛び跳ねる.そして,ブラジルの汚職に関わる政治家たちは,安堵のため息をついただろう.

日曜日,国会議員たちが弾劾のための投票を行うようすは,長時間,テレビ中継された.「エルサレムの平和のために」,「トラック運転手たちのために」,「ブラジル・フリーメーソンのために」,「この国は共産主義に脅かされているから」,など,彼らの投票は大統領の弾劾,ルセフは財政ルールを破ったのか,と無関係なものであった.

大統領の弾劾決議は,ブラジルの政治システムが残骸でしかないことを示すものだ.洗車作戦Operação Lava Jato Operation Car Wash)と呼ばれる大規模な汚職調査は,2014年,ルセフの与党である,左派の労働者党議員が国営石油会社Petrobrasから政治資金を得ていたことを調査し始めた.ますます多くの証拠が,こうした汚職はブラジルの政党すべてにわたって行われていることを示していた.

ルセフは,多くのブラジル政治家と違い,賄賂を取って有利に扱うことで告発されていなかった.しかし,彼女の大統領としての支持基盤は弱く,グローバルな商品価格の下落や経済運営のミスで,不況に苦しんでいた.彼女は政府支出を削減し,緊縮策の痛みを受け入れた.つまり,大統領は国民の怒りの標的にしやすかったのだ.

ルセフの辞任は,汚職調査を終わらせる素敵なファンファーレになるだろう.腐敗した,右派の政治家たち,ブラジル最大の選挙区は,執行猶予付きで放免される.洗車作戦の調査を指揮するDeltan Dallagnolは,大外語の調査に対する政治的反対を懸念する,とBBCのインタビューに答えた.メディアが取り上げず,大衆の関心が薄れる中で,政治家たちは防御を固めている.

る政府の支持者たちは,これをクーデタであると非難する.しかし,法的手続きは間違っていない.ルセフはルールを破った.しかし,弾劾型が正しい,とは言えない.

これは新しい夜明けなどではなく,旧政治階級がこの国を再び強く支配し,監獄をまぬがれた,ということになるだろう.


l  アメリカの新しい政治経済地図

NYT APRIL 15, 2016

A New Map for America

By PARAG KHANNA

アメリカは財政支出を今も50の州に分割されている。これでは新しい経済ダイナミズムを引き出すことに失敗するだろう。アメリカはむしろ活発に成長する都市の連合体、a United City-States of Americaであるべきだ。

大統領予備選を観ていると、アメリカは50の州でできているように見える。しかし、社会的にも、経済的にも、アメリカは、地域のインフラが結ぶ線により、州や国の境界を無視したメトロポリスの群生により、自ら再編しつつある。

アメリカはインフラ整備が遅れている。それは支出額だけでなく、むしろどこに、どうやって支出するか、で遅れている。西ヨーロッパでもアジアでも、都市に群生する高度先端技術産業の集積によって再編しつつある。アメリカはこうした動きを、時代遅れの、50に分割した州が妨げている。

ボストンからワシントンまで、北東部メガロポリスは、5000万人以上の人口を擁し、アメリカのGDP20%を占める。大ロサンゼルス圏はGDP10%以上である。これらのアメリカ都市国家群が、長期の経済的な活力を決定する。

州は引き続き、政治的そして規制的な役割を果たすだろう。しかし、次の大統領は陳腐な決まり文句を超えて進むべきだ。自国内から海外に向けて、新しいインフラ投資をテコとして、輸送システム、代替エネルギー、デジタル技術、その他の先端技術部門を集約する、新しい都市の政治経済を推進することだ。

21世紀は、領土をめぐる競争ではなく、連結をめぐる競争になるだろう。連結されたアメリカ諸都市だけが、グローバルな貿易、投資、サプライ・チェーンをめぐる競争に勝利できる。アメリカが指導的な超大国であることを維持したのは、軍事的な大戦略以上に、そのような経済計画であった。


l  トランプ主義とクリントン主義

NYT APRIL 16, 2016

Trumpism and Clintonism Are the Future

By MICHAEL LIND

アメリカ政治には根本的な変化が生じつつある。共和党と民主党の将来は、トランプ主義とクリントン主義に示されている。それはアメリカにおける保守主義と進歩主義の政治運動を規定する新しい編成だ。

