IPEの果樹園2016

今週のReview

4/11-16

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国家による再分配 ・・・オバマとトランプの世界デザイン ・・・彼らはリアリストではない。 ・・・イギリス製鉄業と政策 ・・・中国の経済と外交 ・・・大統領選挙と貿易論争 ・・・パナマ文書の影響 ・・・ドイツとトルコ ・・・移民・難民と国際協力 ・・・福島原発型テロリスト ・・・ロシアの描く秩序

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  国家による再分配

FT March 31, 2016

The welfare state is a piggy bank for life

Martin Wolf

「福祉国家」はどのように正当化できるのか? ふつう、それは生活に余裕がある者から困窮する者への再分配を行う方法だ、と言われる。しかし、福祉国家は同時に「貯金箱」でもある。あるいは、民間部門が提供しない、市場に代替するものである。

福祉国家は、個人間で再分配する以上に、人生のある時期(の人々)から他の時期(の人々)に再分配する。個人に対する社会給付とは、不慮の事故や病気、失業・転職、老齢の生活費用を、そうでない人々から所得移転している。

国家は、民間部門(保険会社)よりも、そのような所得移転をする有利な立場にある。なぜなら、国家は個人の行動を監視して「逆選択」を避ける。モラル・ハザードは生じるが、それを限定できる。

高所得国では、アメリカでも、政府がそのような役割を担う。慎重な制度設計により、望ましい成果を上げることができる。

Project Syndicate APR 5, 2016

Europe’s Generational War

HAROLD JAMES

今や、政治を支配するのは、階級ではなく、高齢者と若者との分配に関する闘争である。急速な高齢化によって、政治は高齢者への社会保障を増やす。他方、若者たちには自分の足で新産業や教育の機会が豊かな地域を選択する。若者を失った社会は、新しい産業や財源を失ってしまう。

若者たちの脱出を逆転する政策が必要だ。それは20世紀後半にアイルランドが急速な経済成長を実現し、世界中から高熟練労働者のアイルランド系移民を呼び込んだように。


l  オバマとトランプの世界デザイン

NYT MARCH 31, 2016

As Obama Hosts Nuclear Security Summit, the Focus Is on China

By MARK LANDLER

The Guardian, Friday 1 April 2016

Trump’s domination of the US election is teaching us one thing: we’ll miss Obama

Jonathan Freedland

イスラム教徒をアメリカに入国させない、1100万人の移民を国外退去させる、堕胎した女性に刑罰を科す、そんなトランプの暴言は今も尽きないが、共和党大統領候補争いではトップを走る。トランプに世界の注目が集まる半面、オバマはすっかり忘れられた存在だ。

しかし、オバマが大統領であった時期の業績と意味に関する評価は静かに始まっている。雑誌the Atlantic4月号に、Jeffrey Goldbergとのインタビュー記事が載り、火曜日のBBC2ではInside Obama’s White Houseの最終回が放送された。映画監督Norma Percyと司会者が、この8年間、オバマの下で働いた主要人物のすべてにインタビューしている。

お世辞抜きで、オバマ大統領は素晴らしい成果を上げた。最初の任期で、アメリカを大恐慌の瀬戸際から救い出した。緊縮策しかない、という考えは間違っているということを、彼の財政刺激策は示した。また、それまで民主党から7人大統領になったが、1世紀の間、失敗し続けてきた社会保障改革を、オバマは実現した。

オバマが歴史に占める地位は、その外交の結果で将来において評価されるだろうが、いくつかの重要な成果があった。以前の宿命的な敵国、イランやキューバと、オバマは画期的な合意を結んだ。昨年のパリでは、気候変動に関する協定が成立した。ウサマ・ビン・ラディンを殺害した。しかし、歴史家たちは、オバマがシリアにおける虐殺を止めなかったことについて、容赦しないだろう。イスラム国家は拡大し、ウラジミール・プーチンはクリミアやダマスカスで軍事力を行使した。

オバマはアメリカのパワーに新しい形を与えた。それは、オバマの多くの貢献を、トロフィーやトラウマthe trophies and traumasとしては評価し難いものにしている。アメリカのパワーは、今もなお不可欠なのか、あるいは、オバマが言うように、もはや「限界のない」ものではないのか。以前も、軍事的な秩序の再編をした後、その縮小の過程が起きた。しかし、ブッシュのイラクとアフガニスタンで行った軍事介入の後に起きたことは、単なるその反動ではない。

