IPEの果樹園2016

今週のReview

4/25-30

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Brexitの政治経済学 ・・・世界貿易とアメリカ ・・・ルセフ大統領の弾劾決議 ・・・アメリカの新しい政治経済地図 ・・・トランプ主義とクリントン主義 ・・・チェルノブイリ原発事故30周年 ・・・シリア停戦とアメリカの将来 ・・・生産性上昇と労働者 ・・・中国経済はどうなるか? ・・・移民・難民の世界

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  Brexitの政治経済学

Project Syndicate APR 15, 2016

A British Bridge for a Divided Europe

ROBERT SKIDELSKY

EUがイギリスで好まれたことは一度もない。イギリスは遅れて参加し、623日には、離脱するかどうか、有権者に問う。国民投票は法的に政府を縛るものではないが、国民が離脱すると決めた場合、イギリスがとどまるとは考えられない。

ヨーロッパをめぐるイギリスの論争は、時代とともにその焦点が変わった。1960年代と70年代には、当時のEECにイギリスが参加できるかどうか、議論された。イギリスは世界で最も早く成長する市場から締め出されるのではないか、また、アメリカとのパートナーシップが損なわれるのではないか、という不安があった。

今、イギリスで論争されているのはヨーロッパのパワーではなく、その衰弱である。2008年の金融危機以降、EUとは失敗を意味するようになった。イギリスとドイツのほかには、経済成長がほとんどない。その境界線はテロリストたちに無防備だ。その諸制度は正当性を欠いている。28か国の準主権国家が集まっているが、EUとして行動できず、単に、行動するつもりだと表明するだけだ。主権国家に戻る動きが起きるのは当然だ。

EUの運命は、その最も脆弱な特徴に結びついている。すなわち、ユーロ圏だ。19か国が単一通貨を採用するユーロ圏は経済停滞の核心にあるからだ。イギリスとデンマークだけが、そこから離脱することを許されている。他の国は、その基準を満たせばユーロ圏に参加すると予想される。ユーロ圏は政治同盟にとってのエンジンであるが、このエンジンが壊れている。

2008年の金融危機はアメリカの銀行破たんで始まったが、その後、世界の他の地域が回復したのに、ヨーロッパは景気回復しなかった。ヨーロッパの経済全体を危機の感染から守る、自立した主権が存在しないからだ。非対称的ショックに応じる財政移転システム、余剰資金を保有できるリスクのない金融資産(ユーロ債)、銀行と資本市場を監督する単一のシステム、最後の貸し手となる中央銀行、EU全体の安定化と景気回復をもたらす政策実行能力、こうしたものを欠いている。

ユーロ圏は国民国家の妥協を弱めたものであったから、参加する諸国が主権を失うような超国家機関を創らなかった。ヨーロッパの経済通貨統合を完成させる呼びかけがあるけれど、その順序は正しいのか? ECBの元主任エコノミストであるOtmar Issingは、主権のないまま、金融政策を含めて、重要な政策権限を上位の機関に移すことは、深刻な正当性の欠如をもたらす、と批判し続けている。

EUが政治同盟を漸進的に達成しようとしたのは、それから始めることは不可能であったからだ。この「ヨーロッパ・プロジェクト(統合計画)」は、危機を繰り返すことで政治的統合を推し進めるものと期待された。それがジャン・モネの希望であった。逆の効果を生むかもしれない、と反対されたことはなかった。

イギリス人は急速な政治統合を好まない。それはますます多くの主権がユーロ圏に集まることを意味するから。キャメロン首相が交渉したことは、この「より緊密な政治同盟」から離脱することだった。しかし、政治同盟なしにはユーロ圏は機能しない。それゆえ、ユーロ圏は互換性のある部品に分かれるだろう。

1つは、北部単一通貨圏だ。ドイツが、あるいは、より起きそうなものは、独仏が協力して主権を樹立する。それは南部と自由貿易でつながる。南部は財政政策や金融政策を北部と共有しない。南部加盟諸国は、相互に、また、北部と、調整可能な固定為替レートを採用する。