1980年のロナルド・レーガン当選を新しい政治の出発とみなしがちだが、今から見れば、レーガンとビル・クリントンは過渡的な存在である。彼らの時代に、民主党支持者が大規模に共和党支持に変わった。それは経済的なポピュリストの民主党員たち、1968年に民主党のGeorge Wallaceを独立派の候補として支持した人々だ。

レーガンの経済観は、ポピュリストではなく、伝統的な保守派やリバタリアンに近い。大統領になってからは攻撃しなかったが、候補のときに社会保障や医療保険制度を否定していた。他方、ビル・クリントンも、1980年代、90年代に、レーガンを支持した民主党員たちがクリントンを支持する方へ動いた。そのため、ビルやゴアは多くの争点でリベラルな左派と距離を置いた。

しかし、1994年の中間選挙で共和党が上下両院の多数を制した。特に南部と西部で、多くの中間派や保守的な民主党議員が共和党候補に席を奪われた。ニュー・イングランドや西海岸の民主党候補で生き延びたものは、都市や大学町の、黒人やラティーノが多数を占める選挙区だった。

共和党の中では、白人労働者階級の間で支配的な感情、すなわち、憤慨や裏切られた感覚が重要になってきた。トランプが2015年に現れるはるか前から、経済的なリバタリアンはポピュリストによって地位を奪われていた。宗教的保守派が衰退し、ヨーロッパ型の国民的なポピュリズムが台頭し、非合法移民に反対することが主要な争点になった。

トランプは共和党の中にあるギャップそのものであり、正統的な保守派と、共和党支持者とのかい離を示している。すなわち、白人中産階級の既得権を守り、非合法移民や、イスラム教徒、自由貿易、フリーライドを続ける同盟諸国を攻撃する。

民主党の戦略家たちは、1992年、2004年の選挙で勝利したことで、保守派やリベラルなレーガン支持者、ウォレス民主党員の支持を必要としなくなった、と考えた。オバマ的な連携の長期的な拡大と、ヒスパニックの有権者が増えることは有利に働くだろう、と。それゆえヒラリーは、ビルの遺産と距離を置き、民主党本来の政策に戻ろうとした。サンダースに脅かされたからではなく、レーガンを支持した民主党員から分離したことで、民主党は左派に修正されたのだ。

民主党の将来は、ヒラリー・クリントニズムであり、白人労働者への戦略的譲歩から離れた、少し進歩主義的なネオリベラリズムである。そして共和党の将来は、エリートのリベラリズムと保守派有権者のポピュリズムとの衝突に向かい、新しい正統派は給付や移民の権利について左派に傾きながら、トランプの激情を避けようとする。


l  チェルノブイリ原発事故30周年

The Guardian, Saturday 16 April 2016

The political fallout of Chernobyl is still toxic

Natalie Nougayrède

1986426日、午前123分、チェルノブイリ原発の第4原子炉が爆発した。膨大な量の放射性物質が大気中にまき散らされた。チェルノブイリの爆発事故はソ連崩壊に重要な役割を果たしたともいわれる。

最も深刻な影響を受けた国はウクライナとベラルーシである。こうした国がその後の安定した民主主義をめざす道は容易なものではなかった。両国にとっては、チェルノブイリも、20世紀ヨーロッパの流血の惨事における長いリストの1つでしかなかった。ベラルーシは第2次世界大戦で国民の3分の1が死亡した。

1990年代にチェルノブイリ地方を旅したが、その際、爆発事故から生じた政治的混乱がまだ続いていることを認めないわけにはいかなかった。まさに放射性物質が大地にまき散らされ、その地域を汚染し続けているように、ソビエト体制の遺産は容易に取り除けず、消滅することはないだろう。