オバマは原理としての抑制を好む。アメリカは、その安全保障に直接かかわることに対して攻撃する強い力がある。しかし、自国の利害が直接に脅かされていないときは、たとえ人道的な理由でアメリカの介入が正当化できても、自制するべきだ、とオバマは考える。冷静なプラグマティズムと、熱烈なリベラル国際介入主義との、どこか中間にある、リベラルなリアリズムを支持する。

オバマは外交の重要性を強調した。そしてキューバやイランとの対話を求めた。その背後にあるのは、ワシントンの外交専門家たちが犯す致命的な失敗(と彼がみなすもの)を否定する、という決意だ。すなわち、彼らはどんな問題でも軍事的な解決策がある、と前提していた。

それこそオバマにとって「奇妙な」考えであった。アメリカは「道徳的な権威」をかざして野蛮な体制を非難する。そして国民は大統領に、「その国に侵攻する義務がある。好ましい政権を打ち立てよ」と求める。しかし、そのような見方は、金槌を持つ者には何でも釘に見える、ということわざと同じだ。アメリカはもっと効果的な手段に目を向けるべきだ。オバマは、その中心に外交を観ている。

議論は、人道的な危機と、アメリカの利害に対する脅威とを、どのように区別するのか、という点に及ぶ。オバマは、シリア国民がどれほど苦しんでも、それをアメリカが軍事行動する理由とは考えなかった。しかし、2013年にアメリカがシリアを軍事的に制裁しなかったことは、ワシントンの制裁ルールを破り、軍事力の脅しを無効にしたのではないか? あるいは、2011年に、シリア民衆が平和的な反政府デモをしたとき、アサド政権がそれを弾圧したのをオバマが抑えていたら、これほど多くの民衆が虐殺されなかったはずだ。

政権内部でもそう考える者はいた。誰が正しかったか、決めることはできないだろう。オバマは、中東、ラテンアメリカ、アジアにおけるアメリカの介入の歴史を考え、慎重な姿勢を取った。アメリカがいかに世界中で疑われ、その傲慢さを嫌われているかを考え、軍事行動で翌日の新聞に称賛される記事を期待する部下たちの楽観を戒めた。

ヒラリー・クリントンが大統領になれば、オバマとは違うのだろうか? そして、トランプが大統領になれば、どうなるか? オバマが大統領である残り数か月についても、2016年は厳しい情勢が続きそうだ。しかし、1つだけはっきり言える。オバマが去るとき、われわれはそれを惜しむだろう。

NYT APRIL 1, 2016

Learning From Obama

Paul Krugman

2015年末、オバマの支持は不支持を下回っていた。しかしそれ以降、支持が急速に増え、不支持は減った。支持がわずかに上回っただけであるが、平均では11ポイント変化している。この重大な変化は何を意味するのか?

国民は、多くの問題を抱えるアメリカにおいてオバマ政権が何を達成したか、正当に理解しつつあるのではないか。

左右の人々がオバマ政権を成功とは見なさないのを、私は知っている。左派は2008年の熱狂から政治システムの混乱を嫌っているし、保守派のイデオロギーを支持する者は、富裕層への課税や、市場への介入は破滅だ、と思っている。

しかし、成功は明らかだ。

経済を見よ。共和党員たちはオバマの政策を「雇用破壊」と非難したが、民間部門で1000万人の雇用が増えている。失業率は5%を切った。

医療制度改革を見よ。保険がカバーする範囲は90%に及ぶ。しかも、予想しなかったことだが、その費用は減った。

金融システム改革を見よ。左派は見掛け倒しだと非難し、右派は破滅的だと警告した。しかし、巨大銀行を分割しない一方で、金融安定性に対する重大な脅威であるレバレッジは大幅に減った。雇用を増やしたことに、破滅的とは言えない。

最後に、環境規制だ。共和党や将来の最高裁が否定しないなら、気候変動に対する行動がとられるだろう。

オバマは民主党に依拠して、レーガンより大きな成果を上げた大統領である。それについては共和党員たちも学ぶことが多いだろう。そのドグマを見直すべきだ。

FP APRIL 1, 2016

Is NATO Still Relevant? Trump’s Not the Only One Asking.

