IPEの果樹園2016

今週のReview

4/11-16

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国家による再分配 ・・・オバマとトランプの世界デザイン ・・・彼らはリアリストではない。 ・・・イギリス製鉄業と政策 ・・・中国の経済と外交 ・・・大統領選挙と貿易論争 ・・・パナマ文書の影響

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  国家による再分配

FT March 31, 2016

The welfare state is a piggy bank for life

Martin Wolf

「福祉国家」はどのように正当化できるのか? ふつう、それは生活に余裕がある者から困窮する者への再分配を行う方法だ、と言われる。しかし、福祉国家は同時に「貯金箱」でもある。あるいは、民間部門が提供しない、市場に代替するものである。

福祉国家は、個人間で再分配する以上に、人生のある時期(の人々)から他の時期(の人々)に再分配する。個人に対する社会給付とは、不慮の事故や病気、失業・転職、老齢の生活費用を、そうでない人々から所得移転している。

国家は、民間部門(保険会社)よりも、そのような所得移転をする有利な立場にある。なぜなら、国家は個人の行動を監視して「逆選択」を避ける。モラル・ハザードは生じるが、それを限定できる。

高所得国では、アメリカでも、政府がそのような役割を担う。慎重な制度設計により、望ましい成果を上げることができる。


l  オバマとトランプの世界デザイン

The Guardian, Friday 1 April 2016

Trump’s domination of the US election is teaching us one thing: we’ll miss Obama

Jonathan Freedland

お世辞抜きで、オバマ大統領は素晴らしい成果を上げた。最初の任期で、アメリカを大恐慌の瀬戸際から救い出した。緊縮策しかない、という考えは間違っているということを、彼の財政刺激策は示した。また、それまで民主党から7人大統領になったが、1世紀の間、失敗し続けてきた社会保障改革を、オバマは実現した。

オバマが歴史に占める地位は、その外交の結果で将来において評価されるだろうが、いくつかの重要な成果があった。以前の宿命的な敵国、イランやキューバと、オバマは画期的な合意を結んだ。昨年のパリでは、気候変動に関する協定が成立した。ウサマ・ビン・ラディンを殺害した。しかし、歴史家たちは、オバマがシリアにおける虐殺を止めなかったことについて、容赦しないだろう。イスラム国家は拡大し、ウラジミール・プーチンはクリミアやダマスカスで軍事力を行使した。

オバマは原理としての抑制を好む。アメリカは、その安全保障に直接かかわることに対して攻撃する強い力がある。しかし、自国の利害が直接に脅かされていないときは、たとえ人道的な理由でアメリカの介入が正当化できても、自制するべきだ、とオバマは考える。冷静なプラグマティズムと、熱烈なリベラル国際介入主義との、どこか中間にある、リベラルなリアリズムを支持する。

オバマは外交の重要性を強調した。そしてキューバやイランとの対話を求めた。その背後にあるのは、ワシントンの外交専門家たちが犯す致命的な失敗(と彼がみなすもの)を否定する、という決意だ。すなわち、彼らはどんな問題でも軍事的な解決策がある、と前提していた。

それこそオバマにとって「奇妙な」考えであった。アメリカは「道徳的な権威」をかざして野蛮な体制を非難する。そして国民は大統領に、「その国に侵攻する義務がある。好ましい政権を打ち立てよ」と求める。しかし、そのような見方は、金槌を持つ者には何でも釘に見える、ということわざと同じだ。アメリカはもっと効果的な手段に目を向けるべきだ。オバマは、その中心に外交を観ている。

議論は、人道的な危機と、アメリカの利害に対する脅威とを、どのように区別するのか、という点に及ぶ。オバマは、シリア国民がどれほど苦しんでも、それをアメリカが軍事行動する理由とは考えなかった。しかし、2013年にアメリカがシリアを軍事的に制裁しなかったことは、ワシントンの制裁ルールを破り、軍事力の脅しを無効にしたのではないか? あるいは、2011年に、シリア民衆が平和的な反政府デモをしたとき、アサド政権がそれを弾圧したのをオバマが抑えていたら、これほど多くの民衆が虐殺されなかったはずだ。