西側の人々は、チェルノブイリを技術の悪夢として記憶している。しかし、その地域に住む人々にとって、それは物質的な恐怖の状態を抜け出す段階を示すだけでなく、いまだに成功していない画期的な政治的転換を意味するものだ。

ソビエト連邦の全体主義ウィルスは旧ソ連圏の人々から容易に駆除されないことを彼らは知っている。それはちょうど、チェルノブイリの原子炉から放出された汚染物質が決して破壊されないことと同じである。


l  生産性上昇と労働者

FT APRIL 17, 2016

Fear of the robots is founded in the messy reality of labour

Duncan Weldon

多数の労働者から仕事を奪う機械がもたらすディストピアの物語は、技術革新とともに古い。現在のロボットに関する論争で欠けているのは、労働者の交渉力、という視点である。労働者の交渉力が弱ければ、機械化に関するラッダイト的な不安を真剣に扱う必要がある。

現代の不安は、機械化が人間の身体だけでなく、その頭脳にまで及ぶ潜在能力を示すからだ。オックスフォードの2Carl Frey and Michael Osborneは、アメリカの雇用の半分が失われる可能性を示唆し、イングランド銀行は1500万人のイギリス人労働者が仕事を失う危険性を指摘する。

しかし、こうした懸念は経済史を見ることで安心するだろう。過去150年間で、イギリス農業は150万人の雇用を失ったが、農業生産は400%も増大したが、その結果として、大量失業ではなく、繁栄を実現し続けている。技術変化は、短期的な苦痛と長期的な利益、少なくとも、経済全体としての利益を意味する。

しかし、短期的な苦痛が長引くこともある。また、産業革命の時代に、西ヨーロッパの生活水準はなかなか上昇せず、その過程は円滑なものではなかった。経済史家たちは、1840年代までの40年間を、エンゲルスの停止Engels’ Pause、と呼ぶ。急速な技術変化にもかかわらず、生活水準は停滞し、高失業が続いたからだ。それがマルクスとエンゲルスの『共産党宣言』が書かれた背景であった。

労働節約的な技術変化に労働市場がどのように反応するか、エコノミストは2つの効果を考える。置換効果と補償効果である。これらの相互作用が、短期的な苦痛がどれくらい長引くか、を決めるのだ。

生産性の上昇は、人々から仕事を奪うかもしれない。しかし、機械化によって職場が失われる、というラッダイトの不安は、補償効果を見ていない。新技術の導入は、生産性を高める。理論によれば、それが最後には高賃金をもたらし、高賃金は支出を増やす。だから他の分野の成長を促し、新しい雇用をもたらすだろう。

現実には、もっとその過程は混乱している。労働市場における相互作用は、需要と供給の線が示すほど冷静なものではない。それらは社会・政治的な状況、労働市場を規制する制度や取り決めによって影響される。高い生産性は、直ちに高い賃金を意味しない。パワーが重要なのだ。

現在のように、労働者の交渉力が弱ければ、新技術による高生産性は、十分に、迅速な賃金上昇に結び付かない。高失業、拡大する不平等、生活水準が多くの人にとって停滞する。

労働者の弱い社会にロボットが登場するなら、その苦痛は長い時間に及ぶだろう。

 

The Guardian, Monday 18 April 2016

The solution to (nearly) everything: working less

Rutger Bregman

もしケインズに21世紀最大の課題は何かと尋ねたら、彼は迷うことなく答えただろう。

・・・余暇だ。

ケインズは、政策を間違えなければ、1930年の生活水準が1世紀で少なくとも4倍になる、と予測した。2030年には、州に15時間しか働かない、と。

2000年に、英米などの国で、生活水準は1930年の5倍に達したが、今なおわれわれの最大の問題は、余暇と退屈ではなく、ストレスと不確実さだ。

より少ない労働時間で何が解決できるのか? と、私は最近質問された。しかし、私は逆に問いたい。解決できないものは何か?