しかし、南部にはドイツに対抗できる国がない。もしあるとしたら、それはイギリスである。イギリスのEU離脱に反対する重要な論点がここにある。イギリスはEUにとどまって、もしユーロ圏が解体する場合、その過程が極端な混乱に陥らないように、ヨーロッパ統合の創設者たちの精神を継承する受け皿となるのだ。

イギリスは常に、異なる世界の懸け橋であった。将来の2つのヨーロッパのためにも、そうなるべきだ。

FT April 16, 2016

How to win the Europe referendum in an age of disbelief

Alastair Campbell

IMFOECD、イングランド銀行総裁、CBI幹部などは、ユーロ圏離脱にどのように関わるのか? どの党な利害を共有しているのか? それらは皆、尊敬される経済主体であり、離脱論に反対している。しかし、彼らが何を言っても多くの人々は信じない、と知っている。

そして、こうした不信の声は、逆に、トルコ人の上陸や、BBCに流れるアラビア語の字幕を恐れている。人々はソーシャル・メディアで友人から友人へ噂を広めている。

FT APRIL 16, 2016

Could Brexit be a good thing for Europe?

イギリスが離脱することはEUにとって良いことか?

Lionel Barber ・・・EUの加盟国は、さまざまな理由でイギリスがEUに残ることを好むだろう。ドイツは、国家介入主義に反対する自由貿易派のパートナーとしてイギリスを好む。スカンジナビア諸国は政治的独立を重視する英語の国家を好む。フランス人はドイツに対抗するため、また、強力な軍事力を持つ同盟国としてイギリスを好む。

Brexitは、EU各地のポピュリスト政党お刺激し、分離を求める勢力が強くなる。

Philip Stephens ・・・EUの生存に対する脅威とは、イギリスの懐疑ではなく、フランスの幻滅である。BrexitEUは短期的に生き延びるだろうが、その後、統合の深化を急ぐことになる。それは緊密な統合化に向かうコア諸国と、より緩やかな統合にとどまる外縁諸国である。皮肉なことに、それこそイギリスが長く求めていたものだ。

Wolfgang Münchau ・・・Brexit後に、他の諸国(Sweden, Denmark, possibly even the Netherlands)でも国民投票が行われるだろう。EUの解体は、必然ではないが、ありうることだ。

Brexitを経て最善の結果を得るとしたら、EU加盟諸国の地位に関する政府間合意を形成することだ。それは原則として、イギリスを含む、非ユーロ圏諸国にも開放されている。

Gideon Rachman ・・・Brexitがヨーロッパを助けるのか? 理論的にはYesだ。しかし、実際にはNoである。

確かにイギリスはEUの連邦主義にいつも反対してきた。だから理論的には、イギリスの離脱が、政治同盟や経済政府に向けたEU内の合意を容易にするはずだ。

しかし、実際に、近年の連邦主義を妨げているのは、主要諸国間の、とくに独仏間の意見対立である。経済政府がどのように機能するのか、という問題は、イギリスが離脱しても解決しない。

Tony Barber ・・・イギリスの離脱は、自由市場とリベラルな経済政策の支持者、という、EUのグローバルな役割を弱めるだろう。それは外交や安全保障に関するEUの信認を損なう。それは南欧や東欧、旧ソ連の共和諸国、北アフリカ、中東におけるEUの影響力を低下させる。それはEU内のバランスを破壊し、ドイツが望まないような、現在以上に、より支配的な地位をドイツ人に負わせる。

Brexitが、独仏によるユーロ圏内の統合深化を加速させる、という考えには無理がある。ヨーロッパの主要諸国すべてで、それが引き起こす国内政治の悪化は、統合に向けた動きを阻むだろう。

Alan Beattie ・・・たしかにEUの意思決定は容易になるかもしれない。特に、貿易と農業において。しかし、残念ながら、その合意は間違ったものになる。

イギリスの金融・サービス部門が貿易相手国の市場アクセスを要求することもなく、EUの通商交渉はより目標を引き下げて、保護主義的な内容に合意する。鉄鋼のような部門で、自己破壊的な保護主義政策が採用されることもあるだろう。共通農業政策の改革は遅れ、農業の保護関税はあまり低下しない。

