IPEの果樹園2016
今週のReview
4/4-9
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カナダと日本の財政政策 ・・・トランプと外交・経済政策の失敗 ・・・世界金融市場が震撼する ・・・中国の改革と世界金融市場 ・・・貿易赤字と大統領選挙 ・・・ECBと新しいバブル
[長いReview]
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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
l カナダと日本の財政政策
FT March 25, 2016
Japan and Canada show some fiscal
good sense
G7は、日本の安倍首相とカナダのトルドー首相が、世界の成長回復のために財政刺激策を実行する、という姿勢をアピールするチャンスでざる。金融政策だけでは経済の回復過程を支えられない。ドイツには財政的な余裕があるけれど財政均衡に執着しており、アメリカもまだ財政支出はマイナスである。
安倍首相は、2017年4月に予定されている消費税の引き上げを延期する姿勢を示している。また、カナダのトルドー政権は、財政刺激策として、インフラ投資など、国内需要をGDPの0.5%から1%は増やす予算を組んだ。
安倍は1997年の政策失敗を繰り返さないことを強く願っている。当時、景気回復が弱い時に消費税を引き上げ、その後の不況につながった。カナダは、トルドーの前の首相であったS.ハーパーが、世界金融危機後の財政刺激策を終えるように声高に主張した。2010年のトロント・サミットを主催し、他国も緊縮策を支持するように訴えたことで、世界経済の回復は遅れたのだ。
しかも、カナダの1990年代の緊縮策は、健全な経済成長を実現しながら財政を均衡させた、という成功モデルとして称賛された。だがカナダのような小国が、世界経済の好調な時期に、国内需要の不足を輸出によって補うことは容易である。それは世界経済が低迷する時期には当てはまらない。
安倍が、5月に日本で開催予定のG7で増税延期を公表する計画があるようだ。近年、G7は存在意義を失いつつあるが、集団的に財政政策のスタンスを変えることができれば、G7の重要さを示せるだろう。
l トランプと外交・経済政策の失敗
NYT MARCH
28, 2016
Trump's
New World Disorder
Roger Cohen
すべてにさようならだ。
Donald Trumpが1945年以後の世界秩序に何をするかがわかった。
「時代錯誤」のNATOは捨てる。日本の防衛をアメリカが負担する「偏った」条約より、日本に核武装させる。サウジアラビアには「アメリカがいなかったら長くはもたないぞ」と言うし、「我々は世界の警察官ではない」ということをはっきりさせる。
パックス・アメリカーナはまずい取引だった。アメリカのパワー、世界中に展開した軍事基地によって、70年も、世界の安全保障を支え、核戦争を回避してきたが、アメリカがこんな「貧しい国」になったのでは続けられない。つまり、こうした戦後の取引は一種の詐欺だった。
アメリカは同じように続けようと思わない。トランプはこれまでの大統領と違うのだ。アメリカは誇りを取り戻すだろう。そして、世界はもっと危険になる。
2人のジャーナリストMaggie Haberman and David Sangerのインタビューにトランプは答えた。「われわれは軽視され、嘲笑され、馬鹿にされているのだ。頭のいい、ずるがしこい、タフな人々が、多年にわたってアメリカを食い物にしてきた。われわれは大きないじめっ子だったが、指導者が愚かだった。」 アメリカはこのシステムにおいて、みんなの食い物にされた。中国も、日本も、韓国も、中東諸国も。