気候変動、二酸化炭素の排出量を減らす。長時間労働と、それがもたらす作業ミスは、チェルノブイリからスペースシャトルまで、大災害につながった。労働時間が少ない国の方が人々は暮らしに満足感を覚えている。ILOは、1人がフルタイムで働くより、2人がパートタイムで働くジョブシェリングが、最近の経済危機を解決する道である、と結論した。

ジェンダー間の平等も、世代間の労働配分も、高齢者がますます引退後も働くことを望んでいる時代に、労働時間の短縮で解決の可能性が高まる。「20世紀には、富を再分配した。」「今世紀に再分配されるのは、労働時間である。」

経済的不平等の問題がある。不平等が大きな国は、労働時間も長い。貧しい人は生きるために長時間働くしかないが、裕福な人は無駄な時間を過ごすことが「高価だ」と感じて長時間働く。今や長時間労働はステイタス・シンボルにもなっている。週労働時間を減らすことで、社会が健全になるだけでなく、無駄な、有害な業務を減らすことにつながる。育児や介護のような、支払われないけれど重要な仕事に十分な時間をとるには、国民全体にベーシック・インカムを実現するのが最善だろう。

空いた時間はテレビを観ているだけではないか? と心配するかもしれない。しかし、人々が愚劣なテレビ番組を長時間観るのは、日本など、働き過ぎの国で起きていることだ。確かに、海で泳ぐのはむつかしいが、21世紀の教育は働くためだけでなく、人生の楽しみ方を教える。

Bertrand Russell1932年に書いた。人は空いた時間に倦むのではない。受け身の、うつろな楽しみを嫌うのだ。


l  中国経済はどうなるか?

Bloomberg APRIL 18, 2016

China's Future: Neither Boom Nor Bust

Arthur R Kroeber

中国経済に関する強気と弱気の意見が対立している。地方政府の債務を処理し、国有企業を改革し、市場を開放して競争を受け入れ、金融部門を自由化するのか? しかし、最も起こりそうなシナリオは、どちらでもない、ドラマチックさに欠けるものだ。中国は次の10年間を、日本が1990年代に経験したように、上品な衰退過程を過ごすだろう。

中国の規模とダイナミズムを日本に比べるのは無理だ、と思うだろう。しかし、1990年まで、日本が40年近くも高成長を実現したことを思い出すべきだ。GDPは世界第2位になっていた。その後、地価と株価がバブルを生じて、その破裂後、<日本>株式会社は債務の罠に陥った。政府は、民間企業が債務削減を進める中で、需要を維持するために、財政赤字を増やし続けた。

中国はまだ1人当たり所得水準が低いから、キャッチアップの余地が大きいはずだ。しかし、中国が日本型の衰退を迎えるかどうかは、指導者たちの勇気に依存している。2つの点で、中国は日本の失敗を繰り返しそうだ。1.自分たちの過ちを無視する、慢心。2.積極的な改革を避ける、臆病。


l  移民・難民の世界

NYT APRIL 20, 2016

Out of Africa, Part II

Thomas L. Friedman

シリア,イラク,アフガニスタンからの難民だけでなく,西アフリカの干ばつと不作に圧倒される大地からも,多数の移民がヨーロッパに向かっている.

アフリカに入るも移民がいた.しかし,今回の移民は以前と違う.あまりにも多くの人が,あまりにも貧しい自然に住む.そして,誰もが携帯電話でヨーロッパのよい暮らしを知る.

畑を耕すか,壁を築くか? 本当はそこに選択肢はない.どのような壁も彼らを土地にとどめることはできないのであるから,彼らの畑を回復するしかない.

********************************

The Economist April 9th 2016

Imperial ambitions

Leak of the century: The lesson of the Panama papers

Iceland’s prime minister: Big fish

Banyan: Of blowhards and bombs

Djibouti: The superpowers’s playground

Brexit brief: The economic consequences

Global steel: Through the mill

(コメント) ZuckerbergFacebookの拡大戦略はいつまで帝国を築けるのか? GoogleAmazon,そして反ダンピング規制官僚との戦いです.