BY MOLLY O’TOOLE

Project Syndicate APR 5, 2016

Ancient Rome’s Donald Trump

PHILIP FREEMAN

NYT APRIL 6, 2016

Impossible Missions

Thomas L. Friedman

Michael Mandelbaumが書いた“Mission Failure: America and the World in the Post-Cold War Era,” を読んだ。オバマもトランプも楽しく読むはずだ。

「アメリカ外交の主要な関心が、戦争からガバナンスへ変化した。他国の政府が国境を超えて何をするか、ではなく、国境の内部で政府が何を、どのようにするか、である。」

「冷戦後のアメリカは、諸国民の間に立つ超資産家と同じだ。」「冷戦時の必要性による世界から、選択の世界に変わった。」 アメリカは蓄えた膨大なパワーを、他国を作り替えるという贅沢な消費財に、選択的に使用する。

「アメリカの民主的、立憲的な秩序、そして西側諸国の秩序に、より似たものを創ろうとした。」 その結果は、「すべて失敗に終わった。」

なぜか? 軍事的な使命は達成したが、その後の政治的な使命は失敗した。それはわれわれの制御できない問題だから。その土地の人々が決めるしかない。

歴史的には、弱いガバナンスの土地に進出した帝国が秩序を決めた。その後は、植民地政府が、そして、その土地の王様、司令官、独裁者が決めた。

彼らの時代は終わったが、その後の秩序を決める者はいない。スマートフォンで相互に世界的なつながりを持つ市民たちは、王にも独裁者にも従わない。旧い専制が依拠した石油の富も、冷戦期の大国がくれた援助も、消えてしまった。

残された唯一の選択肢は、合意による政府、対等な市民間の社会契約である。

しかし、もし彼らがそれを実現できず、その結果として無秩序に至り、ますます多くの人々がヨーロッパやアメリカの秩序を求めて逃げてくるとしたら、われわれはどうするべきなのか? 我々が提供できる、財政的に可能な支援策を見つける必要がある。

次の大統領は、この本を読んで、それこそ彼もしくは彼女の最大の外交課題であると知るだろう。

FP APRIL 6, 2016

Senators Slam NATO ‘Free-Riders’ in Closed-Door Meeting With Secretary General

BY JOHN HUDSON

FP APRIL 7, 2016

Donald Trump Doesn’t Understand the Value of U.S. Bases Overseas

BY KATHLEEN H. HICKS, MICHAEL J. GREEN, HEATHER A. CONLEY


l  彼らはリアリストではない。

FP APRIL 1, 2016

No, @realDonaldTrump Is Not a Realist

BY STEPHEN M. WALT

トランプがホワイトハウスに入るには、女性やマイノリティーを侮辱し、ジェブ・ブッシュをからかうだけでなく、アメリカという巨大な船を座礁させずに操縦できる船長である、と示す必要がある。

New York Times2人のレポーターMaggie Haberman and David Sangerによるインタビューで、トランプは外交政策について語った。その内容について、一部の外交専門家(特に、Dan Drezner and Thomas Wright)は、「ネオリアリスト」の核心をつかんだトランプに、多くのリアリストたちが一気に合流するだろう、と称賛した。John Fefferは、トランプを「役に立つ道化師」とみなした。アメリカは世界を指導するべきだ、という両党のコンセンサスを叩くのにぴったりである、と。

申し訳ないが、それはない。確かにトランプはイラク戦争の大失敗を批判し、戦争に反対する他のリアリストの議論と同じようなことを言った。しかし、彼の世界観や他の主張は、リアリストと全く異なっている。

トランプは机上の空論としてのリアリストが示す2つの支柱に依拠した。第1に、アメリカの同盟諸国を「フリー・ライダー」として非難することだ。彼らともっと厳しい姿勢で交渉する。また、アメリカはNATOGDP45%であるが、その軍事費の75%近くを負担している。しかし、これは「リアリスト」の議論ではなく、事実であるが。