The Guardian, Sunday 17 April 2016

Obama is right on Brexit. But the EU status quo is a hard sell

Matthew d'Ancona

FT April 18, 2016

Only economics matters in the Brexit debate

Janan Ganesh

FT April 19, 2016

Britain’s friends are right to fear Brexit

Martin Wolf

西側の指導者たちはBrexitをどう見ているのか? 特に、バラク・オバマは。

離脱の経済コストに関しては、イギリス大蔵省が優れた分析を示した。それによれば、離脱後の3つの可能な選択肢において、深刻なコストが予測できる。すなわち、1.ノルウェーのようにEEAに加盟する:GDP3.4%から4.3%の損失。2.カナダのように2国間協定を結ぶ:GDP4.6%から7.8%の損失。3.日本のようにWTOルールに頼る:GDP5.4%から9.5%の損失、である。

こうした数字を信じるべきか? NO。しかし、その方向は正しい。その数字は小さすぎるだろう。イギリス経済は貿易や直接投資に対する開放度を低下させる。それはイギリスの生産性を損ない、その産出を減らす。

EU加盟諸国はイギリスの離脱を阻止することに圧倒的に傾いている。どのような離脱も、できるだけ苦痛の大きなものにするだろう。Brexitは、混乱と不確実性に満ちた長い期間の始まりとなる。ユーロ危機が示したように、そのような不確実さは非常に大きなコストをもたらすし、数年どころか、はるかに長い将来を損なうだろう。

それゆえ友好国は、Brexitのもたらすイギリスを超えた潜在的なダメージを嫌悪する。アメリカはその代表だ。イギリスは主権を奪われている、という離脱派に、オバマは思い出すよう求めるべきだ。もしアメリカが戦争に参加していなければ、イギリスは今頃、ナチスかソ連の衛星国になっているだろう。第2次世界大戦と冷戦を通じて、アメリカの資源とその意志が西側を守ったのだ、と。

イギリスはEUを離脱するべきではない。ヨーロッパのシンガポールになる、などと望んではならない。それを喜ぶのは西側の敵だけだ。

FT April 19, 2016

The Brexiteers at the gates of the Lycée school

Roula Khalaf

Project Syndicate APR 19, 2016

How Germany Views Brexit

CLEMENS FUEST

The Guardian, Wednesday 20 April 2016

Barack Obama has a right to be heard on Europe. And Britain should listen

Peter Westmacott

FT April 20, 2016

Barack Obama tells home truths over Brexit

FT April 20, 2016

The Bank of England needs to speak up on Brexit

Chris Giles

大蔵省の長期予測は優れたものだ。しかし、イギリス国民の家計と世界経済に及ぼす、もっと短期の予測が重要である。いかなる政府による予測にもバイアスがある。その意味では、イングランド銀行が不偏不党の立場で予測を公開するべきだ。

Bloomberg APRIL 20, 2016

Merkel's Blunder Doesn't Justify U.K. Exit

Leonid Bershidsky

FT April 20, 2016

Brexit: We have a hostage situation

Robert Shrimsley

FT April 20, 2016

Brexit may break Britain’s Tory party

Philip Stephens

Project Syndicate APR 21, 2016

Should Britain Leave the EU?