トランプ外交の基本とは、「われわれはもう食い物にされない。なぜなら、われわれにはもう金がないから。」 アメリカは1900年のように、本当に強面になる。
しかし、ウクライナについても、戦後の安定性についても、トランプの理解は間違っている。ロシアへの制裁やミンスク和平プロセスをまとめたのは、アメリカではなく、ドイツである。イランとの合意やアメリカの防衛予算についても、トランプの見解には同意できない。
トランプ大統領は、NATOを時代遅れとして無視している。急速に台頭する中国が東シナ海を支配しつつあるとき、日本を核武装させる危険なゲームを促す。また、財政や軍事でもっと負担しないなら、サウジアラビアが分裂しても受け入れる。そのときは、シリア内戦など、子供の遊技場に見えるだろう。
確かに、2016年の世界は、1945年や1990年ではない。アメリカは相対的に弱くなり、パワー・シフトが起きて、国内優先である。しかしトランプの「アメリカ第1」とは、左派がそのようにアメリカを批判してきたものだが、大変動に向かうものだ。エストニアの戦争も、東シナ海の戦争も、人類からだまし取る取引である。
Project
Syndicate MAR 31, 2016
Debunking
America’s Populist Narrative
J. BRADFORD DELONG
アメリカの大統領選挙運動を少し聞くと、メキシコ人と中国人が、ウォール街と協力して、アメリカの労働者からその正当な職を奪うような貿易協定を結ばせた、とか、イスラム教徒は誰でも吹き飛ばしたがっている、とか思うだろう。
何十年も、共和党の年かさの政治家たちや知識人たちは、経済政策の現実をアメリカ国民に教えようとしなかった。そして民主党候補の先頭に立っているヒラリー・クリントンは、サンダースの挑戦を受けて防戦するのに忙しすぎた。
良くある話はこうだ。アメリカの中産階級、労働者たちは、ウォール街が企業にメキシコや中国へ製造業を移転させたせいで、賃金を上げることができなかった。そして民主党も共和党も、NAFTAや中国を優遇した。
これは間違っている。アメリカが貧しい諸国に輸出による工業化と成長加速を促すのは、優れた理由があるからだ。メキシコや中国が成長すれば、アメリカの貿易相手として豊かな国になる。また、成長を支援してくれたアメリカのことを、その後の世代は支持するだろう。
グローバリゼーションが所得を停滞させるのではない。貿易はアメリカの分配に影響する要因の1つでしかなく、決して最も重要なものではない。アメリカの政治家たちがグローバリゼーションの効果について、正しい政策で対応しなかったことが問題だ。1980年以前、マクロ経済政策は、より平等な成長を実現するために、プラグマティックに採用された。
アメリカの工業が低賃金を求めて海外に移転されたことにも理由がある。しかし、技術革新を怠ったり、投資家がリスクの高い金融ビジネスの利益を追求したり、病人や弱者を犠牲にして民間の福祉企業が行政の支援で利益を受け取るのは、ふさわしい理由がない。ゴリゴリの、ダイ・ハード型イデオロギーで富裕層への増税に共和党が反対したことで、自由貿易はすべてのものに有益だ、という理論の前提は破壊された。
アメリカの衰弱に責任があるのは、グローバリゼーションでも、交渉戦術の失敗でも、メキシコの低賃金労働者でも、ずるがしこい中国人でもない。現実を無視してイデオロギーをまき散らす政治家の責任だ。
l 世界金融市場が震撼する
Project
Syndicate MAR 31, 2016
When
Things Fall Apart
ANATOLE KALETSKY
世界中に、ある時代が終わるという感覚がある。以前の安定した社会が解体する。詩人W.B.