2に、日本や韓国が核武装することを支持する。確かに、故Kenneth Waltz John Mearsheimerのようなリアリストたちが同じことを主張した。しかし、研究者のだれも世界に核兵器が拡散することを支持しない。リアリストが核武装を支持するのは、1.脅迫や征服のためではなく、自国への核攻撃に対する抑止であること、2.新しい核武装国がそれを使用することが抑止される報復の恐れを持つこと、3.ある状況では、緩やかに進む核武装が地域の安全保障を高めること、4.アメリカを除くすべての国が核武装しないことにはコストがともなうこと、を考慮してからだ。

その意味では、トランプの主張が正しいとすれば、それはアメリカの同盟国であるイギリスやフランス、イスラエルが核武装するのと同じことだ。

トランプのインタビューが示すケナン風の視点は、工業力を強調する。しかし、リアリストの核心にあるバランス・オブ・パワーは理解していないし、グローバル化した世界経済に関しても本質をつかんでいない。リアリストは自由貿易を支持する。なぜなら、それが国力や国際的影響力の基礎にあるからだ。トランプの考える超大国は、いわば17世紀のイメージであり、主要なリアリストには受け入れられない。

トランプは、繰り返し、中国やイランともっと良い取引を、彼なら手に入れることができるという。交渉の席を蹴るか、彼らに制裁を科す、というのだ。しかし、彼は国際関係論の基本も理解していない。すべての国歌には死活的な利害があり、それを守るためには戦争も犯す。誰も、アメリカでも、自分の意思を誰かに押し付けることはできないのだ。

トランプの世界観には矛盾があり、「リアリズム」ではなく、ファンタジーだ。ブッシュ時代にネオコンが抱いた全能のアメリカという世界観に近い。トランプランドでは、政治的なライヴァルを侮辱し、すべての宗教を非難する。他国民を軽蔑するのも当たり前だろう。

結局、彼は国際事情など、何も知らないのだ。問題は、冷戦終結以降、アメリカ外交の専門家たちがあまりにもひどい結果しか残していないために、彼が間違っていることを示す証拠が示せないことだろう。彼の支持者たちは、トランプの方がうまくできる、と思っている。

FP APRIL 7, 2016

Obama Was Not a Realist President

BY STEPHEN M. WALT

オバマ外交はリアリストに見えるときがある。しかし、私の見るところ、非リアリストの要素が強かった。それが彼の外交の重大な失敗をもたらした。

内政に比べて、外交におけるオバマの成果は失敗が多い。アフガニスタン、パレスチナ和平、アラブの春とエジプト、リビア、シリア、イスラム国家、イエメン。ロシアとウクライナ。

オバマがリアリストのように見えるのは、彼が次のように述べたからだ。アメリカの軍事力には限界がある。それは粗雑な手段であるから、すべての問題を解決できない。アメリカは非常に安全であり、テロと気候変動しか恐れるものはない。アジアは重要性を増しており、世界政治の方向を決める地域だ。国内経済の再建を優先し、その強さが国際的な影響力を高める。アメリカの「信認」を維持するために愚かな戦争を起こしてはならない。

しかし、オバマは決してリアリズムを受け入れていない。彼は、アメリカにとって4つの戦略(realism, liberal interventionism, internationalism, and isolationism)が可能であり、最後のものを拒む。そしてオバマ外交は他の3つを選択的に取り上げるのだ。アメリカのパワーには限界があるが、安全保障上の脅威はないから、問題によって無視することができる。アメリカにとって死活的な利害にかかわり、軍事力の行使がプラスの結果をもたらすときだけ、アメリカは軍事介入する。

しかし、オバマは、それらを区別する明確な、一貫した枠組みを示さなかった。アメリカが(次の戦争に)その血と財源を惜しまない地域はどこか? なぜその地域は他より重要か? アメリカ市民にどのように説得するか? そのコストとリスクが潜在的な利益を超えるのはいつか? どの地域や問題はアメリカにとって重要ではなく、他のものに委ねてよいのか?