MICHAEL J. BOSKIN

NYT APRIL 21, 2016

Brexit’s Threat to ‘the Special Relationship’

By STROBE TALBOTT

FP APRIL 21, 2016

How America Can Reap the Benefits of Brexit

BY PETER E. HARRELL


l  世界貿易とアメリカ

FT April 15, 2016

How an activist approach on trade could stimulate global demand

Roberto Azevêdo

グローバリゼーションのピークは過ぎた、貿易の増大は限界である、という考えが広まっている。しかし、それはポピュリストのものも、研究者たちのものも、間違っている。現在の経済状況で、われわれは貿易を、成長の加速、開発の促進、雇用の創出に向けた手段とするべきだ。そのために、間違った考えをただしたい。

1に、グローバリゼーションは終わらない。プロダクション・チェーンは国境を越えて広がっている。ボーイングの787 Dreamlinerは、世界中の130か所以上から、40以上のサプライヤーが部品を提供している。一見、非常に単純な製品でも、複雑なグローバル・ネットワークの中にあるのだ。貿易量が減っても、こうしたネットワークが縮小している、という証拠はない。

2に、世界貿易が2008年の金融危機前に水準に戻る、と考えることは間違っている。それはグローバリゼーションの過剰な拡大期であった。金融危機前は、世界豪駅が世界GDP2倍の速度で拡大した。しかし現在は、1970年代後半から1980年財前半までと同様に、2つの成長率がほぼ等しい。今後は、この中間点に向かうだろう。

どの地点になるかは、いくつかの要因に依存する。グローバリゼーションの次の爆発はアフリカで起きるだろう。アフリカは世界最速の成長を遂げている大陸で、最大の若者人口を持つ。新興市場が発展の階段を登る中で、グローバル・プロダクション・ネットワークの諸要素が次の「フロンティア市場」に向かう。アフリカ、中央・南アジア、ラテンアメリカだ。その意味でも、世界貿易のルールが維持されることは重要だ。

最も重要な要素は、われわれが通商政策の合意に向けて闘い、それを実施するかどうか、である。各国政府は、金融政策と財政政策を限界まで使って経済を刺激したが、貿易に関してはまだ行動の余地がある。

NYT APRIL 15, 2016

Why There’s Hope for the Middle Class (With Help From China)

By TYLER COWEN

アメリカは中産階級の国だ、という考えは失われつつある。1980年代以来、不平等が拡大しているからだ。しかし、たとえ中国からの輸入品と激しい競争が続くとしても、中産階級の生活が改善される、という楽観を支持するいくつかの理由が存在する。

1に、中国の賃金が上昇している。それは中国の技術革新を加速させる。中国政府は、遺伝子組み換えのような、バイオテクノロジーにばく大な投資を行っている。技術革新はその国の産業を有利にするが、同時に、すべての消費者を豊かにする。

2に、熟練を基礎にした技術の変化は、より大きな平等をもたらす。コンピューターを補助に使う労働が、旅行代理店や書類作成など、多くの分野で職場を変えるだろう。それは技術者の賃金を引き下げ、情報技術によって、未熟練労働者がより多くの職場で雇用される世界をもたらす。

3に、社会規範が変化する。ある種の貧困はさまざまな社会的障壁によって持続する。強い社会規範を持つ宗教や社会運動は、こうした貧困を減らす。例えば、ユタ州の老人、中産階級は、より豊かに暮らしている。それは、ある意味で、ユタ州にモルモン教徒が多いからである。宗教が促す文化が、貯蓄を好み、相互扶助や家族の価値を重視し、麻薬や酒による貧困を減らしている。

富裕層に偏った政治は中産階級のために政策を決めるうえで公平ではなかった、と多くの人が知っている。政治の改革は進まないが、こうした傾向は政治の外で起きている。

The Guardian, Sunday 17 April 2016

Free trade has won: adapt or die is the only option left to us

FT April 18, 2016

Collapse of Doha talks highlights the rise of Mohammed bin Salman

Roula Khalaf

VOX 18 April 2016

The globalisation in the long run: Gains from trade and openness 1800-2014

Giovanni Federico, Antonio Tena-Junguito


l  イギリスの財政赤字

FT April 15, 2016

Public sector needs to do a better job with assets

Martin Wolf

測定されないものは重視されない。公共部門でそれは顕著だ。イギリスの論争は、予算赤字や債務のようないくつかの数字だけを論争している。他方、多くの負債を無視し、資産管理を無視している。その結果、公共インフラに民間投資を促したり、学生ローンを売却したりする。