政権内部でもそう考える者はいた。誰が正しかったか、決めることはできないだろう。オバマは、中東、ラテンアメリカ、アジアにおけるアメリカの介入の歴史を考え、慎重な姿勢を取った。アメリカがいかに世界中で疑われ、その傲慢さを嫌われているかを考え、軍事行動で翌日の新聞に称賛される記事を期待する部下たちの楽観を戒めた。

ヒラリー・クリントンが大統領になれば、オバマとは違うのだろうか? そして、トランプが大統領になれば、どうなるか? オバマが大統領である残り数か月についても、2016年は厳しい情勢が続きそうだ。しかし、1つだけはっきり言える。オバマが去るとき、われわれはそれを惜しむだろう。

NYT APRIL 6, 2016

Impossible Missions

Thomas L. Friedman

Michael Mandelbaumが書いた“Mission Failure: America and the World in the Post-Cold War Era,” を読んだ。オバマもトランプも楽しく読むはずだ。

「アメリカ外交の主要な関心が、戦争からガバナンスへ変化した。他国の政府が国境を超えて何をするか、ではなく、国境の内部で政府が何を、どのようにするか、である。」

「冷戦後のアメリカは、諸国民の間に立つ超資産家と同じだ。」「冷戦時の必要性による世界から、選択の世界に変わった。」 アメリカは蓄えた膨大なパワーを、他国を作り替えるという贅沢な消費財に、選択的に使用する。

「アメリカの民主的、立憲的な秩序、そして西側諸国の秩序に、より似たものを創ろうとした。」 その結果は、「すべて失敗に終わった。」

なぜか? 軍事的な使命は達成したが、その後の政治的な使命は失敗した。それはわれわれの制御できない問題だから。その土地の人々が決めるしかない。

歴史的には、弱いガバナンスの土地に進出した帝国が秩序を決めた。その後は、植民地政府が、そして、その土地の王様、司令官、独裁者が決めた。

彼らの時代は終わったが、その後の秩序を決める者はいない。スマートフォンで相互に世界的なつながりを持つ市民たちは、王にも独裁者にも従わない。旧い専制が依拠した石油の富も、冷戦期の大国がくれた援助も、消えてしまった。

残された唯一の選択肢は、合意による政府、対等な市民間の社会契約である。

しかし、もし彼らがそれを実現できず、その結果として無秩序に至り、ますます多くの人々がヨーロッパやアメリカの秩序を求めて逃げてくるとしたら、われわれはどうするべきなのか? 我々が提供できる、財政的に可能な支援策を見つける必要がある。

次の大統領は、この本を読んで、それこそ彼もしくは彼女の最大の外交課題であると知るだろう。


l  彼らはリアリストではない。

FP APRIL 1, 2016

No, @realDonaldTrump Is Not a Realist

BY STEPHEN M. WALT

トランプは机上の空論としてのリアリストが示す2つの支柱に依拠した。第1に、アメリカの同盟諸国を「フリー・ライダー」として非難することだ。彼らともっと厳しい姿勢で交渉する。また、アメリカはNATOGDP45%であるが、その軍事費の75%近くを負担している。しかし、これは「リアリスト」の議論ではなく、事実であるが。

2に、日本や韓国が核武装することを支持する。確かに、故Kenneth Waltz John Mearsheimerのようなリアリストたちが同じことを主張した。しかし、研究者のだれも世界に核兵器が拡散することを支持しない。リアリストが核武装を支持するのは、1.脅迫や征服のためではなく、自国への核攻撃に対する抑止であること、2.新しい核武装国がそれを使用することが抑止される報復の恐れを持つこと、3.ある状況では、緩やかに進む核武装が地域の安全保障を高めること、4.アメリカを除くすべての国が核武装しないことにはコストがともなうこと、を考慮してからだ。