パナマ文書の情報リークと,アイスランド首相の金融改革やマクロ経済再建について,読みました.特に,アイスランド首相辞任の単純な評価は間違っていた,と反省します.

Brexitや世界の鉄鋼産業,ジプチという小さな島の記事に関心を持ってはどうでしょうか.何より,アジアの核軍拡競争は進むのか?

******************************

IPEの想像力 4/25/16

日曜日の朝,NHKさきドリ,で植物工場を観ました。面白いです。

青森県で電子部品工場が厳しい競争に耐えられず,経営者は勇気を奮って,これを植物工場に転換しました。青森には遠方から野菜が入荷するため,その輸送費が野菜の値段に追加されます.そこで,価格が4倍もする冬場のレタスを工場で生産しました。

アメリカ東海岸でも盛んにおこなわれています。しかも,植物工場で野菜をデザインする。形や味,栄養素を変えて販売する.LED光や液体成分を工夫して,植物の付加価値を高めることができます。すごく甘いミニトマトを必ず作れる。疲れた体に適したサラダを創る。・・・

土地を耕す農民はどうすればよいのか? ビニールハウスなどの露地ものはどうなるのか? 棲み分けるだろう,と解説者は答えます.

****

民主主義も,やはり土地に育つものであると思います.しかし,インターネットの発達やアメリカのトランプ現象,イギリスのEU離脱国民投票,ブラジルの大統領弾劾決議,世界各地の難民問題,などを観ると,土地に育つのを待つだけでは難しい状況が現れています.

奴隷ではなく,同じ人間であれば,共通の文明を担う市民として,土地を耕し,学問を究め,兵士となって国を守り,傷ついた仲間を助けて,政治にも必ず参加することが義務である,と考えるはずです.民主主義は,その一部でした.

しかし,たとえば,現実の世界には難民と富裕層がいます.内戦や干ばつで土地を離れた難民たちは,よりよい生活を求めて移住します.他方,富裕層も,自分の資産をどこに投資するべきか,どこで課税されるのがよいか,多くの選択肢を持っていることに気づきます.超富裕層が世界都市の不動産を買収し,特異な物価高騰が,ロンドンにも,香港にも現れます.ホームレスとなった人々は,都市の民主主義に何を求めるのでしょうか?

あるいは,労働者とロボットがいます.大規模な機械や情報環境,ロボット,AIなど,ますます複雑で,緊密に結合された,高価な投資としての「畑」に,労働者たちは付属して働きます.こうした環境を離れた失業者に対して,ロボット所有者の民主主義は何を示すのか?

あるいは,老人と若者がいます.老人たちが政治に強い関心を持つとは思えません.しかし,高齢化し,健康や暮らしに不安を感じる老人たちは,政治家に操作されやすい対象です.他方,私生活のますます多くの時間をインターネットで過ごす若者たちも,詳細なデータ解析と,さまざまな情報操作で政治に利用されます.

誰でも,家庭,育児,介護を担うはずです.しかし,農業と金融ビジネスに関わる利益集団は,異なった政治的反応を示すでしょう.職業や所得水準,居住地などにより,共同体的な相互扶助の精神は異なります.

病院,学校,警察,道路・インフラ建設.営利活動の自由.公共財と集団行動.仲間との友愛を尊重し,個人のための富裕さを求めない姿勢を,尊敬する村もあれば,軽蔑する村もあります.

グローバル・ガバナンスとローカル・イシューとの間でますます影響が及びながら,それを監視し,調整する役割を担う人々と,それらを無視する「愛国」者がいます.もっと<民主主義>の在り方を工夫する必要があると思います.インターネットによる選挙情報,各地におけるクエスチョン・タイム,年齢別・イシュー別投票制度,投票権資格審査,新しい資産家貴族制,産業友愛会,・・・

現実の秩序を築くのが,しばしば,軍事的脅威や金融危機である限り,民主主義の種は育ちません.

******************************