The Atlanticのインタビューで、オバマはこうした問題を示し、答えた。しかし、その思考の背後にある優先順位は示さず、オバマはリベラル・ヘゲモニーの通俗的な理想を示したにすぎない。

リベラル・ヘゲモニーの主張は重大な失敗につながった。その理想のために、何かしなければならない、と世界のどこからでも圧力を受けた。アメリカの指導力を不可欠のものとみなすことで、無意味な戦争やその泥沼化に関与した。同盟諸国のフリー・ライドを批判し、その負担を求めて敵意を増やし、失望に終わった。ワシントンのプレーブックを破棄できなかった。

もしオバマがリアリストの立場をとり、重要なポストにリアリストを指名すれば、リベラル・ヘゲモニーの大戦略に超党派の支持を求めることはなかっただろう。私が以前示したように、アフガニスタンから2009年に撤退し、中東における「特別な関係」を解消し、NATO拡大を拒否し、リビアでも、シリアでも、外国における「国家再建」や社会エンジニアリングには関与せず、「オフショア・バランシング」の戦略に回帰する。

オバマが任期を終えるまでの数か月間でも、私は外交政策を転換してほしいと思う。


l  イギリス製鉄業と政策

The Guardian, Friday 1 April 2016

The Guardian view on the steel crisis: Port Talbot matters more than China

Editorial

Sajid Javid産業大臣は、インドのTata Steelがイギリスで所有するPort Talbot製鉄所の閉鎖もしくは売却を決めたことに、これまで何も言わなかった。イギリス政府は、中国からの安価な鉄鋼の輸出を止めるEUの関税に反対し、中国がWTOのルールで守られるように(中国の製鉄業は70%が国有企業だが)市場経済であると主張した。そして、むしろ自分たちでできないHinkley Pointの原発建設とその費用を、中国政府に頼っている。

他方、イギリス保守政権は、そのイデオロギーにおいて、空っぽの産業政策しか示せないのは当然である。

FT April 1, 2016

The long, slow decline of the British steel industry

Brian Groom

EU離脱キャンペーンに対抗する残留派にとっては、よくないニュースだろう。EUの規制がイギリス産業を衰退させている、と離脱派が宣伝するからだ。

産業革命の歴史から、製鉄業はイギリス人にとって特別な意味を持つ産業だ。実際はサービス産業が多くの雇用を生んでいる。ロールスロイスなど、優れた世界企業があるように、今も製造業は重要だ。産業政策も無意味ではない。しかし、時代遅れの技術のまま、製鉄所を単に国有化することでは解決しない。新しい産業の誕生を促し、労働者の訓練、技術革新やサプライ・チェーン構築を支援することだ。

FT APRIL 2, 2016

Can the British steel industry be saved?

Jonathan Guthrie ・・・かつてイギリスからBMWが撤退したとき、自動車産業が終わったと言われたが、そうならなかった。鉄鋼産業も、非効率な、利益を出せない工場は再編される。労働者の再訓練や移動を助けるために政府は支出するべきだ。赤字の工場を助けてはいけない。

Peggy Hollinger ・・・高品質の鉄鋼生産に移るときだ。

Giles Wilkes ・・・製鉄は自動車産業とは違い、ロールスロイスのようにジェット機のエンジンを作るハイテク技術はない。「戦略的」とか、システムにとって重要な、産業でもない。容易に貿易できて、ヨーロッパには高品質の製品が豊富にある。これは地域政策の話だ。そして、われわれは多くの失敗例を知っている。イギリスには、1980年代初めの脱工業化から回復していない地域がいくつもある。多くの事後的な補助金政策が財政赤字を増やした。

Martin Wolf ・・・1.製鉄業は戦略産業なのか? 歴史的にはそうであったが、今は違うだろう。保護主義の言い訳に、いつでも使われる言葉だ。ヨーロッパの製鉄業なら、戦略的な意味で主張できる。しかし、われわれはドイツやフランスと戦争するのか?

2.補助金は一時的なものか? 確かに中国政府が需要を維持するために、国内で製鉄業の生産拡大を続けている。経済コストを無視した政策は永久に続けられないだろう。この一時的なダンピングに対する正しい政策は、第1に、一時的な補助金。第2に、何らかの国有化。第3に、反ダンピング関税。なぜ関税を高めることが最後なのか、と言えば、それは鉄の消費者にコストを強いるからだ。自動車産業もそうだ。下流の多くの産業で労働者が不利な影響を被る。しかも、一時的、と言いながら、長期化することが多い。