トランプは、繰り返し、中国やイランともっと良い取引を、彼なら手に入れることができるという。交渉の席を蹴るか、彼らに制裁を科す、というのだ。しかし、彼は国際関係論の基本も理解していない。すべての国歌には死活的な利害があり、それを守るためには戦争も犯す。誰も、アメリカでも、自分の意思を誰かに押し付けることはできないのだ。

トランプの世界観には矛盾があり、「リアリズム」ではなく、ファンタジーだ。ブッシュ時代にネオコンが抱いた全能のアメリカという世界観に近い。トランプランドでは、政治的なライヴァルを侮辱し、すべての宗教を非難する。他国民を軽蔑するのも当たり前だろう。

FP APRIL 7, 2016

Obama Was Not a Realist President

BY STEPHEN M. WALT

オバマ外交はリアリストに見えるときがある。しかし、私の見るところ、非リアリストの要素が強かった。それが彼の外交の重大な失敗をもたらした。

オバマがリアリストのように見えるのは、彼が次のように述べたからだ。アメリカの軍事力には限界がある。それは粗雑な手段であるから、すべての問題を解決できない。アメリカは非常に安全であり、テロと気候変動しか恐れるものはない。アジアは重要性を増しており、世界政治の方向を決める地域だ。国内経済の再建を優先し、その強さが国際的な影響力を高める。アメリカの「信認」を維持するために愚かな戦争を起こしてはならない。

リベラル・ヘゲモニーの主張は重大な失敗につながった。その理想のために、何かしなければならない、と世界のどこからでも圧力を受けた。アメリカの指導力を不可欠のものとみなすことで、無意味な戦争やその泥沼化に関与した。同盟諸国のフリー・ライドを批判し、その負担を求めて敵意を増やし、失望に終わった。ワシントンのプレーブックを破棄できなかった。

もしオバマがリアリストの立場をとり、重要なポストにリアリストを指名すれば、リベラル・ヘゲモニーの大戦略に超党派の支持を求めることはなかっただろう。私が以前示したように、アフガニスタンから2009年に撤退し、中東における「特別な関係」を解消し、NATO拡大を拒否し、リビアでも、シリアでも、外国における「国家再建」や社会エンジニアリングには関与せず、「オフショア・バランシング」の戦略に回帰する。

オバマが任期を終えるまでの数か月間でも、私は外交政策を転換してほしいと思う。


l  イギリス製鉄業と政策

FT APRIL 2, 2016

Can the British steel industry be saved?

Martin Wolf ・・・1.製鉄業は戦略産業なのか? 歴史的にはそうであったが、今は違うだろう。保護主義の言い訳に、いつでも使われる言葉だ。ヨーロッパの製鉄業なら、戦略的な意味で主張できる。しかし、われわれはドイツやフランスと戦争するのか?

2.補助金は一時的なものか? 確かに中国政府が需要を維持するために、国内で製鉄業の生産拡大を続けている。経済コストを無視した政策は永久に続けられないだろう。この一時的なダンピングに対する正しい政策は、第1に、一時的な補助金。第2に、何らかの国有化。第3に、反ダンピング関税。なぜ関税を高めることが最後なのか、と言えば、それは鉄の消費者にコストを強いるからだ。自動車産業もそうだ。下流の多くの産業で労働者が不利な影響を被る。しかも、一時的、と言いながら、長期化することが多い。

3.正しい政策は何か? 製鉄所が支えるコミュニティーの解体は深刻なダメージを生じる。政府は価値のない産業を守るより、価値のある活動を支援するべきだ。イギリスは、将来、産業博物館として生きていくわけではない。

Philip Stephens ・・・1.大蔵省を支配する市場原理主義のロジックを聞いてはならない。市場が正しい答えを知っている、というのは、1970年代の主張を現政権が復活しているだけだ。シティの金融規制緩和を支持する主張だった。堅実な住宅建設組合を過剰なレバレッジを組んで銀行が買収し、2008年の金融危機に至った。市場が機能するには正しい規制が必要だ。時には支援も。アメリカやドイツの政府に聞いてみよ。

2.経営が悪化したことを長期的な視点で考えるべきだ。税制やエネルギー価格が同じと考えても、ドイツと競争できるか? 危機は循環的か、構造的か? 世界需要の一時的な減少か、新技術に対する長期的な投資不足か? その組み合わせによるとしても、バランスはどうか?