Yeatsは偉大な詩に書いた。
“Things
fall apart; the center cannot hold
Mere anarchy is loosed upon the world…
それは1919年1月に書かれた。第1次世界大戦が終わってから2か月経ったが、彼は本当的に、この平和がさらに大きな恐怖に向かうことを感じていたのだろう。
約50年後の1967年、アメリカの随筆家Joan Didionは、1960年代後半の社会的な崩壊をめぐる作品集のタイトルを、Slouching Towards Bethlehemとした。その出版から1年間で、Martin Luther King, Jr. と Robert
Kennedyは暗殺され、アメリカの諸都市やパリの学生たちが暴動を起こした。
さらに50年が経った。世界には再び、民主主義の失敗に関する恐怖が広がっている。
1920年代と30年代に、1960年代後半と70年代に、そして今また、政治に対する絶望と、経済システムの失敗による幻滅とが結び付く。グローバルな資本主義はおよそ50年から60年ごとに崩壊に近づいた。しかし、民主的な資本主義は、経済関係と政治制度を根本的に転換することで、さまざまな危機に対応するシステムを発展させた。
世界恐慌からアメリカのニュー・ディールとヨーロッパの再軍備に向かった。1970年代前半の激しいインフレーションを経てMargaret Thatcher と Ronald
Reaganが当選した。規制緩和された金融資本主義の崩壊により、4番目の地殻変動が始まっている。Capitalism 4.0と私は呼んだ。
政治家たちは、市場原理主義に依拠したイデオロギーの上部構造を見直さねばならない。それは金融の規制緩和だけではない。中央銀行の独立性も、金融政策と財政政策の分離も、政府介入のない競争的な市場が、分配、革新、インフラ、公共財を供給できる、という前提も。
ポピュリストによる反抗の意味とは、政治家たちが危機前のルールブックを捨て、経済的な思考に革命を起こさねばならない、ということだ。
l 中国の改革と世界金融市場
FT March
27, 2016
Chinese
investment is welcomed by the west with caution
中国から外国企業の買収に投資が増えている。昨年は1090億ドルであったが、すでに今年は1060億ドルに達している。中国からの資本流入に外国政府や企業は準備ができていない。
中国企業が国政秩序の下で投資を増やすことは歓迎すべきことだ。
しかし、そこにはリスクもある。買収を提案する中国企業は国内で巨額の融資を受けている。その企業の取引が持続可能であるかどうか、疑わしい。また、中国政府は資本流出と戦っている。外国における買収はその一部である。
中国からの投資が増えた多くの国で、それは中国の「トロイの木馬」である、という外国人嫌いの、根拠のない不安が生じている。確かに国有企業の買収は中国の国益を重視して行われている。しかし、透明性を高めて、中国企業の法律や規制が改善されるなら、買収の増大は双方に利益をもたらす。
FT March
29, 2016
China’s
future challenge for the world economy
Martin Wolf
中国が成長モデルの移行を試みることは、単に新興国として重要な課題であると言うだけでなく、世界経済にとっても重要な意味がある。短期的には、中国経済の成長減速がもたらす波及効果を、長期的には、金融大国としての中国を世界経済が統合化することを、どのように実現するか、ということだ。しかし、実際、短期の問題が長期の問題に影響する。
インドの最近の調査報告が危機について述べたことは注目される。危機の対外的な影響は、それがシステム的に重要な国であるか、それが財政赤字や民間債務の結果であるか、その国に対して通貨を増価させるか、減価させるか、によって決まる。
中国は、システム的に重要な国であり、企業債務が高度に、しかも急速に増大している。そして投資が急激に減少し、人民元の為替レートが一気に減価する可能性がある。
そのような急激な減速は起きうる。企業の債務は持続不可能なまでに増大し、高度に過剰な投資によって需要が維持されているからだ。成長率を7%以下にするとき、GDPの45%に及ぶ投資は経済的に意味を失う。民間部門が投資の3分の2を占めているから、市場圧力が苦痛の多い調整を強いるだろう。