3.正しい政策は何か? 製鉄所が支えるコミュニティーの解体は深刻なダメージを生じる。政府は価値のない産業を守るより、価値のある活動を支援するべきだ。イギリスは、将来、産業博物館として生きていくわけではない。

Philip Stephens ・・・1.大蔵省を支配する市場原理主義のロジックを聞いてはならない。市場が正しい答えを知っている、というのは、1970年代の主張を現政権が復活しているだけだ。シティの金融規制緩和を支持する主張だった。堅実な住宅建設組合を過剰なレバレッジを組んで銀行が買収し、2008年の金融危機に至った。市場が機能するには正しい規制が必要だ。時には支援も。アメリカやドイツの政府に聞いてみよ。

2.経営が悪化したことを長期的な視点で考えるべきだ。税制やエネルギー価格が同じと考えても、ドイツと競争できるか? 危機は循環的か、構造的か? 世界需要の一時的な減少か、新技術に対する長期的な投資不足か? その組み合わせによるとしても、バランスはどうか?

3.閉鎖によって生じるコストも考えよ。産業全体のサプライ・チェーンに影響する。最善の結果としては、近代的な製鉄業が生まれるかもしれない。そうであれば、政府と納税者は負担する。

The Guardian, Sunday 3 April 2016

The UK steel industry can be saved. Here’s how

Adam Price

閉鎖しないとしたら、国有化するか、イギリス政府や地方政府が補助金を支払うか、地域が投資するか? それらを組み合わせた答えが求められる。政府も、投資家も、労働者も、すべてが再生のステークホルダーだ。スウェーデンが、福祉国家からVolvoまで、成功したように。

The Guardian, Sunday 3 April 2016

The dogmas destroying UK steel also inhibit future economic growth

Will Hutton

数週間でイギリスの製鉄業が消滅する、というのは、どういう意味でも衝撃的な事件だ。しかし、これはたった1日で、あるいは、この数年で起きたことではない。それは経済政策、金融政策、産業政策が、価値の創造を40年にわたって拒んだ結果であった。それは、産業大臣Sajid Javidが体現するような自由放任イデオロギーにおいて、起きた。

最も好意的に解釈すれば、これは創造的な破壊である。知識に依拠する新しい産業の時代に変わった。馬丁の時代、帆布の時代、炭坑夫の時代は過ぎ去った、と。

問題は、イギリスが旧産業の破壊ばかりで、新産業の創造に失敗してきたことだ。しかも、製鉄の時代は終わったわけではない。輸送や建設において、鉄の需要は続く。しかし、経済的な巨人となった中国が製鉄生産に過剰投資を行った。その国内需要は不足し、大量に世界市場に輸出している。

イギリスの経常収支は、2015年、GDP7%に達した。この何十年も、財・サービスの輸入は、イギリスからの輸出を超えている。歴史上、イギリスは何度も為替市場に介入したが、1992年に欧州のERMを離脱して以降、為替レートを管理する市場介入は無駄だ、というコンセンサスができた。ポンドは(競争的な)実質価値を大きく超えて、イギリス企業や不動産を買収する資金流入によって強くなった。貿易赤字は無視された。

他の工業諸国に見られない、国民資産のオークション政策である。それが国内製造業の競争力を損なっている。為替レートをユーロやドルに対して安定化する試みも、ましてや競争的な水準でユーロ圏に参加することも、非合理的なヒステリーで拒んだ。GDP7%の経常収支赤字がその結果だ。

イギリス政府の自由貿易論は、中国との関係でも、度を超えている。中国のレーニン主義的コーポラティズムは、市場経済とは考えられない。しかしイギリスは、原子力産業への中国の投資がほしくて、EUWTOルールによる中国制裁を拒んでいる。われわれは製鉄産業を解体し、次世代の原子力産業を中国に売ったのだ。

さらにイギリスの電力コストは高い。電力産業の民営化と、炭素排出量の削減要求で、電力価格が一気に上昇したのだ。保守党政権は、緩和策を出したが遅すぎた。製造業部門の衰退と悪循環を生じている。

根本的に異なる産業政策が求められる。Javidの従うオズボーン蔵相は財政赤字の削減を優先した。革新的企業を支援するため、彼らが実施するのは労働組合の規制法だ。労働党も弱体化し、保守党の反国家介入、自由放任ニヒリズムに対抗できない。