3.閉鎖によって生じるコストも考えよ。産業全体のサプライ・チェーンに影響する。最善の結果としては、近代的な製鉄業が生まれるかもしれない。そうであれば、政府と納税者は負担する。

The Guardian, Sunday 3 April 2016

The dogmas destroying UK steel also inhibit future economic growth

Will Hutton

最も好意的に解釈すれば、これは創造的な破壊である。知識に依拠する新しい産業の時代に変わった。馬丁の時代、帆布の時代、炭坑夫の時代は過ぎ去った、と。

問題は、イギリスが旧産業の破壊ばかりで、新産業の創造に失敗してきたことだ。しかも、製鉄の時代は終わったわけではない。輸送や建設において、鉄の需要は続く。しかし、経済的な巨人となった中国が製鉄生産に過剰投資を行った。その国内需要は不足し、大量に世界市場に輸出している。

イギリスの経常収支は、2015年、GDP7%に達した。この何十年も、財・サービスの輸入は、イギリスからの輸出を超えている。歴史上、イギリスは何度も為替市場に介入したが、1992年に欧州のERMを離脱して以降、為替レートを管理する市場介入は無駄だ、というコンセンサスができた。ポンドは(競争的な)実質価値を大きく超えて、イギリス企業や不動産を買収する資金流入によって強くなった。貿易赤字は無視された。

他の工業諸国に見られない、国民資産のオークション政策である。それが国内製造業の競争力を損なっている。為替レートをユーロやドルに対して安定化する試みも、ましてや競争的な水準でユーロ圏に参加することも、非合理的なヒステリーで拒んだ。GDP7%の経常収支赤字がその結果だ。

イギリス政府の自由貿易論は、中国との関係でも、度を超えている。中国のレーニン主義的コーポラティズムは、市場経済とは考えられない。しかしイギリスは、原子力産業への中国の投資がほしくて、EUWTOルールによる中国制裁を拒んでいる。われわれは製鉄産業を解体し、次世代の原子力産業を中国に売ったのだ。

さらにイギリスの電力コストは高い。電力産業の民営化と、炭素排出量の削減要求で、電力価格が一気に上昇したのだ。保守党政権は、緩和策を出したが遅すぎた。製造業部門の衰退と悪循環を生じている。


l  中国の経済と外交

Project Syndicate APR 6, 2016

Western Mistakes, Remade in China

ADAIR TURNER

中国は、需要の水準を維持するために信用の拡大を繰り返す、先進諸国がかつて行った成長加速の政策による失敗を繰り返している。

かつて日本や韓国も、政府が信用を拡大して成長を高めた。しかし、それは資本の非効率的な配分をもたらし、経済の停滞につながる。中国は、同じ成長の水準であった日本や韓国に比べて、不動産に対する融資がさらに膨張している。政府が財源を使って、銀行を再建することはできるが、それは急速に高齢化して増大する社会保障の負担や、消費主導の成長モデルに移行することをむつかしくする。

アイルランドが民間銀行によって莫大な不動産投資の失敗を経験したように、先進諸国も中国も、不動産融資に関係する成長の混乱を回避する理論モデルと政策を求めている。

NYT APRIL 6, 2016

Tensions Rise in the South China Sea

By THE EDITORIAL BOARD

南シナ海において、中国の領土に関する膨張した主張や近隣諸国への高圧的な態度に対して、アジア諸国は、次第に、押し戻す力を強めている。

日曜日、日本の潜水艦が、15年を経て初めて、安全保障の協力強化を示すように、フィリピンの港に入った。先週、ベトナムは、非合法に領海に入った中国船を拿捕し、インドネシアはF15ジェット戦闘機で自国の領海を防衛すると表明した。オバマ大統領は、先週、ワシントンの核セキュリティー・サミットに出席した習近平主席と会談し、中国の姿勢に関するアメリカの懸念を明確に伝えた。月曜日に、アメリカとフィリピンは軍事演習を行い、フィリピンがアメリカの支援を受けて北京に対抗する意志を示した。