政府の対応としては、財政赤字を増やす、もっと攻撃的に金融緩和する。そして国内のデフレ圧力を緩和するように、為替レートも減価するのが好ましい。
同時に、中国人民銀行のZhou
Xiaochuan総裁は、外貨準備が、予想外に、大きく減少したことを示した。それは資本規制を強化することなどで抑制できるだろう。危機にならないが、外貨建借り入れの返済、「キャリー・トレード」の逆転、人民元の大幅減化を予想した者がいたことを示す。
世界経済は次の大きなデフレショックに耐えられない。しかし、今後数年に中国からデフレショックが起きる可能性は本当にある。同時に、長期の問題として、中国をグローバルな金融システムに統合することが必要だ。経験によれば、金融自由化と金融市場開放を同時に進める諸国で脆弱な金融システムが深刻な危機に陥ってきた。
中国の金融システムの開放は、その意味で、グローバルな関心事である。中国の年間総貯蓄は、2015年、5兆2000億ドルであった。アメリカのそれは3兆4000億ドルであった。中国は貯蓄においても超大国である。自由化により、分散投資のために中国から巨額の資本投資が行われることは大いに考えられる。3兆2000億ドルの外貨準備も速やかに消滅するだろう。他方で、中国の資産に対する投資需要があるが、国内政策や制度を改革する必要がある。
それゆえ、おそらく、資本取引の自由化は巨額の資本流出による人民元の減価と、大幅な経常収支黒字になるだろう。国内投資の減少はこれを強める。世界経済に及ぼす影響を考える必要がある。IMFのChristine
Lagarde専務理事は、統合化が進むほど、国際通貨システムの機能が重要になる、すべての国が集団的な行動を必要としている、と北京のthe
China Development Forumで語った。
もしどちらかで問題を扱うことに失敗すれば、統合されたグローバルな経済システムが耐え難い圧力にさらされる。前回、金融的な覇権国が登場するとき、世界は大恐慌を経験した。今度は、もっとうまく対処しなければならない。
l 貿易赤字と大統領選挙
NYT MARCH
27, 2016
The Trade
Deficit Isn’t a Scorecard, and Cutting It Won’t Make America Great Again
Neil Irwin
トランプは、5000億ドルの貿易赤字がアメリカを敗者に、中国やメキシコを勝者にしている、と信じている。
現実はそうではない。貿易赤字は良いとも悪いとも言えない。それは条件次第である。貿易赤字はスコアカードではない。
貿易赤字をなくすことが、トランプの約束する、アメリカを再び偉大な国にする、ということにはならない。それは、サンダースが言うような、アメリカの通商協定が国民にとって悪いものだ、ということを意味するものでもない。貿易赤字をなくせば、アメリカが国際政治で行使するパワーの重要なテコも失うだろう。
世界が2国だけで、一方の国CarNationは自動車を、他方の国BananaLandはバナナを生産する、と考えてみよう。そして「自動車の国」の国民はバナナがほしいので100万ドルを輸入し、「バナナの国」の国民は自動車がほしくて200万ドルを輸入する。この場合、BananaLandは100万ドルの貿易赤字を出す。
このことは、BananaLandがCarNationに「負けている(損をしている)」という意味にはならない。BananaLand人は自国の貨幣と交換に、とても有益な自動車を輸入しているのだから。実際、アメリカはメキシコに580億ドルの貿易赤字を生じているから、アヴォガドなど、多くの有益な財貨をアメリカにもたらしている。トランプの好きな「勝者」と「敗者」という言葉を使うなら、「敗者のメキシコ人は、昨年、われわれが与えたよりも580億ドル多くの財貨をわれわれにもたらした。われわれは勝者だ。」
しかし、貿易赤字は職を奪っているのではないか?
そうでもない。
確かに、貿易赤字はGDPに比べて生産量を減らすから、それだけ雇用を減らしているかもしれない。しかし逆に、雇用を刺激する効果を生じるときもある。BananaLandの赤字は、CarNationの黒字であった。この黒字はどうなるのか?