Dag Detter and Stefan Fölster は、その重要な著書 The Public Wealth of Nationsで、多くの国で政府が最大の資産管理者である、と論じている。公的資産の価値は、それがどのように管理されるかによって変わる。より高い所得を生み出すには、もっと専門的な情報と技術を駆使した資産管理が必要だ。


l  ルセフ大統領の弾劾決議

Project Syndicate APR 15, 2016

The Task Ahead for Brazil

CAMILA VILLARD DURAN

ルセフ大統領に対する弾劾裁判が意味するのは、ブラジルの経済諸機関を再構築する必要がある、ということだ。ルセフは再選を目指す選挙前に、財政の黒字を維持すると同時に、社会給付を続けた。その操作は、中央銀行と政府の関係を損なうものであった。

FT April 17, 2016

In a post-Rousseff Brazil, how to mend a broken system

John Paul Rathbone

Project Syndicate APR 18, 2016

How to Save Brazil

LUIZ FELIPE D'AVILA

ブラジルは深刻な経済状態にある.ルセフの前任者Luiz Inácio Lula da Silvaが行ったポピュリスト政策の結果である.2000年に入って,国際商品価格のブームが豊富な資金をもたらした.ルーラ政権は,消費者や企業家に安価な融資を補助し,エネルギー価格を人為的に下げ,政府支出を増額した(GDP成長率の2倍増).その結果,政府債務はGDP70%,財政赤字はGDP11%に達している.

問題を認めることも,政策転換を目指すこともなく,ルセフは再選のために財政健全化の目標を,社会的給付を削減することなく,会計操作によって回避した.それは国営正規湯会社ペトロブラスの汚職事件も加わって,今回の弾劾決議に至ったのだ.

弾劾成立後,ルセフに代わって副大統領Michel Temerが改革を実行するためには,4つの行動計画が必要である.

1.インフラ投資の増額.道路,港湾,空港,エネルギーに,外国からの民間投資を呼び込む.そのための透明性の向上,ルールや規制の簡素化,

2.労働市場の改革.憲法を改正して,企業の労働契約を変更できるようにする.労働コストを下げて,インフォーマル部門の雇用を減らす.

3.年金制度改革.給付年齢の引き上げ,公的部門と民間部門との差をなくす.それは財政負担を減らすことにつながる.

4.こうした改革を通じて,生産性の上昇,輸出拡大,市場開放,ブラジルを世界経済の中に組み込む.新しい2国間,地域,通商条約を結ぶ.

そして政府は財政規律を守り,それだけでブーム・アンド・バストの循環を終わらせるとは言えないが,国民の家父長的な政府への期待,介入主義的な国家を転換するべきだ.

NYT APRIL 18, 2016

Vote to Impeach Rousseff Prompted Cheers, But Won’t End Turmoil in Brazil

By ANDREW JACOBS and VINOD SREEHARSHA

NYT APRIL 19, 2016

Dilma Rousseff’s Impeachment Isn’t a Coup, It’s a Cover-Up

By CELSO ROCHA DE BARROS

ルセフの支持者たちは憤慨し,反対派は歓喜に飛び跳ねる.そして,ブラジルの汚職に関わる政治家たちは,安堵のため息をついただろう.

日曜日,国会議員たちが弾劾のための投票を行うようすは,長時間,テレビ中継された.「エルサレムの平和のために」,「トラック運転手たちのために」,「ブラジル・フリーメーソンのために」,「この国は共産主義に脅かされているから」,など,彼らの投票は大統領の弾劾,ルセフは財政ルールを破ったのか,と無関係なものであった.

大統領の弾劾決議は,ブラジルの政治システムが残骸でしかないことを示すものだ.洗車作戦Operação Lava Jato Operation Car Wash)と呼ばれる大規模な汚職調査は,2014年,ルセフの与党である,左派の労働者党議員が国営石油会社Petrobrasから政治資金を得ていたことを調査し始めた.ますます多くの証拠が,こうした汚職はブラジルの政党すべてにわたって行われていることを示していた.