l  大統領選挙と貿易論争

FT April 4, 2016

The fury of American voters is in its infancy

Roger Altman

トランプやサンダースが依拠しているアメリカ有権者に広がる不満は経済的なものだ。ますます多くのアメリカ人が収支の赤字に苦しんでいる。金融危機以後に増えた雇用の多くは低賃金のものだ。将来世代の生活が自分たちより良くなる、と思えなくなった。

この経済的な圧力は一時的なものではない。技術変化とグローバリゼーションによるものだ。現在、アメリカの注意の家計の所得は53600ドルであり、それは20年前のピークに比べて7.5%も減っている。金融危機後、中位の時給は4%減った。

現在、アメリカの自動車販売は記録的な高水準であるが、機械化によって雇用は大きく減少している。デジタル処理は、まだ初期段階であるが、ホワイトカラーの職場の多くを消滅させた。

グローバリゼーションの影響も重要だ。わずか1世代前に、アメリカは多くの製品で世界最大の市場だった。もはやそうではない。練り歯磨きでも、自動車でも、コンサルタント業でも、世界の生活水準が上昇して大きな市場となっている。その結果、多くの雇用は、アメリカ国内ではなく、国外の低賃金という条件で増えている。

それゆえ、アメリカ人の所得はこのまま増えないだろう。われわれはもっと効果的な教育システムを必要としている。中所得・低所得の労働者に対する支援がもっと必要だ。減税の拡大、最低賃金の引き上げ、そして、技術進歩が人間の労働力に対する需要を永久に減らすなら、労働年齢の大人たちに所得を保障することも考えねばならない。

労働者の所得低下は、今だけでなく、これからも続くのだ。それを無視すれば、トランプの権威主義も穏健だった、と思うような事態になるだろう。

Project Syndicate APR 7, 2016

Anti-Trade America?

KENNETH ROGOFF

2016年の大統領選挙では反貿易のポピュリズムが登場し、アメリカを国際政治から退場させる危険な主張を展開している。

共和党のトランプは、中国からの輸入に対して45%の関税を主張している。しかし、数十年の中国の高成長にもかかわらず、中国は発展途上諸国の1つであり、国民の多数が(西側諸国には想像できないほどの)貧困水準で暮らしている。

民主党のサンダースも、その反貿易の姿勢は同じく危険である。彼の反対するTPPは、ラテンアメリカの製品に対する日本市場の開放など、発展途上諸国を助ける。1992年のNAFTAは、すでに低かったアメリカの関税率より、メキシコ側の関税率を大きく引き下げた。

トランプやサンダースの主張は、不幸にして、すでにクリントンの立場を後退させ、多くの上院・下院の政治家たちにも影響している。これは破滅に向かう道だ。

TPPには欠点もある。特に、知的所有権は過度に保護されている。しかし、TPPがアメリカの雇用を大幅に破壊するとは思えないし、アメリカ企業が発展途上諸国でハイテク製品を売りやすくなる(コピー商品の反乱を抑えるから)。TPPの批准に失敗すれば、世界の数千万人が貧困から抜け出す機会を奪った、と非難されるだろう。

アメリカ国内の不平等を是正する正しい方法は、税制を簡素化し、累進的にすることだ。また、教育改革を進め、技術革新や競争における障害物を取り除くべきだ。

労働者への再訓練は、人口変動や、生産性上昇の低下、年金受給者の増加による政府支出とともに、避けられない。大きな政府を嫌うからと言って、債務の膨張を放置してはならない。また、財政赤字を称賛する進歩派は、将来、債務危機が起きると、中産階級や貧困層がもっぱら苦しむことを理解しなければならない。もっと直接に所得移転し、総需要を増やすべきだ。