2つの選択肢がある。まず、それを国内で保有するとき、CarNationの為替レートが増価する。その結果、黒字が消滅するまで、BananaLandにおける自動車の価格は高くなるだろう。
あるいは、CarNationの人々はBananaLandの株式や債券を購入する。あるいは、企業買収や、CarNation政府による直接の資産購入が起きる。
これらは本当に、過去20年間、アメリカと中国との間で起きたことだ。資金が流入するとき、借り入れは安くなり、株価は上昇し、新しいビジネスに投資できる。つまり、貿易赤字は職を奪うが、(ドル安により)輸出を増やし、あるいは資金が流入して投資を増やす。
重要なことは、何に投資したか、である。
流入する資金を、経済的な収益をもたらす長期投資に向けることができる。新工場や設備、労働者への教育、道路や橋を建設し、補修する。しかし、そうするとは限らない。アメリカの場合、2000年を過ぎて資金の大部分は持続不可能な住宅バブルに注がれた。あるいは、ギリシャでは財政赤字を埋めていた。
貿易赤字だけで批判するのではなく、それによる資金流入を生産的な投資に向けたかどうか、知る必要がある。
アメリカが赤字を出さないことは良いことなのか?
その選択肢は、貿易収支だけでなく、世界の準備通貨という役割にかかわってくる。ドルは、アメリカとかかわりのない取引にも使用される。マレーシアの企業がドイツの企業と取引するときも、ドバイやシンガポールの政府が資金を保有するときも、ドルが使用される。それはドルの価値を高めるから、アメリカからの輸出の競争力を奪う。
アメリカの5000億ドルの貿易赤字の一部は、ドルが世界金融システムで果たす役割によって生じている。これは20世紀半ばにRobert
Triffinが警告した問題であるため、「トリフィンのジレンマ」と呼ばれる。世界準備通貨を供給する国は、グローバルな金融システムを維持するために貿易赤字を出し、国内のバブルを生じやすい。
アメリカは、海外の取引にドルを供給することなどやめてしまえばよいのか?
確かに、アメリカの輸出産業は不利益を被っている。しかし、低金利や株価上昇は利益になる。ドルは、アメリカが戦争するときの資金調達を容易にし、世界におけるアメリカの地位を支えている。また、不況や金融危機に対する政府の能力を高めている。イラン、ロシア、北朝鮮、様々なテロ集団に制裁を行うとき、ドルによる決済システムから切り離すという脅しによって、世界中の銀行がアメリカの外交に協力する。
貿易赤字を議論するとき、それが中国やメキシコ、自動車やバナナ、勝者か敗者かというだけでは意味がない。アメリカを偉大な国にするための、優先順位が問われている。
NYT MARCH
28, 2016
Trade,
Labor, and Politics
Paul Krugman
アメリカがメキシコと自由貿易協定に合意しているように、デンマークはEUに加盟しているからグローバルな貿易協定に従い、東欧や南欧の低賃金労働者と競争している。しかし、アメリカほどの不平等は存在しない。それは、デンマークの労働者は、アメリカよりも多く組合に組織されていて、交渉力が高いからだ。またデンマークの政府はセーフティーネットをアメリカよりも強化している。
グローバリゼーションによって労働者が直面する悪い結果は、必然的なものではなく、政治的な選択によるものである。民主党の指名争いで候補たちは、ヒラリー・クリントンのように、将来の通商条約に懐疑的であるし、世界貿易システムを破棄するような無責任さを示すことなく、労働者家族の問題に対処する政策を求めている。他方、共和党の候補者たちはそうではない。
自由貿易のガチガチのイデオロギーを持つ候補者を、支持してはいけない。
l ECBと新しいバブル
Project
Syndicate MAR 28, 2016
Europe’s
Emerging Bubbles
HANS-WERNER SINN
ECBの最新の政策は多くの者に衝撃であった。その政策の目的はデフレを防ぎ、成長を刺激することだが、深刻な不安定性を準備するものである。