ルセフは,多くのブラジル政治家と違い,賄賂を取って有利に扱うことで告発されていなかった.しかし,彼女の大統領としての支持基盤は弱く,グローバルな商品価格の下落や経済運営のミスで,不況に苦しんでいた.彼女は政府支出を削減し,緊縮策の痛みを受け入れた.つまり,大統領は国民の怒りの標的にしやすかったのだ.

ルセフの辞任は,汚職調査を終わらせる素敵なファンファーレになるだろう.腐敗した,右派の政治家たち,ブラジル最大の選挙区は,執行猶予付きで放免される.洗車作戦の調査を指揮するDeltan Dallagnolは,大外語の調査に対する政治的反対を懸念する,とBBCのインタビューに答えた.メディアが取り上げず,大衆の関心が薄れる中で,政治家たちは防御を固めている.

る政府の支持者たちは,これをクーデタであると非難する.しかし,法的手続きは間違っていない.ルセフはルールを破った.しかし,弾劾型が正しい,とは言えない.

これは新しい夜明けなどではなく,旧政治階級がこの国を再び強く支配し,監獄をまぬがれた,ということになるだろう.

The Guardian, Thursday 21 April 2016

The real reason Dilma Rousseff’s enemies want her impeached

David Miranda


l  不況はどこから来るのか?

Project Syndicate APR 15, 2016

Getting Past Slow Growth

KEMAL DERVIŞ

多くのエコノミストたちが世界経済の将来を悲観している。Summersはケインズ的な総需要の不足, Gordonは技術革新や供給側の限界, Pikettyは所得分配の不平等化, そしてStiglitzはこうした問題を起こしている政策の失敗を指摘する。これらの議論は互いに矛盾するより、経済停滞の説明として補完するものだろう。

NYT APRIL 18, 2016

Robber Baron Recessions

Paul Krugman

ロナルド・レーガンのときに,反独占の法規制が緩和された.アメリカ経済で競争は抑えられ,大企業はたとえ低金利でも積極的に投資しない.それは低賃金や長期停滞の原因となっている.

Project Syndicate APR 21, 2016

The Post-Crisis Economy’s Long Debt Hangover

CARMEN REINHART


l  アメリカの新しい政治経済地図

NYT APRIL 15, 2016

A New Map for America

By PARAG KHANNA

アメリカは財政支出を今も50の州に分割されている。これでは新しい経済ダイナミズムを引き出すことに失敗するだろう。アメリカはむしろ活発に成長する都市の連合体、a United City-States of Americaであるべきだ。

大統領予備選を観ていると、アメリカは50の州でできているように見える。しかし、社会的にも、経済的にも、アメリカは、地域のインフラが結ぶ線により、州や国の境界を無視したメトロポリスの群生により、自ら再編しつつある。

アメリカはインフラ整備が遅れている。それは支出額だけでなく、むしろどこに、どうやって支出するか、で遅れている。西ヨーロッパでもアジアでも、都市に群生する高度先端技術産業の集積によって再編しつつある。アメリカはこうした動きを、時代遅れの、50に分割した州が妨げている。

ボストンからワシントンまで、北東部メガロポリスは、5000万人以上の人口を擁し、アメリカのGDP20%を占める。大ロサンゼルス圏はGDP10%以上である。これらのアメリカ都市国家群が、長期の経済的な活力を決定する。

州は引き続き、政治的そして規制的な役割を果たすだろう。しかし、次の大統領は陳腐な決まり文句を超えて進むべきだ。自国内から海外に向けて、新しいインフラ投資をテコとして、輸送システム、代替エネルギー、デジタル技術、その他の先端技術部門を集約する、新しい都市の政治経済を推進することだ。