現在の世界秩序でアメリカは不当に敗者にされている、と主張する者はよく考えることだ。アメリカの過剰な消費依存や炭素排出に無策であることは、1世紀後に、重大な失策となっているだろう。貿易が不平等をもたらすという考え方は自分たちの選挙区しか見ていないし、不平等を責める保護主義は偽善である。


l  パナマ文書の影響

The Guardian, Monday 4 April 2016

Tax havens don’t need to be reformed. They should be outlawed

Richard Brooks

パナマ文書The Panama Papersは中央アメリカの国家に関する文書ではない。タックス・ヘイブンが主催した脱税、資金洗浄、略奪政治の、乱交パーティーを垣間見せる鍵穴だ。世界金融危機後のG20がロンドンであったとき、世界の指導者たちはタックス・ヘイブンを終わらせると約束した。その約束はまったく実行できていない。

イギリスが脱税や犯罪者を責めるのはジョークでしかない。パナマ文書が示すもう1つの恥辱は、オフショア金融の網の目における中心的な役割を、長期にわたってイギリスが果たしていることだ。パナマのMossack Fonseca法律事務所が設立した20万社の秘密会社は、その半数以上が英領ヴァージン諸島で登録されている。

2次世界大戦後に半独立状態になった旧英領の経済を維持するために、イギリス政府は世界の富裕層に若干の軽減税率を認め、統治コストを安くしようと考えた。20世紀後半の金融自由化は、この打算的な処置を致命的な誤算にした。世界経済の貪欲なパラダイスとして、貧しい諸国からも富を吸収した。

それでも主要諸国は有効な対策を取らず、年間で1兆ドルと言われる発展途上諸国からの資金流入を、情報がリークされるまで放置してきた。それは世界金融システムの汚職を広げるがん細胞だ。改革するのではなく、そこでの金融取引を違法とし、死滅させるべきだ。

FP APRIL 5, 2016

Let Me Tell You About the Very Rich

BY PEDRO NICOLACI DA COSTA

パナマ文書は、金融危機後の政策論争を変えるだろう。これまで、財政・金融政策による刺激を追加するか、むしろ構造改革を優先して財政を緊縮するか、論争されてきた。

しかし、経済危機に対して財政赤字の削減を主張することは、財政の健全化が信認を高めて、投資を増やす、という疑わしい考え方によるものだった。社会が犠牲を分かち合う、という主張であった。パナマ文書は、超富裕層が庶民とは全く違うルールで暮らし、税金を支払っていないことを示している。

もはや政府の予算案を議論するより、社会上層部の脱税を取り締まることが求められるだろう。それは金融危機後の不平等に関する関心を再び先鋭化する。

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The Economist March 26th 2016

The problem with profits

Business in America: Too much of a good thing

Technology and politics: Bits and ballots

The signal and the noise

South Korea and wartime sex slaves: Kindred spirits

The South China Sea: China v the rest

Charlemagne: A terrible problem is born

Electronics: Taiwan 2.0

Free exchange: No exit

(コメント) アメリカ企業は世界中で拡大しているけれど、その利益の多くを上げているのはアメリカ市場だ、と記事は指摘します。それは最近に起きたことであり、知的財産や特許を守るアメリカの規制や法律が大企業に多くの利益を与え、しかも、それが新規参入ではなく、投資銀行とも共謀した企業の吸収・合併を優先しているからです。

同時に、政治の世界でも技術変化による新しい動きが始まっています。集合行為の可能性、選挙運動や「公共圏」の在り方、民主主義と抗議活動、地方行政、など、活発な議論が起きています。民衆に権力を分散した革命が、逆に、権力者による住民の監視や世論操作、政治の細分化に向かいます。

従軍慰安婦を描く韓国映画、南シナ海の変化、イギリスのEU離脱とアイルランド、中国企業とそのサプライ・チェーンに追い上げられる台湾企業が選んだシャープ買収、最後に、世界の金融市場統合がアメリカの金融政策に制約を加えた話、いずれも考えさせる内容です。

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IPEの想像力 4/11/16

Apple1976年), Amazon1994年), Google1998年), Facebook2004年)、など. 若者たちがその成功物語に魅了されるのは当然です。どうして日本では同じようなハイテク大企業が育たないのか?