ECBの再融資は金利がゼロ。資産購入額を200億ユーロから800億ユーロに増やす。資金市場を通じて銀行預金の金利はマイナス0.45に押し下げる。主要な長期の再融資でもマイナス金利を実行する。
長引く低金利が信用膨張によるバブルを南欧諸国に生じて、それらの国の競争力を破壊し、住宅や土地の価格を持続不可能な水準にまで高めた。バブルが破裂した後も、ECBは過剰な価格が均衡水準に戻るのを阻んだ。紙幣を印刷し、投資家のために無限に保証し続けたのだ。
2008年、アメリカで投資銀行のリーマン・ブラザーズが倒産したとき、ECBが金融危機の爆発を防いだことは正しい。しかし、よく年後半から世界経済が回復し始めてからは、ECBの政策に問題が生じた。それが構造改革を妨げ、ポルトガルやイタリアなど、南欧における膨張した諸価格の是正を阻んでいるからだ。
それは1990年にバブルが破裂した後の日本が犯した政策失敗と同じだ。20年以上も、日銀はほとんどゼロ金利で経済に貨幣を満たしてきた。また、政府は財政赤字を無謀に増やし続けて、GDPの67%から246%にまで高めた。しかし、金融政策も財政政策も、構造改革に代わるものではない。逆に、ケインズ主義の金融緩和策は市場の自己回復力を弱め、政策対等者が解毒措置をとる意志も失われた。
ヨーロッパで最大規模のドイツ経済でも、2010年以来、大規模な不動産ブームが起きている。再統一以来の建設ブームが起きている。それを鎮静化するには金利を一気に引き上げるべきだ。しかし、ECBは逆の方向に向かっており、バブルが沸騰するだろう。
それが破裂したときに何が起きるかは、すでに最近の州選挙で反ユーロを掲げるAfG(Alternative
for Germany)の躍進が示している。
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The Economist March 19th 2016
A hollow superpower
Russia’s wars: A strategy of spectacle
Barack Obama visits Cuba: Cubama
How Latin Americans see the United States:
Dugout diplomacy
Banyan: This insubstantial pageant
Rotterdam: The shipping news
(コメント) プーチンのロシアは軍事や外交において、国際政治の超大国に復活したのか? 現実のロシアは経済が縮小し、市民生活が窮乏化している。石油価格の大幅下落とウクライナへの軍事介入に対する制裁で、ロシアの投資は減少した。プーチンはシリアの「国家建設」など望んでいない。経済的困窮から目をそらせ、支持率を維持するための、暴力事件や軍事力の誇示をテレビ映像として求めている。オバマのキューバ訪問は、まったく異なる外交です。
中国の全国人民代表大会に関する記事、ロッテルダムの貿易量とロボット化が示す未来に関する記事、どちらも考える良い材料です。
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IPEの想像力 4/4/16
ドキュメントWAVE「岐路に立つ中国漁村:乱獲の果てに」を観ました。
アジアの成長で中産階級や富裕層が増えれば,魚の消費と需要が高まり、市場で価格が上がるでしょう.それは,地方の漁師たちにも豊かになる機会を与えます.
改革によって私有化された中国の小型漁船は近海の漁場を奪い合います。日本からの中古船が売れたそうです.そして,さらに沖へと漁に向かうのです.
国際紛争は国家の介入に至ります.かつては日本と韓国との間の漁獲争いが注目されました。また,イギリスとアイスランドの間で何度か起きた「タラ戦争」も有名です。
東シナ海には協定水域が設けられています。日中、日韓の、政府間交渉で、各国が条件を決めていますが、その合意された条件の微妙な政治バランスが漁師たちを苦しめます。竹島,尖閣諸島,北方領土に関しても,漁業権の合意が領土問題解決の重要な条件です.