FT April 6, 2016

UK should pause before backing Gupta’s steel bid

FT April 6, 2016

Brexit economics offer no solution for Britain’s steel industry

Ian Livingston

FT April 6, 2016

Port Talbot: lessons from the General Motors bankruptcy

Martin Sandbu

YaleGlobal, 7 April 2016

Globalization’s Toll: Tata Steel’s Expansion Dream

Dilip Hiro

中国の成長モデル転換が発表され、全指導部から引き継いだ過剰な生産力は国内需要の不足に苦しんでいる。金融的なグローバリゼーションの魔法によって、Tata Steelはヨーロッパの製鉄グループを手に入れたが、その利益を支配したのは石炭や鉄鋼の国際価格下落であった。


l  ゲンシャー元外相の訃報

FT April 1, 2016

Hans-Dietrich Genscher, German politician and lawyer, 1927-2016

David Marsh

FT April 1, 2016

Hans-Dietrich Genscher, architect of German reunification, dies at 89

Guy Chazan in Berlin

Project Syndicate APR 6, 2016

The Rise of German Isolationism

MARCEL FRATZSCHER


l  中国の経済と外交

FT April 1, 2016

China media: Pressed into service

Lucy Hornby and Charles Clover

Project Syndicate APR 4, 2016

Europe’s Renminbi Romance

NICOLA CASARINI and MIGUEL OTERO-IGLESIAS

ヨーロッパは中国の人民元と、その金融改革を支持し、促進することに努めてきた。しかし、中国国内で人民元レートへの不安が強まっている。資本流出が止まらない。

(China Daily) 2016-04-05

China, US will both compete and cooperate

By Cui Liru

Project Syndicate APR 6, 2016

Western Mistakes, Remade in China

ADAIR TURNER

中国は、需要の水準を維持するために信用の拡大を繰り返す、先進諸国がかつて行った成長加速の政策による失敗を繰り返している。

かつて日本や韓国も、政府が信用を拡大して成長を高めた。しかし、それは資本の非効率的な配分をもたらし、経済の停滞につながる。中国は、同じ成長の水準であった日本や韓国に比べて、不動産に対する融資がさらに膨張している。政府が財源を使って、銀行を再建することはできるが、それは急速に高齢化して増大する社会保障の負担や、消費主導の成長モデルに移行することをむつかしくする。

アイルランドが民間銀行によって莫大な不動産投資の失敗を経験したように、先進諸国も中国も、不動産融資に関係する成長の混乱を回避する理論モデルと政策を求めている。

FT April 6, 2016

Why reactions to China’s economy are overdone

Yao Yang

人民代表大会で、李克強首相は、予算赤字をGDPの2.3%から3%に増やす、と報告した。約6000億元の財政刺激策である。

政府債務の水準は国際的に見て高くない。最も重要なことは、債務はインフラの形で資産の裏付けがあることだ。この点は、日本など、他の諸国と全く異なる。

NYT APRIL 6, 2016

Tensions Rise in the South China Sea

By THE EDITORIAL BOARD

南シナ海において、中国の領土に関する膨張した主張や近隣諸国への高圧的な態度に対して、アジア諸国は、次第に、押し戻す力を強めている。

日曜日、日本の潜水艦が、15年を経て初めて、安全保障の協力強化を示すように、フィリピンの港に入った。先週、ベトナムは、非合法に領海に入った中国船を拿捕し、インドネシアはF15ジェット戦闘機で自国の領海を防衛すると表明した。オバマ大統領は、先週、ワシントンの核セキュリティー・サミットに出席した習近平主席と会談し、中国の姿勢に関するアメリカの懸念を明確に伝えた。月曜日に、アメリカとフィリピンは軍事演習を行い、フィリピンがアメリカの支援を受けて北京に対抗する意志を示した。

NYT APRIL 6, 2016

Panama Papers Tie More of China’s Elite to Secret Accounts

By MICHAEL FORSYTHE

中国共産党の最も強力な中央委員会、7人のうち、習近平を含む3人の親族が、秘密の資産を保有している、とパナマ文書で報告された。

FP APRIL 7, 2016

Fishing Disputes Could Spark a South China Sea Crisis

BY KEITH JOHNSON, DAN DE LUCE


後半へ続く)