学生の論文を指導したとき、彼が起業やハイテク巨大企業を大いに称賛する原稿を出したので、私は2つの問題を示しました。それに説得的な答えを探して、書き直してほしい、と。

1つは、それらの企業はいつまでが新興企業なのか? いつから独占企業になったのか? 他の新興企業やハイテク企業を次々に買収する行動は、起業家精神と無縁です。もう1つは、これから20年後に、こうしたハイテク大企業はどうなっているのか? 世界市場の将来の姿を含めて、予想せよ、というものです。

インターネットが世界市場を統合し、競争が激化する中で、勝者が総取りするゲームになった、と言われます。広告・宣伝のコスト、ブランドの価値、技術開発投資、流通過程の支配、金融市場の利用・資金調達における優位、など。以前から、他国に比べてアメリカ市場の規模が巨大企業を生みました。現在の中国市場、そして、インターネットもそうです。

The EconomistMarch 26th 2016)の巻頭記事は、アメリカの規制や法律が新規参入を困難にし、大企業に市場の独占や寡占を許した、と分析します。そして、企業が豊富な余剰資金を持ちながら、労働者たちの賃金を上げず、失業や不平等が拡大する状況、非競争的な産業構造を固めるだけで、研究開発や国内投資を十分にしない経済を生みました。

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朝、テレビを観ていると、ニューヨーク事情が紹介されていました。

“He Plays For Me” と書いたダンボール紙を持つホームレスの横で、男性歌手が心をこめて歌います。ホームレスと並んでギターを弾き、歌う、クリスさんです。

彼は大学を卒業後、投資銀行に勤めましたが、ミュージシャンになる夢をあきらめきれず、街頭で演奏してきた、と言います。

あるとき、近くにいたホームレスの女性が、自分もギターが弾けたら良いのに、と言いました。それでホームレスのために演奏することを思いついたそうです。普通、1日中かけてホームレスが手にすることのできる額は非常にわずかです。しかし、彼の歌に人々は立ち止まり、コインや1ドル札を置く気持ちになるようです。多くの支援が集まりました。

小銭をめぐんでほしい、というのは、世界中の町に見られる姿です。私たちは彼らがなぜそうしているのか、どんな気持ちなのか、何も知りません。むしろ知りたいと思わないでしょう。彼らに同情することで、何かを背負い込むことを恐れているのかもしれません。

クリスさんは彼らについて、「多くは優しい、欲のない人たちだ」と言います。彼はギターを抱えてホームレスの人に近づくと、道路に座って、彼や彼女と少し話し合います。そして、彼らのためになりたい、と思えば、さらに良い演奏をしようと思うのです。

ホームレスの人たちとの交流を、写真とともにソーシャルメディアで伝えています。新しい曲を試す機会だしね、とクリスさんは明るく話します。

地下鉄の駅や、寒い舗道の傍らで、ホームレスと一緒に熱唱している彼の姿を見ると、急いで歩いていた人も立ち止まり、お母さんや子供たちが曲を聴いて楽しみます。

まるで違う、孤立した存在であったホームレスと街頭演奏家が、路上で小さな協力関係を発見し、互いに感謝する姿は、とても痛快な物語だな、と思いました。

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テレサ・テンの没後20周年というテレビ番組を観ているとき、楊逸(ヤン・イー)の話を聞いて、彼女の『時が滲む朝』を読みたくなりました。テレサの歌を、眠る前、抑えた音量で若者たちが聴き、中国の政治体制に対する疑問や不満が、深い人間性から湧き出る問いかけに変わっていった、その時代の様子を作家は描こうとしたからです。

人々の活力を最大限に引き出す、富や資源を生産的に、すべての人の雇用や福祉の充実に役立てる時代の鍵を、私は探します。そして、同じThe Economistが特集記事で整理した、巨大な情報蓄積やハイテク政治の在り方について、考えていました。

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