21世紀は、領土をめぐる競争ではなく、連結をめぐる競争になるだろう。連結されたアメリカ諸都市だけが、グローバルな貿易、投資、サプライ・チェーンをめぐる競争に勝利できる。アメリカが指導的な超大国であることを維持したのは、軍事的な大戦略以上に、そのような経済計画であった。


l  トランプ主義とクリントン主義

FP APRIL 15, 2016

Under President Sanders, the Planet Will Feel the Burn

BY KEITH JOHNSON, MOLLY O’TOOLE

NYT APRIL 16, 2016

Trumpism and Clintonism Are the Future

By MICHAEL LIND

アメリカ政治には根本的な変化が生じつつある。共和党と民主党の将来は、トランプ主義とクリントン主義に示されている。それはアメリカにおける保守主義と進歩主義の政治運動を規定する新しい編成だ。

この動きは、もっとも激しい混乱を生じた1968年の選挙以来である。そのときアメリカ政治の党派分割が再編成された。2016年にわれわれが見ているのは、政党を支持する党派の再編ではなく、むしろ政策の再編である。

1980年のロナルド・レーガン当選を新しい政治の出発とみなしがちだが、今から見れば、レーガンとビル・クリントンは過渡的な存在である。彼らの時代に、民主党支持者が大規模に共和党支持に変わった。それは経済的なポピュリストの民主党員たち、1968年に民主党のGeorge Wallaceを独立派の候補として支持した人々だ。

レーガンの経済観は、ポピュリストではなく、伝統的な保守派やリバタリアンに近い。大統領になってからは攻撃しなかったが、候補のときに社会保障や医療保険制度を否定していた。他方、ビル・クリントンも、1980年代、90年代に、レーガンを支持した民主党員たちがクリントンを支持する方へ動いた。そのため、ビルやゴアは多くの争点でリベラルな左派と距離を置いた。

しかし、1994年の中間選挙で共和党が上下両院の多数を制した。特に南部と西部で、多くの中間派や保守的な民主党議員が共和党候補に席を奪われた。ニュー・イングランドや西海岸の民主党候補で生き延びたものは、都市や大学町の、黒人やラティーノが多数を占める選挙区だった。

共和党の中では、白人労働者階級の間で支配的な感情、すなわち、憤慨や裏切られた感覚が重要になってきた。トランプが2015年に現れるはるか前から、経済的なリバタリアンはポピュリストによって地位を奪われていた。宗教的保守派が衰退し、ヨーロッパ型の国民的なポピュリズムが台頭し、非合法移民に反対することが主要な争点になった。

トランプは共和党の中にあるギャップそのものであり、正統的な保守派と、共和党支持者とのかい離を示している。すなわち、白人中産階級の既得権を守り、非合法移民や、イスラム教徒、自由貿易、フリーライドを続ける同盟諸国を攻撃する。

同じような政策の再編は民主党の中でも起きている。それはサンダースではなく、むしろビルの遺産とヒラリーとの対立だ。ビル・クリントンは、マイノリティ、シングル女性、進歩派からの支持だけでなく、旧ルーズベルト連合の白人労働者からも支持された。当時の進歩派たちは、その後のクリントンに恨みを抱いている。

民主党の戦略家たちは、1992年、2004年の選挙で勝利したことで、保守派やリベラルなレーガン支持者、ウォレス民主党員の支持を必要としなくなった、と考えた。オバマ的な連携の長期的な拡大と、ヒスパニックの有権者が増えることは有利に働くだろう、と。それゆえヒラリーは、ビルの遺産と距離を置き、民主党本来の政策に戻ろうとした。サンダースに脅かされたからではなく、レーガンを支持した民主党員から分離したことで、民主党は左派に修正されたのだ。

しかし、民主社会主義に対するシンパシーが2030年代や2050年代にも続くと仮定することは大きな間違いであろう。60年代の多くのヒッピーが80年代にはヤッピーに変わったように、社会的なリベラル派も、政府支出に新しい関心を持ち、自分の税金の支払いや住宅融資のことを考えている。

民主党の将来は、ヒラリー・クリントニズムであり、白人労働者への戦略的譲歩から離れた、少し進歩主義的なネオリベラリズムである。そして共和党の将来は、エリートのリベラリズムと保守派有権者のポピュリズムとの衝突に向かい、新しい正統派は給付や移民の権利について左派に傾きながら、トランプの激情を避けようとする。


(後半へ続く)