乱獲による水産資源の枯渇は、漁業協定の重要な存在理由です。近海ではすでに乱獲で大きな魚が消滅し、漁をしても利益が上がらない、と番組は漁師の苦悩を伝えます。
水産資源の開発は、次第に、養殖による供給へ重点が移っています。すでに消費全体の7割が様々な養殖業者によって提供された魚で満たされている、ということです。
利益の減った漁船は、ますます多くの,市場で売れないほど小さな魚を捕って、養殖業者のえさとして売っています。それは自滅的な戦略です。漁船同士の争い、対立と闘争も激しくなり、網が絡んでしまい、海上で相手の船と網(と魚)の買収交渉をします.しかし決裂すると,互いに網を引き合って破ってしまいました。
潮流の先に回って大きな魚を先に捕るため,外洋へ出ることが目指されました.大型船による遠洋漁業が投資を集めますが,それによって,同じ潮流に育つ魚が日本の漁場から消えてしまいます.
政府は漁船の削減計画を立て,許可証の発行を抑えて、制限を破った漁船を押収・解体します.観光業、旅館などに転身する者もいますが、新しいビジネスでも競争は激しく、彼らが借金の負担に耐えられるか、わかりません。
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イギリスとアイスランドのタラ戦争は、領海と排他的経済水域の拡大が互いに衝突した事例です。技術や市場の変化で,水産資源や海底資源などの開発が求められ,そのために所有権や司法・行政の管轄を拡大しました.大陸の帝国的分割から,海洋(大陸棚,深海資源,南極大陸,北極海の国際航路)の分割に向けて、世界の経済紛争は激化しています。
アイスランドは人口30万人ほどで、イギリスの軍事力に対抗できません。しかし、新しい国際規範として、アメリカなどの大国も一方的な領海の拡大を宣言する流れに乗って、アイスランドがタラ戦争の「勝者」になりました。
アイスランドの漁業権は,その後,証券化され,漁師たちの間にバブルを生んだという点も興味深いです.ヨーロッパと異なる,アングロサクソン的な競争的資本主義の精神で,彼らは魚だけでなく,預金や金融資産もグローバルに集めようとします.
特にアイス・セーブは、インターネット・バンキングによりイギリスの公務員の貯蓄などを吸い上げ,グローバルなバブルの先頭を走った投資銀行の一部でした.アイスランドの金融危機は、アメリカ型の投資銀行文化が政府・中央銀行まで支配した、(かつてのプロシアに対する「軍隊が国家を所有する」という表現に倣えば)ヘッジファンドが国家を所有したケースでした。
世界金融危機において,イギリス政府はテロ防止法を適用して、アイスランドの銀行の資産を差し押さえ,自国民の貯蓄を取り戻そうとしました.しかし,ロンドンのシティも同じではないか? と批判されます.「テムズ川沿いのレイキャビク」と呼ばれて,金融危機にイングランド銀行が耐えられるか,という不安が生じました.
EUの水産資源保護がうまくいっていない,という記事がThe
Economistに載りました.世界の水産資源枯渇問題,中国の工業化と河川・海洋の汚染問題,クジラの捕獲をめぐる国際政治、そして,マグロ、など,すし文化の世界化を喜ぶ一方で、日本の水産庁はグローバルな水産資源管理の枠組みを提案します.
100円寿司が広まる背後には,カナダ、アラスカ、ドイツ、ロシア、アイスランドなど,世界中の海で捕った,冷凍された魚が巨大な倉庫で貯蔵されています.商店街の寿司屋さんは廃業し、テレビで特集するような超高級な寿司店が現れます.
北朝鮮からの魚介類輸入も制裁によって輸入できなくなったはずですが,迂回した形で入ってくるでしょう.移民を規制しても,タンカーや漁船では多国籍の船員が増えています.
海上で密猟を取り締まることは,韓国でも国際紛争になっています.ベトナムの監視船が中国漁船と衝突を繰り返し,拿捕しました。乗組員をベトナムの港に連行し,裁判にかけたというニュースが流れます。
再びアイスランドは注目を集めます.タックスヘイブンを利用したアイスランドのグンロイグソンSigmundur
David Gunnlaugsson首相が,民衆の抗議を受けて辞任したからです.彼は,「パナマ文書Panama
Papers」により権力を失った世界最初の指導者